9月選考雑感(平川綾真智)
今月も勉強になりました。
ありがとうございます。
皆、それぞれの詩というものがあると思います。読み物としての刹那的な面白さを持った詩、何度も何度も味わえる表現に富んだもの、感情の連なりから産まれていく現象、などなど、それぞれの方がそれぞれの譲れないものを持っていると思います。文学極道でその譲れないものを抱えながら、それが読み手にどれだけ通用するのか、客観的にはどうなのか、側面を持ちながら臨んでいただけると多くの徳が生まれるかもしれません。また、譲れないものを未だ持っていない方もいらっしゃるかもしれません。その方が、この場に投稿し、合評していくことによって、何か見つけていただけたら、それは私たちスタッフにとってもとても嬉しいことです。もしも大罵倒されたとしても、出来るだけ続けて欲しいです。共に伸びあっていけたら、といつも思っております。
さて、今回は、次点佳作作品だけでなく、優良作品、その他注目されていた作品にも触れていこうと思います。
3047 : 赤い鶴 胎 ('08/09/29 22:09:01)
は、文章のうまさではなく、力尽くで読み手を惹きつける強度のある作品だ、という理由から優良へと推挙されました。凄絶を孕んだ問題作です。うまくはないけれども、直情を傍観の凄惨さに負けることなく勝つことなく描き出し、見事な作品世界を創っている、という意見がありました。比喩として結ぶ先天性障害と健常介護者と、その合間での綺麗ごとでは済まされない問題を極めて冷徹に書いている力強い作品だ、という意見もありました。拙い部分がまた強烈さを出している稀有な作品です。
3040 : 流れ星のうた 丘 光平 ('08/09/22 23:36:49)
は、綴りのうねりが秀逸です。寓意の長けた、文字にしていない中に書かれているありようの充満は、もう見事としか言いようがありません。古風ですが、時間と感情の変化や性的な痛々しさと寂しさ、屹立している存在の凍えが全てに敷かれて一つのくどさをも落とすことなく燃やしています。特に最後の連が秀逸だ、例えばこの綴りがなんの比喩でもなく本当に流れ星の消えゆくすがたの情景だと思って読んだとしても余韻に胸が震える、という意見もありました。 古風ですが、古風な強さが圧倒に在している作品です。
3022 : (無題) fiorina ('08/09/15 13:28:59)
は、美しい文章が内実を倍加させています。綺麗とは対極にすら、ある、感情とそこから切り離された意識ある肉塊。環境を印象的風景に輪郭を溶かし描いていくことで詩の中は抽象的具象になり鮮明な光明があますことなく包みあげていきます。投稿作品の中で、いちばん美しい文体をもっている作者だ、それを感じさせる作品だ、という意見がありました。
3033 : もいっぺん、童謡からやりなおせたら Canopus (角田寿星) ('08/09/19 23:10:47) は、名作だと思います。何度読んでも褪せることなく感動させられます。この作者の良いところが出ている作品だ、ふんわりとした作風の中にこめられた思いは、とても小さく、とても強いもののように感じる、という意見がありました。
3038 : 勝手に埋めろ、人生 DNA ('08/09/22 09:36:11)
は、悲しみが薄く薄くつもってゆくようで印象的だった、という意見があり、優良に推挙されました。いい詩だと思います。一方、読んでみたらいい詩だったけれども、このタイトルでぜんぜん読む気がしなかった、タイトルが内実に不釣合いで高められていないのではないか、などの意見もありました。少し雑なところもありますが、それも魅力と転じられるような不思議な熱量がある作品です。
DNAさんは、いくらでも書ける方なのかな、と感じています。制限しなければ、月に2、30作品は投稿してくるような。そんな背後を匂わせる行間がありました。
3042 : 胎動 如月 ('08/09/26 16:14:30 *1)
は、推敲後、高まり強度を増し、優良へと推挙されました。羊水=海、というイメージに新しさはないけれど、穏やかに満ちていく生命とその記憶のような憧れのような、そんなものが、しっとりとしたやわらかさで描かれている、という意見がありました。
!選考中に推敲された場合、推敲前の段階で選考が進んでしまう場合があります。そうなると推敲後、良くなっても(あるいは悪くなったとしても)作品があまり読まれない可能性が出てきてしまいます。皆さん、推敲された場合、返信欄に解り易く、何日に推敲した、と書いていただけると非常に嬉しいです。如月さんの「胎動」は推敲前は次点に推挙されるかどうかも危ないところでした。推敲しました、と書いてあったので、選考しなおして、優良に推挙されました。付記しておきます。
3020 : とんぼ 丘 光平 ('08/09/15 02:39:43)
は、時間の経過に伴う精神からの芽吹きを見事に描き出しています。幼い少年でしょうか。無邪気だった昨日が今日は少し色を帯びている。昨日まではなかった性的なものが短いつづりの中に濃縮されています。古典的つくりの強さを証明しながら、作者を押し出している見事な作品です。
3000 : 八十八夜語り ー晩夏ー 吉井 ('08/09/03 23:50:16)
は、とても馬鹿で素晴らしい作品だ、ということで優良へと推挙されました。おそらくかなり時間を掛けて書いてある点と、くだらなさが見事な差異を出しています。知性と理性も垣間見える真剣なドアホウは拭いとれない印象を放ち続けます。
続いて、次点佳作作品についてです。
2993 : 祈り Tora ('08/09/01 02:50:57)
は、勢いがあり、軸と輪郭の強さで読ませていく良い作品です。細部に加味していって欲しい、もっと膨らんでいけるだけの背景が粗さを際立てて一歩だけ逆剥かせてしまった、という理由から、次点に留まりました。優良へと推す意見もありました。寓意の断定しきる振り返らない言い切る強さと速度は秀逸なので、埋もれてしまった良質なはずの細部を陰影をもう少し使って、面白さの一歩先、を描いてもよかったのかもしれません。
3003 : 彼岸マデ DNA ('08/09/04 19:24:50)
は、おまえ、が如何様にも取れることで詩の幅が出ており、優れた箇所にまで高められている作品です。この世に生まれて母胎に帰ることもない世で泳いで、違和感がいつまでも胃で騒ぐこともあるのでしょう。卓越している部分が多いです。しかし、リズムも良く一気に読ませられる面白さもあるが、それ以上の感想を持てない、読後育っていかない作品なのではないか、などの理由から次点に留まりました。良い作品なのは間違いありません。作者の毎回毎回、一定の位置以上で書いている筆のあり方はとても気になります。
3002 : 喪失の仮面 四宮 ('08/09/04 12:20:45 *1)
は、良質であるけれども、もう一歩踏み込める箇所で凝っていて詩情が止まっている部分が僅かにあるのではないか、という理由から次点に留まりました。とても素直な表現の中に作者なりの創作でもがいた足裏があったりもして、完成されていない中から埋めていきたくなるだけの空気感が漂い、しみじみとした良さが立っている作品でもあります。最後から二連目は、もう少し上質になれた気がします。説明しながら流さなくても惹きつけられる文章のような気がするので、もう少しだけ、ほんの小さな行間があってもよいのかもしれません。
3030 : 思い事 雨宮 ('08/09/18 15:14:45)
は、小さくも良質さがまぶされている作品です。しかし良質な予感が予感で止まってしまいそうな粗さも抱え込んでいる、という理由から次点に留まりました。壮大なものへと自身のひりひりとした小ささが上手く濁点を打てそう、なのですが、それぞれの大きさと小ささとがまとまっているので、対照が近い、という感触で、コントラストが上手くいっていないと感じます。もう少し良い作品になったような気がします。
3051 : 八十八夜語り ー風舞ー 吉井 ('08/09/30 23:56:47 *1)
は、面白くなりそうな予感、配置、アイデア、素材、多くのものが揃っている作品です。しかしそれらがまだ昇華しきれていない印象を受ける、という理由から、次点に留まりました。ひょっとして、と思って音読もしてみたのですが、発音しても美しさやくだらなさは増していかなかったので、何か全体的な強度がもう一つ必要なのかもしれません。
2998 : 折り鶴 緋維 ('08/09/03 00:10:54)
は、全体的な雰囲気は素晴らしく、富んでいると思います。解りやすくも奥を見させられるような空気です。それだからこそ最終連や阻害する「大切」の連呼が気になる、という理由で次点に留まりました。「窓の外に広がるのが、どうか青空でありますように」は名文かもしれません。
3035 : わたしが歩いていく 鈴屋 ('08/09/22 00:04:31 *1)
は、読ませる作品ではあるけれども混沌の後、切り口を与えていないような感触を覚える、という理由から次点に留まりました。それぞれの素材が活かされなかった感があり、少し悪い意味での足りなさがあるように思えました。
3012 : プラハの午後 佐藤洋平 ('08/09/09 05:20:34)
は、雰囲気の良い作品です。「心の最も美しい欠片が」など、もう少し深められそうな言葉がそのまま書かれてある点が難だ、という理由から次点に留まりました。
3004 : ぬくもり 榊 一威 ('08/09/05 12:59:39)
には、柔らかく、優良に推すのは難しいけれども、良い作品だ、という意見がありました。作者が現代詩だかなんだか解らない得体の知れないものから等身大の表現へと移行していく過程が見られて非常に興味深かった、という意見もありました。作文として、至らないところは多々あるけれども、今回の人のぬくもりをストレートに求める作品は作者の根が伝わってくる良さがあった、と多くの意見が寄せられていました。
3034 : みんなあげちゃうモノガタリ 右肩良久 ('08/09/20 04:24:29)
は、良質な部分もあり、吸引力があるのですが、そこへ意図的な軽さが何か先立つ作為と共に匂ってきている、という理由から次点に留まりました。
3026 : 四角い朝 はらだまさる ('08/09/15 22:03:16 *2)
は、それなりに面白くはあり熱量も感じられるけれども、それ以上でも以下でもない、ある意味、収まってしまった拡大しようもない作品に感じられる、という理由から次点に留まりました。
3009 : 踝 祝祭 ('08/09/08 22:16:45)
は、黎明から盛り、衰退への寓意が魅力的に働く可能性を持った作品です。
2999 : 夏のパレード はるらん ('08/09/03 03:36:10 *1)
は、風景の明るさが、はっきりとは書かない悲哀を浮かべていて、人間に魅力を加味させている良質な部分を持つ作品です。ただ、引き込み方や陰影をもう少し工夫してもよいのでは、という理由から次点に留まりました。
個人的には、
今日はじめて
じいちゃんから
娘と呼ばれました
私が嫁いでから
はじめてのことでした
ここの「はじめて」二回目とは意味が違ってきている言葉として、かすかな鮮明を持っても良いのかな、と感じました。
夏のパレードは
いまを盛りと
銀のシンバル打ち鳴らし
白い入道雲が湧きあがります
最後は全く同じではなく少しだけ展開させて欲しかった、そのことによって作品内の時間を共有できるのではないか、という意見もありました。
3006 : ロッキー山脈 ミドリ ('08/09/05 17:35:41 *1)
は、咀嚼していく中で振り返らせていくだけの味がいま一つ足りないのではないか、という理由から次点に留まりました。上手い作品ではあります。人生の山はいつまでも越えられないで積雪も溶けてくれない、解りやす過ぎる中にそれが書かれていてクマという入りやすさで綴りが見事にまとめられている、という意見もありました。巧い作品ではありますが、その上へと向かう広がりがあっても良かったのかもしれません。
3041 : 闇の子供たち 5or6 ('08/09/25 21:04:04)
は、不思議な引力がある作品です。研ぎ澄まされた言葉とは程遠いのですが、荒々しさの強さに飲み込まれるには十分なうねりがあるように感じます。下手にも思える点が、感情を揺らすだけの力を持ち、幼い叫び声の劈く方向へと導いているようにも感じます。作品だと思います。思いの強い作品であり逆に言えば作者の強い感情だけが描かれているようで子供たちの感情がぜんぜん描かれていないのが残念に思える、という意見もありました。「闇の子供たち」というタイトルなのに肝心の子供たちの存在感が薄すぎるように感じる、終盤の
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
この繰り返しは、インパクトは少しはあるけれど心に響いてはこないので、こういう繰り返しよりも1〜2行でもいいから子供たちの静かな悲しみが滲み出ているような描写があったなら、もっと良い作品になったのではないか、という意見もありました。別の作品も読んでみたいです。そう思わせるだけの作者が見える作品に感じました。
3048 : 鉄輪 右肩良久 ('08/09/29 22:09:46)
は、おもしろいお話ではあったのだけれども詩作品としては平坦で少しくどい印象を受ける、という理由から次点に留まりました。ホラーめいた狂気とか、この種のお話は特に珍しくはないし悪くはないと思うけれども発表するのならもう少し美しさ(綺麗な言葉や表現、という意味ではなく)を意識して書いても良かったのではないか、という意見がありました。たとえば、暗示にかけられた女の子の本来の意思の美しさ……といったもの、そういう対比があったなら、かけられた暗示にどうしょうもなく流されていく悲しさなどといったものも感じられて全体にメリハリも出てくるのではないか、という意見もありました。アイデア先行でも良いと思うのですが、そこから作者が匂いたって来るものを加味するともっと良くなるのかもしれません。器用な作品なので、もう一歩先へと行って欲しいと、どうしても感じてしまうのかもしれません。
惜しくも選からは漏れましたが、その他、以下に挙げる作品が注目されていました。
2997 : 幻想即興曲 まおん ('08/09/02 18:45:22)
全体的にそんなに悪くはないけれども一連でのゆっくりとした入りに上記の発声が少し邪魔をして諦観的運びが後にあまり上手くは回っていないように感じる、という意見がありました。
3025 : クシャミ 殿岡秀秋 ('08/09/15 21:14:54)
作者の良さはあるものの四・五連の幅の狭さが作品をわざわざ貶めているように感じてしまう、という意見がありました。
3001 : mail train 寒月 ('08/09/04 10:35:39)
依存と距離を取ろうとする乖離が、不安として焦燥として、他人の責任とする我侭さを含めて、よく書かれてはいる作品であるとは思う、という意見がありました。タイトルが今ひとつであり甘さが甘いままで通っていることが気になる、もっと素直に書いても良かったのかもしれない、返信にある「それらがたとえ今夜、全世界に及んでもやはり何一つ癒されることは無いと思います。眠ることが出来るのなら眠りたい。つかめるものは藁ひと束でも。それがはっきり分かった夜を一人で過ごしていたわけです。絶望すら中途半端で。何も食べ物を受けつけなかったのに、三日目にはジュースを飲み始めた自分に気がつきました。」この言葉の方が、ひょっとしたら詩のいくつかの綴りより、ひりひりとした内実に近いのかもしれない、という意見もありました。
3018 : missionary position 寒月 ('08/09/13 07:10:59)
は、結構良いけれども主題のハードルを越えられていないのではないか、という意見がありました。
3023 : 唯の夢 その六 菊西夕座 ('08/09/15 14:19:52)
唯はそこで夢の排卵を終えました
この部位が儚くて良いな、とは思うけれども、他の部分の跳躍があまり上手くいっていないように思える、いきなり逸脱してからの世界展開なので、それが心地よく転がれば良いかもしれないが、なかなか上手く回っていっていない印象を受ける、という意見がありました。
3024 : 悲しい女 ぱぱぱ・ららら ('08/09/15 15:43:31)
面白くなりそう、で終わっている印象であり、この先とは言わないけれども細部を少しだけ書いたら、もっと面白くなったのではないか、二個の「悲しい女」が同じではない面白さが匂い立ちそうで留まってしまった印象を受ける、という意見がありました。
以上です。
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