文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

7月選考雑感(平川綾真智)

2008-09-12 (金) 15:55 by a-hirakawa

今月の選考も勉強になりました。
ありがとうございます。

選考の際、様々な意見が交わされます。それは、それぞれの投稿作品単品に関してに限らず、投稿されて来ている作品の偏り方や選考委員の自戒など多岐に渡ります。今月、良い作品はもちろん多くあるのですが、選考にあたり再読を要したり判断を保留する作品が少なく感じた、という意見も出ていました。作品に臨むにあたり良い意味での悩ましさが減り、過去に入選歴があっても今月まったく拾えない作品を書いているかたが何人もいて少々戸惑ってしまった、という意見もありました。また、巷には優れた抒情詩・情景詩を書く人がたくさんいるのに、なかなか文学極道には出てきてくれない現状がある、これは、やわらかい良詩を文学極道の選者はまったく評価しない傾向が高いからではないか、という意見もありました。なんでもかんでも書き込めば偉いわけではなく、淡さの美も存在し、ありきたりでも、独創性がなくても、巷に山ほどあるようなものでも、良いものはもっと良いと評価されるべきであり、胸を打つものや、人様に伝える人間力のあるもの、書かずにはおられない何かを持っている作品をもっと大事にしていくべきではないか、という意見もありました。選考の度に毎回、意見は交わされ議論に発展していきます。それぞれの作品の芯に凝縮された濁点に応えるためにも、選考の場がより伸びやかで活気ある場であれば、と思っています。これからもよろしくお願い致します。

さて今月、月間優良賞に推挙された作品の中でも、特に、
2875 : プラタナス  黒沢 ('08/07/04 00:50:57) は、飛び抜けた点数を叩き出していました。プラタナスという、使い古された題材をうまく消化していて、『こころの弱い妻』の言葉とその扱いについては賛否あるかもしれないが、この作品が『妻のこころの弱さ』について語るものではなく『こころの弱い妻に宣告する男』についての詩である限りは、この言葉と扱いは間違っていない、など、手放しではないものの、とかく絶賛されていました。作者の苦心に添えれば、と思います。

次点佳作作品に触れていこうと思います

2912 : ミンミ十字路で、ぼくらは微笑んだ  Canopus (角田寿星) ('08/07/23 07:31:00)
は、テーマと言葉の温度はうまく噛み合っていて良いと思うが、淡さが結実しておらず、もっと多くを求めてしまう、という理由から次点に留まりました。しみじみと奥の方が伝わって来る緩やかさが作品として、確かにあるのですが、膨らませられる情感を留まらせてしまっている印象を、個人的には受けました。前に進むための過程が見えてしまうようで、文章が少しのめり込ませてくれなかったような感覚です。しみじみと良い部分が確かに存在しているので、そこへともっと誘って欲しかったのかもしれません。

2890 : 八十八夜語り  吉井 ('08/07/11 23:56:37)
は、最後まで丁寧だけれども、そこへと意識を向かわせる工夫がもう一歩必要に思える、という理由から次点に留まりました。下手ではないけれども、読み返す気に全くならない、という意見もありました。読み返すだけの魅力、そこが課題になってきているのだと思います。現代俳句的なものを感じたりもしたのですが、それは明治時代においての全く新しい感覚としての現代俳句的な感覚であり、この作品はそう考えると、停滞した詩情の中にあるようにも感じました。もっと先に行ってもよいのではないでしょうか。
2913 :  八十八夜語り ー盛夏ー  吉井 ('08/07/25 00:02:46)
も、注目されていましたが、端的に面白くなく、気になるけれどもそれだけに留まっている、という理由で選からは漏れてしまいました。丁寧に書かれているので、もっと魅力を纏っても良いはずです。いつか最先端の大傑作へと全てが昇華されることを願っています。

2895 : 唯の夢 その四  菊西夕座 ('08/07/12 22:21:02)
は、すべての連が過不足なくまとまっていて、言葉の結晶度が高くイメージの連鎖が空間を造り出せているけれども、作品構造として、二連の無駄さ、四連、五連の事象並列が奥まらせており、素晴らしい最終連を削いでしまっている、という理由から、次点に留まりました。優良へと強く推す声もありました。立派なシュールレアル系の作品であり、たとえばキリコとかミロとかの絵を文章にしたらこんな感じになるような印象を受けた。文体に無駄がなく端正で、2、3、4、5連は、それぞれがバラエティ豊かな空間を造っていて、6連目ではこの作者には珍しく、堅固な「空間」を造ることに成功している。7、8連は、リズムもイメージ伝達も擬音表現ばっちり決まっている、という大絶賛の声もありました。個人的には、この作品、最終連だけが凛と輝いていて、他の部位は、そこを持て余しているように感じました。「幻想という世界にとらわれているとき/唯の外界はかたい卵のように/友好的でおそろしく/嘘つきな自衛のかたまりだった」ここは真に輝いている気がします。一連での表出が、三連で高まるはずなのだけれども二連が足を引き、展開の平坦さへと繋がり、最終連まで持ってこれていないように思えました。しかし、作者の超越しきっている感覚には本当、脱帽するばかりです。

2872 : 日没  鯨 勇魚。 ('08/07/03 20:17:27)
は、センスが漂っており、優良作品より美しいとさえ思える部位もあるけれども、目立つ拙さが気になる、という理由から次点に留まりました。『@依存』は、特に印象的だ、という声もありました。ともすればありがちすぎる場所へと着地してしまいがちな内容を、イメージの共有を意識しやわらかさを保ちながらも独自のことば展開で構築を試みているところに好感が持てる、など好意的な意見が多かったです。一方、「人間との関係に似ている」「能動と受動が遊泳している」など、もっと言葉選びが出来た場が大きく魅力を損ねてどっちつかずの印象を受ける、十二分に獲得している市民権ともいうべき詩的イメージに寄りかかりすぎていて中身がない印象だ、という声もありました。自己と非自己の境界をうたい、融合を切望する、という作品は最近とても多いようです。一歩先で咲いて欲しい、作者なら先を咲かせてくれるのではないか、という期待を確かに感じる作品なので、これからの作品も楽しみにさせていてください。

2877 : 屋根の上のマノウさん  Canopus (角田寿星) ('08/07/05 08:10:36)  
は、導入部分のふくらみが素晴らしいけれども、後半にかけてしぼんでいき、そこに難がどうしても見えてしまう、という理由から次点に留まりました。この作品は、今月最も美しい詩情を描き表している、という声もあり、優良に推す声もありました。全体の静かな詩情を壊すほど悪くはないけれども陳述が唐突に感じられたり、少し詩を意識しすぎているように感じられたり、少しの引っ掛かりがふくよかさの足を止めている印象があったので、細部までもっと惹き込んでもらえると、傑作としてより包んでくれたのかもしれません。

2927 : 風底  DNA ('08/07/30 02:26:46)   
は、十二分に巧いけれども、読み手を説得する要素がなく、単なるモノローグに留まっている、という理由から次点に留まりました。内容と書き方が調和はしています。情感も確固としてあります。ここから雪崩れ込んでくる内実が少し滑りが悪く、それが効果的ではない気がしてもどかしい印象を持ったのかもしれません。

2870 : アカリ  みつとみ ('08/07/02 22:35:34 *7)
は、選考委員全員が点数を入れている作品でした。しかし、優良へと推す声はありませんでした。描写は相変わらず秀逸で、推敲後、確かに作品強度を増した素晴らしい作品だと思います。弱っていく狼や倒れている青年の俯瞰な描写の手触りは作者独自のものが確かに醸しだされているのですが、「この魅力は詩全体の構成のなかで目立つ結果になっていない、それが難点」という声がありました。初め「一作品」としては弱いと感じたが、推敲後は、強さを獲得しかけるところまで来ているような気がした、という意見もありました。連作でこそ真価が発揮されるだろうことは承知だが、単体でも充分魅力に溢れている作品だ、という声もありました。選考委員全員が、もっと上へと確かに行ける作品であり、そこへと到達させることが出来る作者である、ということをこの作品から感じ、もっと多くを求めたようです。改稿版、読みたくて読みたくてたまりません。

2876 : コントラスト・サンダーマン  ぱぱぱ・ららら('08/07/04 17:15:53)
は、巧いけれども、冷めてしまう薄さが気になる、という理由から、次点に留まりました。アイデアも平凡なので、もう少し情感や距離を活かしていって欲しいです。

2915 : (無題)  マキヤマ ('08/07/25 12:10:04 *1)
は、器用だけれども、他の作品の、こじんまりとした真似事のような印象を受ける、という理由から、次点に留まりました。詩作品としてはありきたりなものですが、それなりの情感はあると思います。何かこの作品ならではのものが一つで良いので欲しいような感覚に包まれました。

2917 : 海と天ぷら。  おっさん ('08/07/26 17:12:18)
は、ダサい良い味わいを出しているけれども、変な行分けや決して巧くはない部分が気にはなる、という理由から次点に留まりました。個人的には、作者から素直に出てきている詩、だという点に魅力を感じました。苦しみからの解放を決して望んでおらず、一人になっても苦しいままであるところを書いてある部分や、幸せが天ぷら程度っていうところも、ダサくてよいな、と感じました。深読みすれば、意外と現代社会を痛烈に書いてある作品にも思えます。考えすぎなのでしょうが。

2869 : 月影の出口  殿岡秀秋 ('08/07/02 22:10:15) 
は、五連の切断が勿体無く、成功していない、という理由から次点に留まりました。それぞれ良さそうな文章が膜の上で漂っているだけに止まっていることが気になります。もっと惹きつけることが出来るはずの作品に思えます。

惜しくも選からは漏れましたが、その他、

2868 : 本家にて  祝祭 ('08/07/02 07:50:28 *1)    

2888 : 焚書坑儒ネオ  宮下倉庫 ('08/07/11 20:56:26 *1)  

2891 : ロックスクリーマー  黄色い花 ('08/07/12 01:21:12) 

2866 : 星は巡る  ミドリ ('08/07/01 14:04:24) 

2925 : 木乃伊の人魚姫  右肩良久 ('08/07/28 20:59:48)  

2880 : 赤城 君 Apres quoi...  はなび ('08/07/07 14:25:47)  

2864 : 野球の規則  DNA ('08/07/01 02:35:37)  

2885 : 下呂袋  蒲田のお狼 ('08/07/09 22:03:09)

2903 : モンスターハンター  蒲田のお狼 ('08/07/16 08:29:10 *1) 

2914 : 豚汁  ともの ('08/07/25 11:34:54 *1) 

2902 : 朝のしくみ  凪葉 ('08/07/15 15:14:37)

2919 : 食事  田崎 ('08/07/26 23:13:45)

2886 : 「ハンプティダンプティ」  桐ヶ谷忍 ('08/07/10 17:24:47) 

2911 : 帰路  犀樹西人 ('08/07/22 15:32:05)  

2924 : 島原  no problem  寒月 ('08/07/28 18:42:10) 

2918 : 唯の夢 その五  菊西夕座 ('08/07/26 21:58:43) 

2897 : 芝刈り男  ハント ('08/07/14 00:04:53 *2) 

2909 : 三番目の小さな月  ぱぱぱ・ららら ('08/07/19 04:44:30) 

2908 : 重要な岩  りす ('08/07/18 23:37:44) 

2910 : お父さん  カノン ('08/07/19 07:34:05 *1)

などが注目されていました。

以上です。

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7月分発表

2008-08-25 (月) 20:11 by 文学極道スタッフ

2008年7月分月間優良作品、次点佳作発表になりました。

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6月選考雑感(平川綾真智)

2008-08-13 (水) 16:57 by a-hirakawa

今月もとても勉強になりました。
ありがとうございます。

選考過程で、技巧的に優れていることも必要条件かもしれないが詩として強くひきつける魅力がある勝れた詩かどうか、ということが毎回、命題として立ち憚ります。技術のある人が技術通りに書いた作品も評価されることはありますが、その一方で、愛嬌というか、綻びの妙、というところが見られる作品が評価されることもあります。上手でも面白くない作品は評価されないということもあります。
今回、優良になった作品でも評が割れた作品は多くありました。
2838 : Allergie  はらだまさる ('08/06/16 22:54:04)は、解りやすく、掴みやすい技術を持った作品です。しかし、人工的なキャラ芝居が細部までを包んでいることが気になる、という意見もありました。この詩は大事な何かが不足しているので、作為的に多くのことをやっているけれども上手くない、という意見もあり、一方で、一所懸命に詩に向っている姿勢が伝わってくる確かな作品だ、という意見もありました。優良に推挙されましたが、内面も、対外的にも、もっと強くなれるのではないか、という思いが残される作品なのかもしれません。
2862 : 空ばかり見ていた  はるらん ('08/06/30 02:14:19)は、平易な文章の中に詩情がきちんと匂い立っている作品です。しかし、詩情を出すよりも物語をただ単に作ってみたかっただけの作品に見える、という意見や、バランスを崩すことを恐れていて全く踏み込めていない作品に感じる、という意見もありました。優良に推される一方で、こういう文体は一つの世界を確かに映すのだが、そこから別の広がりというものはなかなか生み出せない、という意見も挙げられていました。詩の難しい所なのかもしれませんが、はるらんさんが飛躍するには、ここからどうするかなのかもしれません。詩の裾野を広げる視点を持つと作品強度は格段に上がるのかもしれません。

投稿作品に関して、技巧だけ身につけてみたせいで、なんだかよくわからないジャンクになりさがっているという作品が多くなっている、という意見もありました。自戒も込めて記しておきます。

次点佳作作品に触れていこうと思います。

2819 : 憂欝な週末の夜  ぱぱぱ・ららら ('08/06/06 19:03:58)
は、スタイルとしてはいいけれども、ヴィジョンのつたなさがところどころ表現として顔を覗かせてしまっているという理由から次点に留まりました。投げやりに感じられるという意見もありました。優良に推す方もいましたが、「一」の面白さがどんどんと萎んでいっていったように感じられます。「一」を作品内で越えていくことが、作品によりよい魅力を与えたかもしれません。

2837 : 漂流する箱  右肩良久 ('08/06/16 21:49:31)
は、良い作品なのですが、最後と箱が全くもって活きていない、と理由から次点に留まりました。やたら説明口調の文章が多い、という意見や、書ける人だということがよくわかったけれども、この作品では結実していない、という意見もありました。方法論も面白いものを持っているように思えるけれども、この作品では炸裂していない、という意見もありました。個人的には、このような種類の作品はどちらかというと好きなので、もう少し整えて欲しいな、と感じました。あるいはもっと粗くても面白かったのかもしれません。

2806 : アフリカの匂いがする  ミドリ ('08/06/03 17:38:02) 
は、安心して読めるのですが、突出してよいところもない、文脈の深みがない、という理由から次点に留まりました。ミドリさんに関しては選考の際、皆が悩んでいるようです。詩なんか読まない人が面白いと思う作品を書き、そしてそれが成功していることも解ります。例えば、携帯小説しか読んだことがない、とある人が文学極道の月間優良賞に選出された作品などの多くを三行も読んでくれないことに対して、ミドリさんの最近のヘタウマな詩を「これ面白い!」と素直に楽しんでいたりします。ミドリさんについては実存大賞を取ったときの完璧な流麗さが頭にあるので近年の作品はいいかげんに作られた物に見えますが、「文学」という偏見の無い者、堪え性を持って文章を読んでくれる人ではない人たちに開かれる可能性、現実における可読性の高さは測り知れないものがあるかもしれない、という意見など、選考の際多くの議論がなされました。

2845 : 無題  マキヤマ ('08/06/18 23:39:22)
は、古風な抒情があり、端麗で流美だけれども、そこ止まりの感で、過去の優れた作品のごく表面的な模倣にさえ見えてしまう、という理由から、次点に留まりました。遍く存在者に付きまとう無の顔、存在は死にくるまれている感覚が描き出されていて、死者達の痕跡と共にある命の連鎖、此処と此処ではないどこか、或いは此処と彼岸をも接続するイメージが見事だ、という意見もありました。一方で、器用なだけで作者の創意は疑わしい、という意見もありました。もっと突き詰めて書いてもよかったのかもしれません。

2811 : 日々のささくれとやさぐれと春一番  eug ('08/06/04 16:42:43)
は、最初の2行の出だしが鮮烈だったが、とてもオリジナルを感じたが、後が続いていない、という理由から次点に留まりました。私は、この作品、どうでも良い魅力が、格好悪く漂っていて、結構良いと思いました。変に忘れられない作品ではあると思います。

2832 : エデン(改)  はらだまさる ('08/06/14 23:58:25 *2) 
は、それなりに出来はよいのですが大した作品ではない、という理由から次点に留まりました。この投稿は、過去作の再認識、とのことでしたが、このくらいにしておいて、今の、はらださんの力をぶつけてほしいという願望を得た、という意見もありました。サーカスに行けば足りることや、テレビを付ければ済ませられることを追い求めることも面白い作品を産み出すかもしれませんが、もっとその前に大切なものがあるのかもしれません。毎回の力作、その姿勢は素晴らしいと思います。

2822 : グロウズの祝祭  田崎 ('08/06/09 07:19:03)
は、最後の連だけとても美しいのが救いだけれども作品独自の魅力や面白さに欠ける、という理由から次点に留まりました。病的な光を持ち出すなど、とある本の影響があまりに露骨に出ているように思える、という意見もありました。平易な作品か難解な作品かで言えば難解な方の作品であり、どんな難解な詩でも切り込む場所というものを持っていると、そこからイメージが膨らんできて読めてくるのだけれども、この詩には、それがないように思える、という意見もありました。

2843 : 無題  プラスねじ ('08/06/18 06:52:42)
は、意図してのチープさが可愛らしく面白いのですが、残るものが無さ過ぎる、という理由から次点に留まりました。私は、紙に書かれてしまって全てを表せる自分という存在を見事に表せていて、消費されてもそれはそれで良い作品なのかな、と思います。びっくりするくらいに点数が悪かったのですが、優良でも良いという意見もありました。

2854 : はらり (改)  ともの ('08/06/23 15:13:53 *1)
は、作者が書いている以上の情感が間違いなく出てしまっているけれども言葉がこなれておらず下手である、という理由から次点に留まりました。四連を変えれば秀作になるかもしれません。文章自体からオーラを感じ取れそうな可能性は感じるけれども、そこに留まっているに過ぎないという意見もありました。作品内で作者が織り込もうとしていること以上のものが放出されているようにも感じましたが、作者が言葉や文章の流れに振り回されているだけかもしれません。どんどん書いていって欲しいですが、その度に立ち止まって見つめなおしていって欲しいと感じます。長く詩を書いていくであろう作者ですから。

2861 : 夢をかなえる  軽谷佑子 ('08/06/28 10:33:45)  
は、イメージとして分るが削ぎ落としすぎで、題材のわりに迫ってくるものが薄まってしまっている、という理由から次点に留まりました。この作品は選考委員のほぼ全員が点数を入れてました。しかし優良には推す者は一人も居らず、優良へと推さない理由が「軽谷さんはもっと魅力ある作品が書ける」というもので統一されていたように感じます。「夢をかなえる」とても引力があるなかなか書けないタイトルで進み始めているので、一定以上ではあるのですが、近寄り、覗きたくなる緊張感と脆さが共生している作者の作品として、もっと多くを望んでしまったのかもしれません。あるいは、辿りつけなかったのかもしれません。雰囲気の良さは、やはり素晴らしいです。

2825 : よそ見  ともの ('08/06/10 22:15:18)  
は、場面と文脈の織り込み方はなかなかいいけれども、まだまだ工夫が足りない、という理由から次点に留まりました。上手くはないけれども、それなりの情感はある、詩がある作者なのかもしれない、工夫する楽しさが作家にとって良い方向に成長させてくれるものになればと思う、など、実に様々な意見が出ました。個人的に1、2、3、5、6、7連はなかなか感情と理性の境が溶けていて惹きこまれました。しかし「やがて水槽に蓋がかぶされて、/世界が真っ暗になる。//もう、逃げられないね。/もう、逃げられないよ。」こんなところで落ち着かないで欲しい作品ですし、最後の一行ももう少し考える必要があるのではないか、と思います。ただ、皆なにか漠然とした期待を作者に対して持っているようです。

2835 : ネズミの上司  はるらん ('08/06/16 05:31:23 *1)
は、ストーリーとしては面白いけれど、細部に技術が届いていない、という理由から次点に留まりました。それなりに出来は良いとは思います。しかし、もう少し自身の情感と作品内で対峙しても良いのでは、とも思います。モチーフをもっと確かに握ることが出来るのではないか、巧さが出てきた分バランスに気を配りすぎる、そんなぎこちなさも出てきてしまっている、という意見もありました。はるらんさんの、このところの進捗状況には、目覚しいものがあると感じている、という意見もありました。後、もう少しなのかもしれません。

2817 : 夜の空になる  結城森士 ('08/06/05 22:28:48)
は、ストーリーテラーとしての力が確かにあり、イメージの流れも可能性を感じさせるけれども、ところどころの文章が下手さが損なってしまっている、という理由から次点に留まりました。個人的に、作者の投稿作品の中では初めて詩があったように感じます。一連、二連、十連、十一連は難ありに思えます。時間の使い方と惹きこみ方が上手くいっていない印象です。粗削りな部分がそれなりに働いていて作品の魅力をそれなりにまとめてはいるのですが、それが筆の腕で出ることにこれから期待します。

2804 : 八十八夜語り ー晩春ー  吉井 ('08/06/02 01:04:38)  
は、きっちり作りこんであるけれど、形式的に過ぎるのが難点で、作者のオリジナリティやビジョンの投影という線でみるとやや弱い、という理由から次点に留まりました。私は、七夜だけを作品にもう少し膨らませて単独で投稿したら、間違いなく優良になったように感じました。「が」などの助詞にもう一工夫いるかもしれません。人間の滑稽さとそれでも現存する世界が混ざりあうことはなく、しかし互いに寄り添いながら進むしかない感情を描いてある奇作です。ただ、もう少し魅力が欲しいです。

2805 : 河川  DNA ('08/06/03 01:52:28)   
は、右側の文章はかなり美麗だけれども、レイアウトが効果的ではなさすぎる、むしろ作品を潰している、という理由から次点に留まりました。それぞれの残骸がそれなりに働いていて、岡崎京子の視点をきちんと広げられてはいる、とは思います。

2808 : かえらない  草野大悟 ('08/06/03 23:11:03)   
は、エッセンスとしての強烈な力があるが、文字の効果が読む前に遠ざける部分がある、という理由から次点に留まりました。読み取る人、取らない人、分かれてくる作品だと思う、という意見が印象的でした。

2841 : 赤い酒  soft_machine ('08/06/17 01:31:13)  
は、それなりに出来はよいけれども、仕込みが甘い、という理由から次点に留まりました。石ノ森さん自体がパロディーの天才で、このような作品を既に自身で作っているので、それを超えることは大変なことなのかもしれません。

惜しくも選からは漏れましたが、その他、

2844 : (無題)  犀樹西人 ('08/06/18 17:14:02)  

2813 : よみがえれ  殿岡秀秋 ('08/06/04 23:04:28)  

2821 : テクノポップ・ナイト  ハント ('08/06/09 00:43:41 *10)   

2826 : 昼下がりの午後  ぽこ珍 ('08/06/11 08:56:44)  

2856 : 初夏の夜  やす ('08/06/23 16:44:13)  

2823 : 朝の方から  DNA ('08/06/09 09:47:23)   

2860 : 早春の雲が流れる  右肩良久 ('08/06/27 22:07:56)   

2831 : ワイヤードの庭 7 Garden of wired・・・Club Michelangelo  shiryu ('08/06/14 16:38:42)  

2858 : ……し、  午睡機械 ('08/06/26 15:23:44)

2847 : ちちつちくさりて  藻朱 ('08/06/19 23:16:48)

2815 : 桃  犀樹西人 ('08/06/05 03:57:54 *2)  

2833 : [ふたつがひとつとひとつに vol.1.02]  香瀬 ('08/06/16 00:01:40)

2850 : zero G  吉井 ('08/06/21 21:33:08)

などが注目されていました。

以上です。

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6月分選考雑感

2008-08-03 (日) 16:20 by ダーザイン

先ず発表時に私のケアレスミスが繰り返されたことに謝罪を。
で、思いつくことを幾つか。選者の間で評価が割れることはよくあるのだが、今回も割れは大きかった。そのうち何点か拾ってみる。
まず、鈴屋さん。あなたの行方(1〜5のうち1・2・3)
私はこのところトンと少なくなった読み返す気になる作品だと思ったのだが、次点にとどめる人が多く、構成・構文がなっていない、ほんの僅かだが肝心なことが書き落とされている、という厳しい意見が多かった。私的には、ふざけたレスをいれていたので混じれ酢をここで。社会闘争とかじゃなくて、森羅万象(ありとあらゆるもの)の一つ一つが命の焔をもって唄う、生命潮流の中で一瞬跳ね上げられた泡沫が我在りと唄う、その唄を革命と名指すことに違和感を感じない、そんな詩だと思った。
テクノポップナイトハントさん
選外となったが面白かった。お洒落でポップで良いと思う。ゼリービーンズを使いまわしすぎたかな。お洒落な作家というと、稲垣足穂という人がいる。大昔の人なのだが、21世紀に読んでも未来の作家が書いた作品のように新しい。ゼリービーンズのようなやわらかい物から鉱物、借金まみれの貧乏暮らしから億光年後の衆生救済まで彼のイマジネーションと技巧は実に懐が深い。
無題プラスねじさん
可愛らしいくおもしろい。意図してのチープさだと思う。良いと思ったが、他の選者の評は芳しくなかった。無題であるとか、もっと書き込めたであろうに投げやりな様子とか、 拾うべきでない理由は多々あろう。面白いところと繋ぎと感じられる部分の投げやりな様子。
風の音草野大悟さん
このところの草野さんの変化は良いことだと思う。もともと強度のある断片を書いていたのだが、あくまでも断片であった。だがこのところの草野さんは単独の作品として読めるものを作り上げている。
グロウズの祝祭田崎さん
独特の感性、オリジナリティーはある。が、何故現代詩手帳やユリイカは甘いのかな。文学極道にも田崎さんを高く買う人はいるのですが、まっとうな作文能力を開陳できないでいる現況、私は手放しで評価することはできない。この作品については最後の連は美しかったです。が、硬質を目指す文章は特に、上手下手が目に付きます。ま、人の意見を聞く奴ではないことは承知しているので、我が道を行ってくれたまえ。
夢をかなえる軽谷佑子さん
書かないことによって書くという姿勢が極端に過ぎたという意見が多かった。私にも内向し過ぎに見える。だが、軽谷さんには今までとてもたくさんの読む喜びを与えていただいたし、芸術は商売ではないので、今、
「わたしの持った、あるいは見た、イメージをできるだけ損なわないように書きました」by軽谷佑子さん
ということであれば、なにも人様にあれこれ言われたからといってかまうことはないものと思われる。自分に正直であることはとても肝心なことだ。
(この言葉は高い水準の文章を書いてきた実績のある人にだけ投げかけるものであって、田崎さんについてはこれに該当しない)

最後にはらだまさるさんと吉井さんに。
大変真面目でまっとうな文章を書こうとしておられるし、実際かなりの高水準の文章を書いていると思うのだが、今ひとつ面白くないです。貴殿らは真面目過ぎるのではないか。シュールレアリズムやSFの手法を駆使するなど、鮮烈なイメージの導入、あざとい手技の導入を求める。一皮剥けて欲しい人たちです。

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6月分発表ミス(右肩良久さん)

2008-07-27 (日) 21:17 by ダーザイン

2008年6月分月間優良作品・次点佳作、ダーザインのケアレスミスで次点に入賞していた右肩良久さんの「漂流する箱」をアップロードし落としていました。
右肩良久さん、皆様、申し訳ありません。深くお詫びいたします。
6月分月間優良作品・次点佳作

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