文学極道 blog

文学極道の発起人・スタッフによるブログ

2009年10月分選考雑感

2009-12-05 (土) 17:09 by a-hirakawa

今月も勉強になりました。
ありがとうございました。

今月は、

3842 : 思考停止  葛西佑也 ('09/10/05 15:17:51)

3902 : この場所で  浅井康浩 ('09/10/31 22:44:40)

3904 : 広場  泉ムジ ('09/10/31 23:58:52)

3881 : spangle  ひろかわ文緒 ('09/10/21 04:55:07)

3859 : あなた、と、わたし  鈴屋 ('09/10/12 19:54:16)

3855 : 出立  DNA ('09/10/09 23:24:04)

以上、6作品が月間優良作品に選出されました。

3842 : 思考停止  葛西佑也 ('09/10/05 15:17:51)
今回の作品は、今までの作風から大きく変化していて、これまでの、スラッシュの使用や、変形的な詩行ではなく、整列されて言葉の運び方がスリムになったように思える、それでも二連目の「なのになのに」といったあたりは、かつての作品の気配も見えるように思えて、このあたりも、さらに推敲して余分なところを省いていくと、さらに、美質が高まるように思えた、という意見がありました。作者の今作は思春期から抜けきれない苦しさを上手く言い当てていると思えた、実在感を持って客観視することで読み物として興味深い位置に自己を上げている、自己が魅力的な位置にあるので、より作品としての郷土を増している、という意見もありました。意識的に自分を作って、演じるのではなく、自分の世界へと連れていく、これは凄いことだ、作者の性的な律動も見えて、冷静に悲しむ強靭さが、将来いつまでも詩人として歩むであろう姿を感じさせる、意味深い作品だ、という意見もありました。

3902 : この場所で  浅井康浩 ('09/10/31 22:44:40)
今月の作品で読みやすさと読後感のバランスが一番良いのはこの作品だ、と感じた、という意見がありました。おそらく、柔らかなリズムの詩文を書かせたら、作者に並び得る詩人は日本には存在しないだろう、音楽そのほかを拝借しつつ、失意からのリスタート、そのささやかなる決意表明、生半可ではない喪失感を際立たせるよりも、それへの慕情を優先させたのであろうし、また、共感を誘わんとするよりは、話者が自らを鼓舞するかのような選択か為されている事にも好感が持てる、ラストの余韻も美しく響く、という意見もありました。携帯から読んだ場合に端末によっては改行が崩れてしまう、その外観、故意ではないだろうけれども、作品にとっては手痛いマイナス材料にも感じた、良作はそのメディアを選選ばないはず、そして、それは万全のチューニングが出来ていてこその話だ、けれども出来そのものは優れていて非常に良い、という意見もありました。一連がずいぶんと馴染み安すぎる部位に下がってきている、音楽が前にあり予想がつきすぎる、「ピストル」という部位はもっと何か作品を高める言葉があったのでは、と感じる、二連目も、何か地雷をしかけても良かったかもしれない、紡ぎが単純で、よみやすさ、たゆたいやすさ、それ以上をもっと前に出してもよいのではないだろうか、優美な作品に仕上がっているとは思うけれども、それ以上を読めば読むほどに求めたくなりもした、過去の作者と比べてしまうので、もっと読み手の先を仕掛けても良いのでは、という意見もありました。

3904 : 広場  泉ムジ ('09/10/31 23:58:52)
内容がとても解りやすいものなので、もう少し最後はみ出してよかったように思えた、
 「革命の広場」の何処にも白鍵は見つけられない
の結びは予想がついたし、その意味的空気を、それまでで内包させることに成功しているので、はっきりと再認識させると閉鎖的になってしまうようにも感じる、という意見がありました。「権力的闘争的ものはいつの時代も繰り返されて塗り替えられてしまう、正しかったことはすぐに過ちになり、愛の広場と信じられている場でこそ命令による殺戮を空間的にも時間的にも経て、一時的な書き換えが行われていく、本当の純白な真理、白鍵はみつけられない」そのような作品だと読んだ、内容が単純なので、もう少し最後、何かあっても良いのかもしれない、もう少し遊びがあっても良いのかもしれない、作者がもっと活きる方向があった気がする、という意見もありました。凡庸な題材なりに書けてはいるが、成功とまでは思えない、やや筆が硬い印象、イメージは無難に広がるので注文は付けにくいけれど、もっと飄々と料理出来るだけの腕はあるだけに不満の方が先に立つ、という意見もありました。意見をまとめてみるとボロクソに言われているように感じますが、全体的に評価は高かったです。

3881 : spangle  ひろかわ文緒 ('09/10/21 04:55:07)
静と動のバランス配合に妙味のある作品、内実は凡庸だが、過去作品、その後のエピソードとしても楽しめるのが救い、リズムは相変わらず良いけれども、たとえば助詞の使い方を工夫すれば更に彫り込めたのでは? と思う、推敲に迷いが生まれ、身動き取れなくなった窮屈感がある、これはこれで良質だけれども、ひろかわ作品としては手渡される結実に明らかな不足を感じた、という意見がありました。十分な小品だけれども、些細を些細で終わらせてしまっている綴りが多いようにも感じる、という意見もありました。「人との関係性を軸に、失った無垢さへ目が行くとき、夜を美しく集合体として彩っていた幻想への頷きが、それでも一人ひとりの輝きを目に焼き付けていく」と受け取った、肯定的な印象が余韻を心地よいものにして強度を増していっている、三連まで読んでから一連の独りを突いていく情景が綴りとして上質になっていると再認識させられる不思議さがある、二連の言葉選びは今ひとつかもしれない、という意見もありました。

3859 : あなた、と、わたし  鈴屋 ('09/10/12 19:54:16)
やられた、完全に油断して穏やかな情景に二人の関係に浸かっていたところを一瞬にして消し飛ばす爆破がある、構成の勝利、戦争を描いたものとしても踏み込んで人に在する傷の重なりと許しあうことと降りかかる暴力的不幸せを描いたものとしても極上の綴りに思える、最後、二人に平安が訪れることを、安らかであることを祈るばかりだ、「さようなら    、    さようなら」の句読点の間は、もっとやりようがあったのではないだろうか、いらないのではないだろうか、良質さの中で散漫に転じる、という意見がありました。最終着地に不満、バランスも悪い、甘い軽いが半端気味、という意見もありました。

3855 : 出立  DNA ('09/10/09 23:24:04)
個人的な嗜好の範疇外である作風であるにもかかわらず、読んで泣きそうになった、「読めた」とは言いきれない、しかし再読の日々だ、外観は美しいとは言えないが、胸を揺すられ、心を掴まれてこその、芸術としての強度がある、という意見がありました。「ぼくたちには 脱ぎ 捨てられた 体皮 が/ある」この綴りは配置の中で極上の部に入るように感じた、現代詩的に装飾してあるだけではなく、主題の奥にある観念が新たな息吹を得ているように思えた、という意見もありました。意見をまとめてみると、絶賛のみのように感じますが、評価はかなり割れていました。

さて、次点佳作作品について触れていこうと思います。

3887 : もうね、あなたね、現実の方が、あなたから逃げていくっていうのよ。  田中宏輔 ('09/10/22 14:38:48 *28)
選考の際、評価が真っ二つに割れました。かなり感情的な意見も出されました。優良に強く推す意見もあれば落選へと強く推す意見もありました。「Forest。」はバカバカしくて好きなのだけれども、うーん、先ずはボリュームそのものよりも一行開け表記に多大なストレスを感じる、スノッブな自己紹介のような趣が強く、頻出する固有名詞群が煩い、それらを嫌味に感じさせない工夫が為されてはいるけれども見事に滑っている、その滑り具合の素晴らしさに一票を入れたい、という意見がありました。もちろん生卵を投げる読者も相当数いるだろうから、作者に問われているのは、つまり覚悟みたいなもののように思える、べらぼうに長いのを書く人、野にはいくらでも居るので、読み手との距離を考えて欲しい、という意見もありました。寸分足りとも評価しない、という意見もありました。

3897 : 点の、ゴボゴボ。  田中宏輔 ('09/10/30 14:54:58 *2)
選考の際、評価が真っ二つに割れました。かなり感情的な意見も出されました。優良に強く推す意見もあれば落選へと強く推す意見もありました。詩か日記かは、どうでもよい、というより、これはもう知識としてのみのブンガク的雑踏における世間話の羅列を下地とした、ネタと関西圏ノリツッコミの世界、のように感じる、レスの指摘にもあったようにインターネット詩の手法としては既に古い、熱意は買いたい、但し衆目を集めたいなら尚更、もっと斬新なサプライズが欲しい、という意見がありました。一行開けにしない方が、テキスト本来の妙味は格段に増すと思われる、面白くは読めたが、二度は読まない、いずれにせよ課題はそこだと思う、という意見もありました。詩集で知っている上で意見を書くと、作品そのものの外観が明らかに横スクロール向きに感じた、インターネットで発表を続けるならば、また違ったスタイルを発明しないと、単なるネタの人、レスレスが痛くて触れないので絡みにくい人、等で定着してしまい、晴れて「名前だけで読んでもらえない詩人」の仲間入りとなりかねない、危惧を感じた、という意見もありました。作者の作品として最初に入りやすい作品、という意見もありました。これまで何故もっと注目されてこなかったのか分からない、自分の得意な場所へと引き込んで圧倒的に読ませていく見事な手腕だ、という意見もありました。寸分足りとも評価しない、という意見もありました。

3883 : 舌切り雀  ゼッケン ('09/10/21 20:21:11)
なるほど、と読後思った、小さい冷蔵庫は子供であるスズメの死体を入れるために用意されていた最後は面白かった、舌切り雀でよく、ここまで書けたな、と思った、後半に行くにつれて、もう少しだけ整えても良い箇所が出てくるところが気になった、という意見がありました。この作品、ホントにこの文章量が必要だったのかなぁ、と思わなくもない、という意見もありました。小説の緩用のような文体そのものは、やや雑然としてはいるが、登場人物の少なさと限定された場面が良い方向に作用していて、面白く読めた、たしかにドラマ仕立て風でもあるにせよ、設定を欲張らなかったのが成功している、また、謎の提示はあれども胡散臭げな警句に満ちていない操作も歓迎される、という意見もありました。追い込みをかけられているであろう男が「何も持ち出さなかった」というのが肝、現代社会的には認知されにくいであろう「粋」が浮かぶ、詩情もある、一気にスラスラと読み易いのもプラス、優れている作品だとも思う、という意見もありました。

3863 : 進化  泉ムジ ('09/10/13 12:07:23)
推敲前の原稿を読んだことがあったが、推敲後の今回の方がずっと佳くなっていて良質さを感じた、という意見がありました。コミックス的流れが行を増す度これまでの読み物としての時間の密集となり、凝着させていく感度を上げているように思えた、展開の速さを作品としての仕上がりが見事に乗りこなしている、という意見もありました。作者の遊びが見事な地点で活きている、作者が活きていて作品が効果的、構成と音韻のあり方は勉強にすらなる、という意見もありました。

3903 : フェリーボート  右肩 ('09/10/31 23:04:22)
相変わらず作文だけにも感じたけれども丁寧で受け渡せている、という意見がありました。あれれ、手札を変えてきたのかな、と思っていたらば過去作品だったのか、と思った、いや、でもこれ、ジョイントも含めていろいろうまくいってるのではないだろうか、中身も、ちゃんとある、という意見もありました。凡庸なフレーズが部分的に点在する故、傑作とは位置づけられないが個人的に最終連はとても好きだ、たしかにサリンジャーを彷彿させはするけれども、という意見もありました。

3884 : notitle  いかいか ('09/10/21 21:01:32)
面白いのだけれどもスピンオフ的感覚が否めない、私が作者に興味があるから面白く読んだのかもしれない、という疑念にとりつかれもする、という意見がありました。日記かどうかは些細な問題でしかない、ただ、異化よりも迂回が勝りがちな書きようは読み手に奇妙な閉塞感をもたらすように感じる、ヘタではないけれども装いにせよ、すれっからしの文学青年臭が痛いこの路線はアウトだと思う(紀行文集でも書くなら別だけれども)、という意見もありました。予告編や習作は、もういいのではないのだろうか、という意見もありました。

3862 : crabe en octobre 十月の蟹  はなび ('09/10/13 09:23:08)
不倫をした行方を互いに秘密として、どこへ噛み合おうか、飲みこもうか、という作品、ただそれだけなのに、言葉選びが実に洒落ている、不思議だ、という意見がありました。嗜好にストライク、ジャンクを列記しただけとの謗りを免れないやもしれないけれども、不可思議な読後感は、詩の裾野を広げるに寄与する確実に、ガーリッシュと言ってしまえばそれまでだが、それ言っちゃお仕舞いというかなんというか、という意見もありました。

3901 : ハロウィン(中身のない南瓜)  破片 ('09/10/31 16:17:09)
煙草パート良かったので、そこをもっと高めて欲しかった、タイトルでほぼ全てを言ってしまっているので、もう少し語彙を高めた方が良い、という意見がありました。過渡期というか、苦心の痕跡が窺える、方向性は悪くない、ツカミには失敗している、という意見もありました。
「とりっく、おーあ、とりぃと!」(「Trick or treat?」、直訳すると「怖いことされるのと御馳走するの、どっちにする?」、意訳すると「お菓子をくれなきゃいたずらするぞー!」、ハロウィンの際お化けなどの仮装をした子どもが家を回って「Trick or treat?」と言って、お菓子をもらう。ハロウィンはローマ教皇グレゴリウス1世が、1年の終りを10月31日とするケルト人に布教をする際に、ケルト人の慣習をキリスト教信仰的解釈をしたことから始まったと言われている)は、無いほうが作品の綴りが良質な方向で際立ったのではないか、ハロウィンを軸にせず、連毎の文に特化した方が魅力が増したのではないか、という意見もありました。

3861 : 海中布団  snowworks ('09/10/13 00:40:25)
「そこに理由はないようです。」ここは削るか、「理由」を何か別の単語に置き換えた方がよりよくなるのでは、と思った、作者は作為がない中で詩作へ向かっている印象を受け安心する、という意見がありました。海中での優雅な眠りは、夢の贅を満ち引きさせる、最後に朝になる際、見ていく事象が、とても小さいことも魅力のひとつだ、という意見もありました。

3832 : 壁の裏側  岩尾忍 ('09/10/02 00:36:17)
世界は描けているかもしれないが、おもしろくはない、再読性には欠ける、という意見がありました。一人の人生をみつめていく目を隠す場所である壁の裏側、その一人の生と死が二連、見事に要点を抑えて書いてある、これから、他界した生命は人をみつめる愛でていく優しい存在となる、壁の裏側という言葉選びが適切であったかどうかは少し疑問だが、良質な素材と組み合わせだと思う、「壁の裏側にいます/私は/いつもその壁の裏側にいるのです」「いつも私はその壁の裏側にいました/そしてもちろん 今も//ただひとつ これまでと違って/これからはあなたのいるそちらが/裏側なのですけれど」この部位をもっと、深度を意識しても良かったのに、と思う、この作者なら絶対に、もっと良い作品に出来たのに、と悔やまれてならない、という意見もありました。

3886 : 追憶  リリィ ('09/10/21 21:54:23)
良質さが少なく感じた、導入部位や、「もしもし、聞こえますか」に引っかかったんだと思う、そこをもっと高めたり、祖父の存在を思い起こすに至る一動作や風景の中に刻み込まれたものを出すと、なじんでいったのかな、と思う、という意見がありました。五連は素晴らしい、独特な文章が魅力菜だけに他の連が追いついていないのが、もったいない、という意見もありました。のほほんとした空気が実に佳い、単なるノスタルジアでない昭和がさりげなく配置されてもいて、深読みの余地もあり、拙い筆だが、読んでいて愉しい、最終連が弱いが、現代詩に汚染されていない(ように見える)瑞々しさに頬が緩む、という意見もありました。

3890 : June  んなこたーない ('09/10/23 02:51:18)
悪くはない、しかし突出もしていない、という意見がありました。好きだ、この作品、映像よりも静止画が紙芝居的に動いているかのような錯覚をもたらし、その隙間にもまたイマジネーションが跳ぶ余地が仕掛けられてもいる、異化あるいは同化作用として召喚したのであろうセンテンスには、成功している箇所と失敗している箇所とあるけれども、見え得る景色の豊穣さの方が勝るように思える、という意見もありました。

3896 : 風  田中智章 ('09/10/30 00:39:34)
過去のものから、また一歩進み、描写と時間と空間のあり方を高めている、自分なら削るという部位も思ったけれども、それは作者を信頼してよい部分なのだと思う、良質な小品かもしれない、という意見がありました。作者の自覚のほどはともあれ、どの作品にもスムーズなイメージの伝達を阻害しているかのような疵があり、それによって予め用意されていない筈の謎が生まれる、そこが好きだ、残念ながら直球の文才はあまり見受けられないのでポエジーに寄り過ぎるのは自殺行為だろうし、習作のような感触もあるので、やや不満、複雑骨折した言語感覚を以て蹂躙されたような、わけのわからない快感が熟成されるような、彼岸で覚醒させられるような、そんな作品をこそ期待します(どんな作品やねん)、という意見もありました。

3868 : 葬列  如月 ('09/10/16 14:03:38)
言葉に隙があるけれども、それが広がり、完成されていない完成を生んでいる作品、「それぞれに」ここを、それぞれが、としなかったことで、この作品はまず活きた、「一杯の水と花が」、水には「一杯の」とあるのに、花には、ない、その比重のあいまいさが、死への思いを不可解にさせ、花という生の具現を際立たせる、「まだ名付けられていない一匹の魚が浮遊し」、これは後に声だと解る、それは自己であり、他者へと渡せる自らも第三者的に見ることが出来る自己だろう、そして三連、「冷たい体温を手のひらですくうと/たしかな/あなたが開かれてゆく」、あなたの死を前にするのだが、これは現実ではなくあって欲しい、手のひらですくう内在の出来事だと活きてくる、現実だとありきたりで、二連は活きない、「空の奥行きを見上げた」、ここは、あまり良くない、「全てを」、も、もう少し言葉を選べたかもしれない、という意見がありました。空の奥行きで現実世界的要素が広がりを持ち、そこはマイナスに働いていると感じた、ただ、その隙も良い部分でもあるのかもしれない、作者は、ゆっくりだけれども確かに伸びてきている、という意見もありました。作者が詩に迷っているような印象あり、丁寧には書けている、けれども教科書的な取り澄ました感触が寧ろ無用な美化を召喚してしまいかねないのでは、汚い描写ではないし工夫もしていますが、セールス・ポイントには乏しいと言い換えてもいい、書きたい事は充分に伝わる、でもそれは詩の必要十分条件ではないし、最大公約数でもないと思う、地道な努力は認めたうえで、という意見もありました。

3878 : 風染め  深田 ('09/10/20 11:16:53)
個人と性が際立つ怪作、という意見がありました。「回転賑やかな花火もいい/螺子を巻いたか/沸騰する湯/手を叩いてまわれ/摩耗しついにはアスファルトにはいつくばる光のひと際の円さを食めよ、/お前の歯はやさしい」この連鎖は見事としか言いようがない、「螺子を巻いたか/沸騰する湯」特に、この流れは湯の流れの終末と沸騰の始原を逆行していて意識をなぞる、という意見がありました。三連、一夜があったものとの描写があり、「子宮が昼間なのにずっとあすこにあるの」と締め、つなぎ、四連の盛り上がりへと持っていっており、四連は堕胎のありようを産む部屋とも取れるし、自分達が死児なのでは、けれども気持ちよさとしての本能は消せずにある悲しみと創出、生命が母への思いとともに書かれているとも受け取れる、非常に良質に感じた、「色んな色で」、は、少し乱暴が過ぎるように感じる、ただでさえ「!」とテンションを強く保っている作品なので、そこは優しく描いても良いように感じる、入り組んだ性、個人の名前、それらは読み込みたくなる面白そうな魅力を持っているように感じた、という意見もありました。

3867 : 昨日、僕は、オナニ−をするかしら  蛾兆ボルカ ('09/10/15 18:56:14)
タイトルの「するかしら」から「するのかしら。」と導く導入部が素晴らしい、内容はとても解りやすいので、欠けた部位が効果を生んでいる、という意見がありました。個人的にボルカさんの作品は苦手、しかし、これは様々に読める、しかも丈が短いので循環の効率もよい、という意見もありました。相性やターゲットの絞り方ではなく(そりゃ単なる逃げ口上ですわ)、スタンダードを故意に踏み外したりビターな機微を捉える独特の筆力はあるので敢えて下ネタ・動物ネタ無しで勝負してみるのが(無難、ではなく)挑戦ではないか、と、後ろ指さされて笑われても覇道を歩く漢を期待するからこそ現況評価が低いのであって、相性云々はチワワにでも喰わせておけばよろしいかと思う、ハンドル・ネームから推察して、「気持ち悪いネット詩人ランキング」の上位にランクされるのは、けして本意ではないでしょ?違いますか、ボルカさん、シニカルな唇にこそ叙情が似合うものです、という意見もありました。

3889 : 明日も雪景色ね  ヨルノテガム ('09/10/23 02:07:03)
構造は悪くない、ただ、話者の女性の科白に失笑してしまうくらいの無理があり、醒めてしまうのが難点、という意見がありました。やりとりや世界観など含め、もっと高みにいけたであろうと感じる、というより確信する、もったいない、という意見もありました。書き慣れていて、そこそこは巧い、でもそれだけでは…、という意見もありました。

3898 : やわらかなもの  はなび ('09/10/30 15:02:18)
異国感覚、それを日本語で、さらりとやってのけてしまう作者はすごい、最終行、変更したことで、よりやわらかくなった、いざなわれる、という意見がありました。「やわらかなもの?」と問われて挙がる「かなしいなみだ」や最終連をどう捉えるかで読後感や評価が分かれそう、という意見もありました。実際、柔らかいので人気は集めそうな小品には仕上がっている、でも、どうだろう、ハッシャバイならもっとフランセーズ寄りになった方がよかったんじゃないかしらん?或いは、平仮名で後半崩すなら、リズムが良くも悪くも平坦かな、と、このテのは、いかにしてフェード・アウトさせるか(それと気付かずに、させてもらえるか)が醍醐味なのでは、という意見もありました。

3872 : 青いクジラ  ミドリ ('09/10/17 23:41:32)
読みやすい、意図していることや比喩していることも非常に解りやすい、メイちゃんと、どこで思いや道が異なっていったのかが青いクジラという比喩を軸にうまく書かれている、ただ、上手いけれども、それだけに飲み込みやす過ぎる、何か地雷があってもよいのかな、と思う、という意見がありました。本人も書いているけれども、それだけではダメだ、という気持ちをどうしても刺激してくる、最終連の技巧は無難すぎるように感じる、という意見もありました。うーん、作者はアニメーションだろうがなんだろうが造詣が深いであろうはずなのだが…、「男子」や「追憶」の露出は充分だけれども、ステロタイプ化されたカメラワークで生煮えになっていないだろうか、在るはずの溌剌さとスイート・ペインが、明らかに若くない経験値を感じさせ、若い世代には共感されにくい、これは致命傷かと感じる、という意見もありました。

3854 : Adieu Tristesse  ともの ('09/10/09 22:24:41)
朗読されたら引き込まれそうな作品だ、と感じた、という意見がありました。それぞれの行間がだらしなく感じる、という意見もありました。作者さんの作品に漂う空気は結構どれも好感が持てる、という意見もありました。

3837 : おとずれる時  soft_machine ('09/10/02 15:03:24)
やりたいことは解る、ある部分では出来ていることが全体を通すと出来ていない感覚に陥らせる、という意見がありました。やりたいことを解らせてしまうが為に、もっと慎重にならなければいけない、上手い部分は、とことん上手い、惜しい、という意見もありました。

惜しくも選からは漏れましたが、その他、以下に挙げる作品が注目されていました。


3877 : Halloween  19 ('09/10/19 23:25:36)
惜しいな、と感じる、もう一歩進んで、一行目と最終連を際立たせて欲しい、という意見がありました。アラはあるにせよ、なかなか佳いんじゃないかな、と思う、作者の成長も含めて評価したい(上から目線的な物言いでイヤになりますが…)、という意見もありました。

3892 : ほらばなし  ぱぱぱ・ららら ('09/10/27 13:13:37)
形骸の先にあるものを書いていく、いつもの作風とは少しスタンスが違うように感じた、タイトルで形骸をやはり醸しているが、それよりも文章力の巧さが際立ち、あまり気にならなくなってしまう相殺効果もあげてしまっているようにも感じる、という意見がありました。脈絡の欠落した夢語り、だろうか、タイヤ→フィルムはベタ過ぎるが、スルスルとは読める、実はこれ連作で、次回、カンガルーにスポットを当てた作品なら楽しみに待ちたい、という意見もありました。

3833 : 水中庭園  DNA ('09/10/02 00:36:49)
作者の新境地とでも言うべき、じっとりとねっちょりとした感慨、一連が実に印象的、それを考えると二連からの転換というか視野の傾き方が、あまり効果を生んでいない、水中の庭園という言葉の強さと一連の強さが遠ざけあっているような気すらする、三連も、もっと行けたはず、という意見がありました。一連と最終連で十分良い作品になっている、真ん中をいろいろとこじ開けなくても良かったのでは、という意見もありました。

3853 : 闇に溶ける  時渡友音 ('09/10/09 22:02:02)
惜しい作品だと思う、よくよく考えて書いた感はあるけれども、不用意な、または強引なメタファやジョイントがマイナス、という意見がありました。作者の作品は概して、贅肉が目立つ、フォーカスが一定しているのにシャッターのタイミングがズレている、キャラクターが登場過多、着地がヘタ、という印象を受ける、書かれている世界観は「共感装置」として抜群に機能しそうな魅力が垣間見えるだけに、燃費の悪さの改善が課題に思える、という意見もありました。作者には期待していて、その内すごすぎる作品を書いてくれるのでは、と密かに注目している、という意見もありました。

3880 : こんにゃくに関する二、三の考察  Canopus(角田寿星) ('09/10/20 22:53:54)
たしかに面白い、が、これなら往年のツツイ辺りがもっと巧くソツなくイヤラシクやっている、あまり関係ないが昔、手を使わずにオナニーする方法だけの本があった、詩文としてオナニーをネタにSS仕立てとするなら、その方向が(キモいが)面白そう、という意見がありました。それぞれの水位は塩梅が良いと思う、ただ、内容が学生そのままで、何を今更、という感覚が浮かび、良い意味でも悪い意味でも裏切りが全くないまま作品が進み完結しているように思える、という意見もありました。

3888 : 魚  はかいし ('09/10/22 14:41:11)
上手くいかない生き方のため息から産まれていく物語、詩句から離れていればとても良い作品に仕上がったのでは、という意見がありました。「皮肉」が作者が使いたいように使われていないように感じた、効いていないのだ、機知が、という意見もありました。

3840 : 卵  はかいし ('09/10/05 06:01:31)
発想は買うけれども、とっちらかり過ぎ、但し、成長は感じる、向上心も見受けられる、この先、(少し)楽しみ、という意見がありました。全体的に面白い要素を丁寧に描いている、一連の白身は非常に繊細なのに、二連の黄身は「黄色」と唐突に単純な描きになるのが残念、一番、難があるのは四連目、ここは回想と説明よりも、吹き飛ばす錯層にしても良かったのかもしれない、三連目の後半もあまりいただけない、「ああ、そういうことか。今僕の視界を遮っているのは、何か得体の知れないいきものの細胞なのだ。//「月に一度、この国には猛烈な卵の雨が降る。」ホテルに向かいに来てくれたヤコブは、電話ではちっともそんなことを話してはくれなかった。「だから言ったろ?雲の上には鳥が住んでいるんだって。」冗談だと思っていた電話口での言葉がふと蘇る。なるほど、道理で卵の値段が異常に安いわけだ。ところで、卵の殻はどうなるんだ?「さあな。そういうのが降ってくるときのために、どうしても外に出なくちゃいけないときは、みんなヘルメットを被るのさ。」」この部位、もう少し煮詰めなおしてもよかったのでは、と感じる、全体的には良い、文章も上手くなっている、もったいない、不条理散文ストーリーには、特に、説明は野暮、という意見もありました。

3891 : 入れ子  宵町 ('09/10/23 04:26:36)
文学極道の内側を作品化してみたようにも読める、負の力が大きい筆致、内輪受けでも、もっと高められそう、他の読み方をするとすれば政治的なものだろうか、それだとしたら、もっと語彙を高められそうにも思える、という意見がありました。檄文調リズムは悪くないが、言葉が驚くほどリンクしていない、ディスコネクトの妙も、言葉遊びの風情も、胸が熱くなる跳躍も、無い、ありがち、それ以上でも以下でもない、という意見もありました。

3882 : まぼろしの通信  mei ('09/10/21 13:41:37)
下手ではないが、無難な美しいフレーズをまとめきれておらず、三連からそれが顕著になっていっている、という意見がありました。

3885 : 暇  びんじょうかもめ ('09/10/21 21:27:55 *2)
ありふれた発想かもしれないけれども、大人くさくないところがいい、さしてシュールではないが、印象には残る、ここから拡げていけたのにな、と思った、という意見がありました。安直かもしれない、全体としては良い、要所要所をもう少し高めて欲しい、という意見もありました。

3850 : 光線〜RAY  熊尾英治 ('09/10/08 06:17:29)
作者の筆は読み手を選んでしまう、もどかしさが先にくるのが、いかがなものか、と思う、味はあるから捨て難い、タイトルのセンスは、いただけない、という意見がありました。生きる先は目標は真っ暗だという暗示、電車での通勤は死に至らしめる殺される暗示、それらがもう少し方向性だけではなく、集合をしていったらよいのかな、と思えた、解るのだけれども、これはあまりに散漫に思える、という意見もありました。

3845 : 街  びんじょうかもめ ('09/10/06 20:41:44 *2)
素敵なフレーズを活かしきれていない、道具立ては揃っている、にもかかわらず活かしきれていない、という意見がありました。寝かせて練ってを繰り返し、構成に労力を費やせば必ず良くなるであろう書き手だと感じる、という意見もありました。

3844 : スパイスは少しで足りたのに  snowworks ('09/10/06 00:55:43)
先月から作者のファンだ、下手なところが良い、こんなに素直に詩を書いているのが嬉しい、ただ、やはり下手で、リズムで整え過ぎて地味なフレーズが目立ったりなど、まだ注意すべき段階でもないのかもしれない、とも思う、という意見がありました。上手な作品が多い中で、こういう作者は貴重だと思う、「海底で大蛸と戯れてるんだろう」赤面と動悸をこう表せることにはセンスを感じたりもした、という意見もありました。

3851 : 翻訳  いかいか ('09/10/08 16:16:18 *2)
完全なる内輪ネタだが、よくここまで書けるなー、と感心した、という意見がありました。

3856 : 鉄塔にて  しゅう ('09/10/10 05:42:15)
言語世界をうまく辿っているようないないような、改行と句読点により、見せる比重を殺しているようにも感じる、という意見がありました。

3834 : 雨宿り  丸山雅史 ('09/10/02 00:38:20 *2)
最終連、良質、それまでの流れを大きく裏切りもしている、小説に特化しても良いのではないだろうか、読みやすさが先行してしまっていて、過渡期な作者の文章と内部にたどり着くには、もっと綴りの方向が詩作品として、あるのではないか、など多く考えさせられた、読みやすく、中身も伝わるけれども、それ以上へ、やはり向かっていかなければならない、と思う、という意見がありました。

3827 : 暗い空  熊尾英治 ('09/10/01 00:17:17)
話者の喪失、を感じた、それを感じさせたというのは、「いらないのだ」と書ききった、この作品にとっては成功だと思える、冷たさと感覚に特化しきれていないので、「暗い空」の鈍色が映えずに磨かれない位置を感じた、もっと良い中核があるのでは、という意見がありました。

以上です。

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