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シルビアは恋人の兄のマルコスに「デブだ」とからかわれても、黙って顔をそむけるだけだった。雨上がりの日曜日。表通りのアスファルトから湿った風が這い上がり、リビングの古びたテーブルクロスの上では、錠剤の袋がかすかに音をたてている。門の向こうに車がとまり、礼服を着たシルビアの家族が午前のミサから帰ってくる。彼らは部屋に入って着替えを済ませると、すぐにまた車に乗ってでかけてゆく。シルビアの家族は、小さな二人の弟もふくめ、みんな太っている。国境を越えて輸送される黄色やオレンジ色の炭酸水は、この国の神話のプログラムを見えないところで書き換えている。パウンドケーキのような熱帯林の中央基線が交わるあたりには、巨大なショッピングコンプレックスが午後の陽を浴びて白く光っている。シルビアによれば、ここのフードコートで売られているピザやフライドチキンは、母がつくったものとは違う味がする。しゅわしゅわと口のなかで溶け、まるで宇宙食を食べているような感じなのだ。シャーベットのような冷気が充填されたフロアを出ると、シルビアの家族は地平線が見えるハイウェイに車を入れる。後部座席では、シルビアが朝からの物憂げな表情で窓ガラスに額をあてている。いつからか、彼女の視界には光る綿のようなものがちらつくようになり、体のだるさはいつまでたっても直らない。シルビアの父がいつも赤信号で急ブレーキを踏む、環状道路の交差点。車の列が停止すると、安物のキャップをかぶった物売りたちが寄ってきて、小さな押し花やボトル詰めの炭酸水を売り歩く。汗ばむ褐色の腕に握られた炭酸水がきらきらと熱を放射するのを見まもるシルビア。排気ガスで黒く汚れた壁と、炎天下に立ちつくす売り子たちの姿が無声映画のカットのように映り、アクセルを踏み込むと視界から消える。ドライバーの目線をはばむ鋼鉄の防音壁の外に広がる原生林のむこうには、板きれやダンボールで風をしのぐバラックの群がゆるやかな丘の中腹まで続いている。あれは小さなころ、縫いぐるみを抱いて祖母の家に遊びにいったときのことだ。眠たい目をこすりながら飛行機がこの街に着陸してゆくとき、砂粒のようなの電灯の群が、この丘のうえまで這い上がっているのを見て、シルビアはベッドカバーに落ちた宝石のように、それらを手にとることができるような気がしていた。いま、そこから数百メートルも離れていない、なめらかに舗装されたハイウェイを、日本製のセダンは滑ってゆく。道が緩やかにカーブしていくと、フライドチキンの広告塔が回転しているのが視界の隅にはいり、そのむこうには広く青ざめた空が緑の地平線をすりきりの地点で飲みこんでいる。
壁にも 空いた、うすぐらい あることに気づかれず 探せば見つけ出すことができる 半ズボンが壁から抜け出してくる 小学校のひび割 ...
はがれた爪のように 水面に言の葉を散らしていきます 白い光の底として たゆたう ...
そのうしろ背の壁に 白い顔が浮かびあがっている まっすぐ見ている眸に 群れのひとたちの歩き出しに くすむ羽をすぼめている 行 ...
とかげの足音を拾っていくと 「かげろう」と呼ばれる庭で行き詰まった 兄さん あれは生き別れの兄さん いいえ 姉さんだった ...
― 楽あれば苦あり 苦あれば楽あり そう呟いて生活を、な 描き続けた。ずっと、ずっと。 まぁ、はっきりと解ったんだ ...
悪魔の子どもが生まれたって、言わないで欲しいんだ。カシミールで毛皮を売っている彼の、その柔らかい頬に浮かんだ笑顔みたいな、そ ...
こんにちは こんにちは いつのまにか そう いつのまにか わたくしは しろい光の表にて 目覚めるようになっていた なまえは 知 ...
ちぎった耳のような暦の頁があり 「もう自分は大丈夫、と 微笑むけれども 通り過ぎる風の縁に ふれると 沈黙してしまうのは 「ま ...
放棄された埋立地を 一体の透き通った者と 連れ添って歩く 雑草に覆われはじめた アスファルト面のそこここに 立ち昇る無の陥没 ...
シルビアは恋人の兄のマルコスに「デブだ」とからかわれても、黙って 顔をそむけるだけだった。雨上がりの日曜日。表通りのアスフ ...
風の強い夜だ 下弦の月のまわりに 虹色の光の輪を作っていた薄雲が通り過ぎる 窓辺に焼きついた油色の日々が ガラス板から流れ落ち ...
はじめに くらやみがあって (ここまでくるのにながい夜をくぐってきた 一枚いちまい重ねられていく 生まれるまえは まったくの ...