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bananamwllow - 2017年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


この街の今世紀

  bananamwllow

―1999夏から秋、随分とケズり獲ってきただろうおまえの肉体が透けてみえる

偏頭痛は城公園の樹々が散らしていた

「ええ、
前世紀のことですが 
脳だけで
いきていける実感しかない。」


―2016初冬、煉瓦造りの図書館から城跡の坂を下っていく途上、薬研堀とかいう堀の茂みに隠れる若い男女の片方がおれだ

女は男のうえに座っている

「産まれるまえからおまえを、
生きるより恐ろしい目に合わした。サザエさんは放映しない。
《家族》がないからな。」

おれは、この街の今世紀に帰ってきたと知った


あの夜だけが

  bananamwllow

―昨日、
ヨシモトリュウメイ
が亡くなりました
いま、文庫の棚
をみてきたのですが
『共同幻想論』
在庫ありません

―人文の棚
にハードカヴァー
幾つかあります
お問い合わせ
あればご案内ください

その日わたしは、
務める書店で
一度も
ヨシモトタカアキ
の問い合わせ
を受けなかった



わたしには将来、
いっしょに
こども
を育ててみようか
と約束している
友人がいる
その約束
をするずっと以前
友人の両親
と話す機会
があった
ほら、このひと
ヨシモトリュウメイ
とか 読む人やで
と紹介され 
ずっと煙草を
吹かして
黙っていた
友人の父親
がその、瞬間
だけ微笑した
ことを
覚えている



まだ、東京
で わたし
が学生だった頃
M先生
の授業に
潜っていた

《ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという確信によって ぼくは廃人であるそうだ》

と、パッセージ
の一語
を読み違えて
先生は
朗読された
その後
わたしは
アパート
の浴槽
に湯を出したまま
寝入ってしまい
管理人
に起こされ
廊下
に積んであった
『初期ノート』
を水浸し
にした
乾かしてみたが
カビが生え
東京
を出るさい
捨てて
しまった



先に書いた
友人
の父親は
昨年
他界し
なんで
ヨシモトリュウメイ
よりさきに
うちの
父親が
死なな
あかんねん
と、怒った

いまは
ベナン共和国
に居る
その、
友人に
吉本隆明
が亡くなった
らしい
と告げると
昨年と
おんなじ
ことを云う



《もしも おれが呼んだら花輪をもって遺言をきいてくれ》

この、
「花輪」
ということばを わたしは、
ずっと
「かりん」
と読んでいて 
その、響き
はたいそう
美しい
と、ずっと思って
いる


ファウル、年末の。

  bananamwllow

ーOssu. Kaze wa naotta kai?
Mata rennraku kure tamae.

ーKoega mada dennodayo. Noroi ga utagawareteru.

ーHonnmakaina!?
Noroi!? Shinnpai sugirude (namida)
Netsu toka wa nainonn??

ーTadano kaze datoomounemkedone. Netsuwa mosagatte taichowa iinen. Socchi no chosiwa do?

ーKocchiwa nicchimo sacchimo.
Daigaku kibbishiikamo. Yarudake Yaruga.
Koe hayaku modoruyou nenn wo
Okutte okku.

電子メールを書き写していたら
2015、年末が暮れようとしており

ああ、逃げ切れるのか

昼間はエンドレスに続くと思える
ガキ使特番の再放送をみて、ケタケタだらしなく泣きたくはあった

不意に真面目な振りをして
他人の尻を触ること
それと、他人のメールの文面
を許可なく筆写すること
そのどちらがよりポルノめくのか
論争を待たない事柄ではある

だから、こっぴどく
他人たちには叱られるだろうが
nenn wo okuru
のも
noroi
に対抗するのも
具体的な術が分からず
半分途方に暮れ
半分ほんきでおそろしくなって
このノートに書き写しつつ
2007、4月
都知事選を反芻している

これが2015、
唯一立ったバッターボックスでの結果であった


砂(Dec.2011-Jan.2012)

  bananamwllow

《粗編(2011.12.3.)》

あまりに
潮風がうるさいので
夜半に目が覚めてしまった
煙草が尽きており
外に出るも、風の勢い
が億劫で即座に引き返した

道すがら隣人とすれ違い
挨拶すると、近くのアパートの
天井が抜け落ちたと云う
ここらは、屋根に砂が溜まるので
時折、天井が抜けるらしい
まるで信じる気もなかったが
隣人が割合熱心に忠告するので
部屋の天井の膨らみが、若干
気になった しかし、
砂に浸かったところで
惜しむような財産はない

海辺の家に住み
もうニ年半経つが
特段、やることなどない
ベランダから
潮の引き際へ目を移すと
ちいさな浜辺の、
錆びたトタンが剥き出しである

明日は仕事がないので、園田へ
競馬を見に行こうと思う
これ程、風が強ければ
馬場に砂埃が立つだろう
最終コーナーを曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分けがつかなくなる

昔、一時的に仲良くしていた友人は
人と人の見分けがつかなかった
おそらく、観念のなかで
砂塵が舞っているのだろう
瀬戸内の砂は少し茶色く
園田のダートは、荒い
友人は、砂の区別は良く付いた
わたしはすべての他人が
違う顔を持つことを
少し、恐れる

駐車場から
高校生がワラワラと、
三人も出て来る
彼女たちの後ろ姿
を見遣る
髪が風に乱れて
茶色の砂が少し、混じった




《最終稿(2012.1.10.)》





道すがら
隣人が
近くのアパートの
天井が抜け落ちた
と云う
ここらは
屋根に砂が溜まるので
時折抜けるのだ
と云う
割合熱心に忠告するので
部屋の天井の
膨らみが気になり 

明日は
仕事がないので
園田へ馬を
見に行こう
と思う
これ程、
風が強ければ
馬場に砂埃
が立つだろう
最終コーナー
を曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分け
がつかなくなる
かつて、
友人は
あなたとあなたの
見分け
がつかなかった
おそらく、
観念のなかで
砂塵が舞って
いるのだろう

園田のダートは荒い
わたしは
すべての他人が
違う顔を持つことを
すこし、恐れる

文学極道

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