12月選考雑感(平川綾真智)
今月も勉強になりました。
ありがとうございます。
さて、私は、文学極道とは、異なる筆名で投稿している方の過去の筆名を当てるゲームに一喜一憂することが本質ではない、場だと思っています。一月に二編という規定を破っているなら困ったことですが、そうでないなら、どの筆名は誰だ、とかは、どうでも良いことです。
ゲームに熱中しても良いかもしれませんが、それで精神を摩滅したり、感情的に人間を否定してしまったり、詩作品への詩への思いを邪険にすることは悲しいことです。
芸術としての詩を発表し、合評することが本質だと、私は、思っています。誰がどんな作品を書いても良いと思いますし、誰がどんな評をつけようと良いと思います。ただ、評が作品へのものと大幅に外れてしまうことは大問題だと思います。
文学極道は改善点も多々あるかもしれませんが、それだけ、進んで行ける成長していける伸びしろのある場所なのでは、と思っています。
皆で創っていけたら、と私は思っています。
今月の選考でも多くのことを学ばせていただきました。
今月は、
3232 : 「姥捨山日記」抄 右肩良久 ('08/12/31 11:19:42)
3235 : 愛情 泉ムジ ('08/12/31 23:13:54)
3182 : 国道沿い 寒月 ('08/12/01 14:26:14)
3206 : (無題) DNA ('08/12/11 08:05:48)
3222 : 時折の笑い声が、そして Canopus (角田寿星) ('08/12/23 01:05:01)
3189 : 新宿三丁目で思うこと 黒沢 ('08/12/04 01:50:17 *1)
3184 : 無題3(六月の海) プラスねじ ('08/12/01 21:12:00)
3231 : オフィーリア 黒沢 ('08/12/29 23:40:26 *5)
以上、八作品が月間優良作品に選出されました。
3232 : 「姥捨山日記」抄 右肩良久 ('08/12/31 11:19:42)
は、作者の良い面が炸裂した作品だ、という声がありました。作者は頭を使われるよりも、心のままに書かれたときのほうが、傑作が出てきているような気がする、という意見や、最後に何度もどんでん返しがある手品の出来そこない的作品よりも印象の感触を含んで飲む今回の作品の方がずっと面白く、作者に向いているのではないか、ここからもっと伸びあがる傑作が生まれるのではないか、などの意見もありました。
3235 : 愛情 泉ムジ ('08/12/31 23:13:54)
は、美麗に作品へ昇華しきった作品です。選考の際、巧妙に酔わされながらも仕掛けに醒めてしまった、という意見もありました。綺麗な作品であり、綺麗さが愛情を薄めているようにも思えてくる、背理がないというか違和感が付き纏った、という意見もありました。愛情という漢字は少し硬い、内実はもう少し柔らかいので高めあえていないのではないか、という意見もありました。しかし、掬おうと尽きない端麗さは秀でています。
3182 : 国道沿い 寒月 ('08/12/01 14:26:14)
には、なんだこれは、と不思議な隙を突かれる感触があり、感触だけが輪郭としてある不思議さが詩情の醸しだし方の面白さへ直結している魅力に溢れている、という意見がありました。内実だけが伝わる作者の感性と素直な対話が出来る純な位置から書かれた作品のように感じる、という意見もありました。よくまとまっているけれど、字面以上の、言外の、勢いがもっとあってもよいかもしれない、という意見もありました。
3222 : 時折の笑い声が、そして Canopus (角田寿星) ('08/12/23 01:05:01)
には、一種のサンプルのような佇まいではあるけれども、成功している、という意見がありました。良質な作品に育ちそうだけれども一作品としては弱いのではないか、という意見もありました。
3189 : 新宿三丁目で思うこと 黒沢 ('08/12/04 01:50:17 *1)
には、饒舌で説明的であり、主義主張が鈍さを持っているように感じる、という意見がありました。連で異常なまでに突き刺さる、震撼させる部位は非常に印象的だ、という意見もありました。
3184 : 無題3(六月の海) プラスねじ ('08/12/01 21:12:00)
作者の作品はポスター的なデザインという感覚で、より大衆的に魅せていく引力がある、という意見がありました。根は一からの創造ではなく、文学を地盤に敷いたそこからの創造で、凄まじいエンターテイメントだけれども、消えない消費性をもう少し弾けさせても良いのでは、という意見もありました。
3231 : オフィーリア 黒沢 ('08/12/29 23:40:26 *5)
オフィーリアは名画だけれども、この作品は、ささくれだっている印象がある、という意見がありました。もっと整理された文脈を用いて欲しい、もしも整理されていないということを示そうとしているならば、なおさら整理された文脈が必要に感じる、仕上がっていないのではないか、という意見もありました。力作であり、今月随一の作品だと思う、という意見もありました。
さて、次点佳作作品について触れていこうと思います。
3218 : ハイプ ゆえづ ('08/12/22 00:46:02)
は、選考委員全員が賛辞の目を向けていました。優良に推す声もありました。けれども、きっぱり優良に推す気には足りない微妙さがどうしても目立つ、最終連でまとめ過ぎ小さくなってしまったのではないか、という理由から次点に留まりました。素直で優秀な文章であり、今後も期待させる、期待に応えてくれるのではないか、と膨らませられる作品だ、という意見もありました。生活をしているだけで悲劇が叫びに転換し脳内麻薬を分泌していく現代に不快と快のつながりの同じ肌として立たせた見事さがある、という意見もありました。部屋での狂気を覗かせる作品はいくつもあるけれども作る顔の皺が浮かんでいて一歩先を描こうとしていることが伝わる、という意見もありました。感触だけで未完成に過ぎないのかもしれない、という意見もありました。
3228 : 詩 祝祭 ('08/12/29 00:40:29 *1)
言葉というものとの向き合い方、力の抜き方も去勢というよりは別種のものだと感じられる、単にベクトルとしても興味深い、という意見がありました。
3227 : gloom2 5or6 ('08/12/27 21:05:05 *1)
悪くはないけれども、後半もう一展開欲しい、後半が弱くこぼれていっているのではないか、という意見がありました。優良へ推す声もありました。
3198 : あの日のブタと ミドリ ('08/12/06 19:03:48)
ブタは自分自身なのだろう、話し手がブタという自分の影を見ている悲しさがうまく出ているように感じる、という意見がありました。すごい作品だと思う、ただ、作品のスタンスには肝心なところでの「逃げ」が見えてしまう、演じきれていない、という意見もありました。
3210 : 記憶 ミドリ ('08/12/13 22:41:38 *4)
誤字や軽さが作品を追い越していけていないのではないか、という意見がありました。
3213 : 宇宙始まるお☆ ケンジロウ ('08/12/17 13:45:21)
女性的な文章が印象的だ、悪くない、消費されるだけの消費性があるような気がする、揮発性では今月一番に感じる、などの意見がありました。
3204 : 冷製の夜 りす ('08/12/10 16:10:38 *1)
見紛うことなき、過去傑作を綴ってきた作者の筆だが、鋭さと鈍さと淡さとがマッチしていない、バラバラな印象を受けた、という意見がありました。何も感じない、という意見もありました。良質な小作品であり、透けて見える作者の姿が妙な味わいを出している、という意見もありました。
3226 : ショートムーヴィーを中古印刷機で踏み躙るまで、家を失った少年に告ぐ(矛盾するすべてのものへ) ふう ('08/12/27 02:33:35)
端っこに引っかかって重心が位置を変えながら対象を囁いて行く良質な作品です。タイトルが嫌に説明的であり、それが詩の内実を高めたりしているかどうか疑問だ、抑えつけてしまったのではないか、という意見がありました。
3216 : エスマヌール はらだまさる ('08/12/19 23:22:23 *2)
美しさを湛えているけれども、作中の言葉を拝借して言うなら、薄い(というよりは具の少ない)味噌汁のような、もの足りなさがある、という意見がありました。
3190 : イエネコ ゆえづ ('08/12/04 14:59:35)
書いていて楽しかった感触が存在を豊かにしている、意外と上手く言えているような部位も気になる、ただ、猫が癒しというところからは少し離れた方がもっと広がったのではないか、という意見がありました。
3199 : 女神 ともの ('08/12/06 21:08:36 *2)
一部、固いなあと感じる部分があって、その部位が作品の魅力を損なっているのではないか、という意見がありました。作者は、もっと主観を肯定して、その上で自作を客観的に観ていく必要があるのではないか、消化されずに進んでいる部位が多すぎ、勿体無いのではないか、という意見もありました。
3208 : 空き室 鈴屋 ('08/12/13 13:18:23)
今回の端的な写実能力は、買いたい、という意見がありました。ど変態だ、でも誰でも変態だと思う、狂人になれない自分と行動との狭間が上質に浮かんできたが、書き切れていないように感じる、という意見もありました。
3180 : [開封後はお早めにお召し上がりください。] 香瀬 ('08/12/01 09:18:55)
職人技が冴えており、追随する感性が気になった、という意見がありました。もう少し別の方向でもよい気がする、詩を書こうとして現代詩と呼ばれている既存の詩に捉われていないか、そこから侵食する自分が今回は小さいのではないか、という意見もありました。この作品は作者でなくて良いし、作品に今までにないものがあるわけでもない、壊滅も無く誕生も無いのではないか、一作品としては弱いのかもしれない、という意見もありました。
芸術家のたどり着く先を見届けたい気にはさせられます。
もう少し変な作品を読みたいな、という気にもさせられます。
3214 : 影の樹 殿岡秀秋 ('08/12/17 23:17:00)
こういう血で書いたような作品こそ優良を獲って欲しい、という声がありました。良質な作品だけれども、古風な部分が少し抑えつけているように感じる、という意見がありました。汲んでいきたくなる核が絶え間なく湧かせていっている、支流があり過ぎたところが気になった、最終二連は解りやすいながらも詩情が秀でている、という意見もありました。
3179 : 終わらない詩 丸山雅史 ('08/12/01 00:22:48 *3)
詩情の量では凌駕するものがあって、決して上手いとは言えない文体がまた、味となっている、という意見がありました。作者の不器用さと詩の関係性が見事な世界を産んでいるように思える、という意見もありました。推敲後、明らかな間違いと思われる点は変更されてよくなったけれども、修正前の方が人間が出ていたように感じる、という意見もありました。
3220 : 最後の朝食 yaya ('08/12/22 18:41:20)
一連三連は上手く、夢と現実の境目に振り回される感触や熱がはみ出した時の思考のもつれた温度が共感を建てるくらいに伝わってくる、二連の最後二行は回らない思考の中で上手く移行していく感度を渡せているので、その他をもっと壊しても良かったのではないか、という意見がありました。
もう一歩先にいけそうな作品だと感じる、という意見もありました。
惜しくも選からは漏れましたが、その他、以下に挙げる作品が注目されていました。
3181 : 風葬 雨宮 ('08/12/01 12:40:48)
二連目が良質だけれども、創作の創作を見せてしまっている感覚あり、まとまりが作者自身の綴りをすぼめているのではないか、という意見がありました。立体感がなく、作品から受け渡されるものが堪えきれなくなる弱点があるのではないか、という意見もありました。
3219 : 時は時を選ばずに、琉球アサガオ はるらん ('08/12/22 02:23:32)
作者にしては珍しく詩情があり、隙があることがきっちりとした印象からはみ出していて悪くない、けれども、作品としてもう少し結実するためのバランスを考えても良いのではないか、という意見がありました。
3187 : (無題) 高橋 ('08/12/03 19:10:34)
悪くない、前半部分中間部分にもう少し魅力を加味できるように感じる、飲み込み魅せていくには、もう一歩手前の場所にあるように感じる、という意見がありました。
3230 : 交渉 ゼッケン ('08/12/29 14:22:15)
軽い作品だが奥域をいくらでも広げていけそうな点は貴重、まとまりが気になった、という意見がありました。
3188 : ゼンマイとして動く詩とそのネジを巻く手 右肩良久 ('08/12/04 00:37:12 *1)
だんだんと伸びていく詩情と贅が悪くない作品だ、作者は何故タイトルに手品の種を明かすような綴りを冠するのか不思議だ、という意見がありました。
3229 : しずか はなび ('08/12/29 09:10:55)
悩ましいけれども、悪くない、という意見がありました。作者は、ひらがなでわかりやすくかいていくことにむいているのでは、という意見もありました。
3225 : 父と子で観る映画 殿岡秀秋 ('08/12/25 22:32:55)
冗長な点が残念だけれども、こういう血で書いたような作品は大切にしたい、という意見がありました。
3234 : 「未明」に 田崎 ('08/12/31 23:03:48)
3224 : 八十八夜語り ー除夕ー 吉井 ('08/12/25 21:34:59 *2)
3209 : ★ l'etoile noire はなび ('08/12/13 22:10:34)
以上です。