#目次

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2019年10月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Here Comes the Morningstar

  アルフ・O

 
 
 
憑依するにも根本で食い違ってる
仕方ないからせめて目元と唇に
藍と紫と碧色を塗って
「立入禁止。
「立入禁止だって。
千切って捨てる程の肉体ならこれでもくらえ、と
2人分の呪いを、ボクをチャネルにして昇華
多分
手の甲に蜘蛛を宿すよりは健康的だと思うよ。

(うでをたたんで
 まあるくなって
 おやすみなさい
 またあうひまで

(──二徹後の悪夢に
 臓器を上も下も限界まで振り回されて
 でも半分現実が紛れ込んでることに気づき
 ただうなだれている
 「ヒーリング錠どこー。
  ブームで品薄なんだから買い貯めといてくださいよぉ。
 ……これはとりあえず伝わっただろうか、

(なんて無防備な逡巡を繰り返しているのだろう。
 100パーセント嘘だなんてあり得ないのに、

「他所を向かないで抱きしめて、よ、
背中一面が猜疑の目に覆い尽くされたような
どうして弱点を増やしちゃうんだろうねボクは。
鈍くなれたらよかったのに。
今心がけたって遅いよ
背骨にワイヤーが埋まってるんだから。
そして
腹の底で鳴り止まない
何十年も前のほろびのうた。
情念のうた。
裏返しの慈愛のうた。
実体がない故に、焼却炉にも投げ捨てられなかったうた。
意味も知らずに震いつくしかなかったうた。
毒消しのように
レインコートを纏い叫ぶロックスターをダブらせたり、
形而上で誰かの四肢を切り刻んだり切り刻まれたり。

……あー、
信じてもらえないだろうけど絶望しちゃないのよ。
だって、完全な拒絶にまではリーチしてないからさ。
変身願望も、捨てたもんじゃなかったな
こうしてまだ羽を休められるのなら。
ジャズピアノが味方してくれてる、
おかえりなさいって、
だから、

ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
ボクの所為で、不幸になってよ!
キャハッ!
キャハハッ!
キャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
 
 
 


鳥籠。

  田中宏輔



みんな 考えることが
おっくうに なったので
頭を はずして
かわりに 肩の上に
鳥籠をのっけて 歩いてた
鞄を抱えた 背広姿の人も
バス停でバスを待つ 女の人も
みんな 肩から上は 鳥籠だった
鳥籠の中には いろんな鳥がいた
いかつく見せたい人は 猛禽を
かわいく見せたい人は 小鳥やなんかを 入れてた
いろんな鳥が鳥籠の中で 鳴いてた
でも 中には 死んだ鳥や
死んだまま 骨になったものを入れて
平気で歩いてる人もいた
さっき 病院の前で
二羽も 飼ってる人を 見かけたから
ぼくは その人に ぼくの小鳥を あげた
これから ぼくは ぼくの鳥籠には
何も 入れないことにするよ
だって 小鳥を飼うのも 面倒くさいもの


掠れ声

  つぐみや

私を置いていく松葉杖
ゴールリングは未確認生物に終わった

残されたクレーンゲームは鳩の人形を掴み荒らした

渋滞を起こす献花の川に独り言をぼやいた

欠けた月と並走する貝殻
己の自信はガムシロップに飲まれていく

酒の煙に溺れていく私たちは
変わらない脳みそに五味子をまぶし続ける

砂漠にガードレールを設置する視線は止まった月の沈みに殴られた

蛙に大海を飲ませるネクタイ
耳鳴りの原点はマカロンのみじん切りに帰っていった

無知は殴られる感触を金剛石の屁理屈にし飲み干した

声はもう枯れたよ


Show Me Your Fact.exe

  アルフ・O

 
 
 
「黙りなさい。

ボクがよく知る魔女の顔で君は叫ぶ
ミスリードを気にも留めずに
それを右眼のコンタクトに記録している
所詮年老いた情弱どもの慰み

「もっとまともに演技してよ、

矛先の拡散した苛立ちが
ディレクションに滲む
解ってる
ボクだってこんな売り方したくないから
契約にない部分はせめて目一杯
事実を増幅させて塗り固めてやるんだ、

「で、自分から怒りを摂取しに行って
 結局何がしたいわけ?
「そんなのわからないの、

(Please don't kill me softly,
(そう、貴様らが掲げる闇など
 束になったところでたかが知れている
 それを認めなさい さもなくば
 自らの死の舞踏で徒らに
 衰え朽ち果てることになる 私たちに
 この塵芥ほどの影響すら与えずに

     )

自己矛盾の筏を組み上げて
異国にしか居座ったことがないと嘯く
嘯く 否 嘘じゃない でも
それを言い出せば石ころすら踏めなくなる

事実なんてまともに使えなければ
ボクらにとってはただの燃料と同義。
少し膨れた太陽に、
胸の針を引き抜いてかざし、人でなくなった証を

(実行ボタン。

終わらせたい
あぁ終わらせたいさ
この悪夢を終わらせたいんだ
鍵付きのチェストを投げつけ
逃げ切り奪い尽くした輩に
呪いを千倍にして返す
それが
それこそが事実だっておそらくは
誰もが知っている終わらない
このアザミ達と同様
(今更他人の魂擁護して
 あわよくばその身勝手な美学のために
 鏡像破壊でもするつもりか?自分の触手でも食ってろよ。
バリアの中に押し込まれたボクらはただ
息を潜めて
息を殺して
同じ卵から這い出たさだめに、従う、
聞かないふりの外の情弱どもに
声だけで纏いつき暴れるよう、従う。

「黙りなさい。

つくりものの顔が笑う
 
 
 


にせものの、

  鷹枕可

砂の夢を淋しく貴方の指がつかみます
骨張った、長い繊細な指です
私の落ち窪んだ
懐中は
酪乳色の天体を泛べて
帰れない故郷の
帰りたい生涯へ
まるで手紙の様に
なつかしい夜の窓を灯しておりました

そして
あなたの短い種摘時が終ると
自由は、重い孤独の風位計を確めるように
錆びた鉄網に鈍く降ろされた
ダンテル縫製の艫に、
天使長の冒した死に孵ってゆく
私達を影とを罪し
捉まえては
石盤の花束にひとつ傅く
衣裳の様に
つづれほぐれてゆくのです
この咽喉に

   |

影の街端
その心臓に確実を狂う鐘の聯なりが
時を進め
それは這い縺れ綴られた
孤像の総身に
哀しみを縋り尽くした
人間と謂う噴泉の涸れた命運を標しています

塵花は等しく
鉄漿色の藻屑を受けて
誰しもが埃を払い
踵を返すのです
この絶望という衣裳を残し

わたしたちの気息が
もし希望としての喪失を耐え得るならば 
唾に価する慈愛などはないことを言伝に送るでしょう
卵管と癒着し
呼吸樹を立ちつづける実象の瞑目に
そして汽船の停泊地に
哂い歎き

視えなき群衆を溯ってわたしが
わたしであるべき
孤独に還り
一粒の籾殻を鎧戸の夕より喪い
且ての孤絶は
透明な
堕落と悔悛を
過ぎ去り、帰ることはないのでしょう

遺灰と塑像に


戦争が終わるまで

  鈴木歯車

「世界は眩しいからね」
というくぐもった声を、本当はずっと覚えているから、言われたとおりにサングラスを外してしまいたかった。
ずっと極地の夜にいるみたいですよね、死なない方法をなりふり構わず探している。社会から外れるなら、ついでに正気も外そう。さよなら、ぼくはたった今から清潔な病院で縛られていく。それでも忘れ物が減らないのは、ぼくが優しいからだよ。初めて学校に置いてきた傘を、ひとりぼっちにしたくなくて。

   子供たちが裸のまま、水たまりを踏み割ってる。
   雨のリズムと末路だけは、
   みんなはじめから知っていた。

   はじめから

 もっとかさぶたを剥いで?空の、もっともっと上の方から。透明な砂に撃ち抜かれても走り続ける姿は、新しい神様との戦争みたい。
虹以外のすべてが洗い流されたら、ぼくはなんて言おうか。とびきりのものが出るまでやり直している。


鳥籠。

  田中宏輔



引っ越してきたばっかりなのに、
ほら、ここは、神さまの家に近いでしょ。
さっき、神さまが訪ねてきたのよ。
終末がどうのこうのって、うるさかったわ。
だから、持ってた布団叩きで、頭を叩いてやったの。
でも、まだ終末がどうのこうのってうるさくいうから、
台所から、包丁もってきて、ガッ、
ゴトンッて、首を落としてやったの。
まっ、首から下は、返してあげたけどね。
はいはいしながら、帰っていったわ。
首は鳥籠に入れて、部屋に置いてあるのよ。
お父さんの首の隣に吊るしてあるの。
お化粧したり、飾りをつけたりしたら、
けっこう、いいインテリアになるわよ。
えっ、また、うるさくしたらって?
大丈夫よ。
お父さんのように、火のついた棒で脅かしておいたから。
それにしても、わたしの終末なんて、
そんなもの、どうしようと、わたしの勝手よねえ。


mother of all scale

  アンダンテ

・・・・・(3) 
たましいが揺らぐから
止めてくれない
スカラップレースを羽織った
白茶けたぱふぃにっぷるの片方が
湿りをおびながらつぶやく

いくら寝ても寝足りないわ
実証できるほかのアイデアーが
胸の谷間に見え隠れしているのに
グリア細胞が溶け出し
ガリレオ温度計の浮きが暴れだすの 

・・・・・美・・・・・・・・・・・・・如  
鳥梅乃花・・夜万等之美尓・・里登母也・・此乃未君波 見礼登安可尓勢牟    
・・・・・・・・・・・・・安 
・・・・・・・・・・・・・伊・・・・・・・・・・・乎
宇梅能花・・都波乎良自等・・登波弥登 佐吉乃盛波・・思吉物奈利   
・・・・・伊
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(Man〓yo Luster XVII)

あらゆる方向は円周の中にあり
円心ですべての方向が消滅する 
存在と存在しないものは方向の差だ
空も有も方向の差だ
・・・・・・・(「失われた時 IV」西脇順三郎 1960.1)

西脇はなぜ…?
天の北極を鉛直に下ろさず垂直面と交わる方位を北とする
東西南北が接する方位を何と呼ぼう天と地というわけには
言葉が役立たぬ世界と言葉が役立つ世界は方向の差なのか

そうそう、きのうこうり魔に数学教師が襲われたのよ
なにかの間違いだったらしいわよ
こわッ
まちがいならいいのよでもまちがいかどうかわからないのは困りものね
ほら数学教師は信仰心が篤いから
帰って井戸替えでもしなっくちゃね

=================================
*註解
萬葉集巻第十七;三九〇二、
・うめのはな みやまとしみに ありともや かくのみきみは みれどあかにせむ
萬葉集巻第十七;三九〇四 
・うめのはな いつはをらじと いとはねど さきのさかりは をしきものなり
こうり魔;公理魔


まあちゃん

  朝顔

ハチ公の前でまあちゃんと会った
切れ長の目のまあちゃんは
虫眼鏡みたいなメガネをかけた
気の強そうな旦那さんと
女の子の赤ちゃんを連れていた
まあちゃんのワイドパンツはゆったりしていて
初夏の風にひらひら揺れる

一生懸命次から次へと喋る私に
まあちゃんはにこっとして
「もうちょっとゆっくり」と言う
つばめグリルの真ん丸のトマトを
口いっぱいにほおばりながら
まあちゃんは泣き出しそうな娘さんを
よしよしとあやしている

まあちゃんと出会ってからの私は
いろんな男の人を追っかけなくなった
代わりに電車で三駅の作業所で
リバティプリントのきれっぱしを選びながら
お人形を作るようになっていた
男の人は結局私を救わなかった
頑固で意地っ張りの自分の中に力はある

トマトのようなまあちゃんに
昔は私は僻んで凹んだけど
まあちゃんは私の詩が素敵だと言う
私はもう俯かないで
背筋をしゃんとして歩いて行く
昨日は自分がなりたい人形を縫った
まあちゃんに似たお人形を明日作ろう


死刑囚

  鷹枕可

――さようなら、スレイプニル


1ページ
一匹目の鼠

「美は破壊にこそ宿る」

戦争とは、最も破壊的な芸術営為である
戦争とは、生存競争の最たる現象、状態である
生存競争とは、他者の死を糧とする、種に拠る種への葛藤も無き収穫、食人食である
従って、
芸術とは、精神、存在への現実的脅威であり、土から取られたあらゆる偶像、つまり人間への破壊運動でなければならない、


28ページ
理想像の反抗

「性善説からの反論」

それが芸術なら、ぼくはそんなもの、欲しくない


43ページ
虚構の鼻、現象の奥歯

「実は実、虚は虚なら」

ぼくの私は黴の様に渇水をした、ノアの帰らない舟、鴉が最初の堰を廻るのはそこに引っかかった溺死とカンタレラが見紛う程に悪い壜のラベルに砕けたサラダボウルだったからだと、壁龕のなかで市長舎が干乾びていた
精神病院の壁に喚く私が、壊れた防衛衝動的な狂人の鼻翼の下に蓄えられた旭日昇天旗が、常態として割鐘を降って行った、開襟襯衣の青年は戦争を鋏で切り、そして拾い集めた、それが現象の応接間の中で最も美しい鼠の糧となり、
排泄物となった、その私であった筈の書翰さえも、翼を孕む溪谷の浅く浅はかな落涙より指と、その公領を渡るべきではなかったのだろう、巻尺はあらゆる鼻と癌の稜線に陰を架けて、親友達とジャムの屑肉を上品に拭う、
正確な時計よ、きみは牛乳罐の比喩であり、遅滞をしたぼくの、捨てられた釘の奥処程に醜い物種を誇る、告別の狂奔、その人間性を墜落をする鈍色の死体であった、さようなら、且ての別人たち、賓客たち


79ページ
現実喪失者、鼠への最後通告

「否-矛盾律の摂理」

未来は止って、人は止まらず に、
00000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000, 0_____________________________




mother of all scale

  アンダンテ

(4) 
炬燵いっぱいの雨が吹き込むしぶきがまるくあった。
暮らしに関係した残念な思いを賛成できなかったのは、馬鹿だったり賢くなかったりこぼすことなくお腹を痛めた味瓜の種をひろうなんだかさっぱり判らない者たちの武者ぶるいのせいなのか。

落し蓋をしたら何処までも落ちていく。サイクロイドの軌跡をばらまいて遊ぶ星たちをゆすぶって幾何学模様でたぶらかそう。

0+0ι行方不明になった実数と虚数のさかいめの座標、点でない点たち。割らなければならない1の割れない1の正体。


The night

  

錆びた瞳はあまりにも美しすぎた
くたびれた洋服は木の枝に吊るされていた
窓は人の手によって開けられることが苦痛だった

運命がドアをノックする
 ノックしていたのは空中に浮かんだ革の手袋
家がアスファルトを這いずり回る
 それを青空が追いかけている
血管の中の丸い空間
水は焔
 時間に溶けた女を造花のように押し包む

排水溝に住み着いた心臓は妊娠する
雨の歯は剥き出しだ
 昏睡はもっと早く産まれるべきだった
  静寂がゆっくりと睫毛を上げる

死に急ぐ緑色の空
湿ったソファーは身をくねらせ
 埃と
  髪の毛をしめやかに貪り食う

人々の顔の中に砂漠を見つけたい
両手で鉛を丸々と溶かしながら
 向日葵は輝こうとして嘆願する
グランドピアノは孤独な生き物だった
 開け放たれた窓をベッドは見ている
人々の顔の中に砂漠を見つけたい

肉体を思わせる白い花
 その頭部の温かさ
  舌の上は雨で滑りやすかった
   そこに釘打たれたナメクジは熱い息を吐いている

石の中に眠る蝶々が今か今かと脱け出そうとしている
病んだ木の枝には汚れた白衣が架かっている
逃げ遅れた人影が壁にのめり込んでいる
夕日だ
渾身の力を振り絞り
上へ上へと昇ろうとする
朝焼けが始まる


背後 には/雪

  夢うつつ

背後 には
愛する誰かを失った人たちの 雪

ひっそり
世界が薄ら寒くなった気がして
私たちが 体温と呼ぶものは
みんな 背後の 雪です

ひっそり
わたしは
誰かを 抱きしめたい
けして 気づかれることなく
誰かに 体温をあたえたい

ひっそり

いつも きみをみていた

わたしが きみから
ひっそり

ぬけだし

うすら さむさを
まっしろな こどくを
とかして

 冬が

 ひっそり

 ちかづいてくる


月の民

  

月は学びに登ってくる
路地裏のバーから
また空に歌が生まれた
南の砂埃を歌う人々
故郷の血に想いを馳せる人々
天国に声を上げて
叫びながら
メランコリックな天使になる
新しく勇ましい
セメントと石灰の部屋が
赤い月が
肌の色に満ちてゆく
夕暮れ時の窓辺
孤独が掛かる服の袖から
喜びが町中へ堕ちてゆく
古い家を照らすランタン
壁を探している人々
希望と病の中で
永い景色の迷子になった
ホットパインの甘い香りは
波のうわさだった
私は彼らによって
静けさをすべて失う


自我

  イロキセイゴ

壁のデコレーションが好きで
混んで行く私の自我
黒鍵が白鍵よりまぶしい日に
壁に抱きついて泣いた

粘土の試作品での
試合が続き
やがて城へと完成する
粘土の含有成分が
不穏でも
粘土で作れば海の波で
崩れはしない

私の誇らしげな自我を
崩すのはどの神だろうか
粘土でできた壁はもはや
輝かず ピアノは海中に
沈んでしまった

もはやテクでこくるしかない
ドガの踊り子を引き連れて
私の自我が野良猫島に上陸する
雪の精に用事があったので
とりあえずジョバンニに
私の自我を預けた


  山人

静かな日曜日だった
私は雨を見つめていた
雨は何一つ語ることなく、地面に降り注ぎ
そして何も主張することなどなかった
私と雨は窓を挟み、内と外に居た
それぞれが語るわけでなく
心と心を通わせ対話した
雨は私を按じていた
私が私を痛めつけることを見ていた雨だった
そしてひたすら雫を落とし続けたのだ
雨は、私の心も濡らし
あらゆる臓腑にまで降り注いだ
しんなりとした空間を提供し
私をずっと停滞させていた
雨だから。
私は雨をむしろ歓迎していたのかもしれない
暗鬱に降る雨だったが
私はそれをどこかで望んでいたのだろう

雨とカエルは同化していた
雨の湿度を感じたカエルは鳴き
それに呼応するように
しっとりと雨はカエルの皮膚を濡らし
悦びを与え続けていたのだ
カエルは言った
「ころころ」
雨に濡れた半開きの目をしたカエル
恍惚の表情で天を眺めるカエル

静かな日曜日だった
なにもしてはいけない
なにもしなくていいんだ
私はそうして静かにシュラフにくるまり
静かな日曜日の
雨の点滴をずっと聴いていた


start line(ユリイカなく、青い夜

  いけだうし。

ユリイカが溢れ 当たり前のことを発見して 感動した 共感とは違うと信じたいもの そうすると、その『ユリイカ?』は発露を求めた。ユリイカとはつまり僕という人間だった しかし僕はユリイカに足りなかった 今はどうだろう

ユリイカと僕は互いに求めていた。しかし僕はユリイカを発露するに足りなかったのだ。何もかも足りないように感じた。何もかもそこにあったくせに、何も見えていなかった。僕は理想たる『文学』・『ユリイカ?』を 求めて、そこにあるもので、必死に足掻こうとしなかった。たぶん 「足りない」と泣き叫んでいた 「文学が襲いかかってくる!」必死(笑)にそう叫んだ。最高に醜かったと思う。たぶん ほんとうに 盲目であった

だが、だんだんと吸い込まれていくように そこにあったユリイカ・あの青い夜と『セックス』をしたいと、思うようになっていた (僕らは元から溶け合っているようなものだったけど) その時にようやく ユリイカを発露する準備ができたのだろう 自然と、ユリイカと僕は溶け合いながら、準備を整えていたのだろう

きょう(こんにち?)には あの夜に『ユリイカ』を見ている 憧憬にも似た まなざし それにちょっとした 絶望? 失望? そういう生き物だと知る。あくまでポジティブに自嘲する そしてそこから、
書こう ・ つまりそこから抜け出そうと、必死に足掻くことが 全く醜くない・健全であると、それを超え そしてクールになるのだと、身に叩き込もうとしている。 今にユリイカを


格子

  霜田明

1.

チーターのような未就学児が
一斉に坂道をくだっていく 

不安を恐れるひとが息を吸い
不安に安らぐひとが息を吐く

風は飛行機のように遅く
一日は細分化すると短い

意識すればはるか遠く
意識しないとどこかで近い

2.

自然は行分けされて
リブステーキのような意味を運んでくる

意味をこえると夜中の横断歩道のように
足を掬いとる磁場がある

鉄は身体の外側から錆びていく
身体の内側へ沈んでいくために

怠惰な私たちは勤勉な人たち以上に
最大の効率を願っている


予兆

  帆場蔵人

秋月の夜の樹々のざわめき
風の卵たちが孵化しはじめ
餌を求めている誕生の産声

雛たちはまだそよ風で
樹々から養分をもらい
ゆるゆる葉は枯れ雛は
みるみる成長しながら
嵐への導火線を引いて
はらはらと落ちたまり

颱風の
発生が
告げられ

風の雛たちは息を潜め
風切羽が膨らんでいく

ふつふつ、と滾る鍋のなか
溶けかけた眼が、みている


眩まない

  黒羽 黎斗

落葉樹がセンチメンタルな養分を吸い上げ、晒し首になると分かっていながら花は咲く。煌めいて仕方がない粉塵は粘土の重力がその左半身を殺され、眼底に滲んだ青黒い吐き気が昨日引き裂いた資源ゴミを食べてしまう。閉じられた光たちが見せるのは圧迫の血脈の蜃気楼。その跳弾が加速する歪みの中で一人は存在できないから手掴みを覚え、脳を捨てた脚が血管のすべてを破裂させ、染まり切った空へと全てを持ち上げる。

繋がりを持とうとした。道の途中、夜空を見せる鏡の中、雨の気配が満ちていた。
三面鏡を作ろうとして、引き伸ばされる直線となろうとして、関節だけの糸となって気付けるのは、満たされることのない空っぽの道理が弾けているだけの、この泡が不思議であるということ。

足先から這い登る蟻は、冗談の小人
武装された青信号へ向かう、清廉な淀み


でたらめニ

  よんじゅう



家は川沿いにあった
ぬかるみが渇こうとして
夕暮れは
大腸をひきずりだしたように
ながくなった
そのなかを這うように
ぼくは船出をして
帰りかたがわからなくなった
日の落ちかけた
川面を
言葉をつづるように
ただ下った


山道へ

  山人



明けない朝、雨音が体中にしみこみ、体内に落とし込まれている
体内にピカリピカリと衛星が動き
コーヒーの苦い液体が少しづつ私を現実の世界へと導いていく
ありったけの負の感情と、希望の無い労働のために
むしろ、その負の中に溶け込んだおのれを
苦みとともに臓腑の中に流し込んだのだった

言えるのは、戦いは終わらないということだった
命が潰えるまで続くのだよと
漆黒の闇の中に虫の音の海があって
その音が戦いの継続を示唆している

ゆっくりと私の魂は黒く沈殿してくる
あきらめが脳を支配し、しかしそれは虚脱ではなく
たしかな戦い

雨音は私の内臓の各所に点滴され、脳をも溶かし
私はきっと名もない羽虫のように
無造作に表に出ていくのだろう


       *

入り口はこちらです
あらゆる光景は
私にそう言っていた

ぬめった木道の傷んだ罅に雨が浸み込み
雨は暗鬱に降っていた
季節外れのワラビの群落が隊列をつくり
朽ちかけた鋼線のように雨に打たれている

現実という苦行の中に砂糖水を少し加えれば
さほどでもないだろう
と、山道の蛞蝓は光った
これは苦しみではないのだよ
名もないコバチの幼虫に寄生された毛虫は
季節外れの茎にへばりつき
死を免れる術を知らず、まだ生きている

私はクルクルクルと現実のねじを巻き
体を迷宮の入り口に放り出すのだ
そのあとは勝手に私という生命体が山道を歩きだす

熱は発露し、汗を生み、熱い液体が額から次々と流れ落ち
私はただの湿ったかたまりとなる
作業にとりかかれば、そこには思考の雑踏があらわれ
そのおもいに憑りつかれ、酔い、やがて敗北する

作業の終焉を祝福してくれるものは一介の霧だった
朽ちた道標がのっぺりと霧に立ち
黙って私の疲労を脱がせていた


足の裏に凍りつく春の痛み

  夢うつつ

(自分を嫌うことは最も簡単な自己へのしがみつきだろうか)
 足先の、あなたと世界の境目に私は張り付く。
あなたを私の物にしてしまおうと爪の間に忍び込み、靴下を脱いだ時、そこに夜を作り出す。
不確かなつながりを信じ、絡め合った足をほどいた時、そこに夜を作り出す。

(

(かがみのようなものだ
生きるということは足の裏に凍りつく春の痛み
)何かを踏みつけて形作られた自己の痛み

)

      *ふと、ゆびとゆびのあいだから、
       暖かな花畑が顔をみせた
       それは、じっと耐えながら、
       今も脱出の機会を伺っている。
                   
)
 私は足の裏に凍りつく春の痛み
あなたの柔らかく艶やかな肌を刺して、靴下を履いた時、あなたはあなたでなくなる。
冷まじい秋の体温に惑わされ涙を流し、足を絡め合った時、
 豊かな花畑が溢れ落ちる。

(忘れないで) 私は
      *足の裏に凍りつく春の痛み


(無題)

  黒羽 黎斗

 目を覚ますとそこは液体の中だった。温度は熱くもなく冷たくもなく、水の中にいるときのような温さも感じない。呼吸もできるし目を開けていても視界には全く違和感がない。なぜ俺が液体の中にいると気付いたのかというと、身をよじった時の体にかかる負荷が空気のそれとは違い、俺の特徴である少し長めのまつげが俺の動きに対応することはなく何かに引っ張られるような感覚があったからだ。
 目に見える光景はなんとも言えない。おそらく上だと思われる方向には一般的な家庭によくある丸い蛍光灯らしきもの。最近はあれもLEDになっていっているらしい。おそらく下だと思われる方向には目を向けることができなかった。自分の体の上下を反転させようとしたら何か壁に阻まれた。俺は思っているよりも狭いところに閉じ込められているようだ。ちなみに、腕を広げようとしても胴体と腕の間の角が脇側から見て30°ほどしか開かなかった。
 さて、いわゆる一般的な人間はここでパニックを起こすのだろうが、俺はそうはならなかった。いや、俺は今まで一般的ではない生き方をしてきたというつもりはない。というより、一般的に生きることを努力によって続けてきた人間であると胸を張って言いたい。しかし、今はなぜか俺はひどく落ち着いていて、自分でもうすら寒さを覚えるほど心は水面のように穏やかにしか動かなかった。
 まぁわざわざ「穏やかにしか動かなかった」といった時点で、心が動いていることに気付いた人は多いと思うが、正直微々たる差でしか動かされることなくいたというのが現状である。意識が覚醒のうちに入ってからの俺の感情を述べるなら「起きたらなぜか液体の中に入れられていた。それに気づいた俺は眠たくなった。」というのが妥当だろう。
そう、俺は今猛烈に眠たい。これを心の動きと言っていいのかどうかははなはだ疑問ではあるが、今俺の思考のほとんどを埋めているのは一度覚醒した意識を再度深く堕とそうとする生理現象である。そして、ほとんどと言ったからには少し別の動きがあるのも事実であって真であるわけである。俺は眠りにつきたくないと思っている。こちらのほうは心の動きと称してもおそらく問題がないだろう。この段落の冒頭で述べた「心が動いた」というのは俺の眠い思考が生み出した語弊の多い言葉だったのかもしれない。
 こんな状況にそぐわないような自分を客観視した思考をしていくうちに、俺は自分の意思というものに分類される「眠りにつきたくない」といういかにも矛盾した存在の占める割合をガリガリと削り取っていった。睡眠という結果がその先にあったことは、これまでのような長々とした説明を入れずとも皆さんはお分かりのことだろうと思う。
 さて、俺はいったい誰にしゃべっているのだろう。
 そんなことを最後に考えたような気がする。

 次の覚醒は空気の中だった。そう思ったのは直感であって、決して一つ前の覚醒の時にお話ししたような論理的にお話しできるような考察ではない。しかし空気の中であると断言できるほど情報が、俺の中に覚醒の瞬間流れ込んできた。余談ではあるが理学において、あることを「正しい」つまり「真」であると証明することは「誤り」つまり「偽」であると証明することより難しい場合が多い。難しい「真」であることの証明をするにあたって、多くの簡単な「偽」を使って証明することも多い。それだけ高度なことを俺に「偽」を使わず確信させるほど、流れ込んできた情報は正確で多彩であったとだけ分かっていただければ幸いだ。
 目は開いていないが目が覚めている。そんな状態になったことはないだろうか。
俺はよくある。「よくある」というと「ない場合も多い」の裏返しに聞こえてしまうかもしれないので訂正しておこう。俺が覚醒するときは大抵この状態だ。これは朝起きるのが面倒な心境とか、その日の学校や仕事を休みたいが故の意識的な反応ではなく、ただただ目が開いていないというだけの状態のことである。そしてこの状態の時の俺はどのようなことをしているかというと、覚醒したばかりで動きの鈍い頭を使って眠る前の覚醒した期間に何をしていたかを反芻して、目を開いた後にしなければならないことを大雑把に考える。
さて、俺は今「目は開いていないが目が覚めている」状態にある。そして、普段の癖で前述した日常の歯を磨くかのような行為を何のためらいもなく行う。
『寝る前は体が自由に動かなくて、液体で満たされた不自由なところに入れられていた』
『これからしないといけないことは…』
そこまで考えて頭の中で唐突に何かが燃え上がった。何が燃え上がったか、何のせいで燃え上がったのか、そんなことを知覚する前に、俺は目を開いてものすごい勢いで起き上がった。
まず知覚した情報は、視覚から送られてきた「真っ白」という情報だった。起き上がり、目を開いた先にあったのは真っ白な壁。その色がいくらか俺を混乱させたことを今俺は知覚することができていないが、そうだったのだろう。次に知覚した情報は、おそらく触覚に分類されるものから送られてきたもので、肺の中に空気の流れがあることだった。これによって俺は今、空気中にあることを証明できたのだが、そんなことを考えている余裕はなかった。そしてここからは連鎖的に多くの情報を認識して、順番など分からなくなっていくのだが、一つだけ強烈な情報があった。これもまたおそらく触覚に分類されるものが送ってきた情報だったのだが、俺の向いている向きから見ておおよそ9時ぐらいの方向、少し離れたところに人の気配があった。
 鏡写しの人が一人だけ居た。


屋上

  いまり

エレベーターが
うろこ雲を突き抜けていく
ぼくは記憶を
一枚ずつ脱ぎ捨てていく
屋上を求めて

最後に誰かを幸せにしたのは
いつだったかを考える
そんなことは
一度もなかった気もする

空気が薄くなっていく
いつか誰かを愛していた
昨日の天気も
もう思い出せない

文学極道

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