人、[幾層を翔]ける向こう岸の、記憶の枝をつぐむ、(鱗の)変わらない、ちる、{のように、美し}い人、あなた、ここにいない言葉、人、のような、あなた、
人、蝋燭<を回り続ける抜>け殻の、りゅ、う、焔硝、森に違う`つぐみ、くちる``、のように、美しい人、あなた、ここ(にいな)い音階、人、のような、あなた、
衛星へ|ぬけるヒナゲシ | の | 花 |、はつ・・み、、つつやかに、下っ<てゆく>、約束のレンズ、く、(する)、岸、の‐ような、あ/なた、ここに、
あった、対/角線上に制/御する、大海が隣(接)に、み、_錆びつく_氷砂糖_、りつ、ぬけてゆく、ぬけてゆく、‐朗読‐者、のような、あなた、
ここ“にない破調、延”命する露地、電柱が把握・する、人、「ずっと、ずっと」、た、たっ__つ、感<受性>、のような、(クル)、叶わぬ<こと>、のような、美しい人、あなた、
"めくれる腕の、痕"跡に【残った】川底に、<りぃ><りぃ><りぃ>、シ音を、たたく、(あ)たらかに、3つ、胡桃がける、裸足、のように、「冷たいね」、と、不拍子に、さく、のような、美しい人、あなた、
黒-み--がかった秒針の、カラミごとに、`あ`ねる、むネ、つ・む、先の、シらまる、ひと|とつに、束を放つ、円すい状の、"洗浄液"に、ふり、{返る}、遅す-ぎた、のような、】美しい、【あなた、
溶『ける腕、目;覚める咲き=かけの、使用感、つらめ、〔つ〕らめ、「紅いよ」、録画(される)、星座野、それ、黄*黒***青]咥えたシステム』、ひ・(・視、くす)、あだしの、のように、美しい、あなた、
ヒシオリ、道__{_標の北極星、求心性の、い"く愛しみ、繚乱して、」、待つ、か、{が声、犠《牲者》(?、[羅針症、アルキさ]える、響き、<ぽし>、<po=e=i>、しみ、ヒいの、のように、美しい、』時と、ヒシに人、あなた。
最新情報
2005年06月分
月間優良作品 (投稿日時順)
- フレーミング・セックス - Nizzzy
- 電線町、夜を戻る - 佐藤yuupopic
- 真昼の月 - 丘 光平
- メモリーズ - キメラ
- 青いジャム - ケムリ
- 祖父はわっかにつかまって - 一条
- マーメイド海岸 - 光冨郁也
- 静物 ― nature morte ― - 丘 光平
- シベリア爺ちゃんと唄のない街 - ケムリ
- 庭の話 - フユナ
- サタデー・ナイト - 軽谷佑子
次点佳作 (投稿日時順)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
フレーミング・セックス
電線町、夜を戻る
夜が、明るいじゃアないカ
灰銀色
一体
ドうした
地下鉄の階段
上ってサ、
おろしタてスニーカー、の
足
止まる
空、
閃ク、
ストロボフラッシュ、
花火と見マごうばかり
ケド
通り、人の気配ナく
稲光
頗る
静か
急キ立てる
感情、
シビレに近い
感情
指先、引きツる
肩震えル
見上ゲる
で、
不意に
気ヅく
「東京には、
イや、
この町には、
膨大に電線が張り巡ラせてアったのダ、普段は見えなかったダケ」
空、閃ク、
の中、
黒々
と
浮かび上ガる、
沈み込む
死にカケた生き物みたク
「ひしめきアう古い住宅のすき間とイうすき間中をうねうねと、入り組み
手を結びアう路地裏の端から端まデ 電柱の数以上に張り巡ラせてアったのダ」
瞬雷、落雷、電線ちギレる、焦げた煙吐く魂のナい身体クねらせる、
蛇みたく ク、巻きツく、焼ケ死なス
妄執ジみたビジョン、降りてキて
さア、
もイちど
指先、
引きツる
空、
が、
閃ク、
無意識に
足
速メる
帰っタら、
アなたがいたらいいナ、
アノ鍵、使ってたらいいナ
でも、
でも、
ソれも
妄執
空気
繰り返シ動いテよどみ
アスファルト、湿っタ匂い
さらに足
速メる
速メる
速メる
アあ、
音もナく、
もうジき雨が降り出しそうダ
真昼の月
八月半ばの
真新しい朝と光と
肉体
その星の決まっていたものは
もう汗をかくことはない
それは過去という名の夜 あるいは
地下の闇 私の位置からする
時と空の喪失であるが
もしかすると
彼の向きからは
こちらがよく見えるのかもしれない
おそらく彼の瞳の白に
境界線が映っている
その境界線に 一本の枯れ木
それはかつて呼吸と感情を持っていたが
その皮膚をむしりとられたものは
ふりむかない
蝉が鳴いている
蝉が鳴いている
蝉と私はどこで別れたのか
蝉の命は
七年と一週間 そのあいだ
私の細胞はまた生まれ変わるという
この生成と腐敗の焦点に
針がある
針一本通さない
夏の膨張をきみは知っているか
それはひとつの声
針千本に焼かれた声
さびしい匂いだ 冬にも等しい
収縮への郷愁にさえ放棄された
声 そこから蝉は
私へ帰ってくる
ただ その声の主にはどこにも
顔がない
小雨が降っていた
小雨が降っていた
雨に浄化された夏空は
子供のようにひどく美しい
骨の焼けるあいだ
私は独り
まだ湿りのある広場で煙草をやっていた
ふと 気がつけば
羽虫がベンチの隣に座っている
その青みの羽と透明の羽とが
触れたり触れなかったりする
汗の息遣いを感じたのか
親子は
羽音の静寂を残し
並木道の明るみの向こうへ消えた
道はどこへ続いているのだろう
私が振り返ると そこに
名も知らぬ緑豊かな樹木の梢
くゆれる白けむりの先にぼんやりと浮かぶ
真昼の月をみた
メモリーズ
白びかり記憶の母胎に孵り
廃絶したお前の空が瞳を覗き込む
空襲に焼け落ちたような是空
一呼吸遅れた廃艦のパヴァーヌは
憂愁を吐き出し
幾つもの波風を舌に絡めた
凍りついたのは
純真を見返しては巡った岐路
乾ききった無防備な皐月は
優しく見知らぬ死の薫りを吹き込む
あの日
解らずにただ泣いていた
振り返らない白い少女の
ワンピースが深緑の幻光に消える
しめやかな囁き
大海に蒼衣と永遠を劃した
可憐爪弾く哀しすぎた埋葬よ
ああ
面影
照らせ
切なる融解を穢れた漣に散らし
赤い日輪の殺戮
崩れ去る瞬間の苛烈な獅子を殺せ
残響に燻られた善心
転生の兆しが六番目の指に繋いだ
柔らかき感触を諭した
メモリー
中空には失跡の影
今も尚
ひかり続けていたわたしの欠片
青いジャム
日曜日の悲しみを1ダッシュ 飲みすぎた錠剤を三つ
パンダが生まれたニュースが一本
オレンジつぶしてカシスを入れたら
飲み干して煮詰めよう 青いジャムの作り方
校庭の隅っこに埋められた悪魔が
林檎の芯を探す朝もや 柴犬の尻尾の気持ち
安息日にはためく洗濯物
洗礼名を思い出したら きっと幸せになれるよ
風を受けて水面が嘘をついた
金魚鉢の焦点で人食い花が育っていく
絵が描けたらって思う みんな上手くいく気がしてる
青いジャム 世界に塗って甘く齧るよ
水面は柔らかい冷たさで煮えていく
脱線する列車や飛んでいく銃弾のリズムで
丘の上では賛美歌が鳴り響いてる
出来ればバスケットケースが欲しいんだ
ねえ 僕はジャムを煮るよ
神様と仲直り出来る気がしたから
ねえ 君はパンを焼いてくれないか
青い世界はきっと甘いんじゃないかと思う
パンクした自転車と履きつぶしたバスケットシューズ
灰皿のマリファナ 懺悔室に格子模様の朝日が落ちてる
ベースラインが平和公園から聞こえるよ
青いジャムを煮詰めよう 神様と仲直り
みんなそこにいるんだろう
午後のお茶の会に間に合わせよう
洗礼名を思い出せたらいいんだけれど
思い出せなくてもいいんじゃないかな みんな幸せだから
青いジャムを煮詰めよう シュガーは多めがいいってみんな言うんだ
バスケットケースに何を詰めよう
きっと明日手に入るってみんな言うんだ
青いジャムを煮詰めよう みんな幸せだから みんな幸せだから
祖父はわっかにつかまって
さっきから父は猫を裏返している。母の土鍋が猫を煮込んでいる。さあ、召し上がれと寝込んでいる僕を起こし、母は玄関から勢いよく駆け出していった。父は庭で猫を焼き、テレビのチャンネルが低速転回している。おい、猫が焼けたぞと祖父が九畳の和室で悶々。落語は中断され、積み上げられた座布団の上で母は若い男性にもてあそばれている。おや、いつの間にと猫がニャンとも媚びた声を上げ、父はいよいよ白と黒の段だら縞になってしまった。ところが、母はすっかり丸裸になってしまい、猫は焼け、青白い煙がいくつものわっかになった。父はわっかに見惚れ、祖父は巨大なわっかにつかまり飛んでった。僕はこれ以上の足掻きを断念し、翌年の誕生日に欲しい物を紙に書き下駄箱に隠した。また来て頂戴と母は若い男性を見送り、さあさあ、ご飯にしましょうと裸の上にエプロンをつけ、台所で鼻歌を歌っている。包丁が猫を刻み、土鍋が猫を煮込んだ。おれの猫を知らんかと父が一人で騒いでいる。あっはんとチャイムが鳴り、母は勢いよく玄関に向かった。押し売りの訪問はもう懲り懲りだと独白している祖父にわっかの欠けらも見当たらない。母の手に紙が。あら、つたない字ねと猫料理を食卓に並べながら母は僕をちらと見る。僕はやけくそになり、煮えたぎる猫料理を口の中に放り込んだ。一体紙には何て書いてあるんだと父が新しい猫を裏返しながら騒いでいる。祖父はテレビの映りを調整していた。もう裏返す猫がなくなったぞと父が喚き散らしているが、僕たちには裏返すべき猫なんて最初からなかった。おい、もっと巨大なわっかを持って来いと祖父が地団駄を踏んだ。ついに母は僕のつたない字を読み上げた。あら、犬が欲しかったのねと母、なんだ、おまえ犬ころが欲しいのかと父、そして、一体どうニャっちゃうんだと言わんばかりに猫が咽び鳴いている。あれ、おじいちゃんはどこ行っちゃったのと僕が口にした時、祖父はわっかにつかまり空を。
マーメイド海岸
冬は好きではない。失業してから外出が減った。TVを見るか寝ているかだけで、二ヶ月が過ぎた。TVでマーメイド海岸のCMを何度も見る。海面から顔を出し泳ぐマーメイドの姿。面接や職安にも出かけるが、就職先はなかった。フォークリフトの免許は取ったが、作業が不得手で資格を使う気になれなかった。わたしにできることは何もない気がした。
朝、またTVのCMを見た。海岸からTVカメラに映ったマーメイドの笑顔。信じられなかった。昼近く、部屋を抜け出し、バスに乗る。乗客は少ない。買ったばかりのジャケットを着て、北の海岸線に向かう。他に着ていく機会がなかった。伝説によれば、そこにマーメイドがいる。観光地になっている。寝すぎて頭にかすみがかかったよう。窓に頭を預け、外を眺めていた。空は曇っている。軽い偏頭痛がする。口の中が渇く。
一時間近くバスに乗っていた。マーメイド海岸のバス停で降りる。冬の平日なので、ひとがまばらだった。白っぽい道を歩く。掲示板から観光案内のパンフレットを手に取り、海岸に向かう。カラー刷りのパンフレットの薄い紙。
<マーメイド(女)は人魚の一種で、海に生息しています。髪は長く金色で、瞳は緑色です。伝説では海難事故を起こすと恐れられていました。マーマン(男)と一緒に現れることもあります>
マーマンも髪が長いのだろうか。マーメイドがいるわけがない。いくつかの閉ざされた売店。
オフシーズンの海岸を歩く。黒っぽい岩をつかむ。白い波が岩に打ち付けられる。わたしはバランスをとりながら、海岸でマーメイドを探す。あたりには誰もいない。波しぶきが上がった。顔にかかる。手でぬぐう。ジーパンが波で濡れてしまった。冷たい潮風に凍える。息がわずかに白い。いるわけがない、そう思いながら海を見た。
突然、遠く波間で、何かが耀いた。
(あれは何だろう)
よく見ると、波に金色の髪が見える。やがて光は消え、海面に尾ひれが上がる。紺色の海がうねる。マーメイドは本当にいるのかも知れない。波が押し寄せる。海岸を歩いた。濡れたジーパンをひきずり、少しでも近づこうとする。
波打つ海に、また金色の髪が見え隠れする。海から風が吹き付ける。遠く稲光がして、雷が鳴った。
わたしは立ちつくしていた。しばらくして、風がやんだ。波の音も消えるころ、金色の髪に雪が降り始める。
静物 ― nature morte ―
たとえば
六月の深夜の片隅
大皿に横たわる果実の類
あざやかな
月光に磨きをかけられて
彼らはつぎつぎと覚醒する
それぞれ互いに
噛みつき足りないのか
新たな交配に燃えつきるか
飼い放たれた歌声は
惜しみなく部屋中を駆け巡る
ただ
部屋の黒い中枢で
さようならは一糸乱れず
無造作に
壁の磔となっていた
白いブラウスの袖がすこし
焦げている
シベリア爺ちゃんと唄のない街
この街は真っ白な壁に覆われている
街からの出口は北と南に一つずつ そこから人々は影踏みして去っていく
残るのは長い兵役に疲れた彼らと
ざらつく味のスープに慣れた僕らだけ
今日も爺ちゃんはチェスをする 僕のナイトはルークに阻まれる
「もうじき春が来る」彼は僕が生まれた時からそう言っていた
時々爺ちゃんは不思議な喋りかたをする
揺れるような音 伸びたり縮んだりする しわがれた唇
真っ白な壁は日に日に近づいてくる
年寄りはみんなポケットにピストルを入れている
それはずっと撫でられていて 角が綺麗になくなって
砂浜に流れ着いた硝子の欠片みたいに見える
「あそこはここよりずっと寒かった。私はね、塩ジャケが倉庫にあると聞いて…」
この話は何度目か 僕は七つの時にそれを数えることを止めた
「ジャガイモはな。幾ら腹が減っていても塩が無いと食えないんだよ…どうしてもね」
僕はナイトを進める それを見つめるまっ白い象みたいな眼差し
爺ちゃん 僕は言う
「もうじき春が来る」爺ちゃんは答える
そして爺ちゃんの口からは不思議な言葉が漏れる
伸びたり 縮んだり 上がったり 下がったり
爺ちゃんはピストルを撫でる
つるつるして 真っ黒で 柔らかく光るピストル
それは長い間に角がすっかり落ちて もうピストルとはあんまり呼びたくない
みんなのポケットにある不思議な重さ
「キンキンに冷えたピストルは指にくっつくんだ。剥がすと肉まで取れちまうんだよ…」
爺ちゃんはそうやって僕に指先を見せる 分厚い古樹の皮みたいな指先
「手袋だけは大事にするんだよ 私が教えてやれるのはそれだけだ」
爺ちゃんは眼鏡を外して 少しだけ目を細めた
だから 爺ちゃんが死んだ時 年寄りたちはみんな空にピストルを掲げて
僕は降りしきる雪の中 手袋をつけた手を空に掲げてた
街からはその日もたくさんの人々が去っていった
そして僕の口からも不思議な言葉が流れ出す
「もうじき春が来る」
誰かが言った その声は伸びたり 縮んだり 大きくなったり 小さくなったり
人々は何も言わずに 振り返らず街から去っていく
振る舞いの茹でたじゃがいも 年寄りたちは塩をつけて齧った
不思議な声はこだまし続けた
いつか ピストルはポケットの中で消えて行くんだろう
ざらつくスープと甘みの無い街
不思議な声はずっと消えなかった そして壁はいつか僕らを消してしまうんだろう
もうじき春が来る
庭の話
何年も
荒れはてていた庭に
野菜の苗が植えられ
植木鉢の
マリーゴールドが置かれた
母と父が水をまいて
コンクリのように
馬車道のように押し固まった土を
いくぶんか、柔らかくさせた
網戸越しに見ていると
それはまだ
スクリーンの薄もやの むこう
上の木々にはまだ混沌が満ちており
小さな弟はまだ
その蜃気楼に気付いてはいまい
どこも悪くなくなった
私と小さな弟は
今度は どこも悪くないことに
冒されまいとも思っている
上の木々にはまだ混沌が満ちており
下には枝豆とミニトマトとマリーゴールド
そして網戸の隙間を
通り抜けてくる 夏の臭気と水音
まだ何も網戸を越してこない
初夏を
私も小さな弟も
もてあまして
祈っている
サタデー・ナイト
オフィス通りの半ば
南町のバス停留所で
カーキ色のミリタリー・パンツをくるぶしに下げ
乳首を剥きだした若い男が
いっしんふらんに握りしめて
しごいている
時刻表の右側に立っているので
蛍光灯の光はかれを
おびやかさない
暗がりに沈んだ肌のりんかくが
あたりの風景を切り離し続ける
わたしはかれを見ているがかれはわたしを見ない
その連続の運動に没頭する
なめらかな手
こぼれた精液をぎゅっと
踏みしめわたしはうっかり
避妊しそこねてはらんだ気分になる
夜はまだ更けない
靴をぬいで自転車のペダルを
踏みこんで
いく
スピリット
西日の丘でハッシシを吸いながらライオンは燃え尽きた
スピリットは蒸留されて煙と一緒に滑空する
コヨーテは眠る ペヨーテ・ボタンを齧るように
煙草をくれ 赤い目をした怪物のために
嘘をつくみたいに手を繋いだら
魂は蒸留されていく 徴税人の唇に触れる前に
夜は煮詰められていく 色は失われていく
ぐるぐる回る南京錠をかけられた世界
マリファナを吸う彼女は十七歳で
窓からは年月が流れ出していく そして僕らは眠る
十億年前の泥土のように 僕らは眠る
魂は気化していく
たてがみが崩れ落ちた そしたら扉は開いた
僕らは夜の終わりについて考える
そこには痛みが 夜の痛みが 海月の沈む街がある
神様が助けを求めるなら 僕は洗礼名を捨てよう
千七百五十六階建てのビルから 猿の手は星を掴もうとする
六十七階で老人は腐っていく
屋上で子ども達は手をつないだ
成層圏で凍りついた 届かない手たち
魂は凪いでいく 赤い目の怪物は月に向かって七回吠えた
電気仕掛けの遠吠え防止首輪は彼を八回殺した
猫の尾は鍵の形に折れていて それは今扉の前で千切り取られた
僕は万力に両手を挟んで 五時間かけてねじ山をみんな潰そう
成層圏で友達はみんな凍りついてる
オープンハウスで眠る子ども達みたいに
彼女は眠ってる 発育不良の肋骨を抱え込むみたいに
足の無い鳩は飛び立って行った
北極星の初列風切り羽根が落っこちてきた
夜は窓から歩き去っていく 季節に落ちた吸殻みたいに
まだ言い残したことがあるんだ
でもいいんだ たいしたことじゃなかったんだよ
火の手が東の園から上がるころ
魂は家路につく 一欠けらのパンをポケットに残したまま
魂はまだ淀み始める 格子模様の朝日に断ち切られた弱さ
もしあなたが望むなら また魂は気化していく
めぐりあい
満ち欠け体温に揺らぎ
天辺から途切れる
あなたのような電燈が
バチバチと胸を焦がし
歪んだ季節に羽化しました
明け方の冷たい窓の外で
燐粉を降らせたデッサン
レースから特有の孤光
まるで押し黙りながらも
太陽から生まれた幼子の顔で
切なく通念の銀埃を照らします
思えば随分不埒に生きたものだ
指を掻き毟る
甘い夏の木漏れ日は
イメージより早く溶けあった
二個の若輩
足取り緑の園
ひかりの洪水とめどなく
遙彩が融けた月光
秘密をうちあけながら
眠っていたのでしょうか
面影が香り
真剣な世界に知らせた
あの高鳴りを奪ってほしい
ああ
もう一度
めぐりあい
無理していた
足元に解らせた
失くしてしまった灯りが
力尽き
ふたたび甦る
言葉なんかいらない
あなたを感じたなら
いつでも
僕と麗子
僕らは梯子が欲しかった
やがて起こるだろう戦争に
発狂しないよう
小さな子供を昇らせる
剃刀に
血を走らせながら
三億年の未遂を窓から開け放つ
きまって麗子はバルコニーにいる
水銀のように身体を抱えこみ
頭部まで昇らせる
掌握された共有者が
自殺を従わせる太陽の下
受話器を取り上げながら
死んだ時のために連絡を取るダイヤル
きまってその顔は
初期社会主義体制下の
スターリンのような顔で
まるでムッソリーニに話しかけるように
あどけない緊密な会話を取り交わす
だが誰もがロボットとは違う
官庁オフィスのどの部屋にもかけられている
時代との癒合という鍵を回せば
僕や麗子の中に住まう国家が
ひと独り分のスペースさえも
ないことに気づけただろうに
Q
罪悪感は階段を駆け上る
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだと言う
FMからは知らない国の民謡が
枕元からは虚ろな正気が
連なった屋台の香りのように流れている
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだ
と言った
数珠のような夜だ
音も無く降りしきる黒いシャワーのなかでは
浅く照り返す窓に焼き付いた僕の怪物が
火傷することを畏怖する前に
生と言う概念はパントマイムに思えて仕方がない
見惚れるほどの深爪で
名を棄てた粒子を掻きこむようにして
木目調の壁に指先が触れたとたんに
時間の許す限り何十万本ものかみの毛が
窪んだ僕のうなじを迂回して
電燈を丸ごと一つ飲み込むようにして
深く
、
突き刺さっているのだ
弟は悪戯を浮かべていた
懐かしいあしもとを握り締め
夜が敷き詰められた部屋の片隅で
見えない壁を汚れた爪で押し返している
取れかかった肩をそっと叩けば
音の無い煩さに呼吸音が鋭さを増した
眠りのさなか布団を掛け直しただけなのに
斜めに傾く柱時計に矛盾の安らぎを感じてしまった
無造作に繋がれた時間帯を
蜂の巣のように淡々と生きている
毎夜うなされる夢を繰り返し
夜の残り香が部屋をさらいに来る
同じ時間、同じ日
汚れた汗を体に許す
ぬぐっても拭ってもそれは、
僕は誰もいない時間を見計らい
僕は水を飲みに階段をそっと駆け下りる。
オボロ賛美歌
夕日にさよなら 指先岬
灯台合唱 バラ色オン・オフ
光ナビゲーション付き電子キーボード
花火をしようよ 日曜オン・オフ
十重の細波(さざなみ)
羽化するアゲハ
アンタレス
主よ、人の望みの喜びよ
薄雲スクリーン 照らす映写機
テトラポッド 並ぶ風車
食べかけトマト いつだって子供
虚を衝く流星 いつだって子供
誰かが呼んでる
夢レム・ノンレム
開かれた窓
オボロ賛美歌
坂
坂をあるいた
坂をあるいては休みまたあるいた
途中
名のない大きな木がある
木のなかにおじいさんはいなかった
少年のころ
アカアシクワガタをつかまえた
翌朝
クワガタのなかにいのちはいなかった
なくなるものはいつもそこにあって
見ることは罪になった
見ないのはもっと罪になった
空に正しさをもとめた
天の海はつめたく波と波にあらわれ
白は点々としたたかに
母となる父となる
ああ流れてゆくもの流れてゆかないもの
風と雲と私と
ひとつ ふたつ くしゃみをした
冬のすこし向こうがわ
いつかのおとこの子がいてこちらを向き
かなしそうにわらった
さようならとわらって
坂をあるいた
坂をあるいては休みまたあるいていた
白鳥
複雑に組み重なった、紙芝居のような、
生まれる羽根の、あなた
わたしは言葉で、それに答えなければならない
____「あなたは角笛だった」と、
望むことなく青かった、空
わたしのいない土地で、
地上の樹には靴が掛かっていた
そしてそれは、異邦人の戦略だった
わたしを睨みつける。向こうから、
ノコギリ引きの、空がやってきた
僕らから輪郭を千切りとった、鈍角の
胴体を奪われた、白鳥の群れ
どの空にでも舞う、あなたに届くことのない、起点
僕らはそれを、待っていたはずだった
こうやって、言葉にするまでは
「私の中の双子が歩き出す。雨の中を、寄り添いあって。」
ようやく抜け落ちた、その音素
器の中で混ぜ合わされた、新しい星座
それは結び付けられる。痕跡に添って、
その無尽蔵な、あなたの、
延長されていく、黒い滑走路
異邦人の目指す終着地
樹の下には、あなたが埋まっている
だがそこは田園なのだ、喜ぶべきことに
あの頃。角笛の中で話しあった、裸足のままの、
望むことなくあった、星空、
ようやく抜け落ちた、その言葉、
樹の下で重なり合った、全て
二人して、白鳥のように
花冠(一日を閉じて)
早足でかける双子の、
颯爽を混声する朝陽
疾りあう幾つもの歌、
姉妹、
、律動
遮光、
影向に揃えた爪先が、
次第に削られていく
穏やかな正午の昂揚、
鋼鉄、
、心拍
少女。
夕映えの葬送のため、
すてられた幼い犬と
泣きながら遊ぶ花冠。
ムーンライト
あなたを想いだす
その限りない閉鎖の表情で
おおきく柔らかな時間の傍ら
水桶に冷えた胡瓜のように
あなたはそこに在った
変わり逝く影象に飛び込むシソフレ二―
いのりは膨大に伸縮された
澱む底辺から それは静かに
奏でられることのない不協和音の暗言で
あたたかな呼気にうらはらな唄を刻みつけ
舗道に蒼く結晶した零配管のエレメントが
あなたに星の涯をとどけた
わたしは知っている
あまりにも繊細なモノトーン
鳩時計が告げた独白の中心で
あなたは願った
それは重なり合う世界の外側から
たったいま わたしを突き貫け
幻廊ゆらぎ逝く 永き放物線のさざなみ
くぐり抜け辿りついた 淡い初夏の陽炎
スロウラインに哀しく明滅する夜光虫と
シルフィードの琥珀玉
夢のように消えてしまったわ
もうすこしあるこうか
あの湖畔のどこか あなたが
いつかみつけた永遠がまっている
水面に佇みあなたを想いだす
高架の林道からのライトが
そっと涙を照らし
あなたのような月が滲んだ
果てしない男たち
(男声コーラス)
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
(黒ビキニのマッチョが百人 思い思いの決めポーズで
地底より勢り上がる。)
マッスル日本!マッスルニッポーン!
チャチャチャ チャチャチャ 午後のお茶は起き抜けに!!
涙を流してマァァァーッスル!!
(テノールマッチョのソロ うやうやしいお辞儀の後に)
男が夢を語る時 どうして遠い目をするのだろう ララララ
男がペニスを語る時 どうして鼻の穴が膨らむのだろう ララララ
ねえ 噴水の向こうで微笑む インドのトラ刈りお嬢さん
男は やましくなんかない ただ魅せたいだけなんだ
(マッチョのコーラス)
脳も筋肉!ペニスも筋肉!ああ 沸き上がる湯気の彼方!!
(再びテノールマッチョのソロ 瞳をうるませて)
割ってごらんよ ぼくの頭を 覗いてごらんよ ぼくのペニスを
ぶらさがってごらん ぼくの肉体に もっと見つめて 口に包んで
ああ めくるめく世界 虹を越えて全ての答えを探しにいこう
お願いだから お嬢さん
「あらきれい、カマキリが共食いしてるわ」
なんて そりゃねーぜ!!
(男声コーラス)
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
(マッチョ退場。続いてお相撲さんの群れ
地平線の彼方より摺り足でやってくる。汗で光り輝く太鼓腹と共に)
どすこい どどどど 土星人!
ちちちち ちち 乳 地球人!
金星人は マタンキ マル金 キンボシさ
ああ うるわしのられられしき まァァァある禁!!
(バリトンお相撲さん 少々はにかみながら)
皆さん 忘れていませんか?省エネ 戸締まり 乳毛の手入れ
まわしラインも大切だけど 恍惚の! コーコツの!!
乳毛がおろそかじゃ ハダカの付き合いは出来ねえ!!
ハニー まだ終わっちゃいねえ 何も終わっちゃいねえんだ
すべては これから始まるのさ 夢を見ちゃあダメなんだ
そうさワシらは ドリームそのもの!!
(前をつつっと通り過ぎる呼び出し。
いきなりの爆音 朝青龍が背中のブースターで 空から舞い降りる。
雲龍型のポーズをキメたまま 周囲を睥睨して)
「殺すぞ。」
(お相撲さんコーラス)
イエェェェーイ!!
見てくれ 感じてくれ この軽やかなコーラス・ライン
そうさワシらは 空を飛ぶ!!
(お相撲さんは何を思ったか ひとり残らずまわしを脱ぐ。
なんと まわしと思ったのは 新体操のリボンで
ひらひら ひらひら あやなすリボンの波の中 お相撲さん退場。)
(男声コーラス)
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
(いきなり波止場に空母が横付けされて 整然と行進してきたのは
身の丈2メートルを超える海兵隊員たち。
前をはだけた短いセーラーの上着に
下半身は フンドシだったり バレエのチュチュだったり
網タイツ ペニスケース 貝殻 天狗のお面 etc. etc.…)
おいらの都はハンバーガー そうさレタスが寝床
うっかり触るとピクルスさ ミンチになっちゃう!
(HA HA HA! HA HA HA!)
そうさ そうさ そうさ 何でも最後はケチャップ!!
(志村けんも真っ青の 白鳥のチュチュをつけた黒人隊員
見事なボーイソプラノで)
ひとかけらの優しさ そんなもので女が口説けるかい?
ひとかけらのダンディズム そんなもので敵が殺せるかい?
この世は食うか食われるか! 鞭で打つか打たれるか!
ぼくちんは打てば響くの打たれりゃ疼くの けなげな働きアリさ
ああ女王様 ぼくちんに翼をおくれ 翼をおくれったら!!
(そして全員の踊り。歓声をあげてマッチョと力士が乱入。
ローションの雨の中 くんずほぐれつの技の掛け合い 飛び散る下手投げ。
満面の笑みを浮かべて躍動する。
ストップモーション。)
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
どんどど きんにく どんどど どすこい
どんどど ピクルス どんどど どどいつ
わおう! わおう! わおう!!
どんどど どどどど どんどど どどどど
わおう! わおう! わおう!!
(フェードアウト)
幕。
ヴェガ星
今ヴェガ星へ飛び立つ為の、小さな宇宙船を用意しています。
シャワーを浴びているとき、ムクムクと股間が競りあがってくる感じで。頭の中にある、創造的アイディアを、電子レンジでチンすること約3分間。ガンマ線が大脳新皮質をキャッチした瞬間の値が2000デシベル。
人が電波から逃れられなくなってから刻んだ生活の歴史が、問題なくヴェガ星への道程を示しています。
時々マンションから10分のところにあるコンビニへ、わざわざジョージアを買いに行き、そこで一日に必要な本数分だけ、マルボロのメンソールを買い足し、後で必要になるだろうローリエと単三のアルカリ電池と、それから0.3ミリのシャープペンシルを買います。
同義的な選択肢から、宇宙船はエンパイア・ステートビルの屋上で待機しています。
そこから見下ろせばユダヤ教とキリスト教が、良いチームメイトとしてベースランニングの良い走者のように、市場経済というグラウンドを走り回っています。
ところでこの宇宙船にはまだ、リチャード・ニクソンのようなヴェトナムを指示する、タフなやり手が乗り込んでいません。
無人のコックピットを待避させる宇宙船は今、彼と二人きりになれる瞬間を、まるでヴェガのような輝く目で、待ちわびているのです。
砂浜
きっとなにかを置き忘れた気がして
まだそこにあるかもしれないと
砂浜へ
砂浜に
白日の私がいくつも焼きついている
焼きついたままのそれらを踏み越え
探して諦めてまた探して
紺青の岩陰はるか
ぼんやりと赤らむ時と空の境界
あちら側の砂浜で
だれかの気配が目を細めている
そのひとの背なは鮮やかに透け
その透けた背なの向こうへ
私の知らない海が広がってゆき
ふと
一握りの砂をつかみ指し示すと
夕映えと砂音の間にそのひとは消え
低温な潮騒とともに
もう二度と聞くことのない息遣いが
すこし遅れて私を通り抜け
影と風の間で私は
ただ 頷くよりなかった