文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

「2018年・年間選考経過(2)」(Staff)

2019-06-18 (火) 18:11 by 文学極道スタッフ

(1からの続きです。)

 文学極道年間最優秀作品賞には選考推薦として挙がった数作品の中から特に『Ommadawn。』(田中宏輔)、『消費』(Mizunotani)、『これで終わり』(いかいか)、『白桃の缶』(山井治)、『陽の埋葬』(田中宏輔)、『駐車場』(ねむのき)について議論が深められ、『Ommadawn。』(田中宏輔)、『消費』(Mizunotani)の受賞ならびに『駐車場』(ねむのき)の次点受賞が決定いたしました。『Ommadawn。』(田中宏輔)に関しては次のような意見が挙げられました。《新しい世界へと繋がっていく。フォルマリストとしての強度が存分に発揮された傑作。今年も圧倒的な美を発出した驚異的な強さがある。詩と詩論が高められている》。『消費』(Mizunotani)に関しては次のような意見が挙げられました。《消費財としての言語のことを上手く捉えています。方向性の在り方や綴り方が巧いです》、《言語をプラスティック加工していくことで人間の悲しみが滲み出ていく傑作なのではないだろうか》。『駐車場』(ねむのき)に関しては次のような意見が挙げられました。《非常に丁寧で上手い作品である。空白の使用方法を、もう一歩すすめていけそうでもある。他媒体を含めて、どんどん活躍して欲しい》《作品世界での不可思議な世界観が抒情を持ち進展していく》。
 そして最後に、本賞受賞には至らなかったけれども十二分な磁場を示した作者と作品を各選考委員それぞれが推薦し選考委員特別賞が決定いたしました。本賞受賞者などの選考を進めていく際、いずれの作者も自身の作風を持ち推し進め深めていて議論対象となるだけの強度を作品で示しており賛否両論を持ち合わせていること、年々作品が明らかに上手くなっている作者の存在が輝いており文学極道の選考がなくとも評価が伴わなくとも自作を究めていくだろうことなどが印象的でした。『本田憲嵩』氏に関しては、次のような意見がありました。《以前からの投稿者であるが、こんなにも上手くなるとは思わなかった。哀愁を漂わせていて、そこが技術ではない境地での詩を成り立たせていた。今年は、そこへと技術も合わさり「終末」や「潤い」などが詩情を結実させていた》。『岡田直樹』氏に関しては、次のような意見がありました。《個人という人間が生まれ育ち、どのように歩んできたのかを興味深く熱中して読みました。力のある作品であり長さも気にせず一気に読めます。作品は人間であるという好例。もう少し推敲してみても良かったかもしれない》。『いかいか』氏に関しては、次のような意見がありました。《巧みに綴られている藝術作品の世界へと呼びこまれた。最後、破壊しなければならない宿命を抱えた作者の業を思った》。『中田満帆』氏に関しては、次のような意見がありました。《読み易い。文章にビートニクの雰囲気。テーマよりも語り口に注意が向くように書かれています。惨めな悲嘆に暮れる描写も文体に合っています》、《筆者の失望と諦め、客観と主観、混然一体となっている『ある意味では』意欲作。本人は否定するだろうが、わずかにもなければ書けないし投稿できない。その点は高く評価したい》。『ねむのき』氏に関しては、次のような意見がありました。《作品に対してか作者に対してか、たいへん迷いました。それほど『駐車場』が出色でしたが、短篇の二つも捨てがたく。『(無題)』にて、貝殻に耳をあてるところ、/>「もう死んでいるから/> なにも聴こえない」に生きた貝ならどうだ云々と評がついていましたが、これ私は貝の死ではなく主体の死と捉えました(肉体あるいは心的な)。光線が降りてきますしね。時の流れのない、まぶしい空間……生きて/手放さずにいるうちは踏み入れられなかった……美しさを感じます》。『西村卯月』氏に関しては、次のような意見がありました。《人間という存在の哀切なものを語り切っている。生とは何か、死への道のりは何か、そして福祉とは何か、それぞれの苦悩が交錯しており強度がある》。『霜田明』氏に関しては、次のような意見がありました。《読者を積極的に引っ張って行く筆力を感じる。静謐であって深い実体を感じる》。『松本末廣』氏に関しては、次のような意見がありました。《作者が作品に自己を削り出していくパターンと完全創作していくパターンがあると思っています。ここまで血肉を通わせていく作品を見たことは、ないのではないかと思うくらいに人間が立脚しています。人間という輪郭性と更なる自己への客観的な眼差しが往還していく》。『kaz.』氏に関しては、次のような意見がありました。《『カズオ・イシグロ』は、おもしろい試み。単体で味わうというよりは連作で何かを見出したくなるテキスト。ただこの一篇のみなのですね》。『白桃の缶』(山井治)には、次のような意見がありました。《桃の缶詰から宇宙へと広がってゆく。壮大でありながら軽やか》。『密告』(あやめ)には、次のような意見がありました。《さすがの世界観である。空行に関して気になった。改行に関しても更なる工夫があっても良いかもしれない。素晴らしい作品なのは明瞭である》。『牛乳配達員は牝牛を配る』(北)には、次のような意見がありました。《目まぐるしい比喩の七変化は、難易度の高いピアノ演奏を聴くような緊張感がある。しかも後半に向かって逆にペースがアップしている。このスタミナは驚異的》。『カラスがコケコッコと鳴いたから』(白梅 弥子)には、次のような意見がありました。《言葉の響き、そして流れがとても良かったです。温度の低い文体も、浮き出るような鳴き声の描写も、心に残ります》。『少女は歌う』(トビラ)には、次のような意見がありました。《評価に迷う作品。前半を読んでいるときに誰もが思いつく作品情報の列挙に思えてしまい苦しかったが、後半の巧さは現代的単語と共に立体的である。これは後半だけ読んでみても昇華されない。前半の巧くはない部分があるからこそ際立つものである。ハードルを下げておく手法であり、勇気のある創作である。意識して行ったものなのか分からないが十分な作品》。『高く放り投げたボールは・・・』(空丸ゆらぎ)には、次のような意見がありました。《冒頭三行、むしろ私のせいであって欲しかったかのような。北京で蝶が羽ばたいてもアマゾンの雨には関係がない世界線、どうしようもない関われなさの中にいても諦めとはまた違う視線があって、闘いの姿勢をとっても不要な重さがなくて、よいなと思いました。そのような日常での、猫とのリアル。いいですね》。選考委員一同、大変勉強させていただきました。素晴らしい作品の投稿に感謝いたします。

スタッフ一同

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「2018年・年間選考経過(1)」(Staff)

「2018年・年間選考経過」

2018年 年間各賞

 文学極道『2018年間各賞』は2018年に『文学極道詩投稿掲示板』へと投稿された作品のうち月間優良作品・次点佳作に選出された327作品、82名の作者を対象として、委員スタッフによって1月25日から4月7日の期間に選考会を開催し審議の結果、上記ページの通り決定いたしました。本年度の選考(月間選考と年間選考)はスタッフである平川綾真智、瀧村鴉樹、清水らくは、夢沢那智、みよおじ愛已、石畑由起子、麻田あつき、石原綾、芦野夕狩(現在退任)、熊谷にどね(現在退任)に創設スタッフの本野ややや氏を加えた計11名で行いました。
 創造大賞には選考推薦として挙がった『アルフ・O』『ゼンメツ』『完備』『遊凪』各氏の内、最終選考対象となった『アルフ・O』『ゼンメツ』各氏について議論が深められ『アルフ・O』『ゼンメツ』各氏の受賞が決定いたしました。アルフ・O氏の作品へは、独自性を追求し成功している作品を今年、一番投稿していた作者である、一作一作の形態の在り方が次世代の詩作品を切り開きながら獲得していっている、独自の世界を質量ともに高次元で成した、という意見などがあり創造大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《同性同士の愛が輝く瞬間が詩情へと力動を働かせており、多言語との折り合いとも見事な様相を見せている。『Ooze』などは未来でも評価されるのではないだろうか。毒を持っており、自己自身のことという共振と背徳を持たされてしまう怖さすら感じる》、《詩の形態をブラッシュアップしながら高めた言語を紡いでいく。力強さと繊細さの共存》、《もう一歩の工夫が必要だと思いもする。しかし、それ以上に総体として良質》、《最後の要素も含めて独自のスタイルに磨きをかけていっており鋭気を感じさせます。綴り方が美しく強度に満ちています》、《すでに個性が確立されているが、それが飽きることにつながらない。元ネタを知らなくても詩作品としてきちんと成立している》、《『Bijou in a beehive』はSFの要素を基盤に、人間の脳へ疑問を投げかける良作だが、ファンタジックな世界観が強すぎて、詩的情感の中でリアリティが薄れてしまった気がする》、《独自のスタイルに磨きをかけていっており鋭気を感じさせます。綴り方が美しく強度に満ちています》、《作者の描く女の子は甘くてかわいくて、毒がある》、《『Lynn, Lucky 13』は少し読み込んでみましたが、あまり良い印象がないです。読み解くためのヒントみたいなものをもう少し散りばめてくだされば、この詩を楽しめそうです。題名にそういうヒントがあれば、、と思いました》、《読んで浮かぶイメージは綺麗なのですが、それが読み手の想像力に委ねすぎているという評も成り立ってしまうような気がしている》、 《『crush the sky, pop'n'sky』は音で作られた作品。視覚面でも効果的。ポップさとライトさの中で芯が通っている》、《読んで浮かぶイメージは綺麗なのですが、それが読み手の想像力に委ねすぎているという評も成り立ってしまうような気がしている》、《皮肉や揶揄が上手く、最後まで読ませ続ける力を感じます》、《『crush the sky, pop'n'sky』は音で作られた作品。視覚面でも効果的。ポップさとライトさの中で芯が通っている》、《読んで浮かぶイメージは綺麗なのですが、それが読み手の想像力に委ねすぎているという評も成り立ってしまうような気がしている》、《皮肉や揶揄が上手く、最後まで読ませ続ける力を感じます》、《詩的構造の中で女性言葉になる部位などがあり映えており、更なる発展を見せていきます》、《『Violet pumps, stompin' the floor』は安定飛行と思われるいつものスタイルなのだが、なぜか読んでいて説明できないもやもや感があった。作者自身を作品から完全に切り離せていないような、そんな感覚がつきまとう》、《『2:12 AM』はア・フォーリズム。省き切った蛇足。核心中の核心。詩で個展をすることがあるなら、入り口に大きく飾りたくなるような詩のコピー》。ゼンメツ氏の作品へは、現代口語体を主軸にすることは非常に危険な側面を持つと思うのだが筆者の鮮やかな切り口が帰って爽やかさすら感じる、毎の分量に歪さがあるが主張に共感しか感じえない、という意見などがあり創造大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《怒りと焦燥感の中で日々を生きていく感覚がリアルに描き出されている。リーダビリティに富んでおり読みやすく作者の内面に近い部位で書かれている。投げやりな部分も効果的に働いていると思う。部分部分、更に発展させられなかったのか気になった。このリーダビリティと詩情は、まぐれなのかコンスタントに書けるのか今後の作品で見極めていきたい。もっと作者の作品を読みたいと思わさせられた》、《『(無題)』は最後にかけてのありきたりな死への思いをそのまま吐き出す作品であって良いのだろうか。悪くない作品だ。(無題)であることも含めて見直せる部分がある。詩への本気をもっとぶつけて欲しい》、《『事情』は荒唐無稽かつ不謹慎な内容にも関わらず、違和感なく一気に最後まで読ませる力量はすばらしい。ラストの二行によって読者は語り手と同化する》、《全体的に圧がありますが、短絡的な部分もわざとかもしれませんが、あります。これはタイトルにまでなっている事情の部分がごっそり抜けても詩になるのではないかとも思いますが、必要だったとも感じられます。全体のバランスを見ると意識のバラツキが如実になってしまっている箇所もあります》、《シーンの設定も文中の口調もイメージの構築にきちんと役立っています。絶望的な状態が表されていますが、理性が働きすぎているのか、文章に状況を受容しているような表現が多いためか、どこか遠い印象があって、読み手を冷静にさせてしまいます》、《『メイソンジャー』は、今まで作者の作品は最終的に、そのままの言葉を出し綴っていくことが多かったのですが本作品は比喩に昇華されています。構造も上手く詩としての作用が上質です》、《さり気ない会話の中に、男女の倦んだ愛が垣間見える。保存では無く朽ちていくことを選んだ彼女の小悪魔ぶりが実に魅力的》、《非常に繊細な世界を、読むときに思わず息を止めてしまうような緊張感の中で描いている。セロファンの薄さで分解された情景は泥と月といった極端な存在によって、それぞれを互いに際立たせていると感じる》、《磨き抜かれたセンテンスがキラキラと輝いている。平仮名と漢字のバランスのとり方が視覚的な美しさと柔らかさを生み出している》、《『アンタなんかしなない』は、四畳半フォークの世界を無理なく現代に置き換えたような印象。それが成立するのは、時代が変わっても愛し合うことで感じる孤独というものは変わらないからかも知れない。最後の自らを突き放したような一行が良い》。また受賞には到りませんでしたが、游凪氏に関しては次のような意見が挙げられました。《綴りの一つひとつが出色の出来栄えであり息を飲む。ダダ、シュルレアリスムを経ていき現代詩が辿る変遷を示している粘性の生を感じる。《『野菜を食べる』は異色作であり日常生活に密着している情景が浮かび上がる意欲作》、《一年ほどの投稿の中でも心象ヴィジョンで殴られるような作品が多かった。また、その筆力の高さと、言葉の実存性。獲得している優良の数から考えても、何かしら賞を与えられてしかるべき逸材と考えている》。
 最優秀抒情詩賞には選考推薦として挙がった『完備』『山人』『朝顔』『田中修子』『本田憲嵩』『岡田直樹』各氏の内、最終選考対象となった『完備』『山人』『朝顔』『田中修子』各氏について議論が深められ『完備』『山人』各氏の受賞が決定いたしました。完備氏に関しては、作品が平易な言葉の中で構成されており再読性に耐えるだけの強度を持っており日常に隠れている詩情を発見させてくれる稀有な作品群、様々なHNを使いながらであるが実力と作品の確かさは一貫している、という意見などがあり最優秀抒情詩賞受賞決定となりました。《『angle』は、第一連で取りました。名づけはよくあるテーマですが、肯定的にとらえる言葉は読んでいて期待感を持たせるものです。第二連から少し散漫で、薄味になっていると感じます》、《リアリティに溢れている。一見すると絶望と虚無の様にも見えるが、筆者の生々しい生への希求が節々から一斉に芽吹いて、手当たり次第に喰らおうとしている》、《『位相(イスラム国)』は、主張しすぎない穏やかな視覚的イメージが良い。自然界の事象をさり気なく組み込んでいるところも技術的なレベルの高さを感じた》、《『うすく(イスラム国)』は、言葉は詩的で情緒もありますが、イメージを想起するのが全体的に難しい詩となっています》、《『plastic』は、全体のバランスは良いと思います。虚しさが全体から滲み出ています。一連の字数のリズムが引っかかります。パンチは弱め》、《『symbol』は、短い中に上手くまとめてあるのだが、「奇妙」という言葉が余計に感じた。最終連の素晴らしさが、逆に作品の過剰な技巧性を意識させてしまっている》、《正直、ここまできっちり書かれると「大変よくできました」的なことしか言えない。本当に美味いものは「美味い!」しか言えない的な。決して選者の語彙力の問題ではない。そういうことにしておいてください》、《『unconfessed』は、一番良かった箇所は、大阪湾という固有名詞をこのタイミングで入れた一連。最初に、>踏み切りのむこう平凡な交差点に海を探していると海を出しておいて、後になってそれが大阪湾だと読者に認識させることで、読み手は一気に抽象的な概念から現実的な場所に意識が飛びます。ここの読み手に対する意識の動かし方は上手いなあと思いました》。山人氏に関しては、作品への接近の仕方が勉強になる言葉とは何かが生活の中から膨らんでくる、などの意見があり4年ぶり2回目の本賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『欠片』は、美しさと儚さが混然一体となる虚無感。虫の隊列は使い古された比喩に思えるが、敢えて古典的比喩を使った事で効果的だったと思う》、《皮肉であり自戒でもある感情と中傷の綴りに力を見出します。最後の方が中途半端になっていないかどうか。読後感が悪くても極端に傾けても良いのかもしれません》、《『蜘蛛』は、「きちがい」という強い単語の繰り返しの短さは再考しても良いのかもしれない。描写が非常に心地よいので、もう少しだけ分量を読んでみたいという思いがある》、《『山林にて』は、始まりが説明的であり、その部位を別の方向に持っていっても良いと思った》、《『一月』は、詩の中で詩を出していきことの難しさを改めて考えさせられる。他の情景描写や苦悩は非常に良いので詩の更なる踏み込みが必要かもしれない》、《『20世紀少年』は、前半と後半の部位に更なる伏線と落差が欲しいと思った。非常に勿体ないと思う。一歩、前に進むと傑作だと思う》、《『夏のどこかで』は、指示語によってイメージが散漫になってしまう箇所があり、詩の内容の優しさや切なさにブレーキをかけているような気がします》、《『雪原の記憶』は、「私は警察署に来ていた。」の一文を無くしても良いと思う。その部位を無くすと文中世界に、すんなりと入れたような気がする。しかし、そのことを考えても漁と生死の根源、銃返還に関わる多くのことや人間の心の傷を正面から書いた大作。この熱量は讃えられて良いと思う》、《『雪原の記憶』は、実際に狩猟をやってきた者だけが描けるリアルな世界。生き物の命を奪うという行為を、実体験の生々しさで描ききっている。ただ推敲が不十分であると感じる》、《面白い。過去が一番生々しく、現在と思わしき部分はふわふわしていて最初と最後が浮いてる。それが意図してのことなのか分からないから評価が難しい》、《情報量が非常に多いにもかかわらず、読み易く興味を惹き続けることに成功しています。最後に全て引っ繰り返すまで懇切丁寧に緻密に文章が仕上げてあり、熱量を感じます》、《『冬にむかう 三篇』は、情景を描くことで自らの心情を表現しようとする手法は成功しているが、初連が少しくどく感じる。もう少し整えられるのではないだろうか》。
 実存大賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『朝顔』『鷹枕可』『ゼンメツ』『アルフ・O』『泥棒』『いかいか』各氏の内、最終選考対象となった『朝顔』『鷹枕可』各氏について議論が深められ各氏の受賞が決定いたしました。朝顔氏に関しては、視覚的な効果と作品世界の整合性が上質、上質な感情がダイレクトに心に突き刺さって来ます、という意見などがあり2年連続2回目の本賞受賞が決定いたしました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『朝の街灯』は、これこそ、女性にしか書けない美しい抒情詩だと思います。丁寧語で書かれている、いわゆる回顧録のような独白が、秀逸な修辞で際立っていると感じました。描くべき対象を、極度にわかりにくくする必要はなく、リアルをつかみ取ってこそイメージは実体を持つのだと感じました》、《『詩五篇』は、関連性を持たせるタイトルを付けるなどして遊びがあるともっと面白いものになったのではないかという期待があります。夕方という詩篇全体と、教育という詩編の終わりは筆者の視線の鋭さが表れていると感じられるフレーズです》。《意図的に行内の文字数を制限し、箱に収めている。この箱の中で、意識がぎゅうぎゅう詰めになっている。言葉の配列が視覚をもって体を成している》、《『収穫祭』は、きれいにまとめると作品になるかもしれないけど、表現したいものはそんなお手盛りのカタルシスなのか疑問が出てしまう。「おやを殺した」部分こそ作者特有の体験で心象風景で書くべき部分だと。人生は思い描いた通りにならなかった、ピリオドが打てないものの連続だって思います》、《『約束』は、一つの文章をただ細かい改行で区切って詩っぽく見える箇所があります。両親や母が出てくるところでこうなっているのは、説明的になっているのでしょう。詩の持つメッセージの方向性は素敵だと思います》。鷹枕可氏に関しては、手法を信じて、やり続けていく姿勢が見事なまでに詩人である手法から先の展開を獲得している、などの意見があり実存大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《狙いすぎてどうにもわざとらしさが抜けない》、《言語の硬さが強度として上へと伸びあがっていきます。作品世界の短さなどが上手く作用しています》、《一見すると読者に難しい印象を与えそうですが、内容は至ってキャッチーで、この詩に関しては良いバランスで収まっているのではないかと感じます。 内容も核心を突こうとする目論見が感じられて、好印象です》、《言語世界を構築していく中で自分の作品の方向性を確固として打ち出していきます。長さなどが丁度よく詩情の立て方を上手く作用させていっています》、《この詩人も独特の美意識によって構築された文体が、強烈な個性を発揮している。ただし読み手を選ぶ》、《『死の糧』は、タイトルと死に直接纏わるフレーズには死生観を反映させる強目の表現が生きていますが、最終的な視点と構成が手垢の付いた表現に落ち着いてしまった感が否めません》、《一見すると古風に思えるが、実際は古いスタイルを参考にしながら新しい個性を獲得している。内容から、美術の素養が付け焼き刃でないことがわかる》、《『ルイーニの印象』は、作品を見て作者が分かる稀有な作り。どんどんと上手くなっており、詩作品の信念を発していることが分かる。最近、良作続きであり勉強になる》、《漢字ばかりの字面だと内容との塩梅が難しい》、《『腐敗した手鏡』は、この美意識は支持していきたい。「水底教会」というフレーズはメキシコでダムの渇水によって16世紀の教会が姿を見せたという数年前のニュースや、伝説都市イスを連想させる》、《わざわざ読み難くしている文体で印象的な単語を所々に配置し、政治的メッセージを匂わせ、イメージを展開させている。一連めもきちんと役割を果たしていて脈絡があります。難解な漢字の羅列に子どもらしさのようなものを感じ取ることができれば愉しめたりもしますが、どんな方向へ進むのでしょう》、《更なるブラッシュアップが、かかった作者の最新の形式。圧倒的な美である》、《『吸血蝶を呑む』は、印象的な造語も含め、作者が独特のスタイルと美学を手に入れたことを確信させる作品。個人の生死にとどまらず、模造された歴史の中での国家と戦争の記録ではないかという気がしてならない》。
新人賞には該当者12名の中から『あおい』『田中修子』各氏について議論が深められ『あおい』『田中修子』各氏の受賞が決定いたしました。あおい氏に関しては、抜群に上手く言語の連なりの脱臼具合が勉強になり驚いた、などの意見が挙げられ受賞が決定いたしました。また選考委員から次のような意見が挙げられました。《『ふたつの魂(こころ)』は、詩の形態など整っている。作品に、もっと比喩として高め昇華できそうな部位が多々ある》、《『実母』は、「夜になると彼女は、液体により人格を変える」がよいですね。重たく、攻撃的になりがちなテーマを、落ち着いて料理できています》、《『机上』は、最終連が惜しい》、《無駄な装飾が無く、シンプルでいて奥深い。詩を発見する瞬間という上質な抒情詩と感じた》、《恐ろしさをサラッと書く手腕に戦慄を覚えます》、《『わらいの口』は、言葉に力があり、面白さもある作品でした。前半はあえて流すような感じなのでしょうか。後半でぐらぐらと揺り動かされるような展開があり、良かったです》、《新鮮なヴィジョン。口元にクローズアップし、また唇を「わらい」という表現で強化することで、シュルレアリスム的な映像が浮かぶ》、《『月の花』は、視覚的にも音的にも美しい世界を創造出来ている。平易な言葉を用いて強度のある作品に仕上がっている》、書き慣れたかたとお見受けしました、文体が確立されています。今後作風がどのような変化を遂げるにしても矢尻を研ぎ続けるのみでよいかたでしょう(よいかたでしょう、と断言してしまうのも暴力的ですが)》。田中修子氏に関しては、明るさと暗さの共存が抜群に上手く筆致が滑らかに作品世界を浮き上がらせてくる、などの意見が挙げられ受賞が決定いたしました。また選考委員から次のような意見が挙げられました。《『卵化石』は、圧巻の面白さ。作者自身が作品世界と詩を楽しみ創作に勢力をささげていることも伝わってくる。比喩も上手く詩との向き合い方を考えさせられもした》、《『夕暮れシャッター』は、部屋で原稿を書く人の想像の世界と時折窓から見える鴉、それさえも想像の世界へと歪んでいき、結局筆者も鴉になってしまったみたいな感覚に陥っている、そんな世界なのかなあと思いました。意味不明な、言葉の羅列友受け取れそうなのにどこか規則性があるような意味を知りたくなるほどに魅力的、気になる詩です》、《『野いばらの丘』は、比喩表現の単語が扱いの難しいものなのに見事に作品化されています。方向性として上手すぎる詩人》、
《『少年少女絵空事活劇』は、大変、上手い作品です。ただしタイトルを含めて枠組みを拡げていけそう》、《『』は、》、《作者自身が向き合いにくい事象に向き合い魂から削り出した作品であるように思えた。作品の中での比喩の用い方と熱量が見事に実存的世界を構築している。過去からのもの親子関係、宗教観、さまざまな文学的哲学、そこから縛られた自分との闘いと脱出する過程にある時間。圧巻》、《『揺り籠』は、筆力があり、最後まで読ませることの出来る作品ではありました。描写に怨念のようなものが籠り過ぎており、バランスを欠いているのが一つの魅力とも言えるのかもしれませんが、台詞の部分の方が詩的であったり、グロテスクな部分については、この筆者はもっと読者に吐き気を与える程の表現が出来るのではないかと感じました》、《『ばらの蛇と少女』は、全体的にイメージというもので纏められた、絵画のような詩です。死のイメージ以外にも何か感じたいものがあるのですが、上手く感じることが出来ず、非常に美しくはあるのですが、額縁の外にはみ出てくれるような言葉を探してしまいました》、《作品内で使用されている比喩の単語が、これまで多く使用されてきたものであるためハードルが上がってしまっている。その上で見事に綴られている》、《『にがい いたみ』は、非常に上質な言語世界と危うさを孕んだ情感が読み手を先へと連れていきます。作者は何故こんなにも作品に人間を反映できるのか》、《『ともし火』は、作者の凝縮された人生の背景が発されている作品。「詩」の中で「詩」を語ることは作品を小さなものにすることがあるが、この作品は必然性のある大きさを持っている。実験性もある》、《『hyouka-ga-hara』は、色遣いが良い方に効いています。「彼」のキャラクター設定とその説明部分が熱を帯びていて面白い。文章が「彼」から離れたところでペースダウンしますが、落ちの切なさは綺麗に纏まっています》、《宮沢賢治のような幻想混じりの文章で楽しく読ませていただきました。情緒的で直感的な文章は、世界を理解しようとする読み手には好まれるかもしれませんが、論理的な思考を持ち、社会を理解しようとする人には敬遠されるかもしれません。言い方を悪くすれば、意味がわからないといった感想をもたれてしまうかもしれません》、《修辞の美しさがまず先に際立ち、読者をぐっと引き込む。興味を引く言葉とイメージの向こう側で、筆者の悲痛なメッセージが立ち上がっている。美しい》、《小説的な背景の作り方と作者の内面を、そのまま発露したような作品の中での軋みが上質な世界観とヒリヒリする構造を生んでいた》。
 エンターテイメント賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『植草四郎』『渡辺八畳@祝儀敷』『中田満帆』『ゼンメツ』『泥棒』各氏の内、最終選考対象となった『植草四郎』『渡辺八畳@祝儀敷』『泥棒』各氏について議論が深められ『植草四郎』『渡辺八畳@祝儀敷』氏の受賞ならびに『泥棒』氏の次点受賞が決定いたしました。植草四郎氏に関しては、独特な比喩とユーモアが深い感情の部位にまで届いて唯一無二の存在であるという意見があり、受賞が決定いたしました。また選考委員から次のような意見が挙げられました。《『5才の満月』は、一行目を詩文として一つも無駄がなくユーモラスに比喩と言語の連鎖世界が展開していきます。童心に帰るような世界観。度肝を抜かれました》、《『(無題)』は、生物を創造していく過程と、創造の身勝手さへと声を上げる様子がユーモラスに詩へ昇華されています。こんな作品、読んだことがないです》。渡辺八畳@祝儀敷氏に関しては、エンタメ作品として作りこまれていて真剣に作られており迫力が伝わってくる、などの意見があり受賞が決定いたしました。また選考委員から次のような意見が挙げられました。《『ワタシのきもち (エルサポエム)』は、やりたいことは分かる。消費財として強度があるのか、どうか。もっと進めそうでもある》、《『』は、短いセンテンスの中で、猫を通した命の在り方が立ち上がる。哀愁を含みつつ、客観性を忘れない見事な筆致》、《『兵器少女とシティロマンス』は、多彩な元ネタとシリアスと装飾により無毒化されがちな現代性を示しています。シリアスをつたえきる努力を、もう少しだけ求めたいです。その課題は、ありながらも良い作品です》、《『ラブ・ラプソディ』は、相手に環境を指定するのは好ましくない、と個人的に思います》、《『サバンナの光と液』は、作品強度が非常に高い。作法と技術に関してのことが飛び抜けている》、《『天と地』は、薄くアプロぷリエーションとキャッチ―な言葉の断定とを加工している興味深い作品です。タイトルの重厚さと作品内容の軽さが対比性を生んでいて良い方向へと進んでいます》、《『空を貫いたぜ。(変態糞詩人)』は、単語の発する効果を最大限利用して、何度も同じ単語をリフレインし、強烈な印象と嫌味なく意味の押し付けに成功していると感じられる面白い詩でした》、《『殺させてくれたのに』は、作者は以前から「非現実的キャラ」の虐待について強い関心を示していたが、この作品は同様のテーマをさらに掘り下げている。架空の存在を殺したことについての罪悪感。それを否定されることは、語り手の存在や行動がなかったことにされることでもある。これまでマスコミが取りあげてきた「現実とバーチャルの区別が付かない若者」という薄っぺらい語り口とは一線を画した作品と言える》、《心の中に抱えた小さな残虐さが伝わってくる。フィクションの世界であるということを鮮明に打ち出していることが上手い作用をもたらしている》、《『わが子』は、SF漫画の一つのシーンのような情景と物語が短い詩文で表されている。よくあるような言葉を見つけますが、印象としてはその方がこの詩の「感じ取り易さ」に繋がっていると思います》、《二次創作は読む人を選ぶが、それを詩のジャンルとして確立しようという姿勢を評価したい》、《『貧乳が添えられている』は、一読して佐伯俊男のエロティックなイラスト(セーラー服の女子高生が舌の長い男の生首が入った箱を持ち帰るやつ)を連想したのだが、内容はそれぞれが欠けている男女の哀しく残酷な物語。これを何の喩えと解釈するかによって評価は大きく分かれるかも知れないが、自分のことのように受け取ってしまう人もいるのではないだろうか。相変わらず読み手を挑発して語らせるのが上手い》。泥棒氏に関しては、ユーモアが想定内だが巧さは抜群、などの意見があり受賞が決定いたしました。また選考委員から次のような意見が挙げられました。《勢いがあります。面白味もあるのですが、それで乗り切るには長すぎます》、《『人格攻撃の詩。』は、1〜2連までの美しい隠喩から一転、第三連での急激な提示にはっとさせられる。人格攻撃とタイトルで示しつつ、最後の連では愛を提示する。抜群に上手い》、《『鉄拳制裁の詩。』は、ユーモアに満ちた批評性を獲得していく詩作品です。サティ作品を思わせる実験性に富みながらも現状に満足できない自身や他者に対する怒りなどメッセージもあり、作品自体で現時点を表現していく上手い詩です》、《『暴言を吐いて炎上させる奴の髪型について、』は、自己分析と共に冷徹に完遂していく愛に溢れた反芻がメッセージ性を帯びてきます。自分が当事者であるからこそ詩情を獲得してしまう不思議さ》、《『深い意味はないけれど、、、、、、、、、、。』は、メッセージ性がエンタメとして前に出れているかどうか疑問に思いました》、《『友達の友達の友達の友達の友達の友達の友達』は、純粋な心の痛みを表現することに成功した詩であると感じました。実際に読者として思い起こさせられる痛みがあり、そうした痛みを想起させることができる力のあるテキストであるのだと実感して、評価します》、《斬新なフレーズがあり刺激になる。意図的なものかも知れないが、各連のまとまりが弱いためにトータルでの強度に不満を感じる》、《比喩的に集団というものを捉えていきアウトプットしていく。もう一歩、踏み込むことが必要なのではないでしょうか》、《『五分後の羊』は、内輪向けの詩作品に思える。比喩に昇華しきれているか疑問だ》、《『ポテトチップスが奥歯にはさまっている、夜。』は、文章のメッセージやイメージを読むに、これはもっと野性味ある組み立て方にしていただいて良いのではないかと感じました。「静」の感触が強く、改行の仕方によるのかなど、考えるところがあります》、《猫や犬の描写が必要とは思えない。それ以外の部分は読んでいて心地よいので残念》、《『DVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVD』は、皮肉も効いている。日常、働く人間の抜け殻感、芸術に憧れる人間のどうしてもミーハーなところ。難しくないことばで綴られていますが、あからさまにすると稚拙になるところをうまい具合でメッセージに変換できています》、《『Lapse』は、長い空白の溜めの後の「めっさ深くて」で笑ってしまった。その後に続く連が少し硬さを感じてしまったので惜しい。「めっさ」がポップな口語体だと感じたので、軽い言葉で静謐さを纏めてほしかった》、《『風の谷の崖の上の右の横の丘の下の変なおばさん』は、鋭い人間観察とユーモラスだが毒のある筆致。リアルでもネットでも確かにこういう人っているなと思わせると同時に、自分もそうではないかと考えさせられる。ただ余白の使い方が大雑把に思える。ここまで空ける必要があるか疑問》、《変わった方を誇張して書いている。寂しさを感じるエンタメ作品》、《『ドラキュラ』は、途中まで傑作だと思った。最終連が更なる飛躍を持てそう》。 
 レッサー賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『ゼンメツ』『アルフ・O』『atsuchan69』『鷹枕可』各氏の内、最終選考対象となった『ゼンメツ』『アルフ・O』『atsuchan69』各氏について議論が深められ『ゼンメツ』『アルフ・O』各氏の受賞が決定いたしました。ゼンメツ氏に関しては、次のような意見がありました。《空回りしてることもよくありますが、「俺は真剣によんでいるぞ」というのを第三者に伝えるのが巧いので、説得力があります。基本的に「作者のやりたいこと」をくみ取る能力が高い印象ですが、前置き無しで話し始めるのでなぜ氏がその読解に至ったかの経緯が省かれることが少しもったいない。他の二人と比べると量的に圧倒》。アルフ・O氏に関しては、次のような意見がありました。《ご自身が結構メインストリームから外れた作品を書かれているので、同じような作品に対する理解だとか、読みが深いな、と思います。ただ同時に所謂「詩作品」と呼ばれるものに対して、極めて冷静な意見を言っているのがよくあって、わりと納得することは多かったです。ただ、(これは僕の個人的な意見ですが)批評って作品の価値を何倍にも引き上げるくらいの力があると思うのですが、氏に関しては、そういうポジティブな意味でのレスというのは少なかったのかな、という印象(あっても褒めるときはなぜかふわふわした感じなんですよね)》。そして受賞には到りませんでしたがatsuchan69氏に関しては、次のような意見がありました。《レスをしている数は少ないですがエンターテナー的なレスを今一番文極でうまくなさるのはこの方だろうな、という印象です。「感想」ってもちろん作者に自分が作品を読んでどう感じたのかを伝えるものだと思うのですが、それ以上に、その「感想」を読んだ第三者に与える影響を考えながら書ける人だと思います。
ただ、削除報告のトピックにも一度報告しましたが、個人を揶揄するようなレスもたまになさるので、そこをどうとらえるか、という感じもします》。また受賞には到りませんでしたが鷹枕可氏に関しては、次のような意見がありました。《レスも独自の世界観を放出している熱量のあるものである。それぞれの作品へと向けられていく眼差しが作品世界との差異を生み出していて、抜群に面白かった》。
 
(2に続きます。)

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●2018年 文学極道年間各賞発表

2019-04-13 (土) 12:51 by 文学極道スタッフ

●2018年 文学極道年間賞発表

お待たせしておりました、2018年の文学極道創造大賞、ほか年間各賞が決定しましたので発表いたします。

2018年 年間各賞

上記の発表ページをご覧ください。
各受賞者名および作品タイトルから、その選出作品を読むことができるようになっています。
ゼンメツ氏、アルフ・O氏が創造大賞受賞。
選考経過は5月下旬から6月頃発表予定です。

なお、他の各ページと同様、発表ページへのリンクは自由です。
URLはこちらでどうぞ。
http://bungoku.jp/award/2018.html

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●「2017年・年間選考経過」2

2018-05-25 (金) 15:33 by 文学極道スタッフ

(1からの続きです)

 文学極道年間最優秀作品賞には選考推薦として挙がった数作品の中から特に『◾ひずむ音になれなくて ゆがまなかった』(村田麻衣子)、『光のコークレッスン』(Kolya)、『イヴの手が触れるアダムの胸の傷あと──大岡信『地上楽園の午後』』(田中宏輔)、『埋葬 の 陽』(宏田 中輔/黒崎水華)、『Kite flying』(紅茶猫)、『成人儀式』(朝顔)、『挽歌』(軽谷佑子)、『ファウル、年末の。』(bananamwllow)、『Grimm the Grocer (back to back)』(アルフ・O)について議論が深められました。そして各作品の受賞が決定いたしました。『◾ひずむ音になれなくて ゆがまなかった』(村田麻衣子)、『光のコークレッスン』(Kolya)各作品の受賞ならびに『Kite flying』(紅茶猫)、『ファウル、年末の。』(bananamwllow)各作品の次点が決定いたしました。『◾ひずむ音になれなくて ゆがまなかった』(村田麻衣子)には、時代を超えて残る可能性がある見事な作品であり最後のはみ出していくことを視覚的に操作している部位も素晴らしい、という意見などが挙げられ受賞が決定いたしました。『光色のコークレッスン』には、、題材としてはよくあるものだが独特の形でうまくまとめておりクリケットからの流れが良かった、という意見などが挙げられ受賞が決定いたしました。『Kite flying』(紅茶猫)には、完成度の高い作戦であり世界観も受け入れやすく独特の物語ながらわかりやすい、長くても読みたくなる作品、かなり作り込まれているのが分かるが凝縮されて短いほうがいい気がした、作者の形式を極めていって欲しい非常に作品が気になる、などの意見が挙げられ次点決定となりました。 『ファウル、年末の。』には実存賞受賞の項で触れた意見などが挙げられ次点決定となりました。
 そして最後に、本賞受賞には至らなかったけれども十二分な磁場を示した作者と作品を各選考委員それぞれが推薦し選考委員特別賞が決定いたしました。本賞受賞者などの選考を進めていく際、いずれの作者も自身の作風を持ち推し進め深めていて議論対象となるだけの強度を作品で示しており賛否両論を持ち合わせていることなどが印象的でした。いかいか氏には次のような意見が挙げられました。《いかいか氏は嫌悪感をも覚えてしまう感情を揺さぶる発露があります。時に、それは暴力的で時に、それは悲しく切ない。筆圧が濃すぎて内輪の中傷にしか過ぎない作品も多々、投稿されていましたが、次点以上に残っていた作品は現代詩に人生を振り回されていく人間の芸術が色濃く展開されていました》、《句読点が骨肉を切断していき体液をまとわりつかせながら汚濁にまみれて、しかし成就されていく怨念の強さが呪いのように残ります》、《読んだ後に後悔さえしてしまうトラウマともなる詩文の強さは作者が自己自身を切り刻み苦悩していく様子を他者を巻き込み作品化していく唯一無二の存在に圧倒されます》。鷹枕可氏には次のような意見が挙げられました。《詩が筆者の行為であるならば、その言葉には筆者の皮膚の下にある肉の感触を感じるものだと思います。この方の作品には多くそれがあるように感じられます。言葉で虚飾しようとせず、ただただそこに立ち指先を指し示しているようなリアリティがあると思います》。《鷹枕可氏は自己の世界観を信じ切り、読み手が着いていけなくとも着いていきたくなる領域を示しており、創造者として唯一の存在といって良い異彩を放っています。今年はリーダビリティへの挑戦なども見えて、作品が個々に豊かになりました。詩集を意識して書いていくと、もっと面白くなるかもしれないと思います》。鷹枕可氏は賛否両論あり評価が大変、割れました。完備氏には、静謐さと動的心の軸が合わさりながら詩情を昇華していく手法が上手い、などの意見が挙げられました。岡田直樹氏には、作品が非常に上手く更に読みたいと思う投稿数によっては今年の年間本賞に入ったとも思った、などの意見が挙げられました。アラメルモ氏には、作品の出来がまばらなことが気になるけれども良い作品を書いている、などの意見が挙げられました。本田憲嵩氏には次のような意見が挙げられました。《とにかく作者は詩情を出す力が秀逸》、《情景に意識を溶かし込んでゆく、直接的主張をする必要性のない詩。必要です。この世に必要なんです》、《作者は早めに詩集を編纂して欲しいです》。北氏には次のような意見が挙げられました。《『Mi nada 』は賞向きではないが非常に良いと思った。賞とか関係なく、どんどん書いて発表して欲しいと思った》、《『草花ノート』は、単純に美しいです。作者が実際に自然の中に足を運び、足元に咲く小さな草花をじっと見つめて物思いにふける。最初は連想イメージが淡々と並べられていくものが、細胞を持ち、絡み合い、息づいて、むせかえる森となってゆく様は圧巻です》、《『草花ノート あとがき』はタイトルから期待を抱かせます。視点が落ち着いている中にも常人からかけ離れたところがあり、詩にする意味が感じられました》。ゆあさ氏には、形を変えながら繰り返されるのは読者をひきつける勢いのある言葉である素晴らしい作者、聴覚で書かれていることが分かり視覚的な意識を融合できる作者、などの意見がありました。goat氏には、たゆたいの中の圧縮した静謐を突いている文学芸術の正統派でありながら表現領域を超えるマルチ・ポップを感じる、などの意見がありました。井上優氏には、良い作品ですクリスチャンとしての歩みなど印象深く欲を言うと更に長く読んでみたい、などの意見がありました。『イヴの手が触れるアダムの胸の傷あと──大岡信『地上楽園の午後』』(中田宏輔)には次のような意見が挙げられました。《普段、行間として省かれている部位が書かれた稀有な作品。背景などを知っていると更に面白く思える。詩として提出してあるのだから詩である。そして詩情に富んでいる。おそろしいほどだ》。『埋葬 の 陽』(宏田 中輔)には次のような意見が挙げられました。《コンセプトと技法が一貫していて見事。また賛否両論起こったこと行為を為しきったことは、この技法での成功を意味するし、レスで不快感を書かれていることなども技法の特徴として成功している。破断されているが美しい詩になっていることも勉強になった》。『火の子』(ピンクパーカー)には次のような意見が挙げられました。《体現止めの多用が気になったけれども言葉と言葉の合致から導き出されるイメージに鏡像が引出されていく。数字の使い方が見事としか言いようがない》。『夢の岸辺』(きらるび)には次のような意見が挙げられました。《抜群のセンス。まだ未完成な部分が浮かんでいるが、そこの幅に詩情を感じる。最終連の切れが非常に良い。途中を、もっと整理しても良いかもしれない。読みながら勉強になる作品だった。作者の作品を、もっと読みたい》、《この人にしか書けないんだろうなあと思い、評価しました。所々もう少し練れただろうなと思うものの、その粗さや不完全さの中にこそ作者の本来的な存在が宿ったりするのではないかなと。そういうものが見えるという点で、ただ巧いとか、ただ綺麗で整っている、ただ作り込まれているものより好感が持て惹かれました》。また年間選考の際に、祝儀敷氏に関して次のような意見などが挙げられました。《好き。すげー好き。優良か次点かってつける程じゃないのにすげー引力》、《惹かれるものがある。死の上の時間の経過が残忍でもあり緩やか。詩文を締めるエッセンスもある》。
 総評としては次のような意見などが挙げられました。《確かにお上手でした。お上手だったのですけれど、少し皆様捻りすぎてないかなと。「何を見て、何を感じ、何を考え、何を選び、どう行動するか」感受性が置き去りにされているように感じます。心や魂が未成熟な梅と、匂い立つ時期を過ぎた杏が散乱している印象を全体的に感じました。心を大事にしてもらいたいなーと》。《田中宏輔さん。変わらずの筆力ですね。(2017年度の作品を読んでいるうち、2018年1月投稿ではありますが『横木さんの本を読んで、やさしい気持ちになった』という作品が目に留まりました。横木さん……横木徳久氏が、かつて詩手帖の論評で「新種のメディアの登場によってつねに大量のゴミも一緒にその方向に向かい、移動する」とし、「ネット詩はいずれ淘汰される」と書いたのは2003年のことでした。それから現在までの15年間で、詩手帖がメールアドレスを公開し、ツイッターに公式アカウントを持ち、ライブで一行詩を募集しては連詩を誌面に特集しようとは、当時反ネット詩の先鋒であった横木氏は予測しなかったのかもしれません。良い書き手は媒体の性質に左右されない筆力や推敲力をもっているでしょう。文極が、そのような投稿者の場であり続けていると感じています)。選考委員一同、大変勉強させていただきました。素晴らしい作品の投稿に感謝いたします。

スタッフ一同

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●「2017年・年間選考経過」1

「2017年・年間選考経過」

2017年 年間各賞

 文学極道『2017年間各賞』は2017年に『文学極道詩投稿掲示板』へと投稿された作品のうち月間優良作品・次点佳作に選出された391作品、96名の作者を対象として、委員スタッフによって1月22日から4月5日の期間に選考会を開催し審議の結果、上記ページの通り決定いたしました。本年度の選考(月間選考と年間選考)はスタッフである平川綾真智、清水らくは、瀧村鴉樹、熊谷にどね、麻田あつき、葛西佑也、石原綾、望月遊馬、石畑由起子に創設スタッフの本野ややや氏、外部協力者である尾田和彦氏を加えた計11名で行いました。
 創造大賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『kaz.』『紅月』『いかいか』『芦野 夕狩』各氏の内、最終選考対象となった『kaz.』『紅月』『芦野 夕狩』各氏について議論が深められ『kaz.』『紅月』各氏の受賞ならびに『芦野 夕狩』氏の次点が決定いたしました。kaz.氏の作品へは選考委員からは次のような肯定的な意見が挙げられました。《コンセプチュアル・アートのような作品概念の博覧提示していく作品であり、まさに新しい文学の創造である》、《kaz氏は毎回、趣向を変えていて、根本が自分が創出したスタイルでは無いとしても新たな世界を切り開こうとしている姿が分かり、今年そのことは実を結んでいます》、《ユーモアを大切にしつつ偶発性を現代美術的方向性で、言語のオブジェ化を独自の方法で血を通わせながら発しています。
声のみの声――起草』は内部に踏み込んだ詩情を汲み取っていて感情を揺さぶります。現代詩の面白さを徹底的に分析し自身のものへと取り込んでいる姿勢は今年、取り分け栄華を極めています》、《『夏美 has a lot of poetry 』は読み始めの初っ端に「ダサい!だがそれがいい!」と叫んでしまった。「夏美」という今時でない名前、ところどころ入る英語と音符。80〜90年代の風が一気に吹き荒れた。それがたまらなくダサくて、最高に刺激的》、《どんどん変化していくカメレオンのような作者。どんどん書いていき自分自身しか書いていない作風を見つけて欲しいとも思った。読んでいて快感も得た》、《詩はどうしても単語(というより、言語細胞とでもいうのでしょうか)の一つ一つにまでエネルギーが強く充満しているものですから、ある程度コントロールできるスキルがないと最後まで読ませられないものが多いです。長いものが決してダメだという訳でなく、長くしてもダラけさせないものがあるものは大変好きなのです。『語る死す、語る生まれる』に関しては、筆者の日記であって詩である。というより、日常とイマージュが程よく同化していると思われます。とても大好きです》、《意図的な文体崩しが見事であり驚いてしまう。作品の強度を増していく公転がある作品を多く創出している》、《『(笑)』は問答無用な勢いがありました。好きです。詩的言語で殴られました》、《『黙すること』は、言葉に対しての捻り方が慧眼ものです。新鮮な単語を使用しているわけではないのに新鮮な詩句を紡ぎ出すことに成功しています》、《どんどん上手くなってきている。構成の上手さと破壊も出しており目が離せない》、《『』は形の美しさに、言葉を追いつかせていると感じた》《新しくはない表現方法だけれども丁寧に出来ている。成功させることは難しいこと。溜息が出た》、 《『書が好きよ、街を出よう《クリエイティブ・ライティングとしての所作》』は無理がない。このくらい柔らかくても書ける人だ》、《『紙の本という文化は、地球上で最も奇妙なビジネスの一つである。(未完成)』には未完成にすることで完成する強さがある》、《『』は抜群に上手い。不確実性の構成が確実性を生んでいる》。《ユーモアを大切にしつつ偶発性を現代美術的方向性で、言語のオブジェ化を独自の方法で血を通わせながら発している》、《『声のみの声――起草』は内部に踏み込んだ詩情を汲み取っていて感情を揺さぶります。現代詩の面白さを徹底的に分析し自身のものへと取り込んでいる姿勢は今年、取り分け栄華を極めたのではないでしょうか》、一方で、次のような意見も挙げられました。《作者の作品に対する熱量が今年は違った。ただし後半、勢いが落ちていることが気になった》、《作風に合っているのかもしれないがタイトルにひっかかる作品が多くあった》、《やりたいことは良く分かります。更に魅力を付加させるためには、どうしたらよいか考えさせられる》、《『みんな、君のことが好きだった。』など、上手く整っている。上手く組み立ててあるけれど、ひとつ気になるのはオリジナル性の問題で、作者独自の作風を、そろそろ見てみたい欲求はある。フォロワーや様々な技術を研いでいくのも素晴らしいことだけれども、作者なら全く新しい独自の作風も編み出せそう》、《毎回、趣向を変えていて根本が自分が創出したスタイルでは無いとしても新たな世界を切り開こうとしている姿が分かり今年そのことは実を結んでいる。ただし後半、急速に勢いが落ちていることが気になる》、《『911+311=1222』は、強度があるけれども最後の連は、もっと高められそう》、《『書が好きよ、街を出よう《クリエイティブ・ライティングとしての所作》』は力作だけれども題名は、これでないといけなかったのか気になります》。最終的に、詩における覚悟と熱量を現出させていく投稿作品それぞれの評価が非常に高かったことから創造大賞受賞が決定いたしました。紅月氏の作品へは選考委員からは次のような意見が挙げられました。《作品に奥行きがある。ところどころ表現の甘いところもありますが、全体として輝いている部分がある》、《『セパレータ』は、作者の美麗さを残しながら生活の人間臭さも醸して内面に近づいている。スタイルを様々な様式にしただけでも素晴らしいことである。作者の作品として圧巻とは言えないかもしれないけれども十分である》、《完成度の高い作品を書いている。ただし表面的な美しさのみで、読後感なにも残らない空虚がある、この点については今後に期待したい》、《物語が重なっていくにつれ詩としての深さが増していくのが素敵である》、《私の中での評価は高いものの、完成された世界に少し危うさも感じる。もう少し、何かあるんじゃないかと》、《『phosphorescence』は、最終にかけて加速度的に文章が比喩性を帯びて結晶化していく。初連の立ち上がりが疑問。そして接続詞が本当に、これでよかったのか。書けている作品であり、めずらしく現実的内面との往還力動をまなざしているので更なる良さが背後にあるのでは、と思った。良い作品なのだけれども》、《かなり作り込まれている作品。隙が無い。ただし、隙が無さ過ぎて、引き込まれる隙間さえも無い。それが魅力でもある。ある意味では、読む人を選んでしまうかもしれないが》、《『design』は非常に上手い。最後の行だけが本当に、これがベストなのかは気になった。けれども完全でない方が美しいのかもしれない。重力を持っている》。最終的に、紅月氏の圧倒的美から詩情を紡ぎ上げていく在り方の評価が非常に高かったことから創造大賞受賞が決定いたしました。芦野 夕狩氏の作品へは選考委員からは次のような意見が挙げられました。《表現のうまさが全体に現れています。面白味のある言葉も挟み込まれていて、読み進めたくなる》、《作者の感情を様々な方面に引っ張っていく独特の作風で上手いです。作者に追いつかなければならないという気持ちになります》、《作者は、ひたすらに上手い。憑依していくような構造が読み物としての強度を獲得していきます》、《『あなたはわたしの涙ですか』は、ライバル作品は「永遠のジャック&べティ」になりそうです。ライバル作品に匹敵する展開や棒読みを活かせるものがあったかどうか。書ける作者なので、もっと傑作に仕上げられそうです》、《『カンパネルラ!』は、ぼっかりと開いた風穴を冷たい風が通り抜けて行って、心臓はもうどこかに消えているのにそれでも生きている。これは瑞々しい魂そのものであって、今この瞬間にしか描けないものを閉じ込めていると思います》《カンパネルラという詩的世界において重要な位置を占める名詞との実存的混交が見事》、《『スーパーソニックウーマン』は、あふれてくるものというよりは、無理矢理に絞り出したものが、かろうじて詩として成立しているという印象。しかし、その語りが、この作者にしかできないものであろうと感じさせる詩句が所々にあり、その個性に強く惹かれた》、《『侏儒』は、このやり場のない怒り。内にも外にも向けられた殺意。振り上げられたナイフをどこに刺すべきか。貴様か俺か。リズミカルで爽快。融けかけたチョコミントアイスを食べた時の不快感でした》、
《『比喩の練習』は、詩を題材にしていくことはメタな構造を余程な高さを持ってなさなければならないのだ、と実感させられる作品でした。上手いです》、《『やがてかなしき病かな』は、言葉の柔らかさが、内容に合っています。それだけに、淡々と終わっていくので少し物足りなさもあります》、《『非詩の試み』は、独白であり自らの対話という形式だが、世界を捉えた目には絶望の色が濃く残る。美しい》、《『 letters 』は、悪くない直球の作品。詩とは比喩とは人間とは、というものの原初と立ち上がりが興味深い作品として立脚していました》。最終的に、現代詩のプラスティック言語を加工していくユーモアの飛び方や抒情的な幅広さの中で発出していく在り方など、創造的なエンタメとしての評価が高かったことから創造大賞次点決定となりました。
 最優秀抒情詩賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『鷹枕可』『霜田明』『紅月』『深尾貞一郎』『軽谷佑子』『atsuchan69』『朝顔』各氏の内、最終選考対象となった『朝顔』『atsuchan69』『深尾貞一郎』『霜田明』『軽谷佑子』各氏について議論が深められ『朝顔』『軽谷佑子』各氏の受賞、『深尾貞一郎』『atsuchan69』各氏の次点が決定いたしました。朝顔氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《『』は、よくあるものかと思ったら、最初の連で裏切られた。何が救いなのかよくわからないけれど、確かに「扉」を感じるという点で秀逸》、《『成り上がり』は、淡々としていますが、感じるものがありました。日常の変化と、日常の変化を見つめられる目という二つの変化がうまく絡み合っていたと思います》《取り立てて特異な文体はなく、平易な言葉で紡がれているが核心を除くことで美しい叙情になっている》、《『成人儀式』は、葬儀の記憶と食べ物の明確な記憶がリアルで詩としての強度を立てていきます。きいろく甘い、など表現が上手く最終連まで掴まれます》《日常の中にある、人の心の歪み。閉じきることのない穴の存在が、叔母の存在を通じて強烈に立ち上がっています》《「彼女の血液と私の血液は交換された」が特に良いです。日常と非日常の間にある生暖かさのようなものを感じました》。最終的に、それぞれの作品への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。軽谷佑子氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《『挽歌』は、輝かしかった過去は美化されていて、だからこそ自分の中にある当時は色あせることがありません。中傷的に言語を重ねていき幅広く解釈していける切れの良い作品です。毒っ毛が、たっぷりあるのも魅力です》、《以前の作品を知る者としてはもっと描けるかただとは思いつつ、それでも、削ぎ落としかたの鮮やかさは群を抜いています》。最終的に、作品への抒情性への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。深尾貞一郎氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《細かい視点が面白い。言葉の柔らかさも、テーマに合っている》、《『 Hello Hello 』は、まとまりが良いです。そして、だからこそ単純なテーマを書ききれています。どうしても優良にはならないタイプの作品だとは思いますが、一つの完成形だと思います》、《『火葬』は心と魂と、概念を火葬すること。深い悼みを感じる》、《『』は、改行がリズムを非常に上手いものに高めていきます。単語の使用は、そこまで独自のものではないけれどもオノマトペの在り方など強度のある美しさへと達しています》《すごく不思議なところを突いてくる作品。何度も読みたくなる。リズムも長さも最適》。最終的に、それぞれの作品への評価が高かったことから次点決定となりました。atsuchan69氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《言葉のストックのある人と感じました。もっともっと削って、純度の高いものを作れると思います》、《あえて選んでいる世界観と作風が強度を獲得している。荒々しかった作者の過去の作風を思うと、ずいぶん上手くなった姿へ変貌したことに尊敬さえ抱いてしまう》、《美しいなぁとは思うのです。けれど、「器を描く」ことに注視しすぎているのではと読み込むごとに感じてしまいました》、《作者は上手く器用。なんでも書けることに羨みを持ちます。時折、詩行の少なさが詩情の少なさに繋がっているように思えます》、《意味を離れていく記号の在り方が言葉の組み合わせ方と相まって強度を持った作品へ立脚しています。独自性を、どんどんと広げていって欲しいと思います》、《誤字や落ちの弱さはあるものの、全体的にエネルギーに溢れたリアルを感じる。作者の今後の作品が気になる》、《『ら、むーん』は、よく出来ていて秀逸な詩情。変な感想で申し訳ないけれどもうますぎるとも思った。破壊が、もっとあってもよいのかもしれない》、《『奈落に咲く』は、象徴化された風景によって語りが凝縮されている。ただ三連目はもっと練れたであろう印象がある》、《『ペテルナモヒシカ』くそう、悔しい、ぐぬぬぬぬっ。推してしまわざるを得ないです。非現実的な表皮を装い、現実の血を流しているのです。リアルタイムな肉と肉。たまらないです》、《『夏/向日葵の道』は作品のまとまりがよい。熱量もちょうどよく読みやすい》《比喩の用い方を、もっと慎重になっても良いかもしれない。フォルムは、とても美しい》、《『産業道路のコンバーチブル』は、言葉の綴り方とスピード感が、これまでの作品と全く違って一段階上のものとなっています。凝縮されたスタイリッシュさが見事》、《『黒の墓標』は、「嗚呼」以降の疾走感は爽快です。それに到るまでの比喩化した個体の言葉たちが連結を上手くできていないようにも感じてしまいます》。最終的に、それぞれの作品への評価が高かったことから次点決定となりました。
 実存大賞には選考推薦として挙がった『霜田明』『bananamwllow』『朝顔』『泥棒』『アラメルモ』『アルフ・O』『本田憲嵩』『北』各氏の内、最終選考対象となった『霜田明』『bananamwllow』『朝顔』『泥棒』『アラメルモ』『アルフ・O』各氏について議論が深められ『霜田明』『bananamwllow』各氏の受賞ならびに『泥棒』『アルフ・O』各氏の次点が決定いたしました。霜田明氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《直球の底力を観ました。感情を読み手にまで編み込んでいく昇華の在り方は見習うべきものがありました》、《すごく惜しい。あともうちょっとずつ何かがあれば良作。ということで期待も込めて。スパイスの足りないカレーという感じ》、《徹底した美しさを感じました。ただ、少し長くてだれてしまいます》、《『労務の顔』は、労務の際に被る仮面との乖離していく自己存在や、それに関わる交差が分断されながら記されています。分断されるだけの意味がわかる題材だったので詩情が保てていますが、もっと分断に終わらないものが、もともとあったのではないかとも思いました》、《『自責』は、つたない部分もあるのですが、テーマにストレートに向かっているのが生きている作品だと感じました。「より良く苦い私であろうとして」というのは、いい表現ですね》、《『身体』は、愛についての作品であり正面から独自の見解と共に書いていて惹かれた。さまざまな部位を、もっと更に良い表現に出来そう。良い作品が中に埋まっていると分かっているため、もっとを求めてしまった》、《『一枚の写真』は、惜しい作品だと思う。もう少しで秀作となることが分かるので粗い部分などが目立ってしまっていると思う。推敲してみた後のを読んでみたい》、《『反芻』は、良い連がありました。全体としては洗練が足りないとも感じました。強度は緩める点も必要ですが、言葉は常に強くあってほしいと思います。ただ、とにかく良い箇所があったのも確かです》、《『反芻』は、本来の感受性は特別な事柄だけに反応するものでもなく、朝起き抜けの窓の光や、コーヒーの湯気、そんな日常の中に潜んでいるものだと思います。その1点においてレトリックにこだわる必要もなく、また無駄にひねる必要もないのは、それそのものが詩だからです。この作品は、まさにそんな作者のリアリティが結晶化されていると感じました》、《『勤勉』は、日常を切り取ったような詩には懐疑的なところをずっと感じているのですが、この作品は大変よく磨かれていると思います。詩的表現に必要なことは情景を美しく、鮮やかに描く事でなく、匂いや光を感じた時に、きゅっと心臓を動かす魂のエネルギーなのかもしれませんね。勉強になりました》、《『窓辺』は筆者がハエトリグモになっていく。その繊毛とつぶらな瞳、そしてどうしようもなく矮小でちっぽけな魂。
自らを大きく見せようとする人が多い中で、とても美しく繊細なことだと思います》、《『肺胞』は、名作。見事だ》、《『恋の詩』は、書きたい方向性に、しっかりと作品が書けているのが分かります。少し先が読めてしまう部分があるので捻りを加える必要性があるようにも思えます》、《『生命力』は静かですが、最後まで読ませる作品でした。「終わることさえも/何も分からない電信柱が立っていた」が特によかったです》、《『果てしないさよなら』は言葉の重なりが気持ちいいです。テーマに対してのまなざしも一貫していて、丁寧に作られたものだとわかります》。最終的に、それぞれの作品への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。bananamwllow氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《ザッピングさせていく意識。詩の幅が大きく行間に吸い込まれていく。粗い部分があるが、それも良い作用になっていると思った》、《上質な詩情である。青年であったころの輪郭と現在の姿が混交していき感情を引き寄せる》、《『ファウル、年末の。』は、こんな詩の形があるのか、と驚かされました。現在の中で文章のずらし方と焦点の当て方が非常に素晴らしいです。ブラッシュアップも見事》、《『あの夜だけが』が印象に残りました。書き慣れているようにも見えます》。最終的に、それぞれの作品への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。泥棒氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《作者と登場人物のずれが明らかに感じられることにより、「創作された面白さ」がわかってよいです》、《とぼけた中にも深みのある、不思議な作品でした》、《この形での提示で抉り泣かせる力に衝撃を受けます》、《『天使の羽根をちぎる仕事』は、手法も綴りも全てが見事。こんな作品よんだことがない。とてつもない傑作なのではないだろうか》、《『すみれ』は、改行しただけの文章に陥りそうな危うさを孕んでいるのですが、安心な綱渡りをしていると気分でした。なぜだろうと思ってよく見てみるのですが、一片のやる気も感じないのです。それが肩の力をいい具合に抜いた感じがしています》、《『軽蔑くん。微熱さん。世界ちゃん。』は、完結させているところが良かったです。風刺がきついと醒めてしまう部分もありましたが、面白さが続いていたので読み進めたいと思いました。「あれだから」は詩的な言葉としてはまず使われないと思うのですが、この作品ではすっと入ってきました》、《『みらい』は最後の四行で全てを持っていきます。それまでの行を全て前振りに使い最後に回収していく詩の情感に驚きを持ちます》。最終的に、それぞれの作品への評価が高かったことから次点決定となりました。アルフ・O氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《形の作り方がうまいです。この緩急は読ませるな、と感心しました。ただ、言葉の濃度は低く、刺さりにくくもあります》、《『シノニム』は、いろいろと気になる部分もあるが作者の作品として今までにない完成度。この点は認めたい。更なる作品も読んでみたい》、《『 Dicotyledon』は、逸脱も良いぐらいにフレームを壊しているし言語の別角度を探れているとも思えました。作者の中では断トツの出来》、《『 Dry/Slow/Anchor 』は最後は疑問が残ります。しかし、それを上回る上手さと格好良さがあります》、《『リッサウイルス』は、読み応えばっちりです。最後までワクワクしながら読み進める事ができました。ちょっと80'Sのロックンロールな匂い(ネオン管の毒々しさ)を感じられる、パンクな一本でした》、《『 A couple of 』は、上手く構成されている作品です。作者の世界は豊饒ですが少しだけ更なる世界を求めてしまうのは不思議な感覚です。これからも傑出した作品を見せつける才能があり伸びあがり続けているからなのだと思います》、《『333+』は女性言葉で紡がれる中で残虐性を伴い上手く作用していっています》、《『 Honey conscious honey 』はインスピレーションの発信されている元を超越して優れている美とエッセンスがある》。最終的に、それぞれの作品への評価が高かったことから次点決定となりました。
 新人賞には該当者13名の中から『游凪』『maracas』『完備(VIP KID)』『岡田直樹』各氏について議論が深められ『游凪』『maracas』各氏の受賞が決定いたしました。游凪氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《抜群の安定感であり、そこに未だ未完成な部位も見え隠れしていて引き出しも多く、作品の中へと入りこんでしまう充溢がある。今後の作品も、かなり気になる。実存的であり抒情的な見事さに、こんな作者がまだ居たのか、と思わせられる》、《単語の一つひとつとの呼応が美しく傷的な綴りともバランスよく構成されている。筆力が非常に高い》、《『優しい残響』は最後まで視点や温度のぶれない、可能性を感じさせる作品でした。ただ、少しメリハリがなく、これでも長く感じてしまいます》、《明晰なヴィジョンと、それを描ききる筆者の高い筆力が素晴らしい》、《『放熱』は最終連だけ、これで良いのかなと思う部分はあった。しかし圧倒的な言語の詩の力を切り出していっている》、《『永遠』は精緻に作られているので、細かいところが気になってしまう珍しさがありました。体現止めや剥き出しの言葉を支えるだけのものなので、行末の流れなどを整えたら更なる傑作になりそうです》《冒頭と最終行に、もう少し強い比喩が欲しかった。全体的に出来が良い分、「こんなもんでいいか」という力の抜き方が目立ってしまった気がする》。最終的に、それぞれの作品への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。maracas氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《展開と世界観が見事。美しい小作品を書く》、《『タバコ』は悪い方に期待を裏切られました。このオチでは作品としての完成度が低い》、《『 (無題)』は不思議な世界観に惹き付けられます。粗削りなので、あと何作か読んでみていきたい》、《『登下校』は、シンプルイズベスト。不要な装飾は一切省いていいですね。テクニックではなく「何を見るか」。未成熟な魂と、ひりひりするほどの感受性で世界を見ている》、《『』は書き始めの感覚があり、その筆致が非常に魅力的。詩情が立っている》、《『太陽』は力作! 植物をモチーフとして組み込んだことで、イメージが生き生きと波打っています》、《『眠りの瞬間』は感覚を良く見、よく感じ、味わい、手に取り、遊ばれたのだなと思います。寝るときに読みたい、呟くような朗読で聞いてみたいと思いました》、《『食べます。』は、削りまくって磨きまくった単語が、イメージを濃密に湧き立たせています。句読点で間仕切られ、淡々と並べられたイメージにはミニマリズムを感じます》。最終的に、それぞれの作品への評価が非常に高かったことから受賞が決定いたしました。
 エンターテイメント賞には選考推薦として挙がった『該当者なし』『kaz.』『芦野 夕狩』『湯煙』『泥棒』『宮永』各氏の内、最終選考対象となった『芦野 夕狩』『湯煙』『泥棒』『宮永』各氏について議論が深められ『芦野 夕狩』氏の受賞ならびに『湯煙』『宮永』各氏の次点が決定いたしました。『芦野 夕狩』氏に関しては創造大賞次点の項で挙げられた評価とユーモアとアポロプリエーションを意識した作品性の高さから受賞が決定いたしました。湯煙氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《『TOMBO 』は面白くて読ませる部分が多いので、さらなるものを求めてしまった。もっと読んでみたい》、《『石窯パン』はアイデア勝ちでしょう。「石窯」の響きがとても気持ちよくなってきます。それだけでいい詩です》《改行になるところと石窯の羅列になる見所となる部分が決まっているのか、どうか疑問。
そこさえ良ければ傑作かもしれない》《単純に面白かった。しかし、一発勝負であろう。次回作にも同じインパクトを期待したい》、《『』は淡々としているだけに、迫力があります。一つのテーマを書ききっている詩だと思います》。最終的に『石窯パン
への評価が高かったことから次点決定となりました。宮永氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《『雪望』は素朴な詩情を、はっきりと出している。さらっと難しいことをしている》、《『暖かい場所』は改行と息遣いが見事です。更なる独自な詩行を見つけられたら大傑作となりそうです》、《『変成』は始まりから傑作として立ち上がっていきます。視覚的にも整っており非常に美しく文学としての強度が高いです》《読んでいて楽しく、洗練された作品でした。特に後半は、表現が美しいです》。最終的に『変成』への評価が高かったことから次点決定となりました。
 レッサー賞には選考推薦として挙がった『无』氏について議論が深められ『无』氏の受賞が決定いたしました。无氏に関しては、良い作品を書く作者が丁寧に読み解いているため説得力のあるレスであり勉強になった、などの意見があり受賞が決定いたしました。无氏の作品に関しては選考委員から次のような意見が挙げられました。《『こわれた日』は最後の行、予想がつくためもう一ひねりできそう。しかし「こわれた」という言葉を正面から使って、ここまでの詩情を出すのは達人の域だと思う》、《『愛こそはすべて』は、イマージュを濃密にするために必要なことは、具体性ではなく、取捨選択を繰り返すことによる研磨だと思います。この作品はそれを立証しています。ぐうの音もでねぇ》《まさかモールス信号だとは。詩として、どうなのかは分かりませんが心に残った衝撃作だったことは間違いがないです。相当に時間もかけて書かれてあると思います》、《『のんちゃんの映画を観たんだ』は悩んだが、貴重な作品だと感じた。静かに語ることによりテーマがダイレクトに伝わってくる》、《『マジック・バス』は夢のように不条理。水のように歪む。超現実的な世界。素敵ですねー》《夢の感覚を渡しながら上手に展開していく。最後オヤジギャグになっているところに気づいた時に、やられた、と思った》、《『むげんの』は考えさせられるものがありました。非常に良い作品。内容が指す比喩の広がりが素晴らしいということと最後の永遠に続くカタルシスが印象的です。なので導入部分の指示語を更に滑らかに使ってみると大傑作になる気がしました。「そんな」の存在があるからつながりもして難しい問題ですが作者なら出来る気がします》、《『幻色』は抜群に上手い。最後まで集中力が途切れず一気に抒情を書ききっていて勉強になります》、《『』は詩の流れが立っている。様々な作風を扱う作者の姿勢に敬意を持った》、《『』はとても勿体ない。後の連になればなるほど、のって来ていて素晴らしい。最初の方が説明になっていないかどうか。初連などが、もっと更に追いつけそう。推敲をすると良作になりそう》、《『流出』は作者は比喩と体感している世界とを別角度から捉えなおさせていく感覚にさせる上手さがあります。今回、中盤が、もっと更に進めるように思えました。推敲し凝縮させると更に良い作品になるのでは、と思います。ただし、この状態が「流出」として非常に良いものを立ち上げていることも分かります》、《『ドイツ・イデオロギー』はメリハリが効いていて上手い。詩人は出さない方が広がりが生まれたと思う》、《『白夜』は平易な言葉で綴りながらも緊張感が張り詰めた文体。詩として非常に高い位置にある》、《『ニーゼ』は「ニーゼ=銭」。概念そのものを存在として立ち上げることで、共同幻想で成り立つ社会の重みが伝わってきます。二編目が大変秀逸》、《『ゆれる、かげ』は、この題材で質、量ともに圧巻の作品に仕上げている。名作なのではないだろうか》、《『夢の人』は途中から寸断される切れが出て来て興味深く思います。色んなタイプの作品を書く作者であることにも興味深さを増します》。

(2へと続く)

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