文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

●「2019年・年間選考経過(1)」(Staff)

2020-07-24 (金) 02:08 by 文学極道スタッフ

●「2019年・年間選考経過(1)」(Staff)

2019年 年間各賞

 文学極道『2019年間各賞』は2019年に『文学極道詩投稿掲示板』へと投稿された作品のうち月間優良作品・次点佳作に選出された315作品、72名の作者を対象として、委員スタッフによって2020年1月28日から4月1日の期間に選考会を開催し審議の結果、上記ページの通り決定いたしました。
 創造大賞には選考推薦として挙がった『アルフ・O』『鴉』『sibata』『鈴木歯車』各氏の内、最終選考対象となった『アルフ・O』『鴉』各氏について議論が深められ『鴉』氏の受賞が決定いたしました。鴉氏の作品へは、シュルレアリスムやダダの技法を現代的に展開しており作者の力量が見事である、詩作品に発出させている技巧の発展があり歴史を集約した現在を深層から掴んでおり言語とは何かを呈示している、という意見などがあり創造大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《韻の踏み方が印象的でした。前半がよくても後半で「うーん」、最後の1行で「うーん」となることがありました。良いと感じたのは『I love you』、『Contradictory equilibrium』》、《全体的に好みの作品が多い。物質をオブジェクト化しつつ、存在の本質に切りこもうとする鋭い視点と冷徹なまでの客観視を感じる》、《『Good-bye』は個人的にこういう難解な詩は好みなのだが、難解な中にもひとつの方向性が示されていなければならないと考えている。この作品は各フレーズが魅力的なのだが、それぞれが勝手な方を向いてしまって統一感に欠けるのが残念》、《『Artery&Vein』は技巧として正しく真っ直ぐに構成されている。言語芸術とは何かを運動の中から捉え直している》、《ダークファンタジーな詩。性愛や恋の暗い部分がテーマになっているとして見ると胸の苦しさやもどかしさが比喩として見えて来ます》、《抜群に切れのある筆致。要所要所に仕掛けられたレトリックが弾けている》、《『Water』は、読み始めに自分の想像していたものが陳腐だったと終わりに近付くにつれ思わされました。擬人法と物語が加速していて面白いです。「死にたい」という言葉はもう非常に多く使用されていて衝撃があまり無いため、他の言葉で衝撃があると更に良いと思いました》、《技法に忠実であった在り方から、情感を放出させる在り方へと膨らませていっている。作者の突き放しながら芸術を探究していく信念に惹きつけられる。だからこそ作品も輝いている》、《『I love you』は、シュールな絵画を見るような不思議さの中に引き込まれる。短いながら良くまとまっており、最終連の終わり方も見事》、《『The night』は、冒頭からひそやかでかつ高熱に浮かされるような真の絶望の最後に残された、人を生かすのにとても重要な「希望」が凄い筆圧で描かれておりました。大切にしていただきたいと思います》、《『Contradictory equilibrium』は、イメージを視覚化できそうでできない。しかし読んでいる時はそれに気付かず、完全に視覚化できたと思いながら違和感に悩まされるのが逆に面白い》、《爆発的というわけではありませんが、敢えて感情を抑えてシンプルに纏めた文章が上質な味を出しています。世界観がきちんと表れている上、やり過ぎるでもなくとても良いバランスです》、《『Join』は、硬質な言葉の中に深い絶望と怒りと悲しみがある。それが分かるという凄さ》 。
 最優秀抒情詩賞には選考推薦として挙がった『北』『鈴木歯車』『完備』『右左』『該当者なし』各氏の内、最終選考対象となった『北』『鈴木歯車』『完備』『右左』各氏について議論が深められ『北』『鈴木歯車』各氏の受賞並びに『右左』氏の次点が決定いたしました。北氏に関しては、テンポが良く言葉の流れが面白さを孕んでいる、という意見などがあり最優秀抒情詩賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『』は、テーマと慌てている語り手の様子がリフレインによってコミカルに表現されており、面白いです》、《『母参道』は、物心つく前に自分を捨て、今は生きているのかもわからない母親に対する語り手の複雑な思いと、祈りにも似た諦念が心を打つ。おそらくは「参道」と「産道」をかけているのであろうが、生と死の交差する道は人生の道そのものでもあると感じた》、《捨てられてしまったことや自身の体にある記憶を、ひとつひとつ単語選びを丁寧に行い情感を昇華させていく作品として作り上げている。感慨を持って差し出された作品の大きさが、広がりを持って羽ばたいていく。非常に心に残った作品を書いていた》、《お母さんは産んでも産まなくてもお母さんという感じがすればそれはお母さんなのだというような、母性そのものをお母さんと呼ぶために、言葉を尽くされているような捉え方をすると非常に面白い作品を書いている》、《『ロストバイブルウォーク』は、最終的に選評論という風に捉えて読みました。表現としては買い物カゴの部分が面白く、内容も伝わりやすいと思います。詩に「詩の選評」という言葉が出て来ることでに、楽しませる幅が狭まってしまわないかと思いました》、《『ロストバイブルウォーク』の前半はとても面白かったのだが、「詩の選評」といった具体的なワードが出てきたところで失速してしまった。最後まで分かる人にしか分からない口調で読み手を煙に巻いてほしかった》、《『ゴリラ』は、怒りの文章というのは魅力があって、途中に出てくる比喩や脈絡なく出てくる言葉が勢いに乗っていはします。ただし大抵言葉を扱うのに長けている方々が怒ればこのくらいには暴走出来てしまう節はありますから、一息入れて底の底の方から湧き上がるようにと望みます》。鈴木歯車氏に関しては、陰鬱な空気を纏いつつ清涼感を感じる、後味の悪さが光り文中の速度を操っていく在り方が巧い、という意見などがあり最優秀抒情詩賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『田中のバカヤロー』は、テーマにも表現方法にも目を見張るほどの新鮮味はないが、決して無視することができない痛みがあるのも事実。個人的には最初の行をラストに持ってきた方が良かったように思う》、《『藍色ドライ・シロップ』は、 選者の世代だとN.S.Pの歌詞などにある微かな病的さや、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」のラストなんかを想像する。青春は青い春と書くが、この詩においては藍色の冬といったところか。スピッツなどイメージを特定する単語を出してしまったのが残念》、《圧倒的熱のなさ。時代の一つの様態と云えばそうです。悪い意味とは限らず、青臭さ、現代の若者の感性も感じます》、《『喪失』は、寂しさと、もがきが自分に近い位置で発されており上質な詩情を獲得している。最終連が、もっと工夫が必要だったように思う》、《『盲目』は、情景描写が巧みで美しい。個人的に「空間兵器」という言葉が浮いている気がする。また盲目の人に対する認識や描き方も、もう少し深く掘り下げてほしいと感じた》、《『花譜』は、共感を呼ぶ細かい感覚。筆の方向の美しさを評価します。ただし狙い目を詩の中でそのまま言葉にしてしまっている部分があるため、読者を浸らせないところがあります》、《『ぼくのずっと後ろの方で』は、タイトル美しいです。波と風と呼吸をリンクさせているところには技を感じさせますが、効果的に使えていたかというと自信がありません》。鈴木歯車氏に関しては、軽さもあるけれども読みごたえがあり散文とは違う詩文の良さを発揮している、という意見などがあり最優秀抒情詩賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『編み物』は、読み進めるほどに狂気が深まっていくのを感じるのだが、狂っているのは編み物の人なのか語り手なのか。単純明快なようでいて、読み終えるとその判断がつきにくいことに気付く。読むものを不安にさせる点で優れていると感じた》、《『白い棟の群れで』は、読んでいると言葉の美しさが心に染みてくるのを感じる。透明感のある視覚的イメージが迫ってくる。詩という物の力と可能性を証明している傑作である》、《『白い棟の群れ』は文章の構成に視覚的な美しさもあり、後半へと繋がっていく感覚が圧巻である。第一連を、より強度の高い言葉から始めると傑作になるかもしれない》、《言語の揺蕩う結晶化が美として作用している。改行や空白の部位にセンスが光る》、《『戦争が終わるまで』は、視覚的イメージが眩しい作品だが、初連の前半部分に物足りなさを感じた。思い切って「さよなら、」の部分からスタートしても良かったのではないだろうか》、《上手で、基本的に見た感じもスタイリッシュな文章を紡がれる力は備わっています。この詩では全体的にリアリティを引き離す話し方がされていますが、本当にこれだけがこの中で効果的であったかどうかを考えて読みました。整えてあるために勢いが削がれているところもあると思います》。右左氏に関しては、抜群に上手い喪失と共同体に属する表面を抉っている作品に思えた、という意見や、断片的であるため物足りなさがある、などの意見があり最優秀抒情詩賞次点受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『精霊探し』は、物語として芯が通っており詩情も獲得している。最後のゾッとする部位など、描写が確かだからこそ繋がっていくものであり見事な作品である》、《『精霊探し』は、コンセプトと方向性は非常に秀逸だと思う。ただ、それを『ただ具体的に』書いてしまうことは詩的情緒を欠いてしまうように思える》、《『花の眠さ』は、情景が大変美しいです。読み手の想像力が試される作品だと言えばそうですが、ぼんやりしているイメージが良いか良くないかは読者の好みであるでしょうか》、《『カスピ海へ至る道』は、夢をテーマにしたものは内容とその描写で評価が決まる。この作品の場合はカスピ海と言いたいだけではないかという疑問がないわけではないが、的確なイメージ描写によって、語り手が果たしてカスピ海へたどり着けるのか興味が湧いてくる》、《 凄まじい孤独感を表しながらも客観性に満ちていて冷静。イメージを正確に伝え、情感もきちんと整っているため読者が安心して感傷に浸れます》、《『「隊列」』は、不毛と思える状況がシンプル且つ丁寧に、お洒落な映画のシーンのように綴られているところが非常に面白いです。物語は不毛ですがその不毛さに気付くことに希望が残されており、内容も大変濃い》、《夢日記的なものは面白いものとつまらないものの差が激しい。作者は前者の方を書くことが出来、夢独特の不条理劇のような展開に惹きつけられた》、《『銀星とウロコダイル』は、書き間違いの未知の生物という設定か事実かわからずともとにかく興味を惹く内容です。交互も美しく響いています》、《『期待』は、これが同じテーマもしくは世界観の連作の一部などであればまた意味合いが異なって来るとおもいますが、この作品だけの場合は断片的であるため、物足りなさがあります》、《『背中の躍動について』は、文中の熱気に興奮してしまった。自分自身が熱狂することを丹念に、見つめ描き出すことは困難な道のりであるに違いない。それを見事に行い、興奮の坩堝へと誘っていく。これこそ美である》、《『期待』は、これが同じテーマもしくは世界観の連作の一部などであればまた意味合いが異なって来るとおもいますが、この作品だけの場合は断片的であるため、物足りなさがあります》。
 実存大賞には選考推薦として挙がった『いけだうし』『山人』『アンダンテ』『鷹枕可』『霜田明』『コテ』各氏の内、最終選考対象となった『いけだうし。』『山人』『アンダンテ』各氏について議論が深められ『いけだうし』『山人』各氏の受賞並びに『アンダンテ』氏の次点が決定いたしました。いけだうし。氏に関しては、気怠さとリアルがあり今現在とのリンクが仮想空間上で魂と感情を放出していく、という意見などがあり実存大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『昨日の夜の絶望』は、眠れない人のあるある話から始まりますが、ペットの悪口を言い、ペットからいつの間にかそれが彼女になり、最後の落とし方はどうだろうかと思いますが、心情、話の流れなど、目を惹くものがありました》、《男子学生のダサいとも言える哀愁が見事に具現化されており、読んでいて惹きこまれる》、《『文学が襲いかかってくる。』は、いろんなところに文学が潜んでいて発見すると影響を受けそうになる、誘惑に負けそうな自分の弱さまでも一歩手前まで見つめています。感情の言葉に流されて心情の吐露に陥っているような説得力に欠けているところがあります》、《「文学が襲い掛かってくる」いいフレーズだが、文学の暴力というもう少し押しが欲しかった。ただ、「バイトを休むのも文学が襲い掛かってくるからである」というくだりは、非常に人間的であり狂おしいほど好きです》、《『文学に包囲されている。』は、一読して森見登美彦版の「山月記」を連想した。ジャニス・ジョプリンの幻の曲ではないが、生きながら文学に葬られようとしている語り手が書き続けることによって生きていこうと決意する。しかし彼にとってはその決断すらも、どこか気恥ずかしさを伴っているように見える。書くこと、書き続けることの意味について考えさせられる》、《「文学」へ比喩を大きく作用させていくことに成功していると思う。熱量が素晴らしい。粗削りなため「文学」という言葉を別なものに変えても良かったのかもしれないとも思う》、《文学のことばかり考え、何度も何をどう言い表すのかばかり考えてしまうという情景が描かれています。読み手を交錯させるところまで陥れても良かったと感じます。人の目を気にしている語り手の姿が浮かび上がっている箇所があり、必要あるか読んでいて迷いがありましたが、最後の正直さも文学しておりました》、《『文学_僕(仮題)』は、同一のテーマのものを過去に二作読ませて頂きましたが、ここまでで最も熱量の凝縮された言葉の連なりになっており、テンションも維持された作品に仕上がっております。強い言葉に負けない内容の強さがあります》、《『追悼するか?』 は、1人の人物の死が現実なのかゲームの中の出来事なのか、その曖昧さと語り手の醒めた様子が静かな恐怖となって迫ってくる。最後のオチを読んでもなお、謎が宙ぶらりんのままなのが良い》、《『あの夜』は、「つまり、なりふりかまったのだ。」という一文が非常に良いため、このくらいの開示的なものが連続すると凄いことになるのでは無いかという予感がします。最後の一文も率直で良いです》、《『目さえない青』は、作者が述べているように歌詞としての構造を持った詩。「文学擬人化シリーズ」のひとつだが、これまでの作品と比べるとインパクトに欠ける気がする。歌詞としてなら文句ないのだが》、《思春期からの性到達の混濁が上手く描かれてはいる。けれども粗いままであり、その先の感覚を詩として掴む種のままであるように思えた》、《『start line(ユリイカなく、青い夜』は、試行錯誤する筆者の思考と内面が発露するように、面白い日記のように、記されています。これが記録として続くのも面白いのではないかと感じました》。山人氏に関しては、人間のどうしようもなさが寄り添いたくなるように綴られている、という意見などがあり実存大賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『どうしようもない夜に書いた二篇の詩のようなもの』は、途中まで良い作品だと思った。最後の「詩」という言葉が出てくることで、小さくまとまってしまった感がある。勿体ないと思う》、《『どうしようもない夜に書いた二篇の詩のようなもの』は、二篇の関係がちょうどよいです。欲求が静かに立ち現れてくる様子も、よく表現されています。「世界中が空っぽのような夜」という一文は、もう少し深い表現ができれば、と感じました》、《『開拓村』は、きちがいのようになどのインパクトのある言葉をパターン化して出すという技がこの場合詩の質を落とす方に働いてしまっているようで残念です。使い方に依っては面白いものになる筈ですので自然に発せられているともっと素敵です。次の段階へのステップかなという印象です》、《他の作品と同様にノンフィクションとして読んだが、仮にフィクションであってもその価値が損なわれることのない内容である。開拓者の悲惨な物語は数多くあるが、本作においては単なる嘆きに終わらず最終行を選んだ所に作者の年輪を感じた》、《描写が上手く黎美であり臭気に満たされた現実世界が立ち上がってくる。眼前にあるかのようだ》、《詩情は表面的に装飾された言葉ではなく、リアルによって立ち上がる。そのことを緻密な筆致で描き出していると思う》、《『朝、ホオジロは鳴いていた』は、「発狂」という単語をこれだけ連呼すれば普通は安っぽい作品になってしまうのだが、この詩においては「父」の飲酒行為とそれに前後する心の動きを圧倒的な迫力でむしろ必要な配列だと納得してしまう。「リノニュームから逃れたところに田園はある」等、作者の技巧的な成長を感じさせられた。このレベルを継続していけるのか注目していきたい》、《春の狂乱。凄まじい命の勢いを感じること。移り変わる不安定さや痛みを実感出来るよう、分かり易く描くことに成功しています》、《『発信』は、読み手を世界に連れて行く強さが実質もっとある方かと思いますがこの詩のときはその引力が働いていないようです》、《詩的な言葉選びに力を入れすぎたのか、文章全体の印象が散漫になっているようです》、《『僕の少年』は、これまでとは違った語り口と、その完成度の高さに驚かされた。語り手が少年時代に受けた深い傷の痛みは、誰もがその多感な時期に感じるものではないだろうか。死んでしまった少年の、長い時間をかけた再生の物語》、《涙が出るほどの良さがあった。自分自身の中にある過去との対峙を、確かな描出と共に行っていく。一歩、先へ進んだ作者の世界がある》、《詩的にすることと、意味が明らかにならないこと、この基本的な関係の問題について考えさせられます。この場合意味を明らかにせず謎めいた文章にすることの度合いが若干強めになり過ぎた感もあります》、《『』は、単純かつ辛い作業の過程で人間性を剥ぎ取られていく描写が印象に残る》、《圧巻の綴りであり文章の一つひとつから汗が零れ落ちているようだ》、《『ガラケー』は、枯れていく人間としての自分と宇宙との対比が効いている。取り残されていくガラケーと、死を身近に思わせていく時間の流れを描き切っている》、《『ガラケー』酔って布団の中に潜り込んで雨の音を聞いている語り手。自らの老いを自覚しながら、布団の中でガラケーの画面をチェックする。もの悲しさだけでなくなんとも言えない抒情を感じる詩》、《『工場』は、冒頭の雨の描写が素晴らしく面白いのですが、その後の重々しさは凡庸になってしまったかと思います》、《『清水のあるところ』は、フキの葉を器に清水を飲むシーンなど、描写が実に巧みで温度や匂いや味がそのまま伝わってくる。優れた散文詩だが、最後に物足りなさを感じた》、《重厚感があり、生活の泥くさい部分を美しさへ焦点化していく。最後の収まりを意識し過ぎた部分が、急に思える》、《『清水のあるところ』は、描写が泥臭さがあり、とても上手い。初連と最終連の差は、作者も気付いていると思うが再考が必要だと思う》、《『』》は、雨の日の独特な雰囲気を上手く表現している。ただ、この作品も「雨」を使いすぎている。「何一つ語ることなく、地面に降り注ぎ」「私を按じていた/私が私を痛めつけることを見ていた」「私の心も濡らし/あらゆる臓腑にまで降り注いだ」「雨とカエルは同化していた/湿度を感じたカエルは鳴き」「濡れた半開きの目をしたカエル」等々、「雨」を8割くらい削るとさらに良くなると思う》、《生活の中を見つめ続け、比喩化していく手腕は見事である。ただし「雨の点滴」などやカエルの凡庸さは、再考しても良いように思える》、《雨のやさしさとカエルの煌めくような描写によって語り手の洗われたばかりのような美しい心が、悲しみと孤独を存分に見つめたからこそ輝く様な気持ちが適切に綴られており、言い過ぎるわけでもなく足りないわけでもなく、それによって最大限に魅力的な詩になるバランスでした》。アンダンテ氏に関しては、言語の強度が光る。脱臼させながらの硬質な瞬きが心地よい、という意見や、興味を惹かれる構成であり読みごたえもあるがあと一歩が足りない、などの意見があり実存大賞次点決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『Somethin’Else  〜半日(前編)〜』は、情報量の多さをザッピングしていく面白さがある》、《『ソフトロマンス  PART−1』は、失速していってしまっており、出だしが最も良かったため、最初のテンションで書ききっているところを見たかったです》、《『Somethin’Else』は、イマジネーションを明確かつ強烈にするために、時系列がバラバラになっていることが効果的でなかった気がします》、《『mother of all scale』は、フォルムが美しく、分かりやすい導入から新しい構築世界へと連れて行くことに成功している。何篇か書いていく中で、形態を極めそうな予感に満ちている》、《短詩の中でも異彩な魅力がある。無駄が一切ない》、《『mother of all scale』は、こうすると、どうしても音楽のことが頭に浮かんでしまい、越えられない何かがそこにあるような気持ちがしてきますが、越えられないことはない、まずそのアイデアを試そうとする姿勢が大切なのだとも感じました》、《短詩の中では一きわ、目を引く作品である。小さな裏切りが、たくさんある》。《『冬空の窓の下』は、難解さと新しさの中に分かりやすさを入れ込んでいくことで面白い作品となっている。平仮名の部位を、上手く行間へと落とし込んだことで成功したように思える》、《一作品ずつだけでは本当の評価は出来ないかも知れないが、新たな表現を貪欲に追求する姿勢には頭が下がる》。
 新人賞には選考推薦として挙がった『黒羽 黎斗』『水漏綾』『帆場蔵人』『該当者なし』各氏の内、最終選考対象となった『黒羽 黎斗』『水漏綾』『帆場蔵人』各氏について議論が深められ『黒羽 黎斗』『水漏綾』各氏の受賞が決定いたしました。黒羽 黎斗氏に関しては、現時点から言語に磨きや飛躍や比喩の上手さを獲得しているため今後が楽しみである、という意見などがあり新人賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『幻を信じよう』は、 詩人でなくても伝わる言葉で詩的解釈が必要な表現もあり、世界観にも統一感があって読み易い仕上がりになっておりました。リフレインのパターンが変わるところも飽きが来ないように上手く運んでいると思います》、《『ナイフ一振』は、熱さが際立っている。思春期特有の鬱屈や怒りを表現できている。脱字が気になったことと「ナイフ」という比喩から更に一歩踏み出して欲しかった思いもある》、《『ナイフ一振』は、全体に鋭さがきちんと備わっており、タイトルとの関係も短絡的でなく、内容と表現の両方で繋げることができています。後半になるほどテンションが乗って来ているのを感じますので、最初から行けると更に衝撃的》、《『同じ窓の下で』は、言葉の一つ一つに力強さがあり、ぐいぐいと読まされる。若者特有の悲しみが眩しい。ラストの2行によるまとめ方は危なげがなく、作者の着実な進歩を感じる》、《物凄いパワーに漲っている。作品の成長速度と共に思春期独特の形象が見え隠れしている》、《悲しい感情をストレートに呼び起こされる強さがあります。感情移入を誘う書き方が身に付いています》、《『前から二番目、窓から二番目』は、まとまりで言うと普段よりバラけた感があります。韻が踏んであり造りが工夫してあるところは評価できるところです。一つ一つの単語やセンテンスの強さに衰えはありません。》、《『前から二番目、窓から二番目』は、若々しい筆致は読んでいて楽しい。単語の再構築も無理がなく新鮮だと感じた。ただ「勘違いを〜」の第5連だけ流れが淀んでしまったのが残念》、《『』は、後半に語られるスタイルを冒頭から説明ではなく言葉の紡ぎ方で表現してみせること、これが意識的であっても無意識であってもかなり一つのことに集中して考えなければ出来ない表現なのではないかと感じました。詩の在り方としても新しい道が示唆されるような作品です》、《詩の中で、詩という言葉を出して傑作にしていくことはメタ的な視点を付けなければ難しいと思う。それを除けば、傑作に近いものがある》、《この作品も「詩」という言葉を使った時点で、その重量にきしむ音が聞こえてしまっている。表現そのものは力強く自信に満ちているという印象》、《一行詩は非常に難しい領域である。これまでの芸術領域を更に認識する必要がある》、《『(無題)』は、短くして意味とイメージを持たせるということが出来ています。物足りなさがありますので、これの連続によってわからない人にも伝えられるエネルギーがあると思います》、《『乱反射していた。』は、「5秒前」のフレーズが残るため、繰り返す際には差異が必要だったようにも思える。丹念に粗さを抱えながら練られた言葉が躍動している》、《『眩まない』は、一連目の出来が一番よく、二連以降パワーダウンしている印象を受けざるを得ない。二連目から始めて、最後に一連目を持ってくると解消されるように思った》、《ひとつひとつの言葉がとても力強く若さに満ちている。ただ、それぞれの連のつながりが甘くて全体のバランスを崩している印象がある。もう少し結合部を強化して物語として完成させてほしい》、《『』は、熱量が伝わってくる作品だ。初連が一番、良く熱も漲っているため他の連も引き上げる必要がある。連毎の行数なども考えながら推敲していくと、もっと良い作品になる》。水漏綾氏に関しては、言葉の威力が一つひとつ重く衝撃を受ける技術もある、という意見などがあり新人賞受賞決定となりました。選考委員からは次のような意見が挙げられました。《『』は、テーマを明確にして、長すぎず簡潔に表現できているのが良かったです。私と花という関係性がありながら、目指すものが孤独であるという点も面白かったです》、《『花』は、無駄がなく美しい言葉選びによって、語り手と一緒に心地よい空間にいる気持ちになれる。ただ出だしが良かった分だけ後半がやや失速しているように感じる。最終連は最初の4行だけにするか、最後の4行を残すなら表現にもう少し工夫がほしい》、《与える印象よりもっと自分勝手に書いてみると面白い書き手ではないでしょうか。思い方や感性に光るものを感じます》、《生活の中の命を浮き上がらせる静謐な筆致。連の切り替わりがページをめくるよう》、《分かりやすい表現の中で、ちょっとした捻りを加えて行っている。作品として上へと向上している》、《前半が詩のようで、後半がその設定を使った理論のようになっている為、読者がいるようでいない印象》、《『自転車』は、第二連で自転車そのものとしての存在、三連ではそれを漕ぐ人への視点の切り替わりが素晴らしい。爽やかで、それでいて微かな疲労と悲しみに満ちた愛のヴィジョンだと感じた》、《『自転車』は、最初は「上手く書けているな」くらいだったのが「じごくの道」からハッとさせられて、そのまま最終連で投げ技をくらい地面に叩きつけられる感覚。谷山浩子的な狂気を含んだ愛を感じる》、《『環礁』は、ずれて落ちたコンタクトレンズから、連が進むにつれて変化していく視覚をメインとしたイメージが心地よい。イソギンチャクとクマノミの共生関係へ持って行く流れも自然。さらに「日常を喜とした痛み」というフレーズには、目からコンタクトレンズではなく鱗が落ちる思いがした》、《『キッチン』は、キッチンという本来なら「優しい母親」や「平和な家庭」といったイメージを持つ場が、少し視点をずらすことで不吉で恐ろしい所になる。幸福というものの危うさや日常が不意に壊れてしまうことへの不安を、作者は「リンゴのジャム」というものの表現方法を変えることで読み手に突き付ける。その手法は見事と言うほかない》、《『キッチン』は、キッチンの片隅で腐らせてしまった林檎と、キッチンの対比が非常に美しい。筆者の書きなれたテクニックが映えている。詩の教科書というものがあるのなら、こういう詩篇を一篇載せたい》、《印象はとても強く、パワーのある言葉が使われており、これまで評価される詩のスタイルも取れていると感じますが、もっとオリジナリティを出せる気がします》、『春でした』は、春という季節の密やかな感じを上手く書き上げている。ただ初連と「飢えて咳き込む春」という見事な終わり方を考えると、間に入る第2連に若干のもたつきを感じた》、《写真などが添えられているところを想像した方印象が強くなります。言葉だけでの力はもう一つ欲しいです》、《『秘密』は、「みたいな」などが作品を削いでいるように思える。小品として、もっと先へと進めたように思える》、《『さみしさ』は、爪が身体から物体へと変貌していくことから、実在と感情への思いを接触させていく。短いながらも良質な作品》、《『萌蘖』は、夜、眠るというだけでなく、眠った後の夜の間に起こる記憶の整理を現象として萌蘖と名付けることでイマジネーションを大幅に増幅させることに成功しています。短い言葉にたくさんの意味を詰め込み、且つ美しい印象に纏めるという難しいことを成していると思います》。


(後半は8月以降に公開予定です)

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●「2020年6月分月間優良作品・次点佳作」

2020-07-23 (木) 03:12 by 文学極道スタッフ

2020年6月分月間優良作品・次点佳作発表になりました。

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