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maracas

選出作品 (投稿日時順 / 全11作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


登下校

  maracas

木があった
車などが通った
太陽が上にあるけど
駄目だった
二時間目は英語だった
月があった
木もあったけど
木のなかに月の光はなかった
窓があった
地球と月の
共通重心があった
剪定師が枝を切るスピードで
車などが通った
二時間目は数学だった
雲があった
冷たい風が通った
古い家もあったけど
家のなかにだれもいなかった


ビーナス

  maracas

冷え固まったマグマを、赤く発光するマグマが突き破る
そしてまた、黒く冷え固まりはじめる
冷え固まるのを許そうとしない新しいマグマが、
それを突き破り、冷たいマグマと熱いマグマが混ざり合う

ビーナスが、ゲロゲロと嘔吐している間、
ぼくはまったくすることがなくて、だからといって
何かをしようとも思わなかった
ぼくは、吐瀉物だった
ゲロゲロのリズムのなかに、ぼくが
グルグルまわっていた
ただ、多くのビーナスの、激しく往来する
道のなかにいて、ビーナスのゲロゲロが
降り積もっていくのを見ている

ゲロゲロは地図を描いた
降り積もっていく間に世界地図を描いて、
ぼくが任意の点に指を突き刺すと
ゲロゲロが悲鳴をあげて、
ぼくの指があっさり溶けた


  maracas


白い波に
くるまっていた
喉のあたりまで
やわらかい水泡が
触っていた
飴色の少年が
砂を踏み
月の光が
足跡を
しずかに消す
桟橋から
消えたばかりの
泣き声
光へ
手を伸ばすと
波の視線が
揺らぎはじめる
手のもとへ
光のもとへ
波は打ち寄せ
少年が
振り返る
時間だけ
月の球体が
生まれた


太陽

  maracas

太陽の輪郭が今日はやけに際立っている。西の空は地平線の上で待っている。空に浮かぶまるが一つ降下すると他のまるもつられて降下する。太陽光線が植物の葉の中を通過する。紫かつ橙色の空が沈んでいく。時計の針が膨れて誰かの手がそれを潰した。反射的に光球が破裂した。

子どもたちが唱える念仏に合わせて立体的に踊ってしまう観葉植物が街の方で人気らしいが、どこの街で売っているのか誰も教えてくれない。葉っぱの模様を、穴があくまで観察することもできない。

植物の、地中にある茎のことを、地下茎という。大気中の水蒸気量が極度に増大した昨日、植物は地球史上初めて夢を見た。植物に寄生する虫たちも、ほとんど我を忘れていた。光速で移動する概念が地下深くから放射され、不完全な迷路の中で立ち止まっている太陽光と衝突する。

まるい観覧車が四角になっていて、太陽みたいだ。太陽のせいで職を失った若者たちが、食べるものを探して穴から這い出てくる時、子どもたちが唱える念仏に合わせて立体的に踊ってしまう観葉植物が受精する。街から街へと走り抜ける若者たちは、静止画のようだった。西の空が沈まないように監視を続ける人たちは、紫かつ橙色の空を見て、わざとらしく感嘆する。白い三日月が、まるい太陽の三分の一ほどの大きさで空に貼り付いている。日没という現象は、すぐに始まりすぐに終わってしまうということが、この地域でもどの地域でも知られている。

紫かつ橙色の液体というものが存在していたとして、液体がすべて蒸発してしまうのにどれだけの時間を要するか計算せよ、という課題が出された。言葉の定義について調べたり考えたりするよりも、夜明けを待っている方が楽だった。

植物の茎を使って文字を刻んだ粘土板が崩れた。のどが乾いた人たちは太陽に背を向けて歩きだす。結果は原因より容易で、原因は存在より容易であるということが確認された。地球の表面を雑に転がることでしか前に進めない球体があり、その転がり方の雑さに世界中が驚嘆している。球体に非があるのでも、地球の表面に非があるのでもない。問題は相対的だった。

情熱がもてはやされる時代に、子どもたちが唱える念仏に合わせて立体的に踊ってしまう観葉植物は上手く適合した。この地域でもどの地域でも葉っぱという葉っぱが踊っている。子どもたちの舌の細胞の一つ一つが、空気に触れるたび隆起する。概念という概念が、細胞という実体をもって、おぞましいほど生きている。舌は口腔の闇の中に隠されていた。


眠りの瞬間

  maracas

眠りの瞬間
こころが散らばっていく
からだが自由になる
もっと 選ばせてほしい
散らばったこころの破片を
手にとって歩く

眠りの瞬間
水が波うつ
偶然を使って遊んだ
透明の汗
広がることに身をまかせていた

眠りの瞬間
旅先の路地に
ぷらぷらと 入りこんだ
孤独などなく
見知らぬ家の庭を見て
なつかしんだ

眠りの瞬間
思考が映像となって見える
それは水面で
鏡のように けれど
揺れて とどまることがない

眠りの瞬間
言葉が からだを離れた
言葉が からだに馴染んだ


食べます。

  maracas

食材を得ます。
食べます。うそでした。
ちょっと、気がはやい。
焼いたり煮たりするとよいでしょう。
食べます。その前によく見ます。
見なくてもよいでしょう。
感覚がぼーっとする感覚です。
食べます。気がはやい。
山を歩き、海へ出る。
潜っては、魚穫り。貝穫り。
岸へあがる。川をのぼり、山へ入る。
そのころには、空ももう、溶けはじめた。
うるさいな。
並べます。この様子を、だれかが、
獺祭(だっさい)と呼びます。
気がはやくて、それでいて。
東の野が、ぼーっとする。
うつくしい。
食べたい。食べます。ありがとう。
調和する、
調和する、
調和する、調和しない。


十五夜・寒露

  maracas

十五夜

踊るだろう
光をふりながら
菓子を食べながら
ぶるぶると
頭をふってしまうだろう
満月がようやく震えている
光のような痛みを感じる草草の
震える手を取って
回転する椅子に座り
舞い踊る山伏たちの残像を
頭のなかでつなぎ合わせながら
食べた菓子のことを
未練がましく思い出している
わたしの
手に草を
草に手をさしのべる


寒露

沈むお餅のなかに
眠っている
あたためられて治癒される
たたなづく青垣
芽の奥で読みとおす一雫
遠方の岬が揺らめいている
日の出のころ


秋台風

  maracas

チューブから虹色の光がしぼり出された。虚ろなメロンジュースが飛び出してくる。イチゴ色の文字列が螺旋階段を上った。もうすぐ空き箱の雨が降るだろう。震え始めた手のひらを温めながら執拗に追いかけてくるイベント関係者から逃げる。誰もいない連絡通路を歩く。白い不安が足元を温める。水蒸気はぐるぐる回り24時間以上彷徨い続けているイベント関係者めがけて収束する。ぽろぽろ落ちるピアノの鍵盤。眠りたい気持ちが空からぶら下がっている。黒い石畳の道を歩くと年老いたイノシシの悪臭が鼻腔に染み渡る。ぼろぼろになる髪の毛と歯。あらゆる農耕放棄地をうろつき回り放棄された農作物を貪り食うイベント関係者が虚空を見る。透明感のある唇と迷路のような国道を周回するパトカーの赤色灯を混同する。震える手がピアノを叩くと誰もいない岸辺にぼろぼろの打楽器が打ち上がる。腫れた手が心臓の柔らかな毛を撫でた。目の前の人間に手のひらを見せるとその人間は占い師に変化した。戸棚の中の甘ったるい外国のお菓子が占い師の脳内を占領した。ろくに食べていない宇宙飛行士が宇宙空間から落っこちる。宇宙空間から宇宙空間へと動いた。ピアノは腐りかけている。白い壁紙の凹凸をみずからの歩く迷路に見立てた彼の脳みそのように。おもちゃを渡してくれない子どもに向かって砂をかけて遊ぶ。浮遊する微生物が砂の中で笑っている。空間に満たされた流動しない世界。ふっくらとしたものが炊き上がった。真っ暗なショッピングモールの摩擦のない床の上をせわしなく移動している大量のイベント関係者。永遠の恋人のもとへ行くと彼は知らない人となって笑っていた。楽しそうな予感が耳に聴こえない音とともに近づいてくる。占い師はその存在を売却しその占いは海のように静かになった。色彩の微粒子に没入しみずからをかき混ぜることが可能であるのは選ばれた少数の人間だった。真っ暗なショッピングモールの中でみずからの過去に干渉することができなかった彼はまったく関係のない人となって消えた。
「イベント関係者」


馬上から失礼します。
この坂を登るのは大変でしょうね。
なにしろ壁のようですもの。
宗教の違いによって
タイミングの違う空から
馬が落ちてくるそうですよ。
わたくしは坂を登らずに
ここで見ていますことよ。
「坂」


沿岸部というものは、青く、そして、緑の水辺だろうと予想していた。実際の沿岸部は、寸分違わず、その通りの場所だった。白い蛸が現れたり、固まりの蟹が消えたりした。もうすぐ楽しいパーティが始まる。ボロ、ボロボロと、楽しい機械音が空から聞こえ、楽しさを撒き散らす機械が、沿岸部に到着した。青と緑の水辺に、青と緑の邸宅がある。そこの主人が招いた客が、機械音を伴ってやって来るのだ。沿岸部は、青く、そして、緑の水辺であり、哀しき岩礁とも言うべき静けさのなか、ちろちろと海水が流れ込んでいる。空から見た沿岸部は、非常に美しく、大いなる海を切り取っていた。
「沿岸部」


橋は燃えている。燃えているので渡れない。別の橋を探す。人で溢れかえっている。群衆をかき分けて橋を渡った。山を登る。竹の根元を掴んで傾斜を登る。道へ出た。鏡を見れば僧侶となっている。血の色の袈裟。清浄な精神。脳みそがはち切れる。おっと。僧侶は真空になった。
「真空」


赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。六角形の穴に落ちてずいぶん時間が経つ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。六角形の穴に落ちてずいぶん時間が経つ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。赤だよ。黄色だよ。六角形の穴に落ちてずいぶん時間が経つ。
「穴」


尻の穴を連続で叩くと、気圧の変化を感じる。
「穴」


波乗りしているこの感覚をどう表現したらいい?ギターのジャンとベースのラブがおマヌケな顔してこっちを見ている。オレは知らぬふりをする。オレは犬を放り投げたか?波は砕け散った。無秩序な運動がちりぢりに弾けた。破断する波だ。涙じゃないんだ。ジャンは色褪せた赤。ラブは馬鹿みたいな白。おマヌケな顔してこっちを見ている。オレは知らぬふりをしている。
「波乗り」


獣の匂いのする部屋に連れていかれた。黒く細長いドアを持ったエレベーターに乗せられ、おそらく25階、不自然な動作で、エレベーターを降りる。獣の部屋は迷路であった。入口と出口しか無い迷路。黒い服を着た人間は、不気味な笑みを浮かべながら、最初からそこに存在しなかった。ぼくは取り残された。取り残されたぼくは、髪が伸び続ける人形のイデアを内蔵しながら、夜が明けて朝が終わるのを待った。エレベーターは壊れながら到着した。真っ暗で細長いエレベーターに乗り込み、青白い顔でエントランスへ向かう。枯れたダンスホールのようなロビーは不気味な真紅色であった。黒い服を着た男女が一組存在し、ぼくに普遍的な言葉を投げかけた。そのあまりの普遍性に、ぼくは思わず身体をよろめかせた。すると黒い服を着た男がぼくの身体を支え、ぼくの夢がさめるのを見守った。
「夢」


紅葉狩

  maracas

ほんとうに小さな骸骨が、なめらかな彫刻のうえに乗っている。彫刻のうえを、鉄道が横断している。鈴が、音を切りきざむ。鈴は、仔象の色である。
「骸骨」

衣服がたゆみ、老人たちは、そこら中にあらわれた。川底からわきあがる水のように、木漏れ日のように。
「毛布」

十字路を組み合わせ、街をつくり、交通渋滞を、無くそうとした、文明人は、道にあいた、溝のなかに、落っこちてしまう。
「庭」

うすもや、曇天、くもり空、すりガラス、もや、しろ、くもり、はれ、きり。耳をつんざく、音の数。交通渋滞をひきおこす、パフォーマンス集団。
「くもり空」

葉っぱ。アンテナのように伸びた、点。白い籠のなかにたくさん入っている。
「庭」

電波の悪い地域には、古くからその地に伝わる、舞があった。電波の悪い地域で、おこなわれる舞は、太刀や木の枝を持って、まわるものだった。小鬼が横並びになり、海の波のように、少しずつ動く。
「舞」


十二月

  maracas


駅にある店で、一万円札を両替してもらおうとすると、おじさん店員にブチ切れられた。ガムを一つ買って一万円札を崩そうとすると、おじさん店員はさらにブチ切れた。おじさん店員は私の一万円札を精算台に叩きつけたあと奥へ行き、しばらくして戻ってきて、ガムと九千五百円を叩きつけた。ガムと九千五百円は地面に散乱し、私は周りの人々の注目をあつめながらそれらを拾った。

帰る方法がなくなったと思った。気を落ち着かせるために、一駅分歩いた。知らない土地だったが、線路に沿って歩いていれば着くだろうと思った。途中、広くて平らな砂場があり、なにかのイベントをやっているのか人がたくさんいたので、近づいてみた。人々は、砂場に描かれた幾何学模様の線の上を、歩いている。線はかき消されるが、ふたたび自然に浮かびあがってくるようだ。人々は線の上を歩き、どこかへ消え、どこからか現れるのを繰り返していた。私ははじめ不安に思ったが、知らず知らずのうちに、歩きだした。

日は暮れはじめた。次の駅、次の駅と、歩き続けた。あたりが真っ暗になると、初動受胎、初動受胎と言う声が聞こえてきた。聞き慣れない言葉に戸惑いながらも、歩くしかなかったので、歩き続けた。


一月

  maracas

道をぼんやり歩いていたら
いつの間にか
たどり着いた。
丸い水が
ごう音とともに
流れてきて
岩壁にぶちあたる場所。
暗くて
藍色の場所。
つややかな黒髪の
形よき青年が
魚を
腹の膨らんだ魚どもを
あやつっている。
魚はびちびちと跳ね
辺りに激しく水をちらす。

そこで
スマホを取り出して
高校のときの
仲良くなかった友達に
ラインを送る。
友達はすでに
誰か別の人に入れ替わっていて
知らない人との
会話の内容が
pdfで保存された。

魚どもは
私を食いにかかり
あちこちで踊るように跳ね
狂っているようだった。
魚どもは
方向もなく
岩壁にぶちあたりながら
おそろしげに
飛んでくる。

そこはまるで
牧場のような
熱帯雨林のような住宅地
そして
誰もいない夜の公園だった。
湿った草が
大きく生えていて
白色の腐った柵が
ならびつづけている。

魚は
びちびちとうねるように
まとまって
水のように
襲いかかってきた。
ごぼごぼと
耳の奥で音がした。
私は祈った。

狼の群れが
魚どもを
一息に
食い千切っていった。

文学極道

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