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case

選出作品 (投稿日時順 / 全12作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


チューブレストランバースデイ(草稿)

  枷仔


マカロニにんげん
管を、
すいこむようにくちにくわえて
すいこむように しろいものを
したでからめとって なかみを
ああ にがいにがいといいつつ
すいこむようにくちにくわえて
すいこむようにくちにくわえて
くだった白く濁ったものだった
下る
さかみちを、
坂道のしたでは戦争
ずっとそらがちかかったせいか
膝に負担が掛かる下り坂
背中が徐々に汗ばんでいくのがだるい
だるい
気だるい
靴底に穴を空けるまで歩き続けることが目的だ、
と、豪語する風と
近似的な気持ちを抱いていた弾丸
まさかかすめるとはね
風切音
くうかんのだんれつ
その すきま
いま、一瞬ひらいた  空白
そこをうめつくすような  空白
の群れ
おそろしいほどの親近感
どうせ歩くことしかできないのだから
深海魚と大して違いはないのだ。
けずりとられたマカロニの内壁を
外から修正
(ここはどこかしら)
絡ませたソースは
くちのなかいっぱいにひろがる咀嚼
おいしくいただく
  いただきます。
  めしあがれ。
  ごちそうさま。
  おそまつさま。
米と異なるものへの変貌を予期して
トイレへ、
便座をひらき
   すわり
   いたし
   ふき
   たち
   ながす
でていった
はいっていた
マカロニのソースを嚥下する
ひっかけた のど
ねばねばしてすこしこまる
見限られる
さかな
アンコウ
食欲に見限られる
浮上に伴う膨張
凝縮する骨
崩壊する肉
堕落する鱗
くりあがった視界
あたらしい海
海面が深海
二本足の深海魚の町へ出荷される
すくわれないものを前提に
いま、箱舟が出航する。
(どこも嵐にちがいなく)
とが
稀に含まれている とが
うそです
と  とが
常にです
と  とが
歯にあたった とが
ことば
口偏に愛
はじきかえされた とが
ふたたび内臓を
浸す
(逆流する 塩酸  、

こうもん/くちばし
出口のちがいなど些細なことだ
(  。
入り口ではない、と誰が言い切れる)
輪も
もしくは和も
もわもわも
わたあめのような不安
堂々巡りする灰色の砂糖
とける
「はなれられない
がびがびのティッシュ
糖度もしくは
蛋白質が凝固した
死骸
もとはここにはなにもなかったのですよ
マカロニがソースに絡まるように
餌が糞になるように
つうかぎれい
つうかぎれい
つうかぎれい
つうかぎれい
出たり入ったりしていれば
そのうち 出ますから
そのうち 入りますから
(放屁)
たゆたゆとたゆたい
くたも
((皆そこでたゆたいたいったい!
水底
くうきに圧殺される
圧殺されない
まいごになったら子宮にお帰り
魚は水中
人間は空中
水に濡れた魚から見たら
空気に濡れた人間が見えるのかしら
胎児には羊水なんて見えなかったのだろうね
排泄(テーブルの上には
排泄(鮟鱇のから揚げ
排泄(肉は美味いが
排泄(骨は硬い
排泄(食欲を拒絶するほどの生命力
排泄(のぞんでいない
排泄(変化を内包する卵に祈るのだ
排泄(もう決して、うまれてきませんように、と。
排泄(……………………
まもなく、戦場


[ sister(s)/石の視線 ]

  枷仔





[ sister(s)/石の視線 ]





空色

折り紙

川底

汚泥



さぐっていても  鶴 は

なの よ

「「
姉のことが、すきでした。
」」
靴の裏がわ
アスファルト
/コンクリート
(土たちは息苦しさを感じている)
あるいている

そして 鰭〈支えている
Minai de kudasai
わらっている
ひざ
ちきゅうとこおうして
膝の負担はそのまま、地球の負担と同じですもの。外核は滲み出てくる一方ですから、かわかしてください。
ようがんのような
nami,da
(人知れず水に戻っていくということ)
(寄せては
、〈
返してく
。〈 )
すきでした。
姉のことが 、のことが、
「うた
っているのですか、幻

、っているのですか。
幻なのよ
(きらきらうろこ)
〈いえ、まろぼし です
掌をつかって
あたためてはいけない
あるべき  卵」
かたいものも
かたくないものも ありました/
すきっでしったあっねのっこと、っが。
/割られた
ひたい、から溢れる、は、妹

〈染メた
(いったい、
、なに色なのだろう)くちのなかは、)を、優雅におよいでいる)。
つつみこまれた女は
夕日のようだった。
スッデッタ!                           〈oe
ッッガ!                          〈oe
妹の酸素が卵をゆでるので
かたいものも
かたくないものも ありました〈か
「「
・・・・・・
」」
姉の声がきこえる
きこえない (そういうこともありました)。〈か
いいえ、
ちがいます あれは 姉は、kotoba(〈小魚は鳥に食まれることとなっ/地球だったものを飲み下す)
妹のひたいは泥のようになって
そのくちばしを  おおさめください
赤い空気を 吸い込んで  (吐き出して)
うまれ


うまれ

くる
うまれ

くるう
( 石/の)ghost
姉はもうどこにもいな い。
はなすじから唇をわって、なかへ
鉄の味


、 そしてつつかれる
鶴にさぐられる
いやだ。
ぬれるのが嫌いだった姉は、雨の日は折り紙を折るのがすきでした。すきでした。折り鶴がおられました。
よく晴れた日がすきでした。空色の折り紙がすきでした。空色の折り紙で鶴を折るのがすきだった姉の妹の
ひたいは石で、
わられました。
わらいました。
開いたきずぐちは  わらっているようでした。
――――――で・し・た。
「傘をさしても
「傘をさしても
「傘をさしても
「傘をさしても
「傘wos-/                   -a-                 /-nenokotoga,
ふりません
何も
ふりやみません
折りたたんでしまいましたから  空は
しろい羽根を汚し続けている。
(薔薇色ならばいいというものでもない)(<胃液は魚の体液に浸されている)stone(液状記憶)one
イキ(をす)るため〈か
、指から血を流す。
、と



かお

〈Minai de kuda-/                -s-                 /-ukideshita


[教室が蝉]

  香瀬


[教室が蝉]





.        黒板の前に立って、教室のなか、窓のない教室のなかは、ドアもなく、取っ手もないので、
何もつかむことができない、そんな取りとめもないことを筆跡に託す。



.                                活字と変らない彼方の会話を、私は
一つ一つタペストリーにするために縫い合わせていたところなのですよ、えぇ、その流行りのフォントで話
しかけてくるのをやめていただけませんか。



.                    木製の机に備え付けられた金属の義足は重たいよね、はにかみ
ながら云うもんだから私は、いつだって抱きかかえることができるように鍛えたものです、いつでも座って
いただいて構いませんよ。



.            それぞれの椅子にはそれぞれの座り方があるので、はい、座りなおしてください
ね、発言する時には手を挙げるように云ったはずです、(窓の外では)(窓はないのに)誰も入ってこられ
ない行列。


.    鍵をかけておきました、ドアに、そのドアにねじこんでやりました、ので、ひらいても構いません
が、入ってこられるでしょうか、黒板に蝉の絵を書くのだけは、早めていただきたい。



.                                       、は止めていただき
たいのは、/爪を立てて声を出す真似をすること/止めて、患ったままになった機械の窓に螺子が、螺子を
書いたチョークで、ああ、またこの窓も開くことはできない白い粉ですから。



.                                    蝉は取っ手の内側にいる生
き物だから、彼方も(そして私も)まがまがしい、強いられた内臓のデッサンを(チョークで)行なわなけ
ればなりません、外では夕日が(窓はないのですが)ドアを焼いているというのでしょうね。



.                                           空調は壊れ
たまま、焼かれた空気を吸った私たちの肺も、灰に、焼けてしまったのですね(彼方!)羽を持つ生き物で
あったならば、この空気を啼くこともできたのかもわかりません、(抱いて、と)。



.                                     黒板はとけて、蝉は、焦
げ臭い私の(そして彼方の)鼻腔を侵す、(お菓子(を)ください)排気を覚えておくことだけで、今はい
いのだ。



.   時計の針はいつも正午です、椅子から立ち上がることで残った靴下、彼方のフォントからかけ離され
た(足蹴にされた)床、這う、彼方、なぜ、そこに、いるの、でしょう、か。



.                                   足蹴にした(その脚部の付け
根に大きな穴がありました)私は(彼方を、)踏み、床は、何処までも私の顔をしていました、彼方が這う
から。



.  本当はそんな生々しい(生易しい)、教室の、とけた黒板に蝉が、今はもう内臓も(描かれているから)
忘れました、忘れてしまいました、思い出すために。



.                         窓はなく、彼方が、私は踏まれている、ドアの取っ手
を、あの吐き気を催すフォントは排気したい、ひねって、刻まれた(外にいた人々の行列は、はたして、)(
足音も跡もなく)消えてしまった、誰も彼もが。



.                      蝉が(私は教室、鍵をかけて、ドアはないのに、窓に残る指
紋をふいて、向こうの景色は見えず、四方はすべて彼方、壁ですので、何も見えず、聞こえず、臭えず、床も
天井も違いなんてあったかしら、内臓のデッサンがとける、フォントもとける、口をひらいても穴はなく、味
わえず、感ぜず、ただ淡々と)、啼く。


[素数を繰る]

  香瀬




[素数を繰る]



P.02
コダマ
(まんまるいらしいんです、ちきゅう
. もしかしたらこのこえも はねかえってきたものではないのかもしれませんね)
(あるいは、ここまで届くのに いくつもの何かによるつぎ足しがあったのでしょう)

P.03
「ねぇ、みて、ヨクにキバが生えているよ」。
、と
“谺”という字を見るたびに 少し大きい彼方の瞳のサイズを思い出します

P.05
Yokogaoに対する、〈蝕〉ヨク/
抑えつけているくちのなか/
、歯が、〈咎〉っている
(もしかしたら)

P.07
(アクビはカケてしまつたから)、(厭々ながらねむる)ゆめをみる。

P.11


P.13
「ねぇ、みて、ぬい針 が落ちてきたよ」。
、と
濡れた窓に投げた視線は汚い放物線を描いています
(机のうえで組んだ手にひかっているものがあるかもしれません)
/いえ、泣いてなんかいないんですよよょ

P.17
丁寧。
に、Yokogaoはくちをくちびるにぬいつけ(ぬいあわせ)
(そっと)、アクビを(亡く)した。
/ねむれないね
/ねむれないね
/雨だね
/ああ、風がつよいね
/けされちまうね
/けされちまうね
/鳴いたのにね(げろげろ
/ああ、鳴いたのにね(げろげろ
(/いえ、泣いてなんかいないんですよよょ)

P.19
〈仔〉声で(「吐け」「出せ」)。
、って そんな風も 何かがつぎ足してふるわせたのでしょうね鼓膜
ひっかきまわしたい
ひっかきまわされたいのです(彼方の)キバに

P.23
(吐息)、
「ねぇ、みて、 ねぇ、ぴらにあ の においがするよ」。
彼方の地名を“ぴら”といいます
きこえていますか(ねぇ、みて  、と
すべての雨風のうまれるところは ここなのですよ

P.29
甘いのが
すき
渓コクに泳ぐ(むすうのしろい)魚のにおいにうんざりする。
“あのにおい”に

P.31
・うんざり・

P.37
吐きちらす(ちらかされる)
〈産〉乱
ふたりで空の(注ぎ口をくわえる
いったいいつになれば糸をひくのでしょう。(ここ からは出られないというのに
/けされちまうね
/ああ、けされちまうね
/けされるのはいやだね
/いたいのはいやだよ
/雨だね
/ああ、風がつよいね

P.41
しろい 垂らされた糸をつかめばよかった
(ここ からは出られないというのに
(/いえ、泣いてなんかいないんですよよょ)

P.43
すでにその糸でくちびるを、ぬいつけ(られ)ているのです
(「ねぇ、みて、 る?」。)

P.47
ねむりましょうか。
(カケたのならば埋めあわせればよかった
. みみをすましても まどのそとには“きこえない”がいっぱいです)
(いいかげん ひらいたらいかがでしょうか)

P.53
(選択肢なんて売ってしまった)

P.59
つば、指を濡らす挿入
(しろい 魚をすり身にするすり身にする しろい 糸をくちにくわえてぬわれているくちも しろい く
. ちびるになるほどきつくきつくぬいつけられていて しろい くもは注ぎ口をふたりにくわえられたま
. ましゃせいし しろい スケッチのうえでわらっている“ぴら”のYokogaoだけでものみほしたかった
. のですよ彼方は しろい /雨/にはうんざりでしょうからもうすぐ しろい ここはけされちまうね)

P.61
(すいこむようにくちにくわえて)

P.67
しろい
甘い手(机のうえ“きこえない”は手を組んでいる ひかってはいない

P.71
Yokogaに(さらす)
(「ねぇ、みて、 r/ないの?」。)

P.73
どこもかしこも  ふるえはやんでしまって  、(/ないていたのにね(gerogero
ここはひからないし  彼方のにおいもすでにない  。(/ああ、ないていたのにね(gerogero


[みあげたら  海]

  香瀬


[みあげたら  海]





やどぬしは
いくつもの毛穴から
塩があふれ
こわばった天井のすみに
影に
こりかたまる  海
りょうてでおさえても
ぬいつけられた影は
やどぬしを浸しつづけ
あふれをとめることはできないのです
塩にむらがり
もうすぐ またふえることになる天井のすみへ
影は
みず浸しになることも
わるいことではないのかもしれません
、と きこえる羽音も
いまでは塩づけられている影に
のみこまれようとしています
あふれつづけている羽音は天井のすみになり
(あるいはさっかくであるかもしれない境目も)
浸される
どこから毛穴なのかわからないから
どこまでも  海
天井のすみなのです
、と もうきこえなくなった羽音は
おびえ
ひろがりをやめない境目のすみは
天井をころし
やどぬしはみあげていたくびすじを塩になでられながら
けいどうみゃくから
羽音をぬすまれることでしょう
(あるいはみおろしていたのかもしれない海を)
ころされた影は
塩のかせきとなることをえらばされ ひとつ
またひとつ 沈殿しては てばなされる境目も
ともにやどぬしが塩となることで
海は羽音でみちみちていきました//みちみちて いきました
やどぬしのかせきをかかげ
すべてはさっかくだったのですね
、と いつまでも沈殿をやめない天井にむかう羽音に
影と塩が
うちけされた境目のかずだけ うがたれた
やどぬしは
みちみちているのです  海


[entenjizai]

  香瀬


[entenjizai]





   撤回に翅を縫う。眼の前にはいくつもの完全な球体、影が滑り行く風景、浮かぶ、頭
   の上に浮かんでいる太平洋の表面張力、波打つ完全な球体に影はあるのだろうか、ひ
   とつひとつ滑る、丸い影は何もかも染める、黒く、注がれている無数の完全な球体は
   頭の上で表面張力に怯える、無数の浮かぶ太平洋を歩いていけたらいい、そろり、と。

   割らずに残される、頭の上、残された完全な球体は肺胞に拒まれる、阻むくちびるは
   開き、東京湾を嚥下しようとする、咽喉をくだっていく無数の東京湾、さはれ、いく
   つもの完全な球体状の影に、内臓は血みどろ、染められていく、黒い東京湾は汗とな
   る、いたるところから翅が出てくる、握られる、抜け殻になってしまう、はらり、と。

   脱皮、せいこうした扇風機に消される翅音、コンセントを捻じ込むとき、人差し指と
   中指のあいだに生じる愛を発見する、荒川の河川敷には、敷き詰められた影が、頭の
   上に浮かんでいる無数の荒川を凝視する、あ、おひさしぶりです、「あ、おひさしぶ
   りです」と言われた精子を内包する完全な球体、黒くて透明に破裂する、ぱちん、と。

   見える、誰かの唾液でも乾いた眼球を加速させる血液、すべて完全な球体が通過する
   、皮膚に触れる回転運動、雨が降るたびに身体が蒸発していく、空隙になった翅に透
   明な活字が浸透してしまう、完全な球体におかされている、無数の見えない効果とし
   て立たされては、次の海が縫い返される、完全な球体の転がりはやまず、ころり、と。






.


[ピーナッツ]

  香瀬



[ピーナッツ]



目の前には ばら撒かれたかのように 柿の種 が散乱している。
一目でわかるほどピーナッツの割合の多いテーブルの上、きっと指先は少し辛いのだろう。
行儀悪く指を舐めつつ足を組む、掛け違ったままのボタンも気にせずテレビ画面に目をやりながら、汚れていないほうの手で皺にならないようにスカートを脱ぐ。
CMではビールをうまそうに飲む名前の知らない女優が ビールをうまそうに飲んでいるのを見ながら足を組み替えつつ ビールをうまそうに飲んだ。
グラスの底に溜まった泡まで飲み干そうと吸い込むけれど、咳き込みそうだし。
言い損ねた言葉が出てきそうで、あわてて むせた。
鼻から麦のにおいがしてくると、左手はケータイを弄りだし、右手は食べる気もないのにピーナッツをつまみ 向かいの席に投げている。
きっと千葉県のにおいを期待しているのだ。
((チューゴクだろうけどね。))
恋人同士が待ち合わせをしている、手にはケータイを持って楽しそうにおしゃべり、そんなCMが流れている。
ピーナッツばかりが散乱する小さな部屋で、実は誰とも繋がる機会を手にしているんだ。
機械を手にしているんだ。
千葉県のにおいのしないフォントで「おめでとう」(と、小声で)吐き出してみたけれど、汚れていないくせに親指は滑らかな文面を書けないでいた。
滑らかな液晶に悪態をつき、グラスの底の泡を飲み干して打ち直す。
「オメデトウ」(と、もっと小声で)言ってみても、やっぱりどこか辛口で、ピーナッツをひとつまみする。
鼻の奥から千葉県((本当はドコだろう?))のにおいがして、部屋が回転していくのを感じた。
酔いは さめてきたけど、アルコールが回ってきたのだろうか。
ビールなんて水だと思っていたよ、ボタンを掛け違えた人に届け、と必死に親指を動かそうとする、汚れた指は煙草を咥えさせライターを準備している。
回転する換気扇の向こう側に吐き出した二酸化炭素が真っ白く逃げて行く、もともとナカにあったものなのになあ。
置いていかれたピーナッツを 齧る(/に 齧られる)。
これ以上、指を辛くはできないよね。
渦を巻く部屋と渦の中心の圏外がどうしても届かない。
もう苦くなりそうなメールに「omedetou」(と、口だけ動かして)いつかまた千葉県のにおいをさせた返事を  ください。
おくってくれたらいいな、そう思っています。
指紋の増えたケータイをテーブルの上に投げ出し、散乱した柿の種は胃袋に収まりを覚えた。
ピーナッツは掛け違えたままのにおいを気にしている様子はなく、ビールではないアルコールがそろそろ欲しい。
もう一度足を組み替えて立ち上がろうとするけど、圏外のソトにはいったい何があるのかしらん。


[シウマツ]

  香瀬


[シウマツ]





日曜日
道を一人で歩いていた 
公園へ行こうと思った 
向こうからやってくる男性はお年寄りだ 
桜の樹の下ですれ違う

 まだ咲きませんね 
         」
と言うと

 その科白は彼女のですよ 
            」
と言われた 
おじいさんの指差す先を見るため振り返るとリクルートスーツを着た女性がツカツカと近づいてきた 
少し顔が怒っている 
桜の樹の下まで来ると

 まだ咲きませんね 
         」
と強い口調で言った 
追い越される瞬間に耳元で

 なんでその程度のこともできないの? 
                  」
と言われた 
いつもそうだ 
彼女は足早に桜の樹の下から遠ざかる 
もうすぐ公園に着くだろう 
タイトなスカートに包まれている尻が左右に動きながら小さくなっていった 
黙って様子を見ていた老人も

 けふは死ぬにはいい日だ 
            」
そんな科白を言いそうになっていた 
(そんな科白はないにもかかわらず だ) 
公園へ行こうと桜の樹の下から離れ 
桜の樹の下には誰もいない道を一人で歩いていたのにいつの間にか犬や猫がいた 
赤と黒のランドセルもいた 
それ以外の色もいた 
児童たちはお揃いの安全帽子を好きな色に塗りなおし

 わん 
   」
とか

 にゃー
    」
とか

 あいつ科白もまともにいえないんだぜ 
                  」
とか

 だっさーい 
      」
とか言っている 
きっとそれらは科白どおりなのだろう
言われたままでは肩身が狭いので笛を吹くように指示を出した 
子供たちは口々にリコーダーを咥え

 わん 
   」
とか

 にゃー 
    」
とか

 死ぬにはいい日だ 
         」
とか科白を鳴らしている 
誰かが押さえる穴を間違えて

 その程度のこともできないの? 
               」
と鳴らしたりもした
間違いさえあらかじめ与えられた科白に沿ったものだ 
犬も猫もまるで就活でイライラした女のような声で

 まだ咲きませんね(笑) 
            」
と言う 
嬉しそうに言う 
口々に語られる科白は次第に速度を増していく 
いろいろな色のランドセルや犬や猫に早口で何か言われる 
聞き取れない 
指の動きが早すぎるのでリコーダーは

 けふは死ぬにはいい日だ 
            」
と言う
聞こえない 
向こうから男性がやってくる 
スーツを着た女性かもしれない 
公園からの帰りだろう 
どちらにしてももうすぐ春だ 
いつまでたっても公園にはたどり着けそうにない桜の樹の下で科白を言わされる

 まだ咲きませんね
         」















                              「
                               もう散りましたよ?
                                        」





_


[栞の代わりに挟まれる]

  香瀬


[栞の代わりに挟まれる]



   on
    女はパソコンの前に座っている、パソコンには文字列が書かれているが意味がわか
   らない、どこにも届かない文字が配信されている、光の粒となって配信された文字列
   は女のイメージを灯すことはない、部屋はパソコンの明かりにだけ照らされて女の顔
   だけが浮かび上がっていた、左手で缶チューハイをあおる、女の影だけが少し濃く見
   える真っ暗な部屋です、クリック、
                   真っ暗な部屋で一人晩酌をしている女が主人公の
   小説を半分まで読んで、女は乗り換えのため電車を降りた、次に乗るためのホームは
   陸橋を渡らなければならず女は本をたたみ小脇に抱え人波に泥みながら流れた、光の
   流れが見えるように駅は埃が立ち込めており、ブラウン運動? そんな理科の用語も
   思い出したりしながら、この陸橋を渡る黒い頭のひとつひとつが微動しているようだ
   ろう、と階段を下る女とすれ違った、
                    女は女子高生の格好をしており、戦闘服である
   セーラー服を着こなしている女子高生であること自覚していた、最新のヒット曲はま
   ったくわからないけれど、ひとつひとつの音の流れが鼓膜に届いてくるのは感じてい
   た、「切り取ってよ一瞬の光を!」、切り取られた女は黒い粒粒した波に同化してい
   く、そんなのに似た女がいくつも束になって突き刺さってくるような気分さ、ヘッド
   フォンは汗ばんできている、
                女の鼻腔をくすぐるのはなんだろうか、駅から出られな
   い女の夢を見ていたような気がする、電車の中で目覚めるとそれだけ思い出した、鼻
   先を掠める匂いはまるで女子高生の耳から流れる汗のようで、噎せるようだよ、鼻粘
   膜の湿り気はセーラー服を着ていて、きっと耳たぶにはシルバー925のトカゲのピアス
   があるはずです、トカゲは夢の中で歩き出し女のほうに近づいてきた、女は電車に揺
   られている、女の耳飾が少し動いた、
                    食べられたい/食べさせられたい、女の唇の上
   で誰のかわからない液体が光っている、銀色に光って、銀色の小動物が漏らしたおし
   っこのように光っている、女は舌を伸ばし、舐めた、しょっぱい、舐められた女はト
   カゲに舐められたのではないかと錯覚するほど気持ち悪く感じていた、全身が鳥肌立
   つぜ、おしっこをしたあとのように身震いしている、本当は気持ちいいのかもしれな
   い、しょっぱい、って股の下から言われた気がした、
                           爬虫類に犯されている女の気分
   で夜が明けると、ベッドの横で眠っていたはずなのに誰かの上で腰を振っていた/振
   らされていた/ていたかった、壁を這うように密着した接合部が泡立つ、小ぶりな胸
   の先端をつねられる、いたい? 冷血動物の体温で愛撫されている、
                                  自ら跨って腰を
   振っています、という演技をしているビデオを見ていた、ビデオの女は大して興味も
   なさそうな顔をしてタバコに火をつけた、上の口でも何かを咥えずにはいられないの
   だろう、なんだそれ? いたいよ! 無理矢理つっこまれたことに憤慨した女はタバ
   コをもみ消しシャワーも浴びずに着替えて部屋を出て行った、女に出て行かれた部屋
   は暗く、一部だけより黒い影が壁に映っていて、一瞬だけ女だった、
                                  失敗したセック
   スの後のような顔の女が店に入った、キャラメルマキアート、出てきたコーヒーはブ
   ラックで、一気に飲み干した、今日のコーヒー、しょっぱい? 胃袋が灰色になりそ
   う、頬が湿っているのは湯気のせいだよ、、という形の煙が換気扇に吸い込まれるの
   を見届ける、灰皿には三本の吸殻があり口紅の跡が目立って見えた、赤い唇の跡は血
   のように赤い、女の首筋に同じ唇の跡があった、気がする、
                              乱暴に吸われ、吸い口に
   血がついていそうなタバコの煙の匂いがする汗、女子高生はヘッドフォンのボリュー
   ムを上げ汗の量を増した、電車の中の戦闘服はどれもこれも揺れている、パンストの
   付け根は少し湿っていて乗客は清楚です、座っている女も吊り革を掴んでいる女も何
   かを咥えているから、どこから出てきたのかわからないような液体の匂いがして、禁
   煙席のほうまで春の匂いを届けそう、
                    銀色のトカゲが揺れているのは、どの席も揺れ
   ているからです、耳を穿とうとする空気が灰にまみれていようが、どうせ消えてしま
   う、諦観した鼓膜が呟く声も聞こえてきそうさ、「写真になれば古くならん?」、新
   しいって何のことかもわからないくせに、すぐに音を拾おうとする女のような真似は
   やめる/めろ/めて下さい、その耳たぶを下さい、
                          いくつもの女が音とか匂いとか味
   とかで流れていく消えていく満員電車女子高生蜥蜴腰振珈琲煙草、そんな光景を見せ
   られている女だった、光景は消える圧縮、本を閉じる、on/offの「/」みたいな栞 は
   失くしたところだから、栞の代わりに女が挟まった、送電線笑う、パンタグラフが上
   下するのと同じ速さで視線を動かす、動かした先に何が見えるの? その「?」に追
   いついたところでまた離される女、クリック、
                        クリック、ページを下にずらしながら
   女は缶チューハイを飲みなおす、無味無臭、透明な液体を音もなく飲む、そろそろク
   ライマックスじゃないかしらん、パソコンの前でそう思った、意味のない文字列を目
   で追っていくよりも早く退屈している、書き終えて書き終わった文字を目で追う、追
   われる女の空き缶は消え持っていた左手も消えて女は主電源を強く長く押しながら消
   えた、「ここ」まで女を読んできた___((も消えそうで、)どのパソ コ  ン
   の  前  か ら   も     k i   e    t    .   、
                                        off


[開封後はお早めにお召し上がりください。]

  香瀬


[開封後はお早めにお召し上がりください。]



さて、アルマジロを一匹コートのポケットにつっこんで砂場へ行こう。公園の砂場に
は猫の糞が大量にあるから砂漠へ行こう。家から出て3つ歩いたらなんとなく砂漠で
す。持ってきたシャベルで穴を掘っては順々にアルマジロを埋めていく。風が吹いて
空が見えなくなったら砂が降ってくる。真っ白なコートに砂が吹きつけられてポケッ
トのあたりをはたくから、みるみるうちにアルマジロが増えていく。増えた分だけ穴
を掘らなければいけない。ポケットの中には赤茶色の完全な球体にも似たアルマジロ
が大量に丸まっていた。これらをすべて埋めなければいけない。さらさらした砂は海
のように波を吹き上げて、急いで穴を掘らなければならない。砂が当たって痛い。掘
り返した砂が巻き上げられ真っ白なコートに降り注ぐのでコートをはたくとアルマジ
ロがまた増えるからなかなか家に帰れない。


カメレオンに「敬礼ッ!」って娘がはじめたので真似をすると、パパの敬礼はまった
くなってないと娘は言う。ママが炊き立てのご飯の上に鰹節をふりかけている。明日
になると鰹が生えてくるわと言ってジャーのふたをする。敬礼ッ!ほんとにまったく
ぜんぜんなってないわと娘に説教されながら、今年初めてのカメレオンを夢想する。
夢の中で娘の両目がロンドンとパリを同時に見つめながら、あらゆる背景を拒絶した。
「自分の色ってものがあるんだからねッ!」長い舌を器用に操り自己主張をする娘を
見てパパとママはうれしい。続きはジャーの中で夫婦の営みを、と思ったら娘の器用
な長い舌がふたを開いた。二匹の鰹が屹立して「敬礼ッ!」とパパとママの声で叫ん
で、娘が明日になったことに娘は気づく。


別に飛べないわけではないのだよ。ペンギンが重いくちばしをやっと開いて語り始め
た。わたしはおぼろげなテープレコーダーの録音ボタンを押す。幽霊のようにペンギ
ンがため息をつく。でも、誰かが損をしなければいけなくて、それを率先して引き受
けることがそんなに馬鹿なことでしょうか。歯ぎしりした犬を想像して笑うならふふ
ふ。黒と白のタキシードを着こなし、ヘアワックスをたっぷりつけたペンギンは、普
段の愛らしさもどこへやら、めっきり老け込んだ様子。涙目であることを指摘すると、
陸上は海の中より乾燥してますからね、と強がる。着々と海水面が上昇している。干
からびるのを防ぐための嗚咽が黒く白く続々と漏れる。テープレコーダーはためらい
もせずそれらを飲み込み、私は耳をふさいで目を閉じていた。気づくと半透明にペン
ギンが飲み込まれるのを目撃したはずだった。わたしはテープレコーダーを巻き戻し
恭しく再生ボタンを押すと、幽霊のように泣き真似を始めた。


コルトナの朝(印象違い)

  case

コルトナの朝


吐きだした煙の、うごきをおいかける、視線がかたちづくっているものは、てのひらを合わせたようにねむる男の子、すこし剥げかけたマニキュアのぴんくが、八月のひざしを先取りしてひかっている、ゆびの股のところが、すこし汗ばんでいるようで、しめった産毛が、ときおり、吹いてくる風にかわかされてうごくのに、にているわ。

コルトナの朝がライターからはじまる
金属のおとが、水のなかでとける氷をおもはせる
あぶらの染みた、芯が、こげていく
さっきより小さくなった氷がグラスのふちにあたる
グラスは汗ばんでいるようです
目をつむりながら煙草に火をつけて
そのまま大きくいきを、そらをあおいで、すいこむと
のばした左手のゆびわの紅玉をグラスにあて
金属のおとをさせます
かたほうの手が
手紙を書きはじめようとしているけれど書きおえるころにはきっと灰が舞っている
ことだとおもふ

ベリーバードが庭の木の実をついばみはじめる時期のひざしをおぼえていることだとおもふのは、テラスにだした白いテーブルのうえにいつも置いていた水差しの汗を、あなたがどうしようもなくのぞきこんでばかりいたことを、わたしがおもひだしているからで、あなたの鼻のあたまの汗も、どうしようもなく世界をはんしゃさせていたのに、もう気づいているかしら。

煙草のせんたんが、つよく燃えている
ベリーバードのくちばしが、赤い実をくわえている
とけきった氷のような、とうめいなはねを
きれいに折りたたんでついばんでいます
−−赤い実が、そのたびごとに、はじめていて
一羽、また一羽と、ベリーバードが庭におりたつけど
ひざしは鳥たちをとうかして、さしこむ
なにひとつはんしゃしないで、はれつした赤い実がすけた胃袋におさまる
そうしておさまっているので
夏のこの庭には、おびただしい数の赤い実だったものが、うかんでいるようにみえる
おぼえていますか

コルトナの朝にゆうびんはいたつの彼は来ない、もうずいぶん大きくなったけれど、相変わらず鼻のあたまに汗をたくさんのせていてくれると、わたしはうれしいし、あなたが「とおりぬけできません」の看板をむししてこの庭に来てくれたときのことを、いまでもおもいだす、夏の日ざしみたいに、いつのまにかわたしの庭に、ふわふわとただよっているようでした。

灰皿が、ゆうじんのつくれない
はりねずみみたいになっちゃったので
すこしの水分もにがさないようにしている
ゆびわをはずす
書きかけのこの手紙を、わたしのゆびの代わりにとおして、みえない鳥のむれに投げつけましたら
きっとこの庭を燃やします


蜂塚さん

  case

蜂塚さん




添乗員は無駄に喝采して 本朝に埋ずまる蜂に似ている
このバスの乗客は あたしだけだったはずなのに
すべての補助席に空白が充填されていて 息苦しい とても

あたしが飲む
酔い止めの薬は添乗員のお姉さんが運転手さんから預かったものとのこと
「蜂塚さんっていうのよ」
耳たぶの黒子を避けるようにピアスをしている
目の下の隈が濃いお姉さんのハンドクラップ

パチ  パチ  パチ

  パチ  パチ  パチ

    パチ  パチ  パチ

蜂塚さんは一言も喋らずアクセルを踏み込み
あたしは 胸のスカーフをそっと緩めて
ぼんやりした風景の残像一つ一つに
黒子を添乗させていくお姉さんに似た脚の長い蜂を パチンと


**


高校生のころ
休みの日、視聴覚室の前にある広い
廊下で 
あたしたちはお互いの耳たぶにピアッサを噛ませた

髪の毛の絡んだお互いの耳たぶを
ピアッサは噛み砕き
いつしか視聴覚室の扉が開いても聞こえてくる音はなくなっていた
だけどあたしの耳たぶを針が貫通することもなく
運動部はいつも走ってばかり
あたしはずっと膿んでいた



大学生のころ
旅先の宿、脱いだ靴のなかで
あたしは刺された
人差し指の爪の生え際から産卵管の抜けない蜂が脚をばたつかせている
あたしは刺されたままにしておけなかった

されば脚を掴み地面に叩きつけるも
あたしのことを見向きもせず
蜂は白樺を抱く山の稜線に沿って
飛んでいった
あたしはたちまち赤黒くなった脚先を見つめながら
充電の切れかけたケータイを開いた
そしてアドレス帳の「わ行」に
メールを一斉送信した
しかしMAILER DAEMONさんからしか返事が来なくて
そのうちディスプレイの明かりが消える



本朝に埋ずまる蜂に似た社会人になったころ
あたしは無口な運転手の運転するバスの添乗員だったり
そのバスのなかで運転されたりしていた
すべての補助席を倒して
誰もいないバスのなか 押し倒される
蜂塚さんに脚を舐められながら
なぜかあたしはセーラー服を着ていて
皺にならないように畳まれた二人の制服を見ている
誰かが添乗員の服装で 手を叩いていた
耳たぶの黒子みたいなかさぶたを甘噛みしつつ
蜂塚さんは突き入れてくる



すると

激しく前後に揺さぶられ

ぼんやりした風景の揺さぶりが

これまであたしに刺さってきた何もかもを

世界に向かって逆流する陽光みたいな蜂にしてしまうと同時に

パチン

文学極道

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