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bananamwllow

選出作品 (投稿日時順 / 全26作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


河川

  DNA

夜がひしゃげてしま  もう忘れてしまった
ってぼくは路上のマ  春だったかもしれな
ンホールに耳をあて  い きみは花見だと
る真砂から 眠る河  というに桜の幹の黒 
川を辿って自転車を  さの夜に溶けだす瞬 
駆る 月明かりだけ  間にしか興味をしめ
をあてにして一九九  さない あのときも
九年の十月へと旅に  たしか自転車がぼく

「世界が五月と十月だけならいいのに」* 

一九九九年の十月に  たちの唯一の動力だ
行き先など無かった  ったから 繰り出し
確定された袋小路の  た 五月はどこにも 
ために ぼくは好き  いなかったが 構わ 
な星と嫌いな星をひ  ず河の跡をたどれば
とつずつ分けてもら  五月にたどり着くこ
い けれど 月明か  ともあるだろうと
りのかわりにと差し  玉川 は所々で ち
出した二つの星をチ  ぐはぐに息を吹き返  
ルリルとミチュリル  すこともあったから
が無言で貪り それ   土管のなかですら
から 八回ずつやっ  きみは透明だった     
てきたぼくの五月と  散った花びらが水面 
十月は全て夜がひし  に集い腐臭を放ち始
ゃげていて眠りにつ  めても なお透明だ
いた氷川に 復讐さ  った 再会しよう 
れつづけている    いつだかの十月に

二つの星に名をつけたおまえ 集った花びらに吐き気を催し 凝視 靴さきをじっと見つめ続け 擬態した昆虫 が弦楽器を奏でる 幸福な (風はもうどの河からも吹きゃしません) 姿をもたぬものどもですらもはやただの反響する透明な壁ではなく 当然の哀しみ の凝固隊がぞろぞろと這い出し からだを消去せよと おまえとともに 消去せよと 唄いだすなら それをトキオの唄とともに 無数の便所から響く数え唄 の濁り 濁流に からだは巻き込まれる から 濁った河川は五月にも十月にも 支えられて きっかりと計測する測量士に 返してやろう おまえのものはおまえに おれのものはおれに 各人の唄に応じて 返してやろう そしてぽっかりあいた光の穴のなかで 暮らせばよい 月が満ちることに理由があるなら 暮らせばよい 離ればなれになったおれの足の指先も 左耳も 寸胴も ひび割れたイルカと桜の模様の描かれた 木製の黒い指輪も 砂利も 眠りについた河の水面で 揺れ続けているのなら 暮らせばよい その縁で 宛先不明の手紙を 兎や蟹が喰い散らかそうが 暮らせばよい 月面には 孔ぼこがあって そこにうちらの河川が 漂着することもあることを 教えてくれたのは うちらと暮らしたこともある 独りの測量士だったのだから 


*岡崎京子『TAKE IT EASY』あとがきより引用


風底

  DNA

        風が、風が吹いているのだ、
         と不意につぶやいたなら
             きみは風たちを
       一歩遅れて知ったというのか

                たしかに、
        風は吹いているのであった
           台所の窓をあけると
               白い物体が
       滑って流しにおちたのだった

          きみはもう風にのって
     風が吹いているのだという手紙を
          風たちの色の自転車で
     風が吹いているのだという手紙を
            運んでくることに
     まっすぐな〈嫌悪〉をむける術を
          身につけてい たから

(細かくふるえながら
ぼろきれと
なっていく左手

     気が違ってしまった老いた犬と発
情、悪い情熱が次の(/)熱を呼びよせる三
度目の乾いた性交のあと、風の吹かない時間
を逆さまに思い出して、その左の手で弱々し
くぼくが作り上げた北斗七星の影絵に、きみ
が、蛇口から降り注ぐ、愛とか哀しみとかの
透明な水と砂まじりの海水とを注いでくれた 

(そっと
置いていかれる
裸子植物の
小さな種子

歩くことと息を継ぐことを
同じ
低さの営みとする
その習俗に触れ

もうずっとぼくらは下手になってしまった

           うっすらくぐもった
              視界の内奥に
             とどまっている
               ひらかない
               風色の草原

(むきだしの生、半裸の棕櫚

             遺体の整列した
      安置(/息)のための体育館で 
      いつまでも鉛筆を削りつづける 
              百草のような
             ぼくときみとの
         おわらない会議が開かれ
              そこにも、風

                 たとえ    
                  /ば
          柔らかい夕刻の腐臭や
           オールドバザールで
             少年たちの齧る
            フルーツトマトは
           風たちの色に乗って
          やってくるということ
                 それを
           信じてきたのだから

「どうか恐れずに」
 
                風たちの
                吹いた、
             たしかに吹いて
            いるの、であった


(無題)

  DNA

おそらく手足を伸ばしたその先には届かないほどの視野のなかで見出されることを待
っていただろう深い森の水面 小さな鳥たちは隊列を組み 閉ざされた光のなかでタ
イヨウを目指すことなどとうに忘却していた昨日までの 

  (雲、のように孤立、し)

三日三晩だった わたしたちの霧を正常でない位置から見定める死に体の

  (狂い、のたたき売、り)

はじめる はじめよう 届かない 「いいえ」 
燃えることのない葉書など 届かない 「いいえ」 

桟橋の下の光を喰った魚の腹のなかには一匹のゲンゴロウがいまも呼吸を続けている
 ときみからの手紙には書いてあったね わたしはイモリの生態について研究する少
年の 助手であったからイモリの写真を収めること以外になんら興味はなかった 

  (残酷、な青が到来、し)

明けない夜はあった
橙色の灯は霧を
最後まで
裏切ることはなく
浮かび上がる
三人の
影と水滴 
そして

露になった
背中に
イモリの
写真はゆっくりと
焼きつけられ 
正しいやりかたで
おこなわれた
小さな追悼の

  チョコレイロ ディス ロ
  口のなかに
  転がる
  チョコレイロ ディス ロ
  摩耗しきる
  その前に

たとえばわたしたちは円卓を囲んでひとつひとつの記号が周遊するじかんを計測した
のだった 測ろう 測れない 「いいえ」 あの湖には イモリのやってくる季節が
失われることのなく 


彼岸マデ

  DNA

卒塔婆に置き去りにされ
産道を走って
おまえの 
狂いの顔を
特売日に
売っておきました

昨日の
彼岸テレビでは
ジブリールが
髭のおじさんの
耳元で
何か
囁いていたんですって

夕焼け小焼けで
日が暮れた日の
帰り道では
丘、と
タイヨウに出くわします

おかあさん
わたし
お家に帰らなくとも
よいですか

異なる
ふたつの
乳房を
ベランダで
虫干しすると
わたしの
生まれた日
のことを
想いだす
そうです

むず痒い胃の突端で
おまえが
溺死するまで
わたしは泳ぎ
を習い
続けます


勝手に埋めろ、人生

  DNA

わたしたちがいまだミシシッピ河で石投げしていた頃 きみがすでに埋め始めていた遠さのボールに記述される詩

1.

ねえさん、今日もぼくたちの波止場で一羽の記号が息をひきとったね

幾何学の身振りで生きながらえてきたきみのからだに 年老いた砂がまとわりつき

道行き、それは疾うにぼくたちの岸辺では役目を果たし終え

綴じられた<>のほうから穏やかな<>がまた漏れだしていく

(これもまた生/活なのだ)

ミジンコの眼球にぼくたちの一切の希望が映るはずもなく

ねえさん、死んだ記号の亡骸にそっとあの石を供えてやってくれ

2.

」空転する さかさまの硝子ペンで

縁どられた空には きみのねりあげた碧 がいまにも崩落しようとしている

(危うさ、とは無関係に交 差する二本の白線)

行き止ま/りはどちらですか?

記号の振り返ったさきで小さな性交が終わりを告げ

埋められたボールのほうで哀しみの羽化する音をきいた気がした

3.

中野の線路沿いの喫茶店で 向かい合っていたきみたちは 白いシャツのうえに 白さを溢した

夏の午前の陽光でぼくには何も判別がつかず

路上ではもう一匹の白さが干からびていた

(風はときに残酷な行いをし)

ちいさきものども、きみたちの悔い改めた翌日に記号は死/ぬだろう

ならば、せめて密航せよとねえさん あなたは云うのか

4.

見よう見まねで始められた分散する思考たち

きみからの短い手紙には一本の記号が杙を突き立てられ

「露出せよ」とただ叫んでいる獣の群れ

あまりの静寂のなかぼくは雨のさかさまに降るのをみた


露光

  DNA

岸辺に充填されるはずであった夜からもはぐれて きみは 銀波の行く末を案
じることにも倦み疲れ テトラポットのなかで窒息した柔らかい書物に手をの
ばす 月のひかりの届くことはなく にがい螺旋をくだりはじめ
  
  (血、のしたを流れるましろい河川

水の流れ 水脈のかけらは散らばり
  (あるいは 冬のなかで滞 留し

完全な護送などなかった
  (きみはつねに冬の午後の弱い光を擁護してきたはずだ

見透かされた葉脈に再度、〈非〉を突きつけ 行き違った鈍いこどもたちのほ
うへ歩み寄る 地下には地下の向日性。があって 白い綿毛の飛び交い 

見/遣るな
  (作業員は作業をし ことばはことばをする

区切られた領海ではなにひとつ獲れやしない
  (頷き、をひとつひとつ否定していき 

「残余は食べられますか」
「いいえ」

ミンダナオからの船には交わることのない希望が積載されていた 

 *

乾ききったゆびのさきで水面のへりを撫で 狂うことのない磁石に黒い布を被
せる 銅線はそこかしこに張りめぐらされており  

                               机のうえ
                              宛名はなく                                            見/遣るな
                                 箱は
                              忘却された
                               鼓動、の
                              運ばないで
                                 海を
                              突き立てて
                                 きみ                                             露光する


(無題)

  DNA



〈ギリギリと舞落ちている真昼のハマユウを右目と左の目のあいだで受け止めて/よ「愛しています すべてが黒い海の表面で反目しあっていた 岸辺の 先端では引き裂かれた無数の花弁たちがもはや浮上することもなく、陽光を薄めつづけて 応答せよ。こちらは一昨日より底冷えする夏、がしなり続けいまだ森という森をグラウンドに描写することにしか興味のないきみの真昼をぼくはハマユウの馨りとともに強奪し、まとめてガソリンを放ってその渦潮の中心部で、凍りついています〉


※ 応答せよ。と命じられたので応答するしかし彼方への手紙への返信とは本来的にすれ違いを演じ続けることを「義務」づけられているのだ


三年前の舗道で朽ちていたハマユウがいま
わたしの鼻先で香っている、燃しつくした
はずの灰のほうから

ざらついた白黒で構成されたあの真昼は恐怖や
酸っぱいクリームを呑込む暇をあたえず
「夏、わたしは殺させない なぜならわたしは 夏、
見つけ出せはしないから 夏、底冷えのする
夏、のひきちぎりそこねた末端。たとえば
きみの耳たぶをわたしはひきちぎりそこねたのに夏、
はいつになればしなり続けるのを止めるのでしょうか、

三年以上も真昼の白黒の繁茂する

グラウンドにはミドリやアオの角の伸びた宝石が息づきはじめ 
真昼の鐘の音が底でしつこく反響し続け(ている 
狂わないのは時の刻みではなくあなたの 頬に刻まれた皺のほうであった/から 
赤子がひとりで、いま真昼の
短い物体を噛み砕いている


暁の、flims

  DNA

陥没した緑の層 その淵へと
   菌糸のたぐいの 声、上げ ている
翻って
(朝の驟雨 
 夜光虫の群れの、鉄の赤錆を舐め



放たれた熱、少女は接触ガラスをその 黒い瞳
に植えつけ 畑のヨコで 滲んだ白い煙をハミ、
乱れ舞っている 

(隣接する鈍色の 木簡に 一昨日、螺旋をくだっていった少年の日録が記されていた

「結露区にて月、
   光の 三拍子になるまえに
  帰路を急ぎます」



調律を回復せよ



「暁の、真理値 
   薄らいだ空き箱に
     絶対主体の振幅 とその欠片を
   正確に 写しいれてください」



フロンティアはきみの 背中の後ろ側にいつまでも開けており 辿ってきた
土地の、たとえば野生の猫とマムシの、真昼の決闘が森林公園の側溝で目撃
された翌日から きみの 背中の後ろ側にいつまでも開けており 一歩ずつ
歩をすすめていくというのは最初から獲得されるはずのない誤謬なのだ あ
たらしい挨拶のかたちは 空気孔のあちこちにあいたぼくたちのからだのほ
うから流れ出していく



谷と谷のあいだの瓦礫その 底辺でゆっくりと少年は切断面を探索している 
計測器は微細な菌糸にハミ 侵されてはいるが 一面の銀色に熟れた建築群
を暁の、野良犬たちが端から舐め尽くし 煙のなかに生息する少女の吐き出
した唾が ぼくたちのうすい月 の光に照らしだされビヨオン、ビヨーン落 下。



「地下の     空洞にて
     狂い だした
   真空計測器
       の
    いま  絶 叫
       が
   鳴っている」         


野球の規則(改)

  DNA


(崩落する車輪
 から滲み出た
 暗い空 が二つに
 わかれ
 水星の前輪と金星の後輪で
 疾駆する 子盗りの
 群れ)

おまえがうまれそこなわずにすんだときいておれもうまれてくることにした おれたちのあいだには野球の規則がよこたわっており  しかしおれはおまえがよもや野球をえらぶなどとはおもいもせんかったから おまえが野球の規則をぬりかえることに 精魂こめとるなどと はなからしんじておらず てっきり競輪選手になるために にちや自転車をこいどるものとおもとった 野球の規則はおまえに半分属しておって 子盗りと一緒におまえがきえてしまいよった日 おれは出発したのだ どこへ? 指先へか? (指のきっさきに何があるというのか) おまえはおまえのつむぎだすはずのことばから中産階級のにおいがのぼりたつのにいらだつ ゴキジェットを紙のうえにまいて ひとつひとつことばを仮死の状態にして しかし最初からしんでいるのだ おれはしにかけの生きものの胴体をゆさぶって 「おきろっ」と喚いているに等しい かなしくもなく 誤認。 サクゴハムコウニシテ でかけよう おまえは残酷な球の投げ方をするだろうから すぐにみわけがつく (おれはいま病院にいて 三連音がひっきりなしに壁のうえからひびいており サインプレーをだしつづけるのだ 三日間だ ((おまえにはとどかないだろう こんな静寂にみちた緑色の部屋からは トイレからみえるポプラはいつのまにやら刈りとられ おれは おれの手足と眼玉を接ぎ木して おまえをさがしにでかけるんよ 暗い夜だ おまえがうまれそこなわなかったかわりに おれはしにそこなったのかもしれない (((それは嘘です ソレハギモウコウイデショウ?  
 病人がだんけつしてひとりひとり ここからぬけださせ おれにも おれのじゅんばんがやってきて おそとにで 三年間だ おまえをさがしつづけ 

きょう 審判はタイヨウの暴発を悟って ナインを避難させた (ここはどこだ? あすこだ) おまえの投げた球は まっくろにこげきっており おれは (たぶんわらいな/きながら) 丁寧にマウンドにそれを埋めた   
 
「おれとおまえ 野球の規則をぬりかえるために 恋人になったとしったら いったいなんにんの にんげんが一笑にふして くれるんやろか (あほな おまえのせいで もう半分はおれのせいで だれも夏に野球なんてやらんなってしもたよ 

 *

ここは緑色した壁に囲われた小さな部屋です ひんやりとした感触のほかにわたしの楽しみはありません 今年もまた夏がきたのですね わたしは夏になるときみとみた子盗りの群れをおもいだします お元気ですか またいつか野球ができる日のくることを楽しみにしています


護岸

  bananamellow



「眼底で
 悴んだ指の
 さき の震え、
 鳴っ ている音。
 から発光したので
 す」 



岬へ!
その
途上にて
オチ 窪んだ岩石
に潜在する
ワシュロ
の観念のうえ
さかしまに
なぞられ/た内海 



  (灯台守
   の書き、留めた
   三通の封書
   から
   の転落)
 


数本の指のあいだ
から露光した
牝馬の四肢 
その、
白さよ! 

ちいさきもの
ども、の
向日性だけが 
最後まで
抗する術
を纏っていた 



隠れた
瑕疵の歩幅
ヒソヤカ、
に暴れで
散れ!
紅い河の
逃亡する
放縦な手首
陰る六面体の



夜半、誰
からの報告も拒んだ
鳥群が旋回し

(あたうる限りの冷たい眼球に触れたきみの黒点 
は決して減少せず わたしたち、の護ってきた岸辺
に 今朝 漂着していた)


(無題)

  bananamellow


深ぶかとした
背骨がふたつ 
真昼の救済を
目論んで寝そべる 
公開された軒先に
集う白い光の 
またしても左眼のうえで燃え、盛り
アシタバはこの 
夏を待たずに枯れ果てていった 

残された校庭には
野犬たちの濡れた唇がある 

「白過ぎた。あまりに・・
    だから、濁っている」

散乱した骨片を
ふたたび拾い集め 
すぐれた位置で
咆哮せよ 

あらかじめ交じり損ねた 
ふたつの背骨は
暗い洞穴のなかで
寒い眠りをむさぼり

その傍らを
ただしい横顔が
通過していく


千の雷魚

  DNA



孕まない 
二重に孕みはしない朝
の秘匿され/た、鈍色の広がり
の向こう岸で
あまりに
荒れ果てた赤の地表を
産まれたての彫刻刀
のボロボロッ
と転がり                          

湿った 
             市場から
     密せられた 潜航
               の いま
(始まる!

  「あたらしい跫音を
   背後から踏み、砕いて。

  *

     (噴流
      の河口)

灰色の瞳
の静か、に
横たわり わたしたちの生を
宥めている

///混交。
   してもいいですか
   (一昨日の小夏と背面の危機を!



折り、曲げたのです。
その先端で
斜め
に露光する雷魚 
の、(千の!)      
重ねられた
少年の足指
は決して 倒立することはなく
対岸の
薄い、
緑の陽光のなか
一度も死んだことのない(という
黒青の馬たち
と並走している

    草上の
 誓われた
              途切れがちに
     最奥の    
          突/風。
   
      ていねいに
鎮まった
               地表の
       捲れて
     漏れだした
 赤、に
           隣りあった
      千の、雷魚よ      
 明るい両の眼           その
   数を   想うというの/ 
               なら!



白い、泡の降り注ぎ 
計量もされた
わたしたち、の
欠けた尺骨をひとつひとつ 
掻き集め 
ただひたすらに

食んでいくのか、おまえは!
   


出立

  DNA

  


届かないまだ手、を延ばして あ いたがえ
たゆ びを配るぼく たちは林道を (か)
たどって淵辺へと た くさんの息吹を 摘
んだ(ね) その穢れ をまとって も も
う慌てない(で) 短か(か)く 身/直に
護って いるから きみも知って いる 隣
町の 水夫が ま もって いるから 穏や 
か に綴 るおれの うす い 薄い紙に 
いつの火か、を 穏や か に刻んでく れ



この七日のあいだに朽ち果てた
獣の数をかぞえたら視力が衰えた 
隣人たちは枝葉をあつめ火を焚き 
朽ちた屍が燻され 絡まった蒸気が 
濁ったからだを覆った 



翔んださ き から 不 浄の深沼に 足
(もと) をすく われ 転ばな い方法
を 蝶々 は捨てた 翌日に はこどもたち
が 羽化を は じめ 繰り返される 転倒
に あたらしい希み は絶たれ たしかし 
ぼくたちには 脱ぎ 捨てられた 体皮 が
ある



象られた獣たちの足跡 のあまりの小ささ
に手を合わせ かつて踏み固められた刹那 
に残っていた湿りを想ってきみは 思わず
くしゃみをした      



轟々と(う)なってい いる 火と雫、余さ 
 ずに 食ん で かじか む まだ手、を
延ばして ぼ くたち は(さ)サワ って
いる(ね) 摘み 穫っ た 息吹の ケッ
ペンで (か)き、つけて いるから たと
え ば「ゴウ(業)」なども はや 聴
(こ)えなか った どう か 荒らさない
(で) きみが贈ってくれ た涼しく貧し 
い 琥珀いろ の数珠をたずさえ、わた し
たち は今日 しゅっ たつ します


夏に濁る

  DNA


溢れるほどの地中海との交接など捨てた 
あまりに 上手に自然発火する女 (忘れてはいない 
熱烈な傍観者が月の陰を揺さぶる 
左奥のタイヤは始終パンクし 擦り切れすぎ
て 抵抗への文句が浮かぶこともない 

制服に身をつつんだおまえ 
野火の隣で 乱舞し すずやかな真昼に 
身構えたときにはもう 空は捩じ切れ 

「青い森すら恨めしい」 

切っ先の変化に気付くこともなく まっさら
な受動性が 食を絶つことで全て 贖われる
と思っていた  石橋は叩くまでもなく崩れ落
ちていったといえばよいのか 

鈍い音とともに未生の田畠が燃やされ 
使い古された身体 については何も知らない 
テレビから漏れてくる早朝の 白い光がただ
ケタルいということは知っている そこ から
疾走するおまえの 見事に転倒する姿を 
裸眼に貼付けておきたい

(太陽を目指すことも 太陽に歯向かうことも同程度に
腐食していたから 白い 画布をひたすら 
×印で埋めていった一昨日 
削られた 頬骨から
誤って 零れ落ち渇いた 
肉と水晶が寒い 
さきに出発した船舶は 砂地で滞 留し 
隣で眠る男の 
くるぶしが薄暗い 

「夜にだけだらしなく咲く花の罪科を問う」 

ほつれた海流は脈を打って 風下の祭囃子をひとつずつ 
否定していき 膿んだ黒い血を垂らしながら 
潔白の証明にと 早朝のテレビは倒れ 
あたらしい産道へと 母たちが帰っていく 

「濁った泥水のなかでしかわたしの刻印は呑まれ/ない。

    (未明に
     腐乱した
     一匹のフナの眩い 
     腹のなかで わたしは今日
     目覚めたのだ)   


ミホちゃん、キャラ崩壊中

  DNA

                        
              まったく知らない人間
              まったく好きになれそうにない彼のために
              ここに椅子を用意する
               (「問題はあとひとつだ」福間健二)



なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか

大野さん病んでんねんて
なんでなんで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに
学校もう来てへんらしいよ
ホムペ見てみ
ああ、あれは病んでんね
最近閉じたらしいわ
ミホちゃん以外の27回生全員死ねって
(え?よりによってミホちゃんなん
なんでなんで
小学校のときめっちゃ明るかったやん
人気者やったで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに

なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか てにぶか

ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ

なにそれ?

ミホちゃんが歌っとったらしいよ(大声で
え?聴こえへんかった もっぺん歌って いやや 
最近ミホちゃんヘンじゃない? はじけてしまっ
たというか 紅い実が? それは寒いよ! ああ、
ミホちゃん乗り移ってんちゃうん やめろや ああ、
ああ、崩壊中、ミ、ミ、ミホちゃん、キャ、ラ、崩、壊、中・・・

大野さん、ガッコ別に出てこなくてもいいんだよ 「わたしたち待ってます」なんて
死んでもいわないから ミホは舞ってます 毎日毎日舞ってます 手のひら、ひらひ
ら タイヨウにかざして 今日も舞ってます ロンド。

ミホちん、今日は環状線三周しました。新記録です。今宮で降りて天王寺公園ぶらつ
いてたら、まだわかい兄やんが三千円で手で抜いてってぬかすから、わたし思春期で
忙しいんですけどって断った。今日も空はあまりに高くて目眩がします。

あ、ぼくもテニス部だったんですけどね

ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ 
慌ててぼくは黄色い装丁に赤字でタイトルの書かれた
一冊の詩集のことを想いだし、
とりあえず「きみたちは美人だ」とノートに書き付けた

友人のね「手紙」っていうタイトルのブログに
〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあった

誠実に、がミソなんやろ
いや、並べる、がミソやで

「どんなにしんどくても連絡だけはしいや」
「はい、すんませんでした。ありがとうございます」

〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあって
ぼくは電車のなかで泣いた

釜ヶ崎の三角公園で
一ヶ月前
「よってき祭り」
というのやってて
よってったら
「ダンシングよしたかとロックンロールフォーレバーズ」 
っちゅうめっさかっこええバンド
が唄ってた
御座のうえでぼくは
友達と聴き入ってた

ウォーン!
狼は吠え
日雇いのおっちゃんは
あまりにダンサブルで
言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

さよなら、サンカク
またきて、シカク

ウタは、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

あ、大野元気?
ミホちんも元気そうでなにより
それだけ
ただ、それだけ

〈♪ジャスティス・アズ・ア・カンヴァセーション

どこやったかなあ、赤土のコート。
ああ、育英高校やわ、イクエ。
あそこで試合待ってる最中、
それも長いねん、待ち時間が。
第一試合が朝あって、
第二試合始まるの昼過ぎやで、
ほんまかなんわ。
んでな、第一試合終わって
日陰でぼおっとしてるやん。
ポカリとか飲みながら。ぼおっと、
あほみたいなつらさらして。
だいたい、高校生くらいの悩みとか
十年たったら、あほみたいな悩みやったなあと思うやろ。

それはな、嘘やで。

「あと十年たったら
なんでも出来そうな気がするって
でも、やっぱりそんなの嘘さ
やっぱり何もできないよ
僕はいつまでも何もできないだろう」
って昔、部室で歌ってた先輩元気かな。

話もとに戻すけどな、その赤土のコート、イクエの。
全然コート整備できてへん。
イレギュラーしまくり。
あっついし、ボールはわけ解らんはねかたするし、
もうイライライライラしっぱなしや。

おーい、聴こえてる?ミホさん。
大野寝るなって、もうちょっとやから、
もうちょっとだけ聴いて。
んでな、その赤土のコートの周りはな
陸上部が使ってんねん。
敷地が狭いからな、
たぶん併用してるんやろな。
野球場は立派やけどなあ。
んでな、その陸上部の走ってる連中のなかに、
めっさ髪さらっさらでな、
風になびかせながらスラーッした足で
ひょいひょいって走ってる
選手がおったのよ。
独りでずーっとコートの周り
走ってんねんけど、
これが、あまりに美しくってな、
おれ自分の試合どうでもようなって
ずーっとその選手を見てた。

いまやあらゆる比喩が陳腐になって
なににも例えられはしないが

二本の足を、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

って想いだして
おれは電車のなかで泣いた


冬の果実

  藤本T

もはや運ばれるもののなくなった透明な冬の 
倉庫ではからみつくコトバの残骸が丹念にほ
どかれ錆びた銅や鉄線の軋む音が優しい切断
のうえをゆっくり歩いていく(導きの手はと
うに凍てついてしまったから 少しばかり重
力をおおく感じるの/だった 梢のきっさき
に刺さってしまったきみの額と 白い欲望と
のあいだで港に埋められた地図がいま燃えは
じめ 暗がりのなかで齧られた衝動は行く先
もなく砂の奥で鳴っているのだ 撓まないで。
そこかしこで固い指とポプラが順番に手折ら
れていく さかしまになった海辺に流れ着い
たきみの尺骨のなかではちいさくなった火種
がいまだ息をしており崩れ落ちた倉庫からわ
たしは解読できない手紙の束を拾い集め、ひ
とつひとつ冬の果実で燃していく 見定めら
れそこなった夜気の、海辺の街路で交差する
折れた指とポプラ ここにはもう夏百合がふ
たたび馨ることはなく遠さ、のあまりの短さ
に抗する術を探しあぐね 一杯の白い夜気を
わたしは暗い海へと返すのだった

   無数の
   碧い綿毛
   閉じて
   みどりの
   部屋の
   飛び交う
   穿たれた
   瞳
   強く
   撓まないで。
   手折れて
   発光し
   水面の
   溢れで
   数える
   固い
   指とポプラ
   すでに
   閉じられた
   部屋の
   奥では
   手折れて
   切断の
   地図、燃えている
   
   
    


サマー・ヴァケイション

  bananamellow



今朝がた夏を刻み終えた男の全身を漂白してベランダに干したところだと云う 
熟すことも腐ることもなく ただ 秋がくればカサカサと鳴るだろう 
できることなら、血の匂いのしない図鑑をくれ 魚鱗を貼付けたせいで
この夏を越せないなどというおまえの言い分がいまはつらい 

 *

滲む空からは一羽の鳥が降り注ぎ 白い腹をひらひら回転させ軋む 
赤の、嘴だけが波の浅瀬で凍てついたまま刺さっている

 *

熱を帯びた首筋から背中にかけて巨大な鴉に包容される夢をみた 
薄く明るい光で照らされた巨大な鴉の羽毛でわたしの夏の休息は完全に露になってしまった 
机のうえには銀や銅でできたコインが数枚転がっており 孔のあいたものを選んでは 
その先にこの夏、自然発火した女が見えないかと繰り返す

 *

ガラス瓶を灰皿の代わりにしているおまえは昨日、誤って底にペンを突き刺してしまったことを酷く後悔しているね 突き立てるものが小指でも短刀でもペニスでも、その後悔の質量に変わりはなかったと云ってさめざめと泣いている

 *

短い独白の後、それらがすべて誤りだったとせびる役者の背中には夏の、割と明るい夜の星空が似合う わたしにはこの夏を越す理由のひとつだと思えたが変わらずおまえは男の全身を漂白することに魂を賭けていたのだった 

 *

橋の両端で突っ立ているわたしたち 夏の夕暮れ 
河原でひとり祖先をおくっている男から焦点の深い写真をもらった

 


(無題)

  DNA



リリィさん、今日もぼくたちの波止場で一羽の記号が息をひきとったね。
幾何学の身振りで生きながらえてきたきみのからだに 年老いた砂がまとわりつき
道行き、それは疾うにぼくたちの岸辺では役目を果たし終え
綴じられた〈 〉のほうから穏やかな〈 〉がまた漏れだしていく。
(これもまた生/活なのだ)
ミジンコの眼球にぼくたちの一切の希望が映るはずもなく
リリィさん、死んだ記号の亡骸にそっとあの石を供えてやってくれ。



」空転する さかさまの硝子ペンで
縁どられた空には きみのねりあげた碧 がいまにも崩落しようとしている。
(危うさ、とは無関係に
交 差する二本の白線)
行き止ま/りはどちらですか?
記号の振り返ったさきで小さな性交が終わりを告げ
埋められたボールのほうで哀しみの羽化する音をきいた気がした。



中野の線路沿いの喫茶店で 向かい合っていたきみたちは 白いシャツのうえに 白さを溢した。
夏の午前の陽光でぼくには何も判別がつかず
路上ではもう一匹の白さが干からびていた。


(風は、ときに残酷な行いをし)


ちいさきものども、きみたちの悔い改めた翌日に記号は死/ぬだろう。
ならば、せめて密航せよとリリィさん、あなたは云うのか。



見よう見まねで始められた分散する思考たち
きみからの短い手紙には一本の記号が杙を突き立てられ

「散開せよ。」とただ叫んでいる獣の群れ。

あまりの静寂のなかぼくは雨のさかさまに降るのをみた。




(チャル、チャル)


触覚に零度の信頼を置くことなどできないのだから
森を迂回することなく記号は黒さを纏うのだろう。
中継ぎはいつだって背中のほうへと捩れた場所から始められ


(チャル、チャルー!)


ここから港までに少なくとも千の黒さと沈黙に出合うというのか。

リリィさん、あなたの一番新しい手紙のなかでは二対の
黒く塗られた〈 〉が泣き叫んでいるように見えます。



わたしたちの鎮魂の踊りには右手の長さがいつも余ってしまう。
水に浸ければ少しはうまく作動しはじめるのだろうか?
構築された〈 〉は右手の余った長さの分だけ見遣るのも苦しく、
きみたちの告白はすで/にそこ/に在っ/たものとして発せられています。


(((しゅっぱつの笛は一度、ぼくやリリィさんからは遠い場所で鳴らされていたのかもしれません。



舗道の脇のちいさな向日性。
(最初に光があったという。その光の大きさをぼくはずっと知りたかった!



死んだ記号を舌のうえで転がす身振り、(そして そこから遠く離れろ!
円錐の突端と地中のアンモナイトの眠りとを同じ秤にかけることもできたはずだった。
ぼくの瑕疵の数だけ無尽蔵に海がおおきくなっていく。


速さとは無関係な行いを雲雀たちの旋回のように 擁護することができることなら((できたなら・・・


リリィさん、オソラク ボクハ アナタヨリサキニ ユクンダト オモイ マス 



潜航する きみの、記号の生まれた所在地へと (そこ、には名宛人のない手紙が無造作に散乱していると聞いた。


声ですらないひとつの呻きに人差し指を絡める。
狂/いだしているのはこの秒針のたてる音なのかその鼓動の音なのか。
あたらしい息継ぎにはあたらしい形式が必要です。
おはこんばんちは
おはこんばんちは
きこえていますか
おはこんばんちは



時にはこの逆流する船上の風について リリィさん あなたに報告しなければならないでしょう。


いまだ
途切れない
風の
期待する
白い記号、の
(嵐は一昨日のことだった
残された
ひとびと、の
息継ぎよ
転べ!


傍らの森では暗い鳥たちが盛んに河口に関する取り引きを始め
水先の案内人は始めから死滅していた。



見破ること のむつかしい碧さに貧/困を埋め込んだ〈 〉を日々喰らい続け
消化されない、透明な手紙たちよ!
河口は東であり同時に西であったから微睡むこと、それもぼくたちには許されており
数本の釘が刺さった銅板を方位磁針の代わりにしつらえ
風、きみの弱々しい詩情を薄汚れたマストのうえに素描する。



///あっ つい、リリィ さん あなた はいま どこです か いくつ?
になった きぼう は あまりに みじかい めいはくな あやまちの きごうが ささやくのは 虚偽 です///



終りを示すひとつの鐘の音が鳴り止まず
もはや運航されることのない蒸気船から 夜にだけ獲得された積荷をおろし
集まったちいさきものども きみたちが街を濡らしだすなら
さいしょ の光の大きさを探る術もあったはずだ。
街路樹の白い冷たさだけをあてにして歩くことはできない。
正確に計測すること あるいは 欲望のただしさでうがたれた杙。
道標はすでに千々の欠片と成り果てていたから
見誤らずにいてくれ。


リリィさん あの、まっすぐにのびた国道からはいまも海が見えていますか。



たどりつくことのできそうにない岸辺。
波間には死んだボウフラたちが漂い 狂って
しまった信号は、


     (みどり
      あか、いいえ
      てんめつつつ
      は ははい
      あかあ かか


again(再会)ということばはわたしたちの間では無効であって 


暗い鈍さの向こう側に片足をほうりだし
掴みとれるものなら朝に



(凍てついた水面にはなにが遺されていたと云うのか。


リリィさん あなたからの最後の手紙にはただ「リヴィング・エンド」
と書かれた看板の白黒写真が写り込んでいたね。


短さのあまりの遠さにぼくは少し目眩を覚え 行く先
はずっと彼方だと思い込んでいたがそれはひとつのの誤認だった。


始めから死んでいたのかもしれない黒や白や碧の記号たちを
引き連れてぼくは このボールを今日、ミシシッピ河畔に埋めます。



夜ごと書き付けられていただろう手紙の半分は船上に残し 
もう半分を 暖をとるために燃したことを告/白する(だが、いっだいだれに?
埋められたボールの裂け目から ぼくたちの見遣ることのできなかった全ての末路が漏れだしているのなら・・・


リリィさん、あなたが好きだった唄をぼくは
ひとつでも奏でることができただろうか?


     あなた の
     切り/開いた
     岸辺、の
     深い虚森の底 には
     赤煉瓦の図書館と
     崩れかけた城跡が 
     あった/ね ようやく 白い
     霧雨の
     覆いはじ め響いて いる?


     (チャル
      は ははい
      あかあ かか 
      チャルー
      お おはこん ばんちちは
      きこえて いますか
      おは
      こんばんち
      は!



               2008年11月〜2009年5月に作成        


ハッピー・エンド

  DNA

///軽やかさとは必ずしも乗り越えられる為だけにあるのではなく
黙することそれをひとつの命題としたあなたの背中に躓く/// 


こうして
また、
崩れおちた
口に黒い
布切れ
を被せ 冬の
街路に
棄てられた
喉もとから
ひとつひとつ
半透明の
物体
を叩き
おとし 
鈍く
反響する、
石ころ
の内側 
出合い
そびれた宇宙の
欠片と
通信する
手だて 

ここからさき、
叫ぶこと
は封じられ 
小さな
守り手たちが
指と指とを重ね
合わせ
暗い
季節の到来を祈る 
微かに
ひかりゆく、あの
錆びた
砂漠の
ほうへと
足は
埋められ 
発芽する
躊躇いを
胸に抱く
それでも
なお 
白い
ひかりの
末路を
追って
帰り道
出くわした
花々で
満ちる
通信機の

いま、ここで
薫って
いる


公開空地

  DNA

園芸部でも
ないわたくしが
やつれたビニルホース
でぶっぱなした冷水を
ひと月おくれて
のみ干し
てゆく
あの向日葵
に今日、白さの
灰が積もる

すべて
の氷花が
いっせいに枯れ
名に乗る
ことさえ、断念した
晩夏の氾濫

沈んだ校庭の
野っぱら
に寝転んでも
踝まで
は浸かる
だろうから
砂利を描いた
額縁は錆びて
側溝からの
顔に寄り付きはしない

視線だけが
(物質だった)
ただひとつの
(物質だった)
明るさとは縁を切り、反転した眼球のなかに住まう 
湖面から水晶へと乱反射する光は淡く、一握りの灰が呼応していた

呼び 呼ばれているプラタナスの入り口で
十階から見おろした公開空地には 一本の蘇鉄がとり残され 
その実を喰らった兄妹たちが いまも 苦しんでいると聞いた

「誰が最後の石を投げた」

水底の
なかで揺れながら
ふたたび
凍りつき
誰も座ることのなかった
椅子を焼く


マドル・ヘディド

  DNA



ほら、聴こえるね 
あの泉の谷から滲みだす
さまざまな色のことばたち 
煌めきながらばらばらに
散っていった無数の肉体 その
かけらのなかを通過していく
衣擦れのような音が。 

渇いてしまう、 
ようやっと辿り着いた 
名を与えられてはいないが 
いまだひかりの残る 
ことばの裾野から
拾われた椅子のもとへ
ゆっくりと 燃えてゆけ。 

次第に明るみだけが
喉もとを照らしだし ひりひりと
貼付いていた声たちの在り処、
ひとつまたひとつ降り積もって 
少しばかり湿り気を残したまま
土塊のうえ、
折れそうに分裂する。

愚かで、いつものらくらしていた
わたしたちの生誕の日を祝うなら
ずっとずっと奥のほう  
あなたが想像するなかで
もっとも涼やかな風の吹く
真白い洞のなか、 
ちいさなロウソクの炎を
そっと吹き消してくれ。 

息をきらし、
あたらしい 果実の響き 
遡行する一瞬 よろめくからだで 
袂を分かつわたしたちの 息遣い
だんだんと 荒れてゆく。 

水底のほうから さらに明るみ、
導きの灯の、撃墜。


ロスタイム

  DNA


1.

己れ、にだけ
忠実であろうとした女の
左腕は今朝 彼等の海へと
絡みついたままもげ 
その、断面からは黒く冷たい
叫びごえが鳴って
ロスタイムの合図とする

2.

おまえの絶望の浅瀬で
いまにもおれは溺死しそうだ
確かなものはすべて 白く
まるいパン皿のうえに横たわっている
脱ぎ散らかした膚を
気にかけながら性交に
狂って(いる場合ではなく) 
おれはざわつく歓喜をことごとく
踏みつけにした

3.

大衆商品やからさ、うちら
その感情の等価物など
この世に存在しない 
歴史は苦手やった 日本史とか
うちを勉強させるために
平城京は遷都し、長宗我部は統一した
歴史の事実とかいうの、あれ
うち全部架空のことやと思っとる
うちを勉強させるための
それでも音楽は実在した
ちっちゃいころから、うちピアノ
弾いとったから、わかんねん
バイエルも鍵盤もバッハもメトロノームも
ちゃんと、実在しとった
(うち、わかんねん)

4.

おれたちの叩いた
鍵盤はまもなく
白も黒も発火し
奴等の海では
調律がたいへん清らかで
優しい、(おまえの)絶望の
浅瀬では 白い
パン皿に亀裂が入って 膚が
いっせいに零れ 性交のまほろば
ついぞ合一など不可能であって
剥き出しの骨と骨とが
かちかちと鳴っている、それを(二度目の)
ロスタイムの合図とする


この街の今世紀

  bananamwllow

―1999夏から秋、随分とケズり獲ってきただろうおまえの肉体が透けてみえる

偏頭痛は城公園の樹々が散らしていた

「ええ、
前世紀のことですが 
脳だけで
いきていける実感しかない。」


―2016初冬、煉瓦造りの図書館から城跡の坂を下っていく途上、薬研堀とかいう堀の茂みに隠れる若い男女の片方がおれだ

女は男のうえに座っている

「産まれるまえからおまえを、
生きるより恐ろしい目に合わした。サザエさんは放映しない。
《家族》がないからな。」

おれは、この街の今世紀に帰ってきたと知った


あの夜だけが

  bananamwllow

―昨日、
ヨシモトリュウメイ
が亡くなりました
いま、文庫の棚
をみてきたのですが
『共同幻想論』
在庫ありません

―人文の棚
にハードカヴァー
幾つかあります
お問い合わせ
あればご案内ください

その日わたしは、
務める書店で
一度も
ヨシモトタカアキ
の問い合わせ
を受けなかった



わたしには将来、
いっしょに
こども
を育ててみようか
と約束している
友人がいる
その約束
をするずっと以前
友人の両親
と話す機会
があった
ほら、このひと
ヨシモトリュウメイ
とか 読む人やで
と紹介され 
ずっと煙草を
吹かして
黙っていた
友人の父親
がその、瞬間
だけ微笑した
ことを
覚えている



まだ、東京
で わたし
が学生だった頃
M先生
の授業に
潜っていた

《ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという確信によって ぼくは廃人であるそうだ》

と、パッセージ
の一語
を読み違えて
先生は
朗読された
その後
わたしは
アパート
の浴槽
に湯を出したまま
寝入ってしまい
管理人
に起こされ
廊下
に積んであった
『初期ノート』
を水浸し
にした
乾かしてみたが
カビが生え
東京
を出るさい
捨てて
しまった



先に書いた
友人
の父親は
昨年
他界し
なんで
ヨシモトリュウメイ
よりさきに
うちの
父親が
死なな
あかんねん
と、怒った

いまは
ベナン共和国
に居る
その、
友人に
吉本隆明
が亡くなった
らしい
と告げると
昨年と
おんなじ
ことを云う



《もしも おれが呼んだら花輪をもって遺言をきいてくれ》

この、
「花輪」
ということばを わたしは、
ずっと
「かりん」
と読んでいて 
その、響き
はたいそう
美しい
と、ずっと思って
いる


ファウル、年末の。

  bananamwllow

ーOssu. Kaze wa naotta kai?
Mata rennraku kure tamae.

ーKoega mada dennodayo. Noroi ga utagawareteru.

ーHonnmakaina!?
Noroi!? Shinnpai sugirude (namida)
Netsu toka wa nainonn??

ーTadano kaze datoomounemkedone. Netsuwa mosagatte taichowa iinen. Socchi no chosiwa do?

ーKocchiwa nicchimo sacchimo.
Daigaku kibbishiikamo. Yarudake Yaruga.
Koe hayaku modoruyou nenn wo
Okutte okku.

電子メールを書き写していたら
2015、年末が暮れようとしており

ああ、逃げ切れるのか

昼間はエンドレスに続くと思える
ガキ使特番の再放送をみて、ケタケタだらしなく泣きたくはあった

不意に真面目な振りをして
他人の尻を触ること
それと、他人のメールの文面
を許可なく筆写すること
そのどちらがよりポルノめくのか
論争を待たない事柄ではある

だから、こっぴどく
他人たちには叱られるだろうが
nenn wo okuru
のも
noroi
に対抗するのも
具体的な術が分からず
半分途方に暮れ
半分ほんきでおそろしくなって
このノートに書き写しつつ
2007、4月
都知事選を反芻している

これが2015、
唯一立ったバッターボックスでの結果であった


砂(Dec.2011-Jan.2012)

  bananamwllow

《粗編(2011.12.3.)》

あまりに
潮風がうるさいので
夜半に目が覚めてしまった
煙草が尽きており
外に出るも、風の勢い
が億劫で即座に引き返した

道すがら隣人とすれ違い
挨拶すると、近くのアパートの
天井が抜け落ちたと云う
ここらは、屋根に砂が溜まるので
時折、天井が抜けるらしい
まるで信じる気もなかったが
隣人が割合熱心に忠告するので
部屋の天井の膨らみが、若干
気になった しかし、
砂に浸かったところで
惜しむような財産はない

海辺の家に住み
もうニ年半経つが
特段、やることなどない
ベランダから
潮の引き際へ目を移すと
ちいさな浜辺の、
錆びたトタンが剥き出しである

明日は仕事がないので、園田へ
競馬を見に行こうと思う
これ程、風が強ければ
馬場に砂埃が立つだろう
最終コーナーを曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分けがつかなくなる

昔、一時的に仲良くしていた友人は
人と人の見分けがつかなかった
おそらく、観念のなかで
砂塵が舞っているのだろう
瀬戸内の砂は少し茶色く
園田のダートは、荒い
友人は、砂の区別は良く付いた
わたしはすべての他人が
違う顔を持つことを
少し、恐れる

駐車場から
高校生がワラワラと、
三人も出て来る
彼女たちの後ろ姿
を見遣る
髪が風に乱れて
茶色の砂が少し、混じった




《最終稿(2012.1.10.)》





道すがら
隣人が
近くのアパートの
天井が抜け落ちた
と云う
ここらは
屋根に砂が溜まるので
時折抜けるのだ
と云う
割合熱心に忠告するので
部屋の天井の
膨らみが気になり 

明日は
仕事がないので
園田へ馬を
見に行こう
と思う
これ程、
風が強ければ
馬場に砂埃
が立つだろう
最終コーナー
を曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分け
がつかなくなる
かつて、
友人は
あなたとあなたの
見分け
がつかなかった
おそらく、
観念のなかで
砂塵が舞って
いるのだろう

園田のダートは荒い
わたしは
すべての他人が
違う顔を持つことを
すこし、恐れる

文学極道

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