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「2015年・年間選考経過」

2016-06-09 (木) 17:50 by 文学極道スタッフ

「2015年・年間選考経過」

2015年 年間各賞

 文学極道「2015年間各賞」は2015年に「文学極道詩投稿掲示板」へと投稿された作品のうち月間優良作品に選出された162作品・次点佳作に選出された148作品、65名の作者を対象として、委員スタッフによって1月28 日から4月2日の期間に選考会を開催し審議の結果、上記ページの通り決定いたしました。本選考はスタッフである光冨郁埜、平川綾真智、石原綾、望月遊馬、清水らくは、麻田あつき、りす、チアーヌ(乃村寧音)、石畑由紀子に外部協力者であるオダカズヒコ、浅井康浩を加えた計11名で行いました。
 創造大賞には選考推薦として挙がった「該当者なし」「zero」「泥棒」「熊谷」「山人」「ペスト」「前田ふむふむ」各氏の内、最終選考対象となった「zero」「泥棒」「熊谷」各氏について議論が深められ「zero」「泥棒」各氏の受賞が決定いたしました。zero氏の作品へは、レベルが圧倒的であり此の作風で良質というのは真似できないことだという意見、クオリティは相対的に他投稿者と比べて抜きんでているという意見、作者の書く心的現実が投射された世界は虚構性も浮かぶからこそリアルであり感情の豊満と深化を持つ人間が必ず浮かんでいる戦後詩などを彷彿させる学びと詩に触れた時の感動が筆致に残っているため古風な詩の様相が新たなる創造性を得ている逆説性も実に興味深く胸を打つという意見、作品強度が十分つよい作風を得ているにも関わらず「雨の日」など新たな作風にも挑戦していて行く先を見届けたいという意見、作者から学ぶことは実に多くあったという意見、キャリアがあり書き続けていることは一つの大きな才能であり現代詩における大きな功績と考えてよい作風も確立されたものがあるというなどの称賛の意見が多数ある一方、不条理な日常性のなかの皮肉な現実が書かれているけれども「昇進」はラストに疑問を持ってしまうので唐突かあるいはもうすこし書き込むべきかした方が良いように思えた、考えすぎている傾向があると思う詩を書く時もっと自由になってもよいのではないか、などの厳しい意見もありました。最終的に、殺戮だろうと処罰であろうと自動的・システム的に遂行されるという権力の自動装置が描かれている「処刑」の評価や「起きたとき」の評価が高かったことから3年ぶり2回目の創造大賞受賞が決定いたしました。泥棒氏の作品へは、一年を通して推した推さなかったなど様々だったがタイトルを見た時に内容を思い返せる作品ばかりだということに驚嘆したという意見、必ず何か一言言いたくなってしまう作品群であり面白いという意見、エンタメに特化した方であると思い読み直していったが作品から新たに見えてくるものがありエンタメを超えた超人なのかもしれないと思ったし幾つかの作品はもっと評価しても良かったのかもしれないと思い直しさえしたという意見、「ギギギギギギギギギギギギギギギギギ」の擬音が作品に効果的に働いていることや「森が森に森は森と森の森を森で森」など作者は楽しめる作品づくりを為しているので推挙するという意見、アプロプリエーションからの拡充をユーモアに見事転化しているなどの称賛の意見が多数ある一方、端正で巧い仕上がりになっているが作品それぞれが推すにはどこか決め手に欠く印象を受けるという意見、作者には批評眼がなく疑問を持つという意見、作者はまだ発展途上だと思う作風もまだ固まってないし作者自身も色々と試されているような印象があるという厳しい意見などもありました。最終的に「中原中也になりたくて」に関し、やりすぎに思える部分が多々あることもあるが痛快に感じさせる作品であり作者のギリギリな針の揺れ振れかたは本当に酷い時もあるが僅かな初動の力加減で逆にプラスに振り切れることがあり僅かな差異を意識的に行っているように思えるなどの高い評価があったことや、「警察」に関し、言葉を大事にしていてメリハリをつけており読み終わった時に「この長さでよかった」と思えるような努力がしてあり最もよかったと思う作品だったなどの高い評価があったこと、作者を推すことは冒険ではあるが発掘という意義もあると思うという意見があったことなどから、創造大賞受賞が決定いたしました。
 最優秀抒情詩賞には選考推薦として挙がった「該当者なし」「前田ふむふむ」「あやめの花」「かとり」「丘 光平」「atsuchan69」各氏の内、最終選考対象となった「前田ふむふむ」「あやめの花」「かとり」「丘 光平」各氏について議論が深められ「前田ふむふむ」「あやめの花」各氏の受賞ならびに「かとり」氏の次点が決定いたしました。前田ふむふむ氏に関しては、やや古風で独特な世界観白いもやのような詩の空間が特徴的という意見、素晴らしい作品群であり中でも「あまのがわ」は秀逸だったという意見、キャリアがあり書き続けていることも一つの大きな才能であり現代詩における大きな功績であるという意見、言語化を経て再構成されていく世界は独自性に富んでおり悲しみに満ちていて詩の様相と作者の内面が近接しているのに作品として立脚するだけのものを数的にも質的にも書ききれていることは素晴らしいと言わざるを得ない作者の詩を読むたびに生命の根を考えさせられるという意見などがあったことから、あやめの花氏に関しては、言語の水が作品という器に注がれ表面張力の瞬きを通しておりこぼれてしまいそうな危うさもありだからこそ見える美があり読むたびに形を変えて感情の共鳴を鏡化していくという意見、風を感じる美しい作品でありこれからも読ませて欲しいという意見などがあったことから、それぞれ受賞決定となりました。両名とも賛否両論あり、あやめの花氏には作品自体の出来が物足りない感じがする作品数ももっと読みたいという意見、美へとこだわることが独創的なものとして表出されていない部分があり気になるという厳しい意見もありました。かとり氏には、作者と話者の間にある一定の距離が置かれている印象があり作品の中に現されている生は客観的に見つめられ話者の内部にある出来事というより外部にあって話者と対置して存在するような仕組みに作品の構成がなされているという意見などがあり、次点決定となりました。かとり氏には、むしろ実存的な趣を感じるという意見などもありました。
 実存大賞には選考推薦として挙がった「山人」「熊谷」「zero」「コーリャ」「かとり」各氏の内、最終選考対象となった「山人」「熊谷」「コーリャ」各氏について議論が深められ「山人」「熊谷」各氏の受賞ならびに「コーリャ」氏の次点が決定いたしました。山人氏に関しては、何の違和感もなくすっと入ってくるおそらく苦労されてきた人だと思う作風もそこに込められている詩想もとても素朴だがリアリスティックに響くという意見、生活感が滲み出すばかりではなく時に詩的な飛翔によって世界を豊かに見せてくれる表現力も持たれている素晴らしさがあるという意見、作品によって出来に差があるが写実性は達人の域達している勉強になる作者だという意見、去年よりも冒険していて再読性を増していたことが興味深いという意見、インターネットが社会のコアな部分を担うような情報社会が出現してリアルということが分かりにくい時代 に入り人と自然が切り離される傾向になる現代にあって作者の詩の視点は重要な要素を持っていると感じているという意見、「ツララ」「名もない朝」など自然と人間の照応が見事であるという意見などが寄せられ、「山林の詩五篇」や「小さな 五つの詩編」の評価が高かったことから、熊谷氏に関しては、改めて読むと非常に大きな存在感を示していたことに気づかさせられる投稿数が意外に少ない事実に驚くオリジナルがあってからの模倣という形を忠実に守っていた初期の作品から次第に自己作品へと拡張していく在り方・伸び方は学ばさせられる部分が多くあるという意見、模倣が創造へと変質した瞬間の発光は眩いという意見、やはりアプロプリエーションからの拡充というものを成しており女性性のキャラクター化が作品の詩情を面白い方向へと動かしているという意見、ストレス社会に晒された“会社員”の刻印を切り取りながら映像的かつ動的で面白いと思う意見などが寄せられ、「OVER THE SEA, UNDER THE MOON」の評価が高かったことから、それぞれ受賞決定となりました。両名とも賛否両論あり、山人氏には文学的な素養として少し弱い印象があるという意見、作者は後期に作品の幅を広げているが未完成であり少し失速している感もあったという厳しい意見、熊谷氏には散文がけっこう幼稚な作りものに見える場面が多々あるという意見、イメージをロジックで操る力がもっとついて来て人生経験がついてきたらもっと面白くなる可能性があるという意見、安易に女性性といった立場から書くのではなくて、屈折してから表出する表現がとても現代的だなと感じるしぎくしゃくしているところが良いがぎくしゃくしたまま何とか収拾をつけようとする手癖みたいなものもあり今後の変化がとても気になる段階であるという厳しい意見などもありました。コーリャ氏には、上手すぎる作者の現代性が存分に背理と変わり行く人間性の動態を気づかせていくという意見、ポップの先を見ていて評価されて然るべきという意見、すさまじい切れ味であり言語の切れと往還を流出させ提示しなおしたアプロリエーションの先端に触れたことは自己が吹き飛ぶような快感であるという意見などが寄せられ、「メイビ―グレイ」の評価が高かったことから、次点決定となりました。コーリャ氏に関しては、ここからどのように変化していくのかという段階に思うなどの厳しい意見もありました。
 新人賞には該当者9名の中から「ねむのき」「ペスト」「あやめの花」各氏について議論が深められ「ねむのき」「ペスト」各氏の受賞が決定いたしました。ねむのき氏に関しては、若い印象であり無名だが有望な詩人として背中を押したい詩人でありそれに値する作品を書いている作者だと考えているという意見、幼さも感じ取れる書き方あるいは作品設定だが新人という名にふさわしいという意見、どんどんと親和力を獲得して行った方という印象があるという意見などが寄せられ、「ひかりちゃんの卵かけご飯」「列車」の評価が高かったことから、ペスト氏に関しては、作品は領域探求に特化していて尊さすら覚える詩という歴史が変動した記録を現代へと蘇らせて続きを追い求めている視覚の輝きが見事という意見、作者の作品は技法がぶれない芯を持っていたという意見、作者の作品を改めて読み込んでみると意外と社会批判を含んだ意味の露出の高い詩になっていると思う隠喩の中にも多義性を排除した一元的な方向性が見られるという意見などが寄せられ、「」「夜と星」の評価が高かったことから、それぞれ受賞が決定いたしました。ペスト氏には、案外ステロタイプの社会批判を踏襲する古めかしいメッセージだったりするので違った角度から切り込んでもらいたい気もするが若いのだとしたら想像力の欠如がどうしてもあるため何かの模倣であらざるを得ないのかもしれないという厳しい意見もありました。
 エンターテイメント賞には選考推薦として挙がった「該当者なし」「ゼッケン」「泥棒」「葛原徹哉 (ヌンチャク / イヤレス芳一)」各氏の内、最終選考対象となった「ゼッケン」「泥棒」「葛原徹哉 (ヌンチャク / イヤレス芳一)」各氏について議論が深められ「葛原徹哉 (ヌンチャク / イヤレス芳一)」氏の受賞が決定いたしました。葛原徹哉 (ヌンチャク / イヤレス芳一)氏は、「ダメヤン」 への評価が非常に高く、ひょっとしたら年間最優秀作品なのかもしれないという意見、web媒体でのみ効果を放つ作品の威力が非常に大きく作用しているという意見などがあり、受賞が決定いたしました。
 レッサー賞には選考推薦として挙がった「該当者なし」「赤青黄」「泥棒」「GENKOU」「園里」各氏の内、最終選考対象となった「赤青黄」「泥棒」「GENKOU」「園里」各氏について議論が深められ「赤青黄」「GENKOU」「園里」各氏の受賞が決定いたしました。赤青黄氏には、そこまでレス数は多くはないかもしれないが自作でも他の方のレス欄でも丁寧にコミュニケーションしている印象という意見、一生懸命ていねいに読み込んでいて決して良い読解に結ばれているわけではないが他者の詩作品を自らの限界を提示しながら解釈していくことこれは素晴らしいことだと思うという意見、《僕はブンゴクのレスを全部最初から片っ端に読んで出会ったのが最初の「文学(あえて誇張していいますね)」でしたよ》と明記した上でのレスには注目すべきものがあったという意見などがあり、GENKOU氏には、やや脱線もあるものの刺激的で面白いレスが多く作品とは違う一面がレスで見られるような気がして興味深いという意見、詩以外のことにも関心が強くて社会問題やジャーナリスティックな視点を持ってきて語るタイプであり興味深いという意見、園里氏に関しては、2015年に詩の投稿はしていなかったが評としてのレスで場を活性化させており勉強になる評を書き続けている一人と言えるという意見、長く作品を発表せず評だけだったが逆に珍しくなるくらいにネタではない作品への深い読みを行っているという意見などが寄せられ、それぞれ受賞が決定いたしました。GENKOU氏に関しては、非常に懐疑的に捉えており詩作品が良いけれどもレスに関してはさまざまなことへの関心と断言の根拠が非常に表層的に思え理論は知っているけれども対立理論が存在しているなどの深い話が出来ない部分が気になるという意見、詩作品を投稿するまで荒らし的な方なのかな、と思っていました。ただしGENKOUさんの作品はレスと違って社会の中で孤独に弱弱しくも生きていく生々しさが出ていて良いと思います。レスは頭でっかちだったり情報への信じ方も少し疑問が残ります。作品だけ書いていたら素敵な方なのにな、と私は思ったりもしています。
 文学極道年間最優秀作品賞には選考推薦として挙がった数作品の中から特に「我らの蛾」(お化け)、「詩の日めくり 二〇一四年十三月一日─三十一日」(田中宏輔)、「メイビ―グレイ」(コーリャ)、「連祷:farewell」(どしゃぶり)、「  DIARY」(GENKOU)、「 OVER THE SEA, UNDER THE MOON 」(熊谷)、「死んだ子が悪い。」(田中宏輔) 、「警察」(泥棒)、「中原中也になりたくて」(泥棒) 、「君に触れるということ」  (ズー)について議論が深められ、「詩の日めくり 二〇一四年十三月一日─三十一日」(田中宏輔)の受賞ならびに「君に触れるということ」  (ズー)、「 OVER THE SEA, UNDER THE MOON 」(熊谷)各作品の次点が決定いたしました。「詩の日めくり 二〇一四年十三月一日─三十一日」(田中宏輔)に関しては、毎年新しい詩の形を提示していくということは並大抵のことではなく今年も新しい形式での詩作品を提示してきた作者の手腕と確かな詩情には見事としか言いようがないという意見、すべての月が三十一日で終わる仮想と現実の時間と空間をコラージュする作品群の中で十三月の作品は最も凝縮されている上に読解を刺激する創造的な作品だと言うほかないという意見、「詩の日めくり」は「二月」なども「三十一日」まで統一されているところが読解のカタルシスとなったり「十三月」があるところなどが非常に興味をひかれたという意見などが寄せられました。「君に触れるということ」  (ズー)には鮮烈な印象が忘れられず独特の世界観構築も見事という意見などが寄せられ、「 OVER THE SEA, UNDER THE MOON 」(熊谷)には作者の作品世界がオマージュから一歩先に出ている特筆すべき一作であるという意見などが寄せられました。
 そして最後に、本賞受賞には至らなかったけれども十二分な磁場を示した作品と作者を各選考委員それぞれが推薦し選考委員特別賞が決定いたしました。本賞受賞者などの選考を進めていく際、いずれの作者も自身の作風を持ち推し進め深めていて議論対象となるだけの強度を作品で示しており文学極道の選考がなくとも評価が伴わなくとも自作を究めていくだろうことや年々作品が明らかに上手くなっている作者の存在が輝いていることが印象的でした。「丘 光平」氏には、静かで心地の良い作品ばかりでありアクセントをつけずに長い詩を完結させるのには技術を確かに持っているという意見などが寄せられ、「atsuchan69」氏には、改めて作者の作品を読んでみるとJ・G・バラードやダーザインを思わせるような比喩表現が出てきたり表現に深みやギミックが備わってきた印象を持ったかなり研究してきてる気がする更に伸びしろもあるという意見などが寄せられ、「草野大悟」氏には、「火葬場」は死者の肉体を見送ったあとの意識レベルでのつながり融合を繰り返し言葉で模索しているさまが印象に残った最後を夢に頼らなければ更に良い作品という意見、わかることである場所に届く言葉とわからなくても突き抜ける・どこへも行ける言葉があるなかで作者が後者になりきっていないという実りきらない部分も感じられたが非常に作品が力を持ち始めておりこの先も読んでいきたいという意見などが寄せられ、「田中恭平」氏に関しては、 バランスのいい作品を書く作者であり展開にも無理がなくけれど独自の作品で非常に気になるという意見などが寄せられ、「町田町太」氏に関しては、なにか常連さんの別のハンドルネームなのだろうかと思ってしまうくらいに上手く書きなれていて興味深いという意見などが寄せられました。「 DIARY」(GENKOU)については非常に高い評価があったと共に、投稿した際のフォントの色などのことに関してハードルを上げすぎだったのではないかという意見なども寄せられ、「物語の物語の物語」(Migikata)に関して歩いている時にふっと思い出す良作という意見などが寄せられ、「反重力どんぶり」(増田)については非常に面白く不可思議な世界を作り出せていて更に作品が読みたくなったのでどんどん書いて欲しいという意見などが寄せられ、「我らの蛾」(お化け)については構成が見事であり描写としても文字としても視覚表現としても幅広い可能性を打ち出した作品であり見事という意見などが寄せられ、「連祷:farewell」(どしゃぶり)については言葉の捉え方を刷新していっている問題作という意見などが寄せられ、「別の詩」(三台目全自動洗濯機)については投稿作品には章分けされているものも多いが複数枚構成の絵画のような効果を得られていない作品が多くそれぞれにタイトルをつけた各作でもかまわないようなオムニバスに見受けられる物も少なくない中で作者はその逆をそれこそ「別の詩」というタイトルにおいて一枚絵の中に収めていて練られた巧さが際立っているという意見などが寄せられました。選考委員一同、大変勉強させていただきました。素晴らしい作品の投稿に感謝いたします。

スタッフ一同

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