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シンジロウ

選出作品 (投稿日時順 / 全9作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


お運び女

  シンジロウ


だいたい お運び女というものは
母性本能が肥大しすぎている
あいつらは 一番卑しい職業についている
毎日 街角の喫茶店で男を待ち構えている
腹の減った男どもを!!
自分の母性本能を膨らませ
その母性本能をさらに母性で育てながら

男どもは皆 喫茶店を目指す
腹を空かせて!
腹を空かせた無力な男どもを
お運び女が待ち構えている 喫茶店で!
気をつけろ お運び女が待ち構えているぞ!
母性本能の餌食だぞ!
男どもはただ飯を食いに行くと思っている
お運び女のいる喫茶店へ
腹を空かした男どもの顔は
お運び女の母性本能を刺激する
だめだ!!
あいつらの母性本能を
これ以上肥大させては!!

大盛なぞ頼んではならない
メニューのスミに書かれている
それは ワナだ!!
客に追加の150円を払わせておいて
巧妙に隠してはいるが
それは ワナだ!!
お運び女が
ハヤシライスのライスを大盛に盛るときに
母性本能はこれ以上ないほど刺激される
だから やめろ!!
大盛は頼んではならない
たとえ150円払ってもだ!!

お運び女の母性本能は
じっと待っている
男が腹を空かせてくるのを
イソイソと通ってくるのを
待っている
街の片隅の喫茶店で
雨の日も 風の日も!!


父親

  シンジロウ


お父さん

この街は可笑しいですね
みんな 他人なのに
つとめて他人のふりをしている

ほら 誰かが10円玉を落としても
誰も声をかけない
「落ちましたよ」 と言って拾ってあげても
他人でいられるのにね

お父さん

僕たちは可笑しいですね
他人じゃないのに
他人から始めなければならない

だから

駅での帰りがけに
背中からやっと言えました

「お父さん」


父親

  シンジロウ

お父さん
この街は可笑しいですね
みんな 他人なのに
つとめて他人のふりをしている
ほら 誰かが100円玉を落としても
誰も声をかけない
「落ちましたよ」って拾ってあげても
他人でいられるのにね

お父さん
ぎこちなく話しましたね
あなたの内の僕が僕ではないことを
僕たちは知ってしまいました
それを紛らわすように
あなたはたくさんお金をつかい
僕はお腹が痛くなるほど食べました

お父さん
僕たちは可笑しいですね
他人じゃないのに
つとめて他人じゃないふりをしている
でも あなたが何かを買ってくれても
「ありがとうございます」って
言ってしまいました

お父さん
僕はあなたのことを
想像したことさえなかったのですよ
あなたはそのことを知ってしまいましたね
それをごまかすように
あなたは僕も知らない僕たちの故郷の話をし
僕はくだらない話ばかりをしました

お父さん
あなたが住み慣れていないこの街で
僕は少しづつ僕の生活をしています
食事が終わっても
やっぱり僕たちは他人でした
たぶんこれから先も
僕たちは他人なのでしょうね

お父さん
他人が他人とすれ違うだけのように
僕たちは たぶん
親子になるのには遅すぎるのでしょうね
地下鉄の駅で
あなたはどこかフラフラと歩いていて

お父さん また会うこともあるでしょう
お父さん ぜひまた会いましょう
お父さん また食事でもしましょう
お父さん こんど旅行に行きましょう
お父さん 温泉にでも行きますか?
お父さん 電話しますよ
お父さん 手紙でも下さい
お父さん お元気でいて下さい
だから お父さん
別れ際に背中から
たった一言だけ呼びかけました

「お父さん」


おっちゃんの詩

  シンジロウ


おっちゃんの人生は
大正区のある家で終わった
警察は当初 殺人の疑いを
おばちゃんに持っていた
いや それはただの事務的な手続き
だれも おっちゃんは殺されたんやと
怒ってくれなかった
たとえ事故でも

正直俺も悲しくもなんともなかった
だけどおっちゃん
あんたは女に惚れたことがあったか?
あんたは女に惚れられたことはあったか?
女の本当の媚態を見たか?
女を本気で抱いたか?
たぶんおっちゃんはそのどれも出来なかった
だってシャイだったから
そんなことが出来るほど
おっちゃんは図々しくなかったもんね

おっちゃん
おっちゃんが買ってくれた寿司
旨かった・・・たぶん
おっちゃん
「おっちゃんこんな人間やさかい」って
俺はあのとき おっちゃんが何を言っているのか
わからなかった

なあ おっちゃん
今は俺の胸にちょっとだけ おっちゃんがいる
おっちゃんのせいで
悲しいもんがちょっとだけな


灯台に登って

  シンジロウ


俺とあんたで
灯台に登って話そう
石造りの螺旋階段を登って

きっと
空は青々 日はテラテラ  
崖は黒々 波はザンザン 
カモメが鳴くから 腹ヘッタ

あんたはポルトガル語で喋り
俺はオランダ語で喋る

お互いの国の貨物船が通れば
素っ頓狂にそのデカさを褒める
ニヤニヤしながら
異国であった異国人達みたいに

このぬっぺりとした白い壁にもたれて
俺とあんたは治外法権だから
罪悪のないこの灯台に登って話そう


ザンザ

  シンジロウ


ザンザ ザザメキ ザンザの果てに
あなたとわたしで お話ししましょ

海が眠って ザンザが来たら
ちょうど ススキも ススケて眠る
夜中 四つ辻 ザンザが通りゃ
ケモノも帰って 真っ暗眠る

ザンザ ザザメキ ザンザの原にゃ
花も咲かねば石もない

ザンザ ザザメキ ザンザの際で
あなたの気持ちを 聞かしてくれよ

山も寝ている ザンザの時にゃ
土も凍って 静かにしてる
朝方 四つ時 ザンザを見れば
ヒトもケモノも 違いが薄い

ザンザ ザザメキ ザンザの果てに
あなたとわたしで お話ししましょ


建築

  シンジロウ


人々は建築を見ずに
ぞろぞろとホールに向かう
お出かけモードで
この国の人々は皆
清潔をもって良しとする
不浄は悪である


不浄へのコンプレックスが
お出かけモードを醸し出す
その実、不浄を隠すと言うよりも
隠した不浄を楽しんでるのだから
相当な変態サン達だったりする
その汁、自分が変態だということを
認めないという事に
かなりのマゾっ気で挑むのだから
さらなる奥深い
ハイレヴェルな変態サン達であり
一方で普通のごく初歩的で健全な
明るい変態さん達を
かなりのサドっ気で追求するのだから
その実やはり立派でオールマイティな
最強の変態サン達なのである

建築は白々と建っているが
そこにエロを感じないでいられるところは
驚きをもって認められるが
やはりこの国の人々の国民性である


祖母の葬式

  シンジロウ



母親からの電話で
あなたの死が近い事を聞き
週末に礼服を買いにいこうと思った

あなたの葬式を思い浮かべると
俺はニヤリとせずにはいられない

互いに陰口を叩きあい
それでも馴れ合いながら暮らしている
田舎じみた親族の者達が
あなたの遺体の前では
ツンムリとついぞ見せたことのない
静粛さでもって子供のように並ぶのだろうから
祖父もあなたの死の前では
見栄も虚栄も捨てるだろう

母親が俺の女関係について一言も聞けないのに
「あんた彼女できたんな」と素っ気無く聞いてきた
母親と俺の荒れた生活に
遠慮の欠片もなく怒鳴り込んできた
祖父の会社が倒産しようが
いつもと変わらず
タオルの上に二つの伏せ茶碗を置いていた
俺と兄の名前を
いつも平気で間違えていた

あなたはどんな女よりも古めかしい習慣を
どんな女よりシャアシャアと明るく生きた

スタイルだけはやたらと良い
都会のキレイなね〜ちゃん達より
都会にコンプレックスを持っている
田舎のかわいいね〜ちゃん達より
俺とSEXした
若い男とヤリたいだけの中年の女どもより
彼氏持ちでも平気で
チラチラと俺を盗み見る若いだけの女どもより

あなたが死んだら
また俺はしばらく独り身だろう
俺はあなたに自分を笑うことを教わった
俺はあなたから明るさと度胸を教わった
俺の底にはわずかながらにも
あなたから受け継いだ
おおらかな良心と
本物の慎ましさが残っている

あなたの葬式には
俺はあなたの遺体の側で
あなたと一緒に笑ってやりたい
ツンムリとならぶ神妙な人々の顔を
あなたと一緒に笑い飛ばしてやりたい


果の石像

  シンジロウ

 俺の疲れた帰り道に
 あなたはいつも視線を外して
 立っている

 俺は疲れた体を
 中国人の女に癒してもらう
 あなたはそこに立っていろ
 
 立っていろ

 その脚がやがて石になり
 そこが 永遠に
 あなたが立ち続ける 場所になるように
 コオロギ達に歌わせよう
 
 俺は中国人の女に
 固い背中を 愛撫されながら
 その歌を聞いて眠るよ

文学極道

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