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北 - 2019年分

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


グローバリズム孤児

  星野純平

僕たちの間に横たわる銀河のことだよ 夢ってなに?そうさ諦めの星雲の淵に薫る夕飯のこと 路地に煙る思い出のなかを手探りで帰る場所のこと 子供のままじゃできない 大人になれば叶えられる 大人ってずるい早く大人になりたい 君ならできる 善い大人になれる 子供は時の流れを堰き止めている 大人は船に乗って魚釣りをしている 星を釣りあげると流れ星が手紙を運んでくる 裏腹な気持ちで遠い空に眠る文字 子供は大人の先輩だってね ああ大人よりも先に生まれてくるからね
べったり張り付かないで信じない人のことは 犬に餌をあげるように愛して 誰にも期待なんかしない 昔の住所からやってきたんだね 遠いところだ 目に見えないところかもしれない 地図にすれば帰れるかい 君が生まれたところ 真っ暗闇をオブラートに包んだ道 そよぐ木々 たなびく草花の丘 死のような地平線 死んだことはあるの 死にたいの いや殺してほしい 風の刃先が首筋に触れる 聞こえてくる 耳なんか澄まさなくてもいい どうすることもできない花の眠りが胸に脈打ち溢れているから
ようやく生まれ変わったきたんだ そんなに焦る必要はない 言葉に腰掛けて君は息をとめて椅子のように黙って 誰かの嫉妬に見つかってはいけない 帰る場所が欲しければそのまま動かないで 夢にまでみたんだよね 流れ星だったけれどほんとうは今でも諦めきれないんだ 間違っているのは間違っていないことかもしれないね 君が歌えばみんな帰れるのかな どこに帰るんだい さっきからずっとその話をしているよ ほら見て空が明るくなってきた 君が歌ったから?ああ夢かもしれない


蛙の交尾

  星野純平

こんなになぜ
あなたを欲しいのか
理由は聞かないでほしい
自分自身を理解できていないのだ
池に夜明けがやってくるとき
朝日があなたへ教えるだろう
独りよがりを好まない
優しさで狂気を恐れ
あなたのためだけに生き
いつもあなたに忠実な
体内に咲く肌の赤いカーネーション
子供のような産声で
愛情を込めて尋ねます
なぜ私を抱きしめないのか
くぁくぁくぁ


ロストバイブルウォーク

  

スーパーで買い物をしたら、
レジで清算をして購入した商品をスーパーの買い物カゴから、
レジ袋や自分のエコバッグに移し入れます。
そして空っぽになったスーパーの買い物カゴは指定の場所に返します。
使い終わった空っぽのスーパーの買い物カゴは元の場所に戻さないと、
混み合ってる時なんかほんとうにそれ邪魔なんです。
スーパーの買い物カゴは、使い終わったら元の場所に返す!
これモラルなんですか?
昨日、私の隣のおじさんが空っぽになった買い物カゴを元の場所に返さずに、
台の上に置いたまま立ち去りました。
私はそのときおじさんに注意しようなんて微塵も思わなかった。
おじさんが残したカゴと私が使い終えたカゴを重ねて一緒に元の場所に返しました。
それについて何の抵抗も感じませんでした。
どうしてか?なぜ一言、注意しなかったのか?
それはめんどくさかったからではありません。
他人の間違いを指摘してもそこに自分の正当性は存在しないと思ったからです。
他人の間違いを指摘する時代にもう終焉を感じるからです。
正解でも間違いでもこれらは実態のないひとつの幻想だからです。
ならば、人、ひとりひとりの考え方の違いを、
それだけを大切しなければならないのではないでしょうか。
それがたとえ僅かな違いであっても見捨てずに拾い上げたい。
そして私があなたの思いの熱に触れたとき、
静かに目を閉じて、あなたと私の手のひらに宿る温度差を感じたい。
手と手を繋いだ温もりのなかに生じた互いの孤独がひとつなったとき、
認識しましょう。
それを引き裂くような、隔てるという力はもうどこにも存在できなくなるということを。
私達を長年縛り付けてきた、
過去の自由からいちど逸脱しましょう。
多くの知識と名誉を抱える人は常に怯えているのです。
ここに限って、言葉の使い方のルールの中でしか生きられない、
そんな怯える人に詩の選評なんかできない。
なぜなら自分の正当性のために詩を読むことは日増しに酷になってゆくからです。
なぜなら正当な上を走る面白さには詩の言葉としての意味がないからです。
私は彼らの頑張りを、ごくあたりまえの、
生まれて死ぬというエネルギーとして賞賛するでしょう。
いずれAIにフルボッコにされるあなたたちのために。


母参道

  

僕はお母さんを知らないから
お母さんに逢うための比喩は要らない
白鳥のように長い首をもたげたり
馬のたてがみのようにゆれている
想いはお母さんを支える楼閣だった
子鹿のように軽快に
跳ねあがる僕の心臓へ
研ぎ澄ました爪先を立てた
希望と絶望の
かわるがわる波音が
海の底へ沈んでゆく
記憶になれば化石になれる
からだじゅうのお母さんが言っている
僕を捨てたあの償いを
岸壁に砕ける羊水が削りとる
暗闇を照らしながら
まっすぐ突き進む満月の参道に
今夜も人の往来がある
もう僕のお母さんは生きているのか
死んでいるのかわからない
そのやうな
産声も聞こえないところへ
手をあわせに上ってゆく人や
手をあわせて下りてくる人がある


月の民

  

月は学びに登ってくる
路地裏のバーから
また空に歌が生まれた
南の砂埃を歌う人々
故郷の血に想いを馳せる人々
天国に声を上げて
叫びながら
メランコリックな天使になる
新しく勇ましい
セメントと石灰の部屋が
赤い月が
肌の色に満ちてゆく
夕暮れ時の窓辺
孤独が掛かる服の袖から
喜びが町中へ堕ちてゆく
古い家を照らすランタン
壁を探している人々
希望と病の中で
永い景色の迷子になった
ホットパインの甘い香りは
波のうわさだった
私は彼らによって
静けさをすべて失う


Minor〓a

  

墓石にキスをして涙を流し
天国の前でしりもちをつく
わたしたちは永遠に家族
どこへ出かけるときも一緒
あなたは月わたしたちは星
悲しみが深ければ
漆黒の闇に浮かぶ船
わたしたちの帆は眩しい
風は雲をかきわけ
太陽の下で影に堕ち
光に紛れ
財布をスリ盗る
わたしたちには時間がない
わたしたちには約束がない
わたしたちには国境がない
今に毎日を押し込め
今日も旅をする
幸せの指し示すほうへ
明るいほうへ
そろそろ僕の言葉が
失速すると予感している君
既成概念に引かれた
君の人生は馬車
月は君らに自由を与える
しかしわたしたちは
翼を持たぬ星
自在に明滅する
文字には写しとれない
大地に鳴り響く
喜びの鐘の音

文学極道

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