#目次

最新情報


Nizzzy - 2005年分

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


燐光II

  Nizzzy

そう、ゆらいでいたのだ
私たちの、魂はゆらいでいたのだ この瞬間にも
そして私たちはそれを知っていた(すでに過ぎ去ってしまった)
だが、木々を縫いつけ生きる私たちの、網膜には
このディスプレイの液晶よりも
聖歌に刻まれた救いよりも
ずっと、霞んだように見えて、
古い海岸を歩く、この足の冷たさと
ふるえている私たちの、宇宙の位置さえ
炎のゆらぎにも片翼を失う蛾の触角に、結びつけられてしまった

蛾よ、お前は海の持つ惑星の
秘密の千の瞳を開き、螺旋状の周波数を聴く
子午線よりも遠く、アスファルトより鳴らされる
永遠分の一秒を刻む晩鐘を共鳴にして、触角でなぞってゆく
だが、そこにだけ茜色を映し出す私たちの細胞群は、何も慣れていない
惑星間の初雪と戯れた指が触れてしまうことさえ
言葉という重力を逃れた振り子の糸を近づけようとする
重力はどんなに軽い原子にも意味を持たすから、
私たちは氷晶に黙された鱗粉の呟きを、見極めようとする

蛾よ、お前は飛ぶのではない
光の端を青灰に染めて、その両翼を落とすのだ
満ち始めた初潮に、新たな重心を定め
そして違う名前でそれを呼ぶために・・・
私たちが落とす翼は、もう残ってはいない
全ての世界の、私たちの持っていた翼は
張り巡らした糸に、切り落とされてしまったから
だから、私たちは痛む この瞬間にも
どこにも見えないものを、どこにも見えないものを
知らない (すでに過ぎ去ってしまった) 知らずに
それが間違いであるかのように
こうしてゆらいでいるのだ
私たちの、蓄光する魂は

蛾よ、お前が全てを終えたとき
翼は扉に閉ざされ、瞳は星々に取って代わられる
そうやってお前はどこまでも落ちてゆく
それは並木沈む海底なのか
夜をも凍らせる極北の大地なのか
この瞬間にも、私たちは横たわる位置を知らない
もしお前が私たちのゆらぐ、魂に辿り着くのならば
其のときは絶対零度にまで収束され、燃えろ
そして北極星からの地軸を片手で握り、廻る、新たな少女となれ
落とされた翼全てに包まれながら、燃やし尽くす、永遠の、ずっと近くまで

* 原題のローマ数字部分を「II」で代替表記


あなたの目の前で、私は

  Nizzzy



真新しい水そうの中
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
未現像の、若き一人称



頬づえをつく、あなたの
もの憂げな夢の群れが
湖の上を、散開している


その影跡を追って泳ぐ
あなたに言えなかった言葉
遅れてやってきたランガージュ
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
どこへでもなく通ずる
外延の無い桟橋


栗色の髪を切った、あなたの
あなたの目の前で、私は
どこへでもない、桟橋のふもと
あなたに、言えなかった言葉
泡沫に映る、未現像な、千切れた魚


フレーミング・セックス

  Nizzzy


人、[幾層を翔]ける向こう岸の、記憶の枝をつぐむ、(鱗の)変わらない、ちる、{のように、美し}い人、あなた、ここにいない言葉、人、のような、あなた、

人、蝋燭<を回り続ける抜>け殻の、りゅ、う、焔硝、森に違う`つぐみ、くちる``、のように、美しい人、あなた、ここ(にいな)い音階、人、のような、あなた、

衛星へ|ぬけるヒナゲシ | の | 花 |、はつ・・み、、つつやかに、下っ<てゆく>、約束のレンズ、く、(する)、岸、の‐ような、あ/なた、ここに、

あった、対/角線上に制/御する、大海が隣(接)に、み、_錆びつく_氷砂糖_、りつ、ぬけてゆく、ぬけてゆく、‐朗読‐者、のような、あなた、

ここ“にない破調、延”命する露地、電柱が把握・する、人、「ずっと、ずっと」、た、たっ__つ、感<受性>、のような、(クル)、叶わぬ<こと>、のような、美しい人、あなた、

"めくれる腕の、痕"跡に【残った】川底に、<りぃ><りぃ><りぃ>、シ音を、たたく、(あ)たらかに、3つ、胡桃がける、裸足、のように、「冷たいね」、と、不拍子に、さく、のような、美しい人、あなた、

黒-み--がかった秒針の、カラミごとに、`あ`ねる、むネ、つ・む、先の、シらまる、ひと|とつに、束を放つ、円すい状の、"洗浄液"に、ふり、{返る}、遅す-ぎた、のような、】美しい、【あなた、

溶『ける腕、目;覚める咲き=かけの、使用感、つらめ、〔つ〕らめ、「紅いよ」、録画(される)、星座野、それ、黄*黒***青]咥えたシステム』、ひ・(・視、くす)、あだしの、のように、美しい、あなた、

ヒシオリ、道__{_標の北極星、求心性の、い"く愛しみ、繚乱して、」、待つ、か、{が声、犠《牲者》(?、[羅針症、アルキさ]える、響き、<ぽし>、<po=e=i>、しみ、ヒいの、のように、美しい、』時と、ヒシに人、あなた。


白鳥

  Nizzzy




複雑に組み重なった、紙芝居のような、
生まれる羽根の、あなた

わたしは言葉で、それに答えなければならない
____「あなたは角笛だった」と、

望むことなく青かった、空


わたしのいない土地で、
地上の樹には靴が掛かっていた
そしてそれは、異邦人の戦略だった

わたしを睨みつける。向こうから、

ノコギリ引きの、空がやってきた
僕らから輪郭を千切りとった、鈍角の

胴体を奪われた、白鳥の群れ
どの空にでも舞う、あなたに届くことのない、起点

僕らはそれを、待っていたはずだった
こうやって、言葉にするまでは

「私の中の双子が歩き出す。雨の中を、寄り添いあって。」

ようやく抜け落ちた、その音素
器の中で混ぜ合わされた、新しい星座

それは結び付けられる。痕跡に添って、

その無尽蔵な、あなたの、
延長されていく、黒い滑走路
異邦人の目指す終着地


樹の下には、あなたが埋まっている
だがそこは田園なのだ、喜ぶべきことに

あの頃。角笛の中で話しあった、裸足のままの、

望むことなくあった、星空、
ようやく抜け落ちた、その言葉、
樹の下で重なり合った、全て

二人して、白鳥のように


プラトニック・スウサイド

  Nizzzy



ベランダの手すりが、染まっている。
鳥達が歩いている。反射する光。金光の中で、影だけが動いている。
僕はそれにむかって歩く。砂の城。

午後に降った夕立ちのあと。僕らが傘をさしたまま
歩いている。みんなが空を見上げている。人々の水位。


彼女はしゃがんでいる。太陽はすでに、砂に、城が崩れていた。
僕は彼女の手をとって、崩れ落ちた十字架に手をのせる。

ゆうべのうちに雨は止んでしまっていた。


十字架の下の、奥深く濡れてしまった砂の下の、
幾度なく通った歩道の下の、
訪れることの無い映像にまで、二人が重ねあう。

歩いていた。歩道の上を、
足元から灰色に戻っていく。誰よりも遠くなってしまう。


彼女は泣いている。いつまでも目をつむっている。
波が彼女のつま先にふれる。僕にはとどかない。

そこには風がある。砂がある。
そうして波の音があった。二人がいた。


下水道からあふれている。水が反射する色に、海。
それは海。

飴色には、あまりにも過ぎてゆく彼方に、海。
それは海。


白い長靴をはいて歩いている。雲の合間、顔をふせる。

彼女は目をつむっていた。
波は、ようやく僕のもとに届きはじめていた。

アスファルトに、波の音だけが残っていた。
そうして二人、傘を、さしかけたままで。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.