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uki

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


タクシー

  uki


黄色が点滅している
なにも起こらないでください
わたしには関係を処理する能力が欠けているから
自分の黄色い手首を見る うす青い血管がでている
あたまのリボンが傾いている
蛇口みたいに止血みたいに あたまの一点 閉めてるリボン
金粉まじりのあきのよる
はだかの噴水まで 1キロ
歩くよりも乗るほうを選んだ
地上から ほんのわずかでも浮いていたい
運賃はワンメーター、ろっぴゃくはちじゅうえん
わたし、ろっぴゃくはちじゅうえんで移動してる
切手ははちじゅうえんだから、
ことばはそんざいよりかるいのだ
かるい かるい かるいのだった。
夜中に、はなうたがかってにでてしまう理由のひとつ
でも わたしは ことばよりかるいはず
いのちさえ きっと
鏡を踏み潰すよりもっとたやすく
風とか空気にあっけなく混入するから
しょうたい不明 そのままがしょうたい
でもどうでもいい
声をださずに口をぱくぱくして
運転手に「ああ?」と言われる
口と耳と目、おもしろい関係、でもわたしは処理できない
そんざいを乗せたタクシーは走る
赤を抜いたとき 盗塁するみたいで どきどきした
歩行者は赤だったからよかった
そんざいのなかで一喜一憂する
そんざい=にくたいではないとあなたは言った
むずかしくてわからないとわたしは言った
かるい かるい もっとかるい むいみはきもちいい
走ってください
赤をこわして
午後の光が風船みたいにしぼんでいく
しろくて赤いむいみのシャワーを浴びる
わたしはこれからあなたをなぞりにゆく


夜食

  uki

ここで深く刺さっていますね 追憶のように 不自由ですね あたらしいソネットを準備した小さな室内に なにやら怪しげな私信です 判読不能 午後から雨、雨、雨 ならポケットに きびしい採点を受けた自画像をまぜておくと ささやかな夜食にもなってくれるそうです

棘をちいさないかづちとおもってしまいました 裏返した指にも血が走る音
ピアノでも そうピアノでも弾こうとおもっておもいきり鍵盤蓋をあげてみたのですが すべてはすっかり鯨幕に覆われ もういっかい、もういっかいペダルを踏むこともかないませんでした

あしたは終わっていました/待っていました/終わっていました/待っていました
できれば今日中におねがいします/できれば即日/納品/奉納/鎮魂おねがいします

診察券が胸に刺さっていますね 棘がこんなに降っていますね 誰も逃れられませんね だめですね
雷鳴は救急病院の室内楽のように 黒く速く なんでも黒兎を大量に放ったとか
体温計をふりまわし カーテンをかみちぎり ベッドを乗りまわし
ぜんぶ 兎の耳の毛細血管のなかに 蘇生します
あしたもたぶん 蘇生します
でもそれは兎の耳だけのことなので

あしたは終わってしまいました あしたは終わってしまいました
とぐろを巻いて
ぜんぶを轢いて
なかなかおかしい 夜食を運べ


レミングの話

  uki


レミングたち、あさっての向こうに、やわらかな静脈が浮かびあがる。彼方に置きざりにしたカレーライスへの後悔は尽きず、肘をついて見あげる月の海は匂わないまま枯れ果てて。断崖絶壁まであと5キロの標識、私たちの車はどこを目指し、あるいは難破しようと目論んでいるのか。風がたよりの舟のように無実なはずがなく、運転手はふうわりと口笛を転がす。車輪は4つ。海は1つ。手術台のうえのミシンと蝙蝠傘の出会いが、私が残したカレーの半分と少しに巣くっている。ただ単純に舌においしかったのだ。残したのは逆流を怖れて。レミングたち、鼠がとろける。海でもどこででも。私は屍体を探す。匂わないのだった、花も雨も海も、場所を明け渡さないのだった、彼らと融解したいのに。どこまでも寒さだけがついてきて、裸足にもなれない。びっくりしても、ここから立入禁止だよ。飛びこんでしまったら浮かびあがらないよーに大きな重い胎児になりな。母さんのかさが増えてきっと夏まで死守できる。
腕を伸ばせば、指はたよりなく月を突く。目が2つ。あなたにも。ほほえむ口は1つ。星がいくつかまたたいている。もう日付も時間も必要ないのに宇宙は勤勉だ。泡がこいしい。いまさらだけど、車がさかさまになって海で燃えるとか派手なのは苦手だ。サーカスの裏地に、墜落は罪、と書いてある。"まとも"がどうしたっていうのさ? 腕に時計を巻きつけちゃって、人間時計やめなさい。華やかな波の音に秒針なんてさらわれるだけ。人魚になろう、いやレミングだったんじゃない、カナリアだ、いや私たちは警告にならない、誰も警告だと受けとらないよ。そうだね。自由だ。ここはかなり自由だと知るだけだ。未来はいつもあさってくらいがちょうどよかった、それなら遅くとも48時間後。ごはんを抜いてもやってきた。私はベルトコンベアーの鮭だ。霜だらけの体、冷たいてあし、お風呂は長風呂。抱きしめているお湯を抱きしめている。息を長く吐く。私は来ないはずの朝を何度も迎えた。

耳鳴りは飛行場を目指して3度墜落、未処理のノイズ。
青空だって砂漠だろう?
何もできない。
濡れている月光の航路がレミングの退路、星も光ってるしきっとどこかに行くんじゃねえか。どこかへ行くのもまた勤勉だ。
私は私でなくなるけれども、とうの昔からそうだったよね。あなたも、だよね。
あかるい、こいしい、ゆうがた、まじわり、せっぷんをゆるくほどこう。

この孤独さをいとしむ。ひとりぼっちで海を見ている気持ち、海にせっぷんしたい気持ち。レミングはそうして落ちていくんだけれども、そこにはたくさんの母さんが待ってくれていて、せっけんの香りがぶわっとたちのぼって、とてもあたたかなのでした。


初夏

  uki


五月の深いひだまりが

子守唄をうたう、

あなたの声で。

胸がやさしくふくらみ

屈折した光がおどりだす

緑の井戸の豊穣



こすれあう葉たちの瞼が閉じられては

青空の夜が点滅し

ひとつ

ふたつ

雲が遠ざかる。



世界はあまりにも静かなので

眠りは溶けない。

いっそ、駆け出そうか

淡い緑が凝結した夏木立へ

焼けたあなたの麦藁帽を被って


←↑→↓

  uki



ざぶざぶと時が過ぎる、そして過去、全身で受粉する、そんな夢を絶えず、発信して。やっぱり絶える。

ーー過去へ。

生も死も纏めて。

十字キーをピコピコ操る。まよなか。移動する。こういう脳のしくみが外へ流れ出ること。
ピコピコ。

               ↑
             ←   →
               ↓

                    ピコピコ。

……十字キー。なつかしい手触り。あたりはもう、縊死した噴水みたいに静まり。

水を、縫い綴じると、誰かの顔になった。あっさりした顔。
もしかしたらならないかもしれないけど。でも、縫い綴じるとたしかにあらわれる。

あなたは本で、スプラッターで、内臓が喉のそばにあって、心臓がもわっと収縮し、肺も動いて、生きていて。
あなたは空だというけど、空であったためしはない。食べ物は通過するけど。

電車が、行くよ。電車の運転手も生きている。
まよなかはそれだけで価値がある。
水がわーって湧く。
泉が、欲しかった。
電車がくらやみに衝突して透き通って銀河へ近づき遠ざかる 私は歯を磨く。磨く。磨く。眠るのだ。そして電車が貫いていく。


もうすぐ、朝が来る。
画面にはなにもない。十字キーを触って。ねえ触って。
ねえここにある誰のものでもない過去を静かに動かして

そっと。




惑星が惰性よりももっとどうしようもない理由で動いている。
かなしい。


SODAwater

  uki



ござであそぶでござるよこーざをろくがしてからすうじかんごほーるけーきをたべるゆめがさいほうそうされてもあんまりしちょうしゃはいないところであきのひはばくはつがんぼうばくはつつるべおとしきっくであそぶとんがりぼーしはどこまでものびほーだいかけほーだいのあやまんじゃぱんのふぁんたじすたさくらだだだだだいずむでうんでみましたせんたくきでまわすぺんぎんあらえばどこまでもあおぢゃしんのぎんがこそがすべてだった


山下清に抱きしめられて()今日のところは寝るしかないね
残念ながらこっちには脳はないんだ、
だからきみの脳なしがすき、わたしはわたしの能なしがすき、
作家はみな水着姿で電流を流す
あおみどりの髪に角をかくして
甘いメロンソーダしかない海の家、
ストローがいくつもこまかく準備される、
ストローづくりがここでは作家のしごとだ
(もちろん授産施設の主なしごととかさなって・至極当たりマエ)
くいっと鉤状に曲がるストローに、まっすぐで実直なストロー、エリートぶったト音記号、etc
なんの疑問もなくうみからあがった生物たちは
そのストローで緑の炭酸を吸った


ピリピリッ


ああ。

おいし。





「ありがとう」

作家はそういいながらこころではみんなに詫びていた
誰かが気づいたらどういおうか考えていた
――たとえば。


そうだった、

ここ、きみのゆめだったよね?

だからってぼくはどこへいけばいいんだ、
ぼくを564(コロシ)たりしないよね?

いいえころしません
それどころかわたしたちのせいでここがこれほど赤くなったのでせう

いやいやゆめのそとさん、

いえいえゆめのなかさん、

どっちがどっちか
わからなくなるまで

遠い緑の家ができあがるまで

「おたがいずっと海の家にいませんか?」



そうしてストローづくりが一人増えた海の家に、虹色のTシャツがはためく、

そんな、ゆめ。

がかわいいウエイトレスのお盆に乗せられて、青いテーブルの上にやってくる。


ほんとうの夏はまだ見えない

五月、

じゃなかった、

もういなくなった

十二月の雪の佇まいをしたクリーム・ソーダ。




2015.10.29

文学極道

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