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傷のある胸のなかにも響く、潮騒があった。閉じた目を開くと、淡い光につつまれた海があった。数年前に、女と漂流した海辺に、わたしは立ち尽くしていた。(わたしは、油と原材料の臭いのする工場の、薄暗い現場にいた。大きなグリース製造釜を回す騒音。塗装された空きドラムに、レバーを開き、グリースを充填する。ドラム缶に金属バンドを取り付け、ボルトをラチェットレンチでしめる。フォークリフトが警戒音とともに、構内をひんぱんに出入りしていた。油と泥で汚れた作業着は、洗っても落ちない色があった)(数年働き、契約途中で工場を解雇された。仕方なく内陸工業団地から海辺へのアパートに、戻ってきていた。軍用ジャケットのポケットに手をいれて、佇む。きょうは晴天だが、潮風が冷たい。日があるうちは、海沿いの道や浜辺を歩いていた。潮騒に耳を傾ける。ぼんやりと、あの日の波間に漂う女の首筋が、思い浮かんでいた)(ハローワークの近くの通りで、小さな雑貨店にはいった。ガラス戸に、閉店セール半額のビラが貼り付けてある。狭い店内の、棚に並ぶアジアの天然石、アクセサリー、香を見て回る。若い女性店員に、ヘタマイトの黒いブレスレットを見せて、買い求めた。ヘタマイトは、いくらか重い感触がある) わたしは、広い海辺に立っていた。ジャケットの襟についている毛先が、風で頬にあたる。わたしの頭上を鳥が鳴いては、旋回している。仰ぐと、限りのない透明な青がしみるので、目を細めた。 手をかざす。手首のヘタマイトが黒い光を反射している。砂浜を歩き、寄せてくる波の前に立つ。わたしは一歩まえに進む。足元にはまだ波は来ない。 わたしは左足を、もう一歩前に進める。スウェードの茶色の靴先が、水で濡れて黒ずむ。ゆっくり、右足を進める。足元がすこしふらつくが、左足をもう一歩。砂地がわたしの重みで窪んでいく。 大きな音とともに、白い波が盛り上がり、打ち寄せた。身をひこうとして、バランスを失う。砂地に、片膝をつきそうになる。ジーンズに波しぶきがかかる。白い泡が光る、その先に、女の足先が、一瞬見えた。浜辺のあらゆる音が消えていた。 女の顔を確かめたくて、視線をあげた。瞳と唇を知りたかった。波で光が反射した。女の姿はもう見えなかった。あれはなんであったか、取り残されたわたしは、海を前に立ち尽くしている。広すぎる青い空に、ひとつだけの小さな陽は、わたしにはまぶしすぎて。*くどくなるので、修正はこれでお仕舞い。あとは活字用に微調整しますが、こちらではアップしないので。今年秋発行の日本詩人クラブのアンソロジーに載せるつもり。
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はがれた爪のように 水面に言の葉を散らしていきます 白い光の底として たゆたう ...
そのうしろ背の壁に 白い顔が浮かびあがっている まっすぐ見ている眸に 群れのひとたちの歩き出しに くすむ羽をすぼめている 行 ...
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― 楽あれば苦あり 苦あれば楽あり そう呟いて生活を、な 描き続けた。ずっと、ずっと。 まぁ、はっきりと解ったんだ ...
悪魔の子どもが生まれたって、言わないで欲しいんだ。カシミールで毛皮を売っている彼の、その柔らかい頬に浮かんだ笑顔みたいな、そ ...
こんにちは こんにちは いつのまにか そう いつのまにか わたくしは しろい光の表にて 目覚めるようになっていた なまえは 知 ...
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