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he

選出作品 (投稿日時順 / 全12作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


キッチン

  he

玉葱を輪切りにする
右から左へと赤や青のコピーが流れていく
何不自由も無く遊ぶ子どもの声に
輪転機が嫌な音を出して絡み付く
かき氷にかけたドレッシングは活き活きとした
桟のベッドで眠る虻
によく似た虫の死骸が此方を見ている
野良猫がそれを連れて帰った
台所の温度が少し下がった
玉葱が輪切りに為った
それは玉葱ではなくなって
笑わない子供に為った
砂をかき集めるようにして
飛散した靴をまな板の中央に引き戻す
立体感の無い包丁が指から離れない
何時の間にか竿竹のアナウンスが聴覚を占拠する
みみの螺旋階段を上ったり下りたり
まるで孤独な高校生みたいだった
チョコチップクッキーが懐かしい
想い出はそれだけあれば十分埋まった
環のような想い出をくしゃくしゃにみじん切りする
手が痛くなってから我に返った
まな板は玉葱の体液であふれた
まな板は玉葱の痙攣であふれた
目は何度となく刺激される
次の玉葱を冷蔵庫から取り出して
まな板はキッチンペーパーで軽く拭いた
包丁は
少し緊張する
指を切りそうになる
指を切ってもいいやと思う
指を切ってはいけないと思う
親指は大切だ
からではなくて
玉葱のドレスに見惚れていた
何かみとれていた。


  he

ヒカルは元来人間を疎ましく考える
人間の生み落とす独特の
うるさくてたまらない
優越や劣等や、未来をだ
安価なアルコールと混ぜて合わせて常々ヒカルは
飲み干してやろう、と、口実を浮遊させている
無論 独りで持つ風船だ

それは何かただの別に何ともないと決め付けて
ただきっとそのうち待っていれば向こうから遣って来るヒカルは
人間と証明されるが嫌いだ
河馬は猿のことを河馬だとは思わない
蝶は羊の事は蝶だとは認めない
だから、っ、て
河馬は河馬であることを、蝶は蝶でしかないことを
軽軽しく、追い払ったことがあったろうか?

それはないな、レッテル 空っぽのまま ばら撒くんだ

ヒカルは頃合を見計らってヒカル自身を人間であると
当たり前におもう
人格が回転したから
足りない言葉を産み落とせずにあいつのようにのた打ち回る
自分の証明をしたがる
それは歪んで弾んでいるから
それは自由だから
それはヒカリの抜け殻だから
そればかりの妄想だから

ヒカルはワニかも知れないのに
ヒカルは飛行機かもしれないのに
ヒカルはもっともっと
凄く動く美しいものかも知れないのに


ただヒカルは今ただ何ともないと決め付けて

ヒカルであることに逃げをうっている

ヒカルは生きている
ヒカルは性質の悪い風邪をひきやすい
ヒカルは食べている
ヒカリに近づきたい
ヒカルは所詮、ヒカリにはなれない
ヒカルは全力で、ヒカリにはなれないのである。


Q

  he


罪悪感は階段を駆け上る
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだと言う
FMからは知らない国の民謡が
枕元からは虚ろな正気が
連なった屋台の香りのように流れている
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだ
と言った

数珠のような夜だ
音も無く降りしきる黒いシャワーのなかでは
浅く照り返す窓に焼き付いた僕の怪物が
火傷することを畏怖する前に
生と言う概念はパントマイムに思えて仕方がない
見惚れるほどの深爪で
名を棄てた粒子を掻きこむようにして
木目調の壁に指先が触れたとたんに
時間の許す限り何十万本ものかみの毛が
窪んだ僕のうなじを迂回して
電燈を丸ごと一つ飲み込むようにして

深く


突き刺さっているのだ



弟は悪戯を浮かべていた
懐かしいあしもとを握り締め
夜が敷き詰められた部屋の片隅で
見えない壁を汚れた爪で押し返している
取れかかった肩をそっと叩けば
音の無い煩さに呼吸音が鋭さを増した
眠りのさなか布団を掛け直しただけなのに
斜めに傾く柱時計に矛盾の安らぎを感じてしまった
無造作に繋がれた時間帯を
蜂の巣のように淡々と生きている
毎夜うなされる夢を繰り返し
夜の残り香が部屋をさらいに来る
同じ時間、同じ日
汚れた汗を体に許す


ぬぐっても拭ってもそれは、




僕は誰もいない時間を見計らい
僕は水を飲みに階段をそっと駆け下りる。


とれちあ

  he

本を読む
目が文字を耕す
センテンス
雑草は生える
何度も読む

居場所はない
澄んだ空にも
病んだ雨にも
居場所はない
海岸線を飲み込んだまま
境界の糸に
ぶらさがったまま

トレチア
トレチア
に首根っこを掴まれる
夜の川だ
落とされてしまえば
拾う木のようなイエロウ
ハッとする、細身の悪魔

プロペラは
夜の巣を見た

月がふたつ
明日には4つになる
今日をしぼり
明日のたしにする
洗濯をして
性器を洗う
煙草も吸う

等間隔に転がる傘の柄
が、金魚の砂の上、に
暗い色の整列

さめた性器が硬直する

死んだ輪郭を撫で付ける
止まない痙攣のまま地面を蹴った
逃げないように縫い付ける
トレチア
蹴るトレチアだ
トレチアは服の中に手を突っ込む
かみのけのなまえをすばやくゆい
足の裏側を舐める
何も見ていない
瞬きより上下するはやく頭
で描くのは
鮮明過ぎた四角い視界

インタホンが鳴るまで
ピアノみたいな声がビロビロ散って
蟷螂は握り潰され
静かになくなる
止まない痙攣のまま体を蹴って
無口に入れる舌を
いやぁな、ながさ、を

壁を/血の付いた/叩き続ける
木目/意識/薄れ
柄の無い傘を差していた
ビスケットの割れ目

本を読む
目は文字を耕す
雑草が生える
繰り返す
         
金魚の尻尾を千切り 



     の
             た
      炭
 十      酸水     、
架字 十        浸
 架           け   
           
            に
                ひ。


ガム味のスピカ

  he

みんなみんなふらふらなんです
ぬるい希望を飲み干して
ただいまぷらぷら中とやらなんです
刺す様な痛みとか
去るような友達とかは
もう全く要らないのです
嘘や傷口で塗り固めた小屋へ移り住み
架空の小人と大きなブランコで
雨上がりの西の病んだ空には
やばいくらいに奇麗な虹が掛かります
たまに思うんだ 

「ここはどこだ?」

クラゲなんか浮いているから困るんです
もう、早く居場所へ帰っておくれ
根拠のない慰めは止めてくれ
どうせ一生息苦しいさ
上の空 
心は一生息苦しいのさ
ほらスピカ、乙女座のアルファ星
今は見えない、まるで意味がない
ガムと一緒、味がなくなってきて・・・

なくなってきて

ほらこっちきて、抱擁してあげる
長い靴がマイクを持って唄いだす
晴天では洗濯物は乾かない
まるで精神グラデーションみたい
この身体は口を開ける度に色を変え
軽蔑した
もう全く要らないのです

さようなら


ふらふらさん
ぷらぷらさん。


既望

  he

こぼれていく 脚と 脚と 脚と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
静かな浅瀬から清まっていく盲目の白波
肥大したプランクトンが自己から逃避する
青ざめに
僕は海の水で顔を洗う
日課となりつつある

写真のような太陽を翼の
葉脈に挿し込んだ神々しい海鳥たち
澄んだ啄ばみの音がする
速くない潮の流れが心地好い
真夜中
採って来た団栗の切っ先に
変色した靴と帽子を引っ掛けて蹴伸びをする
漂着した作業着が僕の爪先と
親しげに会話をする
空っぽの頭が寂しさに耽り髪を切った

作業着に身を包むと懐かしい香りがした
作業をした
月が落とした種を拾って
一定の間隔で植え付けた
隣り合わないようにした
たまに口の中に入れてみる
舌で転がすと
清しい酸味が口中に広がって
手のしんがじんじんと痺れた
時間が経つと
作業着が汗で臭う

陸地
この座標は
黒漆で光跡で
考える暇もなく水である
思考を止めた
空気に焦げつきながら雪崩れ込む僕は
そして、どこへでも行ける
赤く色づいた女が
僕の傍らへ歩み寄って来る
 (ては  ) 
       (ては    )
そのまま死なせてあげたかったのに
彼女の眼を見なかった
渦巻き色の気流の壁が
同じ場所に永遠と繋がれる

僕は海の水で顔を洗う
剥き出しの月光はぎいと動く
冷たい静寂はしんしんと
横たわる顔面を白紙によごした
背中の肉を啄ばむ海鳥たち
発狂する赤く色づいた女と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
 
       脚と、 
       脚と、
       脚と、
       こぼれていけ
ここは拉げた陸地


ナルコレプシー

  he

(壱)

テレビは
いつも中に
ざあざあ雨を降らせて
せんせいの
少し薄くなった頭を
観葉植物が
そっと葉を差し伸べて
隠します
水のみ場の
つぼんだ
蛇口をひねり
ながら
すきっぷで
一周した先の
体育館では
バスケットシューズの声が
しんとした空間で
ひとり
思い出したように
甦り
ながあい授業の
終わりを告げる
黄色いチャイムを
学生達が
待ち侘びる音は
氷のように
すきとおっていて
静かです


(弐)

幽霊と虹が
理科室の黒い机の下
とぎすまされていて
四時限目の抽象
あざわらうかのように
水はこんこんと
みがかれた床を流れ
ていて
じんたいもけいに
見送られたその
あと
今日をまたげずに
出席簿の黒
まるの
中に吸い込まれていった
もしも、まだ
あしの
サンダルの
小さく
縁取られた
なまえが
舟を漕ぐ
眠りそうに
なっている
ああ、なんか 
もう
どうでもよくなってきたので
歌います。


(sister)

  he

そらで
ほしをきって
くびはひかってた

すいどうかんのなかに
しぬほどうつくしいへびがつながれている
けもの、の。
におい
うみにしおをまいたとき
ふたござのゆめはあわになってゆっくりとしみわたった

たべのこしのはちみつはなめた
おちているリボンをむすんだ


(sister)

こうもりは下着すがたでうろうろ
わたしはなにに似ている
んだろう
シェルターのしたとけたくつひも
でもすこしかしこくなってバスはいってしまった。

いまでもほどうとよべるよんでもいい
もののなかのわれめ
きげんぎれのかえるが、みえた
とんだ


しんだもの
いきているもの
どちらでもないマーブルっぽいもの
歩道橋の電柱にかぶさったかいものかご 
うちのめされたこくとうのけつえきがた
カスティアーノ、のゆめをみた
レ』からはじまるこのしゃつは(くさい
いき、ぎれ
いきていたときはかいものかご

たそがれ

 だったばしょ
  たそがれ
   
   であったばしょ(カスティアーノのゆめ

   ひるますぎのへいめんずに(せかい

   ひるますぎのへいめんずに(せかい 応用的

   ひるますぎのへいめんずに(せかい 応用的に へびのにおい)

          折れ曲がった、
    標識に、
                従わないと言う義務、

でもすこしかしこくなってバスはいってしまった。

みずのないかわにとびこむひみつ
みどりいろの、
しのびよるものがせん
だったなら、どうしようもない
せんがからだにこうをうった

  うずくまるカスティアーノというぎむ
                というぎむはへいめんにうずくまる
  カスティアーノはうずくまる(というぎむは)
              かれでありかのじょであり、およぐ
             へいめんを。うみの。
                       ショウジョウバエ 
 いっぴきもいない
 かわきすぎたくち もとのひび 
 だったばしょ だったこと 
 であったもの であったばしょ 

  うむという
           (げんかい
  そだたねば  
            )ほねに

シェルターのしたとけたくつひも
カスティアーノのむすべないゆめ

ちきゅうじんはきをてらっている
  こんなはいきょにこびをうっては
  林のほうにかけていく足をまちぶせる、
    しがいせん(をのみこんだ
    わたしはい(ってくる
      哀しい目盛がいちずつ
       ふえた

はっぽうしたり、きたないことばを
 きたないからだで密着させようとせかいする
  ただちに(かれらがのみこもう
 よくの(」して、いるしょくりょう
  ただちに(ぶたのつまさきを
    よくの(」ほしであったかわで

    うたう(われる)

いき、ぎれ(いきづくよ)

  つんざく。じゅうりょうで。くうふくで。あか
  い。/かくりされたへいめん/ひと/であった)
  もの。//であったばしょ。レ』//からはじまっ
  た。まさぐられたひふ。けいしき。ようふく)
  のほつれめにつっこんで×××××××××
  きづくよ
  うに、」」ぜんぶしくまれていたこと

くうきにとぐろをまくへび
すいどうかんにつながれたひみつをみつけ

    まぼろしがはじまる
 そのさかいとして


 (sister)      
灰と、
      (sister)
   肉と、
          (sister)

  よこくもなしにきられたほしのくびが

らあああん、っと
ひかって(  おやすみ 
sister,)とうみんからさめて
と言った


  he

ビルを真横に倒してみたいし
燃えないごみとして集配場に置き去りにされたい
トーストに出発を垂らすと蜜雨が降って
その瞬間は世界は木製の瞬き
に変わるから僕は便所で本を読む
押し寄せる人の川で制服を着たまま泳ぐ 
ハニートーストを半分に折ればひとさし指が
汚れること以外を
三十九度五分の熱が出て声だけが
光が

包丁で切られたような僕は「あっ」とか「いっ」とか
言葉を君を地べたにそう並べている見ている
虫眼鏡を片手に行き先を四等分したのにこういう
時に限って鼻血を拭く用のティッシュをきらした
黙っていれば僕もいつかあんな風に
なってしまうんだろうか?呆れるほど青

朝日や読売や業界や
新聞を集めてくしょくしょにする
この国のことをちょっと思って直ぐに破いて燃やしたら
遠くで蟻がスキップをして僕も嬉しくなって
もと来た道をひきかえし。始める。
じりじり。
に薄くなったサンダルを燃やして。
ぼう。青く歩いて来る青い人が青白いぼう。
ひとが燃えてぼう。波をぼう。ルイセン。
ぼうっ。錆びた自転車の鍵。ぼうっ。
洗面所をビー玉で埋め尽くしているのに。ぼう。
くるま。ぼうっ。くるま。ぼうっ。スポーツカー。ぼうっ。ぼう。
ぼうっ。ハレーションを。ぼうっ。燃えるごみ。
ぼうっ。燃えない。ごみ。ぼう。
雨の日に拾った子犬の気配が気管を伝って心の奥に入ってく。
ぼうっ。僕。人種。ぼうっ。
楽しくなって
何か特別ないちにちになりそうな
薄い膜の内側から眺められているような
変な人に見られた

蛍さん
陽炎さん蟷螂さん
死ぬ牛さん
豚のような太陽と理想
意味を成さないアドリブ
ビロードのフリル
潜れない醜態
鈍い感覚をこわい
蟻さんこんにちは
ぞうさんこんにちは
チーターさん
茶封筒さん
時間と
時間の継ぎ目
影の人は
影の人に、ぼうっ
行き難い死に難い第二の希望
青い人。青くて赤くて紫の人
背中が太った人は臭い人
心が太った人。なめくじの恥ずかしさ
変わってしまうものをこわいと思った
何してんだろう。髪の毛を切った。
タクシーの朝、待っている
送り出されるごみ。なまごみ。光り。
燃えないごみ。資源ごみ。毎日、そして日常
満員電車に乗ったらみんな死んでいた

そんな夢を見たよ忘れたくなかった


磨かれた合奏

  he

角が生えた
僕は髪のない少女の爪を
食べる
少女はひとつの裸足
沈黙は溺れる船の鉛の錨
乾音が寝静まった気配に傷痕を信じた

磨かれた合奏のように
塞げない清らかさが
少女は水面に映る顔を
見ようとはしない
傷ついた水を
同じ仕草で
織り交ぜ続ける

月はバラ線
赤くなった
少女は
指、

まだ見えなくていい
ずっと先に延ばしていた
少女はひとつの物語
僕の角は欲した
それなのに少女の爪を
唾液で溶けしんだ指先を翳して
睡蓮のこわばりのように
少女はすっと前を睨む
夜光虫は色とりどりの夢を見る
僕の角は欲されている
動物の皮のように滑らかな
それは
悠然と宇宙を見つめている
その先にある終わりを
少女の指は綺麗だったのに
僕の角は始まりに
踏み入れる
進化でいいと思う
取り戻しているのだ
肩の高さまで両腕を持っていき
ずいとふり下ろした時のことを
音が沈む速さで辺りは永遠と化し
僕と少女しかいないことを
まるで誓うかように
踵にへばりついた泥を切った

少女は老化しない
美しい知らせを受け
髪の毛の全てが抜け落ちたけど
僕が少女の横顔を眺めている間
腹の中では狂おしく少女の爪がシュッ
シュッと半円を描いている

たまらなく
少女は薄いほっぺたを膨らまし
僕の角を落ち着いた動作で取り払い
赤い月はまじまじと鬩ぎ合う
ゆっくりと僕の内部に踏み入れる
陰影を啜る音
赤い月から伸びた赤い棘を背に受け
そして僕は少女の透明な髪を見た
バラ線が包囲しているのだ
頭へと水が急速な高鳴りで流れ込み
少女には無音の靴が訪れる
僕と少女とか細い腕は
続かないと続いていく少女
振りほどくこともない
角も少女も超越する
思慕は見る間に融解し
推古するように

再現された指が何本もちらつき始める
少女の映像が脳水と触れ合う
はかれない距離感が
やっと爆発する
そして傷ついた水を織り交ぜ続けるに等しい無音

楕円形の口内に
宇宙がとじこめられ
水滴は最後まで事理も許さずに滴り落ちた
黙ってバラ線に透きとおるよう
横たわる愚か

顔は
浮んでいる
ほうぼうに顔が浮んでいる
余白


いつか小さくなる

  he

とても思う とても思う
左腕が痺れる 電気クラゲ
電灯が消える 伝統で補える
それはそうと、お昼に食べたクッキー
はおいしかった、もう二度とおいしかった。

一人で喋ってると周りの空気が震えている
解ったけれど、でも何にも無くて
財布を叩いても行き場所は見つからない
擬人法に例えるのも乏しく
針葉樹林が空を突き刺す準備をしているその脇で
磨かれた乱数
いつか小さくなる君と、とても痛いけれどビリビリと恋に落ちてしまう
それは決まりごとには届かない 
傘を捜している
消去したシステムや
消毒されたシンメトリーや
どこかに転がってやしないかと
不釣合いさ 非常に

それでも
水道水を入れた発光する水槽で電気クラゲを飼っている
ブラックライトなんて完備してない
照らしたってきっと視やしないだろう
水はレベルの高い艶を保ってる
過ちが それでも 
過ちが
発光がのた打ち回っているから解かる
何となくです

どんな餌を食べるのか分からないからそのうち引っ越します。
クラゲはこの際そのうち引っ越します。
もっと居心地のいい適当さを
別によくある過ちじゃなかった
大きな声では、心まで奪えない
あのビリビリが不愉快だったんだ
だったんだ。

ビリビリ、びりびりが


まぼろし。

  he

根本さんは無口だ
機械なんじゃないかと思う
昼下がりの頃
バス停に佇む老人のようで
淡々と逆上がりに打ち込む
小学生のようで
何を考えているのか
何も考えていないのか
甘党なのか
その表情からは
何も察する事はできない
例えば水は
ひとところに集まり
大きな粒になろうとする
けれど
根本さんは根本さんのままで
油をまとった水滴のように
最小限の体積で
そこにいる
まだ
触れることもできないくせに
手を引っ込めて
日々を飛び交う事件の中で
ダイオキシンが騒がれて
校内の焼却炉は閉鎖された
窓の外にはムクムクと
青白い煙が透明な酸素を
ひとつ、ひとつ、消していきながら
昇り
不思議そうに見つめる根本さんの瞳に映り
僕の瞳にも
根本さんの瞳の奥が
ゆらゆらと揺れながら

映っている

文学極道

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