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文学極道の発起人・スタッフによるブログ

2月分選評雑感・優良作品

2011-04-05 (火) 21:02 by 文学極道スタッフ

2月分月間選評雑感・優良作品
(文)織田和彦

東日本襲った地震の影響等々、いま大変な状況がありますけれども、あまり胸を痛めて足をすくませてばかりにもいきませんので、今月も頑張っていきましょう。
遅くなりましたが2月分優良作品に選出された三作品について触れておきます。

「数式の庭。」-田中宏輔

田中宏輔は詩人なのか?
この「数式の庭」を優良に推したのは(私ではなく)別の発起人なのですが、改めてよく読んでみるとなるほどよく書かれている。よく書かれているのみならず、ずば抜けた思索力を有する詩人だと感じます。考える力です。詩人というものは感性で対象を捉えるものだと考えがちですが、感じるということもまたロジックの体系なのだということを田中宏輔のこの詩は教えてくれます。時代の潮目にはこれまでの秩序が解体され、新しい構造体が見るまに現れます。おそらくこれは彼のセクシャリティとは無関係ではないと思われるのですけれど、他の人間なら考えなくて済むような場面に数多く直面し、思索を深めてきたのことが今の彼を作っている。こういったゼロから発想し、思考する力はこれからもっとも求められてくる能力ではないでしょうか。
そういった意味で今前衛に立ち注目されるべき詩人の一人だと考えます。

「テーブルで一人パンを食べるということ」-右肩

小説とポエジーの間で揺れるような言葉の粒子を紡ぐのが彼の詩ではないでしょうか。その技芸は職人の域に達している。ワンフレーズで“すべてを”描写してしまう力。突飛な発想でたちまち世界をハートフルに包んでしまう造形力。どれもこれも何度も人生の深い闇を見てきた彼が、届けようとする人間肯定の詩なのだと思います。ニヒリズムを“売り”にする作家や詩人は過去にたくさんいますが、私たちの時代はある意味もっと“深刻”なものだと思います。この作品にも随所に現れるファンタスティックな表現は、時代と交じり合うたび強くなっていくものだと感じます。

「big america」-るるる

辛口の文明批判を含んでいるこの作品、しかし語り口はどこまでも甘く読みやすい。私には初見の人でしたが、その作品世界は、作者や背景の予備知識がなくても親しみやすく、これは教えてできる(あるいは持てる)ものではないので才能だと思われます。ここに安住することなくさらにその持てる才能を伸ばし、新しい世界の語り手として活躍してもらいたい。   

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