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いかいか - 2018年分

選出作品 (投稿日時順 / 全8作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


銀河鉄道の夜

  いかいか

私が死ねば全て忘れてしまうから貴方たちとは永遠に友だ輪廻の中で私たちは何度も出会うが誰も自分の事も貴方の事も覚えていないだから私たちは永遠に何も知らないが出会っている私は花であったことも鳥であったこともあったはずだが思い出せないまたは何回目かの誰かであったり誰かに会ったはずなのに思い出せない私は私の名前が思い出せない私たちは出会ってきたが一度もであえたことがないこれからも本当に遠いところにいってしまって私たちは忘れしまって出会うのだそれも何千も何億回も無限にそして忘れてしまうのだ 全部を 出会っているのに、無限に、それでも出会えない 本当に遠いところにいく、希望はない、本当に遠いところから悲しみだけが流れてくる


本当の詩人

  いかいか

死を植える
セーヌ川を、
下る、
漢字の、多いこと、
あれは、
ヤクザ、
聖書に、垂らされた、
牛乳は、
森永、

からっきし、だめですわ、
どいつもこいつも、
腹から、
マグナム、
覗かせて、
這いつくばりながら、
科学してまっさかい

君は、
安江、
花が散る、
現代シは、
長い眠りの、
中で、死んだ、
君は、本当の、
詩人を知っているか、

ベヌーヌ、
新しい、妖怪、
に、
あ、あ、あ、あ、あ、
の、連弾、
蓮ね、
睡蓮の、
咲く、音がする、
そしたら、
皆、弾けて、死ぬ、
詩人だから、
死ねない、
シネマ、
早く、ピアノを、
投げつけて、
近代の、
近代的な津波の、
悲劇、
を、

知ってる、
本当の、
詩人は臭い、
常に、腐ってるから、
特に、
精神が、
やけくそてきに、
150キロの、
ストレートパーマ、
で、焼けてるから、
都会じゃ生きていけない、
歩く、公害、
はは、ばーか

あは、あは、あは、あは、
じゃ僕も本当の詩人になるよ

君が、
解いていけ、
この
数式
の、時間に、
部屋に咲く、
花に、残る、
君の、
横顔、を、
また、解いていく、
紐は、結ばれた、
長い、
電話で、
鳴らないから、
私は、
私から、
君を、引くことができない、

初めての部屋に飾った、
紫陽花が、雨を呼ぶ窓を
閉める君の手に引かれては
解かれていく私の手に足される
君の、

ばーか
こんなもの、技術だよ
ばーか

死を植える、
と、フレーズが、
浮かんでから、
この、先が書けない、
吉本は死んだ、
石牟礼道子も、死んだ、
俺が死んだら、
牛乳を飲め、
それも、森永の、
ぬるいやつを、


メンヘラ

  いかいか

私は自分自身の説明を誰かに宛てており、私の説明を誰かに宛てながら、私は、貴方に曝されいるからだ。
ジュディスバトラー 自分自身の説明すること

この国で、
精神病者、
が、発見されるのは、
近代だ、
ロシア皇太子の、
来訪の際に、
東京で、
一掃された、
、人々は、
さらに、古い時代では、
巡礼、などの、
群れに、
紛れたが、
名が与えられる、
定義された、
ものの、
名が、
冷たい、

狐が、
ついて、
人になる、
から、
名が与えられ、
新しい、
病が、始まる、
夜明けに、
私は、
君をぶち殺しにいかなければならない、
窓は、開けた、
あらゆる、水を、
汲む、人の、
手が、赤く、
ひび割れた、
この、国土のように、
燃えろ、

おしえてやるよ、
君らが言う読む、の、
浅さについて、
憑依される、身体から、
病む身体に定義された、
わたしたちの、
こころは、
獣と、
人に、
分かれた、
まま、まだ、
獣は、
今だ生きている、

ここでも、
柳田の、人類学が、
邪魔をする、

俺の詩は、
知識を前提とするよ、
でも、それを、求めないように、
作っているが、
君らは、読めるんだろ?
しねよ、ばか

新しく、
精神を、語る度に、
病が生まれた、
狐は、今だ生きていると言うのに、
私は、私を、
定義するもの、の、
名を知らない、
内に、
私は、私ではなくなる、
朝が繰り返される、

朝が来た、
早くに、蛙が、燃えている、
剥奪された、
狐の、名は、
病に置き換えられ、
貴方は、
精神を、
個人に、押し込める、
様に、
息をのむ、

ここでも、やはり、
大本、が、
出てくる、
大本は、
日本近代のあらゆる、
問題を、
抱えている、
のに、君らは知ろうともしない、
よくある、批評的な語彙や、
思想的性格の強い概念で、
安易に、型にはめて終わりが、
読めてるなら、そいつは、
本気でばかだろ

心理学は、
れいこんを、
否定しながら、
現れて、

なんで、俺が突然こんな、
ことを言うかわかるか、
近代文学は、
個人を、前提とした、
精神も
同じように、
個人を、前提として、
定義されなおしたからだ、
精神医学も、そうだ、
精神の、
ありかは、
個人の、内面と、
されてきた、
そして、それは、
わたしたちの、文学をも、
定義してきた、

私たちには、
もはや、旅はない、
漂泊は、
許されない、
路上は、
なく、人々は、
住む、ことを、
強制された、
家族の、
内に、投げ込まれ、
未定住は、許されない、
何者かでならなければならない、
私たちの、
何者でもない、
可能性は、
とうの昔に、
焼き払われている、
ことすらしらない、
ものが、
病を、書いている、
病を、書く、
ことが、
規律的権力を、
物語る、
らざるを、
得ない、
もはや、私たちには、
自分の、言語はない、
定義された、
言語は、
私たちを、語りながら、
私たちでないものを、
語る、度に、
私は、
私を失いながら、
私を、その、一瞬に、
立ち上がらせる、
が、それも、
貴方でない

路上徘徊から、
始まり、
娼婦、犯罪者、非行少年、
を、精神病と、殲滅し、
病院へ、押し込んだ、
時代から、なにもかわってない、
古い時代の、
民間療法院が、
精神病院に、
置き換えられて、
行くなかで、
また、わたしたちの、
精神も、
管理されるように、


俺にはできる、
存在の、
言葉を、
君にはない、
せいぜい、
どうでもいい、
リスカや、odや、
自殺未遂や、
どうでもいい、かなしみや、
くるしみ、
ばかり、
で、
それすら、
君は言わされて、
いるかもしれないのに、
何かを語っている、
つもりの、
ばかなんじゃないのまじで

俺はメンヘラが大嫌い、
メンヘラである、
苦悩を書きながら、
メンヘラであることを、
利用している、
人の、かなしみなど、
くだらない、と、
言い切る、

本番だ

花が咲いた、
花には、
人の、
こころが、
憑かない、
獣が、生まれた、
獣には、
人の、
こころが、、
憑かない、
私には、
私の、こころが、
憑かない、
かなしみは、
言葉の、
中にしかない、
だから、
貴方が、泣いている
姿が、
泣いている、
と、かなしい、
にしか、
置き換えられない、
私は、
何が、失われたか、
を、知る、ことがあっても、
何が失われるか、は、
わからない、まま、
私の、こころは、
私と言う、
存在に、剥奪されて、
暴力に、曝されている、
雨が、憑く、
母の、香りに、
私の父に、
濡れた、ものだけが、
はっきりと、
たちあがり、
揺れ動くのを、
ずっと見ている、
限りなく、
かなしいことを、
限りなく、
少ない、音の、ない、
言葉にして、
こころを、
呼ぶ、

こころは、
私じゃない、


おもいで

  いかいか

あの、
植物は、
ひとに
うたれて、
まだ
やわらかい

倫理と、
呼んだ、
花を咲かせた、
人の間に、
はいるように
神の、ような、
雨を待つ、魂だけが、
渇いていく、

私たちは
1995年3月20日に、
互いの影を殺しあった
輪廻の、洪水の、
中に混ざる、
体がゆっくり、
溶けていく、
水面下には、
透明な、小魚が、
私の、まだ、
人である、部分を、
つついては、
小さな痛みが走る、

私の小さな、
痛みも、
この、洪水にのまれて、
混ざりあった誰かの、
または、誰かであった、
もの、痛み、と、混ざり、
消えていく、
後、一歩進めば、
私の、顔は、
流れの中、
消える、
瞬間に、
昔、窓辺に置いた、
倫理と、名付けた、
植物を、思い出して、
射していた、
陽の、意味を知る、

影を殺した、
だから、もはや、影を、
必要としない、
なら、永遠に、照って、
いればいいと、
渇きが、生まれた理由も知る、

あつまんね


かみ、が、ががが、うまれる、

  いかいか

温度計を見る、
神がうまれる、

かみが、
ががが、
うまれる、

またたなく、
またたなく、
はばからず、
いのり、いのる、
はらまさた、
手を、手を、
差し出し、
さしだし、
ししぬく、
はらの、はらの、
ながれ、ながれ、ぬく、
ぬく、ぬく、
何度も、
なみだ、みな、
なみだ、
みな、

血だ、

神が、生まれる、
温度に、
私たちは耐えられない、
ない、ない、
いいい、

やぁやぁ、
やぁやぁ、
しん、の、
さいが、
ま、たなく、
はらきりま、
す、きみ、を、
なん、ず、
なんず、

殺す、

たまたなくま、
またさかしたなく、
下る、下る、
よもつひらさかの、
おうる、おうる、
息を殺して、
つた、つた、
た、た
た、

華氏320
神が唯一、
ゆいいつ、
焼けた、温度に、
1995の、
憂鬱、と、
文体を、

ゆなく、渇いた、
さはた、あまりにも、
なきぬすく、
知ってる、あれも、
知ってる、
まー、さたかな、
はー、さなか、
生きているものに、
宿る、
言葉はかなしい、
だから、わたしたちは、
垂れる、
なー、なー、
死んでいく、ことを、
生きていることに流している、
または、いきていることを、
死んでいくことに、流して、
生まれる、
神は、
穢れる、

またたなく、
またたなく、
今思えば、
永劫の、
時間の、中で、
かさらぬま、
かさらぬま、
こうべを垂れ、
流した、

あやめた


(無題)

  いかいか

断片

01.ceremony.wna

2018/09/15 18:58

警察署の前に植える百合の花の名前は優里愛で去年群馬県の寂れた田舎町で白骨化した姿で見つかり犬に右腕の小指を齧られた彼女の死因はサキエル 彼女の白い粉末は花火と言われ今国道6号を仙台を目指し上昇する1台の黒いバンの中で炙られて全身黄色い服を来た男達の慰めとなっているバンに当たる生ぬるい夜風に混ざってフロントガラスに張り付いたカエルの名前がミカエル

「天使が俺たちに付けたあだ名は神聖なしょんべん」

男達の笑い声が煙の様に立ち上る

「消毒が多いな!」
「6号は特にあいつらが多いからな」
「あいつら人の肌よりも暖かい恩寵の塊つまり愛!最悪の巨大な糞!」
「俺の右腕の消毒より多い」
「花言葉の墨に注射針を打つ時に叫ぶ罵りの言葉は?」
「████」
「天使どものケツにはアザがあって」
「俺達をつかまえられないせいで」
「神にぶたれたあいつらの赤いケツ」
「アイツらをさらったらパンストを被せて」
「引っ張る!あいつらの泣き顔!」

しょんべんのようにながれてしぬだけならいっそのことおまえらのつばさをぜんぶひきちぎってなきわめいてさけびながらさいごのひとりでいたいそしたらおまえらのかおもわらっているだろうからひきちぎられたつばさのおもみからはずれておまえらははじめてじめんにげきとつするじゆうをあたえられるしぬことをゆるされたおまえらにひとのゆいいつのかなしみとじゆうをおしえてやるなにもかも"仙台"でおわるふゆがやってくるこれは決して比喩じゃないおまえらのしたいがゆきにうもれてみえなくなるころにおれはあるきだしてげろをぶちまけながらぜんぶはいてはいて6号を下るとうきょうにむかって冬を連れてまずは福島と茨城に光る汚物に夜群がる甲虫の殻の中で冷えていく夢が海に流れてそっとだそっとこうちゅうをつかまえた手に降る光る粉をなぞってラファエルと書くおれはかみがひっぷはっぷをあきらめないことをがちでねがっているからいますぐ████
神をぶち殺す韻は人だいやちがう神をぶち殺す韻を踏む人が俺だ!おれのあたまのなかをぐるぐるかけまわる6号と黒いバンがげらげらわらって冬を殺し始めたら本当の始まりだ!おれは出発した嵐の中をさかさにしたぺやんぐをきみのなまえのない封筒とともにこの失われた葡萄を求めた黄色い奴らといっしょに雨をもとめたカセットテープが入らない永遠に長い顔文字 (。・ω・。)o"エイ(。・ω・。)o"エイ(`・ω・´)ノ"オゥ!!かみのあいに重く濡れているアスファルトに激突していく天使の群れが綺麗だ6号は今頃死体で埋め尽くされているあの黄色い奴らが仕入れた新しい武器で殺された人の多くが韻を踏んでいた新しい武器の名前は████

葡萄戦争千年の西瓜の日々に争われるamazarashiの神々の腫れた右の頬を写真にとって親父の写真と一緒に並べて飾る親父はある日茄子を頭にのせて1遍の詩を世界地図と共に燃やしてその灰を飲んだ

「世界はいずれ石灰で覆われて雪は失われた記憶となって夏のグラウンドに母さんが引いたあの白い境界すらも視界からも消えてしまうだから今誠実に切実に丁寧に死ななければならない死ぬために世界は石灰を降らせるそれは成層圏で天使が燃えた灰であっても」

神のギャング達またはエル・トポの子孫達、もう西瓜は盗まれてしまったから僕らはライ麦畑では会えない夕暮れが遅れるばかりのこの世界では夜がただただ短くなって行くだけだコートを羽織ってカラスの様に飛ぼうと真似をする僕らの優しいあたまの悪くなってしまった西瓜の様な子供達に告げるライ麦畑は燃えたあまりの寒さに震える手が擦ったマッチがたった1本落ちたせいでここもすべて灰になるだから逃げなければならない腕を足に変えて僕らはゆっくりとまた来た道を帰りながら昔に戻っていく人の格が薄れてますます馬鹿になっていらなくなった何も入っていないポケットをコートからひきちぎって

ごめんなさい神様
僕らはもうまっすぐにはすすめない

しほんしゅぎがきりすときょうてきなしゅうまつにむかうちょくせんてきなじかんによって けいかく がもたらされてせいりつしたらぼくらはまえにはもうすすまないきたみちをたどりながらうしなうことばのかずだけのこえがまとめられてさいごにけものようなさけびが

████

人が神で韻を踏んだ初めての日
から今
人をひきちぎって
音に変えた
意味が台所の隅で
震えているから
まるで
小さく発電
しようとして、
小さく小さく
小さくなりながら
震えているから、
毛布を掛けてやる、
さようなら
今から人の、
脂を
撒いて燃やしてやるから
大丈夫
何も心配しなくていい

神と人は韻で、
結ばれなかったから、
僕らの間には、
歌がない
本当の歌がないから
島がない
果てしない
島流しが
何百年も
おしろいを、
はたきながら
くりかえされてあ
あ、ああ!
なにもかもがもう
冷蔵庫の中で無茶苦茶だから
片付けにいえに
かえらないといけないのに
かたずける
うでがなくなって
あたまもなくなるから
後は頼んだ

#現代詩
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遺影

  いかいか

カレーライスに人参と一緒にTwitterを入れて、悲しいことはすぐfacebookにアップロードする私の家にはwifiの雨が降っている。一人で食べるカレーライスはSDカードにはしまえないから今コップに涙の写真を注ぐ。みんな見てる?

(君がしようとしていることなんて
いつだって簡単にできてしまうから
つまらないんだよ
本当にかわいそう
こうやっていくらでも
どんな単語も詩にしてしまえるから
退屈なんです
それができない君には
わからないだろう?}

先週死んだ、
彼の名前は、
「出会い系サイト」
昔死んだ
彼氏の名前は
「ハッピーメール」
で、「ラブホテル」
と名付けた
封筒に、
今、
「インターネット」
と、サバンナに降る雨、
を、入れて、
水に浸す、
白と黒に、
「アナログ」と、
つけて
「まるで、バルログみたいだね!」って
上下abのコマンドを押す指が、
まだ、恋人、の柔らかさで、
妻となって、硬くなった、
指に、

草wwww
と、はじく、指が、
鉛のように、
深く沈んでいく、
たびに、
404、と、
SOS、の区別がつかなくなっていった
輪郭に、
「データ」と名付けて、
頬をなでる、
手を、つかむ、
手が、まだ、人のようで、
また、
「データ」と
小さくつぶやいて、
「彼女」を確認する、

まとめサイトに
アップロードされる、
私が、
「遺影」と「草w」
の、ちょうど
間で、三回、
体をねじって、
倒れこむ、隙間が、
僕の世界だ、

遺影を、盗みに来る、
業者が、
「灰と土」と名乗り、
ページをめくる、
速度が、僕が生きた時間

ニコニコ動画に
私、明日、
カレーライスをぶちまけるの、
悲しみと一緒に、
と、言った彼女の、
Twitterが死んで、
ワクワクメールが、
息を吹き返す、この、
あまたらしい治療室で、
椅子を待って、
椅子取りを、


これで終わり

  いかいか

 白く壁を塗るのは人。そして、新しく家を建てるのは獣。また母の生まれた故郷を花で満たすのは初めての僕の妻。

嵐。

雨のように濡れた服を着るのは子供。生まれたての午後は優しい。それは踝。やわらかい人が降ってくる。黒く家に幕を降ろすのは火。そして新しく言葉を生みだすのは鳥。また父の生まれた故郷を戦争で満たすのは初めての僕の仕事。温かい人たちは逃げ出してしまった。

水。

怖いことは、悲しいことだと、悲しいから怖いのだと、夏が終わり冬がずぶ濡れになり泣き叫びながら雨を突き抜けてやってくる前に、この「もの」を語り終えたい。
行きはよいよい、帰りは怖い。

そう。

帰りが怖いんだ。何もかもそうだ。「もの」は帰り道がない。物語にも帰り道がない。ずっと、行ったきりで帰ってこない。振り返る事が出来ない。帰る事が出来ない。何かを「かたる」とはきっと怖くて悲しくてひどくて優しい事なんだ。悲しい感情や優しい感情には帰る道がない。でも帰る場所だけはある。それがもっともやっかいだ。帰り道はない、でも、帰る場所だけはある。どうやって帰ればいい?

もしくは?
 
この「もの」語りを始めるにあたって、どこから初めようかと思い、僕の記憶を遡って行くと、千葉県側の江戸川の堤防で、一人、彼女を待っていた所から始まる。向こう岸には、埼玉県が見える。川が県境になっており、境界というわけだ。山だったり、川だったりが境目になっている場所はたくさんあるが、これから僕が話す事のすべてが、境界についてだ。もったいぶらない全部ははじめから話してしまう。
僕は饒舌になった。幼い頃の僕は、人と話すのが苦手だった。話す事自体に興味がなかった。それは、自分自身に対して、語るべきものが何もない、と思っていたからだ。父や母からも特に心配されなかった。父も母も、僕と同じ様に何かを多く話すような様な人ではなかったし、後から知った事だが、僕が生まれる前から、すでに終わっていた、らしい。らしいというのは、母が大学卒業後数カ月して、「すでに、終わっているのよ」と僕に言ったからだ。発言は突然だった。あくまでも、僕にとっては突然であり、この後、幾度となく、父と母から聞かされる言葉によれば、すでに決まっていた事だった。日時、そして、まず母から、最後に父からと、手順も決められていたのだろう。僕は、父と母の正しい手続きでただただ押し込められることがすで決まっていた。
僕の顔など見向きもせずに、唐突に口から出た母の言葉。そして、言葉の後の母の横顔が春先に吹く、まだ冬の冷たさをまとった風の様で、これから訪れるであろう春の生命の躍動にも一切の興味がなくそれとは無関係に、吹き抜けていく清々しさを感じさせた事を、今でも憶えている。そして、母は遠くを見ていた。僕の表情などどうでもよかったのだ。母からすればすべてが決められていた。僕が知らないところで、すべてが父と母の手続きで埋め尽くされていただけにすぎなかった。だから、母は僕の動揺や感情の動き、気持ちなどどうでもよかったのだ。そんなものはすでに問題ですらないのだ。僕は、父と母の問題の中心にいながら、初めから疎外されていた。僕は署名でしかなかった。父と母が設けた手続きにのっとり、流れていく書類でもある。僕が書類として父と母の間を流れて、僕自身が署名する。すべては、何度も繰り返し言い続けられる父と母による「貴方が生まれる前から予め決めていた」ことが処理されていく。僕に設けられた場所は、署名する空欄のみだった。僕は僕の名前を署名するだけで、それ以外の言葉を書き込むことは許されていない。書き込んだとたんに、この書類と手続きは一切の効力を失うのだ。
すでに、終わっている事を、続けている事は、終わっている事が、終わっていないのではないか、と、僕は思った。遠くを見つめたままの母に尋ねた。「いつから?」と、母は、「貴方が生まれるずっと前から」と、そして、「お母さんは、今、妊娠してるの。お父さんとは離婚するし、離婚することも、貴方が生まれる前から決めていたの」と僕の手をとって、「まだ何も聞こえないかもしれないけど」と言って、僕の手を母のお腹に添えさせる。花を摘んだ幼い子供の手をその花と共に引きよせるようにして。
「ごめんなさい。コバトはこの子のお兄ちゃんにはなれないけど、コバトには教えておきたかった。お腹の子は、お父さんの子供じゃない。お父さんも貴方も知らない人の子供。昨日、お父さんに伝えた。そしたら、お父さんも喜んでたわ。おめでとうってね。で、お父さんの方も子供が生まれるみたい。お母さんも貴方も知らない女の人がお父さんの子供を産むの。今日、お父さんが仕事から帰ってきたら、ちゃんとした話があると思うからね。でも、不思議ね。素直に、心の底からお父さんに子供が生まれる事が嬉しいの。それがお母さんの知らない女の人との子供であってもね。勿論、嫉妬とかそんなものはないわ。コバトが生まれる前から、二人で決めていたんだもの」母は話し終えて微笑んでいる。ただ、それは、母のお腹に手を当てている「事」を見て微笑んでいるのであって、僕に微笑んでいるわけではないことに僕は恐ろしくなった。母は僕の方を見ておきながら僕に対してはずっと横顔を向けたまま遠くを向いているのだ。母の手は、幼い頃、僕の手を引いた優しさを未だ持っていた。昔と変わらず優しいが、僕の手は大きくなった。母ではなく、女性としての母を理解できるほどに大きくなった手を、母は、悪意も善意もなく導いたのだ。それはもう、僕と母との間に一線が引かれてしまった事でもある。母は僕の手にも、僕の感情にも無関心でしかなく、自らの中に眠る名前のない不気味な塊にしか興味がない。その塊について、母は、僕に教えておきたかった、と言う。でも、それは、母の冷酷さの表れでもあり、僕はもう冷酷にしか扱われない、興味のない対象でしかないという証明でもある。僕は、ここでも署名しなければならなかった。母のお腹に触れることで、母の体に、そして、不気味な未だ顔のない得体のしれない塊に対して、僕は僕の名前を署名しなければならなかった。
夜、父が仕事から帰ってきた。玄関で靴を脱ぎ、母がおかえりなさいと言う。父も、ただいま、と言い。寝室に入り、着替えている。これは、僕が大学に受かり、家を出るまでの間ずっと繰り返されていた光景だ。母が、台所で夕飯の支度をしている。着替え終わった父が、居間のソファーに座っている僕を書斎から呼ぶ。父の書斎は、ほとんど何もない。時折、自宅に持ち帰る仕事をするためのパソコンと机と椅子があるだけで、後は、何もないと言っていいほど空白が詰められている。父には趣味と呼べるものが、あまり無かったようで、休日などはほとんどテレビを見ているか、母や僕を連れて外出していた。扉を開けると、椅子ではなく、床に胡坐をかいて座り、僕を見上げていた。同じように僕に座るように言う。
「お母さんから話を聞いたと思うけれども、お父さんとお母さんは離婚する。お互いすでに相手がいるし、子供も生まれる。これは、お前が生まれる前からそう決めていた」そう言う父の顔は、冷静で、僕の動揺や感情の動きなどは一切興味がなく、もう、僕がどうでようがすでに事態を変える事は不可能であり、これは運命だ、とでも僕に言って捨てるような言い方だった。母と同じように、父ももう、ずっと昔から僕に対して、横顔を向けたまま遠くを見ていたのだ。その後は、簡単な話だった。当分生きていけるだけのお金は渡すが、ただ、お母さんもお父さんも新しい家庭があるから、金銭的にはあまり助けられないが、かといって、お前の事は、二人とも愛している。何かあればできる限り手助けするので、遠慮なく言え、そして、この家もお前に残す、と言う。そして、これも、「お前が生まれる前からずっと決めていた事なんだ」と言って、通帳と名義変更された土地と家の書類が渡される。父と母が、若くして建て、十分な所得があるエリートの夫をもちながら、母もパートをしていた理由がその時、初めて分かった。そこからは、早かった。僕は、家を人に貸す事にして、家賃収入を得ながら、今から語る事になる「彼女」と彼女の実家からも、僕の実家からも遠く離れた土地で一緒に住む事にした。彼女の事は、両親には一度も話した事がなかった。
父との話が終わり、夕飯の席に着いた時、僕はこう尋ねた。
「なんで結婚したの?」と、母が何かを話そうと僕の顔を見つめて口を開くと同時に、父が、母に「僕から話すよ」と言って、母が話し始めるのを止める。父と母は、幼馴染で互いの事は昔からよく知っていた。同じ高校に通い、大学は別々だったが、互いに故郷に戻って就職し、互いの両親も仲が良かったため二人の結婚を勧めてきた。二人ともお互いの事を嫌いではないけど、かといって、すごく好きなわけでもなかったが、両親の強い後押しもあって結婚した。けれども、いざ結婚してみるとどうも二人には肝心の愛があるのかないのかよくわからない。互いに互いのことは嫌いではないし、むしろ、お互い昔から知っていた間柄なので、気が合う事は分かっていた。結婚してすぐに、二人で話し合った。お互いに同じ事を考えていて、とりあえず、子供を作ってみようと言う話になった。そして、生まれたのが僕だと言う。ただ、いざ、子供を作ると決めた時、互いにいつか別れるだろうと思ったらしい。自分達二人は、ただマネゴトをしているだけで、そう自覚したのは、互いに一度も「愛している」と言った事がないし、そう思った事がないという。子供が生まれてもお互いに愛が芽生えなかったら、恐らく、今後も芽生えないだろうと二人は結論を出し、僕が生まれても、別れる事を前提に行動することを決めたらしい。ただ、父は、「お前が生まれた時、初めて愛すると言う事がわかった。お前に対しては愛という単語で語る事が出来る。それはお母さんも同じだよ。でも、お父さんとお母さんの間には、お前が生まれた後でも、愛という単語で語るべきものが二人して見当たらなかったんだ」
だから、二人は別れる事にした。僕が生まれてからも、二人は愛を探したというわけだ。そんなものはただの単語にすぎない。そんなものがなくても、二人は結婚したし、夫婦でもあったし、周りから見ればちゃんとした家族だったのだろう。僕は思い切ってさらに突っ込んで尋ねた。
「じゃぁ、お父さんとお母さんには、互いに別の家庭があって、そっちで愛が見つかったの?愛という単語で語るべき何があったの?」
父は笑顔でこう答えた。
「あったよ。愛してる、とようやくお前以外の誰かに言えるようになった」
僕は怖くなった。父の笑顔に、そして、それに何も言わずに聞いている母も父と同じなのだろう。二人が気持ち悪いと感じた。内臓が乾いていく感覚が口の中に広がる。返すはずの言葉が舌の上で腐り、それにたかってくる蠅。羽音がする。本当に恐ろしいモノは、恐ろしい姿ではない事が多い。僕が生まれて初めて愛すると言う事がわかった、と、言う二人は、結局、僕を残して、別々の家庭になり、別々の愛をまた探しに行くのだ。こんな茶番のどこに愛があるのだろうか。僕はこの時に初めて分かったのだ。父、母、と名乗る二人は、化け物だったのだと。父と母は、僕の知らないところで、僕の知らない兄弟を作り、暮らすのだろう。化け物の子供は同じように化け物だ。これは、彼女から教えてもらった。彼女もまた化け物だった。そして、僕にも兄弟がいた事に気付いた。父と母が産み落としてしまったもの。流してしまったからこそ、纏わりついてしまったもの。これも、彼女から教わった。僕には、僕より先に生まれておきながら、兄とはならず弟になってしまったものがいる。父と母は弟の事を知らない。でも、弟はたしかに「いた」のだ。この可哀想な弟は、父と母に復讐しに行くだろう。彼女の姉がそうであったように、間違いなく近い将来、父と母は復讐される。
父と母は、僕に対しては愛を感じた、が、それでは物足りなかったのだろう。それはつまり、愛ではなかった。やはり、僕は署名でしかなかった。書類でしかなかった。父と母のための手続きのための書類、そしてそれを自ら読み、確認する署名でしかない。僕は、絶えず署名し続けなければならない。父と母のために、生きている事が署名しつづけることなのだ。あの可哀想な化け物のために、愛されていた者として、愛が存在しうるであろう可能性を証明し、僕を参照しつづけるのだろう。僕を基準として、あの二人は愛を愛だと確認する。もしかしたらそんなのは存在していないかもしれないのに、彼女の言葉を借りれば「私達とは存在の仕方が違う」のかもしれないものを求める。
父と母は、僕に話しすぎた。その結果、弟は父と母にとっては、どんどん存在が消えていった。隠されてしまったが、僕には逆に強く存在しはじめた。弟はたしかにいる。父と母と僕の間に、この家の中に、ずっといたのだ。むしろ、僕ら家族は弟の内臓の中に住んでいる。

文学極道

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