#目次

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2019年07月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


人面瘡。

  田中宏輔



 あさ、目が覚めたら、左手の甲の真ん中に、顔みたいなものができてて、じっと見てたら、そいつが目を開けて突然しゃべりだしたので、びっくりした。どうして、ぼくの手に現れたのって訊いたら、あんたがひととしゃべらないからだよって言った。いつまでいるのって訊いたら、ずっとだって言うから、それは困るよって返事すると、ふだんは目をつむって口も閉じておいてやるからって言った。きみともあんまりしゃべることないよと言うと、気にしない気にしないって言うから、ふうん、そうなんだって思った。でも、なんだか迷惑だなとも思った。


rec.

  白犬

私の肌の亀裂から漏れる花、しろ、あか、ぴんく、きいろ、あお 悲鳴をあげるギター 公務員のオナニー 路上を歩く羊頭 狗肉 渋谷 肺から吐き出される灰 プロジェクター でスクリーンに映し出される巨大な2つの肺 に 奔る雷光 猫の仮面を被らないと笑えない女 犬の性器を持つ男 24時の情事 れんびん じぇらしー? そこいぢ 腕にナイフで書いたあいらびゅ 言葉を持たない言葉で鳴く人達 感情の地下茎 メビウスのブレイン 白化した血 白痴化する街 いいぞもっとやれ 囚われのバグ が 何度もシステムエラー エラー エラー エラー 「私が幸福ならそれで良い」? 幸せだね。 四角い空 の 下 穢れた水を吸って咲いた花もどき 貴方もきっと私だわ 飴ちゃんあげる 青空を舞う鳩の群れ 公園の黒ラブ 真昼間のビール 風景職人の穏やかな午後 からの夜 は リアリティのダンス 酔っぱらいダンス 切断された歴史 煌くナイフ 藍色の双眸 くびすじの匂い どうか君を慈しめ(簡単にゆーわ) 歴史を凌辱する人 よ しどけないふしだら いつだって私の骨を持ち出して遊んでる しを以てして私を犯して。 それでしか私を壊せない よ? たぶんね

私の左目に咲くあなたという空想 私は想像する あなたの声 あなたのくび あなたの毛皮 あなたの性器 あなたの夜 あなたの光 あなたの翼 あなたの苦しみに似たなまなましい生の羽音のなまめかしさ
私は製造する あなたへのラブレター あなたへの怪文書 あなたへの死亡通知 あなたへの密告文 あなたへの抒情詩 あなたへの宣告 あなたへの歌

いつだって光のへりを歩いて来た 感応したい って願ってる 私を 脱いで 髪をドライヤーで乾かして 闇に 溶けながら 光 感応したi そんなにびびらないで 迷わず絶望して その先だってば ずっと見てる

まだ足りないデショ? 「君ってそんなもんじゃないデショ?」 まだ視えない ビジョンをrec.る


グレンチェックの太股

  atsuchan69

蜜を垂らしたグレンチェックの太股に群がるメタルボディの虫たちは「Ψ」の甲殻に暗い愛を孕んで、野蛮な大顎にまだ温みのあるバニラの薫る【Eggnog】を零したモザイク画の尖塔を咥え、スミレ色の格子のある柄の上をせわしく羽ばたきつづける格子の千鳥――もしくは、黒と赤のハウンドトゥース――が太股から一斉に飛び立つと、残された綾織りの無邪気に毛羽だった茂みに、機械虫「ζ」あるいは別の機械虫「π」の屍骸が横たわっているのがそれとなく判る。しかし虫たちは、太股の向こうにまた別の太股があって夜と昼の境に若い女の泣く声や笑う声がたくさん埋まっているのを微塵も悟ることはなかった。そして一匹の機械虫の屍骸は、千鳥たちの飛び立ってしまった格子の上では何ら自己の存在理由を知ることもなかったが、果たして虫たちは格子の上をやみくもに動きつづけ、今さら「Θ」であるグレンチェックで覆われた太股の性別が男なのか女なのかも全くどうでもよいことだった。ましてモザイク画の尖塔の隠喩などロックフェラー・センターに飾られたクリスマスツリーに比べたら一体どれほどみすぼらしいものだろうか。なだらかな砂丘を想わせる臀部の曲線に邪な想いを抱くこと、それ自体が生きていることの証なのだ。そして夜と昼の境に、どこの誰とも知れないグレンチェックの太股は、大勢の人と人の行き交うスクランブル交差点を足早に‥‥きっと誰よりも美しく、とびきり淫らに、グレンチェックの太股に群がる「Ψ」、「ζ」、「π」、また太股である「Θ」、「Θ´」とともに、宙に浮き、さも躍るように歩いていた。その歩みは、つよく、しなやかに、ただほんの少し‥‥危険な愛を孕んで。


translation

  山田はつき

以下は、xxx による xxx の xxx である。

入力:「ん、気づいた。私の見ている世界は私の頭が信じている世界なんだね。それでいて、光は大きく柔らかく、そしてあたたかいものなんだね。私はまだ何もなしえていないけれど。きっと、夏はもうすぐだよ。未来はさまざまな音を奏でているんだ。あるいは、その雲のように悠々と広がっているんだ。そうだ、今日の夕食はオムレツにしよう。」

出力:「ん、気づいた。網膜は一つのカルティズムなんだね。それでいて、光はアーモンドの双対として温度を孕んでいるんだね。己が理想はいずれの具現を描写することも失敗している。きっと、シケイダは間近で見ているよ。明後日のアラートはさんかくしかく、のこぎりかんな。或いは、モーニング・グローリーそのものだ。そうだ、今日の夕食はオムレツにしよう。」


ガラケー

  山人

半覚醒状態で掛布団の下でうずくまる
地球外生命体の逃亡者のような私は
テレビの声だけ聴きながら丸く横たわっている
いっとき、毒水は体を掛けめぐり
麻薬のように高揚したかと思ったが
今は、毒々しい血液を運ぶために
鼓動はうるさく高鳴っている

きっと生まれた星は何処かにあって
こんな 
夜の雨が似合う天体なんかじゃなかったはずだと
うっすらと眼を開けてみる

はるか何光年の前に
たしかにルーツがあって
それが光となって到達し
芽吹いた命
旅を重ねていたころの記憶はないが
たしかにどこかの宇宙から来たのだ

記号のような名をずっとつけられて
こんなに加齢した体を押し付けられて
夜の雨音を聞いている

妻のような人が
部屋の電灯を消した
ずっとよその星の人と
思っていたに違いないのに

黒くくすんだ布団の中で
携帯のふたを開けて
遠い星からの
伝達がなかっただろうかと
やはりうるさく響く夜の雨音を聞いていた


「隊列」

  右左

  1.
駅を降りる。駅はひとでごった返している。駅前も。

  2.
建物と建物のあいだをいくつもすり抜けていく。黒猫がにらんでくる。からすの声が降ってくる。やけに汚い水たまりがあったりもする。それらの脇をいくつもいくつもすり抜ける。

  3.
視界が急に開け、青空がまぶしくなる。そこは草原のような広場である。陳腐な想像力で描き起こした楽園のような。鳥のやさしい囀りが聞こえてきてもよさそうだ(でも、実際は、そんなことはなかった)。

  4.
さくさくと足音を立てつつちょっと進むと、もうこれまでの道が見えなくなる。草っぱらに取り囲まれている。

  5.
いや、だいぶ向こうに建物があった。そこへ近づいていく人影もうっすらあった。年齢や性別までは見て取れない。仮にA氏と呼ぶことにする。

  6.
建物の入口に誰かいる。警備員? 門番? 後者のほうがしっくりくる感じ。A氏が声をかける。
A氏「やあ、どうも……」
門番「……」
A氏「お願いがあるんですがね……ちょっと中で休ませてくれませんか?……くたびれきっちまってね……へとへとなんです……いますぐにでも眠りたいくらい……でも、眠りはしませんよ……すこし座らせてもらうだけでいいんです……それで、ねえ、あんたも味わったことあるでしょう……膝裏にしこりができたみたいな足の疲れ……これが落ちついたら、すぐにでも出ていきますよ……約束します……ね、お願いです……中に入れちゃくれませんかね……?」
門番「番号を言え!」
A氏「なんです……?」
門番「番号を言え!」
A氏「なんの……?」
門番の打撃! 一撃でA氏が倒れたその直後、建物からぞろぞろと門番の仲間たちが現れ、暴力がはじまる。激しい打擲。うめき声も聞こえない。

  7.
仲間たちが帰っていき、門番はもとの位置にもどる。A氏は動かない。空間がしーんとする。

  8.
一体のマネキンが歩いてきた。首や各関節を激しく揺らしながら。肘から先はいつ外れてもおかしくないように見える。膝から下も。しかし壊れない。そして門番の前に立つ。

  9.
また一体。また一体。ぽつぽつと現れていたのが、やがて引きも切らずに来るようになる。人形独特の硬質の音がうるさい。
到着順に彼らは整列する。長蛇の列。

  10.
門番の大声。号令か? 声が大きすぎて、かえって何を言っているか聞き取れない。

  11.
また仲間たちが出てきた。彼らもまた聞き取れない大声を出す。そして中へ戻っていく。

  12.
門番が背を向けて中に入ると、マネキンたちもそれに従った。長い長い入場時間。

  13.
誰もいなくなる。A氏は? たぶん粉々になってしまったのだ。

  14.
建物の中には、映画の試写会場めいた空間があった。幅も奥行もしっかりある壇上。奥にスクリーン。

  15.
マネキンが座席につく。席をまちがえたマネキンは、即座に門番たちによって破壊される。

  16.
場がすっかり落ちつき、門番たちが部屋を出る。

  17.
ややあって、溶暗。

  18.
呼吸音もないまま、数十分が経過。

  19.
スクリーンに荒廃した村が映し出される。映像は固定で、村のいろいろな様子を見せてくれるわけではなかった。村は、家が屋根から崩れ落ち、火災のあとのようなくすぶりがあり、人間のにおいが消えていた。映像が古いのか、画面が急に途切れたり、甲高い奇妙な音が聞こえてきたりする。

  20.
そのまま数十分が経過。

  21.
天井からノイズ。スピーカーがあるのかもしれない? このノイズは、23の場面の終わりまで鳴りつづける。
壇上の端に、黒装束の集団が現れる。彼らはのっそりとした動きで舞台中央へ向かう。23の場面が終わるちょうどそのとき中央に着き、一斉にしゃがみこむ。

  22.
映像が切り替わる。軍隊の行進の、その足元だけに焦点を当てた映像。規律正しい脚の動き、軍靴の大きな響き。この足音は、24の場面終了まで、だんだんとボリュームを上げていく。最終的には、24の場面における声よりも、こちらの足音のほうが大きくなる。25の場面に移る瞬間に、音も映像も途切れる。

  23.
21のノイズが少しずつ整って、完全に静まったあと、声。

  24.
《ぼくらはすっかり疲れてしまいました。ぼくらはここを最後と気持ちを固めました。彼らから逃げきることはあきらめたのです。彼らは「隊列」と呼ばれています。彼らを止めようとしても無駄です。どれだけの村が、彼らの行進によって破壊されてきたことでしょう。村だけではありません。森の樹々がなぎたおされたこともありました。濁流を越えてきたこともありました。彼らは、いかなる障害物を前にしても、けっしてその行進を止めはしないのです。いちど「隊列」の進路に入ってしまった時点で、ぼくたちは故郷を捨てるしかありません。そしてそのときがきました。その日は、なにげない晴天で、ぼくらも穏やかな時間を過ごしていました。ふと空を見ると、隣村の方角から、異常な煙がたちのぼっていました。すぐに物見櫓へ駆けあがり、確認すると、やはり「隊列」でした。彼らの行進の、膝が、爪先が、足裏が、足音が、人工物も自然も押しつぶし、隣村がみるみる崩壊していきます。ぼくらは急いで逃げる準備をはじめました。ぼくらの村と隣村とは直線上にあったのです。仕度を終えた者から、とにかく散り散りに走っていきました。ところが、ある一人が、絶望的な声で言いました。どうあがいたって逃げおおせることはできない。きみたちにも見えるはずだ。いったいあれは何列あるんだろう! 彼の言うとおりでした。隣村の方角を見ると、視界いっぱいが「隊列」の影で覆われているのでした。これでは、先に逃げたみんなも、近いうちに追いつかれ、踏みつぶされてしまうことでしょう。ぼくは言いました。上に逃げるんだ! 可能なかぎり空に近いところへ! ぼくらは左右を適当に選んでとにかく走り続けました。「隊列」の作りからいって、中央よりは端のほうがまだしも手薄に思えたからです。ひたすらに走りました。ずっとずっと走りました。そうしていかにも高そうな山を見つけ、ここを登ろうと決めました。体力も限界に達していました。すこし勾配があるだけで足元がおぼつかなくなるほどでした。それでも、なんとか頂上付近までたどりつき、崖から下を見おろした瞬間の、あの虚無にも似た感情。ここは、まだまだぜんぜん、「隊列」の端ではなかったのです。そして、「隊列」の先頭集団は、すでにふもとまできています。じきに、彼らの振りあげる脚が、この山を根っこから崩しはじめるでしょう。ぼくらは落下し、それで即死するか、もしくは生きていたとして、彼らに無残に踏まれて終わりとなるでしょう。ぼくらはもうあきらめました。最後に、この疲労困憊の身体を、ゆっくりと休ませてください……》

  25.
部屋の扉がとつぜん開く! 門番のひとりが倒れかかってきたのだ! 門番はそのまま動かない!

  26.
門番たちの内紛! 殴り合い! マネキンも巻き添えになって壊れていく! しかし壇上に被害はない。黒装束たちはじっとしたままである。

  27.
全員が倒れ、部屋は静かになる。開け放たれた扉から、外の光が入ってきている。

  28.
黒装束たちが、またしてものそのそ歩きだし、外に出る。

  29.
建物の外に、新しい門番隊がいる。黒装束たちはたちまち拘束されてしまう。

  30.
門番隊と黒装束たちが建物を離れてどこかへ去っていく。夕焼で、彼らは動く影としか見えない。


花譜

  鈴木歯車

呼吸器のような花びらが
白い風に静かに揺れている
しかし 遠ざかるぼくの歩調とは
どこまでもすれ違ってしまう

曇り空へ巻き上がって しだいに
同化するレジ袋に
なぜかぼくはちょっと 憧れつつ
飲みかけの冷たい缶や
燃えていくタバコを とうとう
路上に捨て去ることはできない

午後から100%の ぬるい大雨なのに
ゆっくりと回転していることは
切り傷が目印だから分かる

色の薄い少女が
感情を川に流していく
それは敬虔なひとの祈りとよく似ていて
泥まみれのサンダルを 
ちょっと揺らしていた

彼女は歌っていた
くるくると踊りながら 徐々に
りんかくはフェードアウトしていく
完全な消失のあとに残ったのは
ただの花の香りだけであった

重い夜が止んだ頃
みずからが手放した懐かしさで
渇いていた目の奥がやけに
うつくしく苦しんでいた


消しゴムと靴下

  宮永


靴下であるいている
のを、担任の先生にばったり会って
危ないから靴を履くように諭された。
靴、履くことができないんです
きっとこれは私が私に課した罰だから
どうしても、履けなかった。
ちゃんと家へ帰るから、
明日、説明しますから、
必死な私を
黙って行かせてくれた
担任の先生は信頼できる人です。
今日は朝から早退しちゃったけれど
明日はきちんと学校に行って
長い話を聞いてもらう
話すことは私を楽にするだろうし
そうしたら先生も安心できる
今はただ早く家に帰って
眠りたい

T君の家にクラスの大勢で集まって
T君は私にゲームで負けて
大事にしていた(父親からもらった)筋肉マン消しゴムを
しぶしぶ、でも、笑いながら、
私に差し出さなければならなかった
ただの遊び
次の日、そう、私が早退した朝、
カバンに入ったままになっていたその消しゴムを
教室の後ろのゴミ箱へ放り込んだのを
見ていたN子が非難顔して言った
「T君の大切なものだったのに、
捨てるなんて酷くない?」

きつい言葉を放つとN子はそっぽを向いたけれど
私の怒りはだんだん積って
爆発寸前まで膨れ上がって
N子の頬を何度もなぐりつけるとか
階段から机を投げ落とすとか
そんなことをしないと収まらなくなりそうで
そうなるよりは逃げ出すことにした。
人気のない玄関で内履きを脱いで
スニーカーを履こうとしたら、どうしても
足を入れられないことに気がついて
スニーカーを右手にぶら下げて
靴下のまま歩き出した
きっとこれは罪悪感の
せいだから
靴下のまま
帰っても
仕方ない

思うでしょう?
先生


波の抜け殻

  あおばかげ

いちめんに
波の抜け殻が横たわっていて
かつて海だった腹が
おもむろに開かれた国道は
やっと生き者だけが通れる狭さ

手をたずさえて
歴史になっていく景色を
松屋を食べに歩いた
信号機は赤を嫌って
そのうち植物のようになって
私たちを影の下に置き
何のサインも持たずに待たせる
こともできるようになる

鏡の光沢によって
私の薄暗い顔は歪むので
前髪がそよぐたびに
居心地の悪い汗がよぎる
こめかみに誘われた蚊に
耳元で囁かれることに慣れた頃
血を吸われた項に
意識をとられて

大きくなって
飛べなくなくなった生き者のために
大空になった席をいくつも
あたためておきたい
いつか海のなくなった日の
詳しい地図に載るように

彼女は道を通るため
生き者になった
積もり積もった不運の上に
咲き初めた何かの因果も
甘く熟れて食べられるまで
意味を持たない
と言って両目を撫でるように
まばたきをしたあと

青く光っている小さな空の無数の重なり
の中で一つの地層に過ぎなかった
私たち
の捨てた
紙や油にもいつか
たくさんの流れがしみ込んで
地表への水路となり川となり
あたらしい波の成育を待ち望んだ
幼い海の藻屑となる


  黒羽 黎斗

並び立つ山は山なんかではない
(雷光の刹那の逆転)
吹き下ろされた風は山のせいではない
(省略されるべき引力の定型文)
半径の整わない火山は己の業
(小走りになった少年、私は青年)
極地に吹き荒れる風は偶然に寒い
海溝に潜んでいたものを取り上げる時
魚の内蔵は食べてしまい、
魚の骨は空に振り撒かれ、
クジラの肉ばかりが細切れの弾力になっていく
サンゴ礁の気まぐれな声が歯を擦る
鼻に抜けるのは鹿の血の臭いだったりする

胸骨の内側で太陽が裏返しになって
二の腕の内側で朧な天体が嘆息の中で爆裂する
口を通過するのは太陽と、第二の太陽の体温

電線が絡まり絡まって生まれた金属の圧縮と伸縮の均衡
中心を持たない軌道に持たされた平均の糸
いずれ絡まってしまう水面からほど遠い圧力の中で
分断を恐れるから生まれた不可視の毬
水はその中を通って水流を留めることを忘れていく
毬を解き、毬を固め、毬になる水流が生まれてしまう
(太陽を知らない、山を模したりなんかしない)
(太陽は潜む、山はモチーフにならないまま補う一助となる)

金が必要である。金が棺を作る。金が反射されている。

細い細い糸を経由してしまうのは面倒だから産道を通ろう
なぜか右に行った後、なぜか少しだけ左に行って、急に空間を持つのだ。
みんな怠惰なのだから、それだから一本道を通るのだ。

目の前に肉がある。鳥が墜ちた。
目の前に肉がある。跳ね上げられた飛沫の一粒だった。
目の前に肉がある。整列された誰かの行動、一端の中
目の前に肉がある。右腕がそこにある。

僕たちは千切れようとしている。
私たちは繋ぎとめようとする。
僕たちは詩を書きたくなんかない。
私たちは詩を書かなければならない。
僕たちは嫌われたことが美徳であるのさ。
私たちは彼らに好まれていなければならない。
僕たちは座り込んで考えねばならない。
私たちは走りながら自分の胸を刺さねばならない。

緊張なんて、毬の中で、跳ねるから生まれる、金魚の糞の、それのよう
景観が生まれている。事実は嫌われていると、ほろり、と、放り投げられていた。

張力は強い。強いけど、弱く弱くあり得るから、強く強く、緊張していれた。
目の前に、肉が、ある。
口の中に肉がある。
先端の緊張、推進力、衰退されない、肉、
歯は引っかかって、肺に、螺旋.

空が回るには、絡繰りの軋轢の中で、近似値の受容、への、嫌悪で
左腕の皮膚を喩えないといけない。

絡繰りの、空回りは、起きない。


Satellites

  アルフ・O



 
デブリを撒き散らしては
枯れて芽吹いてを繰り返す
そんな生物なんだろう
(いっつも思う事だけどさ、
 「食う」って表現、
 あれ食われてるのはこっち側だよね、)

明滅するんだ
脳の奥底の星が
何をもたらす訳でもなく
理性の壁を引っ掻いて
中も外も汚していくんだ
思考は沼に沈んで
嘘ばかり吐かれ続けるから
気持ちよくなんてない
醒めた時はいつだって飢えてるよ
だからって許してなんて言えないけど

デブリを撒き散らしては
死んで産まれてを繰り返す
僕らは
そんな生物なんだろう
(見つけないでね
 二度と死ねなくなるから




*As the answer to the wandering dark star.
 


萌蘖

  水漏綾

布団に入って
眠るまでの準備
歯磨き粉が
無くなったことに
わたしは
今さっきまで
気づけなかった

わたしね、きっと、
あなたをやわらかく喪失した。
そのことによって
過去は綾をなし
二人静を芽吹かせる

萌蘖は
枕に頭が沈むこと
深けにはまり
抜け出せなくなること
そしてやっと
夜が始まるということ


そらの椅子

  帆場蔵人

その椅子はどこにあるのですか?

木製のベンチに根ざしたみたいな
ひょろ長い老人にたずねると
そら、にとぽつり言葉を置いて
眼球をぐるり、と回して黙りこむ

そら、空、いや宇宙だろうか
その椅子に誰が座るのだろう
とても永いあいだ空だという

その椅子に、誰が座るのだろう
あまりにも晴れ渡る空を眺めて
様々な言葉をその椅子に座らせてみたが
雲という雲が流れてきてすっかりそれを
隠してしまうのだ

その椅子にいったい
誰が座っていたというのだろう

ひょろ長い老人の微笑む皺のなか
その誰かがひょい、と顔をだしはしないか
老人の愛した誰かだろうか?
あるいは憎んだ誰かだろうか?

それとも、それとも、それとも……

話してないことも話したことも
あの皺には刻まれているだろう

その数だけ椅子があらゆる形や大きさ
重さでふわふわと漂っていて、やがて
そこにはぼくもひょろ長い老人もいて

椅子は椅子としてあらゆるものを
受け入れながら雲のように形を変えて
皆んな誰かの記憶のなか

そらの椅子に腰かけ漂っている


Water

  


犬が吠える
 月だって吠え返したいだろう
  孤独はお互い様

誘蛾灯の巣が泳ぐ
 薔薇の棘さえ何かを待つようだ
緑色の空が淋しさを失ってしまう前に
 街燈に口をあてがって中身の光を飲み込んでいる
シャボン玉の中へと飛び込んだ銃弾をこよなく愛でるとき
手で持った蛹に刃を時計回りに滑り込ませるとき
 天井に吊るしておいた風船が優しく灯るだろう
  花は花びらを全部毟り取られるだろう

折れた釘の前で白い花が頭を垂れている
 外側からゆっくり溶かされていった白い花が……

塩漬けのベッドに染みついた糞尿の匂いに誘われて
濡れた腕を懸命によじ登っていく数万匹のナメクジを
 静かなバニラの両耳が受け入れていく
  その後頭部から逃げ出すように湧き出した蟻の群れ
神聖な陽射しが薔薇の襞から小さな震えを掻き出している
 有刺鉄線が身をくねらせながら路面に沈み込んでいく
信号待ちの群衆たちは青い砂漠へ飛び込む用意をして死んでいるのに立っている
鳥かごの中にはいつも羽毛があった

この便器は今何が飲みたいのだろうか?
血が欲しい
そして僕は、便器の内側に流れ出した血の渦を眺めていたのだ
もちろんこの血は僕のものではない
タンクに手を当てると敏感な心臓の音を感じる
脈打ち続ける排水管の奥にも太い血管と繋がっていたのだ

誰が放火を命じたのか?
舌をも溶かすような熱い叫びは炎
言葉の飛び火が尻に付いて
慌てて走り出す裸の王様
ガソリンを溜めた噴水へ一直線だ
 火にくべたガラスの小鳥も滑らかに羽ばたいて
 点灯した街燈も苦しがって頭突きを繰り返している
 それを見ている群衆の目は楽しげだ

月が吠える
 犬だって吠え返したいだろう
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死なせておくれ

 死なせてあげよう
澄み切った銃声で蜘蛛の巣の細糸が鋼になり
 そこに飛び込んだ一つのシャボン玉が無限に増え続ける


空に降る

  玄こう

空に降る
あの雨が
ただよい、
消え失せる

いくつかの
あの雨が
ほんのり
この地に
辿り着く

くきやかな
脚の細い
黒い爪先、
足元を光らせ
コンパスで
、描く円


白い毛。

  田中宏輔



 あさ、目が覚めたら、左手の甲の真ん中に、白い毛が一本生えてて、定規で計ったら3センチくらいあって、手をゆらゆら揺らしたら、毛もゆらゆら揺れたので、これはおもしろいと思って、剃らないことにした。


さみしさ

  水漏綾

爪をぱちりぱちりと
切っていく
わたしから離れていった
物としてのかけらたち

常温の嫌悪感と
それに連なる
心地よい孤独感

あくまでそれは
旅立つもので
歩めばきっと
わたしの後を
嬉しく追うだろう

三日月の形をしていた、
ひとつ、ひとつの、
さみしさは。
未熟からなるものだと
わたしは信じない


ロストバイブルウォーク

  

スーパーで買い物をしたら、
レジで清算をして購入した商品をスーパーの買い物カゴから、
レジ袋や自分のエコバッグに移し入れます。
そして空っぽになったスーパーの買い物カゴは指定の場所に返します。
使い終わった空っぽのスーパーの買い物カゴは元の場所に戻さないと、
混み合ってる時なんかほんとうにそれ邪魔なんです。
スーパーの買い物カゴは、使い終わったら元の場所に返す!
これモラルなんですか?
昨日、私の隣のおじさんが空っぽになった買い物カゴを元の場所に返さずに、
台の上に置いたまま立ち去りました。
私はそのときおじさんに注意しようなんて微塵も思わなかった。
おじさんが残したカゴと私が使い終えたカゴを重ねて一緒に元の場所に返しました。
それについて何の抵抗も感じませんでした。
どうしてか?なぜ一言、注意しなかったのか?
それはめんどくさかったからではありません。
他人の間違いを指摘してもそこに自分の正当性は存在しないと思ったからです。
他人の間違いを指摘する時代にもう終焉を感じるからです。
正解でも間違いでもこれらは実態のないひとつの幻想だからです。
ならば、人、ひとりひとりの考え方の違いを、
それだけを大切しなければならないのではないでしょうか。
それがたとえ僅かな違いであっても見捨てずに拾い上げたい。
そして私があなたの思いの熱に触れたとき、
静かに目を閉じて、あなたと私の手のひらに宿る温度差を感じたい。
手と手を繋いだ温もりのなかに生じた互いの孤独がひとつなったとき、
認識しましょう。
それを引き裂くような、隔てるという力はもうどこにも存在できなくなるということを。
私達を長年縛り付けてきた、
過去の自由からいちど逸脱しましょう。
多くの知識と名誉を抱える人は常に怯えているのです。
ここに限って、言葉の使い方のルールの中でしか生きられない、
そんな怯える人に詩の選評なんかできない。
なぜなら自分の正当性のために詩を読むことは日増しに酷になってゆくからです。
なぜなら正当な上を走る面白さには詩の言葉としての意味がないからです。
私は彼らの頑張りを、ごくあたりまえの、
生まれて死ぬというエネルギーとして賞賛するでしょう。
いずれAIにフルボッコにされるあなたたちのために。


眠りの季節

  アルフ・O

 
 
 
君たちは知らないだろうけれど
眠りの季節というものは確かに存在する

絶え間なく毒矢を浴びてきたその在り様
そこに内側から矛盾が生じる頃
そんな時に顔を出す
ぐうの音も出ないほどに鋒(きっさき)を叩きのめすべく
意識の裏側に張り付いている

そして
これから先 逃げ道は余計に複雑になる

君たちは知らないだろうけれど
眠りの季節は存在する
必ずくるよ だから
探しておいで 時の止め方を
 
 
 


告白はまだ終わらない

  田中恭平

 
わたしは今まで
自分の為に
詩を
書いてきた
赦されはしないが
癒される為に
ジャック・ケルアックだって
路上を書く前に
父を亡くしていたと
映画で暴露
されていた
発露
己は汚らしいが
文字はうつくしい
ということに
わたしは気づいた
そして躊躇した
どれだけ日々
労働し
マインドフルネス
瞑想を行い
こころを
きれいにしようと
つとめても
人は
文字のように
言葉のように
うつくしくなれない
こころが
先天的に
うつくしい
という方はいる
わたしのパートナーがそうだ
彼女はまるで花
活き活きと雨に濡れ香る花
それに比べて
わたしは造花に過ぎない
だから書くことがやめられないんだろう
告白

やめられないんだろう
偽装だ
言葉を費やすことは
いま
非常につかれていて
禁煙も解禁したり
禁煙したりを
くりかえし
言葉も
書いては消し
書いては消し

くりかえし
ミザリー
どんな朝が
好きなのか
も忘れてしまって
好きな朝が
きたところで
もっと
好きな朝が
あることを
経験したことが
ないのかも知れないし
煙草をはじめたのだって
ほんとうはマリファナがしたかったが
日本では合法ではなかったから

過ぎない
なぜって
ボブ・ディランや
ビートルズのメンバーも
マリファナをやっていたからね
中学2年で
わたしはロック青年だった
わたしの書くこと
いうことは
誰にも理解されなかったし
いつも孤独だった
ザ・ブルーハーツは
知らなかった
リンダ・リンダは
知っていたが
パンクスが僕という主語を使う
それだけでやっぱり違うな
本物っていうものがあるんだと
どこか思っていた
そうだ
天才は世に出たからず
というが
本物があるんだ
その本物の発露
その一抹も
つかめないままに
32歳になってしまった
脳は
薬と珈琲でコントロールするように
なってしまって
あゝ
あと瞑想か
労働もそうか
ともかくも
こんなことをしていて
いいのだろうかと
金だけは貯めて
パートナーと
週一のデートを楽しんでいる
ここまで
わたしはごく簡単に
告白程度にとどめて
比喩もそうそう使わずに
ここまで書いてきたけれど
比喩は
どこかわからない世界に
ひとを置いてきぼりにする
そんなさびしい行為を
さいきんは
恥じるようになっている

とにかくわたしは
作品の上では饒舌で
生活の上では一切喋らない
見たもの
聞いたもの
ふれたもの
それらを作品の上では吐き出せるが
ドライ・アイスを素手で運ぶとき
炎症を起こす!
なんて
騒いで運んだりはしないで
ただ走る
汗をかいて
恥をかいて
月10万円くらい
ここに障がい者年金が加算されて
月16万
御金を受けとると
ひとの脳内ではドーパミンが発生すると
仮説されているが
ならば貧乏人が煙草をよく喫うのは
報酬の額によってドーパミンの
発生に差があると考えられる
貧乏人は足らないドーパミンを
補わなければならない
煙草で
酒で
いったいこのひとは
何をしているんだろう?
そんな人が
この町にも数人いる
彼らの生活ルーティンは強固で
会おうとすれば明日にでも会える
そして半分は
わたしはそういう人種なんである
毎週火曜日
この町の図書館に行けば
必ずわたしに会える
水曜日は郵便局
木曜日は本屋
金曜日はスーパーマーケット
わたしはそこにいる
土日はわからない
わたしと
まったく違う人種である
パートナーと
電車に乗って
どこかに行っているからである
といって車内
わたしはリチャード・ブローティガンの
短篇を何度も読みかえしている
この本なしでは電車に乗らない
わたしは移動しつつ
本の上にいて
動かないのだ

話がつまらなくなったところで
わたしは昔のことを語ろうと思う
東京での生活だ
わたしは東京からの逃亡者だ
切符の買い間違いで
改札のバーをキックして
それから乗り越えたことがある

なぜ昔のことを書くのか?

それは東京が広大だからだ
敷地ではない
記憶だ
清算しても
清算しても
悪夢のようにふりそそぐ東京の記憶
東京から帰って
わたしは精神科に送られた
東京が狂人を生産しているのではない
いや、そういう側面もある
でもそれとは違って
わたしの脳の病気は先天的脆弱性
つまりフラジャリティ・マン

あることに起因する(らしい)
東京の公園でよく野宿した
芝生の上で寝るのだ
ハイ・クラス・タウンの灯りが
とおくで煌めいていた
三時、四時になると
ジョガーや、太極拳をするグループが
公園にやってきて目覚めるのだ
寒さと陰気をごまかす為に
わたしはあらかじめコンビニエンスストアで
トリス・ウィスキーの小瓶を買っていた
トリス・ウィスキーが体をあたため
落ち着かせるにいちばん手っ取り早く
安かった
こつじきと間違えられて
御金を受けとったこともある
千円貰えた
なぜ野宿していたかというと
アパートの鍵をいつもどこかで
紛失してしまうからだった
当時のパートナーは朝にならなければ
帰らない
鍵は失くす
いまは失くさない
脳が呆けていたのかも知れない
当時はよく職場で感電した
労災は隠蔽され
やぶ医者の病院で吐いた
東京は
とにかく五月蝿かった
近くに駅のレールが走っていた
狭い部屋に不釣り合いな巨大な冷蔵庫があった
それが児相上がりのパートナーの願いだったのだ
巨大な冷蔵庫を夢にみていた女
入れるものなんて何もないのに
喧騒から逃れる為に
わたしは近くの図書館で
エリック・サティのCDを
借りてきて
ヘッドホンでひとり聞いていた
いまだに女はその部屋に住み続けているのか
もう何も知らない
わたしの携帯電話から勝手に連絡先を消した女
実家に帰ってきてから気づいて
わたしは久々泣いた、とおもう

これくらいにしよう

冷夏にあって
改革の冬にあたる

占いで読んだ
わたしは何もルーティンを変えられない
朝は三時に起床して
食パンを二枚食べ
すべての器官を刺激する
コーヒーを飲み
薬を服し
四時半から仕事する
帰宅したらば
瞑想をして
寝室掃除をして
詩を一編成す
昼めしを食べたら
眠ってしまうんだ
怒ることはなくなった
わたしはまるで去勢された猫みたい
あゝ
また比喩を使ってしまった
比喩中毒は未だ治療の余地あり!
それにしたって神様は
遥か高みにおられ
人間のことなんて
ほんとうに眼中にあるのかな?
まあヤハウェ的な神のことだけど
浄土真宗だからどうでもいいことだけど
さいきん
よく考える
さじ加減がないな

世のなか
容赦ないじゃないか
世はアンフェタミンの方へ流れているのかも知れない
それからとりのこされるのは
本当は
きぶんがいいね
小説の中に生きている男になったみたいにね

 


亡き人々へ捧ぐ

  鷹枕可

それは街明かりの
確かで
はかない群衆の灯に
つなぎとめられた
一つの希望であり
絶望と届かなかった
深く青き花
その
なきがらに
あなたの庭に
ヴァイオレットが
今も永遠を風に揺れているように
いつか
永遠の庭へ


絵画たちのけっこん

  淤白(コテ)

ジェラシー、という敵かもしれない者の、和合とは。あるかも知れないしないかもしれない。あって欲しいと望みはする。!方法はあいてますか?ツカって欲しい。いつの間にか、愛しているんやけど…何でなの?
わかってしまったでい「…!」

このツイートを、

見て いるか ダダ…!



詩人!

ラッキーあんど、おせんべい、ろ?

メタで私は存在してるよ。
https://t.co/Vzs2NmWXoN

ドキッドキッ(MOW)

かあさんあり。(感謝)

後悔(愛)

今(MOW)

MOW!

一終わり一


(無題)

  竹田 井沢

一人暮らしの部屋の中、ライターとリモコン
地下鉄、アンチテーゼ、浅い睡り。
蒸した心に、ハエが止まってこっちを見てやがる。

鳥の鳴き声、羽ばたく音楽。パサパサとピーピーと。
僕ってこんなに脆かったっけ?
心ん中にはいくつもの地雷が埋まっているようだ。
こういうときは どこへ連絡すればいいんだっけ?

80年代、90年代を検索しても
僕のメモリーからは何も検出されませんでした。
ハードが一緒でもソフトが違ってるんですね。
それでも皆で遊んでる奇想天外の社会人ゲーム

理性、天使、抑圧、嘘、過去、自己分析、葬式、頭ん中に浮かぶのはそんなんばっかで。
うざってぇな。破滅しちまえ。エントロピーなんか単なる固定観念だろうが。

自分じゃない自分を何枚も羽織ってる。邪魔だから、次から次へと干していく。
なかなか乾かないのはどうしてだろう?
また生乾きのまま羽織って出かける。

街を占拠する鉄骨とコンクリの物体
毎日の落胆や我慢なんて些細なこと。
淡々と頷いて笑っていたら
どんな色も淡くなっていく。
灰色への序曲のような、腕時計が僕の未来。


銀星とウロコダイル

  右左

ゆっくりと落ちてくる噴水を眺めて
ステップを踏むこと
ひとしずくひとしずくの
着水に足音を紛らせる
虹の架からない昼間
歌は無粋だった

見つからなかったねって
今日も手をつないで夜の川縁を歩くだろう
それはまだ先の話だから
忘れてしまっていい でも
明日の朝ごはんのことをもう考えてる

きみは以前
クロコダイルをウロコダイルと書いた
その未知の生物を描き起こしたきみの絵は
なんて上手な鰐
なんて上手なウロコダイル
いまでもわたしたちの心を惹いてる
そう、そのときだった
きみが銀星を見たいと言いだしたのは!

大口を開けて水を飲むウロコダイルを
銀星の光が貫いてる様子を
わたしたちは見たくて
今日もその時を待つ
噴きあがっては落ちるあの水を見ながら


ぼくのずっと後ろの方で

  鈴木歯車

気管支が人より狭くて
たばこを吸うたびに 
のどのおくで波の音がきしむ、

いつの間にか
やわらかすぎる風の速度が

死ね死ね死ね死ね死ね、

みたいな空耳を残して
細い体をすり抜け
ドップラー効果みたいに
ずっと後ろの方で
みずいろの生き物に進化する
その風はきっと海からやってきたんで
ぼくはつい走りすぎてしまう

薄まっていたはずの傷が開く
巨大な昆虫の羽のようにゆっくりと開く
ふいに 過去の自分と
すれちがっていたような気がして
振り返ってみたがそこには何もなく
ぼくだけが 白々しい光のもとで
さざなみのように呼吸していた


熱情

  たこ吉(たこ)


しんくうかんの内がわで
愛やら恋やら語っている君は
つかのまの世の電気信号
結び目なんて、ほんの僅かで
これっぽっちも忘れてしまった。
君と僕はE.T.みたいに
指の先で恋をする
さびしさと やるせなさの
虚無は、そうやって
そうごにはんのうし、
ほら、ピリリと
発熱してる。地球儀のなす
タテ・ヨコ線の交差点で、
手を取り合って踊ろう。
こっちも世界の中心で
あっちも世界の真ん中だから
僕は君の瞳だけ見て
君しか世界にいないのだと
信じることができるのだ。
笑えばいいんじゃないだろうか。
ガラガラと輝き崩れ落ちる
世界は、きっとこれからも 永遠。
ちっぽけな電気信号が
不意に現れるのは、つかのま
一兆光年遠くに届くのは
一兆光年先の未来だ。
在るとは一体なんなのか
その実、消滅は果てしない
ただ、1つ、確かなことは、
指先と指先の触れた時
ピリリと電流が走ったということ。


 跣

  玄こう

ペンさきと紙の地とは
神の女の血を入れ替え
僕の血とを入れ替えた
紫色をした針さきのか細い管をしたん
朝と夕とに降った液光のチューブの滴
Superumaの液が僕のキッチンを拭う
錆びたT刃で彼の女の顔顎下や口元を
撫であげるスキンに赤くラインがのる
彼の女を眠らせちびたブラで歯を磨く
口腔の奥にある陥没した親不知 おあよ
M.O.U.R.N.I.N.G 洞窟にブラをあて
ドン ふぁ ふぁ ふぁ
ドン し  ら* ら+ ら゙ といった
ハミング練習を歯磨でするのが好き
ときおり口をすぼませ po.po.とやる
あるとき父が竹の横笛 をつくってくれた
ときおり縁側で吹いて 聞かせてくれた
ときおり‐‐‐‐‐‐ 親不知の奥から
出る血を‐‐‐‐‐‐ ブラシに眺めて
お.は.よ‐‐‐‐ M.O.U.R.N.I.N.G
きのう早い朝に泥靴で川を渡った一足を
「跣」から履き今朝も我が家の玄関を出た
この詩はペンと紙で書いたものではないが、
恐らく 跣 で こうやって文字を追いやり
唄い歩きつ いつも こうやって
僕たちの血を入れ替えていくのだろう。


呼吸癖

  たなべ


蕣が硝子のせんいでできてる気がする
もうどうしようもない静脈の揺れ
選挙カーが視えない角を曲がる
ひっぱって立たせようと想ったの、と
静物画のように
牝馬のように
形状記憶合金のように
でも悲しいね、手を放すと倒れて
みんな血で払えば購えると思っている
古くなった調味料で
夏を作る、わたし、
貝がらという季節になって跛行する

あしたからそんなふうに笑わないでね
いまどこかのほねがとけていく
返事をするまえに
返事ははしりだしてしまうもの
きえてほしいと思ってるわ
園芸のほんをかって
この世をどうするつもりなんでしょう
いくらだってわらってあげるよ
あなたが知らないひとだったら

ぼくの見ないところで
波がずっとうごいている
すべての流れる時間を
そのひとゆらで
かぞえたい
星空のしたの仔馬の寝息ひとつで
おさな児の光映りこんだ瞬きのいちどで
はじまることなんてなにもないと
いっても
いくらいっても
だれかの呼吸がそれを否んでくれること
わかってるんでしょう
言葉をゆびさきで千切って
くさはらに捨てるんだよ
明日があるみたいに誤解をつづけて
名づけたなら
ほしもあなたのものになった
しんだひとには
煙もみえずに


狂日

  曇天十也



死は美しいか
本当に美しいか
あの詩人は死んでいた
わたしも死なねばならないか
種を蒔くとは、生を与えることであり
死を与えることと同義ではないか
それは、愛にも等しいのではないか


綿毛が飛び散る
それを受け止める母なる凡庸な大地
蔓延る無責任な愛
お前は、受け止められるのか
ただ増えていくだけのその愛を
朽ちて骨になることすらない愛を


愛される・・・幸せになること
水と光を貰って天に伸びるさま
愛する・・・不幸にすること
実った果実を取り上げるさま


やれやれ
くだらんことしか書いてないもんだな
羊の餌にでもしといておくれ
そら、働くぞ


眩暈

  帆場蔵人

前庭に鯨が打ち上げられて
砂が、チョウ砂が舞い上がれば
世界は揺れて空と大地は
ぐわぁんぐわぁんと回転しながら
遠ざかったり近づいたり

もしチョウ砂が黄砂のように
気流に乗るなら、あの港をぬけて
沖へ沖へと耳は運ばれて大海を
泳ぐ魚たちの仲間入りができるだろうか

セミとザトウを獲っていた親戚から
もらった耳石は片方しかなかったので
鯨になり損なってしまった

そしてチョウ砂が舞う日は
三つの耳石が共鳴りをして
僕は前庭器官でダンスする
壁と天井と床を掴むように
ひとり踊る聴砂が舞う日に

ベランダから身を乗り出して
海を懐かしむ打ち上げられた鯨の耳

文学極道

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