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庭の隅で、年若いお母さんがしゃがみこんで、おもちゃのシャベルで一心に穴を掘っているときどき、自分は何をしているのだろう、と、首をかしげながら背中に張り付いた子どもが、暖かい背中越しにそれを見ている「お母さん、なにしてるの?」と、子どもが訊くと「穴を掘ってるのよ」と、お母さんは答えるそうして30年が過ぎたのでした― かつては、そこは穴でしたと、役人は私に言ったのでした あなたの前の、そのあたりは、かつては一つの穴だったのです。 わかりますか?すでに、穴であることはやめてしまいましたが、 かつては穴だったのです。それは巨大な会議室の真ん中にある 日出現したような穴でしたし、学校の廊下の中央にあいたよう な穴でもありました。もはや全ては忘れられ、久しく訪ねる人 も無かったのですが、こうしてあなたに見つめられて、穴は静 かに眠るのだと思います。こうしてあなたに触られて、穴はは じめて眠るのだと思います。「埋められたのは私でしょうか?それとも、あなたでしょうか?」と、まだ年若い、むしろ少女のような私のお母さんに子供の私が遠く叫ぶ不意に私は、《私の判断は間違っていたのだろうか》と、誰かにすがり付いて訊きたいしかしそこに既に穴はなく、平らな野原が続いているだけでした私は一人、野原に立っているのでした庭の隅で緑の柄を手のひらばかりの小さな赤い本体につけた、子供のおもちゃのシャベルで穴を掘っている私の妻が待つ家へと帰るために、私は振り向いて歩き始める帰ったら、「埋めるの?それとも掘り出すの?」と、訊いてみようと思いながら__________________「Poem ROSETTA」所収 (初出「詩学」)
放棄された埋立地を 一体の透き通った者と 連れ添って歩く 雑草に覆われはじめた アスファルト面のそこここに 立ち昇る無の陥没 ...
シルビアは恋人の兄のマルコスに「デブだ」とからかわれても、黙って 顔をそむけるだけだった。雨上がりの日曜日。表通りのアスフ ...
とかげの足音を拾っていくと 「かげろう」と呼ばれる庭で行き詰まった 兄さん あれは生き別れの兄さん いいえ 姉さんだった ...
― 楽あれば苦あり 苦あれば楽あり そう呟いて生活を、な 描き続けた。ずっと、ずっと。 まぁ、はっきりと解ったんだ ...
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はじめに くらやみがあって (ここまでくるのにながい夜をくぐってきた 一枚いちまい重ねられていく 生まれるまえは まったくの ...
傷のある胸のなかにも響く、潮騒があった。閉じた目を開くと、淡い光につつまれた海があった。数年前に、女と漂流した海辺に、わたし ...
そのうしろ背の壁に 白い顔が浮かびあがっている まっすぐ見ている眸に 群れのひとたちの歩き出しに くすむ羽をすぼめている 行 ...
口の中に微かに鉄の味がある コートの袖口が擦り切れている 錆びたドラム缶からはいだして 月下の廃工場を後にする 奏者を失って久 ...
それでも朝は来るので わたしはまた生まれてしまう 約束されていないことなので 途方に暮れている わたしは手を持たないので ...
悪魔の子どもが生まれたって、言わないで欲しいんだ。カシミールで毛皮を売っている彼の、その柔らかい頬に浮かんだ笑顔みたいな、そ ...
庭の隅で、年若いお母さんが しゃがみこんで、おもちゃのシャベルで 一心に穴を掘っている ときどき、自分は何をしているのだろう、 ...