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2015年04月分

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* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


我らの蛾

  お化け

君たちにはわからないだろう。駐輪場の黄ばんだ蛍光灯に群がる薄汚い蛾は、今とは比べものにならないほど、昔は、一匹一匹が覚醒剤を打ったみたいに、ギラギラしていた。生命を持っていた。どんな時代もそれよりも前の時代の蛾の方が、ものすごく、よかった。思いを馳せれば、人間がいなかったころは、ずっとずっと、本当に、よかった。君たちは、生まれたときから、とんでもない世界に「ちょうど」産まれ落ちてしまったとわかっていて、黄ばんだ蛍光灯にぶつかる薄汚い蛾から目を逸らしたかもしれないが、僕は「ふざけるんじゃねぇ」って、さらに耳も塞いで、公園で空き缶を蹴っ飛ばした。僕も君たちと同じように「あの頃」があった。僕はあの頃、瞬き一つない水面を持って、星を捕まえることができた。魚一匹いない、純粋な、素直な、死んだ静けさの湖ほとりで、空から月が落ちてきて、地球が壊れはじめる瞬間を見てみたいと思った。目に映ったままのあまりにも綺麗なこと、あるがまま叫んで、死んでもいいと思った。残酷な子供のままでいさせてくれる人がいた。

今、存在しないはずの蛾が光にぶつかり続ける音が、無駄にただただ、聴こえる。僕も君たちも、希望の光を見て、騙されていると知っていながら、愚直にぶつかり続けて死ぬんだって、わかっている。少し賢いだけの蛾みたいに、毎日、人工的な光の下で「愛されたい」と、誰かがくるのを待っている。星を捕まるための水面に、インターネットを張り巡らせて、魚を探している。綺麗すぎる湖はなくなった。魚が跳ねる音が、あらゆる場所で聞こえる。僕の湖には、スパムメールが土砂降りのように落ちてきて、至る所で、まあるく波が広がる。アカウントと一体化してしまった僕は、自分自身をスパムとして報告することはできないほど、落ちぶれてしまった。波立ち絶えず歪む湖面に映る星と月を見て、これは本当のことなのかって、わからなくなった。生起し続けていることが信じられなくなった。酒を飲み、僕は夜、薄汚い蛾になって、遠くでカンカン鳴る踏切音のほうへ飛び出す。そのうち、早すぎる死に追い抜かれて、追いかけて引き離され、山を越えているうちに、あそこに行けば死ねるんだってことも、千切れた言霊になって、忘れられちまった。

(今日(のつもり(つもった(峰の雪(解けない稜線(のやまびこ(のつもり(つもった(峰の雪(解けない稜線(のやまびこ(のつもり(つ(もった(峰(の雪(解(けない稜線(の(やまびこ(の(つもり(つ(も(った(峰(の(雪(解(け(ない稜線(の(や(まびこ(の(つ(もり(つ(も(っ(た(峰(の(雪(解(け(な(い稜線(の(や(ま(びこ(の(つ(も(り(つ(も(っ(た(峰(の(雪(解(け(な(い(稜線(の(や(ま(び(こ(の(つ(も(り(つ(も(っ(た(峰(の(雪(解(け(な(い(稜(線(の(や(ま(び(こ(の(つ(も(り(今日の詩(のつもり(つもった(峰の雪(解けない稜線(のやまびこ(つもり(夢)つもり)やまびこの)溶けた稜線)ふもとの雪)消えた)つもりの)昨日明日の詩)の)つ)も)り)や)ま)び)こ)の)溶)け)た)稜)線)の)ふも)と)の)雪)消)え)た)の)つ)も)り)や)ま)び)こ)の)溶け)た)稜)線)の)ふも)と)の)雪)消)え)た)の)つ)も)り)やま)び)こ)の)溶けた)稜)線)の)ふも)と)の)雪)消)え)た)のつ)も)り)やまび)こ)の)溶けた稜)線)の)ふもと)の)雪)消)え)た)のつも)り)やまびこ)の)溶けた稜線)の)ふもとの)雪)消え)た)のつもり)やまびこの)溶けた稜線)ふもとの雪)消えた)つもりの)昨日明日)


白線

  田中宏輔



横断歩道の上の白線は
決して真っ白であったためしがありません
必ず、幾多の轍が、靴の踏み跡が刻印されています
もしも、真っ白な白線がひかれていたなら
ぼくは、その上を這って渡りましょう
お腹を擦りつけこすりながら渡っていきましょう
そして、渡り切ったなら、もう一度ターンして
こんどは、背中を擦りつけこすりつけ戻ってきましょう
そうして、何度も何度も往復してみましょう
しまいに白線が擦り切れて見えなくなってしまうまで
ぼくが擦り切れてなくなってしまうまで


起きたとき

  zero

起きた時喪失を感じる。夢を遡り昨日を遡り、どんどん過去へと逃げていく私の心の半分。私は朝起きるたび心が半分になる。そして、過去へと遡って行った心は決して帰ってこず、その代わり消え去った思い出を蘇らせる。私の心は半分になっても、新しい朝はなくなった半分をあてがってくれる。焼き立てのパンのように匂い立つ半分を。

起きた時沙漠を感じる。不毛な目覚めは幻想ばかりを呼び込み、刺激に満ちた空虚をどこまでも上塗りする。この沙漠は緑により浸食され水により滲み込まれ、一日とは充実した沙漠の緑化作業である。だが起きた時の沙漠は緑化などという野蛮なおせっかいを望んでいない。人生のエコロジーは沙漠の零点の美を台無しにする。

起きた時哲学を感じる。まだ覚めやらない意識が既に身体と不可分になっており、思考がのろのろ体を動かすときすでに哲学は最も曖昧で不確かな部分を感知している。起きた時のいまだ明晰でない思考によってのみとらえられる認識の萌芽は、萌芽のままそこで死んでいけばいい。起きたときの曖昧で完結しない哲学、消えていく哲学は、真理そのものを火のように照らしてただちに消えるがよい。

起きた時光を感じる。ところで光とはなんだろうか。彼岸と此岸とがきしみ合うときに発される意志のようなもの、それが光だろうか。曜日と曜日とがけだるい交替のあいさつを交わすときに発される親しさのようなもの、それが光だろうか。わたくしだけの世界にわたくし以外の者が訪れるときの足音のようなもの、それが光だろうか。全ての物語を引き連れて、光は指先に灯る。


ひかりちゃんの卵かけご飯

  ねむのき


学校に強盗がやって来たことがあった
男と女二人だった

"靴泥棒"が来た!
とひとりが叫ぶと
みんなは慌てて教室中を逃げ回り
机や壁の影に隠れた
廊下から悲鳴が聞こえてくる
誰かが襲われたみたいだ
女子達がパニックを起して叫ぶ
喚き声と怒号が沸騰する
次々に窓から外へと飛び降りるクラスメート達を
呆然と眺めていたら
とうとう強盗の女と鉢合わせてしまった
手にしていたカッターナイフで
僕は女を刺し殺した
薄い刃が頸動脈を突き破って
鮮血が勢いよく噴き出す
〆られた魚みたいに
女は身体をびちびち痙攣させて
目と口をいっぱいに開いていた
狂気に血走った女の眼が
最期まで僕を睨み続けていた

女の死体を職員室に運んで
机の上に携帯の番号を書いたメモを残し
僕はひとりで家に帰った

それからというもの
女の人と目が合うと
たびたび僕は気を失う

ある日
ひかりちゃんという女の子が
道の真ん中で倒れていた僕を介抱してくれた
ひかりちゃんは自分の部屋に僕を連れて行った

男の方の強盗が
いつか僕を殺しに来る予感がして
不安で仕方なかった
そう彼女に打ち明けると
ひかりちゃんは
ウチのマンションはオートロックだから大丈夫だよ、と言う
すると宅急便が来る
僕はテーブルの下に隠れる

小さなダンボールの箱を抱えて
リビングに戻ってきたひかりちゃんは
ごはんを炊き始めた
箱の中身は
新鮮な卵だった

そして
僕らは卵かけごはんを食べた

卵の黄身だけを熱々のごはんに乗せ
その上に刻んだ小葱をまぶして
出汁醤油をほんの少し垂らす
それは
上品で濃厚な味わいの
卵かけごはんだった


DESIRE。

  田中宏輔



DESIRE。


高級官僚になれますように
七夕の短冊に、そんな願い事が書かれてあった。
デパートの飾り付け。
ユーモアあるわね。
それともユーモアじゃなかったのかしら?
ひばリンゴ。
ひばりとリンゴをかけ合わせたの。
ひばリンゴが木から落ちる。
ピピピッと羽うごかして
枝の上に戻る。
字がじいさん。
自我持参。
あっくんといると、疲れないよとシンちゃんが言う。
よく言われるよと、ぼく。
「あっくんてさあ、誰でもないんだよね。」
「どゆこと、それ?」
「いや、ほんと、誰でもないんだよね。
 だから、いっしょにいても、疲れないんだよ。」
「なんだか、悲しいわ。」と、ぼく。
「東梅田ローズ」っていうゲイ専門のポルノ映画館で出会ったモヒカン青年の話。
温泉も発展場になるねんで。
夜中の温泉って、けっこうできるんや。
って。
知らなかったわ、わたし、ブヒッ。
セッケン箱で指を切断。
ぼくの血のつながっていない祖母の話。
パパがもらい子だったから。
で、その祖母のお兄さんのお話。
そのお兄さん、妹を朝鮮に売り飛ばしたって話だけど
それはまた別の話。
で、
そのお兄さん、自分の売り飛ばした妹が
売り飛ばす前に、間男したらしいんだけど
その間男した男の指を風呂場で切り落としたんだって。
男の指の上にアルミでできたセッケン箱のフタを置いて
ガツンッて踵で踏みつけたんだって。
アハッ。
近鉄電車に乗ってたら
急行待ちの時間で停車してたんだけど
その急行待ちしてますって
車掌が、アナウンスしたあと
ふうーって溜め息をついた。
おかしいから、笑ったんだけど
まわりが、ひとりも笑ってなかったので
ぼくはバツが悪くて、笑い顔がくしゃんとなった。
その日の授業が二時間目からだったから
中途半端な時間で、まばらな乗客のほとんどが居眠りしてた。
ひとりだけで笑うのって、むずかしいのね。
ぼんやり歩いていると
ときどき、ぼくは、ぼくに出会う。
ときには、二人や三人ものぼくに出会うこともある。
きっと、いつか、ぼくでいっぱいになる。
みんな、ぼくになる。
まあ、ついでに言うと、ナンナラーなんだけど
世界人類が、みな平和でありますように!


ポエム、私を殴れ。

  ヌンチャク

メロスは激怒した。
必ず、かの厚顔無恥の王を
除かなければならぬと決意した。
メロスには現代詩がわからぬ。
メロスは、腐れポエマーである。
ホラを吹き、ポエムを書いて暮して来た。
けれども自意識に対しては、
人一倍に敏感であった。

と、ここまで書いて、
ヌンチャクは思った。

一人の作者だけから全文引用して、
自分の作品とするのは、
たしかアウトだったかな。

そうだそうだ。
引用なんてくだらない。
所詮は借り物の衣装に過ぎない。
太宰マントは脱ぎ捨てろ!
おまえは誰の言葉でもなく、
自らの言葉で、
語らねばならぬ、
おまえの愛を。
おまえの詩を。
夕陽が沈む前に。
走れ、僕のメロス。
ポエろ、僕のメロス。

 ぼくは新しい倫理を樹立するのだ。
 美と叡智とを規準にした新しい倫理を創るのだ。
 美しいもの、怜悧なるものは、すべて正しい。
 醜と愚鈍とは死刑である。
 『もの思う葦/太宰治』

あ、また引用しちゃった。
アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!

  おまえたちは、わしの心に勝ったのだ。
  虚飾を脱ぎ捨てた、
  この裸身のような心で、
  わしも仲間に入れてくれぬか。

  王様!
  改心するの早いって!
  まだセリヌンティウスも呼んでないのに!

王宮に、
メロスの竹馬の友、
セリヌンティウスが呼び出された。
久しぶりの再会であった。
メロスを見るなり彼は言った。

  王様、裸じゃね?

セリヌンティウスはすぐさま刑吏に捕らえられ、
処刑台にくくりつけられた。
ざわめく聴衆に、
彼は必死に訴え続けた。

  ボロは着てても心は錦!
  一糸纏わぬ裸は裸!
  引用してもいいんよう!

 ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
 ぎんぎんぎらぎら 日が沈む
 『夕日/作詞: 葛原しげる』

アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!

夜酔いの宵っ!

  看守長!
  さきほどから部屋の隅で、
  何やらブツブツとあの囚人が、
  様子がおかしいのでありますが、
  大丈夫でありましょうか?

  放っておけ。
  あんなキチガイナイスガイ、
  裁判を待つまでもなく、
  じきに国外追放だ。

公序良俗に反した罪で、
牢に入れられている全裸のメロスに、
緋のマントをかける少女はいない。

 ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
 ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
 『斜陽/太宰治』

 金比羅船々追風に帆かけてシュラシュシュシュ
 『民謡』

 シュリケン、シュリケン
 シュシュシュシュシュ!
 『さっくん忍者参上!/ヌンチャク』

ポエム、私を殴れ。
音高く、私の頬を殴れ。
私は一度だけ、君を疑った。
いや、二度。
嘘、三度。
土台こんなものは詩でないと、
誰に裁く権利があるものか。
とりあえず私を殴れ、
私も殴る、
そうでなければ私には、
君と抱擁する資格さえないのだ。

微笑むポエム、ポポエム。

ヌンチャクは、ひどく赤面した。


友人Aの心理

  前田ふむふむ

街はずれの小さなアパートに
だれにも会うことを拒み ひとりでさみしく暮らしている男Aがいる
何故かといえば 
ひとりで孤独にいると 決して 起こることはないのだが
都会の人ごみにいくと 
必ずと言ってよい 奇怪な現象を眼にして
その日は 一日中 震えて過ごさなければならないからだ

友人Aが重い口を開いて 不思議な話をする
初めて起きたのは 二十八の頃 会社帰りの事だったという
頭が削れているほど傷を負い 血まみれになった若い女が
ソフトクリームを頬張る 無邪気な子供の手を引いて 
駅前の横断歩道を渡っていたという
あるときは スーパーの前に屯している十代の子供たちを
見ていると 円座して何かを食べている
よく見ると二 三のパックをあけて 豚の生肉を食べているのだ
いかにも美味しそうに どちらかというと
貪っているに近い
別の話では 繁華街のごみの回収置き場で
頸部にナイフが刺さっているままの 蒼白い顔の男が ごみに凭れるように
ぐったりとしながら 低い声で経文を唱えている
見えないのか 多くの通行人は素通りするが
あまりの異様さに その男に近づくと 薄笑いを浮かべた

頻繁に ありえないようなことが続くので
過労のためか あるいは精神に異常をきたしているのか
心配になり 心療内科 脳外科で診察してMRIで調べてみたが
とくに異常は見られず 医師は 過労による一時的な幻覚だろうと
薬を処方してくれた しばらくすれば 幻覚はなくなるという

けれど その後もいっこうに 症状の改善が見られず
あるときは ビルからひとが飛び降りるのをみて
近くに来てみると 道路に叩きつけられて 息絶えていた
だが 大勢の通行人は 誰も気がつかない
死んだ男の顔をみると 自分の顔だったという

Aは 本当におかしくなったと泣きながら話すのだが
その真剣さに わたしはAが気味悪くなり 同時に 気の毒になったが
どうすることもできない 
こうして一人でいる方が 精神病院に入れられる心配もないのだから
良いかもしれないし ありきたりの慰めの言葉をいって
Aと別れた

帰りの電車に乗るために ホームまで来ると
電車が来るというアナウンスがある
ふと 前を見ると 線路のむこう側にひとが立っているのだ
何をしているのだろうと思っていると
電車が入ってきて 男の姿を遮った
わたしは 慌てて電車に乗り 反対側の窓をみても 誰もいない
というより そこにはコンクリートの壁があり 電車と壁の間に
ひとの入るスペースはない
もしかして 轢かれたのだろうか でも事故の連絡放送がない
わたしは 確かに見たと思ったが
事故放送もなければ 他の乗客も 何か変わった様子はない
気のせいだったと 無理に自分自身に信じこませて
窓から、壁を怪訝に 見ていた

わたしはAの話を聞いた後だったから この出来事を
錯覚として見たのだろうか
でも 一瞬だが 確かにいた
心のなかでは いまでも間違いないと思っている
もしかすると 無意識にではあるが
不思議な出来事に ひとは 誰しもが 遭遇しているのかもしれない
こんなにも多くの人々が生きているのだから
十分にあり得るだろう
ただ 常識的にあり得ないと思う心理が 無意識的に矯正を加えて
なにもなかったものと思うのだろうか
Aはずば抜けて 頭の神経が鋭敏だから 意識の上でそれが見えるのだろうか
そんなことを考えながら 歩いていると
突然 雨が降ってきたので わたしは常備している傘を
カバンからだして差した
大粒で降る雨のなかを 救急車がサイレンを鳴らして
過ぎていった

 


森が森に森は森と森の森を森で森

  泥棒

森森森森森森森森森森森森森森森森

崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎崎

どーだろうか
森崎くんが主人公だから
こんな感じで
森と崎を並べてみたよ
もちろん意味はないんだけれど
つかみ。
これが大事だって
あの森口くんが言っていたから
できるだけ多くの森と崎をね、
もーね、
いろんな街から徹夜で探して
並べてみたよ
うん。
しかしあれだね、
森と崎って
もうほとんどないんだね、
知らなかったよ
これで全部だからね、
森と崎。
つーか
きれいに並べるってのは
それだけで気持ちいいもんだね、
せっかく読んでもらうんだからさ
きれいな方がいいよね、
あ。
ところで
僕の友達の森岡ちゃんは
ちゃん森岡って呼ばれてる
みんなに
そー呼ばれてる
僕が最初に
じょーだんでそー呼んだの
本人も
みんなも気に入ってるみたいよ
うん。
そんでね、
森野くんと森山さんは
詩とか興味ないんだってさ
森重くんは
すこし興味あるみたいだけど
森崎くんがね、
詩を読んだこともないし
何も知らないのに
どーゆーわけか
横顔が妙に文学的なんだよって
だから森崎くんを
主人公にした方がいいよって
森口くんに言われた。
やっぱ森口くん、すげーなっ
何でも知ってるもん
現代詩とかさ
バッキバキに読んじゃうもんね、
比喩なんてね、
森口くんの前では死ぬよ
いや、ほんと、まじで死ぬって
あ。
そー言えば
ここだけのはなし
僕はみんなにあだ名をつけてる
もちろん意味はないんだけれど
森崎くんは森
森口くんは森
森岡ちゃんは、ちゃん森岡
森野くんは森
森山さんは森
森重くんは森
たまにさ
ややこしくなるけど
ちゃん森岡が
いー感じにアクセントになって
何の問題もない
あ。
誰にも言わないって約束できる?
できるなら教えてあげる
実はさ
この前ね、
森が森と森で森を森に森してさ
まじかよって思ったら
ちゃん森岡が
森と森を呼んで
森の森に森で森を森が森だったのよ
あれはシャレになんないよ
でもさ
一番ビビったのは
もう次の日にはさ
森が知ってたからね、
いや、だからさ
森で森が森したじゃん?
あの森は森のことだよ、
わかるよね?
この詩がどんだけ意味ないかって
わかるよね?
いやいや、違う違う、
そうじゃ、そうじゃないっての
あれ?
何かこんな感じの歌あったよね?
だぁかぁらぁー
森は途中で帰ったから
違うんだよっ
いやっ
森なんて最初からいねーし
え?
森でもねーし
あくまで主人公は森ね、
そー、森崎くんのことね、
あ。
もひとつ意味のない話していい?
森崎くんが
俺が俺がってノリで
森が森がって騒いでさ
公園でさ
ゾウのすべり台のある公園でさ
碇シンジのモノマネしたじゃん?
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだって
あれ、まったく似てなくて
みんな笑ってたのに
あの時さ
森だけが森を見ていた。
森と森と森と森と森と森の間から
小さな ぁ が飛び出してきて
そのすぐ後に
大きな あ も飛び出してきて

ぁ 、あ 、ぁ 、あ 、ぁ 、あ 、ぁ 、

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ああああああああああああああああ

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ああああああああああああああああ

どっちもきれいだなって
森が呟いて
ちゃん森岡の肩に鳥が止まって
もちろん意味はないんだけれど
意図はある森が燃えた
発狂する季節
森が発狂する季節の到来
森に森を伝える前に燃えてしまった
あ。
逃げた
主人公が逃げた
森が言う
この森は他の森とは違うって
そー言って
表現から逃げた
表現って
死んでも使いたくない言葉だね、
でも使う
二酸化炭素や表現が
まるで
伝わらない
森の終わりに
森が森に吠える
意味がなくてもいい派の森に吠える
意図がないとダメ派の森に怯える
そして
枝は折れる
森が森を駆け抜ける
ゾウの鼻が伸びて
森の意図が縮む
森に意味は最初からなかった
だから
ヒントもなかった
本当に、まるでなかった
あ。
森口くんの口が口と口に口を挟んで
口口口口口口口口
口口口口口口口、口口口
口口口してる
あ。
こんな感じの詩を
最近読んだ気がする
森と森で
読んだ気がする
あ。
森が森でうなだれている
口の中は空っぽだね、
森が森へ帰った
森も帰った
森も森も森も森も森も森へ帰った
ぁ、
みんな帰ったのかな
それとも
みんな死んだのかな
あれ以来
森を見ていないし
枝の折れる音もしないし
誰も最後まで読んでいないし
ぁ、

あ。


  zero

全ての生命が鉱物のようにまどろんでいる
太陽は新しく昇ったばかりの新人で
世界の照らし方がわからない
ぎこちない光を浴びながら
水のように低くしたたかに歩道を歩く
私はすべてを根拠付け、そののちすべてに根拠付けられる
鳥の声を余すことなく撃ち落とそう

鳥など存在したことがなかった
ただ甲高い鳴き声だけが存在した
あの羽の生えた飛ぶ生き物は鳥ではない
甲高い声の主、その音源こそが鳥であり
それはあの生き物ではなく
空間の無意味さである

電車は悲しい歌を歌っている
とても感傷的で、過去を振り返るような
かと思うと勇壮な行進曲を歌ったりもする
時間は混沌として何の意味もなく
電車は昼も夜もどんな季節も通過して行く
私をいつもの場所に連れて行くがいい
この混沌の時間を横切って

建物はつめたい
どんな熱を受けようと
無に帰してしまうのが建物だ
建物は意に反して立っている
設計も建築もこんな大きな体もいらなかった
建物は失意そのものだ
いつでもつめたい物思いに沈んでいる


「まあちゃん」のことではない

  Migikata

 まあちゃんは、ちょっと癌。癌になっちゃった
 くちばしを開いた鳥の口の中、のどまで真っ赤
 株価は値上がり中
 爪の色が紫。すぐ割れる、はがれる、まあちゃん
 喜びの裏側にまた喜びがあって飛び上がって伸びる
 西瓜を提げて、おじさんのランニングシャツ
 エボナイトという言葉をスマホで調べた
 お父さんのメダルが十四枚とバンソウコウが八枚
 並べる並べる
 ストローから覗くとまあちゃんの赤らんだ裸
 金魚という種類の魚はいません
 お砂糖で耳を煮出してよく晴れたなら
 紫の声が割れる割れる
 絶賛分割中。黄金分割中。まあちゃん
 自転車のキーの横にアイスの紙カップ
 黄色ワセリン、白色ワセリン、プロペト、サンホワイト
 駐車場でのトラブルにつきましては責任を負いかねます
 まあちゃん、わかった?わかっても仕方ないけど
 目で字を追って追い抜いてその先を読んじゃうと
 浅い紫色、綿菓子のような匂いに、金管の音が少し
 道路標識の根元に落ちている、ゴムのキャップのようなもの
 濡れて乾きかかっているもの、涙と関係のないもの
 叱ったり叱られたり、怒ったりもしないもの
 お父さんでもおじさんでも、お母さんの恋人でも何でもない人
 少しだけテレビに映った人、シトラスソーダ
 ニトリ赤羽店を過ぎてすぐ、信号のない交差点を左の路地へ入る
 ビックリマンチョコ
 神の国とか天国とかとても近いところ、公衆トイレ
 公園に砂場、鳥取にも砂場、残念なスタバ
 まあちゃん、左ポケットに手を入れてペニスを弄っちゃだめだ


農場

  山人


農場は今日も静かだった
土の畝が形どられ
わずかな小雨が土を濡らしている

休眠した種子たちを
刺激する気配すらも感じられない
すでに、どうだ
私が農民であったことさえも自覚できず
こうして一日の終わりを
狂いのひと時に浸ろうとしている

どんよりとした
ビニールハウスの湿度の中で
点々と茎を太らせた
菜たちのよどみが揺れる
吐いた息を
そのまま吸うような不潔な気体の中
脳さえも失われた
その菜たちの目はひたすら濁っている

虹をかんむりに
シャイな霧を瞼に乗せて
夕日に頬を赤らませ
星を瞼に閉じ込めて

少し寒い農場の脇に立つ
まだ待てばいい
ずっと待っている
動き出した土の一つの意思
きっと新しい言葉たちは芽吹いてくるはず


引用ロードSHOW

  泥棒

私は
(泥棒/引用ロードSHOW)

私から
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用する
(泥棒/引用ロードSHOW)

あなたからも
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用する
(泥棒/引用ロードSHOW)

雑誌からも
(泥棒/引用ロードSHOW)

テレビからも
(泥棒/引用ロードSHOW)

映画からも
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用する
(泥棒/引用ロードSHOW)

そして
(泥棒/引用ロードSHOW)

傘はないけれど
(泥棒/引用ロードSHOW)

ドアを開け
(泥棒/引用ロードSHOW)

町へ出る
(泥棒/引用ロードSHOW)

この部屋は
(泥棒/引用ロードSHOW)

グレーゾーンだから
(泥棒/引用ロードSHOW)

町へ出る
(泥棒/引用ロードSHOW)

この部屋は
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用の雨が降ると
(泥棒/引用ロードSHOW)

濡れるしかないから
(泥棒/引用ロードSHOW)

町へ出る
(泥棒/引用ロードSHOW)

風景とか
(泥棒/引用ロードSHOW)

感覚とか
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用できないものを
(泥棒/引用ロードSHOW)

丁寧に描写しろと
(泥棒/引用ロードSHOW)

あなたは言う
(泥棒/引用ロードSHOW)

今日もあなたは正しい
(泥棒/引用ロードSHOW)

でも
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

傘が売っていない町で
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

グレーゾーンを
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

丁寧に描写するから
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

あなたに
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

読んでもらおうと
(泥棒/引用ロードSHOW)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

引用する
(泥棒/引用ロードSHOW)

んで、
(中村一義/犬と猫)

突然なんですけどね
(おぎやはぎ/結婚詐欺師)

本当にこのやり方でいいのか
(浦沢直樹/20世紀少年)

胸の中でつぶやいた
(川上弘美/どこから行っても遠い町)

ごめんなさい
(新井素子/おしまいの日)

たぶん
(スチャダラパー/ヒマの過ごし方)

私はもうだめです
(手塚治虫/ファウスト)

いただく物はいただいて
(内田百〓/八十八夜は曇り)

そろそろ寝るか
(伊藤潤二/よん&むー)

なんとなく
( / )

二秒間宙を見つめていたが
(町田康/パンク侍、斬られて候)

あっという間に
(吉行理恵/湯ぶねに落ちた猫)

私は激突して壊れるだろう
(舞城王太郎/みんな元気)

そして
(絲山秋子/逃亡くそたわけ)

すぐにバターのように溶ける
(中上健次/賛歌)

いや、そういうんじゃありません。
(モリエール/人間ぎらい)

その逆の場合もありますので
(猫田道子/うわさのベーコン)

少し怖かったけど
(前田司郎/夏の水の半魚人)

私は本当に何もしなかった。
(阿部和重/グランド・フィナーレ)

そんな馬鹿な話があるか
(高橋源一郎/恋する原発)

ある
(鳥山明/ドラゴンボール)

やりたきゃやればいいよ
(浅野いにお/うみべの女の子)

だったら
(立川談志/M-1グランプリ2002)

はっきり際だたせて
(ジャン・ジュネ/泥棒日記)

言葉なんか
(奥田民生/何と言う)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

すぐに
(七尾旅人/天使が降りたつ前に)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

神経を集中させて丁寧に
(shing02/焦燥)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

とても長い伝統を
(中沢新一/三万年の死の教え)

許可が下りたら
(白輪剛史/動物の値段)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

必ず
(諌山創/進撃の巨人)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

上から頭ごなしに
(大竹伸朗/テレピン月日)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

合法的に
(BOSE/明日に向かって捨てろ!!)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

中学二年の本棚を
(泥棒/引用ロードショー)

昇華することなく
(泥棒/引用ロードショー)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

サブカルが
(岡村靖幸/あの娘と、遅刻と、勉強と)

シンクロしまくった
(大根仁/中春スケッチブック)

昼過ぎから
(野坂昭如/ぼくの死の準備)

強弱をつけて
(二ノ宮知子/のだめカンタービレ#5)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

ドーナツショップでフレンチクルーラーを食べながら
(宮崎誉子/セーフサイダー)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

くしゃくしゃの紙くずのように
(宮沢賢治/注文の多い料理店)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

すべての人間の頭上を
(立川昭二/死の風景)

水と光を
(唯野未歩子/走る家)

あの空白を
(アンドレ・デュ・ブーシェ/氷河)

数冊の本を
(本間洋平/家族ゲーム)

数々の思い出を
(ルネ・シャール/眠りの神の書)

仕事しながら片手間に
(山本直樹/テレビを消しなさい)

普通の感覚で
(森達也/スプーン)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

時には
(ユニコーン/時には服のない子のように)

スローモーションで
(水森サトリ/でかい月だな)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

比喩的な言い回しであるという前提を
(斎藤環/ひきこもり文化論)

殺してやる
(庵野秀明/エヴァンゲリオン劇場版)

終った前衛と呼ぶしかない無惨さを
(金井美恵子/スクラップギャラリー)

編集が終ったところで
(桑野茂/ドキュメンタリーの世界)

皆殺しにしてやる
(高橋ヨシキ/悪魔が憐れむ歌)

こんなひどいものがあっていいのか
(中原昌也/死んでも何も残さない)

詩的でない言葉ではとても表現できない
(ジョルジュ・バタイユ/文学と悪)

言葉をなくした
(後藤まりこ/sound of me)

ほんでね
(チュートリアル/鳥将軍)

あなたを殺して私も死ぬ
(東京03/あるがままの君でいないで)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

皆、優しく、きれいに
(太宰治/女生徒)

逆に
(泥棒/引用ロードSHOW)

笑って答えた
(谷崎潤一郎/刺青)


春めく色たち

  atsuchan69

  第一幕 (森の妖精たち)

   矢継早に、四方より登場

わたしは、碧――
贅沢に華を散らして
眩しい朝の陽を浴びた葉桜のように
濃淡の影も爽やかなみどり

わたしは、黄色――
麗らかな山麓に菜の花が咲き
キャラメルを一欠けら頬張った子らの
愛らしい笑みも声もきいろ

わたしは、紅――
背いた罪の数ほど美しく
威風堂々と山里を染める紅枝垂
裂けた葉の無数のあか

わたしは、蒼――
あてどなく彷徨うごろつきの
転がる石も雪融けの水に呑まれ
沈み流れて仰いだ空のあお


   暗転

 
  第二幕 (湖畔に立つ女のシルエット)

   重いピアノの伴奏がつづく

わたしは、透明――
硬く、そしてつめたく
淡海まで凍りついた冬の終わりに
囀る鳥の声を聞いた、とうめい

   雷、雷、そして暫くの沈黙

 でも、きっと――
彼は雷鳴のように轟く声で
わたしにつよく何かを叫ぶと
疾風ように丘を駆け降りてきた

 でも、きっと――
彼は迷宮のように行き先を隠した
朽ち葉のつづく深い森の道を抜けて、
漸く夜の終わりに熱いキッスを届けたの

   (ピアノの伴奏が止る)

   七色の光を浴びた女と、
   その背後に立つ四人の妖精。
   静やかに弦楽合奏からはじまり、
   管楽器も加えた穏かな牧歌が流れる

 ええ、乳白色の朝靄のなかで
彼は陽光を背にして凛々しく立っていたわ
――だから今わたしは、
あなたが望む何色にだって染まるの

   女を囲み、踊りだす四人の妖精

   そして静かに緞帳が降りてゆく

   ――エピローグ (囁くような声で)

 でも、わたし 本当は
とても気紛れな虹色なの・・・・


夕沈みき月を待つれば星薄れ陽を待つのみ

  


これはポケットの中で起こった本当のお話です。

もしも君の扉を開けるとしたら 僕に鍵は必要ないのさ 
あいつと君の幸せを願い 僕はポケットに手を突っ込んだまま



渋い波止場のガード下、小粋な電話帳をお大事に。浅さの深い晴天の、僕の息子は切ない照れ屋さんです。やなおや音楽が聴こえてきましたから、突き刺してやると、蚊が舞い込んできました。ちょっと楽しいこの気分に、絵の具を貸してあげるから、白い首で天道を編み、今だから医者が言っていられることも、二重羽織の虎の背模様です。



目覚めたら、大きなハコフグに乗って、アラブの砂漠を彷徨い、海と平行に息を切らして走り、時間の角度に影を変え、スパイシーな言葉をひとつください。初めての朝帰りも並キスでした。石も転がると磨り減るんだね。あなたはスケベで、3万人の人形で平和の交合を盲点に、遥か遠くの交差点で、あなたの首筋にキスをするとき、髪から蓆(むしろ)の匂いがしたのでおもむろにあなたを殴りつけた。あなたは泣きながらその匂いはわたしたちが今こうしてここにいる証しだと言って空を指差した、何の変哲もなかった景色が正方形に切り取られ、その中にあなたは何人もいた。僕は一番幼いあなたを抱き上げて、やさしく頬にキスをした。



何かしらの感情を白銀のベッドにプチトマトの痕が点々と、とても軟らかく温かい感じが込み上げてきて、耐えられなくなるくらい、突き刺して描いてあった甲斐ありで、髪は窪みに触れました。よろしく、よろしくと、意識は根こそぎ持っていかれて、海は死に、山は死に、水を愛するものは知に溺れ、山を愛するものは愛に溺れ、僕は恋で焦がれ死にます。



防人の詩は、流転のニヒリズム、そのままお洒落にお月様を着こなして見ていてください。浴衣姿の過去娘、白髪を染めたる男衆や、涙故郷のエロチック、灰色気分の長財布、下腹に抉りこむおしめりは蒼い苔。誰かの腕に抱かれる欲望が焼け死んだ頃、火の鳥は復活し何度も読書を繰り返し、タンポポの綿毛がサラサラ地蔵の上で、葉っぱの本名を適当に考えていると、なんだか泣きそうになってきて、一台のトルソーの如く、神様の話はしないでほしい、夢の遮断機がたとえ滴のように冷たくても我慢します。


春に埋もれて

  山人

時はまろみを増し、水は思い出したように透明になる
神経のひとつまみを
樹皮の隙間からそっと出して外をみつめる木々たち
億千のいとなみの瞼がゆっくりと開けられる
街は人を配り、人の吐息は其処彼処に一時乗り
やがてけたたましく
車が風をともない浚ってゆく

春になると別な世界がやってくるという。
座布団カバーを外して洗濯機へ放り込む
おそるおそるヘルスメーターに乗る
冬の重みや大きくせり出した脳の重さが如実だ
階段を昇り便所を掃除する
塵を分別する
布団をたたみなおして押入れに入れる
掃除機を取り出してまず二階の廊下から
玄関マットまで塵を吸い
目から零れ落ちた脳片まですいとる

終末のあとの残骸をリセットするように、細針の糸通しの孔を、鋭利な、音が、静かにゆきわたる。
鵺の正体とよばれる夏鳥が鳴いている。


20世紀少年のトモダチのように僕は
覆面の中で「まあね」と真似てみる
そして
「まだ、おわらないよね」と
トモダチの断末魔のときの台詞を真似てつぶやいてみる
僕たちは20世紀少年。
いまでもこれからも。

朝霧が立ち
窓を開けてみると だいぶ明るい
とても日が長くなった
トラツグミは未だ鳴いていた


トーナメント

  ゼッケン

視聴者のみなさま、こちら、
天の岩戸前特設アリーナから中継しております、諸般の事情から開催は不可能!
と言われていた最強天皇決定トーナメント、なんと開催であります、一寸先はハプニング、
行けば分かるさ、分からなくても戻ってくるな、さあ、ここで開催宣言は、
リング上にはザ・レジェンドこと神武天皇だ! マイクを持って上がります、会場内、
ヤタガラスが一斉に放たれました、ああ、うるさい! 神武天皇の言葉がきこえません、
これは高杉晋作じゃなくとも三千世界のカラスを殺したい、神武天皇、リングを降ります、
会場暗転、赤コーナー、選手入場です、最初に入ってくるのはどいつだ? レーザー照射、流れてきたぞ、入場曲が、
曲名はビューティフル・ネーム、となれば、出てくるのはあの男しかいない、天皇の天皇による
天皇のためのクーデター! 建武の新政、おれの名前を言ってみろ! ザ・ビューティフルネーム、後醍醐天皇だあああああ! 

…会場がいまだざわめいております、続いて青コーナーの入場です、曲はMAX、ええええええ! まさかのTORATORATORA、これは豪華すぎやしないか、初戦からたいへんなことになっているぅ、堪え難きを堪え、忍び難きを忍んだ男、ザ・タフ、昭和天皇、入場!
トーナメント初戦は後醍醐ブイエス昭和のドリームマッチ、ゴングがなると同時に、後醍醐天皇のセコンドでゴダイゴのリーダー、ミッキー吉野氏が怪しげなお香をリングサイドで焚き始めました、これはもう放送できないかもしれない、気持ちよくなる煙が会場内に立ち込めてきた、リング上では後醍醐天皇、密教立川流の寝技で昭和天皇を責めたてているぅ、苦痛と快楽の永劫回帰! まさに法悦! 南北朝も分裂だ! やっぱりこいつは悪党だ! これにはさすがの昭和もギブアップか!? だめか、だめなのか? やっぱりこの戦いは始めてはいけなかった? ここで主催者から突然のお知らせが会場内スピーカーから、

只今より重大なる放送があります。全国聴取者の皆様御起立願います

うそだぁ、出たあ! 玉音放送、ポツダム宣言受諾! 昭和天皇、無条件降伏であります、しかし、これは負けではない! むしろ負けるが勝ち、からのこのシークエンス、ここからは止まらないぞ、昭和天皇のコンボ、人間宣言からのそして少年は象徴になった! 逆説的現人神の降臨、ここに天皇は完成した、完全体出現! 千代に八千代にこけのむすまで、天皇は天皇になりつづける宿命なのか! 天の岩戸もたまらず開いてしまうじゃないかっっ、わたくし、これ以上中継できません、みなさん、さようなら!


(無題)

  イロキセイゴ

戸が削除されて居る
根底を探れば馬が正しく放出され
木の扉を出て行く時の
私の尻の位置が分からなくて
傘を待って居る雨が降って居る
私は喫茶店で席が空くのを待って居た

音が猛々しく響く日暮れに
想起されるターザンや「許さないで欲しい」
右足の裏の棘が痛む
網タイツを履いても癒されない痛みに
格差を思う夕暮れ

矢鱈と手渡して居るパチンコ屋の東側で
そこに辿り着く前にも手渡して居た事を想起して居る
そこから東へ向かって進み北へ左折してから再び東へ向かう
漂う様に私はマーメイドに成って居る


初夏

  uki


五月の深いひだまりが

子守唄をうたう、

あなたの声で。

胸がやさしくふくらみ

屈折した光がおどりだす

緑の井戸の豊穣



こすれあう葉たちの瞼が閉じられては

青空の夜が点滅し

ひとつ

ふたつ

雲が遠ざかる。



世界はあまりにも静かなので

眠りは溶けない。

いっそ、駆け出そうか

淡い緑が凝結した夏木立へ

焼けたあなたの麦藁帽を被って


夢見草

  蛍狐

散る散る
ひとつふたつと
桃色花びら
ふたつみつ
風と手を取り
みつよっつ

樹洞がぽっかり口を開け
春がくるくる落ちるのを
老いて静かに眺めてる

大地を突き破っては
また還ってゆく
命の往来を眺めてる

楽しそうに(あるいは哀しそうに)
暮れてゆく人間どもの
空に広がる
なんぜんなんまんの
桜しぐれ

いつまでも咲いていてほしいから
いつまでも咲いてはいられない
腫れた乳房の少女が
いそいそと化粧を落としている

ほの暗い病室の静寂にも
夜に輝く街の喧騒にも
さくらは同じにやさしくなる

散って散って散り抜いて
あわやこの国まるごと
桜色


木刀

  中島恭二

粗大ごみ置き場に 無造作にブリキのバケツにすてられ
つったっている木刀
それは僕たちである

僕は木刀をひきぬき
大声を出して空を切り おもいきり振り回した
それを見て子供たちが笑っている
僕たちは棒を振り回して生きただろうか
棒で犬をなぐっただろうか
殴られたのは僕たちではなかったか

革命は美しい桜の季節に始まるだろう そう信じた
そして晩秋
行なわれるはずの約束はなにひとつ果されなかった

沼のほとりを迂回してボーボーとウシガエルの鳴き声を聞きながら
君の墓に出向く

さきにそちら側に行ったとて 友よ わたしを呼ばないでくれ
死はこちら側にあることで君をしのび、そちら側には死さえないのだから
僕たちの青春が棒を振る徒労であったとは言うまい
薄の生い茂る荒れ野で
蚊柱を打つ木刀だったとしても
僕たちは誇りをもって生き抜き
振り上げた棒で 棒をふるように逝くだけなのだから

きみの墓石に木刀を立て掛け
そして僕は問うだろう
なぜこんなに君にあいたいのかと


空の底

  草野大悟

影が
はるかな青を見上げて
さくら色のため息をつくとき
アスファルトに貼りつけられたおれたちは
光となって舞いあがる。

ぽっと頬をそめた月が
なよなよ と
しだれかかってくるのは
樹の根元に
狂おしく眠っている
白骨たちが蠢きはじめる
こんな春の宵だ。

おまえたちよ
涙が欲しいか?
それとも怒りか?
おまらが求めるあらゆるものに
おれはなれる準備がある。

だが 
おまえらの
首を吊るあしたのためになど
涙をながしはしないし
まして
だれが太陽をさしだしてなんかやるもんか。

熱だ!
狂おしいばかりのネジの力だ!
鋏をふりかざす蟹の勇気だ!
おのれの屍を踏みこえていけ!
倒れるのもいい
泣くのもいい
愚痴だって
いっぱいこぼすがいい
空だって
大粒の涙や
人なんか吹き飛ばしてしまうような
ため息をつくじゃあないか。

風よ
空の底にすむおれたちにも
雲と手をつなぐ自由が
まだ 厳然と残されているのだ。


カラス

  中島恭二

人は
どのように生きてきたかを子孫に知らせたいのだ
知らせなければならないのだ
どのようにして人間は生きてきたかを

私はきのう見た夢の事を思い出していた

海岸に乾物のように干からびた死体
それはおれの弟だと父は言った
蠅の黒くたかった死体 南の孤島で戦死した弟だと言った
流木を集め 浜辺で火葬にしようとした
湿った流木は小さくしか燃えなかった ちょろちょろと燃えて
腹から
太腿から
眼球から
出てくるわ
出てくるわ  
うじむし
そして父は指さしながら 口を開いた 
そのうじむしを食え
そのように人間は生きてきたと

海の方から 
密林から
色々な鳥が飛んできた
死体の周りに這い出してきたうじむしを 夢中で啄んだ
 
うじむしを啄んでいる
私はカラスに成っていた 


しんなりと

  れたすたれす


しんなりと しにした しめる かのように
かように したしんだ しんわは いぬものを かたる
いつでも しょに しょに いたる しょに
しょを ひらかれる あまたの しょしょに
しょを ひらき みられる たびに いにしえの
ときに いざない いまはなき はかなし しんれいに
したしめる いや ねずとも ねことも ともひき ゆく
ときは しんなりと ときには ねころび
ときとして ころげ こげつき きねしす さいこき
として つきは まわる しんとして そこに ある
しかと ある しかりと ある あたま いしとして
みがく あたまを しかと いしをとぎ あたまを
とくと とぐ いしが いな それ それが はねる
あたまを はねる いしとして はめる あたまは
はめられる あたまは いしで ふるい いしで
あらたな あたま として はめられた 
むちの かわが はげた あたまは あらたに
ふるい それを はりつける いにしえの きじんの
ことば として さだかではない それは しんとして
こんすいし こんめいし こんらんし らんしとし
せいしを として いくども みたまを ひろい
めたまを ひろげ えええ それでも はくしで
ひろい よみして しんなりと 
いくひも あまりを として しんなりと


私と言う悪夢

  イロキセイゴ

流水プールの中の私は
初めての物語を読みながら
水の色が服の色に転化する様な夢の中に
かわいい犬を連れた老人をつけ回し東へと戻る
初めの地を憎み
西方進行を続ける
少年二人が剣道をして居る
消防自動車のサイレンが聞こえ来る中
私は「私」を取り戻しつつあった

文学極道

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