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Mizunotani - 2018年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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  Mizunotani

頸が、痛むので、雨傘を持って、うつくしい炎のひとしずくをうけとめる。誰もことばにすることのできない、空の、ある一点から、老いた星が、上昇するのを。かわいた、うすいすねをさすり、骨粗鬆症に、くるしむ、祖母の、ような。点は、毎年、ひろがりを孕んでいる。

うれしさやよろこびが、青空をひきさいていく。
ともだちに追われる、こどもの声。そして追われ、脅かされながら、こどもを作る、わたしたちの声。

街が赤土に覆われて、ひとびとの影が、極端にみじかくなって、葉緑素を保有する植物が、もう二種、三種ほどをのこして、滅びさってしまったころ、それでもまだ、今年も、風鈴が、あざやかに揺れている。

ふぜいを愛するひと。ばかだねえ。その手のひらの皮が、何度めくれてはがれおちても、また、はりめぐらされるような。

その、開かれた国語辞典の、『は』、“梅雨”という項、あるいは、『つ』だけれども、気のふれた、神経痛みたいな、季節風に、はこばれて、海面すれすれを、ひろい大洋のうねりにのまれたり、それでまた、おおきな入道雲へと、羽化してみたり。
雨雲の、中心。核と呼ぶべき部分には、文字が埋め込まれている。いつも。
凍りついた、そいつが、解けて、ほんとうは、わたしたちが、摂取し、体内へと流し込むことで、生き永らえてきたのだけど。

なぎ倒された、電信柱の、切り株の、手ざわりを、思い起こす。電気信号によって調律されるべき、鍵盤が、狂おしい金切り声をあげて、音を曲げる。この地に、偶然の雨が、降らなくなってどれくらい?

ぼくは雨を祈る
あなたは雨を祈る
乾きひび割れた表皮にひとしずく
手のひらに乗るような、小さな炎が、ゆるゆると降り注ぐ都会のど真ん中で。
飽いた熱の、かわりに
ひとびとは雨を祈る

おばあちゃん、と呼んでみたら、骨の透けてみえる、広い海を泳いでいて、そこではすべて潤っていて、浮かんでも、沈んでも、果てがないから、ひろがっていくことしか、わたしたちには、のこされておらず、そういえばわたしたちの、中心部にも、核にも、文字が据えつけられていた、ような記憶があって、水のなかで、ずっとちらちらと瞬く、放射線みたいな、熱くない炎を、なにも、ここまできて、握りしめていなくたって、いいのじゃないか、という気になったので、ぬるい水をひっかくために、手指をぜんぶ、のばし、た。

たおれた電信柱。
むき出しの赤土。
砕かれ砂になった窓。
再びひきさかれた縫い痕だらけの空。
今年も割られずに揺れる風鈴。
おばあちゃんと呼んだ声がそこかしこに散らばっている。
さぼてんが花をつけている。
酸素が燃えつきればここは宇宙空間とかわらず。
うつくしい炎が今もまだ焦土にてくすぶっている。
海は、その大半が涸れ、
わたしたちの身の丈をあまさず抱くことは、
できなくなって、
ひきさかれた空の向こうへと、
もう一度、上昇していく、
老いた星々が、
仄暗い、闇に吸い込まれるようにして、
あらゆる音が、今は、もうない。

文学極道

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