6月分選考雑感
先ず発表時に私のケアレスミスが繰り返されたことに謝罪を。
で、思いつくことを幾つか。選者の間で評価が割れることはよくあるのだが、今回も割れは大きかった。そのうち何点か拾ってみる。
まず、鈴屋さん。あなたの行方(1〜5のうち1・2・3)
私はこのところトンと少なくなった読み返す気になる作品だと思ったのだが、次点にとどめる人が多く、構成・構文がなっていない、ほんの僅かだが肝心なことが書き落とされている、という厳しい意見が多かった。私的には、ふざけたレスをいれていたので混じれ酢をここで。社会闘争とかじゃなくて、森羅万象(ありとあらゆるもの)の一つ一つが命の焔をもって唄う、生命潮流の中で一瞬跳ね上げられた泡沫が我在りと唄う、その唄を革命と名指すことに違和感を感じない、そんな詩だと思った。
テクノポップナイトハントさん
選外となったが面白かった。お洒落でポップで良いと思う。ゼリービーンズを使いまわしすぎたかな。お洒落な作家というと、稲垣足穂という人がいる。大昔の人なのだが、21世紀に読んでも未来の作家が書いた作品のように新しい。ゼリービーンズのようなやわらかい物から鉱物、借金まみれの貧乏暮らしから億光年後の衆生救済まで彼のイマジネーションと技巧は実に懐が深い。
無題プラスねじさん
可愛らしいくおもしろい。意図してのチープさだと思う。良いと思ったが、他の選者の評は芳しくなかった。無題であるとか、もっと書き込めたであろうに投げやりな様子とか、 拾うべきでない理由は多々あろう。面白いところと繋ぎと感じられる部分の投げやりな様子。
風の音草野大悟さん
このところの草野さんの変化は良いことだと思う。もともと強度のある断片を書いていたのだが、あくまでも断片であった。だがこのところの草野さんは単独の作品として読めるものを作り上げている。
グロウズの祝祭田崎さん
独特の感性、オリジナリティーはある。が、何故現代詩手帳やユリイカは甘いのかな。文学極道にも田崎さんを高く買う人はいるのですが、まっとうな作文能力を開陳できないでいる現況、私は手放しで評価することはできない。この作品については最後の連は美しかったです。が、硬質を目指す文章は特に、上手下手が目に付きます。ま、人の意見を聞く奴ではないことは承知しているので、我が道を行ってくれたまえ。
夢をかなえる軽谷佑子さん
書かないことによって書くという姿勢が極端に過ぎたという意見が多かった。私にも内向し過ぎに見える。だが、軽谷さんには今までとてもたくさんの読む喜びを与えていただいたし、芸術は商売ではないので、今、
「わたしの持った、あるいは見た、イメージをできるだけ損なわないように書きました」by軽谷佑子さん
ということであれば、なにも人様にあれこれ言われたからといってかまうことはないものと思われる。自分に正直であることはとても肝心なことだ。
(この言葉は高い水準の文章を書いてきた実績のある人にだけ投げかけるものであって、田崎さんについてはこれに該当しない)
最後にはらだまさるさんと吉井さんに。
大変真面目でまっとうな文章を書こうとしておられるし、実際かなりの高水準の文章を書いていると思うのだが、今ひとつ面白くないです。貴殿らは真面目過ぎるのではないか。シュールレアリズムやSFの手法を駆使するなど、鮮烈なイメージの導入、あざとい手技の導入を求める。一皮剥けて欲しい人たちです。