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2009年 年間最優秀作品賞=次点

特選作品一覧 (ラベル別 / 全5作)

  • [2009b] 2009年 年間最優秀作品賞=次点  (5)  {?}
    1. [優]  詩人 - ぱぱぱ・ららら  (2009-02)
    2. [優]  マザー - 宮下倉庫  (2009-03)
    3. [優]  給水塔 - 黒沢  (2009-03)
    4. [優]   - ひろかわ文緒  (2009-04)
    5. [優]  祝祭前夜 - 残念さん (いかいか)  (2009-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩人

  ぱぱぱ・ららら

「僕は詩人だ!」
深い崖の下で叫び泣いた
僕は
確かに僕だったと思う
 
波がきて
波が去る
その繰り返しが時間なら
僕であったはずの
僕は
退屈さの中で
死んでしまった
 
石ころだっていつか死ぬ
その頃には
ヨークシャテリアだって
哲学的問題を解き始める
 
「僕は詩人だ!」
って沈んでしまった太陽の光の
ように泣いたって
明日は仕事さ
 
むかし、詩人だった君は
白い月の下
イタリア製の高級スーツに身を包む
 
Xー700を冬の海に持って行き
世界を切り取る僕は
やっぱり詩人なのかな?
周りは
愛無き愛の物語
 
「助けてよ」
と言ったのは誰?
海を潜り、水難救助した僕に
待っていたのは部屋
に一つの死体
 
『鏡の街』
 
第一編・詩は死を呼ぶ
 
僕は探偵だ
だから依頼を受けて
事件を解決した
報酬を貰い家に買えると
死体が転がっていた
僕の彼女だ
死体は言った
これは報復なのよ
誰かを救えば
誰かが死ぬの
生命には限度があるの
人が増えれば
木々は死ぬ
僕は尋ねる
何で君が殺されなきゃいけなかったの?
犯人に聞けばわかるわ
 
第二編・センチメンタルに走る僕は非詩人
 
 豚丼を食べている僕は、間接的に豚を殺している訳で、彼女が殺されたからって、犯人を責めることは出来ない気がして、僕は時計を左回りにまわす。
 すると、海が見えてくる。寒い、どうやら冬のようだ。太陽は山の裏に沈んでしまい、橙色の光が山の裏から少しだけ、紫色した空を照している。波が来る。そして去る。波の音、久しぶりに自然の音を聞いた気がする。僕の隣には彼女がいる。彼女の隣には僕がいる。僕の隣には彼女がいる。それだけ。
 
第三編・わたしは貝になりたい?
 
 僕の隣には犯人がいる。
 僕は僕のじゃないみたいな、僕の口を機能させる。
 
あなたが殺したの?
そうだよ
どうしてですか?
ねぇ君って、哲学って信じる
信じるます
好きな哲学者は?
ニーチェ、ドゥルーズとか
それじゃダメだ、そもそも君は哲学についてどれくらい理解しているんだ? 哲学を哲学して、それでも君は哲学を信じるって言ってるのかい? 詩はどうだい?
詩も好きですよ。というか、僕はあなたに彼女を殺されるまで詩人のつもりでした。
でも君は詩人じゃない。
その通りです。僕は詩人じゃない。僕が書いてたのは詩なんかじゃなかった。もっと別の落書きとか、そういうものです。
わたしは詩が嫌いだ。詩は卑怯だ。いつも大事な局面では現れやしない。なぜアウシュビッツには詩人がいないのか、なぜネイティブアメリカンには詩人がいないのか、なぜアイヌには詩人がいないのか、君は答えられるかい? 答えられないなら、詩なんて書くべきじゃない。そうだろ?
そうかもしれません。ところで、あなたはゴダールの映画を観たことがありますか? 彼の映画にその事について言及しているものがあります。あなたは観たことがありますか?
さあ、どうかな忘れてしまった。本当に。言い訳じゃなく、わたしは記憶というものを持っていないんだ。
最近、チェ・ゲバラのアメリカ映画がやってるのは知ってるでしょう。二本あるそうです。二年前ぐらいかな、オリバー・ストーンがフィデル・カストロにインタビューしてドキュメン映画があります。でもそれはアメリカでは上映禁止になったそうです。これについてもっと考えてみるべきじゃないですか?
ちょっと待ちたまえよ、君は何が言いたいんだい?
僕が何を言ってるか分かったとしたら、それは僕の表現が下手だったという事だ。これはグリーンスパンの言葉です。彼は詩人でも哲学者でもない。経済学者です。でもこの言葉って詩だと思いませんか?
ちょっと待て。もはや詩なんてものは存在しない。現代詩ってやつを読んだことがあるだろう? あんなのがもう何十年も続いてるんだ。もう詩なんて存在しないだろ。わたしだって昔は詩を信じてたさ。だがヒッピーがただの金持ちの大学生の集まりだったのと同じことさ。ねぇ君は家畜の動物たちについてどう思う? ただ食べられる為にだけ、生まれ、生かされ、殺される。君が今持ってる缶コーヒーを作る為に一体どれだけのアフリカ人が搾取されてるかのか? これが世界なら、君が詩人だと言うのなら、これが詩の作り出した世界なのかい?
あなたは詩を深く考えすぎですよ。詩なんて無力なもので、詩で何かが変わるわけでも無いし、詩を誰かに伝えようなんて気もない、誰も。ねぇ、最近あまりにも批評家が増えていると思いません? しかも、すごく偉そうなんだ。たとえどんなにひどい詩だって、どんなに素晴らしい批評よりは讃えられるべきだと思わないです? ねぇ、詩っていつからただの文学的技術論になったの? 詩だけがただ唯一の、人に創れるものじゃ無かったのですか? 詩が世界を救える、詩が貧困をなくす、詩が人生の闇に光を照らす、そう考えちゃうのは、やっぱり僕が詩人じゃないからですか?


マザー

  宮下倉庫



まばらに
するとよくみえる
僕たちは引越をした
線と線の重なりを逃れ
点描で溢れる
モザイクの町に


階段や坂道を
登ってばかりいた
たとえではなく
公団の五階で育ち
学校はいつも丘の上にあった
西向きの部屋に
角度のない陽が射し
よこたわる母は薄目をひらく
鉄錆色に染まる
手のひら
まばらだった記憶も、今は
新しい住宅地のように整備され
密集し
貧しく充足している


たどっていく
古い軒先や踏切
重層のマンションが混在する町
下りた遮断機に
指折って
数えられるものを数え
白い私鉄がひとつか
ふたつ程度ゆきすぎ
そのたびに
また一から数えなおし
数えていたものを忘れる


若い母親が
線路沿いの道に
ひさしのある
ベビーカーを押していく
赤ん坊は寝いっているのだろう
僕は娘と手をつないで
名づける、という行為の
傲慢さについて
答えられないでいる

「肝臓が、ね
 もうだめなんだって
 でも落ちこんでないから」

それでも
人の名を呼ぶ
まだ、顔を向けるだけの
淡いほねぐみ
人を呼ぶ声、僕たちの午後
僕たちの授受




 途切れたものは
 思い出せないから
 僕の記憶を
 浚ってほしい
 でなければ
 また一から指折って
 数えなおして
 その程度に貧しく
 充足できる
 その程度に
 貧しく充足するために
 くり返したどって
 ゆきすぎるをみおくれば
 遮断機は上がる



  ( ゆるくほどける線と
    線と、マザー
    人を呼ぶ声
    薄ぐらい部屋に、目を覚ました )




モザイクの
町からのびる線路が
肝臓、を
つらぬくなら
僕はくだりのそれに
飛び乗って
まばらに
したらよくみえて
ベビーカーは残照の坂道に
さしかかって

 


給水塔

  黒沢



/(一)


手を繋ぎ、互いの心臓をにぎり締めて、あの給水塔へ歩いていく。止まったままの鈍色の空。私たちの街に、行き先が明示された全体はなく、正しいスケールも、形すらない。遥か、中央にあたる円柱の塔には、赤い花が見え、空に埋もれてそれは腐っている。それはとっくに、
 腐って、
   いるのを
     知っているけれど/
後味の悪い、思い出に似てくるうす光りの道を、私とあなたはくるしく急いだ。迷宮めいた建造物の連なり。時おり他人の声が聞こえ、雨に打たれた街灯の柱から、水のしずくが這い下りる。猫が現れ、私やあなたに関心すら示さず、初めの四つ角へ姿を隠す。私は、足もとすら覚束ない曲がりくねった路地で、あなたの耳たぶをきれいだと思う。石畳にころがる、なふたりん、らんぷ、なまごみの類いを、よそ事みたいだと私は言いあて、次の四つ角が近づく前に、胸の何処かがひしゃげる気がする。唐突に姿を見せる黒い街路樹。そこから、落ちかかる脆い葉むら。私たちの街に風なんてなく、遠のいては近づく痛みのような、影が逆さに揺れるばかり。

通りのあちこちで、音を立てる排水のすじ。ちょろちょろ、それは石畳に沿っていて、あなたの歪んだ靴だけを写す。広場を迂回する、左右の逼った坂道に会うときは、あなたの心臓がわずかに萎み、悩ましい息の匂いが届いてくる。私は、あなたの心臓を、
     にぎり締め
   あなたは、
 私の心臓を/
ひき締める。歩くたびに、後ろにずれる建造物の切れ目から、またあの給水塔が見え、赤い花さえ、ちらちら覗く。あなたは不意に眉をひそめ、たちの悪い悪戯のように、私の名前を疚しく繰り返す。私は、そういうあなたの不確かな心が、まるで引き潮のように、私の命を縮めるだろうと思う。

(四つ角に会うたび、
私たちは噴水に驚く。背の低い水の湧出が、私の胸の暗がりを言いあて、あなたの肩の水位を上げていく。目のなかで、零化をつづける揚力とベクトル。他人のざわめきが、私とあなたを親しく脅かし、繋いだ互いの手に、尖った雨が堕ちてくる。)



辺りに、打ち棄てられた猫の死体。けれども、その尻尾がしなやかに跳ねるのを、私たちは忘れないだろう。坂道を上りつめ、新たな四つ角をじらしながら曲がると、円柱の塔と、赤い花がなおも現れる。あなたが、手にする私の心臓は、生きているのだろうか。あなたが私の腕に巻きつき、そっと誰にも判らないように、秘めたピンクの腸を見せる。街の回廊を、聞きなれた睦言が濡らし、私の身体はだんだん溶けていく。

 途中で、
   止めていいのよ
     とあなたは言い/
私はそこで初めて、また出発点に戻されたことに気づく。あなたの心臓が腐り、私はあなたの、取り返しのつかない二の腕を探している。壊れた顔を拾い集め、欠けていく心を抱いて集め、あなたがいた石畳の空白に、無駄だと判って並べたてる。遥かに見上げると、動かない給水塔に光りが射していて、うず巻く鈍色の雲のしたで、赤い花が震えている。



/(二)


 震えが、
   止まらないわ
     とあなたは言い/
その震えは、給水塔に見える赤い花のそれと、呪わしく対応している。ほどなく、修復を終えるあなた。ちょろちょろ水が石畳を這い、その靴さきを濡らしはじめる。他人の声がいつの間にか回帰して、私とあなたを遠まきに包囲する。あるいは、粒だつ異物のように、辺りから区別していく。

私たちの街には、正しいスケールも、形すらない。寝覚めの悪い建造物が林立し、いくら歩いても近付くことが出来ない。初めの四つ角を、顔のよごれた猫が通るとき、たまらず、私は自分に問いかける。何をもってあれを、いったい何の中央だと言うのか。歩き出すあなたは、
     私の心臓へ
   二の腕を
 さし込んでくる/
次第に、ぬくい、悔いのような圧迫が、動く私の暗がりを満たし、狂おしくなった私は、路地と坂道と、街路樹のある通りで、意味の判らない嗚咽を繰り返す。石畳にころがる、なふたりん、らんぷ、なまごみの類い。あなたは私の耳たぶを拡げ、肉のもり上がりを痛いほどに圧しあけて、聞き飽きた秘めごとを、引き潮みたいに私に流し込む。たまらず、自分に問いかける私は、次の、四つ角が近づく前に、胸の何処かがひしゃげるのだろう。

(脈絡もなく、
他人の声やざわめきが聞こえ、真新しい噴水が中空をひるがえるたび、路地の何処かから、あなたが呼ぶ声がする。手を、繋いでいたはずなのにと私は混乱し、慌ててあなたの心臓を求めるが、あなたはここにいる。)



ふぞろいな建造物の切れ目から、垣間見えるあの円柱の塔と、赤い花。回遊するのは風でなく影で、私とあなたは、どれだけの時間、ここを歩いたのかさっぱり判らない。降りつづく雨の揺れに、しぶきを返す四つ角を越えるとき、私は、疚しい自分じしんの声を聞いた。

     給水塔を、
   ばくは、
 せよ。爆破とは/
つまり中央をなくすことで、広場を迂回するこの坂道の途中でも、あなたの不在を確かめられないことだ。唐突に現れた子供の公園に、四角いベンチがあり、砂のかたまりが板に浮いている。水のしずくが垂れ落ちる遊具には、何かの文字が書かれているが、私には読むことが出来ない。私たちを見下ろす円柱の塔は、鈍色の空のなかで怖ろしく停止していて、未知の、想像もつかない水量を蓄えて、限界ぎりぎりで待ち構えている。
 /給水塔を、
    ばくは、
せよ。あなたの心臓を手放し、あなたの腕や心などから離れて、街の中央にたどり着くためには、赤い花に触れることが必要だ。/給水塔を、ばくは、せよ。たしかに私たちは再会した。迷宮じみた雲のした、この街の路地や坂道や、街路樹のある通りの何処かで。ふたたび猫の死体を越えていくと、左右の回廊が、後味の悪い、思い出のように連続し、水が溢れている。震えが、止まらないわとあなたは言い、その震えは、給水塔に見える赤い花のそれと、呪わしく対応している。



/(三)


心臓の圧迫がなくなると、雨ざらしの道の外れで、崩れるように屈み込んでしまう。膝を濡らし、粒だつ回廊の砂を惨めだと感じながら、水に写った自分の顔を、目のはしで見ている。だらしなく石畳にころがる、
 腐った
   あなたの
     髪、壊れた/
あなたの二の腕、声、心など。私はひとつずつ拾い集め、斜めの視座から辺りを見上げる。唐突に息を吹きかえす、葉の黒い街路樹。複雑に分岐する路地と、頂点のない坂道。建造物の向こうでは、うず巻く空の雲が止まったままで、この街の全体を生ぬるく見下ろしている。私は、ひとりだと思う。欠けたあなたの顔、弛んだあなたの息、匂い、糸きり歯などを、光る石畳に並べたてながら、軽く、虚しくなった心臓を感じる。たまらず私は、歩きはじめ、この腕にあなたを抱いたまま、行き先も判らず声をあげている。

(修復には、
まだ時間があるし、私には、犯すべき禁忌が残されているはずだ。)



/……。


  ひろかわ文緒

夜空を映す水溜まりを
やさしいバネで飛び越えた
草はらを分けていく風に
振り向く、先の
屋根の上には風見鶏が
カラカラと、鳴いて

泳ぎながら眠る魚を
ほほえみあって食べたい
かなしくないうちに
血液にしてしまえるように

軽トラックが砂埃をあげて
舗装されていない道を
走っていった
荷台の幌は
かすかに持ちあがり
はたはたとなびく
幌の下に隠された骨の行方は
えいえんを含んだ海でさえ
知ることはないんだろう
砂粒が口の端をかすり
舞い上がっていく

路肩に沿ったガードレールの
錆ついた部分を
そっと、爪で弾いて
金属の振動を確かめた
腕に残る痣を隠す
袖口の温度に
触れたことはありますか

誘蛾灯から
またひとひら、翅が燃え尽きる
予感がして、風に
密やかに告げる

電信柱のもとに
白い花を手向ける老人
その掌はやさしいばかりでは
なかっただろう
だけれど
些細な仕草も
誰かが許していくから
月はふるえて
ただ、美しいに違いなかった

灰色の鳥が絡み合って、落下する
途端、翻って、

岬には
子供たちが集まって
手をつないで
まぼろしのように建つ灯台を
囲んでいる
揺るぎない明かりの先にあるのは
お母さん、
きっとあなたも
まだ見たことのない、
あなたです


祝祭前夜

  残念さん

 一日目

 妊婦の腹が引き裂かれ、光が漏れた。多くの人たちがそれを見つめ。頭のおかしくなった、アリス気取りがこけて階段で頭を強く打ったまま頭蓋骨が割れまた光が漏れる。光、光、と、数を数える。あちこちで、誰も彼もが腸を引き裂いたり、頭を打ちつけながら光が漏れることを望んでいる。
 そして静かになった。後には、腐乱していない新しい死体ばかりが並び。すべての死体からは光が漏れている。眼球を失った空洞からも、引き裂かれた腹や頭からも、僕はこういう光景の中にいるのが一番落ち着く、と、思うと、背後から誰かに強く殴られる。何度も殴られていく内に、僕の頭からも光が漏れ始める。あ、光、だと、また光の数が増えたと喜んでみるが鈍い鈍器の音が止まらない。それが嬉しかった。

 二日目

 文字の読めない女の子が物語を求めて歩いているのを見る。彼女は、文字が読めない、ことを物語るための物語がほしいという。そんな物語はもうこの世にはないよ、と告げる。それでも、彼女はほしい、といい、僕の後ろでニヤニヤ笑っていた男がその女の子に物語を教えてあげよう、といって、彼女に「不幸」や「悲惨」という言葉を教えては書かせる。それを見て周りの人々が、手をたたき始めて次に「誠実」や「切実」の言葉を教える。これで物語を作れるだろう、と男が笑って言う。周りの人々は彼女が男に習った単語を使って物語を物語るのを聞いてなき始める。男は、それを見て、周りの泣いている者達を全員殴り始める。お前らはいつだってこんな物語がほしくて、ずっと飢えていたんだろう、と、男が笑いながら、自分にアルコールをかけてライターをつける。燃える男が大きな声で言う。「これで、さらに物語がつくれるだろう」と言って。文字の読めない少女は男に習った言葉で男の物語を作る。そして、まるで男などいなかったかのように、皆その話を聞いて泣き始める。

  三日目

 掟の門をくぐることができない。門の内側にいる人々の光が見える。もうすでに、葡萄は破裂して、流れ出ているばかりだと言うのに、雪の中を裸足で踊る。踊る人たちの間から喜びばかりがもれて、楽しい、と、掟が降りてくる。掟が、門をくぐる。次から次へと倒れていくのは人ではなくて、葡萄の木だと気づいたとき、街路樹には人々が実り。口々に、収穫を待っている、と微笑んでいる。
 渋谷、新宿、と、籠を背負って収穫していく。笑顔で挨拶しながら、都市の気候は温暖だから、と、隣の女性が言う。駅の構内、列車に乗る人々の靴があさってには売り払われ、誰もがもう踊らなくていいと、彼女が囁いて、街路樹に実った一人の男性が微笑みながら収穫を待っている。手を差し出して、男を摘む。

 四日目

 肌が焼けて、白くは無かった。蛙が実をむき、秋が焦げる。鉄道沿いに並んだ花火。笑い焦げる人。ここからは、もうどうでもよくなった、と、思いながらテレビが投げつけられ、次に、燃やされた服が飛んでくる。偽りでも、物語がほしい、と言った少女から、ずっと遠くに来た気がする。すがすがさしさばかりが残り、後は晴れ渡る何かが僕を押し広げる。唇は石灰を含み、体が螺旋上に翻る。裂けた、と、声がして、光が漏れる。
 ブロードウェイで踊るタップダンスのことをなぜか思い浮かべる。ハイヒールが蹴りあげられて、遠くに飛んでいったのを思い出したり、しながら、物語を一つ残らず世界の外へ追いやって、ようやくわけもわからないなにかが飛び込んできてから窓を開く。


 
 

文学極道

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