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ズー

選出作品 (投稿日時順 / 全14作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  ズー




海に帰る男の子がふえている。海に帰る途中で冬になった東京に寄り、からだを売り飛ばす男の子がふえている。海猫がコロニーをつくるビルを、非常口を確認するように稼いだ金を数えながら、のぼる。うにゃんと鳴きながら旋回を繰り返す海猫のこどもが眠る。塩分の含まれている、からっ風に乗り、海猫は屋上にコロニーをつくる。36階で毎分、お茶くみを頼まれている、くみちゃんがうにゃんと泣いている。旋回を繰り返す、海猫はこどもが眠れるようにコロニーをつくる。海に帰る途中の男の子がビルをのぼる。係長にお茶を頼まれた、くみちゃんがうにゃんと泣いている。海に帰る男の子がふえて、からだを売り飛ばす、海猫がふえている。こどもが眠りながら、からっ風に乗り、屋上に旋回を繰り返している。冬になった東京に寄り、裸になった男の子がコロニーをつくる。稼いだ金を数えながら、コロニーで眠る男の子がふえている。売り飛ばした、からだを買い戻すために非常口を確認している、海猫がふえる。冬になった東京の36階で、くみちゃんがお茶をいれている。うにゃんと鳴く海猫のこどもは係長になる夢を見ている。コロニーのある屋上までのぼる。くみちゃんに、商品を届けるために、のぼっている。旋回を繰り返す、からっ風に乗り、男の子は海に帰っていく。
海に帰る男の子の背中で、くみちゃんが、うにゃんと。


  ズー



なにもきかなくていい日がきて、かげのない広場に咲いた花をゆらし、白地のデッキシューズに蝿がとびうつってくる。ぼくはかかとをへらしてあるく癖がぬけないまま、くるぶしの辺りで染みになった蝿がしずかに目をとじたのをかんじていた。つまり、きみはぼくのひだりてで新緑のベンチに腰をかける。もちろん、きっかり4オンスのチョコレートの包装紙にむきあっていた。それから。


なにもきかなくていい日の為にやらなくちゃいけないことをあらかた片付けたぼくは廃車置場から抜けだしてきたばかりのタクシーをひろい。きみやきみ以外の人も、あさ、ミセス.カリーナの店でたべたマッシュポテトよりいくらかましなチョコレートにむきあっている広場からはなれた。
たぶんきみは、まだあそこにすわり、あたたかい地方のつづりで、カカオは、あなたにとって鼻出血をあっかさせる危険性をたかめます。と書かれた包装紙をにらみつけているはずだ。
それから。僕は。それからのことをおもうんだけど。

きのう、数週間ぶりにたずねてきて、あさになると、家のどこにもみあたらないきみのようななりで、きみやぼくじゃない人はすててしまうデッキシューズの染みになった蝿が、なにもきかなくていい日の主旋律みたいにその羽をやすめている。まだだ。まだきこえてこない。


とてつもなくたいせつなことばがペイントされた看板のまえで。そうぞうもしたことがないまちのそとで。あの花の種子がまかれない土地で。きみのかじるチョコレートがとけない場所で。ぼくはタクシーからおろされる。
なにも聴かなくていい日のまひるをすこしすぎて、染みになった蝿が目をひらく瞬間に、デッキシューズのかかとをすりへらして。


Never Ending Story

  ズー



叔父が息をひきとり、ちょっとだけかける。
バスケットコートにうみがたまり、1999年の、夏のあいだじゅう、ひどく早口の母とぼくは、スコアラーとして過ごしていた。あの黒人選手はスラムダンクをきめ、叔父の骨壷をかかえている父はハンズアップができないままピボットをしているように。ずっと浅瀬だった。
夏が終わる、優勝を逃したのは父だけじゃない。黒人は干からびた珊瑚のリングをゆらしている、そうだ。そのまま父の届かないところにいればいい。母とぼくでおしだしつづけた、うみの上、海上に。少しずつ消滅していく浅瀬は。1999年、骨壷のなかで臭くなっていた叔父をばらまいた。波打際の父がはじめて泣いた、カモメなんかいない年だった。
コートを駆けまわる丸刈りの彼。くろい塊の着地点ですべてが吹き飛んだ。きれいな選手だった。決定的なゲームをあきらめなかった父と同じくらいに尊敬できる男だった。母とぼくは最後の一滴までうみを消滅させて、スコアラーとして過ごしている。
Never Ending Story?
骨壷から叔父の臭い灰が、ずっと向こうの彼方まで、風になった。
一度だけ、叔父と話さなかった。ぼくの、なかで二つ以上の口が、それを赦さなかった。永遠に、ここにはまるいものしかない。
永遠、じゃなく、ただまるめるだけの、夏に、叔父とかわした言葉がなくなっただけだ。バスケットコートから、はじかれた、選手たちの手は、輝かしい未来なんてないと。誰がささやく、そんな奴はみんな、いいところでおわれなかった物語の。いや、本音を言えば、これも、その類なの?


目覚まし時計はまだ鳴らない

  ズー



きみのオデコはとがっている、おやすみと言うたびに、やだやだされて、それはちょうど夏の虫だったから、掛け違えたボタンが蝉のように、ポックリ病だ、ぼくはきみを目覚まし時計と間違えていた。
縞模様のパジャマだった、水墨画のようにきみをおもい描けば、薄くひかれた瞼が、ヒダリ耳までのび、そのまま赤道と交差して、光を帯びた、旅客機のかたちで、光のさきに、旅仕度はいらないけど、先ずは皺くちゃになった星空に手を伸ばす。きみの足をポークビッツだとばかりおもっていた、ぼくはかに座です。


海岸堤防の階段‐蹴込みの両隅は黒ずみ‐時々白く濁る‐ぐんぐん駆け登ると‐まだ誰も走ったことのない‐空まで続く巨大なハイウェイが現れる‐振り返ると‐せり上がった家並みに浮かぶ‐エンジンの搭載されていない‐六畳一間の小船の船底で‐大波に遭難したきみは眠っている‐今夜も夜通し救難信号を送っていた‐ぼくはひるがえり‐波打際まで一気に降りる‐砂のひとつも色を帯びずに‐でも、今はハイウェイを横切る玩具の漁船が‐どこかの釣り人に釣り上げられ‐岬の手前からふいっときえた‐しらみはじめた空で解体された‐星座群がその後を追う‐夜が溶け、墨汁のような海原に‐ぼくは飛び込んだ。


ずぶ濡れで帰る、未亡人の大家さんに見つかる、ぼくはブリーフ一枚、指先にひっかけたハイカットから点々と海岸まで続く海のにおい、きみのポークビッツをかじるイメージで、大家さん、おはよう、歯ざわりのよさに、振り返っていた、きみのオデコと息き絶えたボタンに触れる、EDWINと砂のついたTシャツを流し台にほうり込んだ、どこにも飛び立たない旅客機は疲れきっている、小船に溢れた七月に、息もできないかにが泡をふいて、船底をうろついていた。


オールサンデー

  ズー



鼻毛がでてる。
あと2ブロック行けば
僕たちの街だけど、
オールサンデー。
だれかが
そう定義して、世界中の
日曜日を集めた。
中央公園で
たむろしている
休みのない人たちを
避け。南々西に花の
ようにそよいでいて、
マザコンだった
カンガルーたちが
腰から下に二本も
足がついてたよと
傷つくのも自由だった。
なにもないとこには
なにもうまれないから。
オールサンデー。
だれかがあと
2ブロック行けば、
世界中の日曜日を
そう定義して、
僕たちの街だけど
マザコンだった休みの
ない人たちを避け、
中央公園でたむろ
しているカンガルーたち
が花のように
そよいでいて、
自由だったなにも
ないとこには、
腰から下に
足がついてたよと、
傷つくの、二本も
鼻毛がでてる、
なにもうまれない、


無題

  ズー



僕の舌はあかくなり目の上のたんこぶで買い物ができる世界一有名な夜が明けると僕たちはそうだそうだと挨拶を交わし君はながくなった舌をふたつ折りにして嫁いでしまう産まれてくるのは人間みたいですとご祝儀袋を手にたんこぶを消費しながらなにもかも壊れやすくなった街は波のようで僕たちはそうだそうだと挨拶を交わし赤い舌の人が増えてお金に困らない街は波のようで産まれてくるのは人間みたいですとたんこぶで買い物ができる僕は夜が明けるとふたつ折りにして世界一有名になった花嫁姿の君の口に目の上を突っ込んだ人間みたいです。


Mr.夏バテ

  ズー



ほそながい野菜はよく噛んで食べるんだよ
そう、きこえる
ぼくは眠っている
がじゅまるの根元
つる植物が引き倒そうと手を伸ばして
伸ばし果てたんだよ
そう、きこえる
ばあさんの声は母の面影がある
葉を食い破る虫たちが
受話器にへばりついた姉の彼氏たちが
陰毛のように扱われ摘ままれた晩に
口をひらけばアホになる
じいさんはきゅうりをつくる
きゅうりはアホじゃ
だからじいさんは牛蒡の腕を
口癖のように振り上げる
ぼくは眠っている
がじゅまるの根元に
すべて脱ぎすてる
豚足ぐらいしか食べる気がしない


星を食べる

  ズー




十一月のなかは
雪のよに降り積もる人だった
手を繋いで、繋いで、
それでもさしだした
朝や、夜を
ずっと奥へ
奥へとならべていく
ちぎれはじめた日陰を
乾いた猫のにおいと
そうして沈みこんだ雪を
蹴り飛ばしたら
飛び散ったら
手を繋ぐよに
降り積もる人のために


(無題)

  ズー



こんばんは
こんばんはといえば夜ですが
夜になってもまぶたの裏が痛みます
きっと蛍光灯のせいでしょう
蛍光灯はしろっぽくってあおっぽくって
だからやつのせいでしょう
そういうことにしておくと
夜になってもまぶたの裏が痛みます
きっとスイッチのせいでしょう
スイッチといえばたかさかさんですが
たかさかさんは鏡の前です
鏡のなかにはだれもいません
スイッチといえばたかさかさんですが
だれでもないたかさかさんは
ギチギチ歯をみがいています
金属音のようですが
ブラッシングです
ひととおりギチギチすると
まっくろなクリーム色の天井をみあげ
うがいです
うがいは食道まで徹底的に窒息寸前が
だれでもないたかさかさん流でした
わたしはというと
こどものいなくなった公園の砂場に
ふとんを敷いてもらっていますが
わたしはわたしです
しにぞこなったたかさかさんは
だれでもないたかさかさんに
手をふったのち
その手をおろさなくていい場所にある
スイッチにむかって
スイッチオンスイッチオン
こういったでしょう
それから
わたしたちのへやは
一斉にともります


(無題)

  ズー



多くの水が
忘れ去られたままに
打ち寄せる
波打ち際で

なぞり損なった
君たちが
みつめる先で
青草のにおいが凍えてしまう

名前は。名前は、
と繰り返していたちいさな子
帰っていった波のすべては
いつもそんなかたちだった

彼の家の前までで
沸騰した
多くの水が
七月生まれ


ブリッジタウン

  ズー



先ほどから父はまぶたの裏であたたかな土地を掘り返している。鉄橋から反転した母の肖像を火にくべたという。この夏僕は父の生え際に種火がかじりついたままで朝食を平行落下していますゆえ。掘り返した土地は祖母がちゃっかり氷で結びますゆえ。ゆえ子は高山病で言えば妹にあたりますゆえ。父は母の鉄橋から反転した。あたたかな土地を掘り返しては、何度となくまぶたの裏で火にくべたという肖像とこの夏の僕と。朝食は父の額で。 祖母が見当たらないとはいえ呼吸なんぞしていてはいけません。 ゆえ子 、ほらまた橋がかかりますよ!


(無題)

  ズー



おはよう
おはようといえば
あさなのですけど
たとえあさになっても
あなたはまるで
ゆきぐもか
みつろうのままで
ここまでおいでとか
あっちにいけよとか
あれよあれよと
ひぐれるものだから
わたし
きょうだって
たたたらったっらったでした


君に触れるということ

  ズー


川沿いの村が栄えるのに港は重要だった、きみは雨ふりの続く時期になるとそんなことを考えている、南の大沼で採れるギチギチの葉は売り物として扱われるのに一週間ほど天日干しを必要とした、おもうにお義母さんが私を種なし南瓜だったからだときみに言ったのはパルルの丘に立ち海岸を見つめている時だったような気がする、小さな船着き場で村の若者が脂の多い死体と五枚鱗の小魚を引き揚げた朝も雨ふりは続いて、もしかしてあと二回生まれ変わったらほんとうによかった?五枚鱗のソテーとヤイヤイを蒸してすりつぶした朝食を私はもうずっと食べているってきみは知っていた、川沿いで栄えた村は子宝にも恵まれ増水した川に子どもを流すことがあったという、 とても良く晴れた日、村はきみにおもわれていたことをわすれる、目の前の海岸には雲がひとつも見当たらない、食べるんじゃない!乾燥させたギチギチの葉は男の道具に塗り込むと効果的だと聞いた、今は雨ふりの時期で、きみのきれいに謝らなければならない


(無題)

  ズー


ぼくは楽しい、七日間あが降りつづいて、あに濡れた手のひらのなかでうはちいさな羽を震わせていた、八日目にようやくあが降りやんで、晩ごはんの仕度をはじめたぼくのつに、これはうか?と尋ねる、すると、だに立っていてわからないわと言われた、今はたのことも心配だからと続けて、だから出てこようともしなかった、ぼくは右耳がとくに楽しくて、良く聞こえないのは、あが降りつづいていた時からだと思っていた、手のひらのなかでうを温めている晩に、ずぶ濡れのたが帰ってきた、降りつづいたあが池をひろげてみずうみになった公園の、べに座り、ほを見上げて、しについて考えていたと言う、しについて何か思いつくと手のひらのような空からほがおちてきて、あのようだったと言う、そんなことよりと、ぼくが手のひらのうを見せる、とても楽しい晩で、またあが降りはじめていた、あけていた窓からあの匂いがてを差し入れてきて、あの匂いがするねと、たとつはうをやさしく撫でている、

胸のなかでつめたくなった話ばかりが凍える夏、空へと放たれた、ひたちの影が、ぼくの目を突き破って、肋骨の内側まで滑り落ちる、氷づけになったのは、やむを得ないのかもしれない、啄むものはないのか、啄まれたものはないのか、ひたちの影もつめたくなれば、羽ばたくことは、影の痛みを伝えるばかり、

文学極道

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