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tomo

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夫婦乞食

  tomo

外で寝れってか
そんなこと言ってないでしょ
さっ、起きて一緒にたべよっ
32ワットの丸型蛍光灯を被せる笠が異様な大きさで迫ってくる。
透かした枇杷肌の豆電球から零れでる光の気配が淋しい。
きのう退院してきた みり は
放っておくと一日中寝そべっていて
食べるいとなみを休眠させているのだ。
どして..かな
えっ なんていったの
口づけしても濡れることのない みり の唇から這い出す言葉が
吐切れる意識の中で殺されていく。
采々や から届いた無添加の弁当を満面の笑みをうかべてほうばる。
みり の右の頬にある粉瘤が菱形にシェイクして
良人の視界の奥を当てどもなくさまよう。

二匹の種類の違う子犬を長いひもでつないで
少女が一緒に散歩している
赤い線描画のプリントされた白いトートバックがあった。
郵便貯金通帳と銀行預金口座通帳、運転免許証とパンチされた古い
免許証、
一円玉と五円玉が一杯詰まった巾着、湯上りタオルと顔ふきタオル、
糸楊枝四本と印鑑が一本、
じかに畳に寝ていた みり の足元にいつも立ってあった。
みり オレ誰だかわかるか
わかんない
おさむ、みりの旦那さん
さっきからあなたに似たような顔した人達が出はいりしている
そんなことないよ みんな俺 おさむだよ
これ以上なにを解れと言うの 体がうごかなくて具合わるくて寝ている
のに 虐待よ
それからまもなくして みり はいなくなった。

あしびきの山にも路を隔てたわたつみの沖にもおなじ雨が降り
おなじ雪が降りそして又おなじ雨がふった頃
一組の夫婦乞食をありきたりの喧騒が眠っている路上に見かけるよう
になった。
をんなは
片方の布の取っ手が千切れ
赤く滲んだ灰色のトートバックを右手に持ち
日焼けした顔には乳白色にひかりを帯びた粉瘤が碇泊している。
をとこは
伸ばし放題の髪にふつりあいな
まばらな無精髭を生やし
そうも古くはないリュックを背負い
両手には何にも持たず
雨上がりの空のけだるさと後姿から飛んでくる妻の臭いを拾い上げて
いるように見えた。
やがて
こっちのみーずはあーまいぞ
あっちのみーずはにーがいぞ
と、一頻り雨粒が落ちてきて
夫婦乞食は雨霧の中に消えていった。


現代の絵巻 (1)秋

  tomo

日覆いの破れ目に射し込む秋風
日当たりのいいコンクリートの割れ目には
道草している名のしれない草花
ただひとり羅生の門をくぐる僧侶
夢を昨日に仕舞って身動きできずにいる私
その起立した影がわずかに西にかたむき
豊やかに風の息にゆさぶられながら敷石に染まっていく
そしてその敷石と影との間には
実存の剥がれた憩室があって
そこでは銀色のウインターコスモスが萌えそめ
人の感覚をふるい落としている
私は海水の砂摩で
光色の衣をまとって埋まる世捨て人のように
言葉を喪ってしまっていた
私から抜け落ちた母音のかたまりが
吹き迷う秋風にずいぶん遠くの風下まで運ばれ
表音仮名が表意漢字に化けて
あちこちで私を凝視している

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以前冒頭の部分を投稿しましたが、続きを再投稿させてもらいます。
本来は縦書きでルビも数箇所振ってあります。


青い壁 5

  tomo


   青い壁 5

蝉が
腹這いになって動かない道に
白いランニングシャツの影が
つきさされていた

わたしの名を呼ぶ
か細い母の声が
空になった吸い口から
きこえてくる

飛行機雲のなかから
形状記憶の時の切り粉を
なげているわたしを
わたしは見ていた


青い壁 6

  tomo


 
 思えることが存在できることではない
 わたしの乳房が空とふれあっているのは
 それは。思えることだからではない
 くだけ散った感情が錘鉛をゆらすのは
 ありもしない感覚が狂おしくさわぐからだ
 すずめがなんひき鳴いていても
 わたしがいきているあかしにはならないだろう、


青い壁 7

  tomo

ジス イズ ア ペンというほど
ペンは具象的ではないから
わたしはこわばった抽象性を明らかにつかみだす
パトスを持とうと思った
地平線をはるかに越えたところにある
星の青白さのことを
なすび色のグラスに注いだココアのことを
人知れずタンポンにふさがれている空洞のことを
わたしは葛のうらふく秋風のもとに晒した


ミドリの影 (1)

  tomo

 
 転がり落ちている慰安を踏みつけながら
 私は冬の陽が射しこむ空の影の中をあるいていた
 青年がうつむき加減につぶやいた
 ロバート・プラントをロバータ・フラッグと間違えてしまった
 ロンドン帰りの留学生はこうして音大生の彼女にふられた

 深爪が化膿する恥しらずの時がめぐり
 ごじかん前にのんだ幻聴のくすりが切れ始めた
 とんでもないことだわとんでもないこちだわ
 あした着く筈の新しい服がいつまで経っても届かない
 靴底ごとに戸籍が変わって私は動けずにいるというのに

文学極道

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