文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

年間各賞・総評1(織田和彦)2009文学極道

2010-04-03 (土) 19:55 by 文学極道スタッフ

2009年の年間選考にあたって、発起人各人の口からまず漏れたのは総じて低調だった、という趣旨の感想及び見解でした。 まずは「2009年年間各賞選考ルーム」で交わされた、或いは日記やメールなどから引用された“生の声”を拾っていきたい。

「このところ文学極道は 投稿作のレベルが落ちているように感じるのですが、 その理由の第一は 低水準のコメント書き込みが横行して 書き手を育てていない(以下略)」(阿部氏)

「今年は実力者は少数であり、 現れた気鋭の新人は私的にはひろかわ文緒だけでした。」(ダーザイン氏)

「印象としては不作です。(中略)同じ人に何度も賞を与えても、そこには停滞が生まれるだけだ。」(いとう氏)

「今年はかなり小粒の印象」(石畑氏)

「今年は、突き抜けた傑作を質量ともに併せて書き上げる方が現れなかった。」(平川氏)

などです。サイトととしてはこれは恐らく憂うべきことなのでしょうが、ぼく個人の感想を述べさせて頂くとこれとは全く逆です。レベルは底上げされた、しかしもっと上を目指さなければならない。その為の施策はもちろん立てるべきだ。これです。

毎年のことですが、当然のことながら意見は割れる。しかし中には根本的に「詩観」そのものが違うんじゃないか?こういうケースすらあります。実はここが一番エキサイティングであり、今後の詩文学の可能性を俎上に乗せ、議論する上でキーポイントになってくる部分だと思います。これも今後の課題として掲げておくべき事柄でしょう。

さて、本題の年間各賞受賞者の人と作品に触れていきたいと思います。

【創造大賞】 受賞者
 ■ひろかわ文緒氏
 
投稿欄を通読していくと彼女の作品を「批判的」に読む人が非常 に少ないことに驚かされます。文学極道は遠慮会釈なしの「罵倒」を“奨励”している変なサイトですから、作品をアップするのに、少しくらいは勇気がいるはずです。しかし彼女の作品は飄々とその壁を乗り越えていき、読む人の心にスイと届いていくかのように見えます。これは稀有な例でありましょう。

発起人各人の評をさっと拾っていきたいと思います。

「柔らかくも端的でかつ美しい場面の、その挿み方が素敵」(稲村氏の評)
「読み手を取り込む力が文体に宿っている稀有な書き手」(ピクルス氏の評)
「ひろかわさんには東京ポエケ時点でダー的にはぴか一だと宣告しています。」(ダーザイン氏の評)

一部、アホみたいな評(?)も混じっていますが、気にしないで進めていきます。

彼女の作品の中で特に注目を集めたのが年間最優秀作品賞・次点に入った「春」という作品です。

・ひろかわ文緒 「春」
「春」

今年も殿堂入りを果たした(?)一条氏がこの作品「春」めぐる投稿欄でのレスポンスで、素朴な感想を書き込んでいます。まずはその引用からはじめます。

一条 :

とても素敵な詩ですね。

>泳ぎながら眠る魚を
>ほほえみあって食べたい
>かなしくないうちに
>血液にしてしまえるように

ここがとてもいいのと、最後もとてもいいです。

最後というのはこのくだりです。

お母さん、
きっとあなたも
まだ見たことのない、
あなたです

確かに印象的な締めくくり方がなされている作品です。なぜ印象に残るのか?それまで家族に触れるフレーズや単語が“一切”出てこないのにも関わらず、最後に「お母さん」という呼びかけが為されています。しかもこの語りかけは、非常に複雑な親子関係を投影したものであり、且つ、アクチュアルな主題が基底あることが見て取れます。つまり。

きっとあなたも
まだ見たことのない、
あなたです

ここでは(娘の)母親に対する愛憎の感情が表出されています。母親に対する憎しみと慈しみの間で揺れる話者の心情が語られているのです。この作品は巧いだけではなく、現代に触れる主題を持ち、且つ共感を誘い、さらに書き手である、ひろかわ氏の筆からは、言葉に取り込みきれない切ない思いが溢れています。家族を描き、そしてその先にある生と死を見つめる。これがひろかわ作品に通底するテーマであり、そこが多くの共感を誘うゆえんでしょう。そしてその筆力は疑いべくもなく一級品です。
受賞、おめでとうございます。

【創造大賞】次点 
 ■いかいか氏 
 ■鈴屋氏

この二人に関して「常連組」であり、文学極道ユーザーには改めて解説するまでもないのかもしれませんが、選考の過程にあって物議かもした二人です。特に電脳詩壇のキングメーカー(ホンマか?)、いとう氏からは鈴屋氏の次点(次点すら)は認め難い。「いとうは鈴屋を一切認めない」という立場を明記しろ。という条件付きでの次点、という運びになったわけですが、まず、いかいか氏に触れていきたい思います。

■いかいか氏

相変わらず、彼のイマジネーションの力は他の追随を許さないものであり、その天才ぶりは健在です。
・いかいか「祝祭前夜」
「祝祭前夜」
闇と光を言葉によって自在に操る魔術師といってよいでしょう。彼の描き出す「魔境」は ぼくらの棲む世界のすぐ隣あるかごとく肉薄し、リアリズムの境界を横断してゆきます。

■鈴屋氏

「鈴屋氏の明確さに好感。緩急のある構成と読みやすい文体で、ありありと情感を描き出してくる。輪郭のない情感に作者なりの輪郭を与える作業は、詩のあるべき姿のひとつだと思います。」(稲村氏の評)
昨年の彼は月間賞受賞15作品のうち、14作品が優良に選出されるという安定した評価を受けています。その詩編は、ぼくらが普段何気なく直面する生活のドグマから紡ぎだされる言葉たちで溢れています。

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