【優良】
6990 : 救急室3 織田和彦 ('13/08/15 19:29:11 *1) [URL]
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(1)ともすれば単にコミカルな文章とも読まれてしまいそうだが、それぞれの人間の生のある一面的な断章の集積の場所である病院、という舞台における、それぞれの独白をうまくコラージュして、面白い読み物として読者に提供している。20世紀の都市小説の技法を使った巧い作品だと思う。
6979 : 「私とあなたが死んだ日は遠い昔の話」の循環(生)とその行動(性)の例示 お化け ('13/08/01 09:54:29) [Mail]
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(1)田中宏輔さんが「●」を採用した場合、言葉が軽く滑っていくような印象を与えるのですが、この作品は逆に、田中さんの形式を模倣することで、いったんは、言葉に重さが増すような効果が出ています。しかし、●→■→□と変化するうちに、言葉はもはや言葉ではなく、「文字=●=■=□」というレベルまで到達してしまっています。自らの手で、自らの詩を解体するかのような試み。刺激的でした。
6981 : 雑記 谷島 有機 ('13/08/01 12:20:52)
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(1)日付の無い日記、といった趣の作品です。日記といっても、書き記す人物「私」は固定しておらず、「私」は時間と空間の 制約を越えて浮遊していうような感じがします。この浮遊感は、自由というよりはむしろ、主体の不自由を感じさせます。「私」は分裂し拡散しているので、一定の「ものの見方」を喪失していて、いわゆる「自分語り」ようなことはできない。
それでも何か語ろうとすれば、この作品のように、意味の固定しない難渋な詩語の連なりが発生してくるのではないかと思います。
この主体の困難を回避して、自在な「語り」を実現しているのが、田中宏輔さんの「●」詩なのかもしれません。
6999 : ぬけがら sample ('13/08/29 01:08:37)
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(1)これまでの作者の改行詩と比べて、行間が読みやすく、ある意味では読者が自由に飛躍する余地を少なくしてしまっている。つまり、一行一行の鋭さに欠けている。一方、夏の木立に転がる蝉のぬけがらが段々と乾いて、塵と化すような予感、その余韻は優れたものがある。なので各連に配置された「水」という語彙をもう少しクリティカルに配置できたら。
(2)一貫して言葉を丁寧に選んでいることが判りますが、ベストではなくベターの積み重ねといった印象で、どこを際立たせたいのかが見えてきません。上品な作品に見えて、実は、殺伐とした心象と虚脱が綴られ、「詩らしい詩」にはなっていると思いますが、文芸としての「芸」が無いことが、作品としての光度を鈍らせているように感じました。
6991 : 三つの抽象的な語彙の詩 前田ふむふむ ('13/08/17 00:00:59)
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(1)ところどころ光るフレーズはあるものの、『自由』と『自分』で描かれた、自由論、主体論の「ような」ものに既視感を拭えなかった。何もそれを補強するために哲学書やらを読むことをお勧めするわけではないが、自分が考えたことはもう既に誰かが考えているだろう、という着想をもとに、より深い洞察、極限まで研ぎ澄まされた経験、から生み出される言葉を紡ぎ出してほしい。
(2)この作品の中で目を惹くのは、
>強く 公園のブランコにゆれるとき
>よくみると/わたしが食べているのだ
の部分でした。これ以外は、率直にいえば、ありふれた孤独と不安、日常の文学的な感受の域を出ていないと思います。引用した上記の二箇所は、日常が非日常へ傾く契機となっているのですが、作者の思考は、その傾きを意外と穏便に修正してしまっているので、物足りない感じがしました。
6977 : CLOSE TO THE EDGE。 田中宏輔 ('13/08/01 01:43:13 *1)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130801_649_6977p
(1)「●」による言葉の断絶と結合で、自由な言語空間が形成されています。単なる「おしゃべり」に見える人の言語活動が、実はとても広い世界(あるいは脳の活動)を背景として行われているのだ、というこ とを田中作品から教わる思いです。これは夢想ですが、たとえばガールズトークであるとか奥様方の井戸端会議を録音して文字におこし、「●」を施して区切ってみると、意外と言葉の新たな側面を発見したりして、面白いかもしれません。
【次点佳作】
7000 : Kは家に帰るまでの道のりを知っていたが リンネ ('13/08/29 01:22:33)
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(1)震災時には、交通機関が麻痺して「帰宅困難者」が大量に発生するといわれますが、この作品は、人間性が麻痺して「帰宅困難」になっている人を描いているかのようです。ロッカーをめぐる攻防や甲虫、蝉といった喩えによって、登場人物たちは「人」でなはない「何か」として描かれています。これを現代社会の暗喩という安直なテーマに置き換えることなく、最後まで不気味さを持続さつつ、読者を煙に巻くところは、さすがと言えます。
6998 : 公園遊歩 深尾貞一郎 ('13/08/27 12:07:39)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130827_835_6998p
(1)平易な綴りで奥を、きちんと伝えている小作品だけれども、それが故に言葉の重複は平易さを際立たせてしまう。三連以降、推敲が十分ではないように思える。
(2)短い詩の行間に、作者の思いが込められているのかもしれませんが、 言葉による自給自足という閉塞を感じます。
6997 : 愛と死 織田和彦 ('13/08/27 00:11:08)
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(1)このような題材と言葉で書くことはリスクが高いが客体化した視点と自ら馬鹿にしたように笑うことで距離を創り出し、そのリスクを乗り越えている。
(2)少なくとも観念を垂れ流して独りよがりに堕してしまうような作品ではないが、それによって描かれた独白がどこか「外部」へと突き抜けているか、と問われると、結局のところどこかで読んだことのある、ありきたりな物語へと帰結してしまっている。ただ「死」とか「愛」とかいう語彙を使いたいたがる方は、この作品における、読みの起点となる「安月給」とか「女性」とかのアイテムの使い方や、意識的に自己を道化とするような語り口を参考にしてほしいとも思う。
(3)織田さんにしては珍しく? 構成の整った作品でした。こういう類の話を、こういうタッチで書けるのは、織田さんならではの個性でしょう。
6996 : 夜蝉 にねこ ('13/08/26 21:57:05)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130826_826_6996p
(1)冗長になってしまいそうな、まだ不安定な作品構造が等身大の作者の詩情を醸し出してきています。
内容の中心に、もう少し作者独自の新しさが欲しい。
そして等身大以上の詩情へと進む構造を見渡す目を、いつか見てみたい。
(2)良い部分と悪い部分がこれほど混在した作品も珍しいと思いました。うまく言えませんが、言葉の意味に依存する部分と、言葉の意味を捨てる部分の加減が巧みではないと思います。
【落選】
7003 : 幽霊と天使 Osa ('13/08/31 23:37:09)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130831_872_7003p
(1)冒頭で「幽霊と天使」という区別をしておきながら、それがどう意味を持つのか、という点に触れないまま天使の話がどんどん進んでしまうことに違和感を覚えました。
(2) とても丁寧なので、 新たな単語で綴っていくと、もっと良くなる作品ですね。
しかし、そのままでも Osaさんの可能性を十分開花させていると思います。
6986 : 克服 破片 ('13/08/08 04:27:39)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130808_713_6986p
(1)「わたしは煙草に火をつけました。」の連など個人主体を描いている部位は際立って 上手く、その部位をもっと読みたいと感じさせられる。
「人類は死を克服しました。」という前提を最初に持ってきたことによって作品を狭め読み進めるごとにその一行内から抜け出ていられないように思える。最初の一行は必要だったのか疑わしい。
壮大な作品のはずなのだけれども個人主体の部位に惹きつけられるために壮大さが描 けていないような錯覚に陥る。
個人主体の部位に特化した方がよかったのではないか。
しかし新たな場所へ踏み出していくことは、とても大切なこと。個人主体の詩情まで 全体を押し上げている作品をいつか読んでみたい、と思わさせられた。
(2)「死を克服」したら、生活はとてもつまらない、ということが非常に回りくどく書いてあります。
その「回りくどさ」をいかに上手に表現するかが散文詩の醍醐味だと思います。この作品の場合、「回りくどさ=わかりにくさ」と「回りくどさ=わかりやすさ」という二方向に分裂していて、 何が書いてあるのかよくわからない、という部分と、ちょっと説明的すぎる、という部分が混在し、作品としての統一感が無いように感じます。
7002 : タイムスリップ AKIHO ('13/08/31 13:12:12)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130831_868_7002p
(1)文章は丁寧。別の作品も読みたいと思わさせられた。
「言葉」「過去」「生」「yes」「今」など、綴りをそのまま使いすぎ作者独自の詩情というものを失っているように思える。作者独自の綴りへと昇華していくと文中の芯が剥き出しではない作品に転じるのでは。
(2)>鉛筆の先を白に浸して持ち上げると
この冒頭一行が良いのに、そのあとが凡庸に流れてしまい、勿体無いです。
6985 : 思い出が綴られた短い文章をもとに、引用のみによる作品をつくる試み。 田中宏輔 ('13/08/05 14:55:57)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130805_700_6985p
(1)言ってしまえば、こういう手法で書かれたこの作者の作品はどれも面白い。シリアスなものと笑えるものの区別なんてこの作者には予め存在しないのだろうな、という凄みをいつも感じる。ただこの形式で提出されたこの作品は、その「試み」自体を評価の俎上にのせるものだとすると、最後の「田中 作品」が面白いだけにうやむやになってしまいそうだが、「試み」自体を評価することは出来なかった。
7001 : 線の始原 rock ('13/08/29 03:10:37)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130829_856_7001p
(1)
人間たちは大陸に線をひきはじめた
彼らの言葉で
それは国境と呼ばれた
観客たちはまたも御立腹
音楽は、はじまらないまま
機関銃や爆弾のおとが、響きわたる
変らないのは太陽が昇ることだけ
多くの方が既に書いて着たそのままのメッセージ性のある文章を作者自身の綴りへ産み 直して欲しいと思った。
「国境」と書かなくて「国境」を伝えることは出来るし「機関銃」と書かずに戦火を伝 えることは出来るように思えます。
独自の綴りで読んでみたい、と思います。
文章の流れはスムーズなので勿体ないと思う。
(2)
>「これがわたしの作品です」
>……裸の指揮者がバスタブで呟いた
このラストは悪くない、と言えます。ただこのラストを活かすとしたら、それまでの語りにもっとウィットが必要だったのではないかと思います。おそらく機知に富んだ作品を書ける人だと思います。
6995 : 昇る ゼッケン ('13/08/24 11:18:11)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130824_806_6995p
(1)「なお、撮影した画像を送信する操作は必要ありません」この文言の挿入がとても効果的に思えた。描写も丁寧で、かつ読者がフォーカスすべき部分を意図的に配置し(蟻の描写)「読ませる」ということに意識を置いているところは良いと思う。ただ全体として迫ってくるものがなく、「ゴーグル(これはニューロマンサーだろうか?)」以降尻すぼみしているのが勿体無い。
6984 : 静かな耳 鳥 ('13/08/03 16:13:17 *11)
URI: bungoku.jp/ebbs/20130803_696_6984p
(1)作品様式を取らなくても心を打つ内容。
一連など作品として立脚させるための部分などが、その心打つ内容を邪魔しているのではないだろうか。
もっと違う向き合い方、提示の仕方をすると良作になり沁み込むと思う。
(2)「言葉には 沈黙がはりついている。」という文言は一つの発見であり得ると思うのだが、全体が詩として昇華されているかははなはだ疑問。せっかくの着想をありきたりな「語り」が殺してしまっている。