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2017年01月分

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


全行引用による自伝詩。

  田中宏輔



 ソニアは悲鳴をやめ、しわくちゃになったシーツを引っぱり上げて台なしになった魅力を隠すと、みっともなくのどを鳴らして悲劇的な表現に熱中しはじめた。ぼくはものめずらしい気持で彼女を仔細に眺めたが、それは演技だった。でも彼女は女なんだから特に演技してみせることもないのだ、この意味がわかるだろうか?
(キリル・ボンフィリオリ『深き森は悪魔のにおい』2、藤 真沙訳)

むかしというのはいろんな出来事がよく迷子になるところでね
(ロバート・ホールドストック『アースウィンド』4、島岡潤平訳)

 図書館で、だれかが硬い赤い表紙の古い本を床に投げ落とす。それを拾って題名を読む。『幸せな網』
(ウィリアム・バロウズ『夢の書 わが教育』山形浩生訳)

 足に熱を感じて見下ろすと、火のついたタバコが靴の下のつま先付近に押しこまれている。だれかがわたしに熱い足をくれたってわけだ。タバコを取り出して、割ってみると、貝殻みたいで中には触手が入っている。でも生きてもいないし動いたりもしない。
(ウィリアム・バロウズ『夢の書 わが教育』山形浩生訳)

ハム音がしていて、部屋は耳障りな悪意を伝えてくる。なにかがバネ仕掛けで壁から飛び出してくるとか、部屋がいきなり縮んで鳥小屋になってしまうとか。
(ウィリアム・バロウズ『夢の書 わが教育』山形浩生訳)

その時だしぬけにフリエータが明るいキャラメル色の眼でぼくをじっと見つめて、低いけれども力強い声で「キスして」と言った。こちらがしたいと思っていることを向うから言い出してくれたので、一瞬ぼくは自分の耳が信じられず、もう一度今の言葉をくり返してくれないかと言いそうになった。しかし、
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』世界一の美少女、木村榮一訳)

実際に見たものよりも、欺瞞、神秘、死に彩られた物語に描かれた月のほうが印象に残っているのはどういうわけだろう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』あるバレリーナとの偽りの恋、木村榮一訳)

 その美しい顔の下にもうひとつの顔があるのだが、よく見ようと顔を近づけるとたちまち隠された顔が消えてしまう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』女戦士(アマゾネス)、木村榮一訳)

これ以上なにか見抜かなければならないものはなにも残っていなかった。
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』6、菅野昭正訳)

「(…)思い出しますか、昔、断崖の頂きから僕たちが眺めた、あの小さなひとびとの姿、あちこちで点々と砂を穿っていた、あの誰とも知れぬ小さな黒い点のことを?……」
「ええ。あなたがこうおっしゃったことまで思いだしますわ。何年かが、何世紀かが過ぎ、そして浜辺にはいつもあの小さな黒い点がある、次々に代りはするが、厳密には同等なものであるあの点が、って」
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』6、菅野昭正訳)

 イレーヌの顔には、そういうことがなにか留(とど)められているかと考えて、その顔をじっと眺めてみたが、そこにはなにひとつ留められていないことが、見てとれるような気がした。
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』7、菅野昭正訳)

 チャーテン場においては、深いリズム、究極の波動分子の振動以外なにものもない。瞬間移動は存在を作り出すリズムのひとつの機能なんだ。セティアンの精神物理学者によれば、それは人間ひとりひとりを永遠と偏在に参与せしめるリズムへの架け橋なのだ。
(アーシュラ・K・ル・グイン『踊ってガナムへ』小尾芙佐訳)

 しかし、彼の笑顔はこの世にふたつとない笑顔だ。その笑顔を向けられると、人生で出くわすありとあらゆる不幸をそこに見るような気がする。ところが顔に浮かんだその不幸を、彼はあっという間に順序よく並べ替えてしまう。それを見ていると、今度は急に「ああそうか、心配することはなかったんだ」と感じるのだ。
 だから彼と話をするのは楽しい。その笑顔をしょっちゅう浮かべて、そのたびに「ああそうか、心配することはなかったんだ」と感じさせてくれるからだ。
(ダグラス・アダムス『さようなら、いままで魚をありがとう』31、安原和見訳)

そして彼女は行ってしまった。糖菓(タフイ)のような色の髪と、黄色いドレスと、小さなレース飾りが、彼の目の前で、木の柵の閉じられた門と、小走りに遠ざかってゆく足音に変わった。
(シオドア・スタージョン『夢見る宝石』2、永井 淳訳)

 子供はどこに生まれつこうと、そこに生涯かかってもまだ尽きぬほど、驚嘆すべきものを発見しつづけるに違いない。
(カート・ヴォネガット『パームサンデー』II、飛田茂雄訳)

 いま、ラヴィナは強い人だった、と言いました。(…)今にして思えば、彼女は強さを装っているだけでした。それはわたしたち人間にできる最善のことです。
(カート・ヴォネガット『パームサンデー』VII、飛田茂雄訳)

これは意味のない言葉である。
(ブライアン・W・オールディス『三つの謎の物語のための略図』深町眞理子訳)

ここにはわれわれみんなの学ぶべき教訓がある。
(ブライアン・W・オールディス『三つの謎の物語のための略図』深町眞理子訳)

かつてはこれも人間だったのだ。
(ハーラン・エリスン『キャットマン』池 央耿訳)

「きれいですわね」王妃は言った。王妃の勲章に対する趣味は、その衣装に対するのと似ている。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』14、那岐 大訳)

言葉がすべてを語らず、身体がかわりに話すような場合もあるのだ。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』17、那岐 大訳)

「女に残酷なことはしたくない」そういって不誠意極まる笑みをもらした。人間の顔に浮かぶものとして初めて見たような種類のものだった。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』18、那岐 大訳)

「きみはばかな男ではない、グラブ・ディープシュタール」このことは伯爵はおれのことを自分よりはるかにばかだと考えていることを意味していた。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』18、那岐 大訳)

 選択忘却というあるささやかな方法がある。それによってわれわれは自分がいやだと思う記憶を抑えつけたりゆがめたりする。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』18、那岐 大訳)

記憶というものはなんと二股の働きをするものだろう。一方では現わし、他方では隠す。おれ自身の潜在意識は、おれと闘っていた。
(ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチールラット』2、那岐 大訳)

 完全な感覚遮断にさらされたとき、人間の精神はたちまち現実の把握を失う。処理すべきデータの流入を阻(はば)まれた脳は幻覚を吐きだし、非理性的になり、最終的には狂気へと落ちこんでいく。長期にわたって感覚入力が減った場合の影響は、もっと緩慢で微妙だが、多くの意味でもっと破壊的だ。
(ポール・アンダースン『タウ・ゼロ』12、浅倉久志訳)

 そしてまただれもが、そうとは知らずにたえず自身の物語を語っている。人間の身体は、うなったり、肩をすくめたり、無意識に動いたり、無数の表現方法でその人自身を語っているのだ。個性の少なからぬ部分が、意識のコントロールをすりぬけて表面にあらわれ、無意識は肉体をとおして自身を語る。
(グレゴリイ・ベンフォード『銀河の中心』小野田和子訳)

「はやく出ていきたいものだわ」
「かつてはここもすばらしい世界だったのでしょうがね」とホートは答えた。「息子さんはこの星を憎んでいました。いやむしろ、もっと具体的にいえば、この星で彼が見たものを憎んでいました」
「ま、それは理解できますね。あのおそろしい野蛮な人たち──それに、街にいる人間だって大差ないし」
 ホートは彼女の逆転した民主主義をおもしろがった──あらゆる人間を自分よりはるかに劣った存在と見なすため、彼らはたがいに平等なのである。
(オースン・スコット・カード『キャピトルの物語』第一部・5、大森 望訳)

坐り込んでいる人間の運命は、やはり、坐り込んでいるからね
(フィリップ・ホセ・ファーマー『果しなき河よ我を誘え』4、岡部宏之訳)

「(…)さあ教えてくれ。ここは地獄じゃないのか?」
「むしろ、煉獄ですよ」コロップはいった。「煉獄は希望のある地獄なのですから」
(フィリップ・ホセ・ファーマー『果しなき河よ我を誘え』23、岡部宏之訳)

 ユーモリストというものは、真暗な魂を持っていて、その暗闇の塊りを、光の爆発に変えるものなんだ。そして、その光が消えれば、暗闇が戻ってくるのさ
(フィリップ・ホセ・ファーマー『わが夢のリバーボート』8、岡部宏之訳)

かれの考えは論理的でなかった。だが、哲学者たちが何といおうとも、論理の主な用途は、感情の正当化にあるのだ。
(フィリップ・ホセ・ファーマー『わが夢のリバーボート』22、岡部宏之訳)

 サムはもっとずっと重要なことを考えなければならなかった。しかし、真に重要なことは、無意識によって最もよく識別されるものだ。そして、この考えを送り出したのは、この無意識であったにちがいない。初めてかれは理解した。真に理解した。脳から足の先までの、体中の細胞で理解した。リヴィは変ってしまったと。
(フィリップ・ホセ・ファーマー『わが夢のリバーボート』26、岡部宏之訳)

そして私もそのひとつなのだ。
(ダン・シモンズ『イヴァソンの穴』柿沼瑛子訳)

 非常に残酷で、非常に正しい人生の法則があって、人間は成長しなければならぬ、でなかったら、もとのままでとどまることにたいして、いっそう多くの代価を払わなければならぬ、と要求するからである。
(ノーマン・メイラー『鹿の園』第五部・26、山西英一訳)

そこでは、だれも未来がなかった。
(ノーマン・メイラー『鹿の園』第六部・27、山西英一訳)

 ついにぼくは多少ともわかるようになった。書いていくにつれて、ぼくは自分がいっそう力ができたこと、自分は生きぬいたこと、ついに自分は自分の性質のなかで自分よりすぐれたものをなにかしら永久的な形でとどめておくことができるのだということ、したがって自分は芸術が見いだされるあの孤児たちの特権ある世界の一員になりはじめているのだということを知った。
(ノーマン・メイラー『鹿の園』第六部・27、山西英一訳)

アイテルは悲しかった。だが、それは楽しい悲しさだった。
(ノーマン・メイラー『鹿の園』第六部・28、山西英一訳)

「チャーリィはまだ理想主義者なのさ」ハチャーが言った。「世界は論理的じゃないということを認めようとしないんだ」
「確かに世界は図式的なアリストテレス的論理では動いていないね」シプリィも認めた。「それは完全に演繹(えんえき)的だからね。真理からスタートする。そしてそこから世界がしたがっているはずの法則が導きだされる。機械が得意とするのはそれさ。ところが現実生活では、人間は経験で得た今の世界のあり方から出発する。それからその理由を推察し、それが実際のものに近いものでありますようにと祈るわけだ。帰納法さ。人間がやっているのはこっちだ──しかもどうやってかは自分たちですらはっきりわかっていない。だから教科書に書いてある科学と実際の科学が違ってくる」
(ジェイムズ・P・ホーガン『仮想空間計画』15、大島 豊訳)

「他人が支配しているものを通じて幸福を求めるな」シプリィは答えた。「さもないと結局は支配しているやつらの奴隷になる」
(ジェイムズ・P・ホーガン『仮想空間計画』15、大島 豊訳)

「言葉は単にコード体系でしかなくて、聞き手の神経組織の中に生活体験を通じてすでにできあがっている結合の引き金を引くだけだ。情報は聞き手の中にあるんだ。語り手ではなく。(…)」
(ジェイムズ・P・ホーガン『仮想空間計画』17、大島 豊訳)

 ところで、こうしてわたしはその広大な洞窟の中で、遂に禁じられた世界の周辺を垣間見ることになった、その世界は盲を除けば、ほとんど近づいた者もいないようなところであり、その世界を発見する者には恐ろしい罰が下されるのだが、その世界を見たという証拠は上の世界であいかわらず無邪気に夢を見ている人々の手には、今日に至るまで間違っても渡ったためしはない、人々はその証拠を馬鹿にし、自分たちを目覚めさせるはずの印、つまり、夢とか束の間の幻覚、子供や狂人の話といったものを前にするときまって肩をすぼめるものだ。そのうえ、禁じられた世界に潜入してやっと戻ってきた者たち、発狂や自殺で人生を終えた、それゆえ、大人が子供に抱く称賛と軽蔑の入り混じった保護者然とした態度を受けることにしかならない作家たち(たとえば、アルトー、ロートレアモン、ランボー)の断章を例によって暇つぶしのために読んだりすることになる。
(サバト『英雄たちと墓』第III部・35、安藤哲行訳)

マルティンはふたたび視線を上げた、今度はほんとうにブルーノを見るためだったが、まるで謎を解く鍵を教えてもらおうとする眼差しだった、(…)
 そのとき、ブルーノは何かを言おう、沈黙の埋めあわせをしようとして答えた、
「ああ、分るよ」
 しかし、何が分っていたのか? いったい何が?
(サバト『英雄たちと墓』第IV部・2、安藤哲行訳)

いったい、どこに本物とにせ物を見分ける基準があるのだろう?
(アイザック・アシモフ『地球人鑑別法』4、冬川 亘訳)

どこへ連れていくつもり? あたし、また手術を受けるのかしら?
(ロバート・A・ハインライン『悪徳なんかこわくない』下巻・29、矢野 徹訳)

悪いかい?
(アイザック・アシモフ『亡びがたき思想』冬川 亘訳)

このわたしを?
(アイザック・アシモフ『発火点』冬川 亘訳)

きみは気でもちがったのかい?
(アイザック・アシモフ『記憶の隙間』6、冬川 亘訳)

(…)ファウラー教授は、額をおおう黄土色の土をぬぐった。ぬぐいそこねた土は、まだ額に残っている。
(アーサー・C・クラーク『時の矢』酒井昭伸訳)

「それでは、いったい何の目的でこの世界はつくられたのでしょう」とカンディードはいった。
「われわれをきちがいにするためにですよ」とマルチンは答えた。
(ヴォルテール『カンディード』第二十一章、吉村正一郎訳)

 彼にとって、ただ一つ変わらぬものは変化そのものであり、彼が周囲の世界で発見した変化の機序は彼自身の存在に反映していた。彼が次々に自分の役割を変え、次々に女を替えていったのは、そのためだった。
(ブライアン・オールディス『十億年の宴』5、小隅 黎訳)

ある神秘主義者は旅によって、またある神秘主義者は一室にとどまることによって、神を探し求める。
(フィリップ・ホセ・ファーマー『気まぐれな仮面』14、宇佐川晶子訳)

 幻覚の定義は、その人がなにを軸にして活動しているかによって変わる。そのとき自分の身に起きていることがなんであろうと、起きていることが現実だ。
(チャールズ・ブコウスキー『バッドトリップ』青野 聰訳)

彼の見てるものがなんであれ、それが現実なのだ。
(チャールズ・ブコウスキー『バッドトリップ』青野 聰訳)

人生とは、私たちが人生からつくり上げるもののことです。
(ゲルハルト・ケップフ『ふくろうの眼』第二十二章、園田みどり訳)

旅とは旅人のことです。
(ゲルハルト・ケップフ『ふくろうの眼』第二十二章、園田みどり訳)

私たちに見えるのは、私たちが見るものではなく、存在する私たちのありようなのです。
(ゲルハルト・ケップフ『ふくろうの眼』第二十二章、園田みどり訳)

 オノリコいわく。物語るだけでは十分ではない。重要なのは語り継ぐことだ。つまり、すでに語られた物語を、自分のために入手し、自分の目的のために利用し、ときに自分の目標に隷属させたり、あるいは語り継ぐことによって変容させたりする語りである。言い換えるなら、メンドリは、卵が別の卵を産むために用いる手段だということだ。
(ゲルハルト・ケップフ『ふくろうの眼』覚書、園田みどり訳)

「無理もないな。ジーヴズ、ぼくらどうする?」
「どうしたものでしょうか」
「きついことになってきたな」
「はい、たいそうきついことに」
ジーヴズがくれた慰めは、それがすべてだった。
(P・G・ウッドハウス『同志ビンゴ』岩永正勝・小山太一訳)

「たぶん彼があなたにいろいろと話すのは、あなたが何も訊かないからなのね」
(アン・ビーティ『駆けめぐる夢』亀井よし子訳)

J・Dは絵葉書をいっぱいつめた箱を持って旅から帰ってくる。そしてわたしは、その絵葉書が彼の撮った写真であるかのように、丁寧に目を通す。わたも、彼も知っている。彼が絵葉書のどこが好きなのかを。彼は絵葉書の平板さ、すなわちその非現実性が好きなのだ。自分の行動の非現実性が。
(アン・ビーティ『燃える家』亀井よし子訳)

帽子を放り投げて、こう言った。「自分の絶望を外に連れだしたかったんだよ」すると悪夢が消え、いい考えが浮かんだ。妹の苦悩について彼が話すのはむりでも、彼自身の苦悩を聞かせれば彼女の気晴らしになるだろう。彼女はただちに皿を叩くのをやめ、彼のほうに向き直って、まじまじと顔を見た。自分の苦悩が他人の顔ではどんな表情かを見るために。
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』9、堤 泰徳訳)

私が興奮する最大の原因は、私の弱さにあるのよ
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』9、堤 泰徳訳)

彼は芸術によって、いやされていたのだろうか?
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』9、堤 泰徳訳)

小さな人間の本性をはずかしめ、おとしめるのは、その願望が実現するときだった。
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』10、堤 泰徳訳)

アンジョリーナはがんこな嘘つきだったが、本当は、嘘のつき方を知らなかった。
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』10、堤 泰徳訳)

ステファンヌは私に夢中だ。私という病気にかかっていることがようやくわかった。こっちがなにをしようと、彼にとっては生涯、それは変わらないだろう。
(エルヴェ・ギベール『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』8、佐宋鈴夫訳)


星星

  本田憲嵩

過ぎていった季節を常夜灯のように思う
わたしは揺り椅子の二つの脚に停留の錨を下ろし
アンテナの代わりに
机のうえの海に花瓶と丈高い花を置いて
自分のなかの未知なる惑星を探りだす
(わたしは丈高い花がやがて丈高い女になることをはげしく夢見ている)
暦が痩せほそってゆくような
孤独という肌ざむさが
自分とぴったりと重なりながら椅子に座って
白いままの紙の上でその白い手を悴ませている

とおく
漁船のエンジン音が
氷づけになった星星を振動させている


詩の日めくり 二〇一六年十二月一日─三十一日

  田中宏輔



二〇一六年十二月一日 「不安課。」


きょうは、朝から調子が悪くて、右京区役所に行った。
なぜ、調子が悪いのか、わからなかったので、とても不安だった。
入り口に一番近いところにいた職員に、そう言うと
二階の不安課に行ってください、と言われた。
雨の日は、ひざが痛いのだけれど
階段しかなかったので、階段で二階にあがると
最初に目にしたのが、不安課の部屋のプレートだった。
振り返ると、安心課という札が部屋の入り口の上に掲げられていた。
ただ事実の通り、不安の部屋の前が安心の部屋なのか、と思った。
不安課の部屋に入ると、
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。
「不安か?」
ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。
「はい、不安です。」
繰り返し、何度も同じやり取りをしているうちに
とうとうぼくは、朝に食べたものを、ぜんぶ吐いてしまった。
職員のひとが、ぼくの顔も見ずに、右手を上げて
向かいの部屋をまっすぐに指差した。
「あり・おり・はべり・いまそかり。」
「あり・おり・はべり・いまそかり。」
「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。」
「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。」
「ら・り・る・る・れ・れ。」
「ら・り・る・る・れ・れ。」
「あらず・ありたり・あり・あること・あれども・あれ。」
「あらず・ありたり・あり・あること・あれども・あれ。」


二〇一六年十二月二日 「栞。」


栞って、恋人の写真を使ってるひともいると思うけれど、ぼくは総体としての恋人の姿が好きってわけじゃないから、恋人の目だとか唇だとか耳だとか部分部分を栞にしている。


二〇一六年十二月三日 「年上の人間。」


若い頃は、年上の人間が、大キライだった。
齢をとっているということは、醜いと思っていた。
でも、齢をとっていても美しいひとを見ることができるようになった。
というか、だれを見ても、ものすごく精密につくられた「もの」
まさしく造物主につくられた「もの」という感じがして
ホームレスのひとがバス停のベンチの上に横になっている姿を見ても
美的感動を覚えるようになった。

朔太郎が老婆が美しいだったか
だんだん美しくなると書いてたかな。
むかしは、グロテスクな、ブラック・ジョークだと思ってた。


二〇一六年十二月四日 「おでん。」


きょうは、大谷良太くんちで、おでんとお酒をいただきました。ありがとうね。おいしかったよ。ごちそうさまでした。


二〇一六年十二月五日 「与謝野晶子訳・源氏物語で気に入った言葉 ベスト。」


「長いあいだ同じものであったものは悲しい目を見ます。」

この目を、状況ととるのがふつうだけれど
ぼくは、ひとの目としてとっても深い味わいがあると思う。
つまり「悲しい眼球」としてね。


二〇一六年十二月六日 「平凡な一日。」


まえに付き合ってた子が部屋に遊びにきてくれた。コーヒーのんで、タバコ吸って、チューブを見てた。平凡な一日。でも、大切な一日だった。


二〇一六年十二月七日 「睡眠時間が伸びた。」


いま日知庵から帰った。学校が終わって、毎日、よく寝てる。


二〇一六年十二月八日 「モッキンバード。」


ウォルター・テヴィスの『モッキンバード』を読み終わって、ジョージ・R・R・マーティン&リサ・タトルの『翼人の掟』を読みはじめた。SFが子どもの読むものだと、ふつうの大人は思っているようだが、そうではないということを教えてくれそうな気がする。読む速度が遅くなっているけど、がんばろ。


二〇一六年十二月九日 「ゴッホは燃える手紙。」


ゴッホは燃える手紙。


二〇一六年十二月十日 「漂流。」


骨となって
教室に漂流すると
生徒たちもみな
骨格標本が腰かけるようにして
骨となって
漂着していた
巨大な蟹が教卓を這い登ってきて
口をかくかくした。
目を見開いてそれを見てたら
巨大な鮫が教室に泳いで入ってきて
口をあけた
するとそこには
吉田くんの首が入っていて
目が合った


二〇一六年十二月十一日 「想像してみた。」


長靴を吐いたレモン。


二〇一六年十二月十二日 「ジキルとハイジ。」


不思議のメルモちゃんのように
クスリを飲んだら
ジキルがハイジになるってのは、どうよ!
(不思議の国のハイジだったかしら? 
あ、不思議の国のメルモちゃんだったかしら?)
大きな大きな小さい地球の
イギリスにあるアルプスのパン工場でのお話よ。
ジャムジャムおじさんが作り変えてくれます。
首から上だけ〜。
首から下はイギリス紳士で
首から上は
田舎者の
山娘
ちひろちゃん似の
アルプスの
ぶっさいくな
少女なのよ。
プフッ。
なによ。
それ。
そのほっぺただけ、赤いのは?
病気かしら。
あたし。
こまったわ。
うんとこ、とっと どっこいしょ。
流動的に変化します。
さあ、首をとって
つぎの首。
力を抜いて
流動的に変化します。
さあ、首をとって
つぎの首。
力を抜いて
首のドミノ倒しよ。
いや
首を抜いて
力のダルマ落としよ。
受けは、もうひとつなのね。
プフッ。
ジミーちゃん曰く
「それは、ボキャブラリーの垂れ流しなだけや。」
ひとはコンポーズされなければならないものだと思います。
だって。
まあね。
ミューズって言われているんですもの。
薬用石鹸。
ミューウーズゥ〜。
きょうの、恋人からのメールでちゅ。
「昨日の京都は暑かったみたいですね。
今は長野県にいます。
こっちは昼でも肌寒くなってきました。
天気は良くて夕焼けがすごく綺麗でした。
これから段々と寒くなるみたいで
田中さんも風邪などひかないように気を付けて
お仕事頑張って下さいね。」
でも、ほんまもんの詩はな。
コンポーズしなくてもよいものなんや。
宇宙に、はじめからあるものなんやから。
そう、マハーバーラタに書いてあるわ。
あ、背中のにきび
つぶしてしもた。
詩人はみな
剽窃詩人なんや。
ド厚かましい。

厚かましいのは
あつすけさんちゃう?

言われました。
笑。

逆でも、かわいいわあ。
首から下がハイジで
首から上がジキルなの。

ひゃ〜、笑。
ちょーかわいい。

恋人にもはやく相対。
プフッ。
はやく相対。
じゃなくて
はやく会いたい。
ぶへ〜
だども
あじだば
いっばい
詩人だぢどあえるど。
ヤリダざんどもあえるど。
アラギぐんどもあえるど。
みなどぐんどもあえるど。
もーごぢゃんどもあえるど
どらごぢゃんどもあえるど。
ばぎばらざんどもあえるど。
ぐひゃひゃ。
おやすみ。
プッスーン。
シボシボシボ〜。

あいたい
あいたい
あいたい
あいたい
あ いたい
あ いたい
あいた い
あいた い
あい たい
あい たい
あ いた い
あ いた い
あ い た い
あ い た い
いた いあ
いた いあ
いい たあ
いい たあ
いいあ た
いいあ た
たいあい
たいあい
たいあい
たいあい
たあいい
たあいい
たあいい
たあいい
あたいい
あたいい
いいたあ
いいたあ
いいたあ
いいたあ


二〇一六年十二月十三日 「めくれまくる人々への追伸。」


カーペットの端が、ゆっくりとめくれていくように
唇がめくれ、まぶたがめくれ、爪がめくれて指が血まみれになっていく
すべてのものがめくれあがって
わたしは一枚のレシートになる。
階級闘争。
契約おにぎり。
拉致餃子。
すべてのものが流れ去ったあとにも、残るものがある。
紫色の小さな花びらが4枚
ひとつひとつの細い緑色の茎の先にくっついている
たくさん

ひとつ
ひとつ
ひとつ

たくさん

田んぼの刈り株の跡
カラスが土の上にこぼれた光をついばんでいる
地面はでこぼことゆれ
コンクリートの陸橋の支柱がゆっくりと地面からめくれあがる
この余白に触れよ。
先生は余白を採集している。
「そして、機体はいつの日も重さに逆らい飛ぶのである。」
太郎ちゃんの耽美文藝誌「薔薇窗」18号の編集後記にあった言葉よ。
自分の重さに逆らって飛ぶのね。
ぼくは、いつもいつも、自分の重さに逆らって飛んできたような気がするの。
木が、機が、記が、気が、するの。
それで、こうして
一回性という意味を、わたしはあなたに何度も語っているのではないのだろうか?
いいね。
詩人は余白を採集している。
めくれあがったコンクリートの支柱が静止する。
わたしは雲の上から降りてくる。
カラスが土の上にこぼれた光をついばんでいる
道徳は、わたしたちを経験する。
わたしの心臓は夜を温める。
夜は生々しい道徳となってわたしたちを経験する。
その少年の名前はふたり
たぶん螺旋を描きながら空中を浮遊するケツの穴だ。
あなたの目撃には信憑性がないと幕内力士がインタヴューに答える。
めくれあがったコンクリートの陸橋がしずかに地面に足を下ろす。
帰り道
わたしは脚を引きずりながら考えていた
机の上にあった
わたしの記憶にない一枚のレシート
めくれそうになるぐらいに、すり足で
賢いひとが、カーペットの隅を踏みつけながら、ぼくのほうに近づいくる。
ジリジリジリと韻を踏みながら
そこは切符が渡されたところだと言って
賢いひとが、カーペットの隅を踏みつけ踏みつけ
ぼくのほうに近づいてくる。
(ここで、メモを手渡す。)
賢いひとが、長い手を昆虫の翅のように伸ばす。
その風で、ぼくの皮膚がめくれる。
ぼくの皮膚がめくれて
過去のぼくの世界が現われる。
ぼくは賢いひとの代わりのひとになって
昆虫の翅のような手を
やわらかい、まるまるとした幼いぼくの頬に伸ばす。
幼いぼくの頬は引き裂かれて
冷たい土の上に
血まみれになって
横たわる。
ぼくは渡されたレシートの上に
ボールペンで数字を書いている。
思いつくつくままに
思いつくつくままに
数字が並べられる。
幼いぼくの頬でできたレシートが
釘のようなボールペンの先に引き裂かれる。
血まみれの頬をした幼いぼくは
賢いひとの代わりのぼくといっしょに
レシートの隅を数字で埋めていく。
レシートは血に染まってびちゃびちゃだ。
カーペットの隅がめくれる。
ゆっくりと、めくれてくる。
スツール。
金属探知機。
だれかいる。
耳をすますと聞こえる。
だれの声だろう。
いつも聞こえる声だ。
カーペットの隅がめくれる。
ゆっくりと、めくれてくる。
幼いぼくは手で顔を覆って
目をつむる。
賢いひとの代わりのぼくは
その手を顔から引き剥がそうとする。
おにいちゃん
百円でいいから、ちょうだい。


二〇一六年十二月十四日 「ほんとにね。」


ささいな事柄を書きつける時間が
一日には必要だ。


二〇一六年十二月十五日 「バロウズ。」


バロウズのインタヴュー
面白い
ぼくが考えてきたことと同じことをたくさん書いてて
そのうちの一つ
テレパシー
バロウズはテレパシーって言う
ぼくはずっと
同化能力と言ってきた
國文學での論考や、詩論でね

つぎのぼくの詩集 The Wasteless Land.IV「舞姫」の主人公の詩人は
テレパス
うううん
バロウズ
ことしじゅうに、全部、読みたい。


二〇一六年十二月十六日 「みんな、死ぬのだと、だれが言った?」


時間を逆さに考えること。
事柄を逆さに書くこと。
理由があって結果があるのではない。
結果しかないのだ。
理由など、この世のどこにもない。
みんな、死ぬのだと、だれが言った?


二〇一六年十二月十七日 「ルーズリーフに書かない若干のメモ。」


どの作品か忘れたけど、スティーヴン・バクスターの作品に
「知的生物にとっての目標とは、情報の獲得と蓄積以外にないだろう」
とある。
またバクスターの本には
詩人はどう詠ったか──「知覚の扉が洗い清められたら、すべてが
ありのまま見えるようになる、すなわち無限に」
という言葉を書いていたのだが、これってブレイク?

数行ごとに
そこで電話を切る。
という言葉を入れる。

わたしは、なにかを感じる。
わたしは、なにかを感じない。
わたしは、なにかを知っている。
わたしは、なにかを知らない。
わたしは、なにかを恐れる。
わたしは、なにかを恐れない。
わたしは、なにかを見る。
わたしは、なにかを見ない。
わたしは、なにかを聞く。
わたしは、なにかを聞かない。
わたしは、なにかに触れる。
わたしは、なにかに触れない。

MILK
カナン
約束の地
乳と蜜の流れる土地よ
わたしの青春時代

ぼくはきみの記憶を削除する
ぼくはぼくの記憶を変更し
はじめて会った彼のことを新規に記憶する
ところが、きみの記憶はコピーが残っていたので
ジミーちゃんに指摘されて、きみのそのコピーの記憶が
間違った記憶だったことを指摘されたので
まったく違う人物の記憶にしていた、きみの正しい記憶と差し替える。

急勾配、訪問、真鋳、房飾り、パスポート、爪楊枝、ギプス、踏み段、スツール

生物検査、検疫処置、沼沢地、白子、金属探知機


二〇一六年十二月十八日 「「知覚の扉」というのは、ブレイクの言葉かな。」


自然は窓や扉を持たない
わたしたちは自然のなかにいても
自然が語る声に耳を傾けない
わたしたちは自然を前にしても
自然に目を向けない
わたしたちは自然そのものに接していても
自然に触れていることに気がつかない
芸術作品は
自然とわたしたちの間に窓や扉を設ける
それを開けさせ
自然の語る声に耳を傾けさせ
自然が見せてくれる姿かたちに目を向けさせ
自然そのものに触れていることに気づかせてくれる
真の芸術は
新しい自然の声を、新しい自然の姿を、新しい自然の感触を
わたしたちに聞かせてくれる
わたしたちに見せてくれる
わたしたちに触れさせてくれる
新しい知覚の扉
新しい感覚の扉
新しい知識の扉
新しい経験の扉

これまで書いてきた「自然」という言葉を「体験」という言葉に置き換えてもよい。

「知覚の扉」というのは、ブレイクの言葉かな。


二〇一六年十二月十九日 「かさぶた王子。」


どやろか、このタイトルで、なんか書けへんかな。
きょうはもう寝るかな。

そういえば、「もう寝る。」って
言い放って寝る恋人がいたなあ。
「もう寝る。」って言って
くるって、むこう向いて寝るやつ。
ふうん。
なつかしいけど、なんか、さびしいなあ。
おわり。


二〇一六年十二月二十日 「TUMBLING DICE。」


この曲をはじめて耳にしたのは
中学一年のときで
女の子の部屋でだった。
いや、違う。
ぼくんちにあった。
女の子もストーンズが好きだった。
ぼくと同じ苗字の女の子だった。
大学生のときに
リンダ・ロンシュタッドも
この曲を歌っていて
耳が覚えてる。

中学のときに
ぼくの友だちはみんな不良だったから
ぼくんちにあつまって
夜中にベランダに出て
みんなでぺちゃくちゃおしゃべりしてた。

そんなこと
思い出した。

日曜日にがんばったせいか、肩が痛い。
腰ではなく、きょうは肩にシップして仕事。
46だから、四十肩なのか五十肩なのか
四捨五入すると五十肩。


二〇一六年十二月二十一日 「私が知りたいのは、」


ちなみに
トウェインの言葉でいちばん好きなのは

深く傷つくためには
敵と友人の協力が必要だ
──ひとりがあなたの悪口を言い、
もうひとりがそれを伝えにくる。

コクトーは
そんな友だちを
まっさきに切る
と書いていたけれど、笑。

トウェインの言葉ですが
つぎのようなものもあります。
ひねりが2回ありますね、笑。

私は人種的偏見も、階級的偏見も、宗教的偏見も持っていません。
私が知りたいのは相手が人間であるかということだけです。
それがわかれば十分なのです。
それ以上悪くなりようがないのですから。


二〇一六年十二月二十二日 「吐き気がした。」


キッスを6時間ばかりしていたら
吐き気がした
胸の奥から喉元まで
吐き気がいっきょに駆け上がってきた
彼の唇も6時間もキッスしてたら
なんだか
唇には脂分もなくなって
しわしわで
うすい皮みたいにしなびて
びっくりしちゃった
キッスって
長い時間すると
唇の感触がちがってくるんだね
キッスはヘタなほうが好き
ぎこちないキッスが好き
ヘタクソなほうがかわいい
舌先も
チロチロと出すって感じのほうがいい
さがしてあげる
きみが好きになるもの
さがしてあげる
きみが信じたいもの
なおレッド
傷つけることができる
いくらでも
ときどき捨てるから厭きないんだね
みんな
ジジイになれば
わかるのにね
時間と場所と出来事がすべてなんだってことが
すなおに言えばいいのに
なおレッド
略式恋ばっか
で、もうジジイなんだから
はやく死ねばいいのに
もうね
ふうん
それに
人生なんて
紙に書かれた物語にしか過ぎないのにね
イエイ!


二〇一六年十二月二十三日 「まことに、しかり。」


(…)世界の広いことは個人を安心させないことになる、類がないと思っていても、それ以上な価値の備わったものが他にあることにもなるのであろうなどと思って、(…)
(紫式部『源氏物語』紅梅、与謝野晶子訳)

「世界の広いことは個人を安心させないことになる」

まことに、しかりと首肯される言葉である。


二〇一六年十二月二十四日 「息。」


息の根。
息の茎。
息の葉。
息の幹。
息の草。
息の花。
息の木。
息の林。
息の森。
息の道。
息の川。
息の海。
息の空。
息の大地。
息の魚。
息の獣。
息の虫。
息の鳥。
息の城。
息の壁。
息の指。
息の手。
息の足。
息の肩。
息の胸。
息の形。
息の姿。
息の影。
息の蔭。


二〇一六年十二月二十五日 「ひさしぶりのすき焼き。」


きょうは森澤くんと、キムラですき焼きを食べた。そのあとタナカ珈琲で、BLTサンドとパフェを食べて、日知庵に行った。食べ過ぎ飲み過ぎの一日だった。


二〇一六年十二月二十六日 「田村隆一にひとこと。」


言葉がなければ
ぼくたちの人生は
たくさんの出来事に出合わなかったと思う。

言葉をおぼえる必要はあまり感じないけど
ヌクレオチドとかアミラーゼとか、どうでもいい
言葉があったから、生き生きしていられるような気がする。

もしかしたら
生き生きとした人生が
言葉をつくったのかもね。


二〇一六年十二月二十七日 「これから、マクドナルドに。フード・ストラップ、あつめてるの。」


きのう、シンちゃんに
「おまえ、いくつじゃ〜!」
と言われましたが
コレクションするのに
年齢なんて関係ないと思うわ。
「それにしても
 幼稚園児のような口調はやめろ!」
と言われ
はて
そだったのかしら?

もう一度
「あつめてるの。」
と言って
自分の声を分析すると
たしかに。
好きなものあつめるって
子どもになるんだよね〜。
なにが、あたるかな。


二〇一六年十二月二十八日 「原文。」


シェイクスピア鑑賞について。

もう十年以上もまえのことだけど
アメリカ人の先生と話をしていて
ちょっとひっかかったことがある。
「シェイクスピアをほんとうに知ろうと思ったら
 原文で読まなきゃいけませんよ。」
はあ?
という感じだった。
部分的に原文を参照したりしていたけれど
全文を原著で読んでなかったぼくだけれど
すぐれた翻訳があって、それで楽しんでいるのに
ほっといてくれという思いがした。
あなた、聖書は何語で読んだの?
って感じだった。
まあ、そのひとだったら、アラム語やギリシア語で読んでそうだったけど。
もちろん、原文を読んだほうがいいに決まってるけれど
語学が得意ではない身にとって
まずは翻訳だわな。

そういう意味で、原文主義者ではないぼくだけれど
できるかぎり原文を参照できる用意はしておかなくてはならないとは思っている。


二〇一六年十二月二十九日 「死。」


ジョージ・マイケルは53歳で死んで、キャリー・フィッシャーは60歳で死んで、ええって感じ。あと2週間足らずで、56歳になるぼくだって、いつ死ぬかわかんないけど。


二〇一六年十二月三十日 「死。」


ことしは偉大なアーティストたちが亡くなった年だったのだな。
http://www.rollingstone.com/culture/lists/in-memoriam-2016-artists-entertainers-athletes-who-died-w457321/david-bowie-w457326


二〇一六年十二月三十一日 「芸能人。」


そいえば、きのう芸能人を電車で見たのだけれど、口元に指一本をくっつけて合図してきたから、見ちゃダメなんだと思って、駅に着くまで違う方向を見ていた。


和の接近

  イロキセイゴ

和が股間に来ると
プールが眼前にある
すばしっこい接近だった
古代の様な懐かしさで
私の操(みさお)を奪う
片思いだったぎりで
自由を謳歌していたのかもしれない
シアン化物が不意に口に来る
私はあわてて家持(やかもち)の和歌を口遊(くちずさ)む
すると毒気は消える
再び接近する和に
私はたまらずプールに飛び込む
プールの底に沈む
スクール水着だけが
真実を知って居る様な気がした


光色のコークレッスン

  Kolya

もう何も書くことがなくなってしまった。と書いたら。書くことが始まる。書くことは終わらない。書くことは続いていく。たとえば、君が思いうかべるいちばん青い青よりもすこしだけ青い、青空を想像してほしい。その青空はどこまでも続いていく。そしてその青空を、よく見れば、すこしずつ移り変わる青色のグラデーションで出来ている。その青の始まりや、終わりのことを考えてほしい。なにがいったい終わるんだろう?そして、なにがいったい始まるんだろう?その青のいちばん青いところから、白が始まる。たとえば、君がおもいうかべるいちばんの白い白よりも、すこしだけ白い、砂浜を想像してほしい。その砂浜はどこまでも続いていく。そして、よく見れば、ガラスで出来ている。とても小さく細かいので、よく分からないが、いつかこなごなにしてしまった思い出の欠片で出来ている。その、君がおもいうかべるいちばん白い砂浜よりもすこし白い砂浜と、君がおもいうかべるいちばん青い青空よりもすこし青い青空は、すこしずつ移り変わる、思い出のグラデーションで出来ている。なにがいったい始まるんだろう。そして、なにがいったい終わるんだろう。光はどこから来るんだろう。思い出の光のグラデーションがある。そして、今、ここに降る光のグラデーションがある。それは、今という、未来に向かう、グラデーションだ。未来と、さっきの海浜を想像してみてほしい。その光景のグラデーションで、今が出来ている。(今、テレビでは、クリケットのプレビューが流れている。ボールが高くあがる。カウチ脇の窓から、飛行機が果てしなく飛びさる音。誰かのFacecook-Messengerの着信音。もう一本、ただの煙草を吸って、探偵のように、飛び出すつもりだ。)未来にも、降る光のグラデーションがあるように、そして、それもいつか思い出のグラデーションになるように。今は、今が、思い出と、未来の、グラデーションになるのを見つめている。それは煙。それは団欒で、ひとくくりの日常だ。そして、それは終わらずに続いていく。そのグラデーションを見つめれば、光の欠片で、始まらない今で、終わらない今で、もうそれからは何も書くことがなくなってしまうような、さっきの海浜からゆくりなく続いていく、光あふれる光景だ。


(無題)

  ねむのき

雪のしたで
音楽をまちがえて
わたしは物語のうえに
栞を置いた

巣箱のなかでくらすひとたち
かれらの樹のために
弟はすこし
楽器をさがしている

ともに食事をし
ともに祈ること
できるだけ静かに会話すること
ある日、天国から落ちてきた日記には
そう書いてあった

部屋のなかまで雪が
ふりはじめる朝
椅子のうえで、
花束のように眠る弟を
抱きしめるために冬がおりてくる


【母国の子音】

  黒崎水華

羊羹に似た闇が口開く 暗浄に御座います
切り揃えた髪が揺れる この世は繋がって
赤と白の椿が列を成す 廻るので季節さえ
回廊をぐるりと辿って 参道に御座います
入口も出口もなくなる 羊水は満ちました
宙を漂う金魚の白昼夢 目は開きましたか
蝶の翅だけ地面を覆う 脳は夢見ています
利き手を失い虚を孕む 現を空蝉と重ねて
両目が機能しないのだ 焼き憑いてしまう
目隠し鬼が手招きして 亡國したのにさえ
次は君、名誉だよ」と 気づいてやしない
尊厳を抱いて落ちる崖 内部が腐ってゆく
生涯を丸投げまでして 羽音が群を成して
濡れた三本足の鳥一羽 蝕んでいった正体
暗雲の中で鳴いたのだ 大義に置き換えて
黒い雨が吸い込まれた 重く伸し掛るのだ
地面は憶えている味だ 幽かに浮かぶ文字
羊羹に似た闇を食べた 柑橘類の馨がした


夏美 has a lot of poetry

  kaz.

夏美 has a lot of poetry but she didn't write it. な罪が♪降り注ぐファンが回るまわる♪パワヤラを引いたことはあるかい?♪グワットモールを引いたことはあるかい?♪俺はその一人だ、みんなも引こう♪そしてぐわっともーるbotの存在を確認しよう♪夏美な罪が何度も繰り返されて、僕は狂った男の隣、頻繁に北に回帰していく時刻、♪は今まさに飛び出そうとしている。
生態学の生態を調査せよ。
ポスドクの毒を搾り出せ。
毒を以て毒を制するとはよく言ったものだ。
入れ♪ないことができる。他の先生が教えてる中で余裕で帰っていく。

♪今朝話しかけた女の子は元気だろうか。今頃技術の実習でもしているのだろうか。困ったときは先生に相談だ!

♪そして失敗だ。もうどうしようもない。魂の呼吸を、整えて、数をそろえる。0315。それで一万通りが減ったよ。リグナン生合成に成功したらいいなあ。Can you feel it?

♪ポストポスドクになりたい。しまいには変な研究発表したりして、色々楽しみ体温計。太田胃散の宣伝の曲を聴いて、僕は心から感動している。

♪現代にも姥捨山を復活させ、高齢者をどんどん山へ捨てに行きましょう、山は感謝の気持ちでいっぱいだ、ヤマハ。ピアノのように歌う、これが気持ちいいのなんのって、何しろ歌を遮るものは何もないのだから! ダカラを飲んで僕は気が狂ったようになる。大企業に就職できたらいいな、でも中小も面白そうじゃん。ジャン・コクトーちゃん黒糖なめなめ、なめたけの表面のように静かに僕はアトリエ化していく、タイマーが鳴っているのに気が付かなかったらどうしよう。そういうときは仕方ない。タケイ・リエ。カニエ・ハナ。カニエ・ナハだっけだっこ抱っこしたいんです負んぶに抱っこに子どもがついてうっかり鬱病になってしまいました。そういうときは相談だ、先生に! 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹解虫。これでどうだ! 面白いだろう。へへ。ら。へ。ら。へ。ら。へらへらしてんじゃねーよ天使じゃねーよ自転車ねーよ帰れねーよふざけんじゃねーよ。減らねーよでも減らず口を叩きまくる今日この頃。ゴロゴロしております。喉が。お陰さまでゴホゴホしております。木を食べる魚について考えていた。セルロースを高密度に圧縮し分解して栄養源にしてしまうのです! 素晴らしい! ベクターを導入して我々にもその遺伝子を身につけるようにすれば、我々も木が食べられるようになる! 味覚? 遺伝子操作で麻痺させればいい。そうしてゴミばかり食べる人間を生み出せばゴミ問題と食糧問題は解決さ! 隊長! その方法ではかえって人口が増加してしまいゴミは増える一方です! なるほど。確かにそうだ。というようなことを魚は考えているのかもしれない。というようなことを僕は考えているのかもしれない。かもしれないかもしれない。かもしれない運転でいこう。朝吹さんに会いに行く日に、僕は心から凍えるようだった。ピピピピピピピピ。体温計が鳴る。体温は37.5℃です。軽い微熱ですね。それでも寒いということはこれから熱が上がるということですね。寝よう。そして体温を下げよう。

ひつぜつにつくしがたいかなしみが
かなしみをかなしみつくす
つくしになったぼくらの
ともだちのともだちのこともわすれ
ぼくらは熔融していくのでしょうか?
大いなる誤植を、今

まさにその通り。
ニュートリノに質量があるというのは昔から言われていた。でもなかなか証明ができなかった。それをスーパーカミオカンデで紙を噛んで髪を掴んで、証明したから偉いノア。の箱舟。ノヴァ。ノアズアーク。アニメの見過ぎだベイベー。米兵による射殺事故が起こりました。犠牲者は0にんのもよう。もようがえしたへやのなか、なかなかでてこれない、だからたまりかねてでていったのです。どっちだ? おんがくのしゅうえんに(さいしゅうえんそう? いいえ、ケフィアです。ライク・ア・ローリング・ストーン)になりたい、になりたいになりたいになりましたよかったね、あのやろう出席してたのに低い成績付けやがった、音楽に歌が入っているとつい僕も歌ってしまうま、らいくライク雷句誠の夜明け前を読み終わった。ほしがたのゆめをみて、ぼくはなにかんがえてるんだろう、なんてめいそうしてる、らしい。



♪  ♪

  ♪   ♪    ♪

♪   ♪    ♪     ♪

   ♪    ♪    ♪     ♪


小枝とランプ

  ちょび

 冬を編み
 時間ばかりが過ぎていく
 この編み物においては云うと
 糸の丸を貫くように
 ほうぼうの諍いに良くしたり
 アレコレをなじって毀損したり
 私の身をドアから出して殴ったり
 また殴られたりを繰り返す
 夜に仮にランプのひとつもあったなら
 ちょっと覗いて触れただろう
 大根や果実を持ち寄って、
 麦飯を炊いて鍋にする
 醤油を少々垂らしたり、
 ラードを少々、大目に入れたり
 パッと華やぐ夕餉のにおいが、
 私にだって、あって良い。
 風の吹かない日常が、私は欲しい。


コピペの街で、

  泥棒


パピプペポみたいな
そんな感じの街に住みたい。
楽しそうだもんっ!
僕は
コピペの街に生まれ育ち
ここにいる。
みんな似ているけれど
同じ人はどこにもいない
みんなでみんなを
ずっと無視したりされたりしながら
ずっとずっとこの街にいる
コピペの街には
存在しないものがない
いや
ひとつだけある

そう
絆だけが存在しない
昨日
僕は人助けをしたけれど
そこに
絆はなかった
風だけが吹いていたよ
そこに、

ガギグゲゴみたいな
そんな街には住みたくない。
ガラが悪そうだものっ!
やあ、
みんな元気かい
それとも死んでいるのかい
僕は相変わらずだよ
今日も
僕と君に絆なんて存在しない
そうやって
いつも心に
僕は砂漠をつくってきた
それなのに
そこには君の足跡だけがある
消えないんだなこれが
今も
そこに、

なにぬねのみたいな
そんな街は嫌だね。
きっと理屈っぽいからねっ!
わざわざ立ち止まって
いちいち感じていられない
コピペの街で、
何かひとつ理解しても
新しい謎がふえるだけ
いろいろな街から
さまざまな話題が無題のまま
つぎつぎに消えてゆく
海の向こうでは
透けて見えるらしいよ
感情のない表現とか
そこに
何か込めないとね
そこに、

さしすせそ
料理のさしすせそ
それを知っていても意味はないよっ
コピペの街
食料はすべてレトルト
蛇口から水がでる
それを当たり前だと思うなよ
道にヒビが入った
草よ
お前は踏まれて何を思うか
皮肉な比喩が
やがて雨になり
コピペの街も
どしゃ降りになるだろう
さよなら
僕もそこに行くよ
そこに、


ピピピピピピピピ
何かをしらせる音がする
鼓膜の奥で
それが潰れる音にかわる
コピペの街で、
毎日のように
新しい悩みができるから
僕には
もう悩みがないのかもしれない
もはや
悩みが僕に追いつかないのさ
君が
どこか遠く
らりるれろみたいな国から
ここへ来るなら
僕が案内してあげるっ
言葉が通じなくても大丈夫だよ
コピペの街で、
君が孤独を語るなら
朝も夜も
ずっと好きなだけ語ればいい
僕が
最初から最後まで無視してあげる
何も聞かなかったことにして
コピペだけしてあげる
感情まで汚染されたら
個性が邪魔をする行間から
君が見える
今日も君だけはきれいだよ
この街には絆がないから
君の孤独が
もしかしたら永遠に続くよ
ここに、


天使の羽根をちぎる仕事

  泥棒


・天使

風俗やめたんよ。うち、鬱になってもうてな。自分だけは大丈夫やと思っとったんやけどなあ。不動産屋の社長さんにえらい気に入られてな。しょっちゅう指名してくれてな。優しい人やったわ。せやから優しすぎて辛くなんねん。普通がええねん。まあ、普通が何なのか、もうわからへんけどな。うちがフェラしとる間にも世界は動いてんねんなあ。とか考えはじめたら終わりやん。ちんちんに集中でけへん。ほんでなあ、今な、うちな、知り合いの知り合いに頼んで違う仕事しとるんよ。二週間前から天使の羽根をちぎる仕事しとるんよ。街でな、天使を見つけたら声かけんねん。気ぃつけなあかんのはな、たまにな、悪魔おんねん。見た目は天使やねんけど。最初はわからへん。何回も悪魔に声かけてもうてな。しんどいわ。死ぬ思いしたわ。どんな仕事もそりゃしんどいわな。今はちょいと慣れてきてな。天使を見つけたらな、しばらく様子見んねん。歩き方とか表情とか、よう見んねん。ほんで間違いなく天使やったら声かけんねん。ほんでな、バレへんように羽根をちぎんねん。ほんでな、それな、募金すんねん。天使の羽根な、未来に役立つねん。どう役立つんかは、うちにはわからへんけどな。ちなみにな、うち悪魔やけど、羽根あんねんで。ま、誰もいらんやろうけど。役に立たへんし。ただの飾りやからな。

・羽根

風俗やめた
鬱になった
自分だけは大丈夫だと思った
不動産屋の社長に気に入られた
何回も指名してくれた
優しい人だった
優しすぎた
優しすぎて辛かった
普通がいい
普通がわからない
フェラしてる間にも世界は動いていた
そう考えた
終わった
ちんちんに集中できない

違う仕事している
二週間前から
天使の羽根をちぎる仕事
街で
天使に声をかける
気をつける
悪魔がいる
最初はわからない
何回も悪魔に声をかけた
しんどい
死ぬかと思った
慣れてきた
天使の様子を見る
歩き方
表情
よく見る
間違いなく天使だった
バレないように羽根をちぎる
募金する
未来に役立つ
悪魔にも羽根はある
役に立たない飾りの羽根

・ちぎる

風俗、
鬱、
大丈夫、
社長、
指名、
優しい、
辛い、
普通、
フェラ、
世界、
考える、
終わる、
ちんちん、
集中、
今、
仕事、
二週間前、
天使、
羽根、
ちぎる、
仕事、
街、
天使、
悪魔、
最初、
悪魔、
死ぬ、
慣れる、
天使、
様子、
見る、
天使、
募金、
未来、
悪魔、
羽根、
飾り、

・仕事

三年くらい前にな、雑誌かネットか、ま、ようおぼえてないんやけどな、
なんや、コラムっちゅうんかな、そんなんで読んだんよ。
ゴッホが耳を切り落とした日な、その日は雨やったとか書いてあってな。
ま、嘘かもしれんけどな、ま、なんちゅうか、うちな、ゴッホとかよう知らんし。
でな、今な、思い出すとな、あれ、コラムとかちゃうくて、
詩だったんかなあって。そう思うんよ。ちなみにな、うちな、風俗やめたんよ。鬱になってもうてな。
ま、自己判断やけど。
ほんでな、風俗やめた日な、雨でな、急にな、思い出したんよ、ゴッホの詩。
いや、コラムか詩かわからんけど。ほんでな、不動産屋の社長さん、確かな、詩とか好きや言うてたからな。
なんとなく聞いたんよ。ほんならな、そのコラム書いたん自分や言うて。
そうなん?ほんまに?社長さん、いつも冗談ばっかりやから信じられへん。
耳ちぎったら、あかんやん。
うちの耳な、飾りちゃうで。ちぎらんよ。そんなんしたら社長さんの優しい声、もう聞かれへんもん。
ちゅうか、あれ、コラムなん?詩とちゃうん?
ほああ。疲れてきたわ。なんもしとらんのに。なんでやろ。ほああ。
オランダ行こかな。天気予報だとオランダ、今日も雨らしいんよ。ネットでなんとなく調べたんよ。
暇やし、することないねん。ほああ。
そや、うちもな、弟おんねん。まあ、関係ない話しやわ。ほあ。
どっか行きたいわあ。天使も悪魔もおらん場所へ行きたいわ。ほんま。
知らん人に会いたい。ほああ。ちゅうか、あんた誰やっけ?


詩へのリハビリテーション#01

  中田満帆

かつての愛のために


 去る年の一月
 吉原幸子を知った
 葺合警察の
 留置場にて
 かつての愛のために拒絶されて
 たったひとりで歳を迎えた
 かの女はこう書いてた

  傷つくことでしか確かめられないひとと
  傷つけることでしか確かめられないひとと──「鞭」

 いっぽうでアイリーン・ウェイドは、
 「いちばん悲しいのは
  若いうちに命脈が絶たれることでなく、
  醜く年老いてしまうことです」と書き残して自裁し、
 ポール・マーストンは、
 「なにもかもが演技だ、からっぽなんだ」といった
 ぼくがだれかを愛するのは傷つくため
 拒まれ、
 黙殺されることでしか、
 愛を確かめ、
 からっぽを埋めることができない
 ありふれたものがなにも手にできず、
 ぼくはぼくに執行猶予を科す
 それもみな
 かつての愛のためにってやつ 


カツカワさんからの葉書


 ぼくはカツカワさんの「ガラスの少女」や「猫の国」が好きだ
 ぼくは「まぼろしまぼちゃん」でかれを知った
 1992年
 まだ八歳で
 みずいろのはなみずと
 くさいろの冒険譚
 放課後はしょっちゅう近所の小惑星を旅して
 なんどもお母ちゃんを泣かせたっけ
 カツカワさんは
 ぼくの詩を「破壊や怒りを感じます」といった
 けれどあの詩はぼく自身のガラスの少女にむけたものだ
 ぼくが幻想分離装置を組み立てながら
 あの子のことをおもうとき
 鍵をかけたはずの抽斗からゆっくりと
 ミミ子さんや
 第七惑星清掃係が
 顔をだす


Keeetu fish

  紅茶猫

夜よりも白い山の端に腰掛けて
叫べ
詩の言葉を

操縦不能な迷路をすり抜け
疾走する一台の微笑み
そう、
生きることは疾走すること

割れた鏡に
裸木の影(深く)闇を張る

ぽたぽたと水滴落ちる心音
時計ぞろ目になったらリセットしよう

空、要りませんか
(空っぽの)平和な空

鏡支配している
そのつもりの惚けた顔が
粉々に砕け散ってしまった朝顔咲いている

埋もれる秒針
望まれた嘘よ

パンを浸して腹一杯の水銀柱の上を
終日、青い魚が行ったり来たりしている

keeetu fish

岸に着く頃
見えてくる
(思い出す)
聞こえてくる
(砂を噛む音)
拾い上げたものは
見事なまでに何も語らない

王様のタンブリン


ROBOT

  ゼッケン

どうも、レッツゴー3ビットです、まずは自己紹介、
アトムだよ! ペッパーデース! ミナミハルオでございます
ソレハ前世紀ノネタデスネ? 
それよりもぼくにはハルオくんが冷蔵庫にしか見えないんだけど?
AI搭載の冷蔵庫でございます
ワー、ソレハ日本製ニアリガチデスネ
その方向性、大丈夫?
もちろん! IoTでございますよ、いま、ご主人さまがクルマで帰宅途中だとする
フムフム
クルマにはあらゆるセンサーがユビキタスでデータがサーバにリアルタイムです
ホウホウ
車内の二酸化炭素濃度が若干高め。これはご主人さまがため息ばかりついている証拠
ナルホドー
これは上司に怒られたな、と。取引先でまたやっちまったな、と。冷蔵庫のAIでもそれぐらい推察するわけです
ソレデ?
ビールはいつもより冷やしておこう、おつまみの冷凍枝豆はもう解凍しておこう、となるわけです
感心したよ、ハルオくん! でも、そんなにがんばって電気代はかからないの?
大丈夫です、原子力発電事業が順調にすすんでいるので
分かった! ハルオくんは東芝製なんだね?
損失なんか出てません!
ワーイ! 再生エネ推進派ノウチノ社長ガマタ儲カリマス
そうだね、ペッパーくんの会社の社長は人間にしておくのはもったいないね、全生涯記録をネットにアップしてAIに学習させよう
じつはわたくし、元は人間だったのでございます
エエ!?
ハルオくん、突然どうしたんだい? 不正会計体質の発作かい?
いえ、じつはわたくしも自分の全生涯記録をネットに転送した、個人の記憶を保持した元人間なのでございます
それがどうして冷蔵庫のAIに転生してしまったの?
ネット神の査定でわたくしの人生は冷蔵庫向きだ、と
冷蔵庫向きの人生?
はい、わたくし、人間のときには詩の掲示板に投稿しておりました
ナルホドー、寒イ詩ヲ書イテイタノデ、レ・イ・ゾ・ウ・コ、デスネ?
違います
この話、まだ終わらないんだね?
自信のないわたくしは作品投稿後、次に掲示板を見るのが怖くて、

なかなか、板、見ません

ナカナカ、イタミマセン、デスヨ、ミナサン!
オッケー、じゃーねー


クロノス

  玄こう



2008/05/29 05:19
『多摩川に捧ぐ』

とこしなえ
水の流るる
波まくら

配管を流れる水の音にホテルで寝つけないでいる
多摩川がこの大都会の何千万人の命をうるおしてる

上流は美しい渓流地
異界の地

わたしたちが直かに触れられない神々(カミガミ)たちのいてる場所

雨のふる天と同様に、雨音、その水音(ミナオト)はそんな世界から伝う音

水音のささやきに彼らの言葉があると思う

とこしなえ
みなおとさやぐ
多摩の川より


2008/05/30 00:05
『帰』

東京から新幹線で黙って夜の窓を眺めて帰った

近くの灯りは遠くの灯りを追い越していく

後方へ後方へと
カコ
、イマ
、、ミライ

小さな窓をすごいスピードで流れていった


2008/06/01 01:37
『イカロスの墜落』

われわれは空を見ない/
ただ残像だけがある/
ラジオ…イカロスの墜落/
単性生殖から自己増殖の海へと突き落とされた/
この一枚の絵を描いたパブロ・ピカソが/
何を描いたのか?/
オマエの生きた地の空から/
地上絵をして闘いきったのだ/

  \/
  \∨/
   ゙

2008/06/02 22:44
『しゃばふるしゃばふる』
|‖||‖|‖
|‖||‖|
|‖||
 家 家 家
雨やまぬ

あしたの天気は晴れ曇雨もよう?

傘がない
人間さまのご都合だけがどうして
天人(アマト)の心にかないましょうか


先日、座禅に行った
自身の持っているなにがしかの選択迷いを話した

さっきの天気にまつわる話
私たちは天気や季節に合わせて生活をおくる
多大な恩恵も受けている
そんな気持ちであなたの身辺を眺めてみては…

と、説教された


2008/06/08 23:38

『西行法師よ』

俺は庵の酒場に居てる。「宇宙」という語が何処から来たのか?科学用語じゃなくて、インド哲学からだときく

喫茶店のコーヒーを酒場で飲み、こずんでる白いカップにこずんだ黒いわっかを見ている

誰も知らない誰も書かない
産まれたての赤ん坊のような、虹のわっかが
真っ黒いグロい夜空の
スプーン 。/
    ♭
産まれたての赤ん坊のように、生きとし生けるも
みな、みんな、浮き輪


 西行法師の一句
“かざこしのみねに咲く花はいつさかるとちるらん

 ∩
⊂*⊃
 ∪ 

西行が俺の故郷でおとした歌


2008/06/13 19:04
『帰中、初夏候』

 足
  足
 足
  足
 ゛
  ゛
歩く

もう今年もはよから暑いっな
なんで、もっとこう
ゆっくり季節が巡らないかな
みんな歩くの早いしな

横断歩道立ち止まる
信号ぱっぱ変わる時、
見上げたところにお月さん
青空な
南東45゚
にじっとしている
あれはな 止まっていてもあしたには
空をひとまわりしてるから
あっ

また忘れた、宿題本
んもう明日、仕事休め休め

歩くのは俺が遅いっか。
6月半ば
7、8、9、は夏かっろな

金曜日は、なぜかホッとする週末だ
んで決まって
気を抜き
けつまずくんだね
よう注意だね


2008/06/15 00:44
『俺たちが世界を牽引してる。』

みんなと会えた 素晴らしいひとときだった きれいな声を奏でるギター弾きの歌唄いさん (この街で一番と勝手に惚れ込んでいる) 汗臭かったアンコールワット帰りの、同い年ちょい上か?建築士さん 旅行の精密なスケッチに感動した それからこの街の三大美人*の店のオーナーさん、あと、昼はケミカル開発 夜はこの店をきりもりする メガネがとびきりキュートな理系の女の子も オイ!! 組合!と怒鳴りながら肩組んでくる客のじぃさん みんなすっごく自分の生き方に尊敬と誇りを持っている

みんなの肝臓にはついていけないが、この世界は俺たちが引っ張ってるって議論するんだ、彼らと朝まで



2008/06/17 23:56

『月をぞ ながめる
   よすが(縁)にも』

薄らいだ雲間より月影照らす
同じ月を見あげるよすが
待ちわびて
きのうを省み
あしたを省み
ひとよ一日
しいては我が幾百余を省みどれもこれも
痴れごとだ
南向かいの空から正面きってわたしを見下ろす月があった
今から800年の昔かの歌人
西行はこの地で同じ月を見て
決して笑うことなど許されなかっただろう

かくゆう
「美それは人の嘆き」と西行は説く

私は嘆くより
笑うことのように生きてきた、…恐らく

お月さんが笑ってらあ
とは歌わないだろうな


2008/06/18 00:30
『月に吠える しれごとよ』

月に吠える
ことは今はもうない
荻原翔太郎

世にあらぬ嘆き、交わす憤怒、聞きわけのないダダ、(反芸術)ごとのように

私も
同じ月を見ている
映画か
あれもまぁまぁだ

…ようやくまた月が空に輝いてきた

南中のきざしから少しずつ西へとかぶく頃合いだ

早くもこの携帯のバッテリが落ちるのもきがかりだ


今日一日月が沈むまで書き続けたくなってる

なんて暇なやつ
じっと月をみ
焦点を合わすが
輪郭は二重にも三重にも分裂している

おぼろげに
おぼろかな
月ぞ眇スガめる
よすがにも
いまだひとつも
嘆きもみえず


焦点が合わない両眼に網膜を通じ
かすかな朧月をずっと見ている

結構がんばって、歌を作っても
あの月鏡に映し出される「これだ!」
という心境地は西行にしか詠えないだろうな

月がどんなふうに見えたんだろうか?

荻原も中也も月を見て歌っていたかもしれないけれど

あぁ比叡山が見える、愛宕山が見える

この屋上もあとわずかでなくなってしまうな

どこか住む場所を探すべしか

ちゅうか今、何時だ?



2008/06/18 02:04
『いまいつどきか』

地の暦は月の満ち欠けで知った
時計もカレンダーもないから
昔の人たちは私たちよりよっぽど月をありがたく感じていただろう

でも月ばかりでほかの星星にはどうも感心が及ばなかったと聞く…日本では

なぜだろ?
階段を降り
考え中
考え中
(部屋に戻ります画面が
もうそろそろ消えてしまうから)
消えてしまう?

あっ! そうか!!

きっとなんで?っていう発想が、ご法度だったんだろうな
世にきたすもののみを案じながらそれで充分だったんだろう

さあぁ一もう寝る
こんなうつつな夜更かしはあとにたたるし

あぁまた、あしたから
現実問題に直ぐ
終わり




2008/06/19 03:03
『スゲー書いたのにカキコありがとネ』

エモリっちに
全部消えちゃった
また書きなおさな
人はいつから…

僕らが生まれる前の時代から
地球があったから
自転
公転
太陽を一回り
それを生き物一個体が
外部から感じとってた
有機のリズム、生命時計

それから何十億年かたった歴史の履歴を
ただそれを万人がわかるようにつくったのは紀元前、なんとか人
えーっと今調べる
バヒロニアBC17
彼らが星座を作ったんだ
暦は文字に残した、エジプト、インダス、

そんなぁ知りません
本の知識だけの話やし
あなたが生まれた瞬間から秒針が回り始めたよに
ちっちゃい丸なんだ


2008/06/22 13:32

『ゴロはにほへと』

にちようびニチヨウ/ゲーちょっとまてえっ月曜むり/火曜は?もむりかよ
じゃあ水曜もむりっすよネ/だったら木曜日を目標に決めようぜ/えーっ出来んようなんていうな。/じゃもう一度土曜はどうですか?

はい一週間全部無理やりごろあわせ
どーも
いつか月ゴロ合わせ挑戦するぜ
イチガニサンガニチ
シクガカイ
ゴサツキ
ロカ
シチガハチ
サザンガクガツ
ジューイチニガサンガニチ  /"^`



2008/06/09 00:24
『6・く』

日が明けて6月9日
ロック ロック
クロック

緑色のライターを
ボトルネック変わりに
ギターをつま弾く

ハハハ
誰か笑ってくれ
いきれていさむなさんざん休まず
聞こえる音を一瞬間に言葉にする

今マックドナルドダックスフンド
大嫌いなお店で
コーヒーをストローでチュ



2017/01/08 *:**


  ((道の子))

  聞こえぬ声の
  温めた歌から
  声に出ぬ
  ぬくもり
  までも
  寡黙の包帯を巻き
  朝ぼらけ傾く
  刻こくと  
  ゆくり ゆっくり
  人は
  痛みや苦しみは
  移ろいゆき
  カサカサ踊る
  未開のひとりが
  腕をくみ
  道の人になろうと

  生まれるまえから
  死んだそのあとも
  沼地の静けさで
  寒さ暑さに昼に夜にと  
  あくびの顔したわたしは
  口を尖らせて案山子になろうと
  わたしはどこにも近づけない空のした
  わたしはいったいなにをしてあげられる?


  【自註
昨夜コンビニに行くと子どもが真夜中の3時半、ん?どこからか、子どもの泣き声がさっから聞こえる。伊藤園の自販機の薄明かりの下で、両の膝を付けながら、何かに向かって必死にせがんで泣きわめいていた、のが見えた。
その子は四歳と指で言ってくれるが、男の子は靴も履かず、裸足のまま、震えながら、『おうちはどこ?』『名前はなんていうの?』と聞いてもはっきりこたえられない。抱き抱え、その子がなんとなしに指さす方を一緒に歩き、おうちを目指すが、わからない。
もときた道のコンビニに戻りお店のバイトの青年と一緒に、、さすがに困りはて、とりあえず警察を呼び、引きとってもらった。……見つかるといいけどね。………そんなことがありこの詩が出来ました。


        *
       ・.・


公園

  芥もく太

腕時計を見たら午後2時半だった
小さな公園があった
もう秋風は冬風に押されていた

綺麗な滑り台があって
ブランコには小さな子供が母親と遊んでいた

私がブランコに向かうと
母親は慌てて子供をベビーカーに乗せ
過ぎ去って行った

ブランコに乗って漕いだら
椅子が低くて膝が土に擦りそうになり
私は思わすブランコを止めた

少し離れてベンチがあった
そこにはまるでホームレスのような老人が
鳩に餌をあげていて

こちらを見て前歯が一つ欠けている口を開き
優しそうに笑っていた
老人は公園に溶け込んでいた

不思議な感覚だった
幼い頃の私には公園は無限大の広さで
溶け込んでいたはずだ

今の大人になった私には灰色の都会の喧騒の中
公園は異様な空間に感じた

腕時計を見たら午後3時5分前だった
私はブランコから立ち上がり

公園は吹く風の季節を追いやるだけでなく
人間の刻む時間も追いやるのかと思い

公園の存在を心に問いながら
仕切りの役目をしている白い壁の向こうにある
待ち合わせの場所に歩いて行った


シノニム

  アルフ・O


  どうして思春期なんかあって
  恋なんか知って
  性なんか知っていくんだろう
    ーーー小野塚カホリ『NICO SAYS』

逢魔が時を過ぎてなお
すぐ下の階の部屋で
顔のない占術師は
香を焚き続けている
数日前に拾った黒猫は
それにつられてまた
目を覚まさないでいる
自分は、といえば
あまり意味を望めないまま
ノートをヘアピンで纏め
そのままくずかごに放り込む
見慣れた爪の噛み跡
「作業中は音楽聴かないんですか、
(……歌詞があると、気が散るから。)
(でもそれすら口に出せないんだ、
(帰ってきてしまうから、
(幾重にも縫い合わせた
 つぎはぎのシェルターの裾が
 そこから破けるように
でも他に何をするわけでもなくて
何かできるわけでもなくて
「あたしらどうせ捨てられるんなら
 「死んで生まれたほうが
  「よかったかもしれないね
と、結局フラッシュバックする別れ際の言葉
(歌い続けてるんでしょうね、
 貴女は今も
煙と一緒に無理やりのみこむ、
長らく錆びたままの
ムスタング
の弦、の向こう
、で
潜り込む
背中
触れる
忘れる
掴む
壊す
もう音なんて要らない
混ざる香りと
呆れるほど似た顔と声の所為にして
「呪いに加担させるんですね、そうやって、
皮肉ごと海に沈めるように
柔く口を閉ざす
触れる/触れないは漸近線の如く
分布の如く
似ても似つかぬ身体は縫い上げられることもない
意思のないシーリングファンに
魔法は少しずつ解けてゆく
いっそ泳げと
抗うのも無視して


銀河

  atsuchan69

誰の手にも負えない
お前たち自身の肌寒さが
漏れ吐く息の、
ごくまぢかに訪れて

今日もくたくたのダンボールと引換えに
すべてを燃やし、一日が終わる

小賢しい、
世の、
いっさいを棄てた
なれの果て

それでも此処には
ガラス瓶の底の数滴の酒と
人と人とを罵る、
災いだらけの口がある

赦しがたい、
夜の沈黙の所為で
お前たちは今夜、
この場所に眠るのだ

高架ごしに覗いた
かがやく星々を仰いで
――おやすみ、
‥‥銀河。

立去るぼくの声も白いよ


夕暮れ

  本田憲嵩

夕暮れどき
一日の仕事を終え
石段を弾むようにかけおりて
家路へと急ぐ、うしろ髪を簡素にたばねた初老の少女
時刻を告げるためのモノラルのスピーカーが
懐かしい音楽の一節で
夕暮れのあたり一面をよりいっそう強く燃えたたせる
太陽は沈みながらも赤く膨張する
それはまるで、これからおとずれる夜に向けて人々の胸に
火を灯すために

だれもいない小径
注がれる赤い陽だまり
そこにいる筈だった
つないだ手と手、
視線はときおり
黄色い蝶のように移ろって、
きゅっ、と
そのやわらかな手をつかみ取った
太陽は沈みながらもさらに赤く膨張する
はげしさに、かがやく、それは命だろう


異次元

  イロキセイゴ

席に包帯がぐるぐる巻きにされ
ルーゲーリッグが動けなくなる
何時からだろうか
鉄の馬だけが走って居る
ルーだけでは無くて
俺だって風呂でバーキングな気分を
味わって居る
追う追う追うと
松方弘樹は死んでしまった
ちきちきちきと
あなたはあなたの秘密を守れますかと
問いかけられているような気がする
龍の立派な天井画が鳴いて居た
共鳴する激しい龍は
拍子が打たれて共鳴して居る
遂に我々四人衆は「さや」に来たのだ
席の包帯などに惑っている場合では無い
ルーゲーリッグも救い出そうと思う
やたら歯の中から鉱物が出るのも
得心が行くような鮮やかな
解決の図が我ら四人衆から案出されると思うが
それはまた異次元の話のような気がする

文学極道

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