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bananamwllow (DNA) - 2009年分

選出作品 (投稿日時順 / 全8作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


暁の、flims

  DNA

陥没した緑の層 その淵へと
   菌糸のたぐいの 声、上げ ている
翻って
(朝の驟雨 
 夜光虫の群れの、鉄の赤錆を舐め



放たれた熱、少女は接触ガラスをその 黒い瞳
に植えつけ 畑のヨコで 滲んだ白い煙をハミ、
乱れ舞っている 

(隣接する鈍色の 木簡に 一昨日、螺旋をくだっていった少年の日録が記されていた

「結露区にて月、
   光の 三拍子になるまえに
  帰路を急ぎます」



調律を回復せよ



「暁の、真理値 
   薄らいだ空き箱に
     絶対主体の振幅 とその欠片を
   正確に 写しいれてください」



フロンティアはきみの 背中の後ろ側にいつまでも開けており 辿ってきた
土地の、たとえば野生の猫とマムシの、真昼の決闘が森林公園の側溝で目撃
された翌日から きみの 背中の後ろ側にいつまでも開けており 一歩ずつ
歩をすすめていくというのは最初から獲得されるはずのない誤謬なのだ あ
たらしい挨拶のかたちは 空気孔のあちこちにあいたぼくたちのからだのほ
うから流れ出していく



谷と谷のあいだの瓦礫その 底辺でゆっくりと少年は切断面を探索している 
計測器は微細な菌糸にハミ 侵されてはいるが 一面の銀色に熟れた建築群
を暁の、野良犬たちが端から舐め尽くし 煙のなかに生息する少女の吐き出
した唾が ぼくたちのうすい月 の光に照らしだされビヨオン、ビヨーン落 下。



「地下の     空洞にて
     狂い だした
   真空計測器
       の
    いま  絶 叫
       が
   鳴っている」         


野球の規則(改)

  DNA


(崩落する車輪
 から滲み出た
 暗い空 が二つに
 わかれ
 水星の前輪と金星の後輪で
 疾駆する 子盗りの
 群れ)

おまえがうまれそこなわずにすんだときいておれもうまれてくることにした おれたちのあいだには野球の規則がよこたわっており  しかしおれはおまえがよもや野球をえらぶなどとはおもいもせんかったから おまえが野球の規則をぬりかえることに 精魂こめとるなどと はなからしんじておらず てっきり競輪選手になるために にちや自転車をこいどるものとおもとった 野球の規則はおまえに半分属しておって 子盗りと一緒におまえがきえてしまいよった日 おれは出発したのだ どこへ? 指先へか? (指のきっさきに何があるというのか) おまえはおまえのつむぎだすはずのことばから中産階級のにおいがのぼりたつのにいらだつ ゴキジェットを紙のうえにまいて ひとつひとつことばを仮死の状態にして しかし最初からしんでいるのだ おれはしにかけの生きものの胴体をゆさぶって 「おきろっ」と喚いているに等しい かなしくもなく 誤認。 サクゴハムコウニシテ でかけよう おまえは残酷な球の投げ方をするだろうから すぐにみわけがつく (おれはいま病院にいて 三連音がひっきりなしに壁のうえからひびいており サインプレーをだしつづけるのだ 三日間だ ((おまえにはとどかないだろう こんな静寂にみちた緑色の部屋からは トイレからみえるポプラはいつのまにやら刈りとられ おれは おれの手足と眼玉を接ぎ木して おまえをさがしにでかけるんよ 暗い夜だ おまえがうまれそこなわなかったかわりに おれはしにそこなったのかもしれない (((それは嘘です ソレハギモウコウイデショウ?  
 病人がだんけつしてひとりひとり ここからぬけださせ おれにも おれのじゅんばんがやってきて おそとにで 三年間だ おまえをさがしつづけ 

きょう 審判はタイヨウの暴発を悟って ナインを避難させた (ここはどこだ? あすこだ) おまえの投げた球は まっくろにこげきっており おれは (たぶんわらいな/きながら) 丁寧にマウンドにそれを埋めた   
 
「おれとおまえ 野球の規則をぬりかえるために 恋人になったとしったら いったいなんにんの にんげんが一笑にふして くれるんやろか (あほな おまえのせいで もう半分はおれのせいで だれも夏に野球なんてやらんなってしもたよ 

 *

ここは緑色した壁に囲われた小さな部屋です ひんやりとした感触のほかにわたしの楽しみはありません 今年もまた夏がきたのですね わたしは夏になるときみとみた子盗りの群れをおもいだします お元気ですか またいつか野球ができる日のくることを楽しみにしています


護岸

  bananamellow



「眼底で
 悴んだ指の
 さき の震え、
 鳴っ ている音。
 から発光したので
 す」 



岬へ!
その
途上にて
オチ 窪んだ岩石
に潜在する
ワシュロ
の観念のうえ
さかしまに
なぞられ/た内海 



  (灯台守
   の書き、留めた
   三通の封書
   から
   の転落)
 


数本の指のあいだ
から露光した
牝馬の四肢 
その、
白さよ! 

ちいさきもの
ども、の
向日性だけが 
最後まで
抗する術
を纏っていた 



隠れた
瑕疵の歩幅
ヒソヤカ、
に暴れで
散れ!
紅い河の
逃亡する
放縦な手首
陰る六面体の



夜半、誰
からの報告も拒んだ
鳥群が旋回し

(あたうる限りの冷たい眼球に触れたきみの黒点 
は決して減少せず わたしたち、の護ってきた岸辺
に 今朝 漂着していた)


(無題)

  bananamellow


深ぶかとした
背骨がふたつ 
真昼の救済を
目論んで寝そべる 
公開された軒先に
集う白い光の 
またしても左眼のうえで燃え、盛り
アシタバはこの 
夏を待たずに枯れ果てていった 

残された校庭には
野犬たちの濡れた唇がある 

「白過ぎた。あまりに・・
    だから、濁っている」

散乱した骨片を
ふたたび拾い集め 
すぐれた位置で
咆哮せよ 

あらかじめ交じり損ねた 
ふたつの背骨は
暗い洞穴のなかで
寒い眠りをむさぼり

その傍らを
ただしい横顔が
通過していく


千の雷魚

  DNA



孕まない 
二重に孕みはしない朝
の秘匿され/た、鈍色の広がり
の向こう岸で
あまりに
荒れ果てた赤の地表を
産まれたての彫刻刀
のボロボロッ
と転がり                          

湿った 
             市場から
     密せられた 潜航
               の いま
(始まる!

  「あたらしい跫音を
   背後から踏み、砕いて。

  *

     (噴流
      の河口)

灰色の瞳
の静か、に
横たわり わたしたちの生を
宥めている

///混交。
   してもいいですか
   (一昨日の小夏と背面の危機を!



折り、曲げたのです。
その先端で
斜め
に露光する雷魚 
の、(千の!)      
重ねられた
少年の足指
は決して 倒立することはなく
対岸の
薄い、
緑の陽光のなか
一度も死んだことのない(という
黒青の馬たち
と並走している

    草上の
 誓われた
              途切れがちに
     最奥の    
          突/風。
   
      ていねいに
鎮まった
               地表の
       捲れて
     漏れだした
 赤、に
           隣りあった
      千の、雷魚よ      
 明るい両の眼           その
   数を   想うというの/ 
               なら!



白い、泡の降り注ぎ 
計量もされた
わたしたち、の
欠けた尺骨をひとつひとつ 
掻き集め 
ただひたすらに

食んでいくのか、おまえは!
   


出立

  DNA

  


届かないまだ手、を延ばして あ いたがえ
たゆ びを配るぼく たちは林道を (か)
たどって淵辺へと た くさんの息吹を 摘
んだ(ね) その穢れ をまとって も も
う慌てない(で) 短か(か)く 身/直に
護って いるから きみも知って いる 隣
町の 水夫が ま もって いるから 穏や 
か に綴 るおれの うす い 薄い紙に 
いつの火か、を 穏や か に刻んでく れ



この七日のあいだに朽ち果てた
獣の数をかぞえたら視力が衰えた 
隣人たちは枝葉をあつめ火を焚き 
朽ちた屍が燻され 絡まった蒸気が 
濁ったからだを覆った 



翔んださ き から 不 浄の深沼に 足
(もと) をすく われ 転ばな い方法
を 蝶々 は捨てた 翌日に はこどもたち
が 羽化を は じめ 繰り返される 転倒
に あたらしい希み は絶たれ たしかし 
ぼくたちには 脱ぎ 捨てられた 体皮 が
ある



象られた獣たちの足跡 のあまりの小ささ
に手を合わせ かつて踏み固められた刹那 
に残っていた湿りを想ってきみは 思わず
くしゃみをした      



轟々と(う)なってい いる 火と雫、余さ 
 ずに 食ん で かじか む まだ手、を
延ばして ぼ くたち は(さ)サワ って
いる(ね) 摘み 穫っ た 息吹の ケッ
ペンで (か)き、つけて いるから たと
え ば「ゴウ(業)」なども はや 聴
(こ)えなか った どう か 荒らさない
(で) きみが贈ってくれ た涼しく貧し 
い 琥珀いろ の数珠をたずさえ、わた し
たち は今日 しゅっ たつ します


夏に濁る

  DNA


溢れるほどの地中海との交接など捨てた 
あまりに 上手に自然発火する女 (忘れてはいない 
熱烈な傍観者が月の陰を揺さぶる 
左奥のタイヤは始終パンクし 擦り切れすぎ
て 抵抗への文句が浮かぶこともない 

制服に身をつつんだおまえ 
野火の隣で 乱舞し すずやかな真昼に 
身構えたときにはもう 空は捩じ切れ 

「青い森すら恨めしい」 

切っ先の変化に気付くこともなく まっさら
な受動性が 食を絶つことで全て 贖われる
と思っていた  石橋は叩くまでもなく崩れ落
ちていったといえばよいのか 

鈍い音とともに未生の田畠が燃やされ 
使い古された身体 については何も知らない 
テレビから漏れてくる早朝の 白い光がただ
ケタルいということは知っている そこ から
疾走するおまえの 見事に転倒する姿を 
裸眼に貼付けておきたい

(太陽を目指すことも 太陽に歯向かうことも同程度に
腐食していたから 白い 画布をひたすら 
×印で埋めていった一昨日 
削られた 頬骨から
誤って 零れ落ち渇いた 
肉と水晶が寒い 
さきに出発した船舶は 砂地で滞 留し 
隣で眠る男の 
くるぶしが薄暗い 

「夜にだけだらしなく咲く花の罪科を問う」 

ほつれた海流は脈を打って 風下の祭囃子をひとつずつ 
否定していき 膿んだ黒い血を垂らしながら 
潔白の証明にと 早朝のテレビは倒れ 
あたらしい産道へと 母たちが帰っていく 

「濁った泥水のなかでしかわたしの刻印は呑まれ/ない。

    (未明に
     腐乱した
     一匹のフナの眩い 
     腹のなかで わたしは今日
     目覚めたのだ)   


ミホちゃん、キャラ崩壊中

  DNA

                        
              まったく知らない人間
              まったく好きになれそうにない彼のために
              ここに椅子を用意する
               (「問題はあとひとつだ」福間健二)



なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか

大野さん病んでんねんて
なんでなんで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに
学校もう来てへんらしいよ
ホムペ見てみ
ああ、あれは病んでんね
最近閉じたらしいわ
ミホちゃん以外の27回生全員死ねって
(え?よりによってミホちゃんなん
なんでなんで
小学校のときめっちゃ明るかったやん
人気者やったで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに

なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか てにぶか

ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ

なにそれ?

ミホちゃんが歌っとったらしいよ(大声で
え?聴こえへんかった もっぺん歌って いやや 
最近ミホちゃんヘンじゃない? はじけてしまっ
たというか 紅い実が? それは寒いよ! ああ、
ミホちゃん乗り移ってんちゃうん やめろや ああ、
ああ、崩壊中、ミ、ミ、ミホちゃん、キャ、ラ、崩、壊、中・・・

大野さん、ガッコ別に出てこなくてもいいんだよ 「わたしたち待ってます」なんて
死んでもいわないから ミホは舞ってます 毎日毎日舞ってます 手のひら、ひらひ
ら タイヨウにかざして 今日も舞ってます ロンド。

ミホちん、今日は環状線三周しました。新記録です。今宮で降りて天王寺公園ぶらつ
いてたら、まだわかい兄やんが三千円で手で抜いてってぬかすから、わたし思春期で
忙しいんですけどって断った。今日も空はあまりに高くて目眩がします。

あ、ぼくもテニス部だったんですけどね

ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ 
慌ててぼくは黄色い装丁に赤字でタイトルの書かれた
一冊の詩集のことを想いだし、
とりあえず「きみたちは美人だ」とノートに書き付けた

友人のね「手紙」っていうタイトルのブログに
〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあった

誠実に、がミソなんやろ
いや、並べる、がミソやで

「どんなにしんどくても連絡だけはしいや」
「はい、すんませんでした。ありがとうございます」

〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあって
ぼくは電車のなかで泣いた

釜ヶ崎の三角公園で
一ヶ月前
「よってき祭り」
というのやってて
よってったら
「ダンシングよしたかとロックンロールフォーレバーズ」 
っちゅうめっさかっこええバンド
が唄ってた
御座のうえでぼくは
友達と聴き入ってた

ウォーン!
狼は吠え
日雇いのおっちゃんは
あまりにダンサブルで
言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

さよなら、サンカク
またきて、シカク

ウタは、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

あ、大野元気?
ミホちんも元気そうでなにより
それだけ
ただ、それだけ

〈♪ジャスティス・アズ・ア・カンヴァセーション

どこやったかなあ、赤土のコート。
ああ、育英高校やわ、イクエ。
あそこで試合待ってる最中、
それも長いねん、待ち時間が。
第一試合が朝あって、
第二試合始まるの昼過ぎやで、
ほんまかなんわ。
んでな、第一試合終わって
日陰でぼおっとしてるやん。
ポカリとか飲みながら。ぼおっと、
あほみたいなつらさらして。
だいたい、高校生くらいの悩みとか
十年たったら、あほみたいな悩みやったなあと思うやろ。

それはな、嘘やで。

「あと十年たったら
なんでも出来そうな気がするって
でも、やっぱりそんなの嘘さ
やっぱり何もできないよ
僕はいつまでも何もできないだろう」
って昔、部室で歌ってた先輩元気かな。

話もとに戻すけどな、その赤土のコート、イクエの。
全然コート整備できてへん。
イレギュラーしまくり。
あっついし、ボールはわけ解らんはねかたするし、
もうイライライライラしっぱなしや。

おーい、聴こえてる?ミホさん。
大野寝るなって、もうちょっとやから、
もうちょっとだけ聴いて。
んでな、その赤土のコートの周りはな
陸上部が使ってんねん。
敷地が狭いからな、
たぶん併用してるんやろな。
野球場は立派やけどなあ。
んでな、その陸上部の走ってる連中のなかに、
めっさ髪さらっさらでな、
風になびかせながらスラーッした足で
ひょいひょいって走ってる
選手がおったのよ。
独りでずーっとコートの周り
走ってんねんけど、
これが、あまりに美しくってな、
おれ自分の試合どうでもようなって
ずーっとその選手を見てた。

いまやあらゆる比喩が陳腐になって
なににも例えられはしないが

二本の足を、誠実に並べれば、祈りにも似てくる

って想いだして
おれは電車のなかで泣いた

文学極道

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