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5or6 - 2008年分

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


闇の子供たち

  5or6

子供たちの肝臓
子供たちの心臓
子供たちの脊髄
子供たちの視線

大人たちは無表情のまま拳を握り締めて道路でうずくまる少女の腹を殴り
服を脱がし
陶器を物色するような目をしながら白いトラックの荷台に放り込む
大人たちは大人たちにお金を貰います

ここは

何処ですか

お腹が

痛いです

始めから守るものがいなかったから助けを求められないように足の腱を切られたんだね
さぁ
好きな事をしてやろう
きみじゃなく私の好きな事をしてやろう
何だその目は
本当に白い目にしてやろうか
私はお前の未来なんてどうでもいいんだよ私は来世なんて信じないんだ悪いことをしても死ねば終わりだ罪は償いたい奴が償えば良い
だからきみはここに居るんだ
きみは大罪を犯した
それはきみが大人になるという事だ
大人は汚い
罪を積み重ねて生きているきみは子供のままでいいんだよ
永遠という言葉を信じるかい
神様はいると思うのかい
そうだ神様はいる
だからきみは私に会えたんだ
キャンディーは好きかい
テディベアを知っているかい
知らないのかい
こういうものを知っているかい
先ずはこれをきみにあげよう
光が点滅し始めたら

始めようじゃないか

ペド野郎
ヤシの木に吊された子供たち
ペド野郎
ゴミ捨て場で食事をする子供たち
ペド野郎
エイズのまま放置される子供たち
ペド野郎
インターネットで取引される子供たち

全てを関与する者
傍観する者
媒介する者


ペド野郎

子供たちの肝臓
子供たちの心臓
子供たちの脊髄
子供たちの視線

陶器を物色するような目をしながら金を払う大人たち
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で
それをつぶらな瞳で見上げる子供たち
白い瞳で

白い瞳を無表情のまま眺める

大人たち


gloom

  5or6

新宿の交差点で女をスカウトして
その女の彼氏に殴られた
その僅か数秒の焦燥
走馬灯の一歩手前

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

そんな声が聞こえた
誰に向けて
自分にか
自分にだ
その声と同時に左頬に硬いシルバーの指輪付きのコブシがめり込む
奥歯が内側の頬に突き刺さる
でも大切なものを無くしたらどうやって生きればいい
さっきの声に心で反論した刹那
立っていた自分が地面から浮いて放り投げられる
柔道家か
もっと高校の時に柔道の授業出ていれば良かったと後悔する
意識は過去に飛ぶ
家を出ていく母
幼い頭で説得しきれず泣き叫ぶ子供
背中を向けたままの父
脳みそが焼き切れるくらいに引き止めようとしたあの時の思い

今は

無い

去っていくカップルを倒れこみながら見つめる
もう一度
ゆっくりと倒れて
早くなる
うぅぅぅん、

前のめりで
目の前のアスファルトに倒れこむ
鼻に火薬詰められ爆ぜる
火花が耳穴から
こめかみから
溢れだし
その光は額の中心を貫通する

一人

一人で起き上がる前に道路の石を眺めた
それは二つの石が支えあっていて
なんだか人の形をしていた
後ろで立てよと背中を押してるみたいに見えた
前の石は偉そうだな
でも
この感情が溢れ出したら
また昔のように
みんなが寝静まる時に起きている羽目になる
都会に住めば住むほど
いつ眠ればいいのか分からなくなる
絶えず街には人がいるのに
金払うわけでもないし
ましてや金貰えるわけじゃないから
こうして無様にしていても
周りの靴は乾いた音で
かつかつかつかつ
行っちまう
暫くして鼓動の音が明確に左頬に響き
熱く痛い現実がやって来る
意識を体に戻し
立ち上がって赤い唾を吐く
その時に
もう一度あの声が聞こえた

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

そうだ

あの声は父だ

後ろ向きで背中の曲がった父の声だ

母に見捨てられた父が上京時に告げた言葉だ

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

確かに
まだ
俺はここにいる

見上げると
高いビルから
不平等な形の人が見える
それはすぐにネオンの光に反射して消えた
クラクションが鳴る
もう信号は変わっている
わかってる
わかってるよ
歩くよ
だから急かそうとクラクションを押すな押すな解ったから押すなちくしょう押すなクソ野郎うるせえ押すな

押すなクソ野郎っ!


とうりゃんせが鳴る
広い横断歩道を
前を向きながらみんな歩いている
クラクション鳴らした車に怒鳴り
乗っていたヤクザにまた殴られて
とうりゃんせが鳴る信号の柱の横で
倒れたまま見ていた

今日の女はみんな同じ顔をしてる

収穫無いまま
そのまま薬屋に行き
個室ビデオに入って
男臭いソファーに座り
電源オフのテレビの画面で腫れた顔の痣を見て
シップを貼ってそのまま寝た


スカウトは顔が命だ


花巻

  5or6

紅に覆われた月が揺らめき
波紋が湖に広がります
照らされた柳梅は顔を下げ
庭園に慎ましく咲いています

そこに俯いた少女を細い葉のような指で
燃えるような思いと共に気高い少年が唇を重ね
まだ蕾の花を守るように抱きしめていました

紫紺色の着物の帯を緩めて
風はほんの少し強く
紅く
残香に少女は溜息を落とします
体に満ちた餘寒に堪えながら
舌先で決意を紡ぎ
少年は平打ちかんざしを抜いて
髪を
うなじを
かなしみを撫でました

何回も繰り返す
名前の復唱に
少年の思いが
届いた気がしました

少女は優しく
その瞳を見つめて頷きます

そして
二人
湖に消えていきます

ほろほろと
ほろほろと

渦のなかに消えていきます

しなだれた枝から離れた梅の花と共に

ほろほろと
ほろほろと

桃色の渦のなかに消えていくのでした


jazz

  5or6

一日中詩を考えてたら
ジャズを聞きたくなったんだ

青いアルトサックス
穏やかなイエローハーブ

そんなことしか思いつかない

格好良いのも悪いのも
毎日だから
どうでもいい

オイル塗れでCD探して
ハービーハンコック発見

聞きながら携帯打って
会った事の無い仲間に気遣う
会ってないのに

ないのにね

寝ちまったよ
夜勤明けの朝風呂で
笑っちまったよ
溺れかかってやんの

俺は髭を生やしたかった
サービス業じゃできないから
バックレたよ
上司にブン殴られて
飛び出したんだ
深夜のドリーム号
東京から大阪へ
三角公園で寝たりして
頼りもなくて
ルンペン体験
金が無いとぼやいてさ
たこ焼きばっか食べていた
最後の金で電話して
両親来さしてやんの

あー
親父がすげー小さくて
頭に電気流れてた
パーキンソンって聞かされて
震えて帰ろう言われたよ
そりゃなんも言えんわな
実家に帰って叱られて
兄貴のつてで工場勤め
ブラジルさんが大半で
日本人二人だけでやんの

そんで髭を生やしたよ
やぼったいねと刺されたよ

うるせーよって言いたいわな
ポルトガル語はちっともわからん
音は耐えずプレスする

うるせーよって言いたいわな
だけどいつも笑ってら

俺笑ってら


一日中詩を考えてたら
ジャズを聞きたくなったんだ

ただそれだけなんだ

それだけで
詩を書きたくなるんだ

唸るくらいに


gloom2

  5or6

歌舞伎町一番街
と書かれた赤い電飾アーチを眺めながら小さな路地を入ると
下水と古い油と安い香水の交じった匂いがほのかに鼻腔に伝わる
暫く歩き
雑踏ビルの隙間に入ると突き当たりにはビルの地下トイレを案内する矢印のペンキがコンクリートの壁に書かれている
その方向に疑いもなく従い
ひんやりとした階段の音を反響させながらトイレのドアにたどり着き
男女兼用のマークをチラ見して中に入った

女が唇から血を流し
破れた服を身に付けて
睨みつけるようにして正面で立っている
すぐ横には股間を血塗れにしながら半ケツ状態でうずくまり
苦悶の表情で唇を噛み締めている中年がヒーヒーと息を盛らしている

暫くそれを眺めて俺は何も言わず
鏡が付いている洗面所に向かい
スーツのポケットから髭剃りとワックスを取り出して
寝起きの身支度をし始めた
すると女が隣の洗面の蛇口を捻り
口を濯い
おもいっきり赤い水を吐き出した
ペッ!
そして顔を洗うと中々の美人だった
固形石鹸を直接顎に擦りながら横をチラ見していると女はため息を一つ吐き
最初の一言を呟いた

ねぇ、

俺は髭を剃りながら

何か?

と訪ねる

あなたのワイシャツ売ってよ

そう言い女はうずくまっている男の横に落ちていた茶色のショルダーバッグからワニ革の財布を取り出し
束になった万札から三枚取り出して俺にヒラヒラと見せびらかした

早朝ソープ代にはなるわよ

女は俺の意見を聞く間もなく破れた服を男の顔の上に落とし
白いブラジャー姿で催促している
俺は顔を洗い大の個室に入り
トイレットペーパーで顔を拭き
そのままスーツを脱ぎワイシャツを脱いで
肌着のままスーツを着直して女に渡した

何?この香水?嗅いだことあるわ、サムライ?

当たり

女は少し大きめなワイシャツを上手く着こなし
コーチのバックから口紅を取出し
素早く塗り直し颯爽と何事もないような足取りで出ていった
俺は携帯を取り出してアンテナを確認した
一本立っていた
間に合いそうだな
俺はいつもお世話になっている新宿交番に電話して状況を教えてから下界に戻った

外はもうサラリーマンが足早に駅からこちらに向けて行進している

俺は自分の股間を見て
もう一度出てきた路地裏を見て
その場を去った

スカウトしときゃ良かったかな?

風呂の中で潜望鏡を始めた女を見ながら俺は少し後悔し

湯船に顔を沈ませた

文学極道

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