文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

7月選考雑感(平川綾真智)

2008-09-12 (金) 15:55 by a-hirakawa

今月の選考も勉強になりました。
ありがとうございます。

選考の際、様々な意見が交わされます。それは、それぞれの投稿作品単品に関してに限らず、投稿されて来ている作品の偏り方や選考委員の自戒など多岐に渡ります。今月、良い作品はもちろん多くあるのですが、選考にあたり再読を要したり判断を保留する作品が少なく感じた、という意見も出ていました。作品に臨むにあたり良い意味での悩ましさが減り、過去に入選歴があっても今月まったく拾えない作品を書いているかたが何人もいて少々戸惑ってしまった、という意見もありました。また、巷には優れた抒情詩・情景詩を書く人がたくさんいるのに、なかなか文学極道には出てきてくれない現状がある、これは、やわらかい良詩を文学極道の選者はまったく評価しない傾向が高いからではないか、という意見もありました。なんでもかんでも書き込めば偉いわけではなく、淡さの美も存在し、ありきたりでも、独創性がなくても、巷に山ほどあるようなものでも、良いものはもっと良いと評価されるべきであり、胸を打つものや、人様に伝える人間力のあるもの、書かずにはおられない何かを持っている作品をもっと大事にしていくべきではないか、という意見もありました。選考の度に毎回、意見は交わされ議論に発展していきます。それぞれの作品の芯に凝縮された濁点に応えるためにも、選考の場がより伸びやかで活気ある場であれば、と思っています。これからもよろしくお願い致します。

さて今月、月間優良賞に推挙された作品の中でも、特に、
2875 : プラタナス  黒沢 ('08/07/04 00:50:57) は、飛び抜けた点数を叩き出していました。プラタナスという、使い古された題材をうまく消化していて、『こころの弱い妻』の言葉とその扱いについては賛否あるかもしれないが、この作品が『妻のこころの弱さ』について語るものではなく『こころの弱い妻に宣告する男』についての詩である限りは、この言葉と扱いは間違っていない、など、手放しではないものの、とかく絶賛されていました。作者の苦心に添えれば、と思います。

次点佳作作品に触れていこうと思います

2912 : ミンミ十字路で、ぼくらは微笑んだ  Canopus (角田寿星) ('08/07/23 07:31:00)
は、テーマと言葉の温度はうまく噛み合っていて良いと思うが、淡さが結実しておらず、もっと多くを求めてしまう、という理由から次点に留まりました。しみじみと奥の方が伝わって来る緩やかさが作品として、確かにあるのですが、膨らませられる情感を留まらせてしまっている印象を、個人的には受けました。前に進むための過程が見えてしまうようで、文章が少しのめり込ませてくれなかったような感覚です。しみじみと良い部分が確かに存在しているので、そこへともっと誘って欲しかったのかもしれません。

2890 : 八十八夜語り  吉井 ('08/07/11 23:56:37)
は、最後まで丁寧だけれども、そこへと意識を向かわせる工夫がもう一歩必要に思える、という理由から次点に留まりました。下手ではないけれども、読み返す気に全くならない、という意見もありました。読み返すだけの魅力、そこが課題になってきているのだと思います。現代俳句的なものを感じたりもしたのですが、それは明治時代においての全く新しい感覚としての現代俳句的な感覚であり、この作品はそう考えると、停滞した詩情の中にあるようにも感じました。もっと先に行ってもよいのではないでしょうか。
2913 :  八十八夜語り ー盛夏ー  吉井 ('08/07/25 00:02:46)
も、注目されていましたが、端的に面白くなく、気になるけれどもそれだけに留まっている、という理由で選からは漏れてしまいました。丁寧に書かれているので、もっと魅力を纏っても良いはずです。いつか最先端の大傑作へと全てが昇華されることを願っています。

2895 : 唯の夢 その四  菊西夕座 ('08/07/12 22:21:02)
は、すべての連が過不足なくまとまっていて、言葉の結晶度が高くイメージの連鎖が空間を造り出せているけれども、作品構造として、二連の無駄さ、四連、五連の事象並列が奥まらせており、素晴らしい最終連を削いでしまっている、という理由から、次点に留まりました。優良へと強く推す声もありました。立派なシュールレアル系の作品であり、たとえばキリコとかミロとかの絵を文章にしたらこんな感じになるような印象を受けた。文体に無駄がなく端正で、2、3、4、5連は、それぞれがバラエティ豊かな空間を造っていて、6連目ではこの作者には珍しく、堅固な「空間」を造ることに成功している。7、8連は、リズムもイメージ伝達も擬音表現ばっちり決まっている、という大絶賛の声もありました。個人的には、この作品、最終連だけが凛と輝いていて、他の部位は、そこを持て余しているように感じました。「幻想という世界にとらわれているとき/唯の外界はかたい卵のように/友好的でおそろしく/嘘つきな自衛のかたまりだった」ここは真に輝いている気がします。一連での表出が、三連で高まるはずなのだけれども二連が足を引き、展開の平坦さへと繋がり、最終連まで持ってこれていないように思えました。しかし、作者の超越しきっている感覚には本当、脱帽するばかりです。

2872 : 日没  鯨 勇魚。 ('08/07/03 20:17:27)
は、センスが漂っており、優良作品より美しいとさえ思える部位もあるけれども、目立つ拙さが気になる、という理由から次点に留まりました。『@依存』は、特に印象的だ、という声もありました。ともすればありがちすぎる場所へと着地してしまいがちな内容を、イメージの共有を意識しやわらかさを保ちながらも独自のことば展開で構築を試みているところに好感が持てる、など好意的な意見が多かったです。一方、「人間との関係に似ている」「能動と受動が遊泳している」など、もっと言葉選びが出来た場が大きく魅力を損ねてどっちつかずの印象を受ける、十二分に獲得している市民権ともいうべき詩的イメージに寄りかかりすぎていて中身がない印象だ、という声もありました。自己と非自己の境界をうたい、融合を切望する、という作品は最近とても多いようです。一歩先で咲いて欲しい、作者なら先を咲かせてくれるのではないか、という期待を確かに感じる作品なので、これからの作品も楽しみにさせていてください。

2877 : 屋根の上のマノウさん  Canopus (角田寿星) ('08/07/05 08:10:36)  
は、導入部分のふくらみが素晴らしいけれども、後半にかけてしぼんでいき、そこに難がどうしても見えてしまう、という理由から次点に留まりました。この作品は、今月最も美しい詩情を描き表している、という声もあり、優良に推す声もありました。全体の静かな詩情を壊すほど悪くはないけれども陳述が唐突に感じられたり、少し詩を意識しすぎているように感じられたり、少しの引っ掛かりがふくよかさの足を止めている印象があったので、細部までもっと惹き込んでもらえると、傑作としてより包んでくれたのかもしれません。

2927 : 風底  DNA ('08/07/30 02:26:46)   
は、十二分に巧いけれども、読み手を説得する要素がなく、単なるモノローグに留まっている、という理由から次点に留まりました。内容と書き方が調和はしています。情感も確固としてあります。ここから雪崩れ込んでくる内実が少し滑りが悪く、それが効果的ではない気がしてもどかしい印象を持ったのかもしれません。

2870 : アカリ  みつとみ ('08/07/02 22:35:34 *7)
は、選考委員全員が点数を入れている作品でした。しかし、優良へと推す声はありませんでした。描写は相変わらず秀逸で、推敲後、確かに作品強度を増した素晴らしい作品だと思います。弱っていく狼や倒れている青年の俯瞰な描写の手触りは作者独自のものが確かに醸しだされているのですが、「この魅力は詩全体の構成のなかで目立つ結果になっていない、それが難点」という声がありました。初め「一作品」としては弱いと感じたが、推敲後は、強さを獲得しかけるところまで来ているような気がした、という意見もありました。連作でこそ真価が発揮されるだろうことは承知だが、単体でも充分魅力に溢れている作品だ、という声もありました。選考委員全員が、もっと上へと確かに行ける作品であり、そこへと到達させることが出来る作者である、ということをこの作品から感じ、もっと多くを求めたようです。改稿版、読みたくて読みたくてたまりません。

2876 : コントラスト・サンダーマン  ぱぱぱ・ららら('08/07/04 17:15:53)
は、巧いけれども、冷めてしまう薄さが気になる、という理由から、次点に留まりました。アイデアも平凡なので、もう少し情感や距離を活かしていって欲しいです。

2915 : (無題)  マキヤマ ('08/07/25 12:10:04 *1)
は、器用だけれども、他の作品の、こじんまりとした真似事のような印象を受ける、という理由から、次点に留まりました。詩作品としてはありきたりなものですが、それなりの情感はあると思います。何かこの作品ならではのものが一つで良いので欲しいような感覚に包まれました。

2917 : 海と天ぷら。  おっさん ('08/07/26 17:12:18)
は、ダサい良い味わいを出しているけれども、変な行分けや決して巧くはない部分が気にはなる、という理由から次点に留まりました。個人的には、作者から素直に出てきている詩、だという点に魅力を感じました。苦しみからの解放を決して望んでおらず、一人になっても苦しいままであるところを書いてある部分や、幸せが天ぷら程度っていうところも、ダサくてよいな、と感じました。深読みすれば、意外と現代社会を痛烈に書いてある作品にも思えます。考えすぎなのでしょうが。

2869 : 月影の出口  殿岡秀秋 ('08/07/02 22:10:15) 
は、五連の切断が勿体無く、成功していない、という理由から次点に留まりました。それぞれ良さそうな文章が膜の上で漂っているだけに止まっていることが気になります。もっと惹きつけることが出来るはずの作品に思えます。

惜しくも選からは漏れましたが、その他、

2868 : 本家にて  祝祭 ('08/07/02 07:50:28 *1)    

2888 : 焚書坑儒ネオ  宮下倉庫 ('08/07/11 20:56:26 *1)  

2891 : ロックスクリーマー  黄色い花 ('08/07/12 01:21:12) 

2866 : 星は巡る  ミドリ ('08/07/01 14:04:24) 

2925 : 木乃伊の人魚姫  右肩良久 ('08/07/28 20:59:48)  

2880 : 赤城 君 Apres quoi...  はなび ('08/07/07 14:25:47)  

2864 : 野球の規則  DNA ('08/07/01 02:35:37)  

2885 : 下呂袋  蒲田のお狼 ('08/07/09 22:03:09)

2903 : モンスターハンター  蒲田のお狼 ('08/07/16 08:29:10 *1) 

2914 : 豚汁  ともの ('08/07/25 11:34:54 *1) 

2902 : 朝のしくみ  凪葉 ('08/07/15 15:14:37)

2919 : 食事  田崎 ('08/07/26 23:13:45)

2886 : 「ハンプティダンプティ」  桐ヶ谷忍 ('08/07/10 17:24:47) 

2911 : 帰路  犀樹西人 ('08/07/22 15:32:05)  

2924 : 島原  no problem  寒月 ('08/07/28 18:42:10) 

2918 : 唯の夢 その五  菊西夕座 ('08/07/26 21:58:43) 

2897 : 芝刈り男  ハント ('08/07/14 00:04:53 *2) 

2909 : 三番目の小さな月  ぱぱぱ・ららら ('08/07/19 04:44:30) 

2908 : 重要な岩  りす ('08/07/18 23:37:44) 

2910 : お父さん  カノン ('08/07/19 07:34:05 *1)

などが注目されていました。

以上です。

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