#目次

最新情報


2006年08月分

月間優良作品 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Storywriter,Poemwriter,Songwriter,Hatenanikki

  ikaika

#The Sunshine Underground

七日間降り続いた雨が突然止んで、僕は、靴下を脱ぎ捨てて小屋から、原野へ向かって飛び出す。僕は、僕の体を必死になって追い掛け回し、原野を駆け回る。雲の隙間から陽が指してきて、ところどころに陽だまりを作っている。その中で、金魚が数匹泳いでいる。豪雨が残していった水溜りに手を差し入れる。そして、何かを掴んで引っ張りあげる。一人の黒人の男性が、下半身だけを衣で隠した姿で、現れて、僕は、やぁ、こんにちわ、と、挨拶をする。彼は、静かに、頭を下げて、挨拶を投げ返してくる。それから、彼とは友人になって、火の起こし方や、食べられる雑草をとったりしながら、暮らしたが、ある日、僕が眠りに入ると、僕はそのまま、水の中を泳ぐ夢を見る。すると、頭上から誰かの手が差し入れられて、僕の肩を掴んで引っ張り上げる。彼は、白人の若い男性で、僕に向かって、HELLO!と、挨拶してくる。僕は、静かに頭を下げて、挨拶を返す。そして、彼に、火のおこし方や、食べられる雑草について教えてやった。


Ohayou!おはよう!


#Around The World

友人とともに、1934年作の『オズの魔法使い』を見る。夢の世界と、現実の世界との区切りは、白黒の絵とカラー絵に隔てられており、なぜか、現実の世界の描写は、白黒のままで、色がついているのは、夢の世界。ドロシーは恐らく、精神的に不安定なのだろう。彼女の感情の起伏の激しさがそれを物語っている。なるほど、つまり、こういいたいわけか。私が今、見つめている世界は、まさに夢なのだと。現実の世界は、白黒で表されるように、無味乾燥な世界で、美しさ、醜さ、味、そんなものはどこにもないのだと、見終わった後、隣に座る友人に、「はじめまして。」と挨拶をした。


虹彩という夢を!


#Over The Rainbow

麦畑を妻とされている人と手をつないで歩いている。黄金という言葉がふさわしい風景の中を、麦を掻き分けながら進んでいくと、私の小さな家があり、犬が一匹こちらに向かってほえている。土壁の家のところどころにはステンドガラスがあって、紫や緑、赤、黄色、と、色彩を放っている。さらに、進もうとすると、妻とされている人が腕を強く引っ張る。振り返ると震えている。どうしたのか、と、問うと、あそこには、魔女が住んでいる。という、いや、あれは僕らの家じゃないか、と、答えると、二階の窓は開いて、一人の老婆が、箒にまたがって、私たちの上を通り過ぎていった。延々と続く麦畑、黄金のじゅうたんの上を、魔女が飛んでいく姿に見とれていると、妻とされている人は、ほら、いった通りでしょう、と、では、僕らの家は?、と、聞きくと、指をさして、ずっと向こうだと言う。


落下する地平線上を超えて、そのまた向こうまで、そこではもう私は中心ではなく、誰かの中心へ接近する、そう、私が中心でいられなくなる場所まで、永遠に!


#World's End Garden

ここは、光が鳴っているな、ツー.....トット.....ツー.....トット、と、映写機に映し出された私の背中、円錐形の内で青白く照らし出されて、影がスクリーンに大きく写る、影は私の意志や体の動きに対応せず、一人でに歩き始めて、舞台袖へと消えていく。私だけが、未だに、映写機に照らし出されて、青白く、何も映し出さずに、影も作らず、ぼんやりと取り残されたまま、ずっとその場から動くことができない。そして、何かが大きく軋む音だけが、会場に広がって、私は地面に倒れこみ、強く額を打って、嘔吐した。


最後に、嘔吐物の中から無数の蝶が飛び出し、劇場全体を青く染める、


#Reset,Sunset,Emerald

 bird、達が空へ、そして雨が、rain、まずは、喉を切り裂こう、無数のガラス破片が飛び散って、すべてを光に変える、次に、額が裂け、陽が昇った、最後に、真っ二つに裂けた体から、Emeraldが、飛び出して、そして私を包むまでの話を、かなえられる願いことはいつも一つだけで、思い出せばはるか彼方、私達がいまだに姉妹であったころ、アポロンとアテナイの女神の憂鬱のうちに生まれた一つの涙、緑、赤、黄色、そして、あの青の延長線上で鳴り響く、アリアが、地平線上に落下するまで、数え続けられる数々の数式、それら一つ一つに刻み込まれた、秋月の落ち葉、そして、すべては、明暗の点滅のうちに、すべての夜を焼き払う光の中で、爆撃音が、ポーン、ポーンと鳴って、bird、達は、空を忘れた、blue、blue、青よ、青よ、どこへ、どこへ、早朝、世界が吐く吐息の内に隠されてしまった青が、水泡に包まれて、成層圏で破裂するまで、地球儀を駆け回って、花に水をやる誰かの上に、雨が、そして、rainが、このあまりにも晴れ渡りすぎた空の下から、今すぐにでも連れ出して、雨の中へ、Emeraldに包まれて、最後に光が、光に焼き尽くされる頃に、もう一度、世界を、Emerald!


水音

  riala

蝶が落ちる。
水浸しの世界で
失くした、大切なもの。


何日も続いた雨で、僕らはとても弱っていた。話し合うことさえしなくなった。それでも僕ら(少なくとも僕は)干からびた土地に降る雨のこと、その雨に色を映して咲く花があることを思い出していた。帰るところがあった僕の鮮やかな翅のことも。

水になるまえは
          蝶だった。たくさんの燐粉を降らせて海を渡った、何色もの帯の重なり合う水しぶきのなかに七色の虹。雨が音もなく降っていた。ずっと前から。老人のつえの先から雨は押し寄せた。ひたすらに雨だった老人。僕の後ろ、帰るという当たり前の沈黙。


「落としましたよ」
振り返り、老人の顔を見る。
何日も雨が降らない乾いた地面に、両生類の背中がひっそりと眠っている。色の抜けた肌。
何も見当たらない事を確かめてから、僕は
「何も落としてません」と答えた。
何も落としていません。

幾日も止まない雨の向こうから女の人が走ってくる。
足にぺたりと張り付いたスカート、浸水しているサンダルの足首。
女の人は僕にお辞儀をした。
ご迷惑をおかけしました。
水底の黒い瞳。
彼女は老人の背にあっという間に覆いかぶさり、濡れたままの全身でもう一度僕を振り返り軽く頭を下げた。ふるえる水面に沈みながら、背の高い彼女は首を少し垂れ、老人はもっと深く、そばに誰かがいるなんて知らなくていいくらいに、深く、溺れ。
老人は持っていたつえで僕を少しだけ傾け、それから僕などはじめからいなかったように帰っていった。


託されたすべてが濡れていた。


対決!VS フラワー団総統(雨の日と紫陽花とMr.チャボと)

  Canopus(角田寿星)


紫陽花が咲き乱れるそんな雨の日には
ひっそりと人は死んでいくのだと
昔 誰かに教わったような 記憶がある

新薬開発のアルバイトで
一週間も引き留められて雨のなかを帰宅する
玄関口 傘もささずにひとり
フラワー団の戦闘員がぼくを待ってて
「そんなんで世界の平和が守れるとですか」
ぼくを軽くなじりながら
黒い縁どりの通知を手渡した

怪人アジサイ男
彼はぼくの留守を知らずに
決闘のため雨のなか三日三晩ぼくを待ち続け
肺炎をこじらせて死んだ
今夜が通夜で
今すぐ出発すればまだ間に合うという

Yシャツと黒ネクタイ ぼくの分と戦闘員の分
お得な紳士服2セット価格で買わされて
戦闘員に半ば引っ張られるように
となり町の会場へ取り急ぎ私鉄各駅列車に乗る
ちいさな公民館を
町内会のご好意で貸し切らせてもらえた

母ひとり子ひとりだったという
息子を亡くした母親は濡れそぼって今にも折れてしまいそうで
ぼくに向かって
「あんたはわるくない
 あの子はいっしょうけんめい生きた それだけです」
と 何度もおなじことをくり返す
ぼくはことばもなく
コメツキバッタのようなお辞儀をするしかなかった

そして通夜の会場は

  花  花  花  花  花  花

フラワー団の献花と 怪人が咲かせた花と
町内会が用意した花で溢れかえっている
花の嵐のなか しずかに
人間だった頃の怪人アジサイ男がほほえんでいる

花を咲かせて献花と焼香をすませる

「よう 裏切り者」のことばに振り向くと
そこには酔眼のフラワー団総統が
ぼくの肩を抱きながら強引に酒をすすめる
聞けば
怪人アジサイ男はながく難病に悩まされて
すでに闘いに耐えられる体ではなかったという
この度の法律改正も手伝って
医療費の捻出もままならなかった
そしてフラワー団の改造手術をもってしても
彼の病魔を駆逐することはできなかった

ぼくの知らないところで
世の中のあちこちでいろんなことが起きて
ぼくはそれらをながめてばかりいた
会場には通夜の花弁がこれでもかと舞い落ちる

フラワー団総統と差し向いで愚痴を聞いてる
総統はすっかり酔っぱらって呂律もまわらない
あいつはドクターストップを振り払って
フラワー団に恩義を感じて闘いに赴いたんだ
母ひとり子ひとり
ひどい暮らしをしていた
たったふたりの人間を誰も助けてあげられなかった
それは誰のせいだ 誰のせいなんだ
おまえは おまえは

「おまえは倒すべき相手をまちがえてる」

いや それは
次から次へ刺客を送ってカラんでるのはそっちでしょーが
といいたかったけど
覆面に隠れた総統の眼をみてるとそんなこといえなくて
正座して無言のまま こんこんと説教をうける

雨はまだやまない
公民館のせまい庭に
紫陽花が咲き乱れている


こごえ

  Toat

いくつ
いくつもの
いくつものあかり
いつものあかり。


夕方に なり、
東京の 切り離された空に
みえかくれ 鴉の尾羽
機械室のはためき

道々には
話し声の亡霊
そのささやかな後姿
夕方になり
斑の手が
それぞれの巣へ向かって靴音高くて

外出着を着
薄荷の香りの手
鉄扉の把手を一回り
部屋に茜    の
残党を捕え  つつ
夕方の
走馬灯の世界い に
消えゆく それは
鴉も翼綴じる
ぱけっとの残光





そして僕は廃墟にむかった

毎朝通学の途中で
気になってなってしかたがなかった
うちの近所の廃墟のアパート

あたりは
もう静脈血の夜
閉じ込めて来た茜は もう溶けてしまったろうか
一体何色の絞汁る
何度上のトーンの呼気を
幽霊を

廃墟には明りが灯っている
いくつもいくつもいくつも
        いくつもいくつもいくつもいくつも
廃墟のアパート             (いくつ
廃墟は            (いくつものあかり
アパート              (いくつもの
廃墟が             (いつものあかり。
 ゆっくり
ほこりをふき出し
   せきをした
            。
ここでは
    話し声は来こえなかったはずなのに、


青い壁 5

  tomo


   青い壁 5

蝉が
腹這いになって動かない道に
白いランニングシャツの影が
つきさされていた

わたしの名を呼ぶ
か細い母の声が
空になった吸い口から
きこえてくる

飛行機雲のなかから
形状記憶の時の切り粉を
なげているわたしを
わたしは見ていた


呼声

  服部 剛

夏の涼しい夕暮れに 
恋の病にうつむく友と 
噴水前の石段に腰掛けていた 

( 他の男と婚約した女に惚れた友が 
( 気づかぬうちにかけている 
( 魔法の眼鏡は外せない 

( 僕等の前に独り立つ 
( 大きい緑の木だけが 
( 風に揺られながら 
( 孤独者の知彗を唄っていた 

一途な恋をする友と 
恋を忘れた僕の間の 
寂しい隙間に 
夕涼みの風が吹き抜けた 

目の前を流れる無数の足に紛れ 
若い妊婦と手を繋ぐ夫が通り過ぎ 
父の背中を追いかけ走る少年が通り過ぎ 


首筋にぽつりと雨が落ちる 

僕の鞄に入った折り畳み傘は穴が開き
役に立たない 


( 隣に座る友の胸中はスコール 
( ずぶ濡れのまま愛する女を探し 
( 暗い森林を彷徨ている 

( 遠い木々の隙間に 
( うなだれ歩く姿を見かけた

( 平凡な日常への出口に立つ僕は 
( 大声で、友の名を呼ぶ


休日

  砂木




服の仕立て屋の看板の前のバス亭から
町を離れる時刻は 数本

昨日の夜から待ってた 朝は
大きな通りに 越えて 来た

牛乳配達のバイクが かちゃりと 続く
家の開けられた窓からは 蛇口を使う音

財布には 往復の交通費と 少し
明るい色にしようと決めていたシャツは
昨日 羽織って 洗濯してしまった

古びた暗い服のまんま バスが来るまで
透明な袋を破って パン かじってる

天気には 違いない 雨じゃない

折りたたみの傘 そっと 触れてみながら
青い海原へ 白線を たどる 


日常(せいけつな老人)

  中村かほり

そとに出ると
蝉のふるなかでひとり
老人が
桃をむいている

みじかく
ととのえられたつめ
ひとさしゆび
おやゆび
ていねいに
ぐずぐずとやわらかい
やわらかい桃をむいてゆく

水をいっぱいにはったうつわに
いちまい いちまい
皮をうかべて
花びらみたいでしょう、
老人はわらう
指先についた桃の汁を
なめとるその舌が
とてもせいけつな色をしている

八月になってからまいにち
老人は桃をむきつづけている
あらわになった実は
もういっぽうのうつわに入れられる
食べてはいけないと
あらかじめ
告げられていた

夕方になると
老人はどこかへ行ってしまう
花びらのうかぶうつわを
たいせつそうにかかえて
老人はどこかへ行ってしまう
帰るのではないことは
ずいぶんまえから知っていた

あしたも
老人はここに来る
あしたも
わたしはそとに出る

何のために桃はむかれ
それがわたしたちに
何をもたらすのかは
どうでもいいはなしだった

繰り返されれば
日常となり
なまなましさはうしなわれていく

らんざつにならべられた
桃はあまいにおいをはなち
鳥や蝶をまどわしながら
ゆっくりと腐敗する


偏愛主義

  佐仲佑也

難解な数式を愛する友達が、

   好きで解いてるんじゃないんです。
   数式なんて、理不尽なんです。
   やらされているんです/強制。」


と、ぼくに言うので、/


キョーセー キョーセー キョーセー 
と復唱してみても、彼の言いたい事    
なんて、分かりっこなかった。
彼って、昔っから変っていたの。
そうなの?/かもね


彼の部屋の中 虫かごが、

   蛾だか蝶だかわかんないやつが、無数
   の やつが うじゃうじゃ うじゃうじゃ 
   が 近親相姦?/そうかな        


彼は
  お母さんが好きです。
  お父さんが嫌いです。
  数式は強制です。  
  虫は抑制です。」      


ねぇ、こぼれてる液が、 乾燥しているの  昆虫。 彼は華麗な手さばき
で、展翅/展脚していく昆虫の 動き/うめき。離して!ぼくの手を、それっ
てキョーセーってやつ?/そう。


崩れないように そっと、触れて羽 に撫でて 怖がらなくていいの。彼が殺
した?家族を? しょーがいないよ。どんまい。虫は逃げないよ それもキョ
ーセー ほんとう? コレが昆虫標本ってやつ
   
   また解かなければならないのですか。
   数式を。               
   標本の羽に触れるように、丁寧に。
   数式を。
   答えなんて要りません。
   とにかく解かせて欲しいんです。
   数式を。
   ああ 開かれていく 羽が脚が
   もう限界です。
   虫は抑制です。」


彼が殺した。家族を。どうやって? しーらない。ぼくが後ろから抱きしめた
彼を これでまた とじられたの。これもキョーセー?怖がらなくていいの、
ぎゅっとぎゅっと抱擁してあげるから彼を。

   お母さん僕の子を妊娠してください。
   お父さん僕を自由にしてください。
   早くしないと、虫たちの羽が脚が
   くしゃくしゃになってしま、う。
   そんなつもりはなかったんです。
   教えてください。
   ブランウン管って強制なんですか。」


彼は殺した
家族を


森の祭

  フユナ



カズラが花をおとし
森に住む蝶が
深々と死にゆこうとする八月
砂地から
こころないひとが訪れる
こころないひとは
分銅の肩を持っており
踏み入ると
腐葉土からは
ムクゲの細かいしぼに似た
小さな小さな蝶たちが
その肩に連綿と留まる
祭が来たのだ。



こころないひとは
ひと呼吸おくと涼やかに
森のこいうたを歌う
分銅のよう
定められた目方どおりにうたごえは
ああ
そのうたごえは
溶解し
蝶は歓喜して微震する
小さな翅が痙攣し
あぶくのような卵をこぼす



蝶たちは
うたを手紙だと信じて
疑わない


祭が終わり
こころないひとが
きびすを返して砂地へ去ると
森の蝶は深々と死にゆく
次の祭では
己の死骸を
こころないひとが躊躇なく
踏みしめることを願って
次の祭を
願って


オートマティック

  樫やすお

昨日と今日という区別はくだらない
ただのっぺりとしたものに彼らは乗っていて
そうしてどこまでも全自動で
いけると知っている

ぼくは黒板に目を向けたとき
必要なことすべてをやってのけていた
ただし緑色の粉が水槽に落ちたとき笑っていたものは
たいていが死んでいるか
死にかけているものだった
死すらも劇的だ
ぼくは彼らの性愛にも見飽きたら
成人式の後の残滓ともども彼らが
プロペラに挟まって死ねばいいのに
と強く願うことになるだろう

粉々になった剥き出しのガラスでも
それが風に吹かれていれば
誰も痛みを感じない
それと同様に
少なくとも彼らだけは
自分たちだけで何かをやっているとは
まったく信じていなかった
それでやたらとわめきたてるというわけだ
その馬鹿さ加減を身をもって
表現することが狙いだったのだ
感動的なんだ
きもいしね

美しく生きるということが
ありうるとしたら
成り行きのほかにはないのかもしれない
それが奇跡かどうかなんてぼくにはわからない
でも破れたビニール傘をさし
星の光をよけて眠る不思議な夜が幾夜かあっても
ぜんぜん困らない
役にたたないしね


羊は眠れない

  三角みづ紀

僕、花柄だったら良かった


夜風にカーテンが揺れない
重い荷物が
揺れることを許さないの
重い荷物、
それはまなざしであったり
記憶であったり
結局は
僕の痛みすべてで
朦朧と
メリーゴーランドはまわるのでした


壁をつたって
天井を這って
にせものの僕がやってくるよ
たくさんやってくるよ
そうして
真綿がじりじり、と
首を締めてくるから
吐き気をもよおすのでした


たすけてたすけて
限界なんだよ
世界があふれてる
たすけてたすけ、て
毛布を頭までかぶれば
またひとつ世界が増える
にんげんって悪趣味だ
僕、花柄だったら良かった


部屋が僕でいっぱいになる
喉からも僕が手を伸ばして
伸ばせば
いつのまにかまぎれこんでしまったのです


僕は何人いますか?
ひとり
ひとり
かぞえていけば
かたっぱしから羊になった
たすけてたすけ、て
そう云ったのは
羊たちだった
朝までには
朝までには僕たち
世界を全部消してしまうから
ゆるしてゆるして
そして沈黙
涙で海を
つくるのでした


世界をちゃんと壊してね
なくしてしまってね
せめて引き出しをちゃんと閉めてね
夜風にカーテンが揺れない
病んでいく暗闇
ゆるしてね
僕が花柄だったら良かったのにね


冬のデート

  ミドリ



わたしは子供を産む気はまったくなかったし
生理不順で婦人科の台にのって
股をひらいたことは一度だけあるけど

幸い恋人はあまり したがらない人だし
わたしもセックスが愛情のベースになってるなんて
考えたこともない

冬の京都で
恋人と「マ・ベーユ」というお店で向かい合って座っていた
ツナペーストをフランスパンにぬって
ふたりでホッとするあたたかいコーヒーと
手のひらの中の 立ち枯れのプラタナスとを
ふたりは肘をつき 窓の外に眺めていた

その晩 わたしは彼にホテルでレイプされ
血のついたシーツをみせて
「処女膜が破れちゃったよ」って言ったら
彼はタバコに火を付けて
ベットサイドからタオルを投げてよこした

その目のそむけ方や仕草で
めんどくさいって 言ってんのが伝わってくる

世間にはいろんな歪みがあって

例えばスーパーマーケットの パック詰めの肉は
お墓のない動物たちの 死体の群れだし
子供なんか 絶対産みたくないわたしは
子宮や膣を 大きな鍵でガチャンと閉じた
けっして母親になることのない女だ

街を歩いていて
お腹の大きな主婦を見て
妊婦なんてサイテーだって彼にそういったら
耳に触れてるわたしの髪に ツンっと鼻を寄せ
海のイルカの匂いがするねって 彼が言う

わたしはわたしが
イルカだってことは 十分ありうるな
なーんて 考えながら歩いていたら
横断歩道が青だよって
彼に背中をツンツンってせっつかれる

現実の時計の中にしか 彼の時間には流れがなくて
わたしには夢で得た 人生しかないんだ
そう思ったらちょっぴり

さっきの妊婦のぽってりとした
あの大きなお腹の膨らみに
甘いものが きちんと保たれている

なんて 思ったりも するんだよ


天気予報が伝えた雨

  はやし こうじ

昨夜の天気予報が伝えた雨は、
午前中を過ぎても、一向に降りだす気配がない。
朝方には雲が低く覆っていたのだが、
いつの間に少しずつ流れ
向こう側の空は少しずつ明るさを取り戻しているようだ。

また外れたな、と思いながら車を運転していると
ラジオが隣町の豪雨を伝えてきた。
僕は一人で、オッ、と言って少しばかり驚きの表情を作り
信号で止まって後ろの方を振り返ってみる。
もちろん雨は見えない。
雨が降るから、と言って妻が持たせた傘が
後部座席の下、足元に乱雑に置かれたままになっている。

妻は出がけに僕を玄関まで送り、傘を渡した後
蒸すわね、と一言言い、
踵を返した。

昨夜、僕は酒に酔い
妻が子供達を寝かしつけているうちにソファでうたた寝をした。
目を覚ますと深夜で、妻が布団に寝ろとうながす。
身体を起こしソファに座ると
妻は少し離れた床に座り、
今日、今月、きた。と言った。僕は
そっかと言って、部屋に入った。

僕が自分の部屋に入った後に妻は
僕のシャツにアイロンをかけ、眠りにつく。

その後、僕が寝付けなかったのは
うたた寝のせいだろうか。

信号はまだ赤のままだ。
少しだけ明るさを取り戻した空が山の向こう側で
ドドッ ドッ ドッドド と不気味な唸りをあげはじめた。
僕は、来るかもしれないな、と思い
もう一度振り返って、光を透した雲を仰いだ。


水生のキオク

  水無瀬咲耶

時の羽ばたきが 瞼をかすめる

世界中どこを漂泊しても立ち位置が無い
空隙だらけの足もと 定まらない重心
目を閉じて大地に寝転ぶと
それが分かってくる

透明な午後 風は光り
丘は彼方へと幾千もの草の帆を翻す
くるぶし くすぐる 翡翠の波
ぼくの輪郭は風に溶け やわらかな魚影と化し
眼下にはるばると開かれてゆく蒼い蒼い海のトビラへと
泳いでゆく衝動を 止めることさえ できなかった

争いや悲しみで暗くにごりゆくヒトの未来も
海藻のように揺られると 熱く透き通ってくる
光の網を幾重もくぐり
螺旋の紐が ほどかれると
ほの明るい水底で蠢く 源へと還ってゆく

 古き太陽の いざない
 折り重なる水生の記憶を辿り
 ふかくふかく 全てを慈しむ
 あの 大きな眼差しのなかへ
 ぼくは 生まれ変わってゆく

青く潤むひとしずくを胸にかき抱いて


ヴァニラ

  れつら

コンビニまでふたりで歩いていくあいだは
噎せ返るコンクリートの熱
自動ドアがひらく瞬間の冷却
ソフトクリームをみながら
いつかきっとわすれてしまうんだねえ

どこかがつぶやく
ちいさな夜

手をにぎっている
消しきれなかった熱がたむろする血流
なんだか
え、なに
なんだか、ねえ
なにそれ
融和

からっぽのビニールぶくろの中
昼間はずっとふたりでねころがっていた
はだかで
愛撫をつづけたらきみがなくなっちゃうんじゃないかと思った
きゅうにさむくなるのはいけない
だからといってゆっくりさめていくのはかなしい


きみのあそこのにおいをおもいだした



小詩集『鳥、蝶、蜂〜言葉を語り出す時〜』

  藍露

1、鳥、色彩、言葉を語り出すとき

熱帯夜を飛び越えた極彩色の鳥よ
色を射抜く朝の光
拡散する粒子、艶やかに
丸く切り取られた水の器
夜の名残りー火照った翼を浸し
色彩が螺旋状になって 
幾重にも染み出してくる
鳥は夜の言葉を深く語り
朝の言葉をまだ知らない

鳥よ
蟋蟀のように震わせる羽根よ
濡れそぼり 美しい音色は聴こえないままに
水は水のままで 透明感を失わない
色が溶け出しても
水は水の容器としてあるのだ

豊潤なる空から
菱形に連なる光の帯
鳥の眼はそれを鋭く捕らえ
咀嚼してゆく
こどもが言葉を覚えてゆくように
すこしずつ すこしずつ

鳥は時折、苦しそうにもがく
言葉の意味が死んでゆくのだ
それを弔うように
深層で白い花を咲かせる
溶け出した色彩は昇華して
水はまた水に戻った
水は水としていろを持っているのだ

朝の光で羽根を乾燥させて
崩れそうな円柱の周りを鳥が舞っている
鳥は朝の言葉も語り始めた
聞いている者はどこにもいない

円柱が崩れて 発音された夜の言葉は墓になった

色彩が抜け落ちた鳥
鳥もまた鳥として原始のいろを持っているのだ


2、蝶、おまえは花を知らない

前翅を燻らせている揚羽蝶よ
おまえは花を知らない
蜜を吸っているその塊は
もはや死んでいる
息をしていない
青い呼吸をしていない

聖火が灯り
炎がごうごうと夜を燃やす
儀式が執り行われ
たくさんの花が生け贄になる
生きている花は言葉を喋るのだ
香しいリズムを放って
くすぐったい音を漏らす

蝶は傘を持たない
まだらな雨を遮る傘を持たない
水滴の嵐に打たれるときも
もはや花でない花の周りに群がる
花々のお喋りを聴くこともなく
それを花と信じ 疑わない

蝶よ
黒い揚羽蝶よ
立ち尽くした夜を携えた羽根よ
鱗粉が零れ落ちて
鱗翅類がしきりに羽根を動かす

儀式の向こう側
朝がまたやって来るのだ
蝶は柔らかな(造花)に群がり
今日も蜜を吸う

蜜は死の匂いがする

蝶は歌う
覚えたての朝の言葉で


3、蜂、言葉を集めて

夕陽に収束されようとしている蜂よ
まだ一言も言葉を発せずに
運び込まれてゆく群がりよ
蜂は羽根を震わせて
あかく染まる言葉を集めていた

言葉の連なりは巣を揺るがせ
発音することはない
無言で溜められてゆく文字
蜂はその意味も知らずに
六角形の中で激しく動き回る

深く切り裂かれた夜が訪れる
切れ目から 夜の言葉が零れ出す
あらゆるものの上に注がれる 
ぽろぽろ、と ぽろぽろ、と
熱い単語たちが分かれたり 結合したりして
地球に話しかけてくる
蜂は夜の会話を聞く
それはとろり、と甘く
女王蜂が痙攣する甘美な誘惑だ

月と星が聴いている
宇宙を駆け巡る夜の会話
蜂は熱の冷めやらぬ言葉を休むことなく集め出す
夏を焦がすような熱さで
蜂は羽根をじりじり、と燃やす

夜明けが近づいている
隆起する山の間から太陽が顔を出す
単語の熱は明け方に冷めてゆく
灰になって ぼろぼろ、と崩れ落ちる
蜂は灰になった単語の山をぶんぶん、と飛んでいる

蜂は言葉を発しない
巣の中に集めて
語るときを待っている


ある葬列

  Toat

ケンタウロス座のくらがりから
一房二房垂れつづく映像は垂柳
風のながれに解け絡まり点滅し
その楽音はきわめてつめたく。


目を閉じながら雨音だけ聴いている。
目を開けると世界がとおのく
丸まる景色、そうやって距離を遊び
幽体離脱しようにもおもったよりおおきなからだ
唯唯耳のみ風に運ばせ
遠く近くに編む映像

葬列は、

喪服は雨に濡れて蒼々と
「死者が誰なのか」
尋ねても誰も答えない。
掌の雫のとおい円み。
朝靄か雨霧か
そんなことはどうでもいい。
皆、顔は思い出せないくらい白くて、
実際、多分二度と思い出さない。
(でもふえたりへったりで
 これが全員かわからない
 ゼンインとはいったいなにかも)
葬列は次々と家を通り抜け
木々を薙ぎ払うこともせず
こんこんと粛粛と歩を進めた。[The funeral procession walked along ceaselessly in solemn silence.]
その跡はうっすらとなり星座になった。
誰も名を尋ね合わない。

  。
風が通り抜け或る者は
十字架を握り或る者は
数珠を握った。
僕は何も持っていなかったので、
自分の小指を握り、
握った。
時間が凍えて遅くなった。
目を閉じて世界を試し、
目を開けて世界を夢みる。
人の一生が
数時間か数日前に終わったのだ。
そして幾つかの朝と真夜中を経て
葬列が出来あがった。
シルクの匂いと
鼓動の音色のする葬列。
それは朝の光とともに
消えてしまうかも知れない。
消えてしまってもいい。


目を閉じると
誰かの映像が見えた。
目を開けると
風の虹色の歌がみえる。


死ぬ間際だよネーチャンこの言語動作は

  狩心

正常な者は立ち去れ 死の言葉を目撃してはならない 幸福を求めるものは立ち去れ

二十二時二十二分二十二秒二十二二十二二二イコールイコール類コール胃胃袋増増殖食食 
ああ、気持ちええ。きもちいい。気持ち悪い。わからない。変わらない。甲高い声、キィ!

東京発乱気流歯医者男失踪車線変更脱毛改革勃発恐怖落日政治学校虐殺請求書類上詐欺師
告発人間的破片無重力怪奇現象

新幹線も 飛行機も さらば さらば 
頭が痛くなる 体は固定され 引き千切られる
移動 さもなくば 死 わだかまる 脱 天空者 脱 けちらし 純情 緑翼の野獣

運命はそこで閉ざされた。分かりもしない事を分かるはずだと思い、分かりもしない事を分かると言い放ち、言い伝えの通りに前後運動を行い、一体それに何の意味があるのか。我々は、今を生きているのか。そうか、でも俺は今を生きていないんだな。そして、諸君が生み出した、ソーダ水を飲み干した、体中から生み出したそうだ。全てがどうでもよくなってしまった諸君。意識は無意識だろう、無意識は死んだだろう、宇宙のやさしさに腹が立つだろう、諸君が極悪非道残酷の限りを尽くしても、既に世界はそれ以上に虐殺なんだな。諸君が自由を謳歌し、愛で世界を満たしても、それを行う以前に既に世界は素晴らしいんだな。何か、やらなきゃならない事があるはずだと思い込む使命感は自由だ、ファの音が出るくちばしはミファソだ。俺が漂っている殺気漂う無銭乗車、ここはサイレンが鳴り止まない遊泳禁止、補助輪が作動する動作を見せ付ける危険区域だろう、そうだろう、さざなみ。

俺は生きているのではなく
 生かされている 養殖産業
俺は動いているのではなく
 動かされている 強制労働
俺は俺に反逆する俺は俺を殺す俺は生かされていない動かない俺を創造する俺は死んだ方がマシだ誰のせいでもない落ちるなら堕ち切れ 切れ端になれ 死ね早く死ね これはポジティブだ 俺は常に前向きだ そうだろう、アゲハチョウ。

縄梯子を用意しろ。今から。見失うような見間違えるような見る事など出来ないとの宣告は、お前が死んだ後だ。空洞化されろ、嫁入りしろ、早く早く早く、乳母車爆発の歓喜。

ああ死ぬもう死ぬ 死のう死ぬ時 おい てめぇ このやろう そんな気力もねぇ 絶頂 
全てがどうでもよくなってしまった諸君 ざあざあ降りだ 久しぶりだ わかめは海藻だ
心は死んだのに指先だけが生きたいと叫ぶなんて誰が予想しただろうか 朝はお茶漬けだ

弱者健康歩兵隊前進前略母上父上祖先全部省略削除決定稿世間出没地下鉄事件妄想軍事力

五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い
五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い
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五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い 五月雨散文詩メカゴジラ来い

どうやらおれはまだ希望の星を

使命感は植え付けられた 世界がこんなにも暗いから 心温まる火を人々は掲げる
海の波は力強いから 一人乗りの木のボートはすぐに浜辺に打ち上げられてしまう
海を眺める 左から右へ 右から左へ 同じように見えるか? 何か違いはあったか?
ナタデココゼリー どこで抉じ開けられた缶詰 声が出ないもう声が出ない 
砂漠の歯応え 己1 己2 己3の首を切り落とす 何か世界に変化はあったか? 

新幹線も 飛行機も さらば さらば スカイジェット 万が一のダージリン珈琲
頭が痛くなる 体は固定され 引き千切られる

移動 さもなくば 死 わだかまる 脱 天空者 脱 けちらし 純情 緑翼の野獣

唱えるよ、ごるむぞてにた。

こんすとるらくちゃ。みんたまげた、はきだんめんなか。
めくそんたれ、まだがすかる、またにとうはいらん。
みんたまげた、こんすとるらくちゃ。

にーたんたれたん、すきみる、ろうろうとるべきすがた、ふぁっく、すとりんみー。
ざるぐるべるぐるぼるぐるもるぐる、はじきとばしのなか。
おれの世界に誰も入るな、呪い殺してやる。
ひとことまさいばる、まるまるしくまさいばる、ろうろう。
ちくさんげのむ、じんたくめき、どーじょーなす。
がづでむにだ、がるばるがる、ばせにそんみたる。
むしけらのごとく、ゆくがごとし、おまえらがごとく、はじきとばされるなか。
こうちょくむし。
ねつききゅう。
きゅうじじん。
すきーじじみんたれたれ、じじじじんせいわすれるな、すわれるな、すわれるとおもうな、
なげだせ、ここまできたのだから、おまえらはほんものだ、

こんすとるらくちゃー!     みんたまげた!
はきだんめんなか!   めくそんたれ!
まだがすかる!   またにとうはいらん!
 みんたまげた!   こんすとぉーるぅーらくちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!

移動 さもなくば 死 わだかまる 脱 天空者 脱 けちらし 純情 緑翼の野獣

こんす とぉー るぅー らくちゃー


不敵

  

きょうはおいらより若い男に殴られそうになった
横断歩道には店々の光と信号機が威勢のいい若い男を照らしていた
その男は彼女を連れていたし おいらはその男の彼女をにらんだわけでもなかった
その男をにらんだわけでもなかったのだ
横断歩道の信号が変わりいっせいに歩きだす
知らない他人同士のさっきまでの10メートルの距離が
心もち他人同士の目礼とともに縮まりあいまみえたときだった
その男は親愛なるファイターのようにおいらに襲いかかろうとした
もし本当に殴られたら一応殴りかえそうという準備はいつもしている
だが本当に殴られたくはなかったので
おいらはコートに手をつっこんで立ちどまり下を向いて落ち着いてみた
一瞬ふくらんだように見えたその男はそのまま音もなく過ぎた
その男には去り際に吐くような傷心がなかったので
おいらもそのまま傷つかなかった
本当に殴られることはないだろうけど
人に殴られるということがどんなことか
どうして殴られなくてはいけないのか?
殴られたらきっと頭ががくんと来て
頭のなかががちんといって
おまえが殴られるはずないだろう?と思いつつ
そうだ おいらはほんとうは殴られるはずはないと思いながら
本当に殴られたら一体どうしようかと考えてみると
おいらはその横断歩道で倒れふし 頭の痛みとアスファルトの痛みを混同して
街中のクラクションというクラクションに煽られ
人目のふし穴というふし穴に落ち込み
怒っているのか笑っているのか?信号器のチカチカという瞬きだけで
知らないおばさんの助けようとする声も嬌声か叫び声かにしか聞こえず
子供はなぜか赤の他人のおいらを見て泣きじゃくっている
それでも疲れて打ちのめされていたらやはりおいらだと思って馬鹿のふりをしているしかない


まぼろし。

  he

根本さんは無口だ
機械なんじゃないかと思う
昼下がりの頃
バス停に佇む老人のようで
淡々と逆上がりに打ち込む
小学生のようで
何を考えているのか
何も考えていないのか
甘党なのか
その表情からは
何も察する事はできない
例えば水は
ひとところに集まり
大きな粒になろうとする
けれど
根本さんは根本さんのままで
油をまとった水滴のように
最小限の体積で
そこにいる
まだ
触れることもできないくせに
手を引っ込めて
日々を飛び交う事件の中で
ダイオキシンが騒がれて
校内の焼却炉は閉鎖された
窓の外にはムクムクと
青白い煙が透明な酸素を
ひとつ、ひとつ、消していきながら
昇り
不思議そうに見つめる根本さんの瞳に映り
僕の瞳にも
根本さんの瞳の奥が
ゆらゆらと揺れながら

映っている


夕暮れ

  たばこ



息を奪われない安心感をいつのまにやら持たされて
揺れる窓から黄緑の景色を見つめていた
そこへ行けたら、そこで歩けたら
なんて想像をしては誰かの声を聞き逃していた

太陽が落っこちても明日は来ると知っている
本当は誰もが信じているこの現実を誰が心から疑える

とどかない葉書を待たされて視界はオレンジに染まる
震えた文字が何かを物語る
続く呼吸もやがては苦しみを帯びあの太陽とは逆の方向へと

あと何年なんて言えるわけもなく言うはずもなく
きっとあの先の田んぼの稲はあなたのように子を抱いて揺れているのでしょう

文学極道

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