文学極道 blog

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「2018年・年間選考経過(2)」(Staff)

2019-06-18 (火) 18:11 by 文学極道スタッフ

(1からの続きです。)

 文学極道年間最優秀作品賞には選考推薦として挙がった数作品の中から特に『Ommadawn。』(田中宏輔)、『消費』(Mizunotani)、『これで終わり』(いかいか)、『白桃の缶』(山井治)、『陽の埋葬』(田中宏輔)、『駐車場』(ねむのき)について議論が深められ、『Ommadawn。』(田中宏輔)、『消費』(Mizunotani)の受賞ならびに『駐車場』(ねむのき)の次点受賞が決定いたしました。『Ommadawn。』(田中宏輔)に関しては次のような意見が挙げられました。《新しい世界へと繋がっていく。フォルマリストとしての強度が存分に発揮された傑作。今年も圧倒的な美を発出した驚異的な強さがある。詩と詩論が高められている》。『消費』(Mizunotani)に関しては次のような意見が挙げられました。《消費財としての言語のことを上手く捉えています。方向性の在り方や綴り方が巧いです》、《言語をプラスティック加工していくことで人間の悲しみが滲み出ていく傑作なのではないだろうか》。『駐車場』(ねむのき)に関しては次のような意見が挙げられました。《非常に丁寧で上手い作品である。空白の使用方法を、もう一歩すすめていけそうでもある。他媒体を含めて、どんどん活躍して欲しい》《作品世界での不可思議な世界観が抒情を持ち進展していく》。
 そして最後に、本賞受賞には至らなかったけれども十二分な磁場を示した作者と作品を各選考委員それぞれが推薦し選考委員特別賞が決定いたしました。本賞受賞者などの選考を進めていく際、いずれの作者も自身の作風を持ち推し進め深めていて議論対象となるだけの強度を作品で示しており賛否両論を持ち合わせていること、年々作品が明らかに上手くなっている作者の存在が輝いており文学極道の選考がなくとも評価が伴わなくとも自作を究めていくだろうことなどが印象的でした。『本田憲嵩』氏に関しては、次のような意見がありました。《以前からの投稿者であるが、こんなにも上手くなるとは思わなかった。哀愁を漂わせていて、そこが技術ではない境地での詩を成り立たせていた。今年は、そこへと技術も合わさり「終末」や「潤い」などが詩情を結実させていた》。『岡田直樹』氏に関しては、次のような意見がありました。《個人という人間が生まれ育ち、どのように歩んできたのかを興味深く熱中して読みました。力のある作品であり長さも気にせず一気に読めます。作品は人間であるという好例。もう少し推敲してみても良かったかもしれない》。『いかいか』氏に関しては、次のような意見がありました。《巧みに綴られている藝術作品の世界へと呼びこまれた。最後、破壊しなければならない宿命を抱えた作者の業を思った》。『中田満帆』氏に関しては、次のような意見がありました。《読み易い。文章にビートニクの雰囲気。テーマよりも語り口に注意が向くように書かれています。惨めな悲嘆に暮れる描写も文体に合っています》、《筆者の失望と諦め、客観と主観、混然一体となっている『ある意味では』意欲作。本人は否定するだろうが、わずかにもなければ書けないし投稿できない。その点は高く評価したい》。『ねむのき』氏に関しては、次のような意見がありました。《作品に対してか作者に対してか、たいへん迷いました。それほど『駐車場』が出色でしたが、短篇の二つも捨てがたく。『(無題)』にて、貝殻に耳をあてるところ、/>「もう死んでいるから/> なにも聴こえない」に生きた貝ならどうだ云々と評がついていましたが、これ私は貝の死ではなく主体の死と捉えました(肉体あるいは心的な)。光線が降りてきますしね。時の流れのない、まぶしい空間……生きて/手放さずにいるうちは踏み入れられなかった……美しさを感じます》。『西村卯月』氏に関しては、次のような意見がありました。《人間という存在の哀切なものを語り切っている。生とは何か、死への道のりは何か、そして福祉とは何か、それぞれの苦悩が交錯しており強度がある》。『霜田明』氏に関しては、次のような意見がありました。《読者を積極的に引っ張って行く筆力を感じる。静謐であって深い実体を感じる》。『松本末廣』氏に関しては、次のような意見がありました。《作者が作品に自己を削り出していくパターンと完全創作していくパターンがあると思っています。ここまで血肉を通わせていく作品を見たことは、ないのではないかと思うくらいに人間が立脚しています。人間という輪郭性と更なる自己への客観的な眼差しが往還していく》。『kaz.』氏に関しては、次のような意見がありました。《『カズオ・イシグロ』は、おもしろい試み。単体で味わうというよりは連作で何かを見出したくなるテキスト。ただこの一篇のみなのですね》。『白桃の缶』(山井治)には、次のような意見がありました。《桃の缶詰から宇宙へと広がってゆく。壮大でありながら軽やか》。『密告』(あやめ)には、次のような意見がありました。《さすがの世界観である。空行に関して気になった。改行に関しても更なる工夫があっても良いかもしれない。素晴らしい作品なのは明瞭である》。『牛乳配達員は牝牛を配る』(北)には、次のような意見がありました。《目まぐるしい比喩の七変化は、難易度の高いピアノ演奏を聴くような緊張感がある。しかも後半に向かって逆にペースがアップしている。このスタミナは驚異的》。『カラスがコケコッコと鳴いたから』(白梅 弥子)には、次のような意見がありました。《言葉の響き、そして流れがとても良かったです。温度の低い文体も、浮き出るような鳴き声の描写も、心に残ります》。『少女は歌う』(トビラ)には、次のような意見がありました。《評価に迷う作品。前半を読んでいるときに誰もが思いつく作品情報の列挙に思えてしまい苦しかったが、後半の巧さは現代的単語と共に立体的である。これは後半だけ読んでみても昇華されない。前半の巧くはない部分があるからこそ際立つものである。ハードルを下げておく手法であり、勇気のある創作である。意識して行ったものなのか分からないが十分な作品》。『高く放り投げたボールは・・・』(空丸ゆらぎ)には、次のような意見がありました。《冒頭三行、むしろ私のせいであって欲しかったかのような。北京で蝶が羽ばたいてもアマゾンの雨には関係がない世界線、どうしようもない関われなさの中にいても諦めとはまた違う視線があって、闘いの姿勢をとっても不要な重さがなくて、よいなと思いました。そのような日常での、猫とのリアル。いいですね》。選考委員一同、大変勉強させていただきました。素晴らしい作品の投稿に感謝いたします。

スタッフ一同

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