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田中智章 - 2010年分

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


秋の日

  田中智章



(異様な音)
触れることで繋がり、(すなわち離れ、)
空白になる背後、
ほと息を吐く。離れる。つづき。
軒先から身を離す水から
空までの道のりと。
振動の上に振動が置かれ、
しかし互いに距離は保ったままで、
落下する方が判らないまま静止している。
鍵を開けると羽ばたいて行ってしまった、
雲の縁のような暗さがたなびき、
人のかたちになって陽を浴びる、
雪のごとき融解。走り抜ける痛みで霧散する、
理のこわさをばらばらにして、
雲と混ざりゆっくり流れていった、
(私が流した)
 
 


(あさ水を弾く)

  田中智章



あさ水を弾く
風が汚されたのどをあらう
聴覚のゆめは畸形の吐いき
明日から野放しの天使が



生まれたばかり生まれたままで蟻が燃えて、逃げた骨片の表面で水が啼いている。話し声
が気になってカードを投げつけようとして水銀の川を。絵は二十二枚、それを十一枚とみ
なし一枚を除くべきか加えるべきか悩むうちに炭酸の海に無数の花が転生した。息が喉か
ら拡がる。丘には放し飼いの爪あとが夜ごと走っている。



九十九の浜を
生きたままプリンターの口からは
ぽろぽろとリングの石灰の滓
夜が仮にも夜ならば
結節をデネブとして波を口にふくむことで
「いいから」と言われた背中をみている



私は生物ではなく namamonoとして
装着した本や 海藻を
値引きしたまま歩いて
歌われれば雨に傷つき
切り開かれた体を
地面に縫いとめた



残骸の静寂は綿菓子をほおばった子の歩幅で、クレーンの鉄塊に骨を抜いた魚の亡骸と小
声で話している。野から海底から、岩が響く音の印字をレコードした婚礼が繰り返し自壊
しているのんびり、星が砂浜を降下していく根が斜めに、大きな空を裏返して夜の表面か
ら膿んだ泡が、波が冷たくて喉をあらった。
 
 


(頭を置き去りにして歩く、)

  田中智章



           頭を置き去りにして歩く、白い煙を道標として吐きながら
    灯りは思い思いに燈り、星のように曖昧な輪郭
      地面には産毛が生えている。泡立って固まった鍾乳石の土地
         光のないことを誇っている。音のないことを望んでいる
     光がないから夜なのだ。白い手の軌跡が美しい
空には無数の目がある。動物だろうと植物だろうと人だろうと
            吐息が宝石だろうと鬼灯だろうと、頭が失われていようと
     息が冷たく頬をさらう、熱はどこにも行かず、滴り落ちるだけ
       まれに鈍器のような音がするのは、おそらく雪の塊が落ちたのだ
          じっと聴き入る、また、夜空から見つめられる
  ふたたび足あとを追うようにして歩き出す。まるで足あとをなぞることが
           目的であるかのように、でもまた降り出せば、足あとは消える
   そのときは、まるで足あとをつくるために歩く
             雪の中に頭を置き去りにして
 
 

文学極道

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