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紅茶猫

選出作品 (投稿日時順 / 全19作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Butterfly Effect

  紅茶猫

蝶飛来している
この庭の
青空と
かの空を
縫うように
をりて来て
音も無く
群れている

不吉だと思われる
片側の顔を隠す

死ぬことは
ただ星に
降り積もることだから

群れている蝶の下
浮いている
この星も


朝起きて
蝶塚に
一枚の蝶を拾う

悪い夢醒めやらぬ白蝶の
仰ぐ空
かの空と
行き来していた
手の平の
薄い翅


続・地図に無い町

  紅茶猫

『シリアルナンバー8386 逃亡』
その日
僕の腕時計に
こんな文字列が踊っていた

あいつか
すぐにピンときた

僕に妙な質問をしてきたあの男だ


それはそうと
注文したミルクティーに
さっきから
蝿が浮いている

僕はボーイを呼びつけて
声高に文句を言ってやった

もう二度と
こんな店に来るもんか

金は要らない?
当たり前だ



原則逃げた奴は
連れて行った人間が
探し出すことになっている

あいつら食事はどうするんだよ
口も無いのに

あいつは
たしか僕がこの仕事を始めてから
依頼された
6人目の男だったと思う

僕は、
正確に言うと僕らは
あの森のことは何も知らない

ただ人が逃げ出せるような場所じゃないって
雇い主のせむしの男から
何度も聞かされていた


あいつ
8386......。


大体なんで顔を無くしちまったんだ




顔の無い奴を探せばいいんだから
簡単じゃないかって

初めは僕もそう思ったさ

でもこの町には
金さえ払えば
顔を書いてくれる人間がいる

せむしの男も
まだその店の場所を
特定出来ていない

まあそれらしく書いたペイントだから
実際に目や口を動かすことは出来ない

大体あいつ
そんな金を持っているのか



定刻までに探し出さなければ
僕の左目は
消されることになっている

全くあの男
最初見た時から
嫌な予感がしていたよ

こんな商売に手を染めた僕が
馬鹿だった

もしかしてあいつも
この仕事を

いや、そんな訳ない

全く何もかも
馬鹿げているよ

何だよ
少し見えなくなってきた

雨まで降って来やがった



その時だった

すれ違った男の顔が
僅かに雨で流れかけているのを見たのは

こいつだ

誰かこの男を
捕まえてくれ



その時僕には
もう左目が無かった


さくら

  紅茶猫

失意のどん底にあって
まさに
失意のその最中に
ふと
見上げた
春の空
見渡す限りに
桜満開

見知らぬ街の見知らぬ桜
僕はこの街と仲良くするつもりはなくて
けれど
どこかなつかしいこの桜並木を
立ち止まり
しばらく眺めていた

夢はどこへ行ってしまったのだろう
肩に掛けたカバンが重たい

上り坂になっている国道のすぐ脇に
その寮はあった
玄関にネズミ取りのカゴが置かれている
そう
僕はネズミ取りのカゴの中へと入っていくのだ

無事に抜け出せるのか
何の保証も無い

一年もそこで暮らすうちに
ゾンビのような風貌に
顔が変わってしまった
まるで
ささくれ立った心が
全身の至るところから噴き出しているかのように

前髪をかき分けて覗く世界は
とても狭いものだった

ようやく迎えたその日その朝
空は隅々まで青く晴れ渡っていた
この日僕は
まばゆいばかりのひかりの集団に
さよならをするために
会場へと急いでいた

ここは別世界
近付いただけで地鳴りがする
歓声と
誇らしげな太鼓の音と
喜びは一瞬で駆け抜けていって
悲しみはしづかに黒く地面に広がっていた

「おめでとう」
そう声をかけられた

用意していた答えを
僕は丸めてポケットへ押し込んだ

あの街へ戻ることはもう二度と無いだろう
あの桜の下に立つことも

あれから季節は何度も巡り
花を気にすることも無くなっていった

まるで
捨てられないポケットの花びらのように

あの日見上げた
満開の桜ほど
美しいさくらを
まだ見たことは無い






※推敲しました


NO ROOM

  紅茶猫

誰も居ない部屋で電話が鳴っている
誰も居ない家で電話が鳴っている

テーブルに置かれたオレンジはモノクロで瑞々しい
壁に貼られた薄い紙は
歯を見せて笑う女優を真似た塗り絵か

きっと彼女は笑って死ねる
no room
no problem
何だかお腹を抱えて笑いたくなった

頼まれれば何でもやって
頼まれれば何でも見せて
見せるものが無くなったら
今度は
きれいに整理された箱の中に収まっていく金魚

何だか
何であれ
誰であれ
無くしたものはもう帰らない

no room
no problem

蝿になろう
蝿になれば
忌み嫌われて
どこで生まれ、どこで死んだのか
誰も気には止めない

人間だけが
朽ちる紙に後生大事に生きている時間を刻んでいく

誰も電話に出ない
電話は鳴り続ける
靴音がしない僕がベルの音を聞いている

金魚がのたうつ
血の色をした金魚

生臭い匂いがペタリペタリ部屋を覆っていく

電話のベルがふいに止んだ
僕も立ち止まる

金魚を楽にしてあげたくて
踏み潰そうとした僕の足先に
金魚が赤く透けていた


Keeetu fish

  紅茶猫

夜よりも白い山の端に腰掛けて
叫べ
詩の言葉を

操縦不能な迷路をすり抜け
疾走する一台の微笑み
そう、
生きることは疾走すること

割れた鏡に
裸木の影(深く)闇を張る

ぽたぽたと水滴落ちる心音
時計ぞろ目になったらリセットしよう

空、要りませんか
(空っぽの)平和な空

鏡支配している
そのつもりの惚けた顔が
粉々に砕け散ってしまった朝顔咲いている

埋もれる秒針
望まれた嘘よ

パンを浸して腹一杯の水銀柱の上を
終日、青い魚が行ったり来たりしている

keeetu fish

岸に着く頃
見えてくる
(思い出す)
聞こえてくる
(砂を噛む音)
拾い上げたものは
見事なまでに何も語らない

王様のタンブリン


show room fantasy

  紅茶猫

傷つく才能が無いと言われて__

地上3メートルくらいを
ひらひらと
時々、大気圏の外に突入している
自分を思った

傷ならば無数にあると言っても
消えてしまったものには
何の説得力も無い

表層の下に眠る
忘れたものや
忘れた人たちは

あまりにも大人しくて
今でも真っ直ぐに棘を生やしている
そんな聞こえない筈の音が
時々している

もうだめだと
思った瞬間
世界を呪う私の肩に

私の肩に
花びらひらりをりてきて
夢をどっさり乗せたなら
あとはよろしくと

私には世界を呪うことすら
許されていないらしい

不幸は時に甘美だね
死滅するほどに鋭角な
その甘美さに
かろうじて耐えられる

不味い酒に酔った頃

暴れてみれば
私の表層の下のものたち、人たち

床下の小人くらい
ふくらんでさ

私にはいつも見えているし
聞こえている

話せないものと
話してしまったら

棘はますます体の奥へと潜り込み

離せないものを
離してしまったら

足元がいきなり、ふわり
浮き上がって

大気圏の外へ__

運べなかった
地上3メートルくらいの空だった

帽子の下
共感に飢えた顔をして
一体どこへ行くのだろう

最初は上手く操っていた筈の
自分の言葉に
殺されていく
そんな感触の
ショールームみたいな風景が続いている


Kite flying

  紅茶猫

暗い穴が
無数に開いている星の上に立って
宇宙に凧を上げていた

足下の穴に
誤って
小石を
落とした時は

ぽちゃん、と
音がするまでに
辺り一面真っ暗になってしまって
僕は道具を片付けて
家に帰るところだった

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

漆黒の宇宙に
風を探して
凧が
星の一つに届くようにと
ありったけの糸を
闇へ繰り出した

けれど
右手に握った糸の端には
重さという重さが
全く存在しなかった

凧が上がっているのか
僕が
果てしなく
落ちているのか

伸び切った筈の糸は
するすると
手のひらを
滑り続けている

それもそのはず
糸は
いつのまにか
僕の手のひらから
繰り出されていた

まるで蚕が
糸を吐くように

糸が出尽くしたら
僕はこのまま
宇宙に投げ出されてしまうのだろうか

ハサミだ

左手で
道具箱を
必死に探った

あった

赤い柄のハサミ

僕は
熱を帯びて
出続けている糸を
ハサミで
ぱちんと切った




(落下)



今度は
穴の中に
落ちている

足を踏み外した覚えも無いのに
気の遠くなるような速さ

僕を宇宙へ
引き上げる筈だった糸が
右手の真ん中から
だらしなく垂れている

落ちながら
糸を引いてみた

すると
糸は際限なく出てきた

落ちながら
糸を体中に巻き付けた

少しは
落下の衝撃が
和らぐかもしれない

突然
眠気が襲ってきた

僕は糸をぐるぐるに
巻き付けて
繭玉のようになっていた

この穴は
一番深い穴に違いない

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

そういえば
落ちながら
穴に底のある幸福を
少し思い出していた


心中に予告、心中に遅刻

  紅茶猫

駅前の来来軒で
ぶどうパンを三斤買って
その重さに
前のめりになりつつ
足早に歩く 

パンと私を
天秤にかければ
明らかに
わたくしの方

重い
ぶどうパン三斤で
沈むか
この身体


夕べ、スマホが
けたたましく鳴って
「明日心中を決行する」と
メールが来た。

今年に入り二度目の
決行予告

(23:08)

かったるい


日時:明日
場所:川
参加人数:2人
持ち物:水着、ぶどうパン三斤
備考:雨天決行だよん



だから何で
ぶどうパン
水着もこれ相当おかしいよ、

などと返したところで
返信は無い。


2時間ほど歩いて
街外れにある森の
階段を
16段上って87段降りた

濃紺の改札を通り
地下鉄に乗り込むと
ワカメが車両狭しと
生い茂っていた

利用者の立場に
全く立っていない
運営ぶりである

吊り革のように
ぶら下がる
酸素ボンベを
口に当てると
浮き上がらないように両手で
しっかりとパイプを握った

海の真ん中に川は無いと思う

海の真ん中に川は無いと思う!

階段を87段上って16段降りるべきだった?

ワカメが頬をなでる
黒い大きな影が
窓の外を通り過ぎていった



(15:08)


「まだ?」
「遅いよ」
「今日はもう止めるよ」
そう言い残して
スマホが先に水没した。


hop-step-junk

  紅茶猫

昨日Amazonで
「世界part2」を注文した
けれど
新しい世界の
パッケージを開くまで
暫く
僕には
世界が無い  
   「世界を失った日に」





僕に泳ぎ着く前に
きっと
人生は
終ってしまうから
盛大に
    「バサロターン」





空の破れたところから
ふいに
あらわれた蝶
       「縫い目」





天才はいらないと
声高に
天才を
呼んでいる
       「フラスコ」





白いシャツに夜が映り込む
         「他人」






よく冷えた言葉並べました。
      「牛乳レター」


レクター ネクター

  紅茶猫

季節が無い町の
季節の無い空が
規則正しく
昼と夜を
入れ替えている

ある日更新された朝は、
晴れ___

何も考えてはいけないし
何かを理解しようなどと思わなければ
この町に
季節があったことなど
すぐに忘れてしまう


生きていることを忘れて
死んでいる人と
死んでいることを忘れて
生きている人と
同数の
いや、それ以上に



渦巻きの
渦巻きたる所以の
その渦巻きの
中心を訪ねよ

がらんとしていて
誰も居なくて
恐ろしい空洞の
闇の闇の奥は
「不在」。

声がした?
誰か居る?

誰か居るのですか?
優しい人ですか
怖い人ですか

さあ
蓋をした
もう危険だから
蓋をしました


「不在」。だったことを
誰に告げよう

「不在」。

居ない

誰も居ない

「不在」。の他には
誰も居なかった。


長い沈黙の後
エレベーターホールに
降り立つ
「不在」。

「見えない」僕と


のりたま

  紅茶猫

握手した
指を開けば
血だらけ
  「君と僕」



乖離
海里
帰り道
噴水に躓いた
  「セレクト」




僕にしか分からないこと。
君にしか分からないこと。
増えてきた
生えてきた
       「木かげ」



月といふ眼座りて
夜笑ふ
    「みかづき」



死の影
水の上を動く
   「凍る」



手のひらに
乗せて
冷たい
鯨の睡眠
 「フラット」



まるい空
まるい星
何も
  「書けない」



せめぎ合い
泳ぐ言の葉
きらきらと
   「ふるい」


家族八景

  紅茶猫

ゴミを
投げ捨てるように
言葉を
吐き捨てていった少女
屑篭の無い家では
今日も食卓に
ゴミを並べます
さあ、
いただきます
ごちそうさま

 「屑篭の無い家」


現代詩が鳴ったので
現代詩を止めて
現代詩な時間に起きた。
今朝は
現代詩にハムとチーズを
挟んで食べた。
定刻通りに
現代詩に行くために
現代詩を待って
現代詩に乗った。
現代詩の車内は
現代詩で
大変混み合っていた。

  「#現代詩」


君の気配が僕の街から
消えて
10日目の冬
この地上は
いつもどこかが楽園で
いつもどこかが地獄だって
そう導きながら
遅れて来た明日を
懸命に失踪していた。

   「冬に」


また一つ椅子が減っていく
団欒を囲んだテーブルの
椅子が減っていく
小さな家が
深呼吸した気がしたから
私も一つ
深く
深呼吸した。

    「巣立ち」


ふとした瞬間に
思うことだと
酩酊する言葉に
明滅する言葉に

「さようならは鮮やかに」


上っても
上っても
上らない階段の
中程で
ぼんやり風を眺めていたら
青い空を
魚が跳ねた

  「強風ハローワーク」


根こそぎ
自分を引き抜くように
家を出る時は

   「東京スカパラ」


小高い丘に
一人登りて
帽子深く被れば
星の匂いしている

  「星帽子」


X

  紅茶猫




カリフラワーに
空が止まっている
夜明け前のこと


僕は
極上の円卓を
齧りながら

知れていく時間に

暮れていく
円錐形の
雲に流れていた


真夜中に
口をそすぐ
そそぐ
すくす
みすく
みみずく


タスク
リスク
ミスト
ビスコ
エンパシー
さらに、
えのき茸を50g
そこで火を弱めて

ゼリー状に固まるまで
待ちます。


僕の待ち時間は3分
僕の待ち時間は3分
僕の待ち時間は3分 



砂糖大さじ4杯強

エンカウンター。

ラウンド
ラウンド
ラウンド X

休憩を挟んで
お茶して
ゲームして
Round X



だった。
だった?
晴れた。
読めた。
読めた?
分かったのか?




あの日
何か
もう
助からない
重病の空に
別れを告げた

鳥のように
そう、まるで
一面の鳥のようだった。


Garden garden

  紅茶猫

名前の無い住人をノートに記す

招かざる客を見送る

こおり紙

葡萄の葉の皿

机を揃える。

カレイドスコープに墨タイツの空

セイウチと木曜の朝レモネードをいただく

手のひらに苺。博士おこる。

何を?

旅を開く回旋塔にかたつむり


   
    
    迷う

詩に迷う
反時計回りの心臓には
今日も白夜が満ちている






    L 字型の空

L字型の空に
賞賛を浴びせよう
何か心にかかるからと
寒暖に閉じ込めた
たえまなく
白い手と
干涸びた呪文のように。




秋めいた庭にシロナガスクジラ打ち上がる

枕辺にcafeタクラマカンパフェ


水筒に彗星と粉塵と円陣と
ざらざら鳴っている

歩く



高さのない




    
     
水滴に
閉じ込めてある星空を
そっと手で押す

garden

garden


猫島

  紅茶猫

獣の皮を身に纏った
__(という)
蛞蝓が全速力で
(塩をかけられないように)
駆けて来たから
でも
たわしにしか見えなかった
僕は彼に
磨き粉をかけてみた。

  「シンク・ソウ・グッド」



いつかは噛み合う
芋虫のように
宇宙を待つザクロ
Go to hellnet

  「ザクロ」



楽園に
楽園に
楽園に
朝が来た

楽園に
楽園に
楽園に
夜を投げる

  「にこにこ」



逆立ちの言葉から
爪先で
君を占う
あの少年は
左目の上空に
かすれている戦場だ。 

  「サーカス小屋」




湿地
タヒチ
大地
煽りたい

幽霊に
行く先を聞くんだよ
花のように
地図を丸めて

  「アラカルト」


星の楽譜

  紅茶猫

あの日乾いた夏の言葉のように

水源と発火してくぐる
銅線の隙間から
絶え間なく広がる行方不明の青い空


___カナリアが一通届いた、海に。

空気ごとまとう紙を掬う
一片の断片の断面の反転の散り散りの雪

まるで
海に積もるというふうに

庭の海に投げ捨てられている子等をよそに
祈るしぐさの砂の満ち欠け



ある日遥か見渡す限り
とほくの空が鳴っている
手にした速度に合わせ
泉を
箱に入れて
箱にしまう

ポケットにたくさん集めた
カタチの違う時計を蝕む夢を
ひたすら積み上げる
音の無い世界の囀り

この層のどこかに僕が居ると
そう言い訳しながら歩く
風の内に宿る
風と僕

風の奥
風とほく
風ノート
___カナリア





このペンは こちらに

       この方角に

   この方向に


ほんの少しだけ違っていただけなのに



カタチの違う時計を積み上げる



草むらを分けて
扉の前に立つと
向こうに風が鳴っている

行方不明の空のような
音の前に

黒い夜を拭き取って
三面に揺らいでいる
星の楽譜


幸福な詩人

  紅茶猫

幸福な詩人の見る夢に蟻が一匹溺れていた
幸福な詩人はただそれだけで
足枷のように
誰も知らない幸福を
引きずりながら歩いていた




0.冬七景

鳥が鳴かなくなって広すぎる空


カリン差し出している細い枝

ゴールの文字半分残るアスファルト

雀どっさり屋根の上に載っている

冬薔薇匂いの小箱包む夕

除夜の鐘迷いの森の句読点

春の蝶空の階段かたかたと 


4ページくらいで飽きる本

  紅茶猫

1.
規格外の心を留める安全ピンを
誰か下さい
規格外の夢の綻び縫う糸と針を
誰か下さい
その他大勢の
たましい
その行く先は
虹の蒸発する音みたいで
いつも美しい


2.
早馬のようにやって来た雨に打たれて
街しづか

足を引き摺りながら歩く老人の
ビロードの傘
やけに重たそうだった


半夏生

  紅茶猫


月曜日.

雨の日は言葉と格闘したくなる
勝ったことなど一度もないけれど
祈るように広場が
急速に縮んで来たら
箱庭のピスタチオに
ししゅうを見せたい


火曜日.

人生の大半を
あくびに費やしているという男に出会った
この間はその大きな口で
星を飲み込みそうになって
慌てて吐き出したら
地面の上で
しゅるしゅる回りながら消えていったって
ショートホープの燃えかすみたいだったって


水曜日.

「モナ・リザ」の絵の前に立つと
人はなぜ疑問符を無限に繰り出すのだろう
見知らぬ星のカードが
紛れ混んでいるかのように
誰かの手元に揺らぐ視線
覗くほど遠くなる
瞳の間取り


木曜日.

吊り橋の真ん中に
ノートを下げて
私を待っている。
卵サンドウィッチに
パセリを入れ忘れたような気がする


金曜日.

1キロ四方の青い空をオーダーしたのに
100均で売っているものと
あまり変わらなかったから
何だかとてもがっかりした
レジで会計する時に
108円出してしまって
自分、時が止まっているなって思った。


土曜日.

駅前の百貨店が潰れて
もう何年になるだろう
エントランスのタイルの隙間から
雑草が勢いよく伸びていた
それと
片方だけの青い靴
小鳥がうずくまるように
人の足の形を忘れていく


日曜日.

詩が詩人を不幸にするのか
詩人が詩を不幸にするのか
雨が降り出して
世界が一枚変わるように

花弁ひとひら裏に表に

砂時計の内に
繰り返される永遠

文学極道

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