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草野大悟 - 2015年分

選出作品 (投稿日時順 / 全7作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


月と炎

  草野大悟

しずけさが
あるいてくる

やまゆきをふみしめ
うすあおい
ふたつのあしあとをのこして

天空につづくみちのかなたに
まんまるな月
ダム湖のなかにも
まんまるな月

ふたりが みつめあい
こころと からだが もえあがり
炎となって とけてゆく

とけあった ふたりは
はじめて ふるさとにくるまれ
いつまでも
いつまでも
ひとつになって
ふーっ、と おおきな息をはく


月と炎

  草野大悟

ゆきをふみしめ
しずけさが
のぼってくる

あおくひかる
あしあとをのこして
あのときが
あるいてくる

天につづくみちのかなたに
ひとり
果てのみずうみに
ひとり
まんまるな月が
うかんでいる

ながいながいときを
みつめあってきた

しーん、というおとのする
こんなよるだった

ひとり と ひとりが
とけあい
炎となって
銀河のかなたへとかけのぼっていったのは


空の底

  草野大悟

影が
はるかな青を見上げて
さくら色のため息をつくとき
アスファルトに貼りつけられたおれたちは
光となって舞いあがる。

ぽっと頬をそめた月が
なよなよ と
しだれかかってくるのは
樹の根元に
狂おしく眠っている
白骨たちが蠢きはじめる
こんな春の宵だ。

おまえたちよ
涙が欲しいか?
それとも怒りか?
おまらが求めるあらゆるものに
おれはなれる準備がある。

だが 
おまえらの
首を吊るあしたのためになど
涙をながしはしないし
まして
だれが太陽をさしだしてなんかやるもんか。

熱だ!
狂おしいばかりのネジの力だ!
鋏をふりかざす蟹の勇気だ!
おのれの屍を踏みこえていけ!
倒れるのもいい
泣くのもいい
愚痴だって
いっぱいこぼすがいい
空だって
大粒の涙や
人なんか吹き飛ばしてしまうような
ため息をつくじゃあないか。

風よ
空の底にすむおれたちにも
雲と手をつなぐ自由が
まだ 厳然と残されているのだ。


竹婦人

  草野大悟

補色の皮膚にくるまれた
みずみずしい
くれない色の球体、に
浮遊する
ありふれた夕暮れ

しゃりしゃり、と
浸食される空から
ふきだす
涙形の星が、
しゃぶり尽くされて
裏葉緑青の毒に化けた
蛇衣を脱ぐ

言葉たちが
まとわりつく肌に
相槌をうっている蚊帳、の
吐息がきこえる


火葬場

  草野大悟

股関節のなかで
硬質なまるい宇宙が
つや消しの歩みとなって
冷却していた。
(恥ずかしげ、に

船賃六文
、なんて
いまどき
、ないから。
(百五十円、でどう? 船頭さん

二年まえに
牛がわたった河原
、の向こうには、

いちめんのはな、はな、はな、
花、いちめんの。
(そよぐ、せいじゃく

迎えにもこない牛をさがす煙は
すがたのない森をただよい、
空の底をぬけ、
ぐれんの炎は、
八十八年の喉仏を
ベージュ色に
灼熱する。
(うつむく言葉たちよ

腰の曲がった
煙と牛の笑い声が、
手をとりあって昇ってゆく
あかね色の風のなか、
今日も、
目覚めている
、という夢をみている。


花氷

  草野大悟

とけてゆく
森の、
やわらかな落ち葉のうえに
ゼリー状のものに包まれて、
ふるふると
産みおとされていた
ことば。
(しんでしまう

夏の中に立っているきみ
、と
氷のなかの
ことば。
(とけてゆく


  草野大悟

(欲情する樹々
蜘蛛が
雨糸をゆらすと、
針の穴ほどの
光たちが
きらきら
溶けあい、
うっすらと
午前十時五十分の星座が
現れる。

(白濁する森
目覚めている
、という夢をみていて
逃げ遅れた妖精が
尻尾を踏まれ
魔物、と
よばれるようになったとき、
環のまん中で
磔にされていた
太陽の骸がわれて
虹がうまれたんだ。

(充満するオゾン

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