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ズー - 2012年分

選出作品 (投稿日時順 / 全7作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  ズー



なにもきかなくていい日がきて、かげのない広場に咲いた花をゆらし、白地のデッキシューズに蝿がとびうつってくる。ぼくはかかとをへらしてあるく癖がぬけないまま、くるぶしの辺りで染みになった蝿がしずかに目をとじたのをかんじていた。つまり、きみはぼくのひだりてで新緑のベンチに腰をかける。もちろん、きっかり4オンスのチョコレートの包装紙にむきあっていた。それから。


なにもきかなくていい日の為にやらなくちゃいけないことをあらかた片付けたぼくは廃車置場から抜けだしてきたばかりのタクシーをひろい。きみやきみ以外の人も、あさ、ミセス.カリーナの店でたべたマッシュポテトよりいくらかましなチョコレートにむきあっている広場からはなれた。
たぶんきみは、まだあそこにすわり、あたたかい地方のつづりで、カカオは、あなたにとって鼻出血をあっかさせる危険性をたかめます。と書かれた包装紙をにらみつけているはずだ。
それから。僕は。それからのことをおもうんだけど。

きのう、数週間ぶりにたずねてきて、あさになると、家のどこにもみあたらないきみのようななりで、きみやぼくじゃない人はすててしまうデッキシューズの染みになった蝿が、なにもきかなくていい日の主旋律みたいにその羽をやすめている。まだだ。まだきこえてこない。


とてつもなくたいせつなことばがペイントされた看板のまえで。そうぞうもしたことがないまちのそとで。あの花の種子がまかれない土地で。きみのかじるチョコレートがとけない場所で。ぼくはタクシーからおろされる。
なにも聴かなくていい日のまひるをすこしすぎて、染みになった蝿が目をひらく瞬間に、デッキシューズのかかとをすりへらして。


Never Ending Story

  ズー



叔父が息をひきとり、ちょっとだけかける。
バスケットコートにうみがたまり、1999年の、夏のあいだじゅう、ひどく早口の母とぼくは、スコアラーとして過ごしていた。あの黒人選手はスラムダンクをきめ、叔父の骨壷をかかえている父はハンズアップができないままピボットをしているように。ずっと浅瀬だった。
夏が終わる、優勝を逃したのは父だけじゃない。黒人は干からびた珊瑚のリングをゆらしている、そうだ。そのまま父の届かないところにいればいい。母とぼくでおしだしつづけた、うみの上、海上に。少しずつ消滅していく浅瀬は。1999年、骨壷のなかで臭くなっていた叔父をばらまいた。波打際の父がはじめて泣いた、カモメなんかいない年だった。
コートを駆けまわる丸刈りの彼。くろい塊の着地点ですべてが吹き飛んだ。きれいな選手だった。決定的なゲームをあきらめなかった父と同じくらいに尊敬できる男だった。母とぼくは最後の一滴までうみを消滅させて、スコアラーとして過ごしている。
Never Ending Story?
骨壷から叔父の臭い灰が、ずっと向こうの彼方まで、風になった。
一度だけ、叔父と話さなかった。ぼくの、なかで二つ以上の口が、それを赦さなかった。永遠に、ここにはまるいものしかない。
永遠、じゃなく、ただまるめるだけの、夏に、叔父とかわした言葉がなくなっただけだ。バスケットコートから、はじかれた、選手たちの手は、輝かしい未来なんてないと。誰がささやく、そんな奴はみんな、いいところでおわれなかった物語の。いや、本音を言えば、これも、その類なの?


目覚まし時計はまだ鳴らない

  ズー



きみのオデコはとがっている、おやすみと言うたびに、やだやだされて、それはちょうど夏の虫だったから、掛け違えたボタンが蝉のように、ポックリ病だ、ぼくはきみを目覚まし時計と間違えていた。
縞模様のパジャマだった、水墨画のようにきみをおもい描けば、薄くひかれた瞼が、ヒダリ耳までのび、そのまま赤道と交差して、光を帯びた、旅客機のかたちで、光のさきに、旅仕度はいらないけど、先ずは皺くちゃになった星空に手を伸ばす。きみの足をポークビッツだとばかりおもっていた、ぼくはかに座です。


海岸堤防の階段‐蹴込みの両隅は黒ずみ‐時々白く濁る‐ぐんぐん駆け登ると‐まだ誰も走ったことのない‐空まで続く巨大なハイウェイが現れる‐振り返ると‐せり上がった家並みに浮かぶ‐エンジンの搭載されていない‐六畳一間の小船の船底で‐大波に遭難したきみは眠っている‐今夜も夜通し救難信号を送っていた‐ぼくはひるがえり‐波打際まで一気に降りる‐砂のひとつも色を帯びずに‐でも、今はハイウェイを横切る玩具の漁船が‐どこかの釣り人に釣り上げられ‐岬の手前からふいっときえた‐しらみはじめた空で解体された‐星座群がその後を追う‐夜が溶け、墨汁のような海原に‐ぼくは飛び込んだ。


ずぶ濡れで帰る、未亡人の大家さんに見つかる、ぼくはブリーフ一枚、指先にひっかけたハイカットから点々と海岸まで続く海のにおい、きみのポークビッツをかじるイメージで、大家さん、おはよう、歯ざわりのよさに、振り返っていた、きみのオデコと息き絶えたボタンに触れる、EDWINと砂のついたTシャツを流し台にほうり込んだ、どこにも飛び立たない旅客機は疲れきっている、小船に溢れた七月に、息もできないかにが泡をふいて、船底をうろついていた。


オールサンデー

  ズー



鼻毛がでてる。
あと2ブロック行けば
僕たちの街だけど、
オールサンデー。
だれかが
そう定義して、世界中の
日曜日を集めた。
中央公園で
たむろしている
休みのない人たちを
避け。南々西に花の
ようにそよいでいて、
マザコンだった
カンガルーたちが
腰から下に二本も
足がついてたよと
傷つくのも自由だった。
なにもないとこには
なにもうまれないから。
オールサンデー。
だれかがあと
2ブロック行けば、
世界中の日曜日を
そう定義して、
僕たちの街だけど
マザコンだった休みの
ない人たちを避け、
中央公園でたむろ
しているカンガルーたち
が花のように
そよいでいて、
自由だったなにも
ないとこには、
腰から下に
足がついてたよと、
傷つくの、二本も
鼻毛がでてる、
なにもうまれない、


無題

  ズー



僕の舌はあかくなり目の上のたんこぶで買い物ができる世界一有名な夜が明けると僕たちはそうだそうだと挨拶を交わし君はながくなった舌をふたつ折りにして嫁いでしまう産まれてくるのは人間みたいですとご祝儀袋を手にたんこぶを消費しながらなにもかも壊れやすくなった街は波のようで僕たちはそうだそうだと挨拶を交わし赤い舌の人が増えてお金に困らない街は波のようで産まれてくるのは人間みたいですとたんこぶで買い物ができる僕は夜が明けるとふたつ折りにして世界一有名になった花嫁姿の君の口に目の上を突っ込んだ人間みたいです。


Mr.夏バテ

  ズー



ほそながい野菜はよく噛んで食べるんだよ
そう、きこえる
ぼくは眠っている
がじゅまるの根元
つる植物が引き倒そうと手を伸ばして
伸ばし果てたんだよ
そう、きこえる
ばあさんの声は母の面影がある
葉を食い破る虫たちが
受話器にへばりついた姉の彼氏たちが
陰毛のように扱われ摘ままれた晩に
口をひらけばアホになる
じいさんはきゅうりをつくる
きゅうりはアホじゃ
だからじいさんは牛蒡の腕を
口癖のように振り上げる
ぼくは眠っている
がじゅまるの根元に
すべて脱ぎすてる
豚足ぐらいしか食べる気がしない


星を食べる

  ズー




十一月のなかは
雪のよに降り積もる人だった
手を繋いで、繋いで、
それでもさしだした
朝や、夜を
ずっと奥へ
奥へとならべていく
ちぎれはじめた日陰を
乾いた猫のにおいと
そうして沈みこんだ雪を
蹴り飛ばしたら
飛び散ったら
手を繋ぐよに
降り積もる人のために

文学極道

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