#目次

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2005年11月分

月間優良作品 (投稿日時順)

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* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


EXILE

  鷲聖

 
 
表質の剥がれ落ちた壁の
白いチョークで書かれた途方も無く長い数式を
最後まで追ってゆけば
避暑地だった
木漏れ日に白んだ先は
雨あがりの木立を天蓋にした道で
俺は落ち葉の絨毯を蹴りながら
いっそうに香りを吸った
うねるような道々をどこまでも往けば
獣が何度も横切り
不思議そうに鼻唄の俺を見つめてはまた消えた
幸福とは退屈もするもんさ
靴底の減らない詩人はソンネを作らないという唄を作っては
大欠伸と同時にバタリと女と出くわせて
互いに歩を弛めた
俺は煙草を挟んだほうの手を挙げて
ヤァと声をかけたんだが
それが不味かったらしく
女はキュッと唇を締めて立ち止まる
困った俺は用も無いのに頭を掻いて背後を振り返ったりなんだり仕舞いにはその気も無しに道の先を訊ねた始末
海があるよ、と大人びた美貌とは裏腹に幼い調子で喋った女だ
ハラハラと舞い散りる葉が
あまりにその白い肌に光陰を引くので
俺は素っ気ない礼を述べ
吐いた煙に目を逸らしながらその場を辞したのに
女は付いてきていた
あんた行き先が逆だろうにと振り向きもせず告げれば
俺を追い抜いてみせて
陽だまり浴びる金色の髪を揺らした
甘い香りが微かに届き
胸の奥で
獰猛な沈黙が
落ち葉を蹴りあげては
ふたりが笑いながらそこをくぐり
掌を湿った幹に押しつけ
蜥蜴が肌をゆったり来たり
一滴の星が
首筋から
はるか
草の上に落ち
喘ぐ
獣が瞬きをする
指と指とは糸を引いて
知らない
知らないと
真っ赤な舌が
葉脈を舐め
どこかでパキリと枯れ枝が爆ぜては
汗ばみ
四つん這いに走る
食い込んだ爪に
歯軋った
露が飛散した
慟哭
俺は眉一つ動かさずに女の目を
一度だけ見たなら
心を合わせないよう伏し目にすぐさま通り過ぎた
しかしまた追い抜こうと企てたなら
女の腕を乱暴に掴んだ
驚いて見開かれた
瞳の色が
真っ青な空と雲間を映している
その無垢に哀れみをかけ
前髪を浚って額に気の無い口づけをしたのなら
女はなんという恍惚な顔をしたのだ
俺は掴んだ腕を離さなかった
静かな吐息が
はっきり聞こえたような錯覚
風が吹いた
ざわりと
森が泣いた
どういうわけか
簡単なほど
女はスルリと束縛から逃れていて
次の曲がり角に立っている
追いつけば
女が優しく指さした先には
水平線
ほら
ほら

笑うので
俺はどうしようもなく笑った
それから
手を繋いだ
煙草を持つ手を逆にして
慣れないまま
やがて鬱蒼とした樹海から
ひらけた高原へ
そこから海を見た
無数の光の破片でできている
海を見た
藻掻くように
草原は靡いていて
そこを二人は駆けた
苦しく悲しかったはずなのに
転ぶほどに駆けてゆく
疲れてしまえば
草臥して
鳥がゆくのを見ているばかり
時間を忘れた頃
俺は女に罪を告白した
空は次第に紅くなり
女は肯いた
知らない場所で断崖に波濤がぶつかる
その音を聴いたような気がしたが
さらさらと草が擦れているだけなのだ
秘密を囁くからと云って女が俺に近づいたのを
宵の星が見ていた
胸を裂いて
凡ての生命がじっと夜を祈った
呼吸だけになり
ほどけた
一枚の絵のような綻びのない湖面に
波紋が落ちた
抱き合ったまま
思い耽っている
どこまでも果てのないものについて
すこし眠り
俺たちはまだ長い夢から醒めないまま
波打ち際まで歩き着き
裸足になり
夜の砂の冷たさにありもしない悲しみを描いたりしたが
それはすぐに波に浚われてゆく
疲れたわ
眠たくなったわ
と女が笑うと
俺はフッと
あの途方も無く長い数式を思い出す
顎に当てかけた手を女は取って自分の頬に当てがい
忘れてよ
と告げたその表情は
月明かりを背にしていた
当てがわれた手に熱い雫が当たる
それは
囁きかけた秘密
俺はそっと放すとまた歩きだそうとして
どこ往くの
と悲鳴のように云った女の手を牽いてゆく
薄明へ
 
 


あまやどりの停留

  キメラ

くらやみの中
また携帯のひかりだけだ
通りには車の行き交う音が
すこしだけきょうの反省のような音にきこえる
ふるえていた
似ている夜のかおは
きみのぬくもりみたいに温かくはなくて
オレは決まって何かを夜に守っている

10年後の空からは酸がふる

その土地での生活はまるで苦い覚悟のような味で
甘さはすべて君だと聞く
ふたりで観た
くらやみのオリオンは架空であるなら
ふたりでオリオンを背景に裏側までもすり寄らせ
むかしばなしをしてみたい

その一瞬が10年をとかしたから
一瞬で10年をきざみ歩きだす

そんなことって
まだ残っていたんだな


最終のバスはいってしまった

あまやどりの停留だよ
星空にないていたらふと
横にきみがいたのは


手のひらに明ける朝

  まーろっく

すべての人に手紙が届く朝
町の広場に男の手が屹立する
腕まくりをした生きた像だ
むろん何かを掴もうとしているが
それが何だったか
もう男の手は忘れている

それにしてもなんと汚れ果てた手だ
びっしりと溜まった爪垢が
 モーターオイルを吸って真っ黒だ
関節の皺、手のひらの微細な模様も
 薄墨色に染まって浮き出している
しかもなんという悪臭!
手淫をしたのだろう
油脂と精液がまじった機械と人間の
不埒な交合の匂い

レジの娘の空白の横顔をかすめて
男の手は書棚の雑誌を汚染する
ウエイトレスの純白の尻をなぞりながら
男の手は紙ナプキンに油のしみを作る
ショッピングモールに陳列されている
 食器の艶やかな肌
処女の匂いをたてている
 木綿の真新しいタオル
男の手は町のすべてを汚して回る

ネジをまわすネジをまわす
錆びた金属が擦れあってたまらない音をたてる
剥き出しになる金属の新鮮な地金
みな目をそむけ耳をふさぐ
その間に男の手は真っ白い少女の陰部の
 赤々とした裂唇に触れ
陰核からベアリング玉を揉みだす

誕生の喜びのない朝
油まみれの馬小屋から
男の手は組み上げたバイクを引き出し
エンジンに火を入れる
町外れから駅まで真っ直ぐな一本道を
バイクの咆哮が突っ走る
ビルの外壁や商店のシャッターを叩いて

アクセルを握り締めた男の手からは
真っ黒いオイルがしたたり落ちる
それは絶望の完璧な球体をしたしずくだ


一つの風景のスケッチ

  樫やすお

硬質な林檎は凝結している
手にとって捧げる物は
並木道に人々は傘をさして行く
紅いハイヒールの逆光を感じ
塵が宙を移動する
格子の目を瞑り
そっと静まりかえって
森が固い感触を持ち
「私」の塑像が
多彩なカーテンに包まれて
白さを増してゆく
観念であり
芝生の複雑な緑に囚われている人々の
「原像」は「時間」と「音」であり
「私」は「原像」を所有していない
(ベランダに立ち
並木道に降る雨を聴く)
深部に消えて行く印象に
追いすがり 抽出される
piano 月
土に 落とされてしまう
雨に混じっている
レールが軋んでいる
区別するとすれば
それは 一掴みで逃げてしまうだろう
植物を手に取ると
『理解できない感触』
或いは
『何らかの感情を探る』
この枯葉は「死」か「孤独」か
「私」は隠喩にまみれて
歪んでいる 歪めている
痴人の識別する無我の我
言葉の無い裏づけ
裏づけの無い言葉が発音され それは意味する
写真を何枚も燃やし
煙が色を含んで立ち昇る
体が膨張していくような開放感が
次々と闇に葬っていく
空虚で内面が研ぎ澄まされてゆき
それは 限りない球体のはじまりの地点でもある
真空の内部を「音」が掻き乱している


鯨幕

  鈴川夕伽莉

「お亡くなり」って
何で彼女の名前の枕詞なの?
同窓会のメーリングリストが
数年ぶりに来たと思ったら

翌日久しぶりの0番ホームに立つ
背後で訛った少女達がはしゃぎ
あの町の数年前まで引きずり戻される

一時間ちょっとで視界を奪われる
雪雪
雪雪雪
家家は肩を寄せ合い
それぞれの灯火にはそれぞれの命が
互いの距離感について
安堵なり憎悪なりを蓄積させている
のだろうか

吹雪の駅前ロータリーにて
シルバーのPOLOが辛うじて点灯
友達だ(この子は生きている)
こんなことでもなければ
三年だって五年だって会わないところだった

まずコンビニに寄る
ふたりともストッキングが伝線

今日ほど「久しぶり」という事実を
有難いと思う日はないだろう
「懐かしい」話題には事欠かないからね
でも到着すれば
こんなところに葬儀場あったんだねえって
そこだけ私達の世界は一新されたのだ

黒服の集団は同級生達
案内ありがとう
そうか私達の服装だってこの場にぴったりだ

ところで彼女に会いに来たのだよ
それなのに何故白粉なんかしてる?
普段彼女は化粧なんかしなかった筈だよ

あんたは彼女じゃない

とても冥福なんて祈れやしない日だ
明日も仕事だからもうお暇します

会話の中で同級生の名前を取り違えた
教授の名前を忘れていた
記憶は建て増しを放棄されるジェンガ
彼女については「死んでしまった」という
未確認の事実のみによって
辛うじて遺棄を逃れたというのか
友達にさようならを言う
駅前ロータリー
「ゆかりは変わっていないみたいで良かった」
そんな風に言わないでよ

老朽列車はふたたび夜を裂く
こんな時間だから家家の灯火まばらで
眠っているだけなのか誰も居ないのか
これが最終便だからもう確認出来ない


橙色

  黒澤 あや

幼い頃に限らず
なりたいものがあって
人だけに限らず
きっとこの渋柿も
甘い柿になりたかったんだろう

私にもなりたい名前があった

ぽ、つん
口に出してみる
やっぱり似合ってる気がする
あの人の姓は
私のこの名に

言うのは
いくらでも出来るのに
それはだけど別人だから

夕暮れがそっと頬に触れて
帰っていくように
あの人もこの胸にきれいな色を残して
人混みに消えた

鳥がついばんだ柿が散らばり
どこもかしこも橙色
この庭の柿の木は
私が生まれた歳に種を植えたんだと言う


ねえ母さん、
うんと甘い柿が
食べたい


無題

  

(忘却について。Fe)

 ずっと、ここにいる。同じ場所にいるということ、その歪みが
 暖かく柔らかい思い出を作りかえる。それと分かる程度の拙さで

 戻らない。彼は帰らない。青い海色の絵手紙は幾つも積み重なって
 揺ら揺らの秤。片方に紅の金平糖。金のリボンと、そ、比較した


 彼の身体、塩化銀から、白と黒の波を選り分けているうちに
 視界があべこべになる、混合されたものも、純粋物質も、同じく

 正体をつかみ、一人きりになる。今、客体として、私にそっくりな人(彼女)が
 水に溶ける。ひらひらと。黒い髪が、少し、愛しくもあり


 私は、かつてオリジナルであり、今は塩湖に漂う母体でしかない
 寝返りをうつと、身体の左側が、不思議なくらい熱くなる

 彼女、鏡の中の瞳を見ると、魔法が解けてしまうのを知っている、から
 いつもより早くベッドに入った。薄緑色の海が、感情を抱えてたゆたっている


 常夜灯に照らされ、眩しさに驚いた。そして、私はぞっとするような
 静かな心持ちで、部屋を出ていき、もう戻っては来ない


  ざくろ

夜中に水槽からなんやらこぽりぽこりと音がしよるし
なんやろ思うてよう耳澄ましたら
アロワナというそれは立派な金の鱗を持つ御仁が
うちなんぞに向かって話しはるお声でした
アロワナの御仁が仰るには
「お前さんはもう長くないね、三日ももたぬ。」ということでして
うちは阿呆みたいに「三日ですか、三日ですか」と繰り返して
あのお方は「ああ、きっかり三日であるね」と深い声でしっかりと仰ったのです
うちはあわてて葉書に筆に墨を用意して
ご親切にしてくれはった数すくない方々へ
あの時はお世話になりました、だの
あすこでもいちどあんみつ頂とうございました、だの
今生の別れの言葉を
丁寧にそれは丁寧に認めていきました
真心をこめて

そうしとる間に三日なんぞあっと言う間に過ぎよりまして
とうとう三日目のお天道さんがのぼりはりました。
その朝の光に、あのお方の鱗の一枚一枚がきらきらと金色に光り
あのお方は静かにただゆうるりと水槽の中を一回りしはったようです

うちはなんやら急にぽとり、からりと落ちてしもて
木ぃの根元で死んでしまったようでありました

遺言として
うちの自慢の透明な羽根についてはどうか召し上がらないでくださいと書き
願わくば水槽から良く見えるところへ運んでくださいなと書きました。
蟻の方々がそうしてくれはったかどうかは
うちにはもうさっぱりわからへんのですけど

明日またお天道さんが登りはるころ
その朝の光に、あのお方の立派な立派な鱗のようにみごと金色に輝けたら

ええなぁとおもうたんです。


1979年 武蔵野

  コントラ


踏切には食パンの屑が散らばっていて
ストライキの西武線は
西日を受けた会社員たちが
田無の方角から歩いていた

自転車の後ろで揺られ
世界はぼんやりとしたピンク色で
みたされていた
雑木林のまえのアパートで
母は買い物袋を降ろすと
豆球のあかりをつけた
天井には対角線に
張りめぐらした万国旗
サッシからこぼれる夕日が
静かに畳の上をあたためていた

坂道を降りた丁字路のむこうは
黒い木立が続いていた
そこにはこれから生まれてくる
子供たちが住んでいて
僕の妹もまだ
木々の間を走り回ってる
神話のなかの精霊のように
1979年
眠れぬ夜に母はよくそう言った

その夜母はいなかった
仏壇のむこうで台所に立つ祖母が
ほんとうは耳のそばで
静かに正座しているのを
知っていた
夢のなかで僕は
淡い午前の光の奥で黄色の
信号機が点滅している道を
母に手を引かれてあるいていた
その場面をビデオテープのように
何度もくり返し再生した
手をはなすと
ダンプカーがたてる黄色い砂埃
にはばまれて母の姿は
もうみえなかった

それから生垣に囲まれた
埃っぽい道を
ずいぶん歩いていた
木造の家々は黒くしずみ
まるで廃屋のように
どこも戸を閉ざしていた
西武線の踏切の
矢印が夕もやのなかで赤く
光っていた
僕はまだひとりで
踏切をわたることができない

全速力で走った
いくつもの郊外の食卓を通り
いくつもの日照りの路地を過ぎて
郵便ポストの角を曲がれば
1979年
畳に落ちた新聞の切抜き
6畳間を照らす暗い豆球の下で
座っていたことを
憶えている


血みどろ臓物

  一条

あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っている。中指は半分隠されて、連中の具体的な財産を狙っているバイク野郎は、ヘルメットを違うふうに被って、日差しがあいつらの横に大きな影を作った。長い時間が来ると、あたしの国は、白髪の紳士に骨抜きにされるんだけど、その頃にはとっくに、なんだか新しくて、あたしたちに変わる生き物が、あたしたちを支配しているんだって、あたしのママが言ってた。暴走族はバイクを乗り捨てるし、乗り捨てられたバイクが都市開発のあおりを食ってゴーストタウン化した街の入り口と出口付近で、自主的に衝突してるって話は、都市伝説の一種に過ぎないんだけど、そんなことより、いつの日か、あらゆる利便性があたしたちの個性を追い抜いていく。あたしがここにいる、という確かな実感が、確かな確からしさを無邪気に担保するのは、あたしがここにいる、という実感でさえここじゃないどこかに保管されているということ、に置き換えられてしまっている。あたしは、なんだか、夢中になって、片っ端から与えられた書物のページをめくった、それで、あたしがあなたに与えることが出来るのは、ページがめくられるたびに生起する風の音だけ。そうやってれば、いつかどこかに辿りつくと思ってるの。そうやって、ひたすらページをめくってれば、どこかに保管されているあたしに辿りつくと思ってるの。あたしの脳みそに最新の電極をぶっこんで頂戴。Aの次はB、Bの次はCだから、あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っているから。あなたの腕は、まぬけな男みたいで、白髪の紳士が骨抜きにした淑女みたいで、その腕にからまって身動きがとれなくても、ママは、そこらにケチャップをぶちまけて、気の違ったやり方でくちびるに口紅を塗りたくっている、ママは、巡回セールスマンとの乱交の白昼夢にびっしょりだけど。あたしが育った街に、あたしが生まれた面影はない。公園の滑り台の上に突っ立っているあたしは、いつの日か、暴走族になっているの。あたしは誰よりも速い暴走族になって、ストライクを三つ見逃して、いなくなる。あたしが、いなくなっても、あなたはあたしのこと、覚えていてくれる?


断ち切られたら

  ケムリ

西日の丘から伸びる教会の影が
十字に伸びる世界に唾を吐いている
熟れた背中を蹴り飛ばした沈む林檎の匂い
月がドラッグされていく

星を隠した生まれたての掌
滲み始めた灯りを憎んでいる人がいるよ
カスミソウをひとつ 手折っていく
錆びた線路を枕にして

歌うひとは世界から剥がれていく
警笛が鳴り響く
長い夜に別れを告げた子ども達
眠るあなたを蹴り石にして

夜の淵は送電線の向こう側
誰かが繋がろうとしている
カテーテルが突き刺さった鼻腔を並べて
歌いながら剥がれていく

電話ボックスが吊りあがっていく空
羽虫が光を纏いはじめた
指先に群れた星を掻き散らして
子ども達はもうヘッドフォンを外せない

路地裏の糸を引いて 誰もがエクソダスを歌った
大腿骨咥えて嗚咽を堪えたら
滲む灯りを一つずつ舐めとって
歌いながら剥がれていく 断ち切られた 世界へ


アトリエ

  ミドリ



紙をこする
チャコールの音が響く部屋
モデルに雇われた猫は
ねむたそうに欠伸をしながら
裸体をテーブルの上に広げている

デイバックから化粧道具をとりだし
バスタオルを巻いたもう一匹の猫が
テーブルの上に座る
ワンピースの猫と目をくみかわし
モデルを交代するワンレングスの猫
東京出張のとき
新宿でつかまえてきた猫だ

トートバックから
BALのトゥモローランドで買った
黒いカーディガンを羽織り
ほかの猫のすきまにお尻をいれる
人間で言えば
高校生くらいの彼女

緩いウェーブの髪を
ひとつに纏めた猫は
先月 栃木から家出してきたばかりで
まだ右も左もわからない京都で
途方にくれていた
五重の塔の縁先にねぐらを構え
夜の7時になると
京都駅八条口でアコースティックギターを奏でる
その曲に集まる
まばらなサラリーマンの目

昼間はスーパーの山田屋でレジ打ち
夜は男のアパートで洗濯もん
深夜には
信じられないほど乱暴に抱かれたあと
ポテトチップスうす塩味を指先でかじりながら
深夜放送を観て三角座り
「大事なことが見つかった」
そう残して去った男の背中を
アトリエの窓枠の外に見つめつづける22歳

時々 信号で車をとめて
歩行中の猫のあとをつけて行く
鼻先に煮干をつんと近づけてやると
たいていは5秒から6秒のあいだに落ちる
小脇に猫を抱えこむと
車の助手席に放り投げ
あとはアウディのアクセルを強く踏み込む
猫の瞳のなかに映りこむ街角や世界を
センターラインの向こう側へ
徐々に傾けながら


蝶を呑む

  



 全ての雨が降下を終えて まだ
 魂が這い上がることは許されていない


 ラメを散りばめスパンコールに冒された蝶は毒を全身に隠している
 朦朧とした光の中で性別も良く分からないのに
 目の前でゆっくりと溶けている


 等号の意味を知る イコールで結ばれた番の片方は
 たいてい 蝿も近寄らないくらいに気高く美しい


 (ひどい湿地を抜ける 沼の周りは特に強烈な
 薫りでヒトを誘う 先行した人達はそこで暮らしている)


 食糧難が遠い時代になり あなたは蝶を呑みこむ
 体内で羽ばたくくらいが丁度良い?


 (肩胛骨 あまりにも甘く苦しいあなた
 五指 湾曲部 ネイルオイルを舐める)


 大災害だ 冷たい夜なのに柔らかく湿った土は凍らない
 ユートピア 間違えないように半島の地図を携えて


 右の臀部に 楽園を追い出された彼らの名前を
 ひけらかすように その 呼気の一つ一つに亜熱帯の
 暗闇を込めている アルコールが燃えている


 再々開後の宇宙 誰もが 身を激しく打つ雨を知らない
 深とした大気に星が降りかかる「喜び」すらも


ナルコレプシー

  he

(壱)

テレビは
いつも中に
ざあざあ雨を降らせて
せんせいの
少し薄くなった頭を
観葉植物が
そっと葉を差し伸べて
隠します
水のみ場の
つぼんだ
蛇口をひねり
ながら
すきっぷで
一周した先の
体育館では
バスケットシューズの声が
しんとした空間で
ひとり
思い出したように
甦り
ながあい授業の
終わりを告げる
黄色いチャイムを
学生達が
待ち侘びる音は
氷のように
すきとおっていて
静かです


(弐)

幽霊と虹が
理科室の黒い机の下
とぎすまされていて
四時限目の抽象
あざわらうかのように
水はこんこんと
みがかれた床を流れ
ていて
じんたいもけいに
見送られたその
あと
今日をまたげずに
出席簿の黒
まるの
中に吸い込まれていった
もしも、まだ
あしの
サンダルの
小さく
縁取られた
なまえが
舟を漕ぐ
眠りそうに
なっている
ああ、なんか 
もう
どうでもよくなってきたので
歌います。


白い朝

  黒澤 あや

ポタージュが冷めるのを待てず
やけどする舌
冷たい朝に

湯気の向こうで
陽の光が磨りガラスにはじく
無邪気なほどきらきらと

関東地方の今朝は今年一番の冷え込み
半袖のニットを着たアナウンサーが言う
冷え込んだこの町の6℃は
北国の積もり始めた雪を溶かすというのに

飲みかけのコップを置いて
もそもそと身支度をはじめる
小さな電気ストーブの前で
猫に邪魔されながら
伝線しないよう素足のまま
あれは
初めてホワイトイルミネーションを見た年の白い朝
灯油が切れていて
ふたりで凍える思いをすることももう、ない

ゆっくりと
この町の温度とポタージュの温度が
平衡になっていく

ストッキングを履き終えて
ひといきにすすった残り
やけどした舌はひりひりとまだ
痛むけれど

時間に背中を押され
パンプスをつっかけたまま
玄関を出る

ああ、それでも
息だけは白い


ふと
髪に絡まったような気がした
雪虫
あの日 銀杏の葉音を鳴らして
そっと髪にふれた人の指先を思い出しながら
地下鉄の階段を下っていく


点のカイト

  光冨郁也

江ノ島の砂浜で、
少年だったわたしは、
父とカイトを、飛ばした。
父の、大きな背の、
後ろで空を見上げる。
埋まる足元と、手につく砂。
潮風に乗って、
黒い三角形のカイトは、
糸をはりつめて、遠く浮かぶ、
追いつくことのできない、
二人で見続ける、
空の点。

ヘッドホンで、
CDを聴く夜。
不安をやわらげるため、
処方された漢方薬、
薄い茶色の、舌にはりつく、
顆粒を、
ウーロン茶で、二回にわけて、飲む。
オウム貝の、ライトの明かりだけで、
眠くなるまで、
ベッドの中から、
床のすみに放られた、
アルバムを手にする。
オレンジに照らすページを開くと、
正月に、江ノ島で遊ぶ写真があった。
腰を曲げ、
黒いカイトの糸をほどく、父と、
紙袋を後ろ手にしている、わたし。
それぞれ、帽子をかぶり、
色黒の父と、
色白のわたしが、
カメラのレンズの側の、
母に向かって、笑っている。

半身を起こし、
わたしの横顔を、
ストロボより激しい、
カミナリの光が照らす。
腕を伸ばし、窓を開け、
二十年は会っていない、
亡き父はどこかと、空をあおぐ。

いま、
黒い点が拡がり、
巨大なカイトで覆われた、
夜の空から、雨が降り注ぐ。
カイトのビニールにあたる音。
わたしは、枕元のライトで、
一眼レフの脇の、
紺の帽子を探し、かぶり、
湿った風の匂いに、
こぼれた薬が、
胸もとに散らばり、
さわってみると、砂の感触がある。


「架空」 #2

  鈴川夕伽莉

両親にマッサージチェアを贈った
家電屋が無料で配送してくれた
父母からのメールはひとしきり喜びを伝えたあと
「そういえば○○郡はもうないのだよ
これから間違えないように」と結ばれた

私が町を離れて7年目か8年目かに
○○郡は地図の上から姿を消したのだった
そういえば
今はわりと有名な温泉街の市名で呼ばれているのだが

私の中には
そんな場所で育った記憶は
ひとつも見つからない

変わってゆくものがあるとするならば
それは町そのものではない私自身だろう
両親は名前が変わっても
たいして中身の変わらないことを知っている
私にしてみれば
ふたたび住むことのないであろう町が
架空に飛んだらしい
おそらく

○○郡は
そう呼ぶ人間の居なくなってから
もと○○郡であった山間の空に
ラピュタのようにずしんと浮いている

ふたつの川がひとつに流れる橋のたもとには
夕暮れがまっさきに山の影を落とし
どこよりも早い夜が訪れる
今度町に帰る時があれば
ひんやりと蔦の這う道のりを
久しぶりに自転車で渡ろう
夜の中からむこうの夕方が
焼けていくのを眺め
その最後の吐息を聞き逃さなければ

スクール水着で川に浸かる私が
真っ黒な顔をきらきらさせながら
ラピュタの上から手を振るのに気付く


じぃちゃんへ。

  雀絽

うすい

じぃちゃんは
しょっぱいものが
嫌いみたいだった

ばぁちゃんのつくった
味噌汁にお湯を注ぎ足しては
濃い濃いと言っていた


うすい

じぃちゃんの
後頭部、
光があたると
ぴかり、ぴかぴか、
髪の毛が 産毛に見えた

それでも散髪屋に行って
髪を撫でてくる
ばぁちゃんは
意味ない意味ないと
何度も言っていた


うすい

じぃちゃんの
老人という自覚
まだまだ これから

青春がこれからだといいのに、と
ばぁちゃんは言ったけれど
じぃちゃんたちの青春がこれからなら
私は まだ ここにいなかったのかな



じぃちゃん
じぃちゃん、

ばぁちゃん

けれども
じぃちゃん、



そんな うすいガウンなら
風邪をひいてしまうから

白髪の透き通る 色
以前の黒の色が記憶のよう
白髪頭になるにつれ、
たくさんのことを忘れているよう

いつか 忘れてしまうのではないかな
いつか 何もわからなくなってしまって
いつか じぃちゃんが忘れても


ねぇ じぃちゃん。

そんなうすっぺらな気持ちじゃないよ
私のじぃちゃん大好きは

なぁ、じぃちゃん。


そんな うすいガウンなら
風邪をひいてしまうから


じぃちゃんの後頭部
また うすくなったみたい
きれいにひかってる


ソフト

  軽谷佑子

水辺に立つ
女の子をつき落としたくなる
枯れくさはかるく
あかるく

あたりに白い光
冬に近づくうすい
白い光

やわらかなからだを
こわばらせる理由の
いちぶになりたい火が燃える
台所消えていく家具に手をのばす

水にながれる
あなたのふくあなたの髪
水辺にはいない
まだ陸に立つあなたの
カーヴ

放り投げられるたくさんのしぶき
(水にながれて)

やわらかなせいしんを
おびえさせる理由の
いちぶになりたい火が燃える
まえの台所すべて自分に
ふりかかるよう


既望

  he

こぼれていく 脚と 脚と 脚と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
静かな浅瀬から清まっていく盲目の白波
肥大したプランクトンが自己から逃避する
青ざめに
僕は海の水で顔を洗う
日課となりつつある

写真のような太陽を翼の
葉脈に挿し込んだ神々しい海鳥たち
澄んだ啄ばみの音がする
速くない潮の流れが心地好い
真夜中
採って来た団栗の切っ先に
変色した靴と帽子を引っ掛けて蹴伸びをする
漂着した作業着が僕の爪先と
親しげに会話をする
空っぽの頭が寂しさに耽り髪を切った

作業着に身を包むと懐かしい香りがした
作業をした
月が落とした種を拾って
一定の間隔で植え付けた
隣り合わないようにした
たまに口の中に入れてみる
舌で転がすと
清しい酸味が口中に広がって
手のしんがじんじんと痺れた
時間が経つと
作業着が汗で臭う

陸地
この座標は
黒漆で光跡で
考える暇もなく水である
思考を止めた
空気に焦げつきながら雪崩れ込む僕は
そして、どこへでも行ける
赤く色づいた女が
僕の傍らへ歩み寄って来る
 (ては  ) 
       (ては    )
そのまま死なせてあげたかったのに
彼女の眼を見なかった
渦巻き色の気流の壁が
同じ場所に永遠と繋がれる

僕は海の水で顔を洗う
剥き出しの月光はぎいと動く
冷たい静寂はしんしんと
横たわる顔面を白紙によごした
背中の肉を啄ばむ海鳥たち
発狂する赤く色づいた女と
化学工場の作業員が明け方の海に浮んでいる
 
       脚と、 
       脚と、
       脚と、
       こぼれていけ
ここは拉げた陸地


  光冨郁也

祖父のあとをついていく。

海を見渡す墓地で、親せきたちが鎌で草を刈る。わたしも草を刈る。

母が野の百合を、見つけ出した墓に供えた。

波は白い。


モノクロの領域

  蝿父


明後日に

折れ曲がった指
から産み落とされた
崇高なる覗き穴へ
はめ込まれた目玉は囁く
暗がりの向こうで
白痴夫人が
眼差しで沈黙を盗もう
と石像にヒビを入れてる

何層にも重なり
押し寄せるまばたきを
不規則なラシャきり鋏が
次から
次へと切り取り
塵箱に放り投げた

3分前の
髪飾りをイヂる女は
俺が
黒塗りのアルミ箱へ
丹念に
丹念に押し込めてやったぞ



赤色電球が
全裸で左右に臀部を振りながらニヤニヤ笑う
沸き立つ雲々の合間から
幼子の手が
一枚のネガを
あかねいろの大地に貼りつけた
世界を反転させた構図だ
出来栄えは如何なものかと
斜陽に透かして見れば

四角い柵に
囲まれた薔薇は
だらしなく
涎を垂らしていた

解脱しそこねた溜め息が
戸棚に隠れて
しおらしく泣いている

悠か

悠か
上空より
真白なシーツを
純潔の白地図を
凌辱する為に墨滴が投下され
大地は斑に染まった
裏切りの代償として

淡い花を一輪
欲しただけなのに


8番

  鷲聖

待ち合わせのプールバーで
虚仮威しのような酒を呑みながら
待つ
肩のタトゥが隠れるほどドレッドを垂らした店番は注文以外の話をしない
一時間遅れであいつが雨に濡れて来る
途中、傘がぶつかったなんだと駅前で難癖をつけられたと切り出す
傘を捨ててきたことはどうでもいいんだ
あいつはビリヤード台と自分の腰で見知らぬ女を挟みレクチュアーを始める
耳元で軽率な契約とユーモアを囁いてるのかもしれない
彼女はくすぐったそうに笑う
俺はいい加減に呑みすぎていて
適当なキューをひっこ抜くと
勝手にエイトボールを始めた
あいつは端正に微笑むと俺でも女にでもなく云い放った
この女を賭けようか
洗練された高尚な暇潰しだ
ダブルクッション
緻密に計算されたゲームとあいつの横顔を交互に見比べた女
勝利を確信した様子で
あと数時間後の情事に思いを馳せながらグラスを合わせるふたり
俺は反対側で強い酒を干しながら出番を待つ
あっと云う間だ
あいつは8番を落とすポケットを宣言する
そしておそらくミスを犯すだろう
あいつの背後に立つ女が
無精髭の俺を見下した瞳で射た
迷い無く玉を弾いた音
8番は落ちない
あいつは女のほうを見ずにグラスを空けた
俺は打ち方を構えると云った
おまえ、別にその女が欲しかったわけじゃなかったろ
じゃあおまえはどうなんだ
無言の8番が落ちたとき
あの女はとっくに居なくなっていた
あいつはまた別な女に話しかけている
俺は雨が上がったら帰ろうと云った


饗宴

  丘 光平

ほどける栗色の巻き髪 舞い散る水の花しずく
もの静かなピアノで猫はかかとを小さく鳴らす
そして食卓からこぼれ落ちる白いハーブの一粒

窓の向こうへ ぼくらは庭を片足で飛び越え
れんが造りの街並みに坂道をくだってゆく
手のひらの小枝でいくつもの輪を躍らせながら

陽を眠らせ雨を降らせようとする夜のこどもたち
ぼくらの合図に彼らは一瞬で燃えるダイヤモンド
するとハープが母のようにやさしく鳴り渡った

たなびく風と風 ぼくらは楽園にそっと迷い込む
住人のねずみたちから甘いチーズをごちそうになり
貝殻のグラスで琥珀のぶどう酒を飲み干した

赤らむ夜空 筏にのって月の指揮者はやってくる
ぼくらはみなフルートやヴァイオリンを手に手に
奏ではじめる 風船のように頬を膨らませながら


やっぱりおおかみ

  Canopus(かの寿星)

(佐々木マキ、73年、福音館書店)


0(プロローグ)

(おおかみは もう いないと
 みんな おもっていますが
 ほんとうは いっぴきだけ
 いきのこって いたのです
 こどもの おおかみでした
 ひとりぽっちの おおかみは
 なかまを さがして
 まいにち うろついています)


1

影のない おだやかな光に包まれたみちは
明るすぎて あまりにもなつかしい
くろい影をおとすのは ただひとり
ひとりの おおかみの子供だった
両手をポッケに つっこんで
まだ生えそろわない牙を もぐもぐさせて
仲間を探して 毎日うろついて
(どこかに だれか いないかな)
います


2

ウサギの街に着く 交差点でも
影が おおかみなのか
おおかみが 影なのか
ややこしや ああ ややこしや
ガラス窓にだって おおかみはいるけど
だれも 答えられやしないんだ
ウサギ連中は白すぎて 影なんか
持ちあわせちゃいないから
および腰で 背中をむけて
扉を閉めちゃえば
万事解決すると 思ってるんだ


3

(け)

小さな おおかみは
ウサギも 赤ずきんちゃんも
丸のみなんて できやしないよ

(なかまが ほしいな
 でも うさぎなんか ごめんだ)


4

午後1時25分 ヤギの街で
陽は おだやかに高く
そうごんな そうごんなまでの
平屋の教会に ヤギはつどう
おそろいの あおい僧衣と
おそろいの しろいあごひげ
たんたんと たんたんとすぎる 昼
おおかみは ひとりぽっち


5

ブタのバザールは いつも盛況
おもいおもいに テントを張って
さあさあ なんでもあるよ
花屋 肉屋 八百屋 パン屋
せともの屋 古どうぐ屋 コーヒー店
通りは買い物ぶくろを抱えた ヒトの波
じゃなくて ブタの波

(みんな なかまが いるから いいな
 すごく にぎやかで たのしそうだ)

毎日開催 ブタのバザール
よってらっしゃい みてらっしゃい
なんでもあるよ 老若男女のブタさんがた
ブタさん ブタさん 子だくさん
第1と第3にちようびは おやすみです


6

バザールを行く ブタの波に
この身を ゆだねたい

けれども ひとりぽっちだから
街のはずれまで きてしまった

買い物かごを下げて ブタがひとり
壁に あおいチョークで
たのしく らくがき
おおかみを みつけて 逃げていく
無言のままで

(け)
黒いおおかみには 染まらない


7

ヘラジカ中央公園は おおきな森のなか
ヘラジカ中央駅から シカの脚で1分です
すこしだけ おおきな崖も こえます
公園には ひろい道路も 
噴水もあります
みんなの集まる広場も
遊園地も
レストランもあります
シカのパラダイス みわくのでんどう
というのは 冗談ですが
上品で おちついた
歓声のたえない 公園です

(もしかして しかに なれたら
 あそこで たのしく あそぶのに)


8

おれは こどもだから
遊園地は大好きだ たとえそれが
ヘラジカの 遊園地であって
おおかみの それでないとしても

たとえここで 風船が 天たかく風におよいで
アイスクリーム売りが ベルをならしたとしても
それは おれのものでない

観覧車が 空をあざやかにいろどり
メリーゴーラウンドが よろこびを回して
手オルガンが 楽しいしらべを奏でたとしても
それは おれのものでない

くろい影の おおかみの おれは
両手をポッケに つっこんで
枯れ葉を 踏みしめる


9

(おれに にたこは いないかな)

ヘラジカの遊園地が 閉園するまで
一日中 そこに いてしまった

どうしても 去ることができなかった


10

夜の
ウシの街を あるく

さびしいのは なれてしまった
なんども なんども
そんな夜を あるいてきたから

はらぺこなのは いつものこと
おおかみが はらぺこなのは昔から
さけられない 宿命だから


11

だんろは こうこうと燃え
灯りのした
ウシの家族が 食卓をかこむ

とうさんウシ かあさんウシ
にいさんウシと こどものウシ
みんなそろって もくもくと
ええ ウシですから もくもくと
ささやかな夕食を たべています

食後のお茶の用意も できています
かあさんウシは あみかけのマフラーを
隅の 小さな丸テーブルに 置いています
花びんの花が 咲いています
柱時計が ちくたく ちくたく
午後6時44分のことでした

こどものウシは にこにこ
笑っています

すべては
そう すべては 窓のむこう
ウシの家での できごとだった


12

はらぺこだった
あしは 棒になった
おおかみの仲間を探して
おれの 居場所を求めて

道に迷った わけじゃ ないけど
ここが どこだか わからない

(おれに にたこは いないんだ)

街のはずれ 一夜のやどを
墓場に もとめて おれは
ごろんと 横になった

おおかみの ご先祖が
会いにきて くれないかな
仲間の ゆめを みたいなあ


13

「詩中詩:おばけのロケンロール」

ぬばたまの ぬばたまる夜
ぬばたまった おばけの 影はしろい
なぜなぜしろい? おばけだから しろい
さけ もってこい
りんご もってこい
ドーナツ もってこい
リードギター ひとだまシャウト もってこい
ぬばたまの ぬばたまりけり りんご
のめや うたえや
さわげや わらえや
わらった わらわらうくちもとが
ぬばたまる歯なしじゃ はなしになんねえ
歯なしは しゃれこうべから かりてこい
それが おばけのおしゃれ
しゃれや うたえや
おどれや わらえや
ひとだま つかんで ぐるぐるまわせ
琵琶の かたりに ぬばなみだ
ながす 目なんか もっちゃいねえ
しゃれた 歯ならび かちかちならして

かきならせ ぬばたましい


14

おれは ねていた
墓場で おれは ねていた

おばけの 夢をみた
おばけは おれに 似ていない

おおかみは 夜に とけるから


15

旅のはて
旅のはてなんて だれが決めた
空は 今日も流れているのに

また しろい朝がきて
ひとけのない ビルの屋上を
ただひとり 両手をポッケにつっこんで
ぷらぷら 歩いていると
ひとり 屋上に つながれた
ひとり乗りの 気球を みつけた

ひとりぽっちの 気球と
ひとりぽっちの おおかみと


16

ビルのうえ つながれた気球
あかい レモンの風船
あおい 三角の旗が ひるがえる

気球にのって このまま ここから
おさらばしよう とも思ったさ
おおかみは もういないし
おれに 似たこは いないし
みんなが わらいさんざめく 姿をみるのは
つらいし

でも な おおかみは 強いんだよ
たとえ 絶滅寸前でも まだ おれがいる

(やっぱり おれは おおかみだもんな
 おおかみとして いきるしかないよ)

気球は 気球で ひろい空を 駆けてくれ
おれは おれで ひろい世界を 駆けていくよ


17

つながれた ひもを ほどいて
気球は 空に のぼっていく
おれは 気球に のらなかった
おれは ビルの屋上から
気球を 見送った

気球は ぷかぷか 空におよいで
小さくなった

(け)


18

気球は 気球
おれは おれ
おおかみは おおかみ
やっぱり おおかみ

ひろい ひろい 空
ひろい ひろい 世界
たくさんの いきもの
やっぱり おおかみ

(そうおもうと なんだかふしぎに
 ゆかいな きもちに なってきました。)

きょうも はれ


  リョウ

もしも不二家のペコちゃん人形に
高速パイルドライバーを仕掛けて
世界の不条理を叩き込もうと暴れる豚がいたら
それはきっと俺だから
「落ち着けよ」って言ってやってくれないだろうか

仮面をつけて生きるのが苦しいって言って
何処か別の場所でも何かしら仮面をつけてるのが現状
一番奥の便所で「紙が切れた」って言って
無表情のピエロみたいに泣いてる豚がいたら
それはきっと俺だから
「これで拭けよ」って言って
便所紙を投げてやってくれないだろうか

生きてちゃいけない気がする
けれど
死んじゃいけない気がする
次々と豚が噛み付いては
嗤いながら去ってゆくんだぜ

殺意も愛情も無い日が過ぎてゆくよ
足がどんどん地を離れてゆく
もがけば もがくほど!
仕方なしに今日もベッドにもぐり 震えている豚がいたら
それはきっと俺だから
「泣くんじゃねぇよ」って言って
寝るまで傍にいてやってくれないだろうか

もしもケンタッキーフライドチキンのカーネルおじさんに
高速でコブラツイストを仕掛けながら
世界の理不尽や真理、定説をわめいている豚がいたら
それはきっと俺だから
「落ち着けよ」って言って
煙草の一本でも分けてやってくれないだろうか

それはきっとお前だから


1981年 長津田

  コントラ


母はガスレンジをひねり
鍋のなかのアジフライが
はねはじめた

暗い街灯をたどって
33号棟に着く
グレーの背広

ベランダから遠く
消防署のあかりが消えるのをみた

キッチンの壁は黒ずんで
景色は油膜がはったように
ぼやけてにじむ


シャクティ

  鷲聖

窓辺に向かう途中で
おまえが無意識に触れた鍵盤の音が
いつまでも
雷光に確かめたシルエットは
後ろ姿だったか
それとも
どうでも良かったんだが
俺も雷鳴の唸りに併せ
華奢な肩ごしまで歩を詰める
硝子を伝う雨
ここが何階か忘れたが
眼下のネオンが滲むだけの光景
べつにムードは無い
それより
思いでばかりが
心をよぎる
失ってきたものばかりが
伝う
だから俺は
髪を掬おうとして
気づかない横顔に戸惑う
このひどい雨に
出掛けようかと切り出した言葉の憂い
なんて静かに
懐に抱きついてみせたおまえに
また戸惑い
どうして思いでばかりが
伝う
温もりを確かめ合わなければ
どうにかなりそうなのかもしれない
こんな時
この滲む向こう側を支配したようにしか
おまえを愛せないことが悲しいと
云えない
耳元に寄せた唇は
囁かない吐息
目を瞑るとあの音階が
まだ
続いている
ふと
記憶のなかで
喧噪のように渦巻いていた轟音が
潮騒かもしれない
と思った
激痛が引いたような穏やかさが満ち
おまえのからだを
いま確かに
抱いていた
やさしく引き離した
おまえの蒼白の美貌に
硝子の伝う雨が投影している


我が母に

  リリィ

墓石も無い墓をふうと見ております
母よ
私には黄泉の道が見えております
四角い石板の下の扉が見えております
そこは隠れんぼをするには狭すぎますねえ
そこに居ます母よ
鬼となった私が捕まえられない母よ
そこに隠れた時を私は見ておりました
斜面から見上げる陽の高いこと
へうと鳴く声が向こうの山から聞こえたこと
観音様の美しさを覚えております
母よ
私には触れることが出来ません
その荒れて透明な皮の手にも
目の回りにいつの間にか増えた皺にも
埃の沈殿する緑色の水の入ったコップにも
砂埃の積もる四角い扉の重しにさえも
雨の音に途切れるスピーカー越しの石焼芋の詩を右耳に
白く濁る黄色の掌を合わせて
無味無情のこの心をさらけ出す
その清々しさを
母よ
貴女に伝えているのです


居るのが嫌だった

  樫やすお

忘れてしまったこと、
怒りや悲しさ
まとまった思い出と
人々のたくらみ。
力の美しさは、
絶えず人々を向わせる
ファシズムだ。
だから僕は、
単純な自然か
素朴な都市の中に隠れる。
そして憧れは
音のない世界へ帰るのがわかった。
家を出たときから
気づいていた、
柔らかいつまさきは
遠くへは行かないこと。
待つことを知って
はじめて瞬間が熔け出す。
カーテンの中に居る
諸々の、
求める人
求めない人
そんな理由など始めからなかった。


ヌード

  葛西佑也

少女は風呂上り なのか
水分を含んだ髪が
少しだけ
艶っぽい
裸という服を纏い
すべてを
曝け出す ような
目線 ぼくを射抜く

体中の産毛が
逆立ち
それはこの空間で
(共鳴)

昔魚だったときの記憶と
今人間になった瞬間とが
彼女の中で渦を巻き
この特別な場所から
生臭さは もう なくなり
(つつある)

頭の片隅でしてはいけない
と思いながら また別の部分 
で少女を汚していく
気が付けばそこは
井戸であった

かすかな光さへも
射してはこない
この場所は
案外明るかった
(水が滴っている)

少女は
裸である ということの
意味を知らず
(これからも知らずに)
見られるということで
怯えている

ぼくは ただ
優しい観察者(芸術家)
の まま
水が枯れる までは


現代の絵巻 (1)秋

  tomo

日覆いの破れ目に射し込む秋風
日当たりのいいコンクリートの割れ目には
道草している名のしれない草花
ただひとり羅生の門をくぐる僧侶
夢を昨日に仕舞って身動きできずにいる私
その起立した影がわずかに西にかたむき
豊やかに風の息にゆさぶられながら敷石に染まっていく
そしてその敷石と影との間には
実存の剥がれた憩室があって
そこでは銀色のウインターコスモスが萌えそめ
人の感覚をふるい落としている
私は海水の砂摩で
光色の衣をまとって埋まる世捨て人のように
言葉を喪ってしまっていた
私から抜け落ちた母音のかたまりが
吹き迷う秋風にずいぶん遠くの風下まで運ばれ
表音仮名が表意漢字に化けて
あちこちで私を凝視している

 ーーーーーーーーーー
以前冒頭の部分を投稿しましたが、続きを再投稿させてもらいます。
本来は縦書きでルビも数箇所振ってあります。


旧植民地にて

  コントラ


日本製の中古バスは
扉を開けっぱなしで疾走して
サロンを巻いた男が
イギリス煙草をすすめてくる
曇り空の日本を上空から
眺めた映像はだんだん小さくなって
いまはもう見えない

その村には1週間滞在した
ニャン・ウーの市場へ
砂埃の一本道を3人で歩く
乾期の太陽は日陰の余白を残さない
くたびれた僕らは
食堂でタイガービールを飲んで
安宿にかえると
スプリングの抜けたベッドに倒れこんだ

天井の羽根扇風機が音もなく
風を送りつづけていた
夢で見るのはなぜか
日本のことばかりだった
大学のクラスメートたち
せまい下宿でジンを飲んで
とめどなく語り
昼すぎに目をさます日々
ヤダポンが大きな目を
見開いて今日も
百合子ちゃんのことを
話そうとしている

軍政が布かれて長いこの国で
バスを乗り継ぎ
ドーム屋根の市場をぬけて
日なたの道を汗だくになって歩いた
インド人の商人や
白粉を塗った少女たち
靴工場ではたらく青年
夜行バスで首都に着いた朝
街角の屋台でコーヒーを飲んで
どうしても代金を受け取ろうとしなかった
「生きることではなく
生かされているということ
宇宙の調和のなかで」
汚れたノートに
ガイドブックの言葉を走り書きしている
僕はまだ二十歳になっていなかった

3日過ぎた午後
僕は首都に戻っていて
ガラスばりのエアラインオフィスで
バンコクまでのチケットを予約した
ガラスの向こうでは相変わらず
三輪タクシーが行きかい
闇両替の男たちが観光客の姿を
注意深く探していた

目抜き通りのインド料理屋に
行くと店員が僕を覚えていた
「旅行はどうだった」
「この国が好きか」
「もう明日帰るんだ」
「いつかまた来たい」
僕は答える
僕らはならんで店の前にしゃがみ
彼はイギリス煙草の包みを
僕のまえに差し出した
「日本に持って帰れ」
にぎやかな通りの先では
パゴダの尖塔が容赦ない
真昼の日差しをはじいている


注:パゴダ=東南アジアなど上座部仏教の国に多い円錐形の仏塔のこと


(無題)

  

発光する街並から
少し離れて
星空の下黒く沈む海
漁港のコンクリートが
冷たく海を拒んで
貨物列車の汽笛が
夜の波音と共鳴して
湿った静寂に響いてる
ぬらぬらと
揺らめく海面が
当てなく立ち尽くす
足元をすくい
闇に飲み込もうと
誘い続けてる
眺めているだけでよかったんです

岸に沿って慎ましく灯る
人の住まう証に縋りつきながら
夜の闇に溶けるという誘惑と
何も望まない虚脱と
海の鼓動の繰り返す潮騒と
心臓の押し出す脈の
調和を見つけだすまで
眺めていただけなんです

夜明け前にここから
何も持たず立ち去るつもりで
海蛍を探しにきたんです
見つけられたら
その仄かなあかりを
眺めているだけでよかったんです


  雪香


峡谷を照らすのならば
三日月が良い

牙をおそれる者たちはみな
果実の甘さにかじりつくのだから
瞳をみたす満月を
切り立つ岩のその頭上に
輝かせてはならない

刮目せよ
か細い月光は
そのか細さゆえにこそ
姿を鋭く映えさせる
獣の形を映えさせる

なだらかな平地と
けわしい頂と
その中間の
誰にも触れられぬ空間で視線が合ったとき
遠吠えは始まる

きびすを返した瞬間から
すべての命は
背中に集約されてゆくのだ
三日月は
その影を随所に縛り付けながら
東へと傾いてゆくだろう
鼻の利く者に味方するでもなく
足を頼る者に味方するでもなく
刻一刻と
夜を冷たく傾けてゆくだろう

寝床を探せ
天が満月を育てあげる過程を
知らずに済ませられるような
寝床を探せ
場合によっては
その牙
その爪を
穴掘る道具に置き換えながら


ラベンダー

  丘 光平


眠っている空の鍵を
朝の指さきはそっと回してゆく

霧の肌のように
やわらかく降りてくる光の
こまかな粒と粒
すこしずつ丸みを帯び 膨らみを増し

高原の額に
たどりつくその手前で はじけ散る
光の水しずく 
ゆるやかに呼吸を匂わせるラベンダーの
内奥へと

引いては寄せる光と光
血脈のように波打つそのうすむらさきの
どこか不安な
それでいて快い痛みにゆれる
ラベンダー
彼女の愛しかたで朝を迎えようと

開かれてゆく花のちいさな手のひら
光の露が 一滴
音楽のように結ばれている


滑走

  鷲聖

爪先立ち
真冬の星座を探す類いのもの
洗礼名の入った
コートのジッパーに触れた衝動
冷たい鼻先で互いに確認したあと
もう一度
雪明かる雪原には
小さな獣の足跡が丘陵の向こうまで
追いかけようか
冗談だろ
さんざん雪つぶてをぶつけた俺の背中を払って
厚手のコートじゃうまく腕が組めない
息があがり
笑う
無言の樹氷に星が架かるのを見つければ木陰の迷宮で
繋いだ手の円周を往くおまえに
白い息のヴェールが掛かっている
とりとめなく話していた明日より先に
途切れてしまった言葉が
中空でダイヤモンドダスト
後方の闇に煌めきながら消えていった
幻惑
繋いだ手を放してしまう
雪に倒れたおまえが投げた雪玉に
我に返り
困ってしまう
獣が遠くから
引き起こそうとして逆に引き倒される姿を見ている
そのとき
星が戦慄いたことは誰も知らない


Paradox

  鷲聖

携帯ラジオのチャンネルがようやく止まる
最新チャートでもなんでも無い
70年代ボサノヴァ(パリ収録)で
軍帽で叩き合う歓喜とは
旧式のジープにこの悪路は乗り心地は好くない
殴打の雨に追いつかないワイパーに
煙草が進む彼奴だ
ただの周回だ、気楽にいこうと
俺か走行メータ横に並んだ恋人のポラロイドに云った
雨の日のデートは最悪だわよとわざと高いトーンで返しマガジンをチェックする俺に
軍帽を投げてよこす
煙草の吸いすぎたと云って投げ返し
そんな退屈凌ぎとボサノヴァ
けどフロントガラスが真っ白になったのは雨のせいじゃない
ハンドルまで頭を伏せて彼奴はアクセルを踏み込む
撃たれたと叫んだ彼奴の耳が無い
俺は背中からダッシュボード下まで体勢をずり落とし
大音量のボサノヴァを流しっ放しで
無線を入れる
交信事務の女はこの銃撃なんかまるで夢の向こうのようにクソ落ち着いた様子で応答する
座席が蜂の巣になってクッションとガラス片がバラバラ降り
車を停めろと俺は叫んだが彼奴は糞野郎と怒鳴るばかりだ
ボサノヴァ
タイヤを撃たれたらしい
もう悪路の揺れじゃない
ダメだ車を停めろ
彼奴の横っ腹を何度も殴った
冷静な女が車両ナンバーと現在位置を報告せよと繰り返す
いいから停めろ
急ブレーキの反動でしこたま頭を振られたが
ドアから身を投げ泥水に浸かり目が醒める
抱えた銃を軸に道路脇まで転がった
現在位置を報告せよ
彼奴は朝食を膝に吐いてようやく正気と無線を握って話しているのを聞いたが
すぐ傍を通弾する女の悲鳴のような音で鼓膜がおかしくなる
敵の姿は確認できないが
おそらくジープの左後方からすぐそこまで追ってきている
まだしきりにジープの装甲を撃っている様子を見るとこの雨もまんざらじゃないそれとも
身を伏せるには不安げな道路脇の茂みから
彼奴に早く降りろと合図する
ハンドルに頭をつけたまま無線口に向かって彼奴は俺なんか見ずに何か繰り返し叫んでいる
ボサノヴァのメロディが判る程に復調し
いいから降りろ
ジープ一機にこのやりクチじゃ相手は民間義勇兵か自棄になった野兵だ
燃料タンクにでもぶち込まれたら終いだ
殴打の雨に混じる装甲を叩く銃音と
彼奴の叫ぶ声と
ボサノヴァは
………は終わらないのか!
まだ戦争は………のか!
クニに帰らせてくれ頼む!!
爆炎が車を包む
ボサノヴァが止まり
俺は雨の中
大学時代のニックネームで
彼奴の名を
一度きりだけ呼んだ


メランコ

  鋼鉄のざる

このやろう ばかやろう
おまえは云う
こまねち
おまえは動く

大なる人物よ おまえは
おまえには 凝り固まった石を持つ
その石は丹田の 奥の 奥の方に有り
けっしておまえを離れないのだ

呪いの石 

それがおまえをして
ばかやろう このやろう と云わしめ
それがおまえをして
こまねち と動かしむ

見よ おまえは
おまえの口元は 仕草は
成りきれないおまえを 滲ませている

呪いの石

わたしにもある






*勝手言ってすみません。これは詩であって、イメージとしても、批判であるとかそういうレベルのものではなく、あくまでも私個人の主観ですので、悪しからず。ちなみに嫌いなわけではありません。

文学極道

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