#目次

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2018年01月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


懲らしめてやりなさい。

  田中宏輔



ボーナス制度とは搾取ではないか。
封建制度の名残である。
賞与は褒美として渡される。
縛りつけるつもりなのだ。
(ボーナス入るまで、やめないでねって。)
給与だけなら12回の手数料。
賞与があれば、その分の手数料を、よけいに銀行が儲ける。
きっと、銀行もぐるなのだ。
それだけじゃない。
平日でも、時間が遅ければ
自分のお金をおろすのに手数料を取られる。
そんなおかしい話はない。
フランス人の先生も、オカシイワ、って言ってた。
バルス。
あっけない結末。
いつか、みんな、同じ罰を受ける。
街路樹の陰に入って
密語をつぶやく。
石も四角くなりにけるかも。
かもね。
また、付き合ってた子にふられちゃったよ。
こないだ付き合ったばかりなのにね。
そうして、ふられるたびに、ぼくは思い出す。
ぼくが、いちばん幸せだったときのこと。
Nobuyuki。ハミガキ。紙飛行機。
round and round and round and round.
ランボーが、なぜ、詩をすてたのか
ぼくには、わからないけど
おとついのこと、マクドナルドで
チーズバーガー、ひとつだけ、って言ったら
これだけか、って店員に言われた。
これだけでよろしいですか
とでも、言うつもりだったんだろうね。
ぼくたち、ふたり、顔を見合わせて
聞こえなかったふり、言わなかったふりしてた。
母親の血液型と胎児の血液型が違ってるのに
どうして、胎児が生きてるのか
これまた、あれまた、ぼくには、わからない。
むかし、本で読んだけど、忘れてしまった。
世界は、ただ一枚の絵だけ残して滅んだという。
だと、いいね。
ほんとにね。


朝に

  岡田直樹

朝がくるたびに
朝焼けを美しいと
きみは思う
けれど
ほんとうは
世界にだれひとり
存在しなかった
としても
美しいものは
とわに美しい

春めいた花咲く木陰で
くる日もくる日も
きみは
あたらしい朝と出会う
黄色い朝
緑の朝
鈍色の朝と
銀の朝
真実の
黄金の朝

目覚ましを止め
時間を確認し
ため息をつき
服を着替え、
靴を履いて
『行って来ます』
までの
数分間

いまという瞬間が
失った昨日より大切
ということは
決してない
のに
月収100万ドルの大富豪も
祖国を預かる最前線の兵士も
おなじ真剣さで
おなじ一秒を追う

もう一秒早ければ
この一秒がカウント
されなかったら
そうするうちに
たちまち
埋めにくる
つぎの一秒

(ホラ、七時半だ
(バスは行ったぞ
(間に合った、そら、門まで走れ

かくて
太陽はあがって
のんびりした
気持ちのいい
早春の
午前七時
きらく庵の
プランターの
目覚めたての
クロッカスが
幸せそうに
風に揺れています


5才の満月

  植草四郎

少年は満月の夢を見た

朝起きると布団が満月に濡れていた


野菜を食べる

  游凪

叔父からビニール袋いっぱいのミニトマトを貰ったのは蝉の声のしない夏。世田谷の安アパートでクーラーは唯一の贅沢品であった。随分と酷使して壊れてしまったので、リサイクルショップで買った扇風機を恋人のようにして過ごした。今年は例年にない猛暑だと毎年、気象予報士は言っているような気がする。畳にへばりつく肌はじっとりと湿っている。くたびれたTシャツをめくりあげて風を通す。首と腕からぬるく抜けていく。安い固形石鹸とい草と汗が混じった匂いがする。青紫色の朝顔の咲いた鉢植えを置いた、開け放った窓から太陽がこちらを凝視していた。深い疲労感に漂って、だらりと横たわったまま感じる熱。空は今日も青かった。

久々に空腹を感じたので起き上がると、時計の針が正午をさしていた。朝から何も食べていない。そういえば、昨日もろくに食べた記憶がない。小さな冷蔵庫からひとつかみのミニトマトを取り出す。ザルにあけて、銀色に鈍く光るシンクに置く。固く閉めた蛇口をひねる。生温い水が滴り、次第に冷たい水が勢いよく流れ出す。跳ねる飛沫が反射して赤くみえる。ザバザバと洗うと、実のしまったミニトマトが輝く。一瞬、触れていることに戸惑う。が、すぐに思い直して洗い続けた。
ザルを振って、よく水を切る。濡れた赤い果実はやはり輝いてみえた。その中でも大きくて形の良いものを選んで摘み、口へと運ぶ。歯を立てると破れた皮から果汁が飛び出して、Tシャツを汚した。噛みきるのをやめて、一粒ずつ丸々頬張る。少し青臭い甘みと酸味が口いっぱいに広がる。やはり塩はいらないと思う。トマトなら欲しくなるのに、ミニトマトは素のままでいい。口内ではパンパンに張った皮から厚い果肉の解放が繰り返される。その感触が楽しい。今までは弁当箱の飾りでしかなかったのに、夢中になって食べていた。
やがてザルは空っぽになった。シンクの台に転がる緑のヘタは青虫みたいだった。ゆで卵が食べたいとふと思ったが、面倒くさいのでやめた。片付けもしないで、乱暴に畳へ転がる。まだ身体は重かった。けれど空腹とは別のなにかが、僅かに満たされていた。
それから雨漏りの染みのついた天井を眺めた。黒い染みはアメーバのように蠢く。色々な動物になぞらえては変形させた。眺め飽きたはずの光景で時間はいくらでも潰せた。

午後四時をまわった頃、むくりと起き上がった。叔父から何度も促されていたので、病院に行くことにした。用意してくれた菓子折りを持って、脳神経外科へと最後の御礼の挨拶に行かねばならない。それからとりあえず耳鼻科に。いや、精神科かもしれない。まあ、菓子折りを渡せれば、後はどうでもいいことだ。ついでに読み飽きた文庫本を持って行くことにした。
ドアを開けると、ムッと土臭い向日葵の匂いがした。素足にサンダルをひっかける。汗でぬめり、少しよろける。まだ蝉の声はしない。


在ることの領域

  霜田明

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  愛は与えることにはなくて
  受け取ることにしかなかった

ほんとうはその向こう側をみていた
明日のことや来年のこと

明日という扉をぬけられれば
永遠になれるとさえ思っていた

    「ふたり」になるためには
    その関係を脱け出して
    俯瞰することが必要になる

    その脱け出しの架空性だけ
    「ふたり」であることは架空である

僕がしようとすることと
実現出来ることの間には薄い皮膚がある

それが僕にとっての不安だった
世界はすぐそばにあったのに
ほとんど不可能なことが世界を遠く感じさせた

  愛は与えることにはなくて
  受け取ることにしかなかった

    愛は振る舞えないことの場だ
    何もできないことの領域だ

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  僕が僕の可能性を信じることを
  信じて振る舞うことの領域を
  寂しさの領域と呼ぶことにした

  僕が僕の不可能性を信じることを
  信じて受け入れることの領域を
  優しさの領域と呼ぶことにした

  僕はそのふたつの領域にまたがっている
  寂しくなったり優しくなったりする
  その振幅の
  暮らしのなかで
  
    寂しさの領域にも
    優しさの領域にも
    対象喪失は存在する

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  主体は世界と共に在る
  主体が切り離されているのは
  世界からではなく万能性からだ

    在るということは不可能だった
    でも在ることが可能にかわるという
    向こう側の領域において
    僕らは在ることができるようになった

    それは優しさにも
    寂しさにも触れられない
    在るということ自体の領域

    ぼくらは在ることが許されている
    振る舞うことが禁じられている

     (向こう側を信じることが
      存在することの陰だった)

    与えることも
    受け取ることも
    諦めたときに
    在るということがわかる

        その本質は
        きっと「死」なんだ

      愛は与えることにはなくて
      受け取ることにしかなかった

  ほんとうはその向こう側をみていた
  明日のことや来年のこと

  明日という扉をぬけられれば
  永遠になれると信じていた

さよならを言う前に
ぼくらはいなくなってしまうんだね

  僕はそのふたつの領域にまたがっている
  寂しくなったり優しくなったりする
  その振幅の
  暮らしのなかで


横木さんの本を読んで、やさしい気持ちになった。

  田中宏輔



去年の秋のことだ。
老婆がひとり、道の上を這っていた。
身体の具合が悪くて、倒れでもしたのかと思って
ぼくは、仕事帰りの疲れた足を急がせて駆け寄った。
老婆は、自分の家の前に散らばった落ち葉を拾い集めていた。
一枚、一枚、大切そうに、それは、大切そうに
掌の中に、拾った葉っぱを仕舞いながら。
とても静かな、その落ち着いた様子を目にすると、
ぼくは黙って、通り過ぎて行くことしかできなかった。
通り過ぎて行きながら、ぼくは考えていた。
いま、あの老婆の家には、だれもいないのか、
だれかいても、あの老婆のことに気がつかないのか、
気づいていても、ほっぽらかしているのか、と。
振り返っても、そこには、老婆の姿が、やっぱりあって、
何だか、ぼくは、とっても、さびしい気がした。
その後、一度も、出会わないのだけれど
その老婆のことは、ときどき思い出していた。
そして、きのう、横木さんの本を読んで思い出した。
まだ、濡れているのだろうか、ぼくの言葉は。
さあ、おいでよ。
降ると雨になる、ぼくの庭に。
そうさ、はやく、おいでよ、筆禍の雨の庭に。
ぼくは、ブランコをこいで待っているよ。
あれは、きみが落とした手紙なんだろ。
けさ、学校で、授業中に帽子をかぶっている生徒がいた。
5、6回、脱ぐように注意したら、
その子から、「おかま」って言われた。
そういえば、何年か前にも、「妃」という同人誌で、
「あれはおかまをほる男だからな」って書かれたことがある。
ほんとうのことだけど、ほんとうのことだからって
がまんできることではない。
芳賀書店から出てる、原民喜全集を読むと、
やたらと、「吻とした」って言葉が出てくる。
たぶん、よく「吻とした」ひとなのだろう。
民喜はベッドのことをベットと書く。
ぼくも、話すときに、ベットと発音することがある。
ぼくは棘皮(きょくひ)を逆さにまとった針鼠だ。
動くたびに、自分の肉を、傷つけてゆく。
さあ、おいでよ、ぼくの庭に。
降ると雨になる、筆禍の雨の庭に。
ぼくは、ブランコをこいで待っているよ。
きみが落とした手紙を、ぼくが拾ってあげたから。
ウルトラQの『ペギラの逆襲』を、ヴィデオで見た。
現在の世界人口は26億だと言っていた。
およそ30年前。
ケムール人が出てくる『2020年の挑戦』を見てたら、
ときどきセリフが途切れた。
俳優たちが、マッド・サイエンティストのことを
何とか博士って呼んでたんだけど、
たぶん、キチガイ博士って言ってたんだろう。
さあ、おいでよ、ぼくの庭に。
降ると雨になる、筆禍の雨の庭に。
きょうは、何して遊ぶ?
縄跳び、跳び箱、滑り台?
後ろは正面、何にもない。
ほら、ちゃんと、前を向いて、
帽子をかぶってごらん。
雨に沈めてあげる。


マジックミラー号とわたし

  芦野 夕狩

男性は吃音で
掌の上で転がされた睾丸が
えぐえぐとどもっている
あけ放たれた空間と私
みらいの中で
花という花が死んでいる
美しいひとたちが
美しい装いで
白鳥の湖を踊りながら
軽やかに通り過ぎていく
粘膜が 
通り過ぎていく

マジックミラー号なので
星空がよく見えるよ
お母さん
宇宙は
ほしほしの粘膜なのよ
と言っていましたね
今ならなんとなく
その意味が分かるような気がします
男性の宇宙が
吃音でえぐえぐと
どもりはじめて
夜が明け
青汁みたいに
絞られていく

ほら
こんなにも陳列されていますよ
という具合に
私たちは愛を囁く
男性の脇の下から
ファブリーズの香りがして
その殺菌能力を疑う
輪廻転生を疑う
下半身の異文化交流を疑う
けれどマジックミラー号なので
すべては白日の下に晒されており
きつね色にこんがり焼かれた
わたしたちの身体は
宇宙を疑っている
みらいを疑っている 

エルニーニョ現象で死んだ祖母が
金色に光りながら
世界を染め果てようとしている
野菜を切っていた途中で
金色になってしまったから
切りかけのキャベツが
しなびているんだ
敗走する
わたしたちの太陽は
誰にもこびへつらわないところで輝き
束の間
ほしほしの粘膜を果てしなく薄くしていく
きれいだった人
きれいじゃなかった人
どちらでもなかった人

敗走する
わたしたちは
わたしたち史上最弱で
どこにも移ろわなかった魂のように
いま男性の陰茎から精液が漏れ出でる


瞼の彩り

  kaz.

透かし模様の中の国には蝉の羽の
ように曖昧な国境線が引かれてい
て心が折れそうになる
だから、というわけじゃないけど
句読点を追いかけるようにアシン
メトリーに達するψが
不思議でならなかった、ならなか
ったということから逃れられなか
ったアサシンクリードに塗られた
塗布剤すなわちクリームをパンに

 悪意が増幅する度に改行を回収する
 そのせいで人は次々に張られた伏線
 に気づけないまま時を過ごすだろう

透かし模様の中の人はクリトリス
にバターを塗ってちょうどなめて
いるところだった、露悪的な露光
に芽という芽をあるいは眼という
眼を摘み取られていくのがはっき
りと感じ取れた
饒舌の海から国語の教科書の中の
黒歴史までみんなクロレッツする
ようにかの人は言った――それは
人々の生活の粛清を意味し舟を編
む私の孤独の中にささやかな熱情
を感じ、取ることができた

 「意志とは感じるものではない、そこ
 にあるものなのだ」と誰かが言って、
 すぐ近くにあったコップを投げ付けた

さっきからずっと殺気と一緒にいるさつきが言ったのだった。ARポッキー、透明なミルクティーを買っての薬局からの帰り道、『俺俺』の主人公のようにいくつも分裂しながらどこまでも歩いていったのだった、精神が聴く、「身体が冷えると……身体全体がだるくなったり……そうなる前に……オススメなのが……ツムラの養命酒……第2類医薬品です」宣伝に躍起になっているのが如実に感じ取れた。やがては詩の時代は終わり、氷河期を迎える、そのときまでに人類の海底移住計画を立てておかなくてはならない

  こうして世の中にはずっと
  物語がある

帰り道、ホシの名前を考える。ア
ルムンティがいいか、アーミタイ
ルがいいか、アビゲイルがいいか、
クンバカがいいか、ザラストヴァ
シュターサナがいいか、ミゲル君
はずっと考えている、考えるとい
うことは衰えるということだ、衰
えるということは哀れむというこ
とだ、否浮かび上がるミサの光景、
だから名前はミサ、ミサギ、ミサ
キ、イサギ、アマカケル、テラス、
メテオ、否、テオ、否、否、否、

星の名前は、結局定まらなかった、定まらないまま宙ぶらりんになった、烏座の黒い模様が透けて見えた、レビアタン座の羽が目に引っかかった、静かな夜が訪れるのがわかった、ザ・ガードを飲んだ、胃腸が安定してきた、そこで閉じた、瞼を


シーサイドライン

  山人

海の見える山に行きたいと思った
また、冬に身を投じ、雪まみれにならなければならない
その前に、できるだけ平坦で、広大な場所に行きたかった
もともと、すべての生き物は海からはじまった


コンビニで食料を買い、シーサイドラインに入った
やはり、水平線はごくわずかに曲がり、この星が球体であるという事を示してくれている
清流の涼やかな流れではなく、わずかに濁った冬の海は言葉が見つからないほど巨大だ
波はうねうねと遠くまで続き、細かく刻まれた岩礁が奇怪な形をしている

登山道は参道の延長から入り、標高六〇〇余りの信仰の山へと向かう山道が続いている
行きかう人たちの挨拶が鬱陶しくもありながら、その言葉が身に染みる
老若男女が自由に山頂を目指し、下山していた

大量の汗に山頂の風は冷たく、枯れたススキがなびいている
山頂にも鳥居が設けられ、そこでにこやかに参拝する若いカップルが居た
背中に汗がへばりつき、その不快さを合掌することで和らげようと銀硬貨を投げ入れる
食べるでもなく、飲むでもなく、もう一つ向こう側の峰まで歩きだす

山とはいっても、無雪期は山頂近くまでスカイラインが通り、たくさんの往来があったのだろう
今は通行止めとなり、冬枯れの曇り空と、治癒の希望がない、暗澹たる病巣のような日本海が広がっている
離れた峰まで行く人は稀で、歩くのを楽しむというより
そこに至らなければならないとする義務感のような意思を感じる
峰の中央に、大きな木製の道標がたてられ、その文字は消えかかっていた

登山口に戻ると、再び人のうねりがあった
参道に沿って歩くと、本殿があり、多くの家族・高齢者などが目を閉じ、合掌している
賽銭箱のやや横で、一心不乱に手を合わせ、何かを祈願しているのだろうか、老人はじっと動かずに立っていた

神はきっといるのだろう
大勢の信仰登山者に遭い、挨拶を交わし、神に祈った
しかし、もうそんなに、良いことは無いのかもしれない

車を走らせ、菓子を放り込む
舌にころがる甘さが、瞼の隙間にしみてくる
もう一度、シーサイドラインに立ち寄り、海を見たいと思った


(無題)

  植草四郎

「穴る息子」

生まれたばかりの息子が
オムツのなかに
サカナばかりひって
しょうがありませぬ

大きくなるにつれ
カエルはひるわ
トカゲはひるわ
ニワトリはひるわ

しまいにゃ
ニンゲンまでひる始末
その純白のオムツに包まれた
ムスメさんと結婚するんだと!?

息子よ
父さんは君が嫌いです
神さまはやめて人間として生きなさい
ちゃんとウンコをひりなさい


国道4号線

  游凪

斜視の幻影が捉えた
喪失した空の色
指枠の中で飛行機が墜落する
少年よ、発火せよ
瞬く間に蒼白い炎が上がり
視界が光で塞がれる
滾る心臓に支配されている

凍てつく日々がトラックの振動で罅割れる
排気ガスに紛れ込む、
薄汚れた野良犬と肥厚した爪の饐えた匂い
一本の肋骨が遺失物として届けられた
欠けたまま徘徊を続ける浮浪者
重ねたダンボールの温みが人肌であった

ゆで卵の殻を剥くと父の顔が覗いた
温かな尿道バルーンを垂らして
静かに鼓動を止めた安寧のとき
清潔に保たれたシーツの染み
空蝉が病院の壁に飾られる
早朝のリノリウムに乾いた音を滑らせる

生きている痕跡を消していく真白な清掃員
名前の書かれたゴミ袋を収集していく
異物混入、分別シテオラズ回収デキマセン
路肩に残る生活の残渣
駆け抜けるタクシーのテールランプ

名も無き花と踵の下で潰された明日
循環する思想、旋回する夢想
雑踏の孤独死が轢かれて軋み上げる声
かき消す子供の嬌声
飛行船が太陽を積んでゆっくりと飛ぶ
それが見えなくなる瞬間を知らない


ありふれた音声

  goat

……


【wieder】
水色の色鉛筆が机から落ちる
直前まで描かれていた絵の中に戦争が広がる
無数の死と痛みのない熱の中で
あおいひかりのなかの
少女をみつめる


【1】
それは夕陽であったか、テクスチャのうすい眼差し
ある、という現象のないその他、祈り
厳密に定められた、あなたにすり替えられた数字の
舌打ちと喜びと消費されていく時間/箱
量産された神話
として打ち付けられた楔と
膨大な虫取りの姫
打ち込まれる弾幕に陽違いとルビをふる


【2】
常に戦い続けることが
歌うことであると説く
そのこころに滑り込むチャプター
えぐり出された心臓に
ほら沢山のてつがくが
花束になってかれていくよ
かれていく時間もないほどの
よるとあけられたとびらに
発火するような絹糸と人影
紛れた裂くようないのりは
アバターに発疹する
舌のような詩語


【3】
新たな武器をひき
また血の色を脱色し
あなたはあなたたちは
水色の鉛筆でえがかれた
例えば宇宙の
例えば深海の
その例えは境界線上の
汚れ/していくポエムマシン
たくさんの星屑が沈殿していく
気がするのは熱と風と
音とおと遠とでした


【4】
悪魔が集合していく
あくまでもあくまで
その概念が
正義として
あくまでも破壊されていく
それは戦争ですか
きっと
無数の個人情報に散華する
定型の呪詛のようだ
回すものと回さぬものと
たけやぶやけた たぶらかされた
深夜に灯り続ける雪のさき
爆撃のおとを、ゆるくたばねる
無傷に傷つけられていく呪われた「ぶ」分
結晶化して六淫の蛇を従えた
私たちのダイスが贈与した頂礼


【5】
季節の恋人よ
あなたは
恋物語に恋する女性でしたか
あなたは
亡びた国を背に負う隻腕の剣士
あなたは
たくさんのブックマークを
死斑のように浮かべて
窓という窓に
つもれよ、ゆき
とおく耀く陽違いの亡霊と
たわむれる 
ふりおろされた きっさきにふれる
刻印のように解放された きとう
それは(墓の添書きの添削
戦争と自由と
はきちがえられた
あかい、靴
くるくるとまわり


【6】
雑踏に
どこか戦争をこびりつかせた
にこやかなテクスチャと弾薬の雀斑
肌触りはすこしいびつで
やさしくただいまを吸う
筆箱に封じられた水色の鉛筆が
ちびていくのを忘れたふりをして
切り取られた空は
まるで空のようでした
剃毛された性器を撫で上げるように
ふたたびガラスの窓をなぞりあげ
たくさんの雪がふる
輸精管を妖精が這い上がるような
語彙に埋められて
わたしたちの足跡は
朽ちたバルコニーに吹かれた奏楽
見慣れた小鳥が飛びたって/ゆき
ふりつづけるかぎり
やまないことを
しりながら
忘れたふりをする


【re:rollen】
少女の輪郭を描く
とてもか細く頼りない線は
きちんと削られた円錐
その先端がしめす
未来というものがもしあるのならば

殺戮、死、怨嗟、友情、愛、再誕、傲岸、
便利な言葉だ
水色の色鉛筆が書き始める空の色は
ふたたび 投げ棄てられた

悪徳、憐憫、阿諛、懶惰、有情、無情、
便利な言葉だ
くんと一声あげて死ぬ
位相に噛み千切られた 空があることを
忘れた顔色の



【robocopy】
C:\Users\いのりさえ D:\BackupData\いのりなど /mir /R:1 /W:0 /LOG:robocopy.log /NP /TEE /XD "INetCache" /XD "Temporary Internet Files" /XD "%temp%" /XF "*.tmp" /XJD


沈黙のための音楽

  

空は薄墨で塗り込められて
天使たちは地上へ降りられない
心ない言葉を投げつけられた魚が
砂浜に打ち上げられている
大切な誰かと歩いていたはずなのに
気がつけば足跡だけが残っていた

●何もかもが嘘ばかり
●きっと
●波の音だけが真実だ

言葉を話す小鳥を探している
遠い昔に
籠から逃げてしまった
そのままにしておけば
世界の寿命も延びるのに
人は愚かだ
しかし
だからこそ愛おしいのだ
そう囁く声を
確かに聞いた

●愛するということを
●愛される前に
●学ぶ術はないのだろうか

光の降る草原を
灰色の犬が走っている
彼は狼を追っているのだ
遠い昔に
その役割のためだけに
人が創った種族
でも
狼はもういない
そして
走り続ける彼は
寂しさを知らない

●目覚まし時計の音が
●ニュースキャスターの声が
●車のクラクションが
●地下鉄のブレーキ音が
●光の渦となって
●聖堂に満ちあふれている


ベーコンの匂いの中で
牛乳瓶に挿された百合が
決して解けない数式を受胎した


月蝕より

  伊藤透雪

錆びた月光が差し込む夜
利き目にはモノクロームのネガ
反対の目に赤銅色が映りこんでる
窓辺で蝕の暗い赤が凍みる
シーツはあなたの匂いでいっぱい
さっきまで
当たり前の冬が柔らかく含まれ溶けていた
私はあなたを焼き付け続け何枚も記録した
今夜は脳裏をウィスキーが埋めてゆき
やがてひとりの時間に冷めていく
やけに虚しい
、、

ざわざわ這い上がり首筋から
締め上げてくる熱が額に集まっている
薄暗がりにあなたがいる
何度唇を合わせても
何かが足りない
埋めて埋めて繰り返しながら
あなたの顔を見つめても
何も言葉にならない
未熟な私の戸惑いを
あなたの瞳は射抜く
汗をかきながら
私は震えて呻いてしまう



自ら蝕んだ今と過去
を縫合して思いに潜っても
ざらついた自分は直ぐには変われない
それでも赤く月が上り始める晩には
理性を剥ぎ取る思いに抗えない

窓辺から月が薄く照らす寝室で
あなたの肋骨をさぐりメスで切開し剥離し
開いた胸に露わになった脈打つ心臓
の無垢な赤
開胸器から己のささくれた手で触れたら
あなたの命の喜びを中心で握る
押し込めた思いを切り裂いて放り投げ
あなたの白い肌を流れる青に変えよう
喉の音が掠れうっすらと滲んでくる赤は
私の悲鳴ともあなたの死とも分からない
闇に炎を昇らせてあなたを求めたら
私の中で輝く表情がうれしい
、、
私は今夜再びあなたを
白々と開けるまで解剖する
あなたの全てを知りたい
あなたの謎を全て開いてみたい
欲望を抱いて私はメスを握る夢を見る


The Wagtail Calls

  アルフ・O

 
 
(The mourning bird,)
(The wagtail calls)
(Wagtail/Mourning Dove/Turtledove)
(and more,)

黒い地平を電子音に追われて疾る
歪む音に、上から下から
1×1の縦横線と無色透明の夢
質量を持たない夢
質量を持たない羽根
三叉路の交点で繋がれた身体は
そのまま3つの無感情に分割される、
「間に合わないね、あたしら、
「傷口だ、
「魔女狩りそのもの。
「自決するにも向かない得物しかないや、
「壁を越えましょう、さぁ、
「ひかりふるまで、
「あとどれくらい動けるの、
「深く呼吸を、潜らせて。

それは、治りかけた
瘡蓋を引っ掻かれる感覚に似て
「洒落にならないからやめてね、
「あたし、してないから。
「割れた胸を晒すに値することかしらね、
「それでも、帰り路だけ明るいの、
何年経ってまた、
 亡骸を回収するために
  甘い針に刺されたとしても、
「声なら自分で抑えられる、
 構わないで。

「でもただ冷たいだけ、
「意趣返しには丁度いい夜じゃないかな。
「ねぇ、お供は要らない?

雛もランタンも自分で引き離したから
あの扉は開かないし
『ベアトリーチェも、もう二度と起きない。
何処かであたしたちの知らない
猫が、この蛇に睨まれるまで
「治癒魔法だけではままならないものね、
「それだけじゃないもん、
海のような闇のような
降り立つ術も見当たらないまま
時の隙間を歩く
「あの曲に、“未来”とか“永遠”なんて名前を
 誰がつけたっていうのさ、

(Missing,)

形を保つことがかなわない
霧の中では、
嘘だけが対価になると説かれて
「泣き虫をよくそこまで隠せたものね、
「他に方法を知らないから。
「『冗談じゃないわ。ただの嘘よ』、
いうなればハサミの刃の片割れだと思う
睡りを促すように右手を翳し
空中庭園の外に追われそのまま
蹴り倒したキャンバスの中へ幾重にも印を刻む、刻む、
「……これで、血を失わなくて済むならば、

「夜啼く鳥は、
 実在しない筈だった白い花の代わりに
 湖に次々に沈んでゆく、」
(はりつめる、
 いつからか覚醒するたびに
 頭上を1発ずつ、号砲の
 音のみが掠める理由を知るために。
 抉りだされた感情の糸を
 眼を閉じて、
(付け焼き刃の堕落論を皮膚に携えて
 傾ぎ始めた螺旋階段を這うように昇り続ける。
 武装は解かないで、お願い、

無限に殖えつづける季節にそれはよく映えて、

「Kill not the goose that lays the golden eggs,
「……要するに、
 この徒花たちは叛逆の証なのね、
(臆病な、魔法使いさん、トカゲさん。
「いつからそんな、悲しい夢を見続けているの、
「畏れるかのように、耳の輪郭をなぞられ、
 少しだけスパークして暴かれて終わる。
「もし、あたしが赦さなかったら、
 どこへ行くつもりだったの。
「受け取れないのならそれは無に等しい。

「―――次のクリスマスまで待ってて。
 灰で飾られた翼をばたつかせて
 重力を抱きしめながら、今度はあたしが
 迎えに行くから、
 シャーロット、
 
 


体毛の指

  あおい

私の皮膚から色とりどりの体毛が生えていく
色とりどりの体毛は、私の体内で流れる熱い
赤い海を揺らして、大地を割って生まれてく
る。色とりどりの体毛がやがて一本一本の指
に変わり、その指たちの背中には目を持つよ
うになり、目は口の代わりになり、涙や笑い
や怒りを囁きあう。囁きはざわめきになり、
大きくなる。右の耳の皮膚が痒い。それは体
毛の指たちの、声の足跡が指圧になって、ぐ
ちゃぐちゃと耳のなかの皮膚を踏みにじって
いった痕が谺するからだろう。痛みは、ひと
すじの光のように、聴こえてくる夜をつらぬ
いていく。夜たちは皆、足を切られている。


ダフネー2

  本田憲嵩

つやのある蟻のような円らな瞳で、住みついている栗鼠のようにや
さしく微笑みかける。いま柔らかな月光によって冷ややかにコーテ
ィングされながら、か細く流れる川の音のようにやさしくせせらぐ。
日々の生活の滲みが暗い銀としてこびり付いている、その痩せ細っ
た肢体、黒髪の枝葉を腰の辺りまで繁らせて、しっとりと夜の川の
ように。あるいはさらさらと星くずの散りばめられた煌めく夜空そ
のもののように。穏やかな北風はいま、その見事な臀部を、よりい
っそう冷ややかな球根形に仕上げるため、澄んだ水面にやさしく唇
を濡らしてから、もう一度その臀部につるりと接吻してゆく。幾重
にも幾重にも。その肢体は逆さまになった樹木の蜃気楼として澄ん
だ水面にくっきりと映り込んでいる。妖しく揺らぐ銀色の月。やが
てその汗腺からうっすらと吹き上げる塩からい蒸気が股間の苔むし
た浅瀬の霧と交じり合って、よりいっそう深い緑の芳香を漂わせて
ゆくだろう。そのぼくらの秘密の周囲を取りまくように銀色に輝く
無数の川魚たちが勢いよく飛び跳ねまわることだろう。君という樹
木の体幹。川を下るように君という樹木を下ってゆく――


一月

  maracas

道をぼんやり歩いていたら
いつの間にか
たどり着いた。
丸い水が
ごう音とともに
流れてきて
岩壁にぶちあたる場所。
暗くて
藍色の場所。
つややかな黒髪の
形よき青年が
魚を
腹の膨らんだ魚どもを
あやつっている。
魚はびちびちと跳ね
辺りに激しく水をちらす。

そこで
スマホを取り出して
高校のときの
仲良くなかった友達に
ラインを送る。
友達はすでに
誰か別の人に入れ替わっていて
知らない人との
会話の内容が
pdfで保存された。

魚どもは
私を食いにかかり
あちこちで踊るように跳ね
狂っているようだった。
魚どもは
方向もなく
岩壁にぶちあたりながら
おそろしげに
飛んでくる。

そこはまるで
牧場のような
熱帯雨林のような住宅地
そして
誰もいない夜の公園だった。
湿った草が
大きく生えていて
白色の腐った柵が
ならびつづけている。

魚は
びちびちとうねるように
まとまって
水のように
襲いかかってきた。
ごぼごぼと
耳の奥で音がした。
私は祈った。

狼の群れが
魚どもを
一息に
食い千切っていった。


ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ

  泥棒

ピザって
10回言おうとしたら
8回言ったあたりで
血を吐いた
病院行った方がいいかしら。
肘と膝を間違えて
点と線がつながる
あ、雨だ、
点みたいな雨が線みたいに
ざあざあ
点滴は
ぽつぽつ
退院したら
まるい面になる
今夜こそはピザ食べたい
かっこよく言えば
ピッツァ!
年末年始
鳥は飛ぶよ
どこまでも
渋滞知らずの青い空
Siri
炊飯器が壊れました
Siri
ポエジーって何?
Siri
ピザって10回言って
その後
1回深呼吸して
ピザって永遠に言い続けて
この前
激しいカーチェイスの映画を見たよ
主人公の男が
ラスト
車から降りてきた相手に
信じられないくらい
フルボッコにされてたよ
年末年始
地元の神社で甘酒もらって瞬間移動
大陸で、
枯葉をペンキで塗ったような芸術が
砂浜で、
新しい季節を注文するらしいよ
噂では
鈍い犯罪は鮮やかな生姜の味
siri
意味わかるでしょ?
ひな菊を食べながら
逃亡する無意味が
情緒を語り自分を語り
やがて死ぬ。
すべての意味よ、
てめえが最初に死ねばいいのに
てめえはいつも必ず
最後まで生き残る、残りやがる、
食物連鎖が胃の中で破裂するから
順番も法則も無駄に難解で
誰も解けないまま溶けて消える
他人のさびしさを握り潰して
意味が無意味に犯される頃
言葉のない中庭に咲く空白の花、
咲いてはいけない花、
現代の真ん中に咲きやがる花、
とげとげした見えない花、
siri
意味わからないでしょ?
比喩が比喩に包まれると
語彙が語彙に囲まれて
死んで死んで死にまくる。
斬れないものを
斬って斬って斬りまくる。
こんにちはこんにちはこんにちは、
私は今日から学びます
哲学以外を学びます
入口のない学校へ通います
顔のない先生に
名前のない生徒が私です
ハイ!みなさん
ここでひとつ自慢します
私の得意な楽器はバイオリンです
一度も弾いた事がありませんから
きっと得意です
スカートをめくると
そこにはもう性欲がありません
あるのは殺意です
もしくは新しい季節です
つまり軽蔑された感性です
てめえの言葉が
処女膜を貫通するだなんて思うなよ
こんな午後は情報を遮断して
もう変身できない昆虫に手紙を書く
殺してください
自意識の楽譜を舐めると
演奏が止まります
その前に殺してください
夕焼けが戦車を照らし
環境が死ぬ。色彩が死ぬ。
想像していた街が死ぬ。
冷蔵庫の中にバイオリンを入れて
私は生き返ります
それしか方法を知らないし
魚も肉も腐るだけ
本当の意味で
世界中の詩に包まれたいし
だけど現実にはいつも
世界はだいたい渋滞している
空白という名の渋滞
ハイ!みなさん注目
CG一切なしの現代詩が今ここにあります。
シャラップ!
あるわけねえだろ
あるのは
そう!
立体感のある自意識
カーチェイスのような雑談ですわね
VFX
哲学が肉や魚や野菜と革命を起こし
薬品が売れる仕組み
siri
意味わかるでしょ?
文字が炸裂して点と線が面になる
弦が切れて素晴らしい音色が
大陸に響きわたる
錠剤は透明な味
ピザって10回言った夜に
1回だけ
全員死ねって
つぶやいた人がいるらしい
siri
大陸で、
ピザ食べながら
君の詩をずっと読んでいたい
空白で道に迷いたい
siri
意味がなくなったでしょ?
さようならさようならさようなら、
浮かび上がる情景
テーブルの上にはピザ
地球の未来は球体のピザのようになるとかならないとか
噂が渋滞している
フリーズ!
さあラスト二行だよっ!
現代人のみなさん
退院おめでとうございます


種と骨灰

  鷹枕可

紋章-図像学を鈍重な磔翅翼は牽き
象徴の髄漿たる
薔薇を篭めた
西洋灯の街角を
弛緩した人物群像を
同一の検貌死『カトブレプス』が這って、言った
誓言の移譲、
或は花籠の髑髏は
暴風雨の霧鐘塔を曇壜に置く
確実な均整を附帯する
雁という雁その図形の死骸であるに過ぎない、と

喩えて球体
確たる紡錘時計
そを天球投影室に瑕疵に、
花總へ縫代のごとき瘢を
受肉誕生、ウラヌスの陰茎へ
黎明の晦瞑を
臓腑たる教会建築その含漱種へ嘱目する
奇胎

それは奴隷統樹の
私縫繃帯のごとく
遷移-隔絶を操舵、瞠目する実象記録
バルトアンデルス、その
万物を流体時間として受けつつ
鍵無く花束無く
乖離無き
人物乖離を嚥む物
外範疇紡績機械に
静物胸の総臓腑を産み
全て死の影像、
乾酪の孵るもなき裂罅を欹つ夥多、聴衆

怨嗟それは
数多の磔像柱、
その蠅たる争乱-酪乳壜-螺殻に拠って
後悔を肯う、
青菱十字に鈍旗幟を
癒着を齎しめ
透徹現実の人物達を福音に拠り
束縛-投獄し
呵責の所以を韜晦するべくあるものを、


元旦

  田中恭平


カートコバーンのことはもう忘れよう
なんせ僕も三十になってしまった
今年三十一になったら
中原中也も
終わっちまった青春も
精神的コロニーのことも忘れよう
郊外に
ほんとうに
ほんとうに
一人だ
禁煙を破っちまったこころのように
賀正の青い空にすくっと立つしろい煙のように
いまここひとりで年始のことばに代えて書く、詩

皿が沢山在る、
見事に朝の光りに充つ皿が沢山在る
翳っているのは僕の魂だ
まだまだ燻ぶれるとかもうどうでもいいんだ
出世するんだ
忘れられ
しかし望まれる
恵みの雨のようにいいことをするんだ







時計の秒針が崩れ去って
物の壊れることは
こころが荒れているということだから
去年与えられた宿題たちに
解答を与えつづけてゆく
野に出れば
セブンイレブンで買ったアイスキャラメルラテを含みつつ
銀河がとおのいていくように
そしてそれが見えないように
ひとり
谷まで行ってしまう
Sayounara
Sayounara

そうして
また会える頃には
何物も
少しだけ変わっているね
町の変化が激しいと
鎮守の森で唇をさびしくさせながら
朗々と
涙をこらえきれない
爽やかな
爽やかな
新年でありました

涙も涸れきり
血も吐きすぎてしまいました
医師はスプーンを投げました
祖父と祖母にお年玉をくれました
祖父と祖母はその一万円を使わないで
お守りにしているそうです
善鬼神とはほど遠い
この田中恭平が
何よりも勝り難い
苦悩を持っているとして
それは大概
世のみんなが持っていることとして
語らないからわからないことを
今、書き落としてゆきます

兎に角去年も書いたものだった
己の指を頼りに
そして己の耳を何よりの糧として
もう詩人以外に何者とも呼べもしない

社会を勘定に入れれば
最底辺の病者として
かれくさを握り抜いては願いはなった

己の無力さに
言葉 精神の暴走を必死静止させながらの
マインドフルネス瞑想は
冬なのに汗をかいてしまいます

一年中人が好きでした
一人になった今もそう思います

明日から仕事
また朝の三時に起きないといけないとして
毎朝僕は神に祈ろう
ときどきは神の
直感的ダイレクト・メッセージに身を任せてもいい
きみは
きみは一年ただ元気でいたまえ
生きることにあなたは
意味があるのだから、
ないものがそう言っているのだから
本当のことなのだから
嗚呼
センチメンタルな詩文になってしまったな
もっと抒情的にきみに伝えたいことがあった筈なのに







発語の詩

  霜田明

  一

猫には言葉がないって
誰が言い始めたんだろう
ものを言わない人にも
言葉はあるはずなのに

言う方法がないとき
聞く方法もないから
猫には人の言葉がわからない
猫にはわからないことがたくさんある

それでも猫には言葉がある
朝 寝ぼけているのを見れば分かる
僕が仕事に出かけていくのと同じ
世界に適応するまでの
ほんの僅かな猶予の時間

  二

僕らの世界はまるで
ちいさな差だけで成り立っている
この子よりこの子のほうがいいとか
10円玉と100円玉のちがいとか

僕らは世界の誤差に
固執することで生きている
僕らは言葉までしかわからない
僕らにはわからないことがたくさんある

あれとこれを取っ替えられると思っても
取っ替えてみると大きな問題が起こったりする
ひとりのアフリカ人が死んでも気楽に過ごしているけれど
親しい人が死んだら一日中落ち込んだりする

  三

暮らしていくということは
返せない砂時計の落ちていくのに似ている
何もしないでいるとお腹が減ったり
出来ないことばかりに迫られていく

一生懸命生きているはずなのにどうして
暮らす とか 過ごす とか
弱い言葉でしか
語れないのだろう

日が暮れるとか
思い過ごすとか
そういうものが僕らにとって
ゆいいつ確かなものなのだろうか

  四

猫は飼い主に感謝してはいけない
餌をもらうのは当然のことだから
人は猫を二重に去勢することで
閉じられた親愛を作り上げているのだから

飼い主がもし餌をやらなくなれば
それだけで死んでしまうところまで
飼い猫は追い詰められている
だから鳴き叫ぶのは当然なんだ

人も猫も創作上の人物も
同じなのに
どうしてみんながそれを許すからって
簡単に虐げたりできるんだ

  五

人が言葉を話すから
僕には人の気持ちが少し分かる
語られた言葉がわかるというよりも
語られない領域を信じられるから

僕に内部があるように
人には内部があると信じられるから
猫もきっと振る舞いの機微にふれることで
僕の内部を見出しているだろう

冬の寒さに猫が膝の上に乗ってきて
僕は欲望されることの愉楽を味わっている
僕には自分が死ぬということがわからない
いつかこの猫も死ぬんだという考えの内部に
自分の死をも見出そうとしている


在ると無いのはざまで

  鞠ちゃん

お弁当におかずは何がいい?
唐揚げ!なんていう人はカワイイね
カワイイと思われたい40男の思惑はちょっとズルくて新しくて
はじまりは小鬼スタイルの雪合戦だったんだ
ホテルカリフォルニアは焼失した
美しい男の子が鬼の形相で火を放ったからだ
ホテルの女主人は焼け死んだ
もう彼女の引き摺る足は遠景に目立たない
彼女が自分を内心、円を描けないコンパスだと
思っていたことももう重要ではない
ちっぽけであることを抱いた蟻が魂の昇天を思う頃の世界で
悲しみは沈殿し上澄みは鏡となって覗き込む者の顔を映して澄んでいる
彼女の悲願が泥濘から首をもたげて
水面に咲く花になることを夢見たのだ
焼け野原の上を白く古めかしいレェスの
ネグリジェをはためかせて飛ぶ女の幽霊よ
ウルトラマンに憧れた男の子がおじさんになって
プレミアのついたソフビ人形を高値落札している
心を開く鍵はたとえ海の底に深く沈んでいるとしても
それは愛の形をしているのではなかったか
思いが熱なのだ
あまたの思いよ
すすり泣く声をヤスリにして鍵は磨かれる
嘆きがすべての波頭を打ち饒舌が一人酒になるとき
テレビのニュースは他人事だ
料理するっていうのは切り刻むってこと
違う違うよ
愛するように人を思うように食べ物を厳正に扱うことだよ
臭いニンジンを天使にする魔法だよ
牛乳とバターとたくさんのお砂糖に
シナモンとカルダモンで煮てるよ
生きるのが上手そうなお料理の先生は素敵だな
寒気団のドラゴンが舞い降りて
豊かなイメージと貧しいイメージが戦争をする寒い冬の夜だ
穴の開いたビニール袋の中で水は漏れ続けて
金魚が刻々と死の宣告を受けている
金魚の心は愛を知る人には狂おしいが
見た感じは能面なのだ


カケル

  

どんなに注意していても
少しずつ失われていく
そんなものだと猫が呟く
それでも諦めきれずに
飛び散った破片を探して
白い夜道に這いつくばる
そうして気がついてみれば
コーヒーは冷めているのだ
過去の自分に警告するために
黒電話のダイヤルを回すけれど
数字の配列が次々に変わってしまい
いつまでたっても通じないのだ

 ベテルギウスの爆発を見られたら
 君にプロポーズするつもりだったんだ

すっかり老いぼれてしまった僕が
今日も縁側で独り言を繰り返す
背後で幼い僕がそれを見ている
最初から勝ち目などなかった
わかっていたのにそれを選んだのは
言い訳がほしかったからだろう
すでに彼女は影絵になっていて
古びた額縁に閉じ込められたまま
今も廃校の壁に飾られている

 あなたのことをずっと待っていました
 白い夜道で星々を見上げながら

遠い海からの伝言を預かった風が
庭の雑草を波のリズムで揺らすと
居間の古時計が鳴りはじめた
(もう四十二時になったようだ)
幼い僕は老いぼれた僕の後ろで
あかんべぇをしてから庭におりると
自分で「よーい、どん!」と叫んで
夕闇の中へと走り出した
もう何も考えていないから
身体がとても軽く感じる
途中で黒い影にぶつかると
身体の半分がちぎれて飛んだ
それでも僕は構わず走り続ける
誰のため、何ため、どこへ向かって
そんなどうでも良いことを
すべて捨ててしまったから
身体がとても軽く感じる
何もかも空っぽになった僕は
光すら無造作に脱ぎ捨てて
この空っぽの世界を走り続ける


音信

  湯煙


三年C組
義務教育最後の学校生活
クラスを受け持ったのはあなたでした。

快活な方でありました
自信過剰気味でありどこか昔気質を思わせました
物理を教える理系の出らしく白衣を着こみ
小柄ながらアルトのお声は張りがあり男勝りでした
鼈甲眼鏡の分厚いレンズの向こう側で団栗眼をしばたかせる
あの頃すでに定年を控えていたでしょうか
校内を忙しなく婦人用サンダルを履き練り歩く
口紅とアイシャドーをうすくひいた
生意気なツッパリたちとも堂々と渡りあう
だからだったのでしょう彼らも一目置いていました
そのようなお姿が折に触れ
心中に思い起こされるのです
そして卒業間近だったある日
教室へ行き春の訪れを伝えると
予想を裏切られたか大変に驚かれましたね
しばし唖然とされていました
あなたの眼が見開き私を見つめていました
出来のよくなかった
秀でるものがなかった私の顔に見入っていました

偶然
プライド
ユメ
実力
努力
キボウ 
アコガレ
意地
・・・・・・・・・

今も窓際で
空を見上げています


 年月が流れ私は
 思い出をたずさえて生きています

 その後変わりなく
 御健在であられますでしょうか
 
 卒業以来お会いすることもなく失礼をしています
 
 いつかまたお会いできましたならと
 そう願っています。


ドラマツルギー

  Syuri

夏。長袖。

彼女が来る。布団に横たわってる私のとなり

「つまりね、あなたの人格は彼には関係ないの。彼の中であなたはもう出来上がってる。
そして、それがどんなあなたかなんてことも関係ない。
あなたにとっても同じじゃないかしら。彼がどんな人かなんて関係ない。
それはあなたが一番よくわかってるはずよ。あなたが本当の理解を彼に求めて彼がそれに答えようとする。その瞬間、2人の破滅は始まるわ。まあ、それも悪くないけど決してよくもないと思う。
あなたの身体は女で、微笑むこともできるしお化粧も洋服も楽しむことができる。それに、ある程度彼の要求に答えられる器量があるの。それより哀しいことってあるかしら。」


Syuri


風邪や便り(頼り)

  コテ

健康美

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【円滑印 あんパン(ビニール)】

  「円滑ですか!」

       「円滑です」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 鳥丸くん、こないだ京都にいった。
鐘が耳から渡す。
ぼんやりした暗さがいつまでも響いた。響いて胸が痛くなる為おおきにゆって帰った。

昨日、天王寺に行ったらナンパされたよ。
夜道のコンビニ。無垢木をてらった色彩の薄い新しい街や、戸を開けるときさらっとした茶髪の前髪の「( -_・)?n?こんにちわ(笑)」

一人、ラブホテルの前、小道を、壁側の二宮金次郎
________________________


像を見渡しその諸文の額を深く納得しまして一度頷いてから写メモをしました。

私はコンビニの中でもじもじと出らんかったんです。学生の頃のように。
この一連の話の宛先はわからないのですが、
自分だけがひたむきのように思える中で。
いや、単に孤立してるだけで…。そうは言わない。絶対言わない。
もっと海原ね、波のように高い、言えない価値とは有るノダ。
とは、とは、道徳、と。 私はその一角になりたい例えば。
だから、解を求める、と

開いたり閉じたりする星の入り口のように。

真面目な。水





金次郎のその左に大きな、桃山戦の歴史の石板は真田幸村と秀吉、城の最後と在る。ビックリマーク。横書きで手彫で、緊張の書文にはビックリマーク…など
つらっとした 感情が抱く(いたく)書かれてありました。
いつもでも事実100倍の興奮..疑いと期待を抱え、道路を、しっぽを巻き草履でも履く様に一歩を優しく歩く。

彼の想する賑やかさが、私の想する女性的な明るさと(男女の区別はあんまりありませんが)
却って在った陣の訝しさを語ってあってでもちっとも文章は光っていて涙が落ちるのです。
そのお日さまの真ん中の白い花びら一枚、散るような儚い青色の悲しみさえ
…美にしてこの場で倒れ込み。

花と云う花を前に見たら 
これを「悲しい」と言うんじゃないかしら
とかなんとか


のりの付いた付箋用紙は「たいこメモ」と言うそうです。
ちょっとしたプレゼントは如何。小さくて可愛いわ。





ノート

文具は御好み
三菱、旗。
払うカネ、ちゃりんという音し型
あちしの一景、願いましては500円為り
そうする事の、向かう前〜からの 背


背。  


石いしに

カイを

上文に戻る↑



「親父」

はしを掛けるからな

約束や    〜〜石いしにカイを〜〜  (参照)



(1)夜には夜を(マルクス)



「姉さん」

夜が来ん
なんぼかかってもええから取り戻すんや
但しそれは綺麗なお金のみや

「子」

空しさ
虚無感
お通りや


「題」 

詰まらん毎日

+向かう前は背

+水ゆうこっちゃ

+せやけど

敷クコトノ水
_______

解なし     綴



問2
_______
ゆっくりするから話せるかい?


3問で丁度一京(けい)成り


〜「蕾(つぼみ)」

『』気つかうわ と  『あたらしい風』 



「ママはん」

<ほっぽ(放)でいいんよ>


浪速の りびんぐより



以下上文。

【家(いえ)族に於くの その綴喜(つづき)】

「甲うと思わない(想わない)自由さがあるのなら
その心があるから
ここじゃないんだよ
探してみなよ
冒険だ」

「おじい」

怖いことやのうて男前だけを熱く見つめなさい
小出しで安生(あんじょういきなさい
身が焼け(妬け)ても見つめなさい


「娘」


「後々」

わたしたち
割ることの嬉しいひかり


              水


「(オヤジっち)」

君へなへなや;


「ポイ('~')↓&#8599;」



顔が一つ目の矢印の位置から二つ目の矢印が指している延長線の言葉までの
きみの星が傷付いた時の距離を求めなさい


♂ステップ2♀

上に出た大事なあたい を、発掘・彫刻・組立・栽培 …




             〜アンパン地図委員会 作図委員 工程R 〜
_____________________________________
               作業中…
               青空切符を発券。
               切符は毎日のtehuで作られている。
               早起きするとtehuが貯まる。〈事項〉安心・安全


夜燈の飾帽子

  鷹枕可

_

丁度、夜の敷設路をつづく常夜燈が灯り
汽罐車は轟々と花粉を撒き散らしながら溪谷の窪を通りすぎるころだ
__

颪、
燦燦と揺れる光暈がその煉瓦石の停車駅に
心許なく手袋を擦り合わせる婦人の飾帽子を掠めた、その間に
___

鳩の翼と紫陽花を縫付けた飾帽子を
渦巻く鏡のなかの丘陵のようにそのゆびさきから引き離してゆくものは
____

「ほろほろと水の音を牽く噴泉であるかのように苦い糧を鹹い舌に確め 
 私は/私の樹にあなたへ/名前を刻む/私の名を/」
_____

鞦韆に落ちたひとひらの枯葉の様に
飾帽子を拾い
写真のなかに鉄道員は百年の季節をうなだれている
_______

全ては
鉱物に閉じこめられた
歪像画の
視る夢


銀河鉄道の夜

  いかいか

私が死ねば全て忘れてしまうから貴方たちとは永遠に友だ輪廻の中で私たちは何度も出会うが誰も自分の事も貴方の事も覚えていないだから私たちは永遠に何も知らないが出会っている私は花であったことも鳥であったこともあったはずだが思い出せないまたは何回目かの誰かであったり誰かに会ったはずなのに思い出せない私は私の名前が思い出せない私たちは出会ってきたが一度もであえたことがないこれからも本当に遠いところにいってしまって私たちは忘れしまって出会うのだそれも何千も何億回も無限にそして忘れてしまうのだ 全部を 出会っているのに、無限に、それでも出会えない 本当に遠いところにいく、希望はない、本当に遠いところから悲しみだけが流れてくる


裸で駆け回るあなたたちに

  GGGGG

あらゆる心臓が行き場を無くして街を彷徨う時、
一本の木が夥しい量の破壊を胸に仕舞い込んで、
怪我をした祈りと包帯と
松葉杖の添えられた人生に乾杯をしよう

嘴の斜めに生えた揺り籠の
尻尾の先の涙の通り道

あなたの呼吸は古くから伝わって
分度器が破裂する音を聴いて
食べ物が酸化して、震えて、沈んで、
声を無くした君たちのように

もしも穴の開いた眼の
口の
右耳のあたりの
後ろの遊びが
ほつれて、転がって、岩を舐めた時、
警察署に止まる貨物船のように
私とあなたの間にある
たくさんの残虐性は
ひとつも余すところなく
あの夕方の景色を作り上げるだろう

突飛な拍手と新幹線と、
歩道橋と窓枠と豚の繭

雨の降った次の日の
朝の眠りが飛散する
ような


砕けて散って森を枯らす前に

10秒と言われた花が
あまりにも透明な唇を動かして
月を隠した雲の存在が
遠くに聴こえるまばたきの音と重なったので
私の裁量によってあなたは
傷口を見つめるための糸を
赤色に切って、貼って
呟くのだった

中身のない文鳥の
骨格を製図する海辺の空が
虫歯で欠けたスプーンの摂理を
T字に曲げてお辞儀をすると

遙かなる排泄と
身辺調査の足跡と
欠病した蟻喰いの前足と
藁に包まれた甘い脳髄の塊の中に
遺伝子と調和と掛け声と
盲目の羊とペン先と鉄橋の入口に
あなたを手招く風船の中に

手洗い場に残されて
錆びて削れて尖った愛情が
鏡の端と端の端に映る
影絵の背骨のように
腹痛だ
声は
今からだと思う者に
空間はそこできっと飛び起きて
裸の夕方に手を振ろう

果物の重さが人一人分の後悔に先んじて
腕を這い回る蜂の子どもたちに敬意を表して
水を張ったうがい薬の瓶の中に
あなたの許可でできた綿を詰めよう

そのように書かれた書物の
栞を持つ優れた時計と
背景に見える信号機と
ピアノの座席が始まります

街灯を切除する潔癖のトカゲと椋鳥と
アルコールの滲むベッドの欠片と
栄養のある仕組みと
ロバが婚姻をして
支払われる給与の総額に同意をして
行為をして
行為をして
行為をして

ある者はおそらくこう言うだろう
贅肉の凍ったタペストリーに虚空を添えて
アルミ製の銀行がバケツによって運ばれていく
大胆なパラシュートと発情のリズムが
満開の魚の絵に煙草を投げつけたその時に
悲しみや運動不足や声帯模写や自己同一性が
毛玉のドレスに酷く絡まって
それからやっと冬になっていく
まで
愛して

しかしそれに対して私はこう言うだろう
ありがとう

先細った指をもつ
獣の瞼の裏側の
眼鏡は挨拶運動に支えられて
煙の出る白い水槽に数えられて
分断された経済活動を保全する親切な海藻に運ばれて
零れて

性質的に酷似したありとあらゆる想像の中に
等級の価値をもつありふれた犠牲の中に
一杯の症候群を暖炉にくべて
正解を探し出そう

それはCとNとPの綴りから同時に始まり
太平洋を左回りに横断してトマト缶の中へ
動物園の向かいにある兵舎の窓の
奥に見える消えかけた蝋燭の蜘蛛に
時間制限のない不定形の骨折
泡を吐く闘牛の模写に従って
笑顔を覚えるとしよう

つまり私があなたに言いたかったことは、


見なれた顔

  atsuchan69

刎ねられた首の、落武者ヘアーの見慣れた顔がそこに在った。
所々に空いた障子の破れから庭の繁みを覗かせた薄暗い茅屋の畳のうえに
斑に変性菌類の付着した身体のない見慣れた鼠色の顔は飄々とした面持ちでごろりと転がっていた
女、子供らはその顔の間近へ卓袱台やら座布団だのを運んだが、
それは失われた日常を取り戻す儀式のためだけでなく実際に朝食の準備も兼ねていた
顔のない母親はひとりアルミの鍋や茶碗を運び、
小鉢の炭と皿に盛った千切った新聞紙を盆にのせて運び、
さいごに白木の飯櫃を運ぶと姿の消えかけている子供らを卓袱台のまわりに座らせた
父さんはいつまでもあんなだけど、おまんまがこうして食べるだけでもありがたいことなんだよ
おそらく母は身振り手振りでそういってみせたのだが、顔がないので口もない
身振り手振りでは到底伝わる筈もなく子供らはさっそく御飯茶碗を持って一斉に母へと向けた
白木の飯櫃には海の砂や貝殻や水色のビー玉、そして神社で拾ってきた玉砂利が入っていた
子供らは茶碗に盛った砂に雑じったビー玉や貝殻を嬉しそうに見つめながら、
同じように小鉢の炭や千切った新聞紙もときおりチラッと見ては愉快そうに笑った


雨の日は、腐敗した古畳の目から悲しみが滲んで濡れた
そればかりか歪んだ天井のそこかしこからも悲しみが滲みて、ポタリポタリと古畳を濡らした
ずぶ濡れになった母と姿の消えかけている子供らが見慣れた顔の傍らで寝そべっている
部屋中を靄のような悲しみが漂い、それでも見慣れた顔はただごろりと転がっていた


月明りの晩。
まるで大地が沈むかと思うほどの地響きにも似た激しい鼾が茅屋から聴こえる
鼾の音で揺れる古畳のうえを一匹の猫がやって来てしばらく光る眼をじっとさせた
眼の前にあるのは破れた障子からもれた淡い月影に染まる落武者ヘアーの見慣れた顔だ
無精髭の見慣れた顔は、突きだした唇をぶるぶる震わせて鼾の音ともに涎を飛ばした
その一滴が猫の額にとんだ瞬間、猫はニャアーと鳴いてとっさに退いたものの
あいかわらず鼾は怖ろしい地響きをたてて古畳、いや茅屋じゅうを揺らしていた
猫は右の前足で額のあたりを何度も拭きながら、
ふと部屋の隅に寄り添って無心に眠る顔のない女と姿の消えかけている子供らを見た
とたん、鼾が止まり落武者ヘアーの見慣れた顔が何かを話した‥‥なかずんば、すせろう、
意味不明な寝言をつぶやくと大きく見慣れた顔が右に傾いてごろりと転がった
そもそも動く物に猫は敏捷に反応する、猫パンチ! 転がる見慣れた顔へ猫パンチ! 
弾みをうけて見慣れた顔はどんどん転がってゆき、追う猫はさらに猫パンチを繰りだす
転がりながらも、すせろう、ともやもなるなればあさかなくべねやのうと寝言をつぶやく
‥‥すせろう、
そう言って、無精髭の見慣れた顔は大粒の涙をながして眼をひらいた
すせろうともまけじみれたまかしきおんなきうごめよなあ、すみまかしものよのう‥‥
眼のまえの猫を睨んで、ついに見慣れた顔は動きを停めた。口はしっかりへの字に結んでいる
よほどその形相が怖ろしかったのか、ふぎゃあ! 猫はたちまち逃げだした


正月、
あいかわらずの茅屋で畳も腐敗し変形菌類の発生が見られるほどであったが、
それでも顔のない女と姿の消えかけている子供らは晴れの日の着物を着ている
卓袱台の上には、ブルターニュ産の海泥で捏ねた見事な餅が置かれていた
さらに普段はとても口に出来ない金や銀の色紙や千代紙までが漆器に盛り付けられていた
見慣れた顔は髭を剃り、立派な兜をかぶって床の間に堂々と飾られている

文学極道

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