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2019年03月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


陽の埋葬

  田中宏輔



──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


畳の湿気った奥座敷、御仏壇を前にして、どっかと鎮座する巨大なイソギンチャク。


(座布団が回る、イソギンチャクが回る、互いに逆方向に回りはじめる)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


イソギンチャクが呼吸をするたび、星々が吸い込まれ、星々が吐き出される。


(そのたびごとに、宇宙はこわれ、宇宙はつくられる。)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)

螺旋に射出された星々が超高速で回転する。


(刹那の星回り!)


星と星と星との饗宴。


鐘と鐘と鐘とが響きあう。
(ジョイス『ユリシーズ』9・スキュレーとカリュブディス、高松雄一訳)

(団栗橋だなんて、懐かしいわねえ
 京阪電車も、以前は、地面の上を
 走ってて。ほら、憶えてるでしょ
 橋の袂を通るたび、桜の花びらが)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


──もうどのくらい占星術に凝っているのかね?
(シェイクスピア『リア王』第一幕・第二場、大山俊一訳、罫線加筆)

(憶てるでしょ、ほら)


点滅する信号機!


さくら、


さくら、


点滅する信号機!


さくら、


さくら、


memories

  完備

大さじ、小さじ
とか、いう
概念、
知ったのは
二十六も
終わりにさしか
かった、頃、

私は、乱視が酷く
若年性の
白内障が
急に進行、云々、
で、
眼鏡も新調した

リップクリーム
と、目薬
筆箱に入れる癖、
学生時代から
治らず、
たぶん
二回くらい、
スティック糊と
キスした

いつでも、
いまでも、
持ち歩いて
いるよ、筆箱、
バインダーと
裏紙、

日に日に
空がしらんでいく
ような
気がしながら

スーツケース
いっぱいに
数学書と
ノート詰め込み、
ネットで
知り合った、他人
の、家を、
転々と
していた、頃、

他人の床に
落ちている、よく
分からない薬
の、余りを、よく
分からないまま、
飲んだりして
いた、頃、

半年前より
いくらか
しろっぽくなった
ひと、が、
笑っていて
早く手術しなよ
お金、出すからさ、
とか、
言われても
もうすこし、この
半年前より
いくらか、
しろっぽい
友達、を、
覚えて
おきたかった


Sylvie with the light brown hair

  深尾貞一郎

──目の前に
木製のドアがあります。
重いドアをゆっくり押すと、
そこにはレンガ造りの、
長い、長い、長い下りの階段が続いています。
ゆっくり、
呼吸をととのえ、
下り始めます。

長い、長い、長い下りの階段は薄暗く、
行く先は、はっきりしませんが、
足元は、しっかりと安定しています。

今いる場所が何階であるのかは分かりませんが、
気分は落ち着いています。
ゆっくり、
呼吸をととのえ、下り続けます。
疲れは感じず、
降りて行くほどに、自然に、なぜか素直な気持ちになっていきます。
降りて行っても、行く先は薄暗く、はっきりしませんが、
足元は、しっかりと安定しています。

そっと、壁に耳をあてると、
なぜか、川のせせらぎの音が聞こえてきました。
懐かしい、
ずっと前に行ったことのある川の、心地よい、せせらぎの音です。

――心地よいせせらぎの音は、気のせいだったのでしょうか。
また、
素直な気持ちで、
長い、長い、長い下りの階段を降りています。
だんだんと
景色が変わってきました。
黄色がかった電球色のひかりが、だんだんと眩しくなってきます。
よく知っている台所に着きました。

気分は、懐かしいような
幸せに包まれています。
グラスに水を注いでゆっくり飲み干します。
ゴクリ、
ゴクリ、
ゴクリ、と
ゆっくり。
とても美味しい水です。
薔薇の香りのような味がしました。

清々しい気持ちのまま、
長い、長い、長い下りの階段を降りています。
降りて行くほどに自然に、
ますます、清々しい気持ちになっていきます。
ゆっくり、呼吸をととのえ、下り続けます。
長い、長い、長い下りの階段は薄暗く、
行く先は、はっきりしませんが、
足元は、しっかりと安定しています。

今いる場所が何階であるのかは分かりませんが、気分は落ち着いています。
今いる場所が何階であるのかは分かりませんが、
ゆっくりと呼吸をととのえ、下り続けると、
薔薇の香りが身体じゅうに満ちてきます。

懐かしい夏の日、
川のせせらぎに、華奢な女の子がいます。
気分は、もどかしいような
幸せに包まれています。

――以下略


陽の埋葬

  田中宏輔



水裹(みづづつ)み、水籠(みごも)り、水隠(みがく)る、
──廃船の舳先。


舵取りも、水手(かこ)もゐない、
──月明(げつめい)に、


水潜(みくぐ)り過ぐるものがゐる。


新防人(にひさきもり)の亡き魂(たま)の
──その古声(ふるこゑ)に目が覚めて、


水潜(みくぐ)り過ぐるものがゐる。


呼び寄せらるる水屍骨(みづかばね)、


似せ絵のやうな
貌(かむばせ)。


──その貌(かむばせ)は、亡き新防人(にひさきもり)に、瓜二つだつた。


あなたが水の中を過ぎるとき、わたしはあなたと共におる。
(イザヤ書四三・二、日本聖書協会・口語訳)

わたし?


──わたしは、長夜(ちやうや)の闇に、夢を見てゐました。


さうして、


毎日毎日(マイヒニヒニ) この(コノ) 道を(ミツ) 通ひました(カヨタ)。
(『全国方言資料・第三巻/東海・北陸編』日本放送出版協会、歴史的仮名遣変換)

マイ ヒニ ヒニ コノ ミツ カヨタ


海胆も、海鼠も、


コノ ミツ カヨタ








剥がれてゆくものがある。


ひとりでに剥がれてゆくものがある。


──もう、それは、わたしぢやない。


、わたしだつた。


はぐれた鱗(いろこ)がひとつ、


龍門の下を、


潜つて、ゆ


、ゆき


まし






闇の静物史_1:贋物について

  鷹枕可

_I

血の通わぬ花嫁衣裳を摘む様に
その亡骸の名を教えてください
砂鉄色に滴る若草は
鉤の徽章を隠してしまうから
黒い薔薇に赤い窓縁
雲母の胎児
月曜日は
シャンデリアの群像孤独史
赤紙の降り頻る
西暦1945年の兄妹は駈け落ちて
地獄に逃れていきました

_II

皆既、蝕酸四輪街宣拡声器
モスクワに霰、
壊血病に斯く苦難の行軍は敗れたり
紙片婦が扁桃葉繁しくも葛藤し
有るまじき幾何装束が
猩猩緋を恃まんと慾す
起源、薔薇十字に
肉体は陰のアンドロギュヌスを随想し
屍蛾翼累累と
塹壕を埋葬隧に肖ゆ
恐慌実験、
争乱の慈母
光悦に溺る蜘蛛巣が玻璃窓の如く在り

銃傷、襤褸磔像に一筋の裂罅
マンドラゴラ
綺想集成編纂員を喚鳴し
標本室に永続過程たる降灰
純粋存在
闇の臍帯
ベスヴィオに死屍、
蹲り
静‐動植物を嘲嘲と蠱惑しつつ
野蒜、奥歯に挟まれるがごとき齟齬
虚実、馬鈴薯に人面蝶留まり
神経毒その眩暈を
夙に粛粛と捌けり

狂奔、根絶
自動焼却室
今際の今新たしき前衛戦争美術を掲揚し
零落国家瑞々しき死の咽喉を含み
悪徳の悉くを遷移甦生せるを
禍禍し、血胚孕む死屍
存在に価なかればこそそは価に価せざるも
佳し、
よもや頸筋に水棲聖霊亜綱の噛跡なきか


開拓村

  山人

 父は二十代前半にO地に入植。
三十三年に私が生まれ、開拓村で生まれたので隣人が拓也と名ずけたと聞く。
妹は五年後、自宅で産婆のもと生まれたのを記憶している。
 あまり幼いころは記憶に無いが、四歳くらいの頃私はマムシに噛まれたようだ。体が浮腫んでいる中、母の背中で祭りに連れて行ってもらった記憶がある。その後、その毒が原因なのかどうかわからないが半年の入院となった。病院は薄暗く、ただただ広く、いつまでも悪夢の中に出てきた負のイメージである。
 小学校は開拓村から四キロ下方にあり、朝六時半に開拓村の子供たち数人で出発し一時間掛けて歩いて通った。
文字通り、子供らばかりの通学は道草を食いながらであり、春にはスカンポ・ツツジの花・ウラジロウヨウラクの花弁などを食した。
当然帰りも歩くわけで、少しでも歩きの負担を減らそうと砕石工場のダンプカーの後ろを追いかけ、つかまって飛び乗ったりした。当時はすべて砂利道で急坂が多く、走るとダンプに乗れた。
 初夏には、おいしい果実が豊富だった。クワイチゴが一番糖度があったが、紫色の果汁で衣服を汚し、母に怒られていた。クワイチゴ>クマイチゴ>ナワシロイチゴ>イワナシと糖度が落ち、代わりに酸味が増した。
 今では考えられないが、昔は土木工事も盛んに行われ、女性も働き背中に大きな石を背負い働いたものである。安全管理もずさんで、土木工事のみならず林業の伐採でも多くの人が事故死したり重傷をうけた人もいたのである。
ひとりで帰り道を歩いていると、突然河原から発破が鳴り響き、私の周辺にリンゴ大の岩石がバラバラと降ってきたことがあった。運良く当たることがなかったからこうして生きている。
 冬はきちがいのように雪が降り、五〜六メートルはあたりまえに降った。そして今より寒かった。十二月初旬からすでに根雪となるため、私たち開拓部落の子供五人は小学校の近くの幼稚園と集会所と僻地診療所が兼用されている施設の二部屋を寮として提供されていた。そこに私達O地区とG地区の子供たちがそれぞれ一部屋づつに別れ入寮していた。
 クリスマスごろになると学校の先生がささやかなケーキなどを持ってきてくれた。初めてシュークリームを食べた時、こんなに美味いものがこの世にあったんだと思った。
 夜中の尿意が嫌だった。トイレは一階にあり、昔墓だったとされたところで、下はコンクリの冷ややかな場所だった。薄暗い白熱電球をそそくさと点け、パンツに残った尿を気にもせずダッシュで二階に駆け上がった。
 土曜の午後になると開拓村の父たちが迎えに来る。父達の踏み跡は広く、カンジキの無い私たちはそこを踏み抜くと深い深雪に潜ってしまう。長靴の中には幾度となく雪が入り、泣きながら家にたどり着いたのである。
たらいに湯を入れたものを母が準備し、そこに足を入れるのだが軽い凍傷で足が痛んだ。痛みが引くと父の獲ってきた兎汁を食らう。特によく煮込んだ頭部は美味で、頬肉や歯茎の肉、最後に食べるのが脳みそであった。
一週間に一度だけ、家族で過ごし、日曜日の午後には再び寮に戻った。天気が悪くなければ子供たちだけで雪道のトレースを辿り下山するのである。私たちが見えなくなるまで母は外に立っていた。
 
 開拓村は山地であり、孤立していたので子供の数は五人ほどだった。
父親がアル中で働けない家庭や、若くして一家の大黒柱が林業で大木の下敷きになった家庭もあった。
若かりし頃、夢を追い、頓挫し、まだその魂に熱を取り去ることもできなかった大人たちの夢の滓。それが私たちだった。
 初雪が降ると、飼っていた家畜があたりまえに殺された。豚の頭をハンマーでかち割り、昏倒させ、頭を鉞でもぐと血液が沸騰するように純白の雪の上にぶちまけられ、それを煮た。
寒い、凍るような雪の日に、山羊は断末魔の声を開拓村中響かせながら殺されていった。
傍若無人な荒ぶる父たちの悪魔のような所業、そして沸点を超え父たちは狂い水を飲んだ。

 良という三学年上の友達が居て、危険を栄養にするような子だった。橋の欄干わたり・砂防ダムの袖登り・急峻なゴルジュを登り八〇〇メートルの狭い水路トンネルを通ったこともあった。冬は屋根からバック中をしたりと、デンジャラスな少年期を過ごしていた。
私は良という不思議な年上の少年に常に魅せられていた。
良は父を林業で亡くし、おそらくであろう、生保を受けていた家庭だったのかもしれない。
母が初老の男と交わる様を、冷酷な目で冷笑していた時があった。
まるで良は、感情を失い、冷徹な機械のようでもあり、いつも機械油のようなにおいをばらまいていた。
良の目は美しかった。遠くというよりも魔界を見つめるような獅子の目をしていた。彼は野生から生まれた生き物ではないか、とさえ思った。
良は、いつもいなかった。良の母が投げつけるように「婆サん方へ行ったろヤ!」そういうと、私は山道を駆け抜けるように進み、しかし、やはり良はいなかった。
今現在、やはり良はこの世にはいない。それが当たり前すぎて笑えるほどの生き様ですらあった。


昭和四十七年にかつての開拓村はスキー場として生まれ変わった。
いくつかの経営者を経、一時は市営となり、今は再び得体のしれない民間業者が経営している。
寂れた、人影もまばらな山村奥のスキー場に、私は今日も従業員としてリフトの業務に出かける。
第二リフト乗り場付近に目をやると、杖を片手に持った父が、すでに物置と化した古い家屋に向かうところであった。


          
         ※


開拓村には鶏のおびただしい糞があった
すべての日々が敗戦の跡のように、打ちひしがれていた
父はただ力を鼓舞し、母は鬱積の言葉を濾過するでもなく
呪文のようにいたるところにぶちまけ
そこから芽吹いたアレチノギクは重々しく繁殖した
学校帰りの薄暗くなった杉林の鬱蒼と茂る首吊りの木の中を
ホトトギスがきちがいのように夜をけたたましく鳴き飛ぶ

オイルの臭いから生まれたリョウは
月の光に青白く頬をそめ薄ら笑いをしている
白く浮く肌、実母の肢体を蔑むでもなく冷たく笑う
リョウは婆サァん方へ行った・・・
いつもリョウは忽然と消え、ふいに冷淡な含み笑いをして現れる
頑なだったリョウ、そしてリョウは死んだ
夢と希望の排泄物がいたるところに散乱し
その鬱積を埋めるように男たちはただ刻んだ
そう、私たちは枯れた夢の子供

一夜の雨が多くの雪量を減らし、ムクドリが穏やかな春を舞う
空気は満たされ、新しい季節が来るのだと微動する
普通であること、それは日常の波がひとつひとつ静かにうねること
それに乗ってほしいと願う
血は切られなければならない
私達の滅びが、新しい血の道へ向けてのおくりものとなる


キャベツ君

  atsuchan69

空とぶセスナの 繰り返される女の声が
街中、凶暴にふりそそぐさなか、彼はいつものように
駅前のロータリーでキャベツを抱いて
 坐る。 踵をつぶした革のスニーカーを穿き、
深緑のトレーニングウエアと赤い柄の久留米半纏を羽織って
 「きゃ、きゃ、きゃべち。きゃべち 
と、呟いている

今どきの主婦といったら、スマホで誰かと話しながら
スキニージーンズと巻き髪のブロンドヘアー、
トートバッグのショルダーストラップを右手で弄り、
 「あっ、今、キャベツ君のまえを歩いてるとこ。と言う

彼はときおり、
その艶やかな薄緑の葉をむしり
お腹が空いたのか 
ちぎったやつを口に運ぶ

悪ガキがキャベツ君を囲むと
彼はとつぜん、咀嚼した緑色を吐き出して
 「ぎゃべつんぱぉ! 
と、ワケの判らないコトバを叫ぶ
 「怖えーゾ。こいつ 
悪ガキは一目散に退散する

かつて市長選挙の際、
現職の市長は、この場所で街頭演説を行なったが、
その傍らに 当然キャベツ君も坐っていた
市長は彼についてこう言っている、
 「不快ではないよ。危険なら処置も検討するが
 ――彼の行為はけして違法とは思えない。

たった今、
キャベツ君のとなりにギター弾きが坐った
その少し離れた場所では、
ゴスロリの少女が詩の朗読をはじめた

そして彼は相変わらず、
 「きゃべち。きゃべち と、呟いている


死体がみつかる

  宮永



そこに近づかないで
何も 隠してない よ
なのに、迷うことなく
やってくるの ね
その場所に

掴んだ手首をぐいとひかれる
腰を低くして後ずさる
理由なんかない
ただ 私は
そこに、行きたくない

分け入ってゆくしろい横顔
立ち尽くす顔はあおい
吸う息浅く
冷える指先
雨傘もなく
曇天に霹靂
裁かれるよりも
暴かれるまえに
ブルーシート広げて
身を投げ出してしまいたい

幾つもそこに埋めてきた
手つかずの教材や
水銀の、壊してしまった体温計
買い食いしたお菓子のカラ
拾ってきたクロネコ
みんな晒されてその度に
ダメな人間だと刻された

ときどき
死体がみつかる夢をみるんだ


自転車

  水漏 綾

この世界にじぶんが
在る、だけじゃどうしようもなく
さみしいってあなたは言う。

自転車は毎日漕がれるから、
疲労を積み重ねて少しずつ壊れていくね。
そういう風に在りたいって、
念うんだね、どうして、

漕いだ
右足が前に出て
残り半分、左足が前に出る
そのあわいを壊れる過程とした時
回転し続けた車輪が通った跡は
じごくの道になるわけです。

綺麗だな
と思うわけです。


Artery&Vein

  

電線を伝う眼の中に指を入れる
 受精した鉄塔は白髪のグラニュー糖
月に病む肺の外周を
 群青色に染められた疑問符たちが浮かび漂う
落ち葉がドアを塞いだ
 風がドアを撃ちたかったのに

発熱した林檎の芯にボルトを捩じ込んだとき
 ラズベリーの頬を鏡が撫でるだろう
  それでいて写し出された炎は汗を掻きながら
 夜よりも純白な渋滞を駆け抜けるだろう

4時間も息を吸っていた
 石化した果物は蜂蜜色の空を支えながら
栞の代わりにクラゲの指を挟めておいたおかげで
 本の文字はさめざめと濡れて重くなった
上品な拍手のように
 葉の付いた満月が後ろに重なると
僕は恐る恐る最初の足跡に合わせ
 鳴りどよめく棘を靴裏に刺していった

男性の声の雷鳴
 ノイズを受胎した蝸牛のぬめりが
どこまでも避雷針を遡っていく
妊娠した電球は
 臍の緒に繋がれ
  宙吊りにされて叫んだ

止まらないんだ
止められないんだ
取り止めがないんだ
実は地上を恐れすぎていたために
 自殺したガラスの破片が散らばっていたとしよう
僕の胴体は開かれた街の影だ
 絵本の世界のような蒼白い家並みが続くとしよう
  その深奥で自分の死を嘆き続ける
 氷漬けの蝶がいるとしよう

豚に咲いた火花のように
 吸い取られた鉛の樹木が羽根を広げる
しなやかな便器の産毛を数えながら
 鳥を飼い慣らした神父が病んでいる

ティースプーンに死を
 ガソリンの瞳の中に一滴恵んでくれ
  か弱い眼差しを吸収して綿帽子は貰い泣きしていた

星空がそこにある酸素を燃やしている
 ついに静脈と動脈が
  羽交い締めに巻きついた
   嘆かわしい十字架の真ん中に
  生卵を磔にしてやるだろう

火に接近する乳房が
 南風を撫でるだろう
  それも優しく
 ビタミンCが足りないだろうから


百年前の夜か、千年後の朝に、姉を殺す。

  泥棒



骨で突き刺す
赤い街
スカートを知らない姉に
春を見せて
売って、買って
四月に
カーディガンをかける
手放しで
ほめられ
ひきさかれ
冬が、終わる、
電車は、来ない、
来るのは、チンピラ、
憂鬱は、いつも、青で、表現され、消費され、
去年の憂鬱は、もう、笑われ、
価値が、繰り返され、また、来年に、
最新の憂鬱を、
売って、買って、
ばらまいて
骨で突き刺す
姉の心臓
青すぎた街に
カーディガンをきている人はなく
みんな、裸で、
けなされ、
うたっているのは、りんご
だまっているのは、れもん
いつか、また、血が、
トンネルを抜け、
そこには、ただの、今日が、ある
咲いているのは
花、
だけではない。
姉は
この街で、生まれ、飛んで、
超高層ビルに、
頭から、激突、して、
無傷で、育ち、
舌の、上で、百年、ころがした、
文学の、呪文を、間違って、唱え、
一度、死んだ。
朝、
その朝、あの朝、今、この朝。
お気に入りのスカートを、はいた、姉に、
かける、言葉は、箱に、入りきらない、
花柄に、複雑な、花言葉を、つけて、
単純な、さよなら。
レモン色に、統一、された、未来の、孤独が
遅れて来ては
爆、破、さ、れ、
鼓、膜、は、破、れ、
街に、さよなら、が、千年、響きわたれば
姉を殺す。


「猫」

  アラメルモ


小さな瓶の蓋を開ければ読める
レモンの香り
ラベンダーかミントで後始末する(するする)
どこにもトイレがないので大きな息を吐く
するするが、たまに気にはなる
山盛りになった餌と糞を見て
人形が膝を抱えて笑う/午前零時
階段の音に聞き耳を立てて辺りを見回している、母親
これは時間の擦れ、という腹違い
そこにネズミが現れたので箒を持って追いかけた、その
少し前、姉が始末書の匂いを引き連れて倶楽部活動から帰宅した
横向きで円くなる妹のあまがみ、根もとから噛み、誇示を示す髭から
藍の眼が向かう先、いつものように
うたた寝で父が手枕に落ち着けば
土曜日の夜を兄がまた犬と散歩に出かけた
義理を巻く、などと頼もしい時間は確実に帯を縮めてやってくる
滑らかな感触の復讐の色合い
予習を始める人々が血気に目覚めるときの準備だ
(わたし)居場所がないのでそろそろと二階へ上がる
暗くなれば人工呼吸器をつけた猫
ずるずると糸がほつれて
微かな息を吸う
絨毯の滲み襤褸の切れ端
片隅から、取り残された夢を見る


都市標本『現在形』

  鷹枕可

_I,刺繍

機械仕掛のゴチック文字に
凡ゆる均整
分水嶺に隔てて
顕ち
言葉とは言葉と言葉の言葉を
円環劇場に
統べながら統べられる
私自身の俳優であり
装置である
死者の綴れ織りに
紡績アラベスク
それら自明の縁堰に
建つ鋳鉄の時計に拠って
私を私たらしめる
矮小な
一つの機関を起源として


_II,成長

種の殻、
ひとを問え、
一粒の死であれ経験の過程であれ
蛍揺籠
文字の永続は
つまり
未誕生を
夢想創造し已まない
単性繁殖をこころみつづける
現象の夢を漕ぐ
幾多の花粉界であって
また、
安寧は植物時計の睡眠季に
存続、
その靴跡を
はつかに遺して、ゆけ


_III,東京裁判、或は政治家達の秘密の隧道、

プロパガンダの中で黒く美しい劇場は凡庸な平均的存在に燃えている
それは取り戻された蠍の心臓だった
それは死線の絶間無き蹂躙だった
薔薇色の喝采と高揚を受けて党歌は公衆の歌となった
孤絶が私を択んだ様に
あなたは黒い紛糾に択ばれたのだ、

_IV,――

私 絶鳴の闇
私 黎初の鳴鏑‐鏡
私 死に孵り
私 命に到らぬわたし視る釣鐘ひとみ一つきり
死の花‐黒い椿花婦
美しく皺嗄れた一束の婚礼衣類
散る散る散りながら耀いて 死せよ



*本文はtwitter掲載詩に加筆、訂正したものです。


進学や就職

  渡辺八畳@祝儀敷

愛郷心が無いわけじゃないけれど
でもどうなんだろう
考える暇も無いままに僕らは出ていく

二度とペンキが塗り替えられることの無い駅前は
剥げて掠れて読めない定休日がずっと並んでいる
読めないから定休日なのかもわからない
わからなかろうが、どうせ入る人はいない
知性と繁栄を昭和に置き忘れてきた
口が半開きな痴呆老人がひとり
蟻よりも遅く歩いている
静止画のような風景で横断歩道の信号が点滅する

地方には何も無い
地方にも昔は有った
県庁所在地でない市でも
白黒写真を見れば羨ましき活気が感じられ息苦しくなる
地方には何も無い
地方にもまだ何か有るのかもしれないが
僕らはもうそれを感じ取ることができない
鈍った触覚を集って揺らす
誰も声を出すことは無い
僕らたとえそれが張りぼてだろうが
目に見える「有る」に集まる蛾の本能
でなければ僕らに繁栄をください
人間は社会的動物です
せめて僕らに社会をください
本能のまま空虚に揺らすやせ細った触覚

生殺しにされる前に
僕らは地方を出ていく
僕らが出ていくことが
地方を惨く撲殺する
反逆者を祟る神は今じゃもう死にぞこない
僕らは強い意志も何も無いまま地方を出ていく


  水漏 綾

晴れの日に
いただいた花束を
逆さまに吊るして
ドライフラワーにする

すこしずつすこしずつ永遠を目指していく
花たちを眺めているのが
わたし、好きだな。
それを目指させたのはわたし
という小さな優越感と罪悪感も
雨の日だとそのスピードは
ゆるやかになることも

生きながらにして
静かな石になれないものか
水がじぶんを穿つのを拒むこともできない
ただの、しっとりとした石に。
そこにあるのは
誰に、なにも
与えたくないという
心淋しい孤独の願いがあるだけなのだ


朝、ホオジロは鳴いていた

  山人

父は固まりかけた膿を溶かし
排出するために発狂している
脳の中に落とし込まれた不穏な一滴が
とぐろを巻き、痛みをともない
いたたまれなくなると腫れ物ができる
透明で黙り込んだ液体を
父は胃に落とし込む
体の中に次々と落とし込まれる液体のそれぞれが
着火しエンジンを稼働させ
そのすさまじい熱量が怨念となってさらに引火し
いくつもの数えきれない父の仔虫が
いたるところに蠢きながら断末魔の声を発している
仔虫は幾千の数となって床を這いまわり
父の怒声から次々と生まれては死亡している
       ※
真冬、季節は発狂していた
冬という代名詞は失せ、無造作な温暖が徘徊していた
あたかもそれは衝動的な狂いではなく
ひたひたとあらゆる常識の礫が破壊され
あきらかに季節は発情を迎えていた
消沈した寒さは時々痛みを加えるが
その底に居座るのは穏やかな発狂であった
       ※
寝息が不快な音源となり
目が沙え眠れない夜
黒く闇は脳内に穿孔し
糜爛した傷口から生み出される不安
それらは正常なものから逸脱したやわらかな異常
狂いはしずしずと執り行われ
負の同志を増殖させ穏やかに発狂している
       ※
目指すは美しい発狂ではないのか
古い病院の鉄のにおいや
メチルアルコールのにおいではないだろう
リノニュームから逃れたところに田園はある
ところどころ雑草が生え、そこに
見たことのない美しい花が発狂しているではないか


グローバリズム孤児

  星野純平

僕たちの間に横たわる銀河のことだよ 夢ってなに?そうさ諦めの星雲の淵に薫る夕飯のこと 路地に煙る思い出のなかを手探りで帰る場所のこと 子供のままじゃできない 大人になれば叶えられる 大人ってずるい早く大人になりたい 君ならできる 善い大人になれる 子供は時の流れを堰き止めている 大人は船に乗って魚釣りをしている 星を釣りあげると流れ星が手紙を運んでくる 裏腹な気持ちで遠い空に眠る文字 子供は大人の先輩だってね ああ大人よりも先に生まれてくるからね
べったり張り付かないで信じない人のことは 犬に餌をあげるように愛して 誰にも期待なんかしない 昔の住所からやってきたんだね 遠いところだ 目に見えないところかもしれない 地図にすれば帰れるかい 君が生まれたところ 真っ暗闇をオブラートに包んだ道 そよぐ木々 たなびく草花の丘 死のような地平線 死んだことはあるの 死にたいの いや殺してほしい 風の刃先が首筋に触れる 聞こえてくる 耳なんか澄まさなくてもいい どうすることもできない花の眠りが胸に脈打ち溢れているから
ようやく生まれ変わったきたんだ そんなに焦る必要はない 言葉に腰掛けて君は息をとめて椅子のように黙って 誰かの嫉妬に見つかってはいけない 帰る場所が欲しければそのまま動かないで 夢にまでみたんだよね 流れ星だったけれどほんとうは今でも諦めきれないんだ 間違っているのは間違っていないことかもしれないね 君が歌えばみんな帰れるのかな どこに帰るんだい さっきからずっとその話をしているよ ほら見て空が明るくなってきた 君が歌ったから?ああ夢かもしれない


目次

  空丸ゆらぎ

そこは
中心もなく隅っこもなく
朝 まだ線路は冷たい
おにぎりは転がることなく 君を再構成する
はしゃぎすぎる街に雨が降る 傘で抵抗する人々 軒下は見当たらない
舗装された道 歪んだ横断歩道
ピアノの音色は黒と青 今も漂っている
左右には何もない 上下だけがある
頭上で人工衛星が回っている 道端の御地蔵様は傾いている
旅客機は点滅しながらどこかに飛んで行った
そこでは歯を磨き洗濯物を干すよう語り継がれる
遠くは今日も晴れているし、近くの結論は先送りされる 時代はじっとしていることができず
どこに下線を引くか 
5兆円も使って本物の玩具を手にし彼は普段着で笑っていた
静止した白黒写真はシツコク追いかけてくる
電源を切る
土が残る


雪 2019

  渡辺八畳@祝儀敷

マルボロ吸って白中の寺
眺めれば南無妙法蓮華経
蓮も杓子も雪に埋もれる
この世が全くの闇ならば
濡れ積もる御堂はさぞ映えるだろうけど
きょうは杉山も空も
そしてそれらの前で久遠にのびている道路も
すべてが輝反射しているので
御霊は消えていく
冷気だけが硬く立ち
灰もお経も沈殿している

されど手元がほのかあつくなりはじめたころ
斎場の壁の黒さに目がいく
今日は友引だ
四年前に曾祖母のなきがらを轟々燃やした炉も
まばら生える杉山の中で黙し踞る
この寒さの中でも木々は呼吸している
煙は見えないまま
マルボロも尽き果てた
明日も雪は残っているだろうから
明日も寺は白く眩しいだろう


蛙の交尾

  星野純平

こんなになぜ
あなたを欲しいのか
理由は聞かないでほしい
自分自身を理解できていないのだ
池に夜明けがやってくるとき
朝日があなたへ教えるだろう
独りよがりを好まない
優しさで狂気を恐れ
あなたのためだけに生き
いつもあなたに忠実な
体内に咲く肌の赤いカーネーション
子供のような産声で
愛情を込めて尋ねます
なぜ私を抱きしめないのか
くぁくぁくぁ


アナウンス

  拓馬

訳:お足元にお気を付けて戦争をなさってください

原文:The world will be peaceful soon


著:David・O・rebel
訳:薗頭拓馬


screen

  完備

きみがひらいてくれる
窓の
数センチうしろ
網戸に
あいている穴の縁
さわると
ぱら、ぱら、くずれて


はるはすべてを
平面化してしまう
まだ葉がない
大きな木のまわりに
名残るふゆへ
まじるみじかい繊維、


夕日に照らされた窓が
いちばん
まぶしい場所をさがした
かくれて。にかいめの
はる
ぼくたち、すこしずつ
快復してしまうね


いつも。あの人。向こう側にすわってる。

  屑張

いつも。あの人。向こう側にすわってる。ルノアールで、紙ナプキンが、エプロンにかかり、doorがひらいたら、きっと、紅茶が開いて

おちたの。泣きながら。亡骸。ひろいあつめてさ。服に埋めたの。泣き柄。某国のアリスは不思議ではない。のに、ついてるくるシーツの皺。シーチキンを卵に詰めたら。

いま、庭には、桜が咲いてます。だから、そう、いつもの、窓から、お団子頭の、扉。矢尻は床に転がって、血の着いた、線引きを孕んだ。あの人。は。どこでしょうか?

ルノアールが、烏龍茶を温めて、チンしたから、そして、生まれた、韻律、は空想より美しくて、服に埋めたら、宝石から、涙が、零れだした


火は鎮むにつれ饗宴になり

  屑張





*遅延した、夕方の車内で

田舎を横断するスカイライナー。カラカラカラ。白い風車が輪る、空耳を正確に打ち込む趣味へ没頭すると、町の先輩が正しい唇の使い方を教えてくれた。ぶ厚い骨の皮が剥がれて、食物繊維みたいな、感触の糸が見えたら、もう不思議な光は消えているね、人間は、いくつまで洋服に包まれていれば





*リン酸ガムシロップ

ほらほら。投げるためのブーケ。火は、再び開かれ、誰だかよくわからないほね。割れた光は、死化粧された、星空をあや取りする。白銀の東京タワー。建立して? まだ骨組みの金閣寺を放火するまで、自我を保ったわたし、を、もやしてしまったら、もう、どうしようもなくなってしまうの、

でも、

本当は、

あの中で、

何があったの?

ききたい?

...ええ、

おしえてあげない





*老人

ピアノ線は張り巡らされた
この大東京の空に

電線が消えていくのを
リアルタイムで見ていた
空襲警報
若者達は空を見上げる
スマートフォンは使えなくなった
ひたすら映写機を回して。
街を写す余裕はいくらでもあった
煤けたポロライドカメラを右手に。

老人は、
覚えたてのハーブを吸うことで牢屋に落とされた
いくつもの都市が
古い馬車の処理に困った末
貴重なガソリンを振りかけて
燃やしてしまった

不釣り合いな十字架の墓が並ぶ
荒川の河川敷に広がる
草野球グラウンド・ゼロ


土の下と上 〜何のことやら〜

  空丸ゆらぎ

土の下で眠っている人と土の上で起きている人の違いが分からなくなった
土の下はにぎやかだ 土の上は廃墟だ
わいわいがやがやが苦手な僕は 廃墟が好きなわけでもなく再開発も嫌いだ どこにいけばいいのか
廃墟でも再開発でもない 流れるままも退屈だ どこで自己決定するのか
いい加減ないい加減さ を探しているのだろうか どれでもないぼくが 
これを書いている
だから? ときみは土の下から寝言をぶつける
ぼくも寝よう 夢でもっとちゃんと君の言葉を聞いてみよう

 話を戻そう。

# 破壊と創造(改め「ぼくは並ばない しかし関係は重視する」)

 あいうえお
 かきくけこ
 さしすせそ
 たちつてと
 なに・・・・

# タイトルは その時その時 ・・・だった&だろう 「時代(タイトル)は変わるが作品本体は変わらない」でもいい





                                            。
    
# 特異点と思っていたが …「と書いた」ことで あの日の(眠らなかった)朝は着替えて戻ってくるだろうか


・・・・・・いると書いていると書いていると書いていると書いていると書いていると書いて・・・(広瀬正 参照)

 と書いた


# 70億人の連詩は?


ちょっと言ってみただけ? 同じこと考えていたでしょ! でも、ぼくにはできない。


# 的という曖昧な言葉が隙間を埋める


例えば、詩的な詩


# 詩の半分は読者がつくると誰かが言っていた。逆立ちして、どうなった? (のだろう。)   ええと、あと、詩の交換価値について





# 作品                  遠く、(と使命)

ぼくを作品と呼ぶ。呼びたい。自然を材料に …A!搭載製品(まだ肯定も否定もできないが)、もう少し日常的で本質的な用途に使っていただくために。(そのために朝は来ない)




 大昔、前衛的 というスタイルがあった。
 ああ、地響きが 土の下からの声は聞き取れない。 が、
  Dareka sokowo nanntoka(PC)


ラーメンと日本人

  atsuchan69

マイナス16℃のニューヨークで
外では行列が出来ている
超有名人のやって来る
そんなゴージャスな店の中で
お前は、すでに死んでいた

だらしなく延びきって、
下品な臭いのするスープの中で
トッピングの華やいだ飾りだけが
妙に和のテイストを感じさせるだけの
単なる見世物に成り下がってしまったお前が、
哀れにも茹ですぎて膨らんだ姿を
海苔だの半切りの煮卵だの
でっかいチャーシューだのに埋まって
ただ沈んだまま息絶えていた

それを静かに啜りながら、
はるばる日本からやってきた
身形のよい老紳士は
眉間にしわを寄せて言葉なく愁いていた
お前の死を悼み、
ツンと匂うスープを
メラニン樹脂の蓮華で掬い
悲しい目でしばらく見つめると
思い切ったように口に含んだ
その幾秒かの後に、
すっと、立ち上がりレジへと向かう

何がイケなかったのだろう
言葉とか文化とかだけではないような気がする

結局、
お前は逝っちまった
中国で生まれ、
戦後、日本が育てた
安くて美味しい、
あのキタナイ店のラーメン

がんこな親爺が妙なこだわりを一生涯通し、
秘伝のスープとかに心血を注いで
たかがラーメン一杯を、
「おう、どうだい」って顔で出してくれた

やって来る客という客はヤクザを除いて貧乏人ばかり
それでも親爺は自慢のラーメンを作りつづける

あのキタナイ店の
がんこな親爺の作ったラーメン
ニューヨークに店がなくてもよいし
行列もいらない
有名人が来なくてもよいし
べつに評判もいらない
ただ妙なこだわりだけは失くさないでほしい
ヤクザの親分だって親爺のこだわりには一目置いていた

いつかブームが去ったとき、
お前のDNAを引き継いだアメリカ人の若者が
RAMENと書かれた屋台をミッドタウンに出している
評判はというとそれほどでもないが
さっそく注文すると
極太麺にソーセージとレタス、が載っている
スープはまさかのBBQソース味
この摩訶不思議な一杯を、
「See? I did it!」って顔で出してくれる

うーん。BBQソース味‥‥
あ、でもどちらかといえば、やはり美味い
これ、メチャクチャ美味いよと言うと
 そうだろ
って白い歯を見せてうれしそうな顔で笑う

このラーメンの味、どこで習ったの? 
そう聞くと彼は胸を張り、
 この秘伝のスープはボクが独自で作ったんだと言う
日本に行ったことはあるの? 
 ないよ、
 でもじつをいえばこのスープの中には
 日本人の魂が入っているんだ

君は、誰か特別な日本人を知っているのかな? 
 もちろん、たくさんの日本人を知っているけど
たとえば誰? 
 そう、たとえば今では‥‥
 アメリカのほとんどの若者は日本人だろ

なんだって? とても信じられないけど
 漫画とか読んでいるのはみんな日本人なんだ
 ワンパンマンが大好きな連中も
 心の中はもう、すっかり日本人だと思うよ

もしかして君も日本人? 
 そうだよ、なぜ判らなかったの? 
じゃあ、このラーメンは「本物」だったんだね
 当然さ、
 この街で一度ラーメンは死んだけど
 今では不死鳥のように甦って
 たくさんの屋台があちこちで店を出しているよ
信じられない、ここは本当にニューヨーク? 
 メイビー。

さらに彼はこう言った――

 ここは、ボクたち日本人の街だ
 というか、今では世界中どの街も「日本」なんだぜ


strip trip !

  白犬

壊れるか ら

strip show

見えないとこまで 視て
見えないとこだから 視て

最後まで悲しい を
美しい音で
満たす一瞬に

残酷が 覗き視ても

あたしは脱ぎ捨てて って
存在のひらひら 最後になっても
もう 目を反らさない

醜い私を視て

君達のゲームを
私 は 裸足で踏みにじる

宇宙の上のベッド で 裸 で 煙草をふかす

血飛沫で綺麗に青い空

ねぇ、もっと視たい?
私は まだ、視たい よ

視たい な

君はまだ いたい?


冬の墓

  帆場 蔵人

枯れてゆく冬に名前はなく
キャベツ畑の片隅で枯れてゆく草花を
墓標にしても誰もみるものはいない

ただ今日一日を生き抜くことが
大切なんだと、うつむきがちに言う人に
ぼくは沈黙でこたえる、ただ春が来ると
ただ冬が終わったのだと、言うことはない

食卓に並ぶ皿に
ロールキャベツ
春だねと
呟いてもひとり
ただ今日一日を
生き抜くことだけが
大切なんだと
うつむきがちに
今日一日と噛みしめる

枯れてゆく冬に名前はなく
墓標は春に萌えでる草花にのまれて
畑ではキャベツの頭を仰け反らせ
そっ首に鎌を吸い込ませていく
そうして春もまた少しずつ
刈り取られていくのだ

文学極道

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