文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

2016年5月分選考雑感(スタッフ)

2016-07-15 (金) 11:28 by 文学極道スタッフ

(スタッフ数名が地震被災、豪雨災害被災中のため作業が非常に遅れています。ご容赦ください。)

8855 : 鳥は鳥、君は君、だから君は絶対に飛べない。  泥棒 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160531_106_8855p
(−)わかりやすい比喩を扱いこなせていて作品にしっかり仕上げています。こういう分かりやすい作りだと破たんしてしまいそうですが成立していることが、まず凄い。ただし泥棒氏のハードルは上がっているので、もっとすごくなりそうだな、とも思ってしまいました。作品、十分よいはずなのですが。

(−)
>島民は呆然と死んだような目でそれを眺めていた
>私たちは今生きている、がしかし、魂はしなだれ、生を豊かに感じることがないすべて負という巨大な悪夢に支配されている
>しわがれた少年の声は、野鳥のさえずりとハーモニーを奏で
>朝露のようなみずみずしさを花々に与えた
この生/死 あるいは、正/負 というコントラスト
あるいは、しわがれた声/みずみずしさ という対比
このような「未開」の地におけるフィールドワークの記述については、80年代の「文化の解釈学」の一大テーマだったことを思い起こす必要がある
例えば、記述者において、
>島民は呆然と死んだような目でそれを眺めていた
と書くとき、「死んだような」とは第三者が客観的に記述しているように見せているが、その目が現地の人々にどのような意味を持っているのかが無視させているのであり恣意的である。
文化の解釈学では、この「こちら側」の文化の解釈では「死んだように」としか解釈できない「低位の文化」を、現地の人々の観点から当該文化の意味を考えてみることが目指されているもので、その成果は文化人類学の記述だけでなく、文学にももちろん浸透することが望まれる
>島に十年ぶりに新しい島民が来るらしい
というように隔絶された環境である文化においても、グローバルなシステムと接触している(というのが80年代以降の文化人類学のお約束)にもかかわらず、上位のような二項対立のように「負」の文化がその「島」において完結して定着しているように記述するのは、やはり幼稚な知性としか言いようがない。
>あらゆる負の状態これらの現象は一つの負の生命体を形成し、それぞれが社会性を保つようになる
>風の根源はあらゆる滞りが蓄積し、次第に熱を帯びてくる でも、うつむきの中から風は生まれない
要は、負の状態をデトックスしましょう、そうすれば「正」の状態になれますよ、ということらしいが、このように簡単に異なる文化を断定できればどれだけ「楽」だろうか、と思う
さて、簡単に「死んだような目」という「薄い記述」にしないために、ギアーツは「厚い記述」という概念を提唱しているのでそれを参照してほしい(以下wikiより転載)
>われわれは誰かから目くばせされても、文脈がわからなければそれがどういう意味か理解できない。愛情のしるしなのかもしれないし、密かに伝えたいことがあるのかもしれない。あなたの話がわかったというしるしなのかもしれないし、他の理由かもしれない。文脈が変われば目配せの意味も変わる。
>ギアツの考えではこのことは全ての人間行動に当てはまる。従って(先の例で言えば)目配せについてだけ記述する「薄い記述」と、行動と発話がその社会内で置かれている文脈を説明する「厚い記述」とは異なっている。ギアツによれば人類学者は厚い記述をしなくてはいけない

8850 : shima  シロ
URI: bungoku.jp/ebbs/20160528_034_8850p
(−)物語をここまで書ききるのは大変だと思います。ただ、詩には小説とは異なる物語の書き方があり、それを生かしていると感じました。外部からの参入者が物語を動かしていくのは常ですが、内部との距離感があまりない感じで、事件の規模もそれほど大きくなく終わっていくのが良かったです。

8854 : A Mad Tea Party  澤あづさ 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160531_104_8854p
(−)書いていて楽しかったんだろうな、と伝わってきます。作者は作り込みすぎたり読者を過剰に気にしすぎたりするのかな、と先月おもっていたりしたので、こういった作品の方が良いように思えました。タイトルもっと良いのがありそう。Madが、魅力をだしきっているかどうか。良い作品ですが。

8852 : 虫籠  おでん
URI: bungoku.jp/ebbs/20160530_093_8852p
(−)きちんと、まとまっています。一定以上もあります。独自性が、もっとあっても良いのかもしれません。

8841 : 廃者  zerz borz 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160520_912_8841p
(−)作品自体は面白いのにタイトルのネタバレ感は、詩情を高めているのか気になります。

8853 : とおる  fiorina
URI: bungoku.jp/ebbs/20160530_096_8853p
(−)読み始めた感触と読後の感触が、こうも変わるものかと驚きました。削れる部分があるけれど、そこを削ったらいけない部分を見定めていて純粋に尊敬の念を抱きました。

8848 : フェノ−ルフタレイン  fiorina
URI: bungoku.jp/ebbs/20160527_019_8848p
(−)
恋愛と化学、をシンプルに描き切る筆力が良い。
ゆうべ
空いっぱいのフェノールフタレインが
桃色に変わった夢を見た
冒されていく草原を
もう逃げられないふたつの心が
空の色に染まりながら 滅びた
というように、フェノールフタレインの実験に比べ、「恋愛」の部分がパラレルに描き切れていない(というか描こうとされず暗示にとどめられている)ことが作品を弱いものにしている
(−)ちょっと凄すぎる作品です。純粋に泣きました。ここまで直球なのに詩として心を打つこと、並大抵の作品ではできないことです。

8849 : 失語 (5)  李 明子
URI: bungoku.jp/ebbs/20160527_020_8849p
(−)書きたい内容と分かりやすい比喩の奥にある情感から、なによりも詩が込められていることが分かります。比喩の独自性を探ると名作になる気がします。

8847 : ドレスコードを闊歩する巨鳥の為の広告塔  鷹枕可 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160526_011_8847p
(−)
>博物学者がつぶさにも観察鏡を宛がう
と作中にあるように、文学、歴史などをごちゃまぜにひとつの作品に投げ込んでそれを客観的に観察しようとしたもの
もちろん、アマルガムな状態にとどめるのではなく
>深海を驕り綻ぶ百合
>想像の死と存続の血が総て均しくなり引力圏を慣性運動をする鉛球には一把の誤謬としての薔薇の指
というように、極端に離れたものを結びつける詩の技術も忘れられていない
だが、結局それは「結びつき」だけに終わってしまっている。
歴史的な物語を難解な漢字に変換し、しかしそれが荒唐無稽なイメージの耽溺に終わらせないために「博物学者」のように客観性のバランスをとる
その態度がこの作品を(あるいは他の作品もだが)退屈なものにしてしまっている
あらゆる分野を、難解な漢字に変換しては作品のなかに収集し「世界」を形作る行為が、こうも退屈となるのはなぜか
それは作者が漢字に変換しようとする際の事物のセレクトが、あまりにステレオタイプなものから行われているからであり、
>各々の多翼風車塔に砕け散った/尊厳を謳う革命家はやはり自己の尊厳死から遁れ得ない
>電気機関と磁気嵐、/自働の機械
そこには読み手の思考は、直線的なものに止まるしかなくなるからだろう
このような「蒐集」について、「類推」というずらしを用いるとまた違った風景が見えてくる
たとえば、バルトルシャイティスの概念である「アベラシオン」あたりがあるので参照にしてほしい
まずすべての物語の枠を設定してそこから微細に見てゆくのでなく、それぞれの細部を繋ぎ合わせて織りあわせてゆくこと
難読漢字と幻想の取り合わせの「ファンタスマゴリー」はなかなか魅力的であると思う

8813 : 危篤  あやめ 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160511_700_8813p
(−)
河野道代を思わせる作品。上質。中村鐵太郎の河野への書評がそのまま当てはまる
誰もが夢見るがのりださない冒険を企て、否定に否定をかさねてしかあらわしえないことをさらに否定して、しかもついに肯定にいたる至福とは取引きせず、空気にまぎれていく書記に同化しようとする(中村鐵太郎 「詩について」)

8827 : 死活  飯沼ふるい
URI: bungoku.jp/ebbs/20160514_783_8827p
(−)テーマに対して書き方を貫いたのが良かったです。表現の一つ一つは甘いところもあるのですが、読み進めていくうえでは問題ありませんでした。

8843 : 昨日死んでしまった比喩に添付する  赤青黄
URI: bungoku.jp/ebbs/20160521_938_8843p
(−)日の提示で多様性が出ていますし「昨日死んでしまった比喩」が意味することも十二分に分かります。ただし、それを深めきれていません。私のふるさとのことを思いながら読みました。もう少し時間をおいて距離感が作品から出てくる作品なのかもしれません。作者のこれからが健筆であることに敬意を払いながら読みました。

8836 : 敢えて彼に名前を付けるのはどうだろう  5or6 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160517_865_8836p
(−)振り切れていてよかったです。タイトルも興味を持てるものでした。ただ、心に残るにはもう一山あるとよいとも思います。

8812 : 地獄に雪が降っている そして俺は踊りだす  Kolya 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160510_683_8812p
(−)最初、タイトルで全てを言ってしまっているのかと思いました。重層的で心地よいリズムで、全てを押し切ってしまう力技は「出会えてよかった」感があります。

8835 : 飛翔  月うさぎ 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160517_851_8835p
(−)作者の作品は書きたいことは分かるのですが、それがいつも、これまで書かれてきた言葉でこれまで書かれてきたように書かれているので、残りません。何か独自の言葉や比喩を見つけられると良いのですが。これまで書かれてきた言葉を知るためにも読書してみて、それまでに無かった言葉を見つけていくことが大切なのかな、と思います。

8837 : 愛の欠片  おでん
URI: bungoku.jp/ebbs/20160518_875_8837p
(−)悪くはないと思う。向き合っている主題を更なる飛躍と共に読みたい。

8825 : 菫(すみれ)  石村 利勝 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160514_774_8825p
(−)旧仮名遣いさえなければ良い抒情を持った繊細な作品だと思いました。旧仮名遣いが非常に勿体ないです。良い作品なのに。

8830 : 跳躍  石村 利勝 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160516_823_8830p
(−)既視感に富んだ作品であり作者だからこその表現や独自の作品としての高揚感を見つけにくい部分があります。過去の名作を超えるだけの作者の独自な作品を読んでみたいと思いました。作者には、そんな作品が書けると思っています。

8822 : きっと楽しい生活  赤青黄 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160513_743_8822p
(−)淡々と思ったことを書いているようですが、きっちりと詩に落とし込む技術が使われていると感じました。内容も引き込まれるところがありよかったです。
(−)作者の住んでいるところを知ってしまったこともあり、とても作品には共感する部分がありました。ただ詩集なら威力を発揮しても単作品としてなら背景を、この作品で伝えきって観賞することは難しいのかもしれない、と思いました。作者の先は、とても良い作品ばかりなのだと思いながら多くを考えました。

8811 : 羞明  澤あづさ 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160509_645_8811p
(−)音の流れで残る部分を残らなく、残らなくて良い部分が引っかかるようになってしまっていることが勿体なく思いました。良い作品のはずなのに。

8809 : 悪目くん episode1  ヌンチャク 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160509_622_8809p
(−)作品内で悪目くんが罵倒している詩を作者が書き、それを自分で罵倒しているという姿は二律背反性を抱える自己像にも思えます。詩人の自分を召喚してしまい対峙し罵倒してしまうこと、その恐ろしさをエンタメ化できていると思えました。ただ詩人を呼び出すまでが甘いです。悪魔くんのパロディとして、もっと作りこむと後の展開に活きたのでは。

8795 : 純粋おっぱい  蛾兆ボルカ 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_424_8795p
(−)とぼけた感じですが、テーマについて書ききっている感じがしました。アクセントはありませんが、それが気にならない書き方でした。

8787 : Radiances  田中恭平 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_388_8787p
(−)強い言葉はないのですが、強い感情が伝わってくる作品でした。言葉の響きやリズムも完璧で、読めてよかったと思えました。

8796 : 埋没  本田憲嵩 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160503_439_8796p
(−)良い作品です。日々を生きていて、そこにある感情を見つめている。だからこそ生き辛いだろう生活の中での作者が浮き上がり見事な詩情を放っています。

8789 : Darryl  アルフ・O 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_391_8789p
(−)いろいろなことを思いました。上手いんですが最後の口調のまとめ方が引っかかります。効果を薄れさせてます。作者自体は上手くなっています。

8786 : 詩の日めくり 二〇一五年一月一日─三十一日  田中宏輔 
(−)短い日ほど良いです。長い日は長さに住みを見出せず、ただの日記と区別がつかない箇所も多いです。
(−)緊張と弛緩が上手すぎます。

8790 : せっしょん  湯煙 
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_394_8790p
(−)この作品、もっと面白くなると思いました。推敲したものを読んでみたいです。すごく面白い作品なのでは。
(−)楽しい作品でした。よく練られていると思います。

8791 : 弓張月  芥もく太
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_396_8791p
(−)とても良い作品です。丹念に書かれていてレトリック以上の人間的詩を紡げているのではないでしょうか。
ただし、
 いや逆に
は無い方が効果的に詩が進むと思います。

8793 : ヒカル現詩 ポエ爺歌留多  ヌンチャク
URI: bungoku.jp/ebbs/20160502_413_8793p
(−)タイトルが凄いですね。このタイトルを一生懸命かんがえて書いた作者には敬意を払いたいです。

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