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atsuchan69 - 2017年分

選出作品 (投稿日時順 / 全15作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


銀河

  atsuchan69

誰の手にも負えない
お前たち自身の肌寒さが
漏れ吐く息の、
ごくまぢかに訪れて

今日もくたくたのダンボールと引換えに
すべてを燃やし、一日が終わる

小賢しい、
世の、
いっさいを棄てた
なれの果て

それでも此処には
ガラス瓶の底の数滴の酒と
人と人とを罵る、
災いだらけの口がある

赦しがたい、
夜の沈黙の所為で
お前たちは今夜、
この場所に眠るのだ

高架ごしに覗いた
かがやく星々を仰いで
――おやすみ、
‥‥銀河。

立去るぼくの声も白いよ


六花

  atsuchan69

望み、儚く
残す轍 遠い道程
荷の重さつらく
そぞろ立ち止まっては
見上げる空の哀しみの果て

日ごと、無惨に、
鞭で打たれる、背の
痛みさえ忘れるような
僕(しもべ)らのゆめ、
また夢のゆめ

艶めく花に狂う、
春の野を駆けめぐり
いつか散る瞬く間の色
ふたたび、冬
永い、ながい静寂――

薄墨の空を舞う、
白くつめたい六花の
勢い吹雪く枯野に
罪科を載せた荷車を牽く
凍える手指、埋れて

やがて溌剌な
若人の声が虚空にひびく
湧き立つ山あいの霞
深雪をも溶かし
春の風そよぐ 幻


    ※


ゆめ、夢でなく
曖昧なことばに心託して
なおも修羅の轍をゆく
忘れられた人々の祈りが
不義の舌に火を燈す

深々と降頻る花弁雪が
吾等の咎をやさしく覆う
火炎で焼かれる、背の
深き淵の灼熱の裁きさえ和らぐ
穏やかな春の日を待ち望んで 

幾たびも、

幾たびも、

冬。


ら、むーん

  atsuchan69

微かに血の色を混ぜた
純白の火照り。
月光を浴びた濃淡の起伏が、
永くしずかに波打つ夜

幾重にも重なりあう
厳かな山脈を流離う爛漫、
滑り落ちる霞のごとく
裾野へ降りて散る花、死、花の吹雪
青褐に染まる森を見下ろし
おぼろげな雲に隠れた
ほろ酔いの影の淡さが声に滲む、

生娘の笑みを想わせて
彼処にうかぶ、
夢ごこちの華たち
光を浴びた木々の枝に、
芽吹き犇きあう葉たちの在るがまま
夜露に濡れた草葉の蔭、
湿った土を這う虫たちは蠢く

 あれは嵐の晩
稲妻に倒れ、今も横たわる朽ちた老木
そして寄添うように群生し、
俄(にわか)に育つ菌類の欲深な匂い
その膠質の粘液に映りかがやく
         ――ら、むーん
             (甘いささやき

仄かに発光し、花弁の絨毯の上を
揺れつづける声が中空を舞う )))
妖精の羽ばたきにも似た
哀しくも甘い息と息、その喘ぎ
夢うつつに交わす、つがいの音色は清く

疑う者たちへの沈黙と笑み、
「答え」は、
一瞬のうちに――
細く柔らかな咽喉を )
鋭利なことばで/切り裂く

 サクラ、
その薄紅のはなびらが夜も尚、
歓びに震えつづける刹那
人知れず山懐の擁く万象を見渡し、
散るさまはかなしみもなく

ただ雲の間に、いくぶん懼れを孕んで 」」


奈落に咲く

  atsuchan69

白い花弁に滲んだ色は、
褪めた肌の哀しみにも似て
わずかな岩の裂け目へと根をつけた
くらしの危うさを今も孕みながら
押殺した声の倹しい日々さえ底なしに
やがて崩れ落ちる恋に焦がれて

夢の儚さに立ち向かっては、
微かに残る花翳の匂い
望みなく咲かせた冬空に笑みを返し
吐息にさえ震えるたった一輪
可憐な花の凜とした姿は清々しく
温もりに潜ませた想いはひしと

燃え煌めく、紅蓮の誘い
――ひとときの風に、
あそばれては揺れる白い花の
たとえ奈落に咲いてさえ
美しきその刹那、
みじかくも艶やかに


ペテルナモヒシカ

  atsuchan69

 獰猛な夜が
        虹の谷を蔽う、
         ラベンヌの香りを
           「あっ
          という間に消し、

        タムナスをこえて
        閉ざされた世界が
        この時代にあって
        信じがたいくらい
          迷信じみた
      //異界の速さで
         近づいて来る

 ――メレナス ピニャ
  ジ、カルナシ、タ、ギャナス

         夜の肌は美しく、
         その爬虫類にも似た
         冷たい皮膚に滲んだ
          粘液の輝きと
                まだらな模様

  「ルガ ルナス、タムナス ルド、マネイドゥ

     ジャングルに踊る )))
                 夢、幻、

         古代の血が
        さわぐ、
         密林に繁る多種多様の植物たち、
        呪いの歌声に揺れひびく 野生の大地
      火山の噴火と 零れるマグマ、
         闇に映える
                 赤、赤、

  「ユキ、ユキ、ナバーゥド、ルパ!

     心臓を刺す、
         刃(やいば)
       捧げられた
     ――少女の
           白い裸体。

             タムナスの沈黙
           
         自由とは、
         預けられた鍵
         勝手気儘な航海が
         きっと扉の向こうで 待っている
          
  「行け、新しい歌をうたう者よ! 

         心なき世界にたちこめる野獣の匂い
         生贄を喰らう 牙と、
              歓びにゆれる尻尾
            哀しみの風に吹かれて、
         ひとときを満たすのは淫らな歌と踊り

              そして無惨な死。

     神殿の巫女たちと交わる 数知れぬ男ども


    ラミダ //アヌンガ、サキ、マキ、
 夜に震える ことば
        //ペテルナモヒシカ
      ルガ ルナス、タムナス
                   //ルド、マネイドゥ、。


わたりがにのフィデウア

  atsuchan69

わたりがにのフィデウアは、僕の恋人
半年に一回くらい、僕と妻は君を食べる
君はいつも白い渚からやって来て
まるごとぶつ切りにされ
黄昏の陽を浴びた二人に食べられる

君を飾る赤と黄のパプリカとセルバチコ
ミニトマトや酸味の強いレモン
そしてムール貝やら烏賊リングやら
ぶつ切りの想い出と朱く茹った腕やら脚やら
君との思い出を僕は妻と共有する

わたりがにのフィデウアは、君との時間
半年に一回くらい、海辺の店であの日を想う
君は、つかの間の日を僕とすごして
潮風の吹く戸外のテーブル席で
こんな僕を、それでも好きだと言ったんだ


暗い窓辺に

  atsuchan69

陰鬱な雨音が窓辺に滲みて
低くつづく唸り声と
さかんな水飛沫とともに
霧中に奔り去る夢の銀輪たち

仄暗い部屋で
目覚めると
突如、
胸に激しい痛みを覚えた

良くない
一日の訪れは
ああ、
確かに。

今、この場所が
――魂の牢獄――
だと、
気付かせる

 雨音はさらに強まり//

寝間着の袖で窓を拭き、
外の景色を覗いた

葉を濡らした街路樹は
重く撓(しな)垂れ、
やがて狂った風に吹かれるまま
野獣のごとく暴れ騒いだ

 激しい、/薬物の濫用と
 閃光の後に/子供たち
 鳴り響く 落雷の/青く光る、
 音/不可視の眼。

破滅へ導かれても
尚、不確かな明日を信じている
爽やかな夏の朝の始まりが、
――ふたたび
此処へやって来るのだと

 誰もが、きっと誰もが )))

千切れた雲が忽ち、
素早く流れては消え

低く、獄舎を覆った妖しい空を
ただ雲は虚しく千切れ
標もなく、何処へと
遠く彼方へと流れ去り
現れては、忽ちにして消えてゆく

 盲信しよう、
いつかこの暗い窓辺に

おまえは必ずやって来て
甘く優雅な薫りとともに
艶やかな唇に花言葉を添えて
白い梔子を飾るのを

煌びやかに移ろう日々と、
大きく開け放った窓から覗く
狭い町並みが迷路のように連なり
始終、安穏とした空気にみちて

清しい朝の眺めが、
微塵の痛みもなく訪れることを


夏越の祓

  atsuchan69

数多(あまた)の田は
既に水が張られ
夜ともなれば蛙が鳴き、
やがて狂おしいほどの肌の火照り、

野鯉を釣った後の
烈しい血の騒ぎも抑えがたく
儀式は、六月のうちに
さも義人を装って

氷室の白い塊りを
派手なゆかたを着た妻が砕き、
削った荒い氷の欠片
酒は微かに牝の匂いがする

生暖かい闇に
冷たさの角が光る
――夏越の祓。
水無月豆腐を肴に呑む

ひとり縁側で
碧い硝子の器を舐めると
じんわりと汗が滲み、
腕や太腿をやぶ蚊に刺された

あ、あれは土間からの水音 )))

杉の盥(たらい)で踊る、
巨きく真っ黒な魚が一匹――
きっと明日にも捌いて
ふたり、酢味噌で食べよう


///ノイズ&CM。

  atsuchan69

 未来から来たという」あなた
ノースカロライナ州シャーロットから
遙々、次元高速鉄道アムトラックに乗り、
核の冬に埋もれる アパラチア山麓を越えて
ジミー・ロジャースの歌声とともに
揺れる/ゆれる (車窓は巻き戻し)

 うーっ、ニャパラムニャーヤー >>>>>>

 CM削除。

 薄紫の靄に包まれた時間を遡る 
オリエント・キャロライニアン号の軋み

 (A-69-001)と名乗るあなたは
由緒あるアパッチ族の末裔 そして昔、
縄文人の渡ったアメリカ大陸を後にして
ふるさと日本をめざす 旅の途路

 ///ノイズ。
20××年×月、夢見る自由が残された日本
暴力的違和感が旅行者を襲う、未来の過去
脳内マシーンの記録から削除される CM
すでに「僕」とあなた (A-69-001)は乖離し‥‥

 桜、冨士山、ゲイシャ、ス・キ・ヤ・キ。
美しい日本の言葉たちの散る、東京駅八重洲口
即ち、ヤン・ヨーステン・ファン・ローデンスタイン、
彼の名前に因んだ 江戸のど真ん中
日清/日露/大東亜/敗戦/復興/消失
なぜかヤクザの列がならぶ改札を過ぎて

 太田胃酸ちがう。救心ちがう、仁丹ちがう

 「オー! ト、トイレ ドコデスカ? 

 声を潜めて しーっ、(下痢を催す、、

 「ダレカ、コトバワカリマスカ?

 あいはぶ、るーず、♪〜♪♪  うっ、ぶりぶりっ
華麗なるイチモツが鬱金色に染まる
――なんと ‥‥公衆の面前で! で、でも快感 )))
正露丸、もういらんわ
バルチック艦隊ツイニ撃沈セリ

 「ソウカ、がっかりしていてはいけない

ワタシハ、ホルモン今日たべました 電動の死デス
皆サン、カルテルを シンジケート染ますか?

 それとも時刻は 19:27
まだまだ、夢を見たいですか
バックにCIA憑いてます 人類 皆ヘンタイ
エゴイストです。そして原住民、悪くない
悪いの白人 私、桃色人 オー ゼンゼン関係ないネ
ソレ故、神ノ代理人ヲ信ジ・ナ・サ・イ、デス」
従わないなら 石油価格吊上げます

 CM削除。「ブタの胎盤、美しいお肌の‥‥

 青いシートを被せた箱が点在する
葉を落とした木々の細い枝から覗く公園に
せめて冬の光は、温かみをおびて降りそそぎ
黄色く枯れた芝生の上には
薄汚れた彼らの衣服が 虫干しされ、
かよわい木漏れ日の光を浴びつ並べ置かれている

 ――A-69-001、///ノイズ。

 あなたはこの国の末路を知っている――

 せめて僕たちは その前に 
ささやかな夢を、沢山の夢を咲かせよう
恐ろしくリアルな、毒々しいほどの命
わーど/生のコトバを、
漲る憎しみと、より深刻な愛の入り雑じった
かけがえのない存在 そのもの/息吹を
///ノイズ。

  (哀れなるかな アイドルタイムの道徳者たち

 被支配者たちが偶像のまわりで泣き叫んでいる

 醜悪な貌をした機械仕掛けの双頭の鳥像が

 マークアップされたユニバーサルコードの呪文を唱え、

 やがて総てのコトバたちはXMLDBに呑みこまれた‥‥

 合掌。

 ――A-69-001、
あなたはホルモン今日たべましたか?

 オー、ワタシ
本当ハ カルビ焼肉ガ好キデス。 )))

 ///ノイズ。
20××年×月×日 只今の時刻は‥‥

 CM。「世界は希望に満ちている!
懐かしの20××年へ
君もリアルタイムで文学極道に参加しよう
めいびぃ、剥きだしの自由がそこにある。
――過去への旅なら、業界随一
アメリカン・タイムトラベル社です


夏/向日葵の道

  atsuchan69

ある日、大切 な 何か
が、 砕け落ち、、
粉々 に 散らばった 欠片 に
蟻 が たくさん 集まって
スイートな 記憶 を
はこぶ、ヒマワリ の みち

蟻の行列は虎ノ門までつづき、
護衛の警察官 機動隊 白バイ パトカー
装甲車 戦車 ブルドーザー 耕運機
沿道に 日の丸の旗、はためき 走るアベベ
ボワァっと、火炎を噴く大道芸人
押し合い、圧し合い バーゲン売り場、
有閑マダムたちの服の奪い合い、
銀座青木、穴子の白焼きにキャビアを載せて

砂浜に無数のビーチパラソルが花開き、
強力な紫外線に晒された夏――
弾ける胸の谷間に木霊する、
抜殻のコンドームたちが渦状に群がり、
さかんに泳ぐ、広大なひかりの海
焼きそばの匂いも香ばしく、
紅生姜と青海苔をトッピングして、
マヨネーズも乱暴にきわどく搾り出し
口元にマヨネーズ、
胸の谷間にマヨネーズ、
顔中、たっぷりマヨネーズ、、
やがて星の夢をはこぶ、小さな蟻たちが
君のへそにも巣をこしらえて
泳ぐコンドームたちへ
ソースの匂いとともに愛を交信する
夏/向日葵の道――

黄色く 宇宙みたいな花の咲く


産業道路のコンバーチブル

  atsuchan69

咽喉を刺激する大気、
  サビて崩れる鋼鉄の、
      強靭な幻が都市を支え
         静かに腐食してゆく世界、

 やがて酸性雨を降らせる雲が西の空にたなびいている

  その曇天の真下、
 複雑な曲線と直線の交差するハイウェイ、
 装飾のかけらさえ見あたらない
 肌もあらわなコンクリートの柱たちが幾千もつづく
 あまねく全地を覆う瀝青の暗い景色に、
     
     人はいない

 心地よいエンジン音に吸い込まれてゆく息づかい
 ボディの派手な紅緋の色とは裏腹に、
 黒革のシートの鞣した獣の匂いが興奮を鎮める
 疾走するメロディに満ちた快適な室内に幽閉された/からだ
 そして背後へ
 熱い毒気を吐き出しながら
 458スパイダーは産業道路をひた走る

 やたら行き交う、
 土砂を積んだダンプカーだの、
 タンクローリーだの
 巨大なトラッククレーンだのが
 音もなく後方へすぎてゆく

 まるで乾いた夢のように失われた/心は、秒を数える

 ( 浮遊する、
   六価クロムの剥げ落ちた鍍金(メッキ)片が煌く 
   黒黴に覆われた日常という壁紙の裏側に
   吊るされた愛/情事/が記録される

 十秒と少しで開くルーフが、
 今しも内と外との隔たりを壊す//
 たちまちリアルな不快さと 硫黄の燃える匂い、
 凶暴な機械たちの激しく軋む、音/悲鳴、
           「 儚すぎるわ!

 呪いにみちたルートを昼も夜もなく
 結ばれるべき線と線を互いに探しあぐねて
 幾度もあてどなく交わる
 紅い、コンバーチブルの軌跡
 
     吐き気と眩暈。

背徳の鈍い痛みを覚える、
            ただ束の間の、、


Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?

  atsuchan69

錆びたトタンの切れ端を腹に巻いた彼には、まだ、顔がなかった。二十もすぎて今更もう顔なんて要らないよォ、という。が、顔がないので当然、話すのにも口がない。にもかかわらず、「家に住むのに屋根がナインだよ」とでも言いたいそぶりで小指を一本失った右手を左手と揃えてパーをニギニギしてみせる。きっと自分の頭のなかが、世界中の誰もと同じだという類の酷く大きな勘違いをしているのだ。「トタンの切れ端が、アンタのいう『屋根がナイン』そのものだったのに」と、きっぱりとボクは本当のことを言ってやりたいのだが、彼はよく澄んだ秋空を両腕で大きく仰いで【魔王】の「♪かわいいぼうや ぼくのところへおいで 一緒に遊ぼうよ 楽しいよ!」のくだりをテレパシーで歌いはじめた。やがて哀しみの時間が一枚、そして一枚、硬い鱗を剥がすように相対論理言語の深い闇の淵へと落ちてゆく。「それでジジイと孫との近親相姦のホモってどうなの? ランボーとヴェルレーヌみたく、最後にはどうしよーもない刃傷沙汰の修羅場が待っていてさ」――あーん、バキューン! 「さきっちょ、ぺろぺろ」ということで、何? ボクの発言は恐ろしく真面目でユーモアなんて1ミリグラムも含まれちゃいない。また、作品に向かう姿勢を明確に定義している以上、参加者にもユーモアなど一切認めない。例えば、あのとき鳴海清も若かったが、むろん組織的には制裁を止めることなど出来なかった。二十歳の峠を越えたら十分「大人」である。それにたぶん、ここからは別の話になるのだが、軍部の連中の大半はといえば、志は高いのだが、いささか感情年齢が低すぎて困るのである。――あっ、言っちゃった。 削除だ! 削除! 旧帝国陸軍の悪口は言ってはいけなかった。じゃあ、戦後生き残った【あいつら】なんか錆びたトタンの切れ端を腹に巻くどころか商業用原発50基を地震の巣の真ちかくに建てて「ぜったい安全です」なんて言っているそばから数基が重大な事故を起こし、放射能ダダ漏れなのに平気で毎朝牛乳飲んでいるし、そりゃあもう諸外国からみたら核爆弾を腹に巻いて「やれるもんなら。やってみろ、バカ野郎」って感じで世界最終戦争へたった一人参加する可笑しなチンピラに他ならないわけだよな。だから結局、全世界に散らされた忍者だとか徳川家へ行きついちゃうんだけど、超ウラン核種を含む放射性廃棄物の消滅処理が可能になれば、【あいつら】は自分たちの未来の崇高な役割を知って少しばかり興奮するだろう。こうして、誰もが信じたものが奇怪な真実となって歴史は捏造され、赤字だらけの特殊法人等の隠れ家を知らない錆びたトタンの切れ端を腹に巻いた彼には、まだ、顔がなかった。


線文字Aの女

  atsuchan69

血と、ローズダストの色彩が濃く染みた粗い石英の粒子。そしてジルコンを含んだ研かれた花崗岩の階段がつめたい光沢をともなって果てしなくオリンポスの山の頂から薄紫の色に滲んだ淡い雲の間にのびている。エーゲの海を見おろし、輝かしい青に散る島々の宮殿と天にまで届いた大理石の円柱。それらの、白い柱の側面にふかく刻まれた「線文字A」による神々の名前。沈黙したままの火山の島を眺め、眩しい光と異教の女たちの濡れた唇が、淫らな私の欲望を募らせる。肥沃な大地と紺碧との泡立つ水の境に、切立った今にも崩れそうな崖の、垂直に剥きだした土(テラロッサ)の赤と紫とを混ぜた逞しい地肌が、まるで目の前にいる一人の謎めいた女の底抜けに陽気で残忍な気性をあらわに露出させているかのようで少し怖かった。潮風のはこぶ甘い誘惑が虚空に目覚めを呼びおこす砕けた波の飛沫とともに、すでにテーブルにならんだクリスタルグラスへと、つまり半月状の薄切りの檸檬と女性器そのものを想わせる殻付きの生牡蠣を盛ったステンレス製の皿をまえに鈍く光る黒真珠の耳飾をした巻髪の女が笑うと、私は指を鳴らして若くハンサムなウェイターにワインを注がせた。

いつしか富と名声がテラス席を離れて、帆船のうかぶ海の小波に煌びやかな輝きを与えていた。食事のあと、白い壁と、白い階段のつづく町をふたり歩く。恐ろしく急こうばいの狭く不条理な坂道のそこかしこに、鮮やかなピンクのブーゲンビリアが植えられていた。「君は何を‥‥何をしたいのか? それとも‥‥」

「例えば、触媒核融合型のような純粋水爆なら複雑な国際間においてさえ小国の戦術核として眼を瞑ってもらえる可能性があるかも。しかもそれは戦争屋たちに絶好のビジネスチャンスを与えることになるわ」

「考えてもみて。自分たちをも殺しかねない大規模殺傷型の使えない兵器と、ピンポイントで確実に敵を殺す事の出来る小型軽量かつクリーンなそれとどちらに大勢客が付くかを」

夕日を浴びたネア・カメニの山は、しかし沈黙したままだった。世界とは、幾つもの文明によって支えられた戦いの神々の住まう家なのだ。いや、神々とは、隠された富と名声‥‥。女の手が、私の口を塞いだ。「戯言は止しましょう。――やがて訪れる漆黒の闇は、もしかして私たちにとっての秘密を覆うベールかもしれないわ」「OK、君と取引しよう、たとえ北半球の多くの国々を滅ぼすとしても‥‥」「そのまえに共に哀れな人間であることを互いに確かめたいわね」「ああ、同感だ」

この夜。けして私は、卑しい武器商人などではなかった。少なくとも、戦いの神であるアレウスの情婦のまえでは。


黒の墓標

  atsuchan69

白い柔肌にそっと触れるや否や
とつぜん狂った発条みたいな
青白い器官が左右の外耳道から飛びだして
先ずは目玉をふたつ、
声もなくポロンと落とし
詩人である若い女の頭部はみごと分解した

やがて生気をうしなった首から下は、
まるいお口のビニール人形が
むりやりダイソンクリーナーで空気を抜かれるがごとく
形而上の深遠な宇宙の闇へ向かって
世界間隔を内へ内へと崩しながら収縮をはじめた

ペラペラと個体の表皮が剥げ落ちるのと同時に、
すでに乾涸びた肉の塊りとなった砂の女は
もはや立ちつづける意志もなく脆くも粉々に砕けたが
幾許かの憎悪が、其処らじゅうに女の生きざまを散らし、
関係をもった男の数だけ傷のある板張りの床へ
ごく少量ながらタール状の黒い染みを点々とのこした

嗚呼。))) 化学分解した核スピン異性体の女よ
その名を淫らな金髪の糸でハートへ刺繍したけど
二度と思い出せそうにないアブジャドの綴りと、
巻き舌のRや鼻母音を含んだことばをやっと発して
瞼の裏側に覗く、沼沢のゆれる水面に浮かぶのは、
夜の色をつよく弾いた睡蓮たちの覚醒、
一瞬に咲いた花の、神秘のけだかき素顔。
そう、記憶の底で眠る君の、――あの歌が忘れられない
世界中のかよわさを余すところなく掻き集めた
懸命な響きが一種独特な 君の、あのたどたどしいハミング
なのに陳腐でありふれた瞳の残光をけして見せまいとする、
やたら即興をベタで口ずさむ勝気と幼さが
「カテバカングン」とガッツ石松はいうけど、
ええと、――それって英語なのかな?

況シテ、華奢なカラダに畢生の煌きを宿した
草原の汗と土ぼこりと瑞々しい息と匂いを
小さく未成熟なまま、野生のロレツを【ら行】で絡めた
その舌も、その濡れた卑猥な唇も、
深淵の硬く蒼い岩盤の底から滲んだ甘く溌剌とした声で
昼も夜も人々へ思いつくまま愛らしい囀りをとどける
彼女は無限大に泡立つ原始のパロールを惜しみなく、
滾々と湧きだす奇跡の泉だった

未練たっぷり悔やみつつ
そぞろ想い返せば、
澄ました知性によってもたらされる「疼き」、
抗原抗体反応のそれはアレルゲンとして一般的に
ある種の不快をともなうアレだよアレ
ヌミノーゼの生ナマしさへの妙によい子に振舞おうとする、
国際親善パーティの日本人特有のつまりアレだ
奇妙な条件反射がつよく顔面を引き攣らせ、
頬の筋肉をピキピキ硬直させるモロ、
ディープでレアなアレじゃん

裏通りの陽に焼けた黄色いテントの
怪しい大人のオモチャ屋が育んだ格別に濃い、
さびれた海辺をそよぐ潮風と磯くさいエッチな匂いとか
いたって健康的な宅配ルームサービスだの
男と女のアブナイ関係だとかハードSMだとか
或いは、地の果てまで移動しつづけるサーカス団の
曲芸師じみた特殊な性愛の技と匠の前に、アレレ?
いつしか少年の日のあどけなさは斯くもみじかくも失せ、
さすが彼(ピニーちゃん)は、
一人前の男子として 逞しく立派に勃起した

だから俺。チョー、我慢できない。 )))

激しい怒りと禁断の歓びとを「運命」がシェイクし、
中出しで避妊のためのゼリーと入雑じった
回転ベッドの欲望の火照りを露わに
真っ赤に熟した地獄の果実を指で引き裂き七ケ食べた
お口にぺろぺろ罪深き・俺・の
ピ、ピニーちゃんを不本意ながら、
大胆にも公衆の面前でデッカク露出させ
極めてテキトーかつ気分しだいプラス残忍なタッチで、
白くねっとりヤマト糊を湛えた湖面へひとり舟を浮かべ/た/べ/た、
ヤクザな俺は、携えたスケッチブックに一日中
太い魚肉ソーセージ一本で
見えざる曲線を無数に引きつづけ
曇天に浮立つ山々の紅葉なんかもうどうだってイイから
あえて自分自身の心の想いをより鮮明に描てみせよう

こうして爽やかな秋晴れの日のように
空きっ腹ちゅうか前述の詳細部分はさておき、
此処までの記述は一切忘れてほしい。
パンツを穿き、いつだって遅く目覚めたけだるい朝には
赤ら顔のクエーカー教徒のおじさんが燕麦の粥を右手で口に運ぶ
おそらく慢性の二日酔いが今朝も続いているとしたら、
英国製陶磁器の傍らに置かれた銀のスプーンの窪んだ鏡面に
ごく稀に小さく、ぼんやりと像を結んだ「農家の庭」の絵が覗き見られる
逆さに投影された高価な絵皿の世界でコケッ、コ、コ、コケッ、
夢なき放し飼いの鶏たちは、信じる神も美学もなく
ただ餌を捕食し、処かまわず盛んに交尾と排泄をつづけた
と、いうのも、全くの嘘だろーが。

痛みもなく血の通わない真実がどれほど赤裸々で冷淡であるか
未来を担うべきモノたちは、物質の線と形と、その影とを探るべきだ

 アエテ皮一枚ノ「美」ナド、
 姥桜ノ大樽ニ詰メテ塩漬ケニシチャウンダカラ!
 一緒ニ干シタ大根モ十本クライ漬ケタヨ、
 ソシテ楽シカッタ想イ出モ、全部漬ケタンダ

シリウスの伴星に冬の訪れる頃
黒い染みあとを見て、俺は泣いた
ふん、凶暴な俺のまえでは
詩人の言葉なんか痩せこけた洗濯板の、ただの裸だ!
晒を巻いた腹から飛びだした包丁の柄を握る
キラリと光る一瞬の先。
勢い、よく研いだ出刃をふり降ろして血飛沫、、
醜く老いた厚顔の詩人の首をぶった切ってやった
二度、三度、四、五、六、七‥‥
幾度も、そして幾度となく

殺した詩人の生首が冷たい風に晒され吊るされて
暫く、窓の外にぶら下がっていたけれども
病んだ心の蒼ざめた高名な生首は洟水をたらし
図太くもなお一人、意味不明の詩を朗読した

たぶん、きっといつの日か
その毛の生えた不気味な球体の輪郭すら
高度な漸層法やレトリックともども、
みごと虚空のノイズに紛れて消えてしまう筈である


そう、記憶の底で眠る君の、――あの歌が忘れられない


Sacrifice

  atsuchan69

 ――知っていただろうが、

銀のフォークに刺したその柔らかな一切れが
まだ焼かれるまえには紅く鮮血が滴っていたのを
そして屠られるまえに荒く息をし、
「お願い、どうかやめて!」と叫んだのを

 ――知っているだろうが、

あなた自身がけして善人でないことを
悲しみのひとに席を譲ることよりも
奪うことによってしか私たちが生きられないのを、
その笑顔には、蔑みを隠していることを

 ――知っているだろうが、

今日までいくども見殺しをくりかえしてきた
TVや新聞で他人ごとの殺戮が五月蝿く報道され
あなたは疲れていたり忙しすぎるのを理由に
ただ、自分のために楽しい時間を作ろうとする、

 ――You know what I'm saying?

やがて酷く寒い冬が来てキリギリスは死んだ。
いつしか無秩序な生活破綻者たちの暴動を封じるために
ジェノサイドを目的とした収容所があちこちに出来、
彼らは骸を埋めるために深い穴を掘りつづける

 ――知っているだろうか?

遺伝学的に正しい者たちを残すために
新しい人々は人類の歴史さえも書きかえてしまった、
楽園の外にはまだ傷ついた人も残されていたが
輝ける未来に、もはや哀しみなどなかった

 ――知っていただろ、

銀のフォークに刺したその柔らかな一切れが
まだ焼かれるまえには紅く鮮血が滴っていたのを
そして屠られるまえに荒く息をし、
「お願い、どうかやめて!」と叫んだのを

文学極道

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