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55 : はちみつぶた  蛾兆ボルカ '10/03/07 22:26:20  [Mail]

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【ようちえんは春休みで、お父さんはずる休みである】






夕日の射す桜の公園を
手をつないで歩きながら
<今夜は何が食べたいですか?>
と、僕は四歳の息子に質問する

<はちみつぶたがたべたいです>
と、息子は答える。
< 豚肉を煮て蜂蜜を、トリーリ、
トリーリって入れた、アレです >

なるほどね、
と、私が言うと、息子は続ける

< 前菜は、花豆のサラダがいいです
花の模様がついた、クレージービーンと水菜を
リンゴ酢と岩塩で和えたやつです
ご飯は炊き立てのものを
冷ましてください
デザートは
摘みたてのブルーベリーを乗せた
ホットケーキがいいと思います
全部食べたあと、
ロウソクが残っていたら
絵本を読んで下さい >

「それが私の幸福です」

って意味の事を
カタコトで

なるほどね。
と、私は言う


突然、友達を見つけて、
息子は駆け出していき、
私は私の孤独の中に残される

桜の降りそそぐ公園で

噴水の周りを
両手を突き上げて
子供たちが駆け回っている
桜の花をつかもうとして

そして私は見たのだった

はちみつでできた
透明のぶたを
子供たちが
歓声を上げながら
追いかけていくのを


______________

初出;Poem ROSETTA

>> permanent URI: http://bungoku.jp/pbbs/20100307_606_55p

  • 石川順一 :
    こんなこましゃくれた四歳児って居るのかと思いました。と思ったら「と言う意味の事をカタコトで」とあり少し拍子抜けしました。そして最後の連で食べられる筈だったはちみつ豚が逃走して居る。ここで軽くきょとんとして仕舞って、失語症を誘発する詩では無いかと思いました。まあ私の読みの無さを失語症のせいにしてはいけませんが、ぜひ自作の解説をやって頂きたく思いました。  ('10/03/09 00:14:34)

  • (TUN)常悟郎 :
    今晩は
    蛾兆さん

    「はちみつぶた」 良質なポエですね ‥ このタイトルはけっして不思議でもギャグでもなくて、ちゃんと料理でもあるのでしょう
    わたしは以前TVで見た中東の少年一家が、細々と営む養蜂で(イエメンかどこか忘れましたが‥)こんな花の少ない乾いた砂山にも蜂の巣があるのか‥‥と感動した事があります‥

    あなた‥やっぱり仙がいポエ岡本太郎だなぁ

    冒頭の空白はなんで〜とは思いますが「ご飯は炊き立てのものを冷ましてください‥‥‥ 全部食べたあとロウソクが残っていたら絵本を読んでください 」 ここを読んでたらジーンとなっちゃいますね
    両親の仲を気づかいながらもこころでは哀願する子供の心理は、大人が思う以上に複雑です 。

    この旨そうな「はちみつぶた」読み手の受けとりかたは人それぞれでしょうが‥
    わたしは ソレを、子供たちの成長また限られた時間への共有と教示、そして願う矜持とその哀調と受けとりました。
    トリーリトロ〜りあったかな叙情感じる秀作ですね

    雑感失礼しました 。  ('10/03/09 03:58:38 *2)

  • 蛾兆ボルカ :
    ご感想ありがとうございます。

    >石川さん
    解説せよとは、何を寝ぼけたことをおっしゃるのか。
    解説も何も、作者の意図は、あなたが読んだとおりですよ。

    子供の言葉に見えないな、と、思わせておいて、実際に子供の言葉じゃないし、ある特定の料理の話をするように見せて、ラストはちがうもので終わらせました。

    あとは、キョトンとするなり失語するなり、お好きなように。  ('10/03/13 23:12:37)

  • 蛾兆ボルカ :
    >常悟郎さん

    今晩は。どうもありがとうございます。

    冒頭空白は、最初の一行を、普通の言葉ではなく、ささやかな意味内容ではあるにも係わらず、宣言として置くためのデモンストレーションです。
    ベートベンの五番の休止みたいなもので、作者としては、必要と考えています。

    ちなみに、他の作品もですが、レイアウトはパソコンから見た状態を想定してます。

    この料理は我が家の創作料理なのですが、とても手間がかかり、量も大量に出来てしまうため、めったにつくりません。

    なかなか美味しいですよ。  ('10/03/13 23:29:05)

  • 坂口香野 :
    なんか泣けてきた。なんてきれいなんだ! 透明で光っていてちょっと可笑しい。春先の空気をそのまま食べているような感じがしました。
    ずる休みのお父さんと哲学的な息子さんに深い敬意を表します。
    ありがとうございました。  ('10/03/14 00:30:17 *1)

  • コントラ :
    僕がいま住んでいる国だと、蜂蜜って、わりとディズニー系なんかのかわいい半透明の容器に入ってたりするんですが、はちみつぶたでまず考えたのはこれですかね。それと。喚愉と隠喩の問題。要は、前半は、はちみつと豚の連想があくまで、メトニミーとして、後半では、メタファーとして対照的に配置されている、という構成にかんするご託はどうでもいいとして、  ('10/03/14 13:54:20)

  • コントラ :
    これは、僕がそう読みたいだけで、ボルカさんとすれ違っていたらそこは勘弁なのですが、
    前半は、あくまで父親の内心にデフォルメされて翻訳された声であると。別のいいかたをすれば。
    子供が何かを必死で訴えていても、父親の耳には届かない。大人の心は、高速演算機のように
    非論理に耳を傾けず、現実的な解釈しかできないのだと。

    で、そのことに「父親」が一気に気づかされるのが最後の場面。

    >桜の降りそそぐ公園で

    しっかり場面設定をしたうえで、子供たちが「はちみつぶた」を追いかけていくラスト。
    なかなか見事だと思いました。

    息子が理屈っぽい、と考えて読むと、筋が通らないし、
    低質なユーモアということになりますね。  ('10/03/14 14:05:07)

  • 蛾兆ボルカ :
    >坂口さん
    ありがとうございます。
    僕もこの作品、気に入ってますので、とても嬉しいです。

    子供って、かなり哲学者だと思います。
    「宇宙って何?」
    とか、オヤツ食べながら考えてたりするし。

    うちの子は幼稚園までは一人称に「僕」ではなく「私」を使ってましたので、ときどきやけに哲学な会話になるのでした。  ('10/03/15 11:28:03)

  • 蛾兆ボルカ :
    >コントラさん

    どうもありがとうございます。
    おっしゃるとおり、前半のセリフは、翻訳を意図しました。
    <>内は直訳で、「」内は意訳です。

    比喩についても、書いていただいて発見がありました。
    夕飯メニューとしての「はちみつぶた」は創作料理ですので、この詩で使われるまでこの言葉は家族内でしか通用しない言葉でした。
    その料理ができるまでは、どこにも存在しなかった言葉です。
    だから「はちみつぶた」という言葉の使用は、命名行為です。
    そこではたと気がついたのですが、命名は比喩する行為なんですね。

    僕はメタファを要所で使うのは避けることが多いのですが、ここではためらいを感じません。

    自覚してませんでしたが、この詩を書くときのメタファ使用の快感は、命名の快楽だったのだろうな、と思いました。  ('10/03/15 11:48:17)

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