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Nizzzy

選出作品 (投稿日時順 / 全9作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


燐光II

  Nizzzy

そう、ゆらいでいたのだ
私たちの、魂はゆらいでいたのだ この瞬間にも
そして私たちはそれを知っていた(すでに過ぎ去ってしまった)
だが、木々を縫いつけ生きる私たちの、網膜には
このディスプレイの液晶よりも
聖歌に刻まれた救いよりも
ずっと、霞んだように見えて、
古い海岸を歩く、この足の冷たさと
ふるえている私たちの、宇宙の位置さえ
炎のゆらぎにも片翼を失う蛾の触角に、結びつけられてしまった

蛾よ、お前は海の持つ惑星の
秘密の千の瞳を開き、螺旋状の周波数を聴く
子午線よりも遠く、アスファルトより鳴らされる
永遠分の一秒を刻む晩鐘を共鳴にして、触角でなぞってゆく
だが、そこにだけ茜色を映し出す私たちの細胞群は、何も慣れていない
惑星間の初雪と戯れた指が触れてしまうことさえ
言葉という重力を逃れた振り子の糸を近づけようとする
重力はどんなに軽い原子にも意味を持たすから、
私たちは氷晶に黙された鱗粉の呟きを、見極めようとする

蛾よ、お前は飛ぶのではない
光の端を青灰に染めて、その両翼を落とすのだ
満ち始めた初潮に、新たな重心を定め
そして違う名前でそれを呼ぶために・・・
私たちが落とす翼は、もう残ってはいない
全ての世界の、私たちの持っていた翼は
張り巡らした糸に、切り落とされてしまったから
だから、私たちは痛む この瞬間にも
どこにも見えないものを、どこにも見えないものを
知らない (すでに過ぎ去ってしまった) 知らずに
それが間違いであるかのように
こうしてゆらいでいるのだ
私たちの、蓄光する魂は

蛾よ、お前が全てを終えたとき
翼は扉に閉ざされ、瞳は星々に取って代わられる
そうやってお前はどこまでも落ちてゆく
それは並木沈む海底なのか
夜をも凍らせる極北の大地なのか
この瞬間にも、私たちは横たわる位置を知らない
もしお前が私たちのゆらぐ、魂に辿り着くのならば
其のときは絶対零度にまで収束され、燃えろ
そして北極星からの地軸を片手で握り、廻る、新たな少女となれ
落とされた翼全てに包まれながら、燃やし尽くす、永遠の、ずっと近くまで

* 原題のローマ数字部分を「II」で代替表記


あなたの目の前で、私は

  Nizzzy



真新しい水そうの中
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
未現像の、若き一人称



頬づえをつく、あなたの
もの憂げな夢の群れが
湖の上を、散開している


その影跡を追って泳ぐ
あなたに言えなかった言葉
遅れてやってきたランガージュ
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
どこへでもなく通ずる
外延の無い桟橋


栗色の髪を切った、あなたの
あなたの目の前で、私は
どこへでもない、桟橋のふもと
あなたに、言えなかった言葉
泡沫に映る、未現像な、千切れた魚


フレーミング・セックス

  Nizzzy


人、[幾層を翔]ける向こう岸の、記憶の枝をつぐむ、(鱗の)変わらない、ちる、{のように、美し}い人、あなた、ここにいない言葉、人、のような、あなた、

人、蝋燭<を回り続ける抜>け殻の、りゅ、う、焔硝、森に違う`つぐみ、くちる``、のように、美しい人、あなた、ここ(にいな)い音階、人、のような、あなた、

衛星へ|ぬけるヒナゲシ | の | 花 |、はつ・・み、、つつやかに、下っ<てゆく>、約束のレンズ、く、(する)、岸、の‐ような、あ/なた、ここに、

あった、対/角線上に制/御する、大海が隣(接)に、み、_錆びつく_氷砂糖_、りつ、ぬけてゆく、ぬけてゆく、‐朗読‐者、のような、あなた、

ここ“にない破調、延”命する露地、電柱が把握・する、人、「ずっと、ずっと」、た、たっ__つ、感<受性>、のような、(クル)、叶わぬ<こと>、のような、美しい人、あなた、

"めくれる腕の、痕"跡に【残った】川底に、<りぃ><りぃ><りぃ>、シ音を、たたく、(あ)たらかに、3つ、胡桃がける、裸足、のように、「冷たいね」、と、不拍子に、さく、のような、美しい人、あなた、

黒-み--がかった秒針の、カラミごとに、`あ`ねる、むネ、つ・む、先の、シらまる、ひと|とつに、束を放つ、円すい状の、"洗浄液"に、ふり、{返る}、遅す-ぎた、のような、】美しい、【あなた、

溶『ける腕、目;覚める咲き=かけの、使用感、つらめ、〔つ〕らめ、「紅いよ」、録画(される)、星座野、それ、黄*黒***青]咥えたシステム』、ひ・(・視、くす)、あだしの、のように、美しい、あなた、

ヒシオリ、道__{_標の北極星、求心性の、い"く愛しみ、繚乱して、」、待つ、か、{が声、犠《牲者》(?、[羅針症、アルキさ]える、響き、<ぽし>、<po=e=i>、しみ、ヒいの、のように、美しい、』時と、ヒシに人、あなた。


白鳥

  Nizzzy




複雑に組み重なった、紙芝居のような、
生まれる羽根の、あなた

わたしは言葉で、それに答えなければならない
____「あなたは角笛だった」と、

望むことなく青かった、空


わたしのいない土地で、
地上の樹には靴が掛かっていた
そしてそれは、異邦人の戦略だった

わたしを睨みつける。向こうから、

ノコギリ引きの、空がやってきた
僕らから輪郭を千切りとった、鈍角の

胴体を奪われた、白鳥の群れ
どの空にでも舞う、あなたに届くことのない、起点

僕らはそれを、待っていたはずだった
こうやって、言葉にするまでは

「私の中の双子が歩き出す。雨の中を、寄り添いあって。」

ようやく抜け落ちた、その音素
器の中で混ぜ合わされた、新しい星座

それは結び付けられる。痕跡に添って、

その無尽蔵な、あなたの、
延長されていく、黒い滑走路
異邦人の目指す終着地


樹の下には、あなたが埋まっている
だがそこは田園なのだ、喜ぶべきことに

あの頃。角笛の中で話しあった、裸足のままの、

望むことなくあった、星空、
ようやく抜け落ちた、その言葉、
樹の下で重なり合った、全て

二人して、白鳥のように


プラトニック・スウサイド

  Nizzzy



ベランダの手すりが、染まっている。
鳥達が歩いている。反射する光。金光の中で、影だけが動いている。
僕はそれにむかって歩く。砂の城。

午後に降った夕立ちのあと。僕らが傘をさしたまま
歩いている。みんなが空を見上げている。人々の水位。


彼女はしゃがんでいる。太陽はすでに、砂に、城が崩れていた。
僕は彼女の手をとって、崩れ落ちた十字架に手をのせる。

ゆうべのうちに雨は止んでしまっていた。


十字架の下の、奥深く濡れてしまった砂の下の、
幾度なく通った歩道の下の、
訪れることの無い映像にまで、二人が重ねあう。

歩いていた。歩道の上を、
足元から灰色に戻っていく。誰よりも遠くなってしまう。


彼女は泣いている。いつまでも目をつむっている。
波が彼女のつま先にふれる。僕にはとどかない。

そこには風がある。砂がある。
そうして波の音があった。二人がいた。


下水道からあふれている。水が反射する色に、海。
それは海。

飴色には、あまりにも過ぎてゆく彼方に、海。
それは海。


白い長靴をはいて歩いている。雲の合間、顔をふせる。

彼女は目をつむっていた。
波は、ようやく僕のもとに届きはじめていた。

アスファルトに、波の音だけが残っていた。
そうして二人、傘を、さしかけたままで。


東京/シリウス

  Nizzzy


目は覚めているか?
東京 この都市のどこかで
紫の服を着た聖母が歩いている
黒ではなく赤く
 濡れた 路上の端で
寒椿の花がひとつふたつ 
落/堕下している
東京の、
一番高いビルが審判だ ここは
法廷だ 自由法廷だ
その中で山手線の動く音
が、骨音だ
サラ地に生き残した断罪者があげる 六腑
 のシシュウだ
メトロのドアを開けるんだ
腕の無いエイズ患者にどうしてみんな気づかない?
雨だってこうやって降りしきっている
丸ノ内の地下のパイプラインに
彼らの血がはいっていない
 と誰が言えるのか!
魂とクビキのある法廷の中では
曇り空の方が、真実よりも青く醒めている
皇居の庭にコンビニのビニール袋が 
風に舞っている
なにかひとりの鬼になる だれも
 いない
そうだ、すべては胴体の中に
 あるフィルム・センターだ
鼓膜と虹彩をモンタージュしろ
民族の記憶とやらをペーストしてしまえ!
群青/像を重ね合わせて、行間をアジテートするんだ
そこがマドだ 全ての日比谷ビルディングスの
ガラスを粉々に砕いてしまえ!
それを飲み込んで涙にかえてしまえ
シリウスだ、3つの
 シリウスだ
局所に点在する(身体)を反乱/氾濫せよ
シリウス、シリウスなのだ!
それは都庁の影に隠された数多くのシリウスなのだ
審判に向かえ 本当に空
 があるうちに
そのドアは明けのうちに開かなくてはならない
見るがいい、
道脇の安全柵は逆立っている
まるで機械にうばわれた海の呪いだ!
その呪いの下で黒い犬が1匹
 腐りかけている
雨だってこうして降りしきっている
聖母の左手が金を握っている
腕の無い患者たちがビルディングのマドに
 写/移っている
覗き込むがいい、
アスファルトの上で、土に還ることのできない
子犬の瞳を 青醒めた腐肉の
中を舞う にごったビニール袋を
それは鬼のような俺だ 篝火だ!
シリウス、
 シリウスなのだ!
すべての骨に降るシシャの雨だ!
すべての涙に塗られたウィルスの空/殻だ!
すべてのシリウスだ!
すべてが東京に流れる記憶の
 動/胴乱なのだ


セメンダイン

  Nizzzy


かあさんが言ってた、樹がはえたんだって、
私のぬけたところに、彼女はうごけないんだって

セメンダイン、平行線、彼女の筆跡、
はりつけてしまったら、水晶みたいにみえた

雪原、からだの、何もないところ
流れでて、うばいあって、うめあった場所

私がいる、からだの、何もないところ
セメンダインくっつけて、霧のなか、
なんだってかまわなかった、水晶みたいにみえた

かあさん 僕らから、オオカミは翔けていった
並びたつ木々が、ひとつずつ、とおく、黒く、流れていった

遠ぼえはいってしまった、どこかで、煙のにおいがした

赤い樹、彼女の、うごけないところ、
からだのぬけたところに、私がうめた場所、
セメンダイン、平行線、彼女の、筆跡

そして冬になって、僕らから、なにもなくなって、
むかし樹のあったところには、雪のおとだけがしている

しみこんでいく、セメンダイン、かたくなってしまう
はがそうとして、爪のばした、低くうなりながら

うごかない、彼女の、思いだせなかった場所、
流れでて、うばいあった、私のところ

彼女の、からだの、なかったところ


カイン

  Nizzzy


「水の中に落とされる、彼女の命名。
傷痕の赭に、朽ち錆びる時計。」   沈黙の、  
こごまった「水深の中で、娑羅の、 「二人に科せられた名前。
太陽に背いている。白い、腕「咲き」の
二人には、ふるえる、水。」     盲目の花。」

シフォンのたなびいた、ひとつの、失効。 赤すぎてしまった花。
ほつれていく、「心音と    「その狂花の中の砂塵に、
                似た名前。」
写しこんでいく。」光線をとりあつめて、     
       「そこは海だったのだと、あなたは言った。  
きざまれる、秒針に、私は換えていく。」  

「散沫に乱されていく、        
あなた」の肌の隙間から、じきに、 「望まれぬ夕べ、子供のころの、
「暗い砂の交叉にかき消されていく  彼女の「咲き」。
 僕らの、一握する呼吸。」 私たちの街に、世界が焼けていった。
「僕らは、左手にいたのだった。 枯れ果てた名前を、摘むように。
 シオンの園に眠りながら。」

もう、「見ることのできない、 「地平線の、腕のなるときに、
光彩の深い、波打ちぎわに咲く。 それは偏差となって、河となって、
盲目に赤すぎてしまった花、沈黙。」 微笑と軸とに、
空-殻の層に落とされていく。」  金属の、響く周波に、私は換えていく。
「二人に科せられた名前、   「いくらかの罪を、
 あなた」は知っていた?    赤砂の振動へと分けて、」
 ふるえる、水。

「僕らの、堕胎する言葉たち   彼らは、心音を分けてしまった。
剥き出しのまま執行される、  水抄を、船の後方へと。
時効なき名前。」    巡る砂塵を、体温を、遠ざけるように。」
「海であった、二人の、「呼吸する交線、その先がふれ合って、
散らばってゆく、ひとつ。  停まり、また沈んでしまう。」
              記名なまま、太陽に背いて。」

握り合うままに、消えていった、」  「焼ける、その煙を吸って、
僕らの、赦しあう子供たち。  「肺の中の痛みを覚えている。
                私は秒針を換えていく。」
微傷に侵されていく、 「水につけられた肌の延長を、
波ぎわを、保存するために。   科せられた花の名を、摘むように。」
「いくらかの罪を、
 私たちのザイオンへ分けるように。」


アメリカ

  Nizzzy



女の張り出した局部に
  かすかに息をする収容所
 (その傍らを行進する、マーチングバンド)
  朝霜のきしめく草原を
  足の先爪で渡っていく(蹄の残るブルーグラスを踏みしめて)

近似円の奥にベゴニアを咲かす
  (51州の、吼える星座)
   ピアノ線を巡らせる
   この指(コットンを摘む、黒人のしわがれた声)

花々が、
  テキサスを射精に処す

アメリカの記憶が成層圏で
  散乱する。(鎮まれと、双角の鹿が)

衛星間にもたらされた
 花々の冠
 “アタラクシア”と呼ばれた、下方へと
 投げ込まれた、エンパイヤ
 ステート・ビルディング

現像された西部劇の夕刻
  (鋳造された、アーモンドの茂みで)
   大通りの檻に入れられた
   陰月に祈る民(アメリカン・スピリッツの煙を吐き出して)

エミリー・ディキンソンの性が十字架に、釘刺す喜び

アメリカの記憶が成層圏で
  産卵する。(留まれ、と白色の烏が)

花々の輪姦を
  アメリカが絨毯爆撃する

焼け野原、
 兵士の死体に、六芒星を曝して
アメリカ
よ、
お前の唇を、噛みあげる

ヴェガスの砂塵、
 コスモ・「フィロソフィア」
形而上学的アメリカ
よ、
お前の胎盤を、握りしめる

エドガー・アラン・ポーの性がアメリカに、複数受精する

同方円のさなかに
  しとねこんでいく足音
 (ディキシー、デルタ、三角の耕地へと)
  マイアミのラジオが流す
  女の賛美歌(八百万の、民族が祈っていた丘で)

あぁ、「ここ」は有色の荒野だ
    ミシシッピの川の、船べりの秋だ
    
さぶらおう、
    散弾銃をブルーズに施そう
   (スー族の戦いの歌が、誇らす)
    ブラック・アイド、スーザン
    女のくびれの、花束
    細める臍帯(どの鯨の骨も、すでに篝火へと)
アメリカ


泣き叫べ
 フリーダム
 
混血の、(雷が、先住民の血管へ駆け込んでいく)
  リンカーネイション

アメリカの記憶が成層圏で、
  南北に散逸する。(沈まれ、と赤毛の馬が)
  赤蜻蛉の群れが、
  概念の上を、飛んでいく

ミシシッピの川の、船べりの秋に
     氾濫したニュー・オリンズの、川岸で
     テネシー・ワルツを、踊っている

文学極道

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