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2010年12月分

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* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ぱぱぱ・ららら

  進谷

ぱぱぱ・らららと呼ばれる男がいた。今もいるのかも知れない。彼は詩を書いていた。生きるべきか死ぬべきか、そんなことどうでもいいのだろう。と彼は言った。
ぱぱぱ・らららはE・シオランという人の本を読み漁った。十七歳の頃だった。絶望のきわみで。僕はこの時に生まれたんだ。と彼は言った。

愛が恐いの?
と十七歳の女の子は尋ねる。
恐い。
と二十四歳のぱぱぱ・らららは答えることが出来ない。
これ以上、僕に近づかないでくれ。
とぱぱぱ・らららは言う。
カラッポなのを隠したいのだ。彼は。

では、ぱぱぱ・らららのことを彼と呼ぶ僕は一体誰なんだ?
僕は誰だ?
僕はなんだ?
僕は僕を隠す。
僕は進谷ではない。
僕はぱぱぱ・らららではない。
僕は二十四歳ではない。
僕は僕ではない。

もっと早く、強く、隠せ。
と僕の虚無的で悲観的な心が言う。
心?
僕は心を信じているのか?

生きるべきか、死ぬべきか。
生きるべきか、死ぬべきか。

寒い。
眠い。
冬の夜だ。
誰かと映画の話でもして、カラッポを共有したいのだ。

ぱぱぱ・らららは詩が何か分かった、と叫んだ。
「詩とは共有するものだ。いや詩だけじゃない。すべては共有することで、初めて存在することが出来るんだ。愛も絶望も虚無も主義も社会も人々すらもすべてはフィクションなんだ。真実ではない。でも、もし僕が全くのほら話をしても、それを君が信じたなら、それは真実になるんだ。良いことも悪いことも。認識の問題さ。たとえ、ここに十全な愛なんて無くても、フィクションの世界の中で愛を作り出し、それを共有することが出来れば、僕たちは愛を手に入れることができるんだ。言うまでもないことだけれど。僕はその為に詩を書くんだ」

そう言った後、彼は僕の元から姿を消した。精神病院に入ったとか、キューバに亡命したとか、風の噂ではそんなことを聞いた。
でも僕はどちらの噂も信じちゃいない。彼はたとえどんなに貧しかろうと、孤独だろうと、なにより自由を求めていたから。

「セックスする前にこれ使えば生でやっても平気なのよ」
と言った女の子は十四歳だった。
「考えられますか?」
とカート・ヴォネガットなら言っただろうか。
素晴らしき自由。

認識についての話をもうひとつ。ゴダールの『アワーミュジック』という映画に出てくる女の子。彼女は映画館でひとりでテロを起こす。動かないで、鞄にはピストルが入ってるのよ。と彼女は叫ぶ。でも鞄にピストルは入っていない。鞄に入っているのは本だけだ。彼女は取り出そうとする。想像上のピストルを。その瞬間、彼女は撃たれる。本物のピストルで。

ねぇ、想像してみなよ。
と三十歳のジョン・レノンは歌う。
彼も本物のピストルで撃たれる。

僕は塗り替える。もっと早く、もっと物語らないと。追い付かれてしまう。

ねぇ、君はまだ詩を書いてるのかい?

最後に、ぱぱぱ・らららの今の生活についてもう少しだけ。断っておくが僕は彼が今なにをしているのか、全く知らない。生きてるのかどうかすら。つまり、これから僕が書くぱぱぱ・らららの生活については、全くの作り話、ほら話である。

彼は今、茨城県にある小さな町で暮らしている。空の色が綺麗な町だ。青い時は青く、赤い時は赤く、黒い時は黒い空の下、彼は風呂無し、トイレ共同の古いアパートに住んでいる。週に三日だけ日雇いの肉体労働の仕事をしている。それで十分生きていける。最低でも人生の半分は自分のものにしておきたい。と彼はよく言っていた。休みの日は自炊をして、掃除をして、洗濯をして、それから詩を書いている。たまに鹿島アントラーズの試合を観に行き、頻繁に女の子を抱いた。古いアパートで。簡単なことだよ。君はパーフェクトな女の子だ、って言ってあげたらいい。そう思わせるように行動してあげたらいい。そうしたら受け入れてくれる。と彼は言っていた。彼はセックスの後に女の子に詩を見せる。よく分からない、と女の子は言う。でも彼はそれで良かった。彼は詩を女の子にしか見せない。彼の詩は彼と女の子の為に書いたものだから。明け方、二人はまだ暗い街を歩く。無駄に広く、車も人もいない道を二人は黙って歩く。そこではまるで永遠のようにゆっくり時間が流れている。二人はどこへも向かっていない。ただ歩いているだけだ。空は黒から紫へ、紫から青へと、少しずつ変わっていく。一日が始まろうとしている。代わり映えしない日。その中で、彼はきっと新しい詩を書くのだろう。


したく

  ゼッケン

おれは警察に捕まるときになにを準備したらいいのか知らなかった
それにここは勤め先の高校の職員室でどうせ持って行きたいような私物はない
タバコは吸っておいた方がいいのではないかと思い、おれは
職員室を出た、教頭がびくりと顔を上げた、
おれは人差し指と中指の二本を口元に持っていき、前後に揺らした
教頭は黙っていた、おれはまだ逮捕されていないからだ、それから
おれは職員室を出た
体育館の裏に行く
よお。
どうも。
おれはタバコに火をつける
先客の男子学生はタバコを吸うおれの唇から10センチの場所にある火を探そうとしているようだった
昼間なので火は見えない
先生、つかまるんでしょ?
男子はそう言った
理科室のツメガエル、あれ、週イチで水代えとエサよろしく、あいつらにも言っといて
ぼくらも逮捕されますか?
されないでしょ
そうですか
男子は信じていない風でおれをじっと探っている
いや、むしろ被害者
そうですよね
そうですよね、ハート、じゃないよ
すみません
今朝、彼女は無事に出産したとの知らせが入った
驚いた親が問いただすと父親はおれだと言った
計画どおりに
もちろん、おれは父親ではなく、いまここにいる男子でもない
男子ではない
彼女の親友で恋人の女子だ
ふたりの卵巣から卵子を摘出、高カルシウム濃度と適度な電気刺激
融合と卵割の開始、子宮への着床
高校の生物部としては上出来だがやりすぎだ
おまえらね、赤ん坊は週イチの世話じゃ済まないからね

わかってる?

はい
男子は言う
おれは自分もふくめてなにもわかっていない気がした
カレンダーの上ではもうすぐクリスマスだ
ともあれメリークリスマス、よかったね、マリアさま


(頭を置き去りにして歩く、)

  田中智章



           頭を置き去りにして歩く、白い煙を道標として吐きながら
    灯りは思い思いに燈り、星のように曖昧な輪郭
      地面には産毛が生えている。泡立って固まった鍾乳石の土地
         光のないことを誇っている。音のないことを望んでいる
     光がないから夜なのだ。白い手の軌跡が美しい
空には無数の目がある。動物だろうと植物だろうと人だろうと
            吐息が宝石だろうと鬼灯だろうと、頭が失われていようと
     息が冷たく頬をさらう、熱はどこにも行かず、滴り落ちるだけ
       まれに鈍器のような音がするのは、おそらく雪の塊が落ちたのだ
          じっと聴き入る、また、夜空から見つめられる
  ふたたび足あとを追うようにして歩き出す。まるで足あとをなぞることが
           目的であるかのように、でもまた降り出せば、足あとは消える
   そのときは、まるで足あとをつくるために歩く
             雪の中に頭を置き去りにして
 
 


日常的な公園

  リンネ

 Kは鬼ごっこをしているが、妙なことに、およそ鬼と呼べるような人間がどこにも見当たらないのである。そういって悪ければ、Kはすっかり鬼の顔を忘れてしまったのであった。
 ベンチの裏に丸くなって隠れてはいるが、はたして鬼がだれかも分からない状況で、どうしてこれが隠れているといえるのか。実際、向こうのジャングルジムの近くで煙草をくわえている長身の男から、Kの姿は筒抜けであるし、いうまでもなく、このベンチに座っている男の子と老人には、とうに気づかれているはずである。それに、あの女、砂場でしゃがみこんで猫と遊んではいるが、さっきからこちらのほうを横目を流してうかがっているようなのだ。それから、その女の大きく開かれたスカートの垂直線上には、雨合羽を羽織った若い男が立っている。そいつはうつけたように、真っくらな両の目を女の股間のほうへ向けていた。
 いってみれば、どいつもこいつも鬼であるかのようであった。Kにしてみたら、いつのまにかこのゲームに巻き込まれていたのだから、いつそれをやめてしまってもかまわないような気もした。おそらくそれができなかったのは、この遊びをやめたところで、はたして自分は他に何かやることがあるのか、まったく見当もつかなかったからであろう。ともかくKは、しばらくして、このいっかな動きそうもない状況を打開するため、さりげなく公園内を歩きはじめたのであった。鬼を誘って、探り当てようという魂胆である。
 だが、意外にも、だれひとり何の反応も見せないという結果であった。Kなどまるで見えていないかのようなのである。ただし、疑ぐり深いKは、これを鬼の策略であるとまんまと見抜いていたからだろうか、あらゆる人から十分逃げ切れる距離をとって、なおもじっくりと公園中の人々の観察を続けている。
 いやに大人の多い公園である。三つあるブランコは、恰幅の良い中年たちが占領しており、なにやらもっともらしい顔つきで前後に揺れている。公園中央にある広場では、黒いスーツを着たグループと、灰色のスーツを着たグループとが、ボールを投げ合って何かを競っている。それから、公園周りの歩道を、二三十人はいるだろうか、手を繋ぎ列になった初老の男女らが、オモチャのようにぎこちなく歩いている。これを要するに、Kにしてみればだれもが不自然で疑わしいのだった。だが、やはり気になるのは、例の砂場の女である。
 Kは、しゃがむ女が開いたスカートのなかに、奇妙に光るものを見つけたのだ。じりじりと近寄ってそれを確認しようとはするが、いかんせんそこは女の股間である、まんじりと見つめていては怪しまれるのが世の道理であろう。ところが、しばらく躊躇してふらふらした挙句、なんとKは大胆にもその女性のほうへ歩み寄った。いやこれはむしろ、何かKの制御できない力によって引き寄せられた、というのが本当かもしれない。
 Kは、もはや完全に警戒心を失って女に迫っている。しかし、もう少しで何か見えそうというところであった、突然、女の股間が猛烈な光にあふれ、Kの視覚をはげしく貫いたのだ! 閃光に目をくらませながら、Kはその光へと倒れこんだ。


 ―――実は、女の股のあいだには、一枚の鏡がしっとりと収まっていた。そこに太陽が映り込んでいたのだ。Kはあまり眩しすぎて、その鏡に映る、照りかえった自分の顔と、背後に迫る雨合羽の男の姿を確認することができなかった。どうしてすっかり晴れた日に、彼が雨合羽など着ているのか、そんな単純なことに気がつかなかったというところ、明らかにそこにKの落ち度があったといえよう。ジャングルジムでは長身の男が煙草をくわえながら、その入り組んだ鉄の棒にからだをねじり込んでいる。ベンチに座っていた少年と老人が、Kのほうを指差して何かを訴えているようだが、女の悲鳴がそれをかき消してしまい、Kにはまったく聞き取れない。
 Kは鬼ごっこをしていることもとうに忘れて、女を黙らせようと必死に言い繕っている。
 鉄棒に現われたリクルートスーツの女子が、プロペラのようにくるくると回りはじめた。つまり、ゲームが新たな展開を迎えようとしている前触れである。


あとは眠るだけ

  右肩

 出来事に順序はない、と思いたい。何が進行していたとしても、何が起きている途中であったとしても、僕に残された選択肢は「すぐに眠る」の一事でしかなく、僕がそのことに倒錯的な信仰心を抱いていたとしても、それは悪いことではない。
 意識は瑠璃色の谷筋の隘路を下って昨日へ進む。飴色の流れに沿って薄紅色の湖へ遡行する。湖。それは今さっきスターバックスの女性店員から黄色のランプの下で受け取ったマグカップの中にあってもよい。今日は明日からすれば既に昨日だから。だがそこが何時であり何処であり、それが何であっても僕にとっては認識の位相が幾層にもずれた未知の次元なのだ。シナモンの匂いがした。机に肘をつき顎を支えた右手から頭が落ちようとしていた。落ちようとするのでしがみつくと、僕は大理石の円柱を抱いている。真っ白でありながらどこかしら確信的にピンクであり、冷ややかでありながらわずかに熱を持つ予感がある。そしてそれは犬ほどの感情も持たず、冬の蝿ほどの記憶も持たない。ただ石の柱である。僕はすがりついたまま、滑らかにかつ滑らかに滑り落ちていく。気持ちの良い滑落だ。重力のままにありながら、僕は自由だ。酔ってしまうくらい自由だ。自由だと言える。
 眠りはまた浅緑の蔓である。僕が昼間職場でしてきたこともすべて、荒れ果てた記憶の神殿の列柱なのだから。絡みつくままに眠りが眠りの葉を茂らす。夕景。広い葉の和毛が逆光の中で泡立つように美しい。会社の伝票にレーザープリンターで打ち出されていたアラビア数字や製品の略号が、短い繊毛に埋もれながら優しく浮かび上がる。今は読み説くことも発音することもできないその文字が、神に捧げる呪言なのだ。言葉の内実は薄暗い。「愛」という感情がそうであるように。そしてそれは人生の薄暗さに通ずる、と僕は考えてみる。昼間、会社では僕の席の真上の蛍光灯が切れかかり、ゆっくりとしたテンポで点滅していた。僕は犬の呼吸の、あるいは蝿の呼吸の、あるいは脚の長い羽虫の呼吸のテンポで明滅する世界を見つめ、俯いてじっと祈る。祈るように考える。そこに詩はない。
 何に何を祈るの
 何に何を何するの
 これはそれそれあれはあれ
混濁が眠りの本質であるから、と僕は神殿の床に仰向けに沈み込んで思っている、だから目前のこの場面が唐突に美しいということもある。生きることが決して間違わない。そんなこともまたある。
 ここを外れて、外。外のまた外側、夕暮れに渋滞する車列からエンジンのアイドリングの音が聞こえてくる。バックするトラックのブザー音。硬質なもの、金属パイプのようなものがいくつかかち合う音もする。遠い神社で松の梢が騒ぎ、シャンシャン鳴る鈴が次第次第に数を増す。増せるぶんだけ増してゆく。聴覚の領域が隙間なく埋め尽くされると、僕はすがるべきものから体を離し、粗い粒状の光、形のない映像となった淋しさの中を、額にある眼を見開いたまま、ぐんぐんと沈んでゆく。これでいい。新たな冒険が始まるのだ。冒険には語りうる一切の内容がない。世界が開き、世界が閉じる。記憶と論理と感情に先駆け、前方の扉が開く。その刹那後方の扉が閉まる。前方の扉が開く。通り過ぎた扉が後方で閉まる。冒険とは主体と世界そのものの運動なのだ。僕は底のない眠りの深淵を、喜びとともに疾駆する。
 旅する意志のなすところ、僕は神のように明晰に眠り、水に沈む石のように真っ直ぐに生きることを選択したのだった。たとえ隣席でマグカップが床に落ちて激しく砕けようとも、僕は迷わない。目覚めない。


一の蝶による五の夢景

  リンネ

 i. eating machines / Parantica sita

その日の朝食は、いつものように厚めのトーストが一枚でした。私は表面にのせたバターが溶けていくのを嬉しそうに見ていますが、何かが溶けきらず、パンの上に残ってしまいました。それは生まれたばかりの赤ん坊のように粘液でまみれています。目を疑うようなことですが、どうやら、アサギマダラという蝶の幼虫のようなのです。生きているのでしょうか? ためしに指でつつくと、幼虫は判別しがたい色をした体液を流して、みるみるうちにしぼんでしまい、後には脱ぎ捨てられた服のように、まだら模様をした派手派手しい体皮が残りました。本来キジョランの葉に住むアサギマダラが、なぜこんなところにいたのか、当然それを疑問に思わなければいけないのですが、私はなぜかそのとき、アサギマダラが有毒であるということに頭がいっぱいで、とにかく、そのトーストを食べてはいけないのだ、食べてはいけないのだ、と自分に言い聞かせるのがやっとでした。というのも、私はすでにそのトーストを手に取り、よだれを口いっぱいに溜めて、のどを鳴らしていたからです。

 ii. metamorphosis / Papilio xuthus

二人で赤ん坊のお守りをしていました。赤ん坊が泣きだしたので抱き上げると、おむつに柔らかい便がたまっています。もう一人のお守りはその便に怯え、頭を抱えて震えています。私は、そうっとおむつを剥がして便を処理しました。洗面器に湯がたまっています。藤編みのバスケットをもう一人から手渡されました。中のシーツの上に、さっきとは別の赤ん坊がうつ伏せになっています。不安になり、仰向けにすると、顔がトカゲのようにしわがれていました。急いで洗面器に浸けて揺さぶります。けれどそのせいで、首もとがゴムのように裂けてしまいました。大きく開いた切れ目から、一匹のアゲハチョウが羽を広げて這い出てきます。二人は「救急車を!!」と絶叫しましたが、もはや赤ん坊は洗面器にぷかぷかと浮かぶ、単なるさなぎの殻に過ぎないということが、心のどこかで、にわかに予感として芽生えていました。

 iii. reproduction / **** ****

さて、深い森の中に、スーツを着た男がいました。おかしなことに、その男の背中には大きな蝶の羽が生えているのですが、私はそのことよりも、なぜこんな場所に彼がいるのかが気になりました。自殺願望者かと思ったのです。「気づいたら生まれてた、おまえもそうだろ?」と彼がそういうと、私はいつの間にか何匹もの蝶になって、男とこもごもに交尾をはじめていました。終始淡白であった情事を終えると、男はすぐにどこかへ飛んでいってしまいました。私たちはさっそく、産卵に最適な植物を探していますが、自分たちがどんな種類の蝶か知らないのに、それが分かるはずありません。けれども、もはや私たちにはそれ以外、目的といっていいものがまるでなかったので、何も心配せずに森じゅうを飛び回っているのでした。

 iv. suspended animation / Byasa alcinous

ベッドに寝転んだ赤ん坊のおでこに、手のひらのように大きなジャコウアゲハが留まりました。私は突然のほほえましい光景にうっとりとし、カメラのファインダー越しにそれを眺めています。赤ん坊の白い肌とジャコウアゲハの真っ赤な斑紋のコントラスト、これが素晴らしく美しいのです。しばらくすると、縫い針ほどに細い蝶の口吻が、蜜を探るようにせわしなく赤ん坊の口元へ伸びていきました。私は夢中でシャッターを切りつづけています。しだいに赤ん坊はますます白く、蝶のほうは赤々と鮮血のような色合いを増していきました。しまいには、もはや真っ青になった赤ん坊を残して、毒々しいまでに赤らんだジャコウアゲハが、私のいるほうへ揺れながら飛んできました。何気なくそれを避けると、蝶はそのまましばらくまっすぐに飛んでいき、突然大きな円を描いたと思うと、音も立てずに破裂してしまいました。私は残念に思いましたが、その瞬間がうまく撮れていたか、カメラのモニターで熱心に確認しています。

 v. eating machines / Graphium doson (Papilio mikado)

体中に汗が吹いています。夏、でしょうか。家のベランダから見える公園に、全身にミカドアゲハという蝶をまとっている人を見かけました。あまりたくさんの蝶が留まっているので、顔も見えず、もちろん男か女かも分かりません。人かどうかさえ怪しいものです。昔沖縄の林道で、川辺の地面を吸っている数え切れないほどのミカドアゲハを見たことがありましたが、もしかしたら、あれに集っているミカドアゲハも同じ目的なのかもしれません。目的といえば、蝶は単に水分を求めているのではなく、そこに含まれた塩分などを得るために、ミネラルの豊富な川辺の地面に集まるのです。そう考えると、人間の汗には多くの栄養分が含まれているはずですから、この状況もあながち特殊なことではないといえましょう。おそらく、たくさんの蝶がまとわりつくことで、人間の体温もおのずと上昇し、より豊富な量の汗が出るのですから、これは実に効率のいい作戦であるともいえます。


Jumpin' Jack Flash。

  田中宏輔



●捜さないでください●現実は失敗だらけで●芸術も失敗だらけ●ちゃんと生きていく自身がありません●ハー●コリャコリャ●突然●自由なんだよって言われたってねえ●恋人没収!●だども●おらには●現実がいっぱいあるさ●芸術だっていっぱいあるわさ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●街じゅういたるところから●猿のおもちゃたちが●姿を現わす●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●街じゅういたるところから●猿のおもちゃたちが●姿を現わす●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●シンバルを打ち鳴らしながら●猿のおもちゃたちが●ぼくのほうに向かってやってくる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●シンバルを打ち鳴らしながら●猿のおもちゃたちが●ぼくのほうに向かってやってくる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちが●足をあげて●足をさげて●オイ●チニ●オイ●チニ●黄色いスカートをひるがえし●オイ●チニ●オイ●チニ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちの黄色いスカートがまくれあがり●マリリン・モンローのスカートもまくれあがり●世界じゅうの婦女子たちのスカートもまくれあがる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●自転車は倒れ●バイクも倒れ●立て看板も倒れ●歩行者たちも倒れ●工事現場の建設作業員たちも倒れ●ぼくも道の上にへたり込む●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●吹けよ●風!●呼べよ●嵐!●沸騰する二酸化炭素●カーボン・ダイオクサイド●真っ直ぐな肩よ●来い!●沸騰する二酸化炭素●カーボン・ダイオクサイド●真っ直ぐな肩よ●来い!●東京のあるゲイ・バーでの話●ジミーちゃんから聞いたんだけど●隣に腰掛けてた三木のり平そっくりの男のひとが●ジミーちゃんに向かって●こんなこと言ったんだって●「あまりこっちを見ないで」●「恐れなくてもいいのよ」●「話しかけてくださってもいいのよ」●「でもお話ってセンスの問題でしょ」●「この方がリクエストしてくださるから赤とんぼ入れてくださるかしら」●もちろん●ジミーちゃんは●そのひととは一言も口をきいていません●このエピソード●なんべん思い出しても笑けてしまいます●エリカも笑けるわ♪●記憶の泡が●ぷかぷかと浮いている●記憶の泡が●ぷかぷかと浮いている●大きな記憶の泡たちが●ぷかぷかと浮いている●小さな記憶の泡たちが●ぷかぷかと浮いている●見ていると●小さな記憶の泡たちは●つぎつぎとぷちぷちはじけて●隣に浮かんでいる大きな記憶の泡と合わさって●ますます大きな記憶の泡となって●ぷかぷかと浮いている●ぷかぷかと浮いている●ぼくは●棒の先で●そいつをつつく●そしたら●そいつが●パチンッとはじけて●ぼくの持っている棒を●引っ張って●引っ張られたぼくは●落っこちて●ぼくが●ぷかぷかと浮いている●ぼくが●ぷかぷかと浮いている●大きなぼくの泡が●ぷかぷかと浮いている●小さなぼくの泡が●ぷかぷかと浮いている●見ていると●小さなぼくの泡は●つぎつぎとぷちぷちはじけて●隣に浮かんでいる●大きなぼくの泡と合わさって●ますます大きなぼくの泡となって●ぷかぷかと浮いている●ぷかぷかと浮いている●記憶が●棒の先で●大きなぼくの泡をつつく●そしたら●ぼくは●パチンッとはじけて●えさをやらないでください●公園には●そんな立て看板がしてあったのだけれど●ぼくは●いつものように●えさをやりに公園に行った●公園には●小さなぼくがたくさんいた●たくさんの小さなぼくは●くるってる●くるってるって●鳩のように鳴きながら●砂をひっかきまわして●地面をくしゃくしゃにしていた●ぼくは●ぼくの肉をなるべく小さくひきちぎって●投げてやった●すると●たくさんの小さなぼくは●くちばしをあけて●受けとめると●ぱくぱく●ぱくぱく●ぼくを食べた●ぼくは●ぼくの肉をひきちぎっては投げ●ひきちぎっては投げてやった●たくさんの小さなぼくは●ぱくぱく●ぱくぱく●ぼくを食べた●たくさんの小さなぼくは●ぱくぱく●ぱくぱく●ぼくを食べた●たくさんの小さなぼくは●もうぼくの身体に●肉がぜんぜんついていないのを見ると●くるってる●くるってるって●鳩のように鳴きながら●飛び去っていった●ぼくは●自分の胸の奥の●奥の奥の●骨にこびりついた●ちびっと残った肉のかけらを●骨だけになった指先で●つまんで食べた●こんな詩の一節を●むかし書いたことがあって●公園のベンチに坐りながら●持ってきた本を読んでいた●ひと休みして顔を上げると●ひとつ置いて●横に並んだベンチのうえに●となりのとなりのベンチのうえに●疲れた様子の猫が一匹●腰掛けていた●猫が首をまわして●ぼくのほうを見て●にやりと笑うので●ぼくは●猫の隣にいって●猫の肩をもんでやった●肩でも凝ってるんだろうなって思って●すると●猫はうれしそうに●くすくす笑って●公園のブランコのあるほうを眺めていた●しばらくすると●もういいよ●という合図のつもりなのか●猫は●ぼくの手の甲をひとかきすると●にやりと笑って●走り去っていった●ぼくは●自分のいたベンチにもどって●またしばらく本を読んでいた●2●3ページほど読んだところだった●前のほうから●子供たちの声がするので●向かい側のベンチのほうに目をやった●4人の小さな子供たちに囲まれて●ひとりのおじいさんが●片手をすこし上げていた●指を伸ばした右の手のさきで●その手のさきにある地面のうえで●たくさんの枯れ葉が円を描いて●くるくると回っていた●やがて●枯れ葉は●おじいさんの腕のまわりを●螺旋を描いて●くるくると回りながら●まとわりついていき●おじいさんのからだ全体をすっぽりと包み込んでしまった●そのくるくると螺旋を描いて回る枯れ葉を見て●子供たちがさらに声をあげた●おじいさんが左手をすこし上げると●こんどは●全身を包んでくるくると回っていた枯れ葉が●これまた螺旋を描きながら●左腕を伝って●地面のうえに落ちていき●地面のうえでも円を描いて●子供たちの足に●腰に●腹に●背に●手に●顔に●頭に●全身●からだじゅうに●カサカサあたりながら●くるくる回って●くるくるくるくる回って●すると●子供たちは●いっそう大きな声でさわいで●おじいちゃんに声をかけた●すてきなおじいちゃん●大好きなおじいちゃん●カッチョイイおじいちゃんって●枯葉はいつまでも●子供たちのからだを取り巻きながら●くるくる回っていた●くるくるくるくる回っていた●子供たちの歓声を聞くと●おじいさんは●すごく喜んで●けたけた笑って●軽快にスキップしながら●公園から走り去っていった●でも●子供たちは●おじいさんよりすごくって●手を上げると●子供たちのまわりで●そこらじゅうのものが●ぐるぐる回りだした●そばの大人たちは悲鳴をあげて舞い上がり●自転車は舞い上がり●立て看板は舞い上がり●植わっていた樹木は根っこごと●ずぼっと抜けて舞い上がり●ブランコは鎖からちぎれ●シーソーの板は軸からはずれ●鉄棒さえ支柱ごと地面から抜けて舞い上がり●ぐるぐるぐるぐる回りだした●ぼくのからだも宙に舞って●ぐるぐる回りだした●世界が●子供たちのまわりで●ぐるぐるぐるぐる回った●突然●子供たちが手を下ろすと●みんな●どすん●どすん●と落っこちて●ぼくは手に持っていた本がなくなっていたから●そのあと公園のなかを●はぐれた本を探して●ずいぶんと長い間かかって探さなければならなかった●イエイ!●仕事帰りに寄った●烏丸のジュンク堂で●ぼくの作品が載ってる号でも見ようと思って●國文學の最新号とバックナンバーが置いてある棚を見たら●ぼくの原稿が載っているはずの号がないので●店員さんに訊くと●発売日が20日から27日に変更になっていた●うううううん●そういえば●去年のユリイカの増刊号も●ぼくの書いている号の発売日が延期されたぞ●ま●偶然だと思うけど●しかし●きょう●店員さんが見せてくれた書店向けのその27日発売の増刊号の予告のチラシ●執筆者の数が●いつもの号の倍近く●昨年のユリイカの増刊号の『タルホ』特集もものすごく分厚かったけど●今回の國文學の臨時増刊号●『読んでおくべき/おすすめの短編小説50 外国と日本』も分厚そう●ああ●そう●きょう●新しい詩集のゲラの校正をしていて●ぼくが26歳のときのことを書いているところがあって●そのころ知り合った20歳の青年のことを●思い出していて●ああ●ヘッセなら●これを存在の秘密とでも言うんだろうなあ●と思った●彼は福岡出身で●高校を出てすぐ●18才から京都で●昼間はビリヤード店で●夜はスナックでアルバイトをしていると言っていた●ぼくが下鴨に住んでいたころね●ぼくが住んでいたワンルーム・マンションの向かい側に●そのビリヤード店があって●彼が出てくるところで●ぼくと目が合って●で●ぼくのほうから声をかけて●そのあとちょこっとしゃべって●それから口をきくようになったのだけれど●3回目か●4回目に会ってしゃべっていたときかな●別れ際に●「こんどゆっくり男同士の話をしましょう」と言われて●びっくりして●いままでも男同士だったし●ええっ?●という感じで●またそのときの彼の目つきがとてつもなく真剣だったので●それから●ぼくは彼を避けたのだった●避けるようになったのだった●ぼくは●彼はふつうの男の子だと思っていたから●ふつうの男の子とはふつうに接しないといけない●と●ぼくは思っていたのだ●そのときのぼくは●ね●ま●いまでもそうだけどさ●ぼくは自分の大事な感情や気持ちから●逃げることがよくあって●いまから思うと●大切なひとを●大切な時間を●たくさんすり抜けさせてしまったんだなあと思う●ああ●ヘッセなら●これを存在の秘密とでも言うんだろうなあ●そう思った●存在の秘密●ヘッセが言ってたかな●もしかしたら言ってたかもしれない●言ってなかったら●ぼくが考え出した言葉ってことになるけど●なんだかどこかで見たような記憶もある●ありそうな言葉だもんね●ま●どうでもいいんだけどね●あ●そうそう●詩集の校正をしていた喫茶店でね●高瀬川を見下ろしながら●「ソワレ」っていう京都では有名な喫茶店の二階でね●こんなこと考えていた●思い出していた●考えながら思い出していた●思い出しながら考えていた●ぼくは●ほんとうに●何人もの●もしかしたら深い付き合いになっていたかもしれないひとたちを避けてきたのだった●と●いま46歳で●もう●愛する苦しさも●愛されない苦しさも●若いときほどではないのだけれど●記憶はいつまでも自分を苦しめる●まあ●苦しむのが好きなんだろうね●ぼくは●笑●人生というものが●ぼくのもとからすぐに通り過ぎていくものであるということを●若いときのぼくは知らなかった●いまのぼくは知っていて●古い記憶に苦しめられつつも●思い出しては●ああ●あのとき●こうしておいたらよかったのになあとか●ああしておいたらよかったのになあとか●考えたりして●おいしい時間を過ごしているっていう●ああ●ほんまにオジンやな●チャン●チャン●で●その青年とは●半年くらい経ってから●高野にある「高野アリーナ」だったかな●そのホテルのプールで再会して●いっしょにソフトドリンクを飲んだのだけれど●コーラだったと思う●でも●そのとき●彼は彼の友だちと来ていて●その友だちに●ぼくのことを説明しているときに●その友だちが●きつい目つきで●ぼくのことを見つめていたので●それから●ぼくはあまりしゃべらずに●ただ●彼の顔と●水泳を中学から高校までしていたという●すこしぽちゃっとしたからだつきの●彼のからだを眺めながら●夏のきつい日差しで●自分のからだを焼いていた●というのはちょこっと嘘で●というか●もうすこし詳しく書くと●彼の股間を●青いビキニの布地を通して●横にストライプの細い線が二本はいった●青いビキニの布地を通して●もっこりと浮かび上がった彼のチンポコの形を●ジーパンのときとは違って●はっきりうつった彼のチンポコの形を●じっと眺めていた●ぼくは彼の勃起したチンポコをくわえたかった●ぼくは彼の勃起したチンポコをくわえたかった●たぶん●彼の体型によく似た●太くて短いチンポコね●あ●20代後半まで●ぼくは●夏には真っ黒に日焼けした青年だったのだ●若いときの写真は●ぼくの詩集の『Forest。』にのっけているので●カヴァーをはずすと本体の表紙に●ぼくの若いときの写真がたくさんついているので●見る機会があれば●見てちょうだいね●チャン●チャン●じゃないや●もうちょっと考えないとだめだね●いまでも苦しんでるんだからね●若いときの苦しみは●自分の気持ちだけを考えての苦しみで●それで強烈に苦しんでいたのね●相手の気持ちを考えもせずに●相手の苦しみをわかろうともせずにね●でも●いまの苦しみは●相手の苦しみをも感じとりながらの苦しみで●けっしてひとりよがりの苦しみではないから●若いときの苦しみとは違っていて●より苦しい部分もあるんだけど●それでも●深いけれど●強烈ではなくなったわけで●それは意義のある苦しみだとも言えるわけでね●つきつめて考えればね●未知ならぬ未知●既知ならぬ既知●オキチならぬオキチ●未知なる未知●既知なる既知●オキチなるオキチ●オッ●キチ●洗剤自我●なんか●いいっしょ?●いいでしょ?●洗剤自我●ゴシゴシ●キュッって●あちゃ●ghost into tears●もちろん●burst into tears●のパスティーシュ●ね●涙に幽霊する●と訳する●ゴーストは翻訳機械でもある●ゴーストは仮定の存在であるにもかかわらず●近づいてくるときにもわかるし●離れていくときにもわかる●そばにいてじっとしているときにも●その気配を感じとることができるのだ●Wake up,the ghost.●たくさんのメモを見渡していると●ゴーストの設定が●はじめに設定していた立ち位置と●多少変わっていることに気づかせられる●そのずれもまた楽しい●ルンル●ルンル●ル〜●日々●これ●口実●ゴーストと集合論●集合論といっても●公理的集合論のほうではなくて●素朴集合論のほうだけど●ゴーストと集合論を●空集合を梃子として●照応させることができた●どの集合も空集合を部分集合とするが●それらは●ただひとつのまったく同じ空集合である●ファイ↑●Φ●ファイ↓●したがって●分裂機械の作品のなかで●主人公の青年が詩人と交わした会話を思い出して書いたところで●詩人が●ゴーストを複数形ではなく●単数形として扱っていたことも●論理的に十全たる整合性があって●あると思っていて●数年前に●dioに●数学的な記述でもって●集合論と自我論を対比させて●論考を書いたことがあったが●その論考の発展形として●分裂機械19の散文詩を書くことができた●ファイ↑●Φ●ファイ↓●『THE GATES OF DELIRIUM。』は●ぼくの作品のなかでも●とびきり複雑な構成の散文詩にするつもりで●井原秀治さんに捧げて●『The Wasteless Land.IV』として書肆山田から詩集として上梓する予定●3●4年後にね●さっき●ノヴァーリスをノートしていて●はっ●として●グッ●なのじゃ●ふるいじゃろう●笑っておくれ●そだ!●シェイクスピアと亡霊って●すっごい深いつながりがあって●『ハムレット』において●亡き父親の霊である亡霊の言葉によって●ハムレットの人格が一変するように●亡霊が人間に影響を与えるということは●重々明白で●『リチャード三世』の第五幕・第三場に●「待て!●何だ●夢か●ああ●臆病な良心め●どこまでおれを苦しめる!」●というセリフがあって●夢のなかで亡霊に責め立てられるのも●じつは●自分の良心が自分自身を咎めるからであって●同じく●第五幕・第三場に●「影が●ゆうべ●このリチャードの魂をふるえ上がらせたのだ」●というセリフがあって●影=亡霊●とする記述が見られるんだけど●『リア王』のセリフには●「わしはだれじゃ?」●というのがあって●それに答えて●「リアの影」というのがあるのだけれど●夢と影●自我とゴースト●この4つのものが●シェイクスピアのなかで●ぼくのなかで●ぐるぐる回っている●ファイ↑●Φ●ファイ↓●自我=夢●夢=影●影=亡霊●亡霊=自我●この数日●シェイクスピアを読み直してよかったな●と●つくづく思う●以前に●ミクシィの日記にも書いた●『あらし』のなかにある●「わたしたちは夢と同じものでつくられている」●といったセリフや●『ハムレット』のなかにある●第一幕・第三場の●「影?●そうとも●みんな影法師さ●一時の気まぐれだ」●といったセリフや●同じく●第二幕・第二場の●「夢自体●影にすぎない」●といったセリフに表わされるように●シェイクスピアの戯曲には●よく●ぼくたちの実体が●ゴーストとちっとも違わないってことが書かれてあるような気がする●うううううん●やっぱり●ぼくは●霊●ゴーストなんだ●それで●霊は零で●ぼくはゼロで●なんもなしだったのか●今夜は●『リア王』を再読する予定●第一幕・第一場のセリフ●「何もないところからは●何も生まれない」●について考えたくて●あ●もうそろそろ寝る時間かな●ナボナ●ロヒプノール●ピーゼットシー●ワイパックスを一錠ずつ取り出し●手のひらのうえにのせて●パクッ●それから水をゴクゴク●で●眠るまでの一時間ほどのあいだ●シェイクスピヒイイイイイイイイイイア●と●エリオットのまね●笑●できることなら●生きているあいだに●顔を見たひとみんな●声を聞いたひとみんな●そばにいたひとみんなを●こころにとどめておきたい●とかなんとか●霊は●ゴーストは●蜘蛛のように●くるくると巻き取るのだ●時間を●空間を●出来事を●くるくると巻き取っていくのだ●そのヴィジョンがくっきりと目に浮かぶ●愛によって●理解しようとする意図によって●糸によって●時間を●空間を●出来事を●くるくると巻き取っていくのだ●ひゃひゃひゃ●意図は●糸なのね●ひゃひゃひゃひゃひゃ●ワードの機能は●無意識の意図を●糸を●つむぎだすのだね●自分のメモに●「表現とは認識である」とあった●日付はない●ひと月ほど前のものだろうか●わたしが知らないことを●わたしの書いた言葉が知っている●ということがある●しかも●よくあることなのだ●それゆえ●よくよく吟味しなければならない●わたしの言葉が●認識を先取りして●時間と空間と出来事を●くるくると巻き取っていくのだ●「表現とは認識である」●この短いフレーズが気に入っている●発注リストという言葉を読み間違えて●発狂リストと読んでしまった●お上品発狂●おせじ発狂●携帯電話発狂●注文発狂●匍匐前進発狂●キーボード発狂●高層ビル発狂●神ヒコウキ発狂●歯磨き発狂●洗顔発狂●小銭発狂●ティッシュ発狂●ノート発狂●鉛筆発狂●口紅発狂●カレンダー発狂●ときどき駅のホームや道端なんかで●わけわからんこと言うてるひとがいるけど●手話で発狂を表わしてもいいと思う●オフィーリアの発狂を●手話で表わしたらどんなんなるんやろうか●きれいな手の舞いになるんやろうか●おすもうさんも発狂●ハッキョー●のこった●のこった●てね●後味すっきり●発狂も●やっぱ後味よね●ええ●ええ●それでも●ぼくにはまだ●虫の言葉はわかりません●あたりまえだけど●あたりまえのことも書いておきたいのだ●沖縄では●塩つぶをコップの半分ほども飲むと●蟻の言葉がわかるという言い伝えがあるんだけど●死んじゃうんじゃないの●塩の致死量って●どれくらいか忘れたけど●むかし●京都の進学高校で●洛星高校だったかな●運動会の日に●ある競技でコップ一杯分の塩つぶを飲ませられて●生徒が何人か死にかけたっていう話を聞いたことがある●その場で倒れて救急車で病院に運ばれたらしいけど●朝●通勤の途中に寄った本屋さんで●シェイクスピアの『あらし』をちらりと読んでたら●「ああ●人間てすばらしい」というセリフがあって●人間手●すばらしい●で●違うページをめくったら●ちんちんかもかも●ってセリフがあって●あれ●こんなセリフあったんやって思って●帰ってきてから●しばらく●ちんちんかもかもって●そういえば●むかし読んだことがあって●笑ったかなあって●美しい●オフィーリアの●溺れた手の舞いが●スタージョンの●ビアンカの手を思い出させて●ええと●いまのアメリカの大統領●名前忘れちゃった●あ●ブッシュね●あのひと●完全にいかれちゃってるよね●戦争起こして●ゴルフして●あんなにうれしそうな笑顔ができるんだもんね●戦争が好きなひとの笑顔って●こわいにゃ●腹筋ボコボコのカニ●毎日ボコボコ●ボコボコ●爆撃してるのね●あ●で●手話発狂●そうそう●そだった●手で●ぐにぐにしてるひとがいたら●それは手話発狂なんやって●そだった●『ハムレット』のなかで●オフィーリアが発狂して●川辺で歌い踊りながら●川に落ちて死んだ●と●告げるシーンがあって●もちろん●美しい声で歌を歌いながら●若い娘らしく可憐に踊りながら●川に落ちるんやろうけど●どんなんやったんやろうかって●きれいな手の舞いやったんやろうかって●手に目が●目に手が●たたんた●たん●たた〜●たたんた●たん●たた〜●軽度から重度まで●いろいろな症状の発狂リスト●程度の違いは多々●多々●たたんた●たん●たた〜●たたんた●たん●たた〜●で●ぼくたちは●思い出でできている●ぼくたちは●たくさんの思い出と嘘からできている●ぼくたちは●たくさんの嘘とたくさんのもしもからできている●嘘●嘘●嘘●もしも●もしも●もしも●ぼくたちは●百億の嘘と千億のもしもからできている●それは●けっして●だれにも●うばわれることのない●ときどきノイローゼの仮面ライダー●キキーって●ときどきショッカーになる●「あんた●仮面ライダーなんやから●悪モンのショッカーになったらあかんがな」●「変身願望があるんです」●「正義の味方なんやから●そんな願望持ったら●あかんがな」●「そやけど●どうしても●ときどきショッカー隊員になりたいんです」●「病気やな」●「ただの変身願望なんです」●「病気だよ」●「キキー!」●自分の感情のなかで●どれが本物なのか●どれが本物でないのか●そんなことは●わかりはしない●そう言うと●まるで覚悟を決めた人身御供のように●わたしは●その場に身を沈めていったのであった●ずぶずぶずぶ〜●百億の嘘と千億のもしも●きょう●『The Wasteless Land. III』の校正を●仕事場の昼休みにしていて●「ぶつぶつとつぶやいていた」●と書いてあったのを●[putsuputsu]と[putsu]やいていた●と発音して●これっていいなって思ったり●[tsuputsupu]と[tsupu]やくでもいいかなって●思ったりしていた●市場の仕事って●夜明け前からあって●って言葉を●昼過ぎに職場で耳にして●ああ●何年前だったろう●十年くらい前かな●ノブユキに似た青年が●ぼくのこと●「タイプですよ」って●「付き合いたい」って言ってくれたのは●でも●そのとき●ぼくには●タカシっていう恋人がいて●タカシのことはタンタンって呼んでいたのだけれど●ノブユキに似た彼には何も言えなかった●彼は●市場で働いてるとか言ってた●「朝●はやいんですよ●夜中の2時くらいには起きて」●だったかな●だから●会えるとしても●月に一回ぐらいしか●と言われて●ぼくには●壊れかけの関係の恋人がいて●タンタンのことね●壊れかけでも●恋人だったから●で●彼には●ごめんねって言って●梅田のゲイ・ポルノの映画館で●東梅田ローズっていったかな●彼といっしょに●トイレの大のほうに入って●ぼくたちは抱き合い●キスをして●彼のチンポコを●ぼくはくわえて●彼のアヌスに指を入れて●ぼくは彼のチンポコをくわえながらこすって●こすりながら彼のチンポコをくわえて●彼は目をほそめて●声を出して●あえぎながら●ぼくの口のなかでいって●彼は目をほそめて●あえぎながら●ぼくの口のなかでいって●すると●アヌスがきゅって締まって●ぼくの指がきゅって締めつけられて●ああ●ノブユキ●ほんとに似てたよ●きみにうりふたつ●そっくりだったよ●もしも●あのとき●もしも●あのとき●もしも●あのとき●ぼくが付き合おうかって●そんな返事をしてたらって●そんな●もしも●もしもが●百億も●千億もあって●ぼくの頭のなかで●[tsuputsupu]と[tsupu]やいている●つぷつぷとつぷやいている●[tsuputsupu]と[tsupu]やいている●つぷつぷとつぷやいている●ぼくたちは●百億の嘘と千億のもしもからできている●ぼくたちは●もしも●もしもでいっぱいだ●ぼくは何がしたかったんだろう●ちゃんと愛しただろうか●ぜんぜん自身がない●百億の嘘と千億のもしもを抱えて●ぼくは●[tsuputsupu]と[tsupu]やいている●つぷつぷとつぷやいている●つぷつぷと●通報!●通報!●蘇生につぐ蘇生で●前日の受難につぐ受難から●凍結地雷という兵器を想像した●踏むと凍結するというもの●きのう●dioのメンバーで●雪野くんという●まだ京都大学の一回生の男の子がいて●その子が●この夏●哲学書をたくさん読んでいたらしく●「ぼくって●まだ不幸を知らないんです●これで哲学を理解できるでしょうか」●って訊いてきた●「不幸なんて●どこにでもあるやんか●ちょっとしたことでも●不幸の種になるんやで」●って言ってあげた●いや●むしろちょっとしたことやからこそ●不幸の種になるといってもよい●ぼくなら唇の下のほくろ●なんだか泣き虫みたいで●情けない●あ●情けない話やなくて●不幸の話やった●そうやな●漫才師の「麒麟」っていうコンビの片割れが●むかし●公園で暮らしたことがあるって●そんなことを書いた本があって●売れているらしくってって●このあいだの日曜日に会った友だちが●ジミーちゃんね●「今●本屋で探しても●ないくらいやで」●とのこと●ほら●他人の不幸も●そこらじゅうに落ちてるやんか●でも●赤ちゃんがいてると●不幸が●どこかよそに行ってしまうんやろうなあ●アジアやアフリカの貧しい国の子供たちの顔って●輝いてるもんなあ●アジア●アフリカかあ●行ったことないけど●写真見てたら●そんな気がするなあ●おいらのこの感想も浅いんやろなあ●そこのほんまの現実なんて知らんもんなあ●でも●公園で暮らしてた●っていうエピソードは●レイナルド・アレナスを思い起こさせる●レイナルド・アレナス●『夜になる前に』という映画や●そのタイトルの自伝で有名な作家●彼の尋常でない●男の漁り方は●必見!●必読!●そういえば●ラテン・アメリカの作家の作品には●ゲイの発展場とか●よく出てくるけど●女性にも理解できるんやろうか●まだ訊いたことないけど●また●訊けるようなことちゃうけど●笑●男やったら●ゲイでなくてもわかるような気がするけど●ちゃうかなあ●どやろか●笑●道徳とは技術である●多くの人間が道徳につまずく●あるいは●つまずくのを怖れる●道徳のくびきを逃れようとする者は多いが●逃れ切ることができる者は少ない●道徳は●まったき他人がつくるものではない●自分のこころのなかの他人がつくるものである●いわば●自分のこころに振り回されているのである●パピプペポポ詩って●タイトルにしようかな●うんこの本をきのう買ったから●うんこのことを書くにょ●『うんことトイレの考現学』っちゅう本だにょ●うんこの話も奥が深いんだにょ●しかし●ひかし●ひかひ●ひひひ●そんじょそこらにあるうんこの詩を書くにょ●さわったら●うんこになる詩だにょ●嗅いだら●うんこの臭いがするにょ●ぼくは●そんな滋賀●柿●鯛●にょ●阿部さん●黒丸って●それひとつだけでも●そうとう美しいですものね●で●砲丸が空から落ちてくるように●黒丸でページを埋め尽くすと●それはもう●美しい紙面に●というわけで●戦争を純粋に楽しむための再教育プログラム●こんどの詩集は●全ページ黒丸で●埋め尽くしました●文字ではなく●黒丸だけを見るために●ぱらぱらとページをめくる●といった方も●いらっしゃるんじゃないかしら●と●ひそかに●ほくそえんでいます●ぼくは●ぱらぱら●自分でしてみて●悦に入ってました●書肆山田さんから●ゲラの第二稿がまだ届かないので●読書三昧です●笑●そろそろ睡眠薬が効いてきたかな●眠くなってきた●阿部さん●おはようございます●すごいはやいですね●ぼくはいま起きました●真ん中の弟を●下の弟が殺した夢を見ました●それを継母がどうしても否定するので●ぼくが下の弟を●サーカスの練習で使う●空中ブランコの補助網の上で●弟を下に落とそうと脅かしながら●白状させようとするのですが●白状しません●最後まで白状しませんでしたが●ぼくは●真ん中の弟の骨についた肉を食べて●その骨をいったん台所の流しの●三角ゴミ入れのなかに入れて●またそれを拾い出して●ズボンのポケットに入れました●奇妙な夢でした●意味わからん夢ですね●スイカを見る●スイカになる●真夜中の雨の郵便局●ぼくの新しい詩集の校正をようやく終えたのが●夜の12時すぎ●さっき●で●歩いて7●8分のところにある●右京郵便局に●こんな夜中でも●ぼくと同じ時間に●二組みのひとたちが●郵便物を受け取りに●あるいは●書留を出しにやってきていた●昼には●四条木屋町の「ソワレ」という有名な喫茶店に行って●ジミーちゃんに●ぼくの作品が載ってる●國文學の増刊号を読んでもらって●感想を聞いたり●ぼくの新しい詩集の初校を見てもらって●ぼくが直したところ以外に●直さなければならない箇所がないか●ざっと見てもらったりしていたのだけれど●場所が変わると●気分が変わるので●ぼく自身が●きのうまで気がつかなかったミスを見つけて●そこで●5箇所くらい手を入れた●ああ●文章って怖いなあ●と思った●なんで二週間近く見ていて●気がつかなかったんやろうか●また文章と言ったのは●こんどのぼくの詩集って●改行詩じゃないのね●とくに●『The Wasteless Land.III』は●一ヶ所も改行していないので●書肆山田の大泉さんも●ぼくのその詩集の詩をごらんになって●マグリットの●『これはパイプではない』という作品が思い出されました●と手紙に書いてくださったのだけれど●ということは●「これは詩ではない」という詩を書いたということなのか●それとも●単に「これは詩ではない」というシロモノを書いたということなのか●まあ●ぼくは●自分の書いたものが●詩に分類されるから●詩と言っているだけで●詩と呼ばれなくても●詩でなくてもいいのだけれど●まあ●詩のようなものであればいいのだけれど●あるいは●詩のマガイモノといったものでもいいのだけれど●ぼくは●ぼくの書いたものを見て●読者がキョトンとしてくれたら●うれしいっていう●ただそれだけの●単純なひとなのだけれど●ぼくは●ああ●ぼくは●詩を書くことで●いったい何を得たかったのだろう●わからない●いまだによくわからないのだけれど●ぼくは●詩を書くことで●かえって何かを失ってしまったような気がするのだ●その何かが何か●これまた●ぼくにはよくわからないのだけれど●もしも得たかったものと●失ってしまったものとが同じものだとしたら●同じものだったとしたら●いったいぼくは●ぼくは●中学2年のとき●祇園の家の改築で●一年間ほど●醍醐にいた●一言寺(いちごんじ)という寺が坂の上にあって●両親はその坂道のうえのほうに家を買って●ぼくたちはしばらくそこに住んでいた●引っ越してすぐのことだと思う●友だちがひとり●自転車に乗って●東山から●わざわざたずねてきてくれた●土曜日だったのかな●友だちは●ぼくんちに泊まった●夜中にベランダに出て●夜空を眺めながら話をしてたのかな●空に浮かんだ月が●いつになく大きくて明るく輝いていたような気がする●でも●そのときの話の内容はおぼえていない●ぼくはその友だちのことが好きだったのだけど●ぼくは●まだセックスの仕方も知らなかったし●キスの仕方も知らなかったから●あ●これは経験ありか●嘘つきだな●ぼくは●笑●でも●ぼくからしたことはなかったから●したいという衝動はあったのだろうけど●はげしい衝動がね●笑●でも●どういうふうにしたら●その雰囲気にできるか●まったくわからなかったから●いまなら●ぼくのこころのなかの暗闇に●ほんのすこし手を伸ばせば●その暗闇の一部を引っつかんで●そいつを相手に投げつけてやればいいんだと●知っているんだけど●しかし●もうそんな機会は●『Street Life。』●こんなタイトルの詩を●何年か前に書いた●いま手元に原稿の写しがないので●正確に引用できないんだけど●その詩は●ぼくが手首を切って風呂場で死んでも●すぐに傷が治って生き返って●ビルから飛び降りて頭を割って死んでも●すぐに元の姿にもどって●洗面器に水を張って顔をつけて溺れ死んでも●すぐに息を吹き返して●そうやって何度も死んで●何度も生き返るという●ぼくの自殺と再生の描写のあいだに●ぼくとセックスした男の子のことを書いたものなんだけど●その男の子には●彼女が何人もいて●でも●ときどきは●男のほうがいいからって●月に一度くらいって言ってたかな●ぼくとポルノ映画館で出会って●そのあと●男同士でも入れるラブ・ホテルに行って●セックスして●彼はアナル・セックスが久しぶりらしくて●かなり痛がってたけど●たしかに●締まりはよかった●大きなお尻だった●がっちり体型だったから●シックスナインもしたし●後背位で挿入しながら●尻たぶをしばいたりもした●で●このように●ぼくの死と再生というぼくの精神的現実と●その男の子とのセックスという肉体的現実を交互に書いていったものだったのだけれど●その男の子がぼくに話してくれたことも盛り込んだのだけれど●そのときの話を●完全には思い出すことができない●彼は●女性はいじめたい対象で●大阪のSMクラブにまで行くと言っていた●男には●いじめられたいらしいんだけど●はじめての経験は●スピード出し過ぎでつかまったときの●白バイ警官で●そいつに●ちんこつかまれて●くわえられて●口のなかでいった●とかなんとか●ぼくは最初のセックスで●相手に「いっしょにいこう」と言われて●えっ?●どこに?●って言ったバカなんだけど●で●その男の子は●あ●この男の子ってのは●ぼくの最初のセックスの相手じゃなくて●Street Life●の男の子のほうね●で●その男の子は●中国人で●小学校のときに日本にきて●中学しか出てなくて●いま26歳で●学歴がないから●中学を出てからずっと水商売で●いまはキャバクラの支配人をしていて●女をひとり●かこっていて●部屋まで借りてやって●でも●ほんまに愛しとる女もいるんやで●そいつには俺がSやいうことは知られてへんねんで●もちろん●ときどき男とセックスするなんてぜんぜん知らんねんで●想像もしたこともないやろなあ●とかなんとか●そんな話をしていて●ぼくは●そんなことを詩の言葉にして●ぼくが●何べん自殺しても●生き返ってしまうという連のあいだにはさんで●ええと●この詩●どなたかお持ちでないでしょうか●ある同人誌に掲載されたんですけど●その同人誌をいま持ってないんですよ●ワープロを使っていたときのもので●パソコンを買ったときに●ワープロとフロッピー・ディスクをいっしょに捨ててしまったので●もしその同人誌をお持ちでしたら●コピーをお送りください●送料とコピー代金をお返しします●同人誌の名前も忘れちゃったけど●『Street Life。』●いい詩だったような記憶がある●言葉はさまざまなものを招く●その最たるものは諺どおり●禍である●阿部さん●場所って●不思議な力を持っているものなのですね●「ソワレ」で●それまで見えていなかったものが●見えてしまったのですもの●ひさしぶりに●哲学的な啓示の瞬間を味わいました●「われわれの手のなかには別の風景もある」●含蓄のあるお言葉だと思います●わたしたち自身も場所なので●わたしたちを取り囲む外的な場所自体の記憶+ロゴス(概念形成力・概念形成傾向)と●わたしたち自身の内的な場所の記憶+ロゴス(概念形成力・概念形成傾向)が●作用し合っているというわけですね●わたしたちだけではなく●場の記憶やロゴス(概念形成力・概念形成傾向)も●随時変化するものなのですね●ヘラクレイトスの●「だれも同じ川に二度入ることはできない●なぜなら●二度目に入るときには●その川はすでに同じ川ではなく●かつまた●そのひとも●すでに同じひとではないからである」といった言葉が思い起こされました●薔薇窗16号●太郎ちゃんのジュネ論●明解さんの引用が面白い位置にあって●このスタイルって●つづけてほしいなあって思いました●かわいらしかったですよ●タカトさんのお歌も●幽玄な感触が濃厚なもので●味わい深く感じました●ああ●雨脚がつよくて●雨音がつよくて●なんか●ぼくのなかにあるさまざまな雑音が●ぼくのなかから流れ出て●それが雨音に吸収されて●しだいにぼくがきれいになっていくような気がしたのですが●そのうち●ぼく自身が雨音になっていくような気がして●ぼくそのものが消え去ってしまうのではないかとまで思われたのでした●ぼく自体が雑音だったのでしょうか●阿部さん●記憶+ロゴス(概念形成力・概念形成傾向)●と書きましたが●記憶=ロゴス(概念形成力・概念形成傾向)●かもしれませんね●こういったことを考えるのも好きです●ひとりひとりを●ひとつひとつの層として考えれば●世界はわたしたちの層と層で積み重なっているという感じですね●でも●わたしたち自身が質的に異なるいくつもの層からなるものだとしたら●世界はそうとうな量●さまざまなもので積み重なってできているものとも思われますね●世界の場所という場所は●数多くの層を●数多くのアイデンティティを持っているということになりますね●その層と層とのあいだを●また●自分のなかの層と層とのあいだを●あるいは●世界と自分との層と層とのあいだを●いかに自由に移動できるか●表現でどこまで到達し●自分のものとすることができるか●どのぐらいの層まで把握し●同化することができるか●わあ●わくわくしてきました●ぼくも●もっともっと深い作品を書かねばという気になってきました●おとつい●「ぽえざる」で●年配の女性の方が●「みんなきみのことが好きだった。」を手にとってくださり●目次をちらりとごらんになられて●「すてきね」とおっしゃって●買って行ってくださったのですが●ぼくは●なんて返事をするべきかわからなくって●ただ「ありがとうございます」と言っただけで●お金を受け取ったあと●ぺこりと頭をさげただけだったのですが●きのうと●きょう●その年配の女性の方のことが思い出されて●なんていうのでしょうか●幸福というものが●どういうものか●46歳にもなって●まだわからないところがあるのですが●おとつい耳にした●「すてきね」という●ささやくような●つぶやくようなその方の声が●耳から離れません●来年●また●「ぽえざる」でお会いしたときに●なんておっしゃってくださるのか●なにもおっしゃってくださらないのか●わかりませんが●「すてきね」という●その方の声が●すさんだぼくの耳を●ずいぶんと癒してくださったように思います●お名前もうかがわないで●なんて失礼なぼくでしょう●でも●このことは●創作というものがなにか●その一面を●ぼくに教えてくれたような気がします●自分さえ満足できるものができればいいと思っている●思っているのですが●「すてきね」という声に●そう思っている自分を●著しく恥ずかしいと思ったわけです●うん●勉強●勉強●まあ●こんな殊勝な思いにかられるのも●ほんのすこしのあいだだけなんだろうけどね●笑●言葉は同じような意味の言葉によっても●またまったく異なるような意味の言葉によっても吟味される●ユリイカの2003年4月号●特集は●「詩集のつくり方」●むかし書いた自分の文章を読み返す●自分自身の言葉に出会う●かつて自分が書いた言葉に●はっとさせられる●もちろん●体験が●言葉の意味を教えてくれることもあるのだけれど●言葉の方が●体験よりはやく●自分の目の前に現れていたことにふと気づく●ふだんは気がつかないうちに●言葉と体験が補い合って●互いに深くなって●さらに深い意味を持つものとなって●ぼくも深くなっているのだろうけれど●きのう●シンちゃんに●「許す気持ちがあれば●あなたはもっと深く●自分のことがわかるだろうし●他人のこともわかるだろう●むかしからそうだったけれど●あなたには他人を理解する能力がまったく欠けている」●と言われた●ぼくは●今年亡くなった父のことについて電話で話していたのだ●「ひとそれぞれが経験しなければならないことがある●ひとそれぞれに学ぶべきことがある●学ぶべきことが異なるのだ●ひとを見て●自分を見て●それがわからないのか」●とも言われた●深い言葉だと思った●と同時に●46歳にもなって●こんなことが●自覚できていなかった自分が恥ずかしいと思った●自分を学べ●ということなのだね●むずかしい●と●そう思わせるのは●ぼくが●人間として小さいからだ●それは●ひとを愛する気持ちが少ないからか●だとすれば●ぼくは●愛することを学ばなければならない●46歳にもなったぼくだけれど●でも●ぼくは●これから愛することを学べるのだろうか●自分を学べ●の前に●愛することを学べ●と書いておく●きょうの一日の残りの時間は●それを念頭において生きてみよう●あとちょっとで●きょう一日が終わるけど●笑●でも●ぼくの場合●愛することとは何か●と考えて●それで学んだ気になるかもしれない●それでは愛することにはならないのだけれど●無理かなあ●愛すること●自分を学ぶこと●うううん●ひとまず顔を洗って●歯を磨いて●おやすみ●笑●トマトケチャップの神さまは●トマトの民の祈りの声を聞き届けてはくださらない●だって●トマトケチャップの神さまだからね●彼氏は裸族●ぜったい裸族がいいわ●彼の衣装は裸だった●ぼくに向かって微笑んでくれた●彼の顔は●こぼれ出る太陽だった●ぼくは●目をほそめて●彼を見上げた●うつくしい日々の●記憶のひとつだった●そのときにしか見れないものがある●その年代にしか見れないうつくしいものがある●そのときにしか見れない光がある●その年代でしか感じとれない光がある●言葉が●それらを●ときたま想起させる●思い出させる●タカトさん●きょうのお昼は●東山に桜を見に行きました●八坂神社の円山公園に行き●しだれ桜を見てまいりました●散り桜もちらほらと見受けられました●帰りに四条木屋町を流れる高瀬川のあたりを歩いておりますと●花筏というのでしょうか●タカトさんのミクシィの日記を拝読していて●この言葉を知りましたが●川沿いに植えられた桜の花びらが散り落ちて●川一面に流れておりました●また●いたるところで●詩は●うんこのように●毎日●毎日●ぶりぶりってひりだされているのですが●そのことには気がつかないで●いかにも「詩」みたいなものにしか反応できないひとが●たくさんいそうですね●すました顔で●でっかいうんこをする彼女が欲しいと●そんなことを言う●男の子がいてもいいと思います●うんこ色のパンツをはいた●ひきがえるが●白い雲にむかって●ぶりぶり●ぶりぶりっと●青いうんこを●ひっかけていきます●そしたら●曇ってた空が●たちまち●青く青く●晴れていきました●うんこ色のパンツをはいた●ひきがえるに●敬礼!●ペコリ●笑●くくく●昨年の冬に●近所の公園で踏みました●草のなかで●気づかずに●こんもりと●くやしかった●笑●そういえば●雲詩人とか●台所詩人とか●賞詩人とか●いろいろいますが●すばらしいですね●ぼくは●うううん●ぼくは●ぼこぼこ詩人です●嘘です●ぼくは●うんこ詩人です●ぼくは●でっかいうんこになってやろうと思っています●一度形成されたヴィジョンは●音楽が頭のなかで再生されるように●何度でも頭のなかで再生される●わざと間違った考察をすること●わざと間違えてみせること●わざと間違えてやること●タカトさん●「言葉の真の『主体』とは誰か」ですか●書きつけた者でもなく●読む者でもなく●言葉自体でもなく●だったら●こわいですね●じっさいは書きつけた者でもあり●読む者でもあり●言葉自体でもあるというところでしょうか●「わたし」という言葉が●何十億人という人たちに使用されており●それがただひとりの人間を表わすこともあれば●そうでない場合もあるということ●いまさらに考えますと●わたしが記号になったり●記号がわたしになったり●そんなことなどあたりまえのことなのでしょうけれど●あらためて考えますと●不思議なことのように思われますが●だからこそ●容易に物語のなかに入りこめたり●他者の経験を自分のことのように感じとれたりするのでしょうね●きょう●dioの締め切り日だと思ってた●だけど違ってた●一日●日にちを間違えてた●一日もうけたって感じ●ワルツじゃ●いや●アルツか●笑●笑えよ●おもろかったら●笑えよ●こんなもんじゃ笑われへんか●光が波立つ水面で乱反射するように●話をしているあいだに●言葉はさまざまなニュアンスにゆれる●交わされる言葉が●さまざまな表象を●さまざまな意味概念を表わす●それというのも●わたしたち自身が揺れる水面だからだ●ユリイカに投稿しているとき●過去のユリイカに掲載された詩人たちの投稿詩を読んでいると●「きみの日曜日に傷をつけて●ごめんね」みたいな詩句があって●感心した●それから●たびたび●この言葉どおりの気持ちが●ぼくのこころに沸き起こるようになった●きみに傷を●と直接言っていないところがよかったのだろうか●きみの日曜日に●というところが●Shall We Dance●恋人とこの映画を見に行く約束をして●その待ち合わせの時間に間に合いそうになくって●あわてて●バスに乗って●河原町に行ったのだけれど●あわてていたから●小銭入れを持って出るのを忘れて●で●財布には一万円札しかなかったので●運転手にそう言うと●「釣りないで」●ってすげなく言われて●ひえ〜●って思って固まっていたら●ほとんど同時に●前からはおじさんが●後ろからは背の高い若い美しい女性が●「これ使って」「これどうぞ」と言ってお金を渡そうとしてくださって●これまた●ひえ〜●って状態になったんだけど●おじさんのほうが●わずかにはやかったので●女性にはすいませんと言って断り●おじさんにもすいませんと言って●お金を受け取って●「住所を教えてください」●と言うと●「ええよ●ええよ●もらっといて」●と言われて●またまた●ひえ〜●となって●バスから降りたんやけど●そのあと●恋人と映画をいっしょに見てても●バスのなかでの出来事のほうがだんぜんインパクトが強くて●まあ●映画も面白かったけどね●映画よりずっと感動が大きくって●で●その感動が●長いあいだ●こころのなかにとどまっていて●ぼくも似たことを●そのあと●阪急の●梅田の駅で●高校生くらいの恋人たちにしてあげた●切符の自販機に同じ硬貨を入れても入れても下から返却されて困ってる男の子に「これ使えばええよ」と言って●百円玉を渡してあげたことがあって●たぶん●はじめてのデートだったんだろうね●あの男の子●女の子の前で赤面しながらずっと同じ百円硬貨を同じ自販機に入れてたから●あの子の持ってた百円玉●きっとちょこっとまがってたんだろうね●あの子たちも●どこかで●ぼくのしてあげたことを思い出してくれてたりするかなって●これ●まだどこにも書いてなかったと思うので●いま思い出したので●書いとくね●でも●あのときの恋人●いまどうしてるんやろか●あ●ぼくの恋人ね●いまの恋人と同じ名前のえいちゃん●エイジくん●おおむかしの話ね●あのときのエイジくんは●えいちゃんって呼んだら怒った●それは高校のときに付き合ってた彼女だけが呼んでもええ呼び方なんや●って言ってた●いま付き合っているえいちゃんは●えいじって呼び捨てにすると怒る●なんだかなあ●笑●初恋が一度しかできないのと同じように●ほんとうの恋も一度しかできないものなのかな●ほんとうの恋●真実の恋と思えるもの●その恋を経験した後では●どの恋も●その経験と比べてしまい●ほんとうの恋とは思えなくさせてしまうものなのだから●しかし●ほんとうの恋ではなかっても●愛がないわけではない●むしろ●ほんとうの恋では味わえないような細やかな愛情や慈しみや心配りができることもあるのではないか●スターキャッスルのファーストをかけながら●自転車に乗って郵便局に行ったんやけど●「うまく流れに乗れば土曜日に着きます」という●局員の言葉に●ああ●郵便物って●流れものなのか●と思って●帰りは●「どうせ●おいらは流れ者〜」とか●勝手に節回しつけて●首をふりふり帰ってきました●あ●ヘッドフォンはスターキャッスル流しっぱなしにしてね●で●これから●また自転車に乗って●五条堀川のブックオフに●ひゃ〜●どんなことがあっても●読書はやめられへん●本と出会いたいんや●まあ●ほんまは恋に出会いたいんやけどね●笑●いやいや〜●恋はもうええかな●泣●恋愛増量中●日増しに●あなたの恋愛が増量していませんか●翻訳するにせよ●しないにせよ●誤読はつねにある●ジョン・レノンの言葉●「すべての音楽はほかの何かから生まれてくるんだ」に●しばし目をとめる●目をとめて考える●あらゆるものがほかの何かから生まれてくる●うううん●なるほど●あらゆるものがほかの何かからできている●とすれば●まあ●たしかに●そんな気がするのだけれど●では●それそのものから生まれてくるものなどないのだろうか●それそのものからできているものなどないのだろうか●とも思った●もう一度●「すべての音楽はほかの何かから生まれてくるんだ」に●目をとめる●ブックオフで『新古今和歌集』を買った●あったら買おう●と●チェックしていた岩波文庫の一冊だった●で●手にとって開いたページにあって●目に飛び込んできた歌が●「言の葉のなかをなくなく尋ぬれば昔の人に逢ひ見つるかな」で●運命的なものを感じて●すかさず買う●笑●人間はひとりひとり●自分の好みの地獄に住んでいる●水風呂につかりながら読んでいる『武蔵野夫人』も●面白くなってきたところ●どうなるんやろねえ●漱石が知性の苦しみを描いたのに対して●大岡昇平は●知性の苦しみが美しいところを描いている●この違いは大きいと思う●小説は実人生とは異なるのだから●美しいものであるべきだと思う●真実が美しいのではないのだ●真実さが美しいのだ●ぼくは●苦しみを味わいたいんやない●苦しみを味わったような気になりたいんや●だから●漱石よりも大岡昇平のほうが好きなんや●麦茶の飲みすぎで●ちとおなかが冷えたかも●お腹が痛い●新しいスイカ割り●スイカが人間にあたって●人間がくだけちゃうっての●どうよ●うぷぷぷぷぷ●ああ●なぜ●わたしは●わたし自身に偽りつづけたのだろうか●そんなに愛をおそれていたのだろうか●愛だけが●人間に作用し●その人間を変える力があるからだろう●なぜなら●本物の愛には●本物の苦痛があるからだ●でも●贋物の愛にも本物の苦痛があるね●笑●なんでやろか●よい日本人は死んだ日本人だけだ●というのが●太平洋戦争のときの●アメリカ政府のアメリカ人に対する日本人というものの戦略的な知らしめ方●いわゆるスローガンのひとつだったのだけれど●詩人にとって●よい詩人も●案外●死んだ詩人だったりして●笑●彼は同時に二つの表情をしてみせた●ぼくのこころに二つの感情が生じた●そのひとつの感情を●ぼくは悲しみに分類し●悲しみとして思い出すことにした●自我を形成するものを遡ると●自我ではないものに至りつくのか●自転車に乗って●嵐山に行った●ジミーちゃんと●ジミーちゃんは●モンキー・パークに行くという●ぼくは猿がダメなので●というのも●大学の人類学の授業の演習で●嵐山の猿を観察していたときに●仔猿をちらっと見ただけで●その母親の猿に追いかけられたことがあるからなんだけど●で●それで●ぼくは●モンキー・パークの入り口の登り口近くの●桂川の貸しボートの船着場のそばの●石のベンチの上に坐って●目の前に松の木のある木陰で●ジミーちゃんを待っていました●川風がすずしく●カゲロウがカゲロウを追って飛んでいる姿や●鴨が鴨の後ろにくっつくようにして水面をすべっている様子を目で追ったり●ボートがいくつで●どんな人たちが何人くらい乗っているか●数えてみたりしていました●いや●多くの時間は●さざなみの美しさに見とれていましたから●ボートとそのボートに乗った人たちのことは●その合い間に観察していた●と書いたほうが正確でしょう●十二のボートが川の上に浮かんでいました●三人連れのボートが一つ●三人の子供を乗せた父親らしきひとの4人乗りが一つ●あとは●男女のカップルにまじって●男男のつれ同士が二つ●女女のつれ同士が一つでした●ぼくが一人で坐っていると●ゲイらしきカップルが●左となりに腰掛けて●自分たちの姿をパチパチ写真に撮りはじめました●背中に腕をまわして抱き合ったり●まあ若いから●まだ20歳くらいでしょう●二人とも●かわいらしくて美しいから許される光景でしたが●笑●と●思っていると●右となりにも●ゲイらしきマッチョ風の男同士のカップルがやってきて●ここは●どこじゃ●と●ぼくは不思議に思いましたが●まあ●そんなこともありかな●と思いました●有名な観光名所ですものね●右となりのカップルは●タイかフィリピンかカンボジアからって感じで●中国語とも韓国語とも違う言葉をしゃべっていたような●左となりのカップルは●たぶん韓国語だと思いますけど●ぼくは●川の風景と●川ではないものの風景を●たっぷり楽しんでいました●ジミーちゃんがくるまで●4●50分くらいでしょうか●左となりのカップルは●楽しげに●ずっといちゃいちゃしていました●時代ですね●川のうえを●川の流れとともに下っていくさざなみが●ほんとにきれいやった●また●さざなみの一部が●川岸にあたって●跳ね返ってくる波とぶつかってできる波も●ほんまにきれいやった●ぼくは●きょうの半分を●川に生かされたと思った●川と●川風ちゃん●ありがとう●美しかったよ●何もかも●画像を撮らなかったのが残念●行きの自転車では死にそうなくらいに暑かったですが●陰にはいりますと●川風がここちよかったです●同じくらいの時間に●タカトさんも行ってらっしゃってて●でも●南北と●違う川沿いの道だったようですね●お会いできずで●残念です●きらきらときらめく水面が美しかったです●ここ●1●2週間●悩むことしきり●自分の生き方もですが●生きている道について考えていました●父親が●ことし亡くなったのも関係があるのかもしれません●ジミーちゃんに●帰りに一言●言いました●ぼくって●だれかひとりでも●ひとを幸せにしてるやろか●って●そんなん知らんわ●とのお返事でした●うううううん●もしも●ぼくの存在が●ただひとりの人間のためにもなっていないのだとしたら●生きている価値なんかあるんやろか●って●川の美しさに見とれながら●そんなこと●考えていました●家族がいないということがきっかけでしょうか●自分の選んだ道ですが●自分の選んだ生き方ですが●自分の存在があまりに小さく思えて●こんなこと●考えるひとじゃなかったのですが●考えれば気がつくこと●考えなければ●いつまでも気がつかなかったであろうこと●ひとつひとつの息が●つぎの息につづくように●孤独を楽しむ●といっても●もう自分が孤独でないことを●ぼくは知っている●何かについて考えたり●思い出したりすると●その何かが●ぼくに話しかけたり●考えさせたりしてくれるからだ●ぼくが出来事に注意を払うと●出来事のほうでも●ぼくに注意を払ってくれるのだ●だから●赤ちゃんや●幼児が●愛に包まれているように見えるのだ●ときどき●ぼくは●ぼくになる●ときどき●詩人が●詩人になるように●で●詩人がぼくになったり●ぼくが詩人になったり●これまで●ぼくは●たくさんのことに触れてきたけど●そのとき同時に●たくさんのことも●ぼくに触れていたのだ●と●そんなことを●きょう●電車のなかで読んでいた●シルヴァーバーグの『Son of Man』●の●He touches everything and is touched by everything.●というセンテンスが●ぼくに教えてくれた●ほんとうのぼくが●ここからはじまる●帰りの通勤電車のなかで●ふとメモを取った言葉だった●ところで●禅●って●詩の骨●みたいなものかしらね●矛盾律の解体●と●言ってもいいのかも●解体●じゃなく●再構築かな●彼のぬくもりが●まだそのベンチの上に残っているかもしれない●彼がそこに坐っていたのは●もう何年も前のことだったのだけれど●あるものを愛するとき●それが人であっても●物であってもいいのだけれど●いったい●わたしのなかの●何が●どの部分が●愛するというのだろうか●どんな言葉が●いったい●いつ●どのようなものをもたらすのか●そんなことは●だれにもわからない●わかりはしない●人生を味わうのが●人生の意味だとしたら●いま●どれぐらいわかったところにいるんだろう●ふと水鳥が姿を現わす●なんと生き生きとした苦痛だろうか●その苦痛は●ぼくの胸をかきむしる●ああ●なんと生き生きとした苦痛だろうか●苦痛という言葉が●水鳥の姿をとって●ぼくの目の前に姿を現わしたのだ●ぼくは●夜の賀茂川の河川敷で●月の光にきらめく水のうねりを眺めていたのだった●ぼくは●前世に水鳥だったのだ●巣のほうを振り返ると●雛が鷹に襲われ●自分もまた襲われて殺されたのだった●水は身をよじらせて●ぼくの苦痛を味わった●水鳥の姿をした●ぼくの前世の苦痛を味わった●それを眺めながら●ぼくも身をよじらせて苦痛を味わった●大学のときに●サークルの先輩に●「おまえ●なんでいつも笑っているの?」●って言われて●それから●笑えなくなった●それまで●ひとの顔を見たら●ついうれしくて●にこにこ笑っていたのだけれど●ささいなことで●人間って傷つくのね●まあ●ささいなことだから●とげになるんだろうけど●ミツバチは●最初に集めた花の蜜ばかり集めるらしい●異なる種類の花から蜜を集めることはしないという●そのような愛に●だれが耐えることができようか●ひとかけらの欺瞞もなしに●ぼくは彼を楽しんだ●彼が憐れむべき人間だったからだ●彼もまた●ぼくを楽しんだ●ぼくもまた憐れむべき人間だったからだ●こんなに醜い●こんなに愚かな行為から●こんなに惨めな気持ちから●わたしは●愛がどんなに尊いものであるのか●どれほど得がたいものであるのかを知るのであった●なぜ●わたしは●もっとも遠いものから●もっとも離れたところからしか近づくことができないのであろうか●鯨が●コーヒーカップのなかに浮かんでいる●ベートーベンよりバッハの方がすてきね●音楽がやむと●鯨は●潮を吹いて●からになったコーヒーカップのなかから出てきて●葉巻に火をつけた●光は闇と交わりを持たない●光は光とのみ交わりを持つ●われわれが言語を解放することは●言語がわれわれを解放することに等しい●高村光太郎の詩を読む●目で見ること●目だけで見ること●ついつい●わたしたちは●こころで見てしまう●目だけではっきり見ることは不可能なのだろうか●言葉で考える●というより●言葉を考える●というより●言葉が考える●まったくわたしがいないところで●言葉が考えるということは●不可能だと思うが●言葉が●わたしのことをほっぽっておいて●ひとりでに他の言葉と結びつくということはあるだろう●もちろん●結びつくことが●即●考えることではないのだが●言葉がわたしを置いていく●わたしのいない風景がどこにもないように●そこらじゅうに●わたしを置いていく●わたしの知らないあいだに●あらゆる風景が●わたしに汚れていく●いつの間にか●どの顔のうえにも●どの風景のなかにも●わたしがいるのだ●ひとりでに●みんなになる●あらゆるものが●わたしになる●掲示板●イタコです●週に二度●ジムに通ってからだを鍛えています●特技は容易に憑依状態になれることです●一度に三人まで憑依することができます●こんなわたしでも●よかったら●ぜひメールください●イタコです●年齢は微妙な26才です●笑●でも週に二度事務に通っています●いやああああああああああん●ジムに通っています●でも●片手でピーナッツの殻はむけません●むけません●むけません●むけません●たった一度の愛に人生がひきずりまわされる●それは●とてもむごくて●うつくしい●サラダ・バーでゲロゲロ●彼の言葉は●あまりにこころのこもったものだったので●ぼくには●最初●理解することができなかった●うんちも●うんちをするのかしらん●吉田くんは●手足がバラバラになる●だから●相手をやっつけるときは●右手に右足を持って●左手に左足を持って●相手をポカスカポカスカなぐるのだが●あんまりすばやくなぐって●もとに戻すので●相手もなぐられたことに●気がつかないほどだ●裸の女が●エレベーターのなかで●胸元を揺らすと●エレベーターが●ボイン●ボインってゆれる●裸の老婆が●しなびた乳房の先をつまんで●ふにゅーって伸ばすと●エレベーターが急上昇!●ビルの屋上から飛び出て●大気圏の外まで出ちゃった●摩天楼の上で●キングコングが美女を手から離して●地面に落とす●飛んでっちゃったエレベーターをつかもうとしたんだな●キキキ●きっとね●事実でないことが●記憶としてある●偽の記憶●と●ぼくは呼んでいるが●なぜそんな記憶があるのだろう●親の話によると●幼いころのぼくは●テレビで見たり●本で読んだりしたことを●みんなほんとうのことだと思っていたらしい●また●嫌なことが贋の記憶をつくるということもあるかもしれない●たとえば●ぼくは●おつかいが嫌いだったので●商店街に行く途中で通る橋のたもとにある大きな岩の表面を●いつもびっしりとフナムシのような昆虫が覆っていたという記憶があるんだけど●これなんかはありえない話で●おそらくは無意識がつくりあげた幻想なのであろう●まるで悪夢のようにね●比喩が●人間の苦痛のように生き生きしている●苦痛は●いつも生き生きしている●それが苦痛の特性のひとつだ●深淵が深い●震源が深い●箴言が深い●信念が深い●ジェルソミーナ●だれも知らないから●捨てられるワタシ●ノウ・プロブレムよ●このあいだ合コンに行ったら●相手はみんなイタコだった●みんな●死んだ友だちや死んだ歌手や死んだ連中を呼び出してもらって●大騒ぎだった●ぼくにもできるにゃ●ひさんなバジリコ・スパゲティ●I●II●III●IV●と●ローマ数字を耳元でささやいてあげる●芸術にもっとも必要なのは勇気である●と言ったのは●だれだったか忘れたけれど●恋人たち●気まぐれな仮面●奇妙な関係●貝殻の上のヴィーナス●リバー・ワールド・シリーズ●と●つぎつぎに●フィリップ・ホセ・ファーマーの小説を読んでいると●そんな気になった●ぼくも●テキスト・コラージュをはじめてつくったときには●それが受け入れてもらえるかどうか●賭けたのだけれど●現代詩はかなり実験的なことも可能な世界であることがわかった●ぼくは自分が驚くのも好きだけど●ひとを驚かせるのはもっと好きなので●これからも実験的な作品を書いていきたいと思っている●何もしていないのに●上の前歯が欠けた●相方没収!●突然●自由なんだよって言われたってねえ●きょう●ニュースで●息子の嫁の首を鉈でたたいて●殺そうとした姑がいたという●80歳のババアだ●ジミーちゃんにその話をしたら●「その切りつける瞬間●その姑さんが念じた言葉●わかる?」●と訊いてきたので●「殺してやる?」と答えたら●そうじゃなくて●「ナタデココ」●と言って●自分の首を指差した●やっぱり●ぼくの友だちね●微妙にこわいわ●友だちだけどね●友だちだからね●笑●母親に抱えられた赤ん坊が通り過ぎていく●人には●無条件で愛する対象が必要なのかもしれない●自己チュウ●と違って●自己治癒●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちが●踊りに踊る●一糸乱さず整然と●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちが●踊りに踊る●一糸乱さず整然と●黄色いスカートが●ひらひらと●ひらひらと●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●街じゅういたるところから●猿のおもちゃたちが●姿を現わす●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●街じゅういたるところから●猿のおもちゃたちが●姿を現わす●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●シンバルを打ち鳴らしながら●猿のおもちゃたちが●ぼくのほうに向かってやってくる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●シンバルを打ち鳴らしながら●猿のおもちゃたちが●ぼくのほうに向かってやってくる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちが●足をあげて●足をさげて●オイ●チニ●オイ●チニ●黄色いスカートをひるがえし●オイ●チニ●オイ●チニ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●猿のおもちゃたちが●シンバルを打ち鳴らす●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●脱穀の北朝鮮●朝鮮民主主義人民共和国の令嬢夫人たちの黄色いスカートがまくれあがり●マリリン・モンローのスカートもまくれあがり●世界じゅうの婦女子たちのスカートもまくれあがる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●自転車は倒れ●バイクも倒れ●立て看板も倒れ●歩行者たちも倒れ●工事現場の建設作業員たちも倒れ●ぼくも道の上にへたり込む●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●オスカル・マツェラートの悲鳴がとどろくように●街じゅういたるところ●窓ガラスは割れ●扉ははずれ●植木鉢は毀れ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●建物はブルブルふるえ●道もブルブルとふるえ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●何台もの自動車が歩道に乗り上げ●つぎつぎとひとたちを跳ね●何台もの自動車がビリヤードの球のようにつぎつぎと衝突し●特急電車や急行電車や普通電車がつぎつぎと脱線する●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●ビルの壁に取り付けられた看板はビルの壁ごと剥がれ落ち●ヘリコプターはキリキリ舞いしながら墜落し●飛行機は太陽の季節のようにビルを突き抜けて爆発炎上し●コンクリートの破片が●ガラスの破片が●血まみれの手足が●空からつぎつぎと落っこちてくる●空からつぎつぎと落っこちてくる●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●大気はビリビリに引き裂かれ●白い雲は粉々に吹き散らされ●大嵐の後の爪痕のように●街じゅういたるところの景色がバリバリと引き剥がされていく●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●ぼくの顔から目が飛び出し●歯茎から歯が抜け●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●身体じゅうの骨がはずれ●世界のたががはずれ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●脳髄から雑念が払われ●想念から悲観が欠け落ち●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●時間は場所と出来事からはずれ●場所は出来事と時間からはずれ●出来事は時間と場所からはずれ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●時間は場所と出来事からはぐれ●場所は出来事と時間からはぐれ●出来事は時間と場所からはぐれ●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●すこぶる●ひたぶる●すこすこ●ひたひた●爽快な気分になっていく●爽快な気分になっていく●パシャン!●パシャン!●パシャン!●パシャン!●吹けよ●風!●呼べよ●嵐!●沸騰する二酸化炭素●カーボン・ダイオクサイド●まっすぐな肩よ●来い!●沸騰する二酸化炭素●カーボン・ダイオクサイド●真っ直ぐな肩よ●来い!


血涙

  破片

・与えられた真黒で、どこにあるかもわからない、輪郭のはっきりした、「くだらねえ」、呪詛。
・そこにジョイント挟めよ、このマチエールが捌ききれない、読む、慧眼、書く、興味が失せる。
・金はなく仕事もない、学は投擲されるために一旦手の中にこぼれる、そうして価値が浮上する。
・ドカタの人たちは誰よりもブルーシートを綺麗に畳む。手つきには擲たれた時間が見えている。
・煙草を捻りつぶす時、眠りに就いた瞬間らしいただ黒い時空、一日の呼吸の回数、気持ちいい。
・場所を選べない稲妻、カップの取れない黒シミ、帰ることもできない雨粒、下へ、したへ、と。
・カミュの最大の命題を思い出してニーチェへの信仰心が必要になる、きっと暗算を果たしみる。
・四十三、その暗算の正当性について「そら」、「みず」、「演繹」の語を用いて論述されたし。
・糸のように、引き伸ばすと音が可視になる。全ての物質から音階を抽出してスコアを描きだす。
・真黒が降ってくる、のではなく、拡充していく、もとより存在していたものなんだよ、洗濯槽。
・生涯現役韜晦。阿呆阿呆しい字面、気品はないが説得力がある。それで充分じゃないか、詩人。
・祖母の声は枯れない、肌のキメも涙も脳髄を食い潰してでも誰かを起こし人を呼ぶ、死んでも。
・部屋が明滅するからワケがわからない。疎らな雲の悪戯。そのときだけ、部屋は開けていった。
・土まみれで仕事してみたい。だから叩かれた。何か強制してほしい、だから時は巻き戻らない。
・外界と自室の境界が曖昧になると、雨音が、ゆっくり忍び込んで、受け取れない夢を差し出す。
・主観と客観の境界が曖昧になると、言葉が、いきなり去っていき、分割された意図だけが残る。
・いと、いと。つながない。あたりまえだろう。人種によって色彩感覚さえ違う。空は白いんだ。
・他人が喜ぶと蹴飛ばしたくなるので、だから他人とは他人のままでいて、そうであるしかない。
・∴コーヒーを啜る、自画が醜い、鏡を叩き割る、手の甲が破けて流れ出たのは「くだらねえ」。
・石段には水滴の形した孔がある。穴ではない。続いていけよ、そこからが本当の深淵だろ神様。
・深緑の山並みをなぞるから限界が生じる、何もないことにできないなら、せめて「何かない」。
・何かない、そう呟くとどこかで生まれる生命は黒い。何かはある。だから白くなくて心になる。
・物干しに猫なんていない。ここは新海誠が創ったユニオンだ。空と戦闘機と雲だけがいていい。


 それだけでできたわたしは、もうこれ以上言葉を持っていない。あるいは、絞り出せば、まだまだ織り紡いでいけるかもしれない。けれど時間がなくて、力もない。熱意は、最大値が予め設けられていて、自覚せずに増やそうとしなければその頂辺はみるみる降下してしまうんだろう。しかしわたしは、わたしではない。わたしはわたしのふりをしている。わたしは、わたしのふりをすることで熱意を詐称し、ごく個人的なラベルを焼き込まれた頭脳をクラックし、悪意性のある一部開示を施し、部分的にではあるが自在に操作することによって、本来あり得るべきではない電気信号と薬学物質との交感を意図的に発生させている。そういうふりをしているのだろう。

 どうして生んだの、と母親に尋ねた。今度はどうして生きているの、と尋ねている。手当たり次第に。最後にわたしに。何度も。

 ひとは空を見果てなくて、幾多の、幾億幾兆の、指先が届かない。どうして空から求めるものを掴みだそうとするのかわからないので、わたしも思い切って掌を掲げます。縮こまって赤ん坊みたいな五指が胡散臭く透明になるのを見たその時が、今になって、両肩に焼きごてを、Vの文字を、刻まれた記念日だと知りました。わたしが声をあげて泣く、濡れた頬の下には冷たくてたしかな石の感触。わたしはわたしの痛みのために泣いたのに、どうしてでしょう、この涙が石畳全体に染み渡り、ほんの少しでも温度が伝わればいいと思っていたのでした。


とりのは

  津島 ことこ

はこがまえ 挙動ふしんの空白は ふれない頬とほほの衝突


金よう日、ラジウムみたいに放射して裸子植物を食む子にもどる


黒鍵を人差し指と薬指で押さえたらいちめん緑


点描の夢をみました。それだけです。ただ輪郭をみつめただけです。


高架下まで三脚を引きずって くさかんむりを手向ける考察


アスパラの茎がみるみる伸びたので子葉はすべて退化しました。


ウエハース製の座卓をかじってるわたしの中のマトリョーシカたち


草原をすべるボートは音もなく 楕円のかたちにふくらむ白夜


満たされぬものがなにかも知らないで満たすエーテルひかりになりたい


一辺と一辺になる西の空 折り合いをつけた鳥が飛びたち


錯覚の 明日を向いて腰かけた象の背中は亜寒帯色


存在の下痢。

  田中宏輔




って

どうよ!

下痢をしているわたしの部屋に

ジミーちゃんがたずねてきて

唐突に言ったの

最近

猫を尊敬するの

だって

猫って

あんなに小さくて命が短いのに

気にもとめない様子で

悠然と

昼間からただ寝てばかりいる

きっと悟っているに違いない

ですって

わたしは下痢で

おなかが痛いって言って

きてもらったんだけど

きのう、恋人にひどいことを言われて

ショックで

ひどい下痢になったわたしの部屋で

いろいろお話をしてくれてるんだけど

ジミーちゃんの話には猫がよく出てくる

ぼくは動物がダメで

猫がかわいいとか思ったこと

一度もないんだけど

ジミーちゃんの話を聞いて

猫の存在から

存在というものそのものについて

すこし考えた

たしかに猫の存在は

ぼくにはどうってことのないものだけれど

ぼくにとってどうってことのないものが

まわりまわって

どうってことのないものではないものになって

ぼくそのものの存在を



ここまで書いたところで

ジミーちゃんが口をさしはさんだ

「そんな自分についての話でどうどうめぐりになってないで

 猫のように悟るべきっ!」

だって



この文章のタイトルをどうしようって言ったら

「恋人に気持ち悪いって言われて

 とても悲しいの」

にしたらって言われたので

わたしが

「気持ち悪いって言われてないわよ

 けがらわしいって言われたのよ」

と言って

ジミーちゃんのほうに向かって

声を張り上げたら

ジミーちゃんが大笑いをしだして

涙を流した

存在って不思議ね

わたしの下痢もとまらないし

存在の意味についても

あんまり深く考えられないし

ここらでやめとくわ

そんなこんな言ってるあいだ

Dave Brubeck のピアノと

ベースとドラムが

ここちよいジャズを

のんびり奏でてた

そうよ

のんびり奏でてたのよ

下痢をしているわたしの部屋で

ゲーリー・クーパーが

ヘアーをたわしで櫛どいていたら

あるいは櫛どいているときに

ネコがコネをつかって

詩集の賞をねらって

詩を書いているのかと思いきや

ねらっているのは

じつは鰹節であった

ってのは

どうよ

当たり前すぎるかしら

存在の下痢について

きょう

ジミーちゃんと酔っ払いながら

話していたのだけれど

ジミーちゃんは

存在の下痢以前に

下痢の存在について

自我の存在を疑っていた

デカルトに訊いてみないと

とか言い出した

あの近代合理主義哲学のそ

そ?



はじめのひとの「祖」ね

育毛剤のコマーシャルで

むかし

シェーン、カミング・バック

っていうのがあったけど

おそ松くんのイヤミは

ただ

シェー

とだけ言っていた



クッパを食べて

ゲリゲリになった

ゲーリー・クーパーが

芸名を

ゲリゲリ・クッパに変えようとしたら

良識ある周囲の人たちに

猛反対にあった

っていう夢を見たと嘘をつけ



わたしにうるさくせっつくのよ

どうすりゃいいのさ

こ〜の わぁ〜たぁ〜しぃ〜

ってか

ブヒッ

存在が下痢をするなら

存在はちびりもするだろう

包皮も擦るし



放屁もするし

脱糞もするだろう

存在は骨折もするかもしれないし

病に倒れて重態に陥ることもあるだろう

存在はあてこすりもするだろうし

嫌味を言うかもしれない

足を踏むことだってあるだろう

あらゆる存在がさまざまな存在様式で存在する

実在の存在だけではなく

仮定の存在も下痢をするし

ちびりもする

放屁もするし

脱糞もする

そのほか

ごにゃごにゃもするのだ

実在と仮定のほかに

可能性の存在というものもある

これもまた

下痢もするし

ちびりもする

って書いてきて

あれ

下痢をすると

ちびりもするって

同じことじゃないかなって

いま気がついた

あちゃ〜

この文章

書き直さなきゃならないかも

いや

下痢をするからって

ちびるとは言えないから

まあ

いいか

このままで

せっかく書いたんだし、笑。

ゲーリー・スナイダーを

山にひきこもった詩人のジジイだと思っているのは

わたしだけかしら

高村光太郎も山にひきこもっちゃったし

そういえば

山頭火だって

そう言えなくもない感じがする

都会生活をしていて

都会生活者の存在の下痢を描写する詩人っていないのかな

ぶひひ

それじゃあ

おれっちがひりだしてやろうかい

存在の

ブリッ

ブリブリブリブリブリッ

って

ひゃ〜

って言って

自分でスカートをまくるちひろちゃん

きゃっわいい!

おっちゃんは

存在の下痢をする

存在を下痢するのだ

存在もまた下痢をする

存在自体が存在の下痢をするのだ

存在が嘔吐する

だったら

哲学的な感じがするかな

ありきたりだけど

存在が下痢をする

だと

やっぱり、くだらん

って言われるかな

ほんとにくだってるんだけどね、笑。

うううん

存在が嘔吐する

のほうがいいかな



でも

ゲリグソちびっちゃうみたいに

存在が

シャーッ

シャーッ

って下痢ってるほうがすてき

嘔吐だと

床の上に

べちゃって感じで

存在がはりついちゃうような気がするけど

下痢だと

シャーッ

シャーッ

って感じで

存在が

はなち

ひりだされるってイメージで

なんだか

きらきらとかわいらしい



きょうは

ぼくも

じゃなかった

ぼくは

きょうも

下痢がとまらず

でも

腸にいいようにって

バランスアップっていうビスケットのなかに

食物繊維が入ってるものを食べたんだけど

しかも繊維質が一番多い

一袋3枚・食物繊維6グラム入りのものを

朝9時50分から

昼の1時すぎまで

ちょっとずつかじっては

緑の野菜ジュースをちびりちびり

ちょっとずつかじっては

緑の野菜ジュースをちびりちびり

口のなかでゆっくりと、じっくりと

シカシカと、ジルジルと

唾液と混ぜながら

緑の野菜ジュースでビスケットをとかして

合計6袋18枚も食べたのだけれど

ビスケットをかじって

5分から10分もすると

うううう

おなか

いたたたたた

って感じで

トイレで

シャーシャー

トイレで

シャーシャー

してたのね

食べてすぐって

生理的にっていうか

肉体的にっていうか

ぜったい

直で出てたんじゃないと思うけど

食べてないときにはシャーシャーあまりしなかったから

直で出てたのかもしれない



シンちゃんが前に言ってたけど

からだが反応して

食べてすぐシャーシャーしてるんじゃなくて

神経が反応してシャーシャーさせてるんだよって

あらま

そうかもしんない

存在は魂を通して

生成し、消滅する

時間として

場所として

出来事として

精神や物質といったものも

ただ単なる存在の一様式にしか過ぎず

存在は魂を通して

生成し、消滅する

時間として

場所として

出来事として

そして

存在が生成するものであるがゆえに

存在は消滅するものなのであり

存在が消滅するものであるがゆえに

存在は生成するものなのである

存在が生成しなければ

存在は消滅しないのであり

存在が消滅しなければ

存在は生成しないのである

ぼくは

きょうも、ひどい下痢をして

ようやく存在というものが

どういうものなのか

その一端をうかがい知れたような気がする

ビスケットをかじりかじり

シャーシャー

シャーシャー

ゲリグソちびりながら

ぷへぇ〜

おなか痛かったべぇ〜

もう一週間近くも下痢ってる



存在の下痢

というかさ

存在は下痢

なのね



ぼくのいま住んでるマンションで

もう一年以上も前のことになるのだけど

真夜中のものすごい「アヘ声」に目を覚まさせられたことがあって

それから

それが数分間もつづいたので

よけいに驚かされたのだけれど

個人的な経験という回路をめぐらせる詩句について

あるいは

そういった詩句の創出について考察できないか考えた

語感がひとによって違うように

どの詩句で

それが起こるのかわからない

偶然の賜物なのだろうか

書くほうにとっても

読むほうにとっても

死んだ父親に横腹をコチョコチョされて

目が覚めたのが

朝の3時46分

寝たのが

1時頃だから

3時間弱の睡眠

あと

いままで寝床で

目を覚ましながら横になっていた

dioの印刷が終わったあと

百万遍にある、リンゴという

ビートルズの曲しかかからない店で

食事をしながらお酒を飲んで

打ち上げをしていたのだけれど

そのときに着ていた服が

父親の形見のコートだったので

「このコート

 死んだ父親のなんだよね」

って言って

「父親の死んだのって

 今年の平成19年4月19日だったから

 逝くよ

 逝く

 なんだよね」

って言うと

斎藤さんが

「わたしの誕生日も4月19日なんです」

って言うから

びっくりして

「ごめんね

 気を悪くさせるようなこと言って」

って、あやまったんだけど

まあ

彼女もべつに機嫌を悪くするわけでもなく

ふつうにしていてくれたから

ぼくも気がやすまって

そのこと忘れていたんだけど

きのう

詩集の校正を書肆山田に送ることができたので

河原町六角にある日知庵に行って

その話をして

酔っ払って帰ってきたから

そんな夢を見たのかもしれない


  早奈朗

ぼくは 詩になりたい ことばのすべてになりたい みずではさんしたい 5おく個を けしつぶすぞ。 おまえらのわきざしをおるぞ。山はだからくだってくる詩のやまもろともせかいや街にぶつけてしまえ。そしたらわれたところからのめるみずがどくどくとでてくるだろうから、のんだらきりにしてはいてしまおう。ふんむ器になろう。川どこになり、きざもう。雪をたたえよう。あたらしくであう道すじのために1キロあるかなくてはならない。あるいた先には、みずがふき出、口から岩がつぎつぎに生まれる。ふりさいていけ、いわ。つきなみもいわがしまもすべて転がして、あなにおとしてしまおう。そこから海があいて大地ひらめく。のがれる小なみのあしからとどく手になっていく。ふんさいしていけよ、あな。きみがおってたつんだぞ、あな。ふかくあさくところどころ波になりながら、しずくがみなもにはじけていく受けとめの場所だ、穴。きつつきもねんえきをのこしながら生まれきたる。宝石もたくさん生まれるから、買いあさることはない。土を売りとばしながら売りあげのことばになろう。なみになって消えてしまおう。さかなをばんさんとして、夜はくらくなる。むりやりにでもあかるくして、夜間を“ひるま”といつわって、うごきまわるわにになりしっぽをふりまわそう。いきおいのあまりしゅごしんをはかいしよう。もちろんしゅごしんのはかいにことばはいらない。かわりに火がいるね。だい二指だけもえさかってすべてに火をつけてこう。もえたたせてこう。ざんしんはかいのアイディアをおもいつこう。そしたらそこからうみになり、ふかくはまる。ふかくおちつく。

ぼくはぜんぶになろう ぜんぶになればたのしい ぜんぶになればつきづきしい 掘りゆきてみずになる みずになったらごみになる 愛軍といって あいぼうの鴨をよぶ たいぐんの鴨をよぶ ぼくのことばはさいこうだ あいぐんといおう 砂にながれよう ひとしずくがひと波に そしてだいまおうが長崎に いって何をする? 行ってかりをする すずめをかるぞ さんば よんわ ごせんびき かって 空にはなとう。雪ぐさりになろう。雪のかたりぐさになろう。しぶがきの皮がはくらくしていけば みえるのは目と 歯 芽と 葉 いまは のびるなよ。 がまんしろよ わに。 がまんしろよ おまえたち。 雪のちぐさ。 名前のない花。 きょうちくとうのそばで くきのかたちをして 揺れている。 もーふぃんの そばのかたちを いっしょうけんめい ゆきは はつめいして ぼくたちに 食わせてくれる。 しかくくちぐさになって どこまでも 食わせてくれる。 ねえ さけ。 ねえ さかな。 ねえ すべてのものたち。 さけはどうくうの? さかなはどういうなまえなの? 風がたち、 ぬかたが起き、 風はどういう名前をまとえばいいのか分からないように、ぼくはすべてになりゆくためにまずいっこの名前が定まらない。口を開けてあるくために、龍の名前がぼくにはひつようだ。だから名前をあけてよぼう、りゅう、こい。みどりをみるな、うまをふめ、からだでながしたら保つために二おくかいちりしけ、さながらロードのようにな。ごみさっきんのようにな。 塔をこわしていったら 国税局から でもね あなた しゅうふくしなさい もしくはしゅうふくひをながしなさい と いわれるから わかった といって しゅうふくのためのぬのをあつめて とうきょうドームをつくる。 でも これは ちがうよね だけど わたし こうきゅうだから ありがたくうけとっておくわ。 おたっしが ついたのは1ヶ月ごで とうきょうドーム12こぶんは 土のなかで成長している。 12ねんご からをやぶって出てくる とうきょうドーム12こぶんこ。 そこには 花があるかな 歴史があるかな 川がながれるみぞはできているだろうか できていたら だれがつくるのだろうか ひとがつくった 水から できあがった ひとが ぼうきゅうのために いっしょうけんめい やまとたにを けんせつしたよ。 「やぶるためになにをみればいい?」 「やぶるためにこれをみればいいです」 「ひとか」 「いいえ ちずです。」 「ちずならやぶれるじゃないか このように。」 「いいえ。 やぶってはいけなかった」 「そうとも。 知ってるさ」 「知っているけれど」 「きみははげたかになれないたいぷ ぼくは山やはげたかや みどりのはけがくもをえがくすがたになるのさ」 「わたしは点呼のかかりだから 点呼をします。いち にがみつからない」 「にはみつけたよ とってきたよ。これははげたかのえもの わたしははげたか きものを着たはげたか」 「じゃあわたしはさんせん」 「山川だね。やまになってかわになって、じゃあわたしははげたかと同時に谷になろう うえから見る したでながれる ながれるのはきみか」 「わたしはきろくがかりだから ながれるのもきみでいい。そして文字になればいい」 「文字になりとび立つんだな はねをひろげて ながれてゆけるんだな。 さあ」 「つながるの?」 「はばたくよ」 「まいごみになるよ」 「ひろげよう とり。やま。かわ。たに。」 「きこえないだろうふうあつで あなたのしたから もぐりだすさまざまなせいめいの 谷や かわや 山が おお波になりとぎれる」 「ながれてゆけると いっただろう。」 「海においがするから」 「粉のよろこびがかたまりになって海に投げられるね」 「浜なんてうつくしい」 「みどりなんてな」 「名前はりゅうだから」 「はかいしていこうか」 「あかさたなになっていこうか」 「それは砂になるということ」 「夜になるということ」 「りゅうはかたちをもって火をふくよ」 「服はめらめらだ 焼けただれて」 「もちろんみずになるのさ からだのみぞからあふれだすよ」 「ぼくはレモンのようだ」 「ぼくはレモンになる」 「ちょうになり」 「ため息になろう。」 「すべてになろう からだをひろげて すべてのことばを入れよう 服になる 息になる こどもになる ひよどりになる ものすごくなる。冷たい川のすじが 山はだまでふれるよ。そこに街ができるよ。そしたら たおすよ。」 たかのりゅうきだから しまりゅうをもって すべてのくるまがくどうするさき 川がもしも割れたら 文字がわれる われたところからりゅうがのぼって 記憶をはこんでく。ぼくの名前はりゅうだ だから 名前のうごく通りに 腕をふりまわして 火災を起こして みるみるうちにちぢんでいく。 いっぱくご のびていく。 まじないのせいかかな さかなのひあがったのかな スタンプがいっこずつ出来て いっこずつ押していこう。川ながれのりゅうになるのなら ずいぶん楽だから うろこ 取れるたび 生えていって たくさんのうろこが川どこにしきつもり「ぼくは貝づかだ」といっている。 「なるほど きみは貝づかだ。」「きみはなんなの」 「ぼくはりゅうでなくなった だから みまもっている」 「見まもり隊か でも ふん火するよな」 「ええ こんなふうに。どおーん」 「ああ ふん火した。これが 火の うみだ。」 「そうだとも 剣は 王の いかり。ぼくは りゅうの なごり。」 「ふっかざんだね」 「ふっかざんだ よってたつぞ」 「ならばあざやかにしょうれいしよう」 「しょうれいしてみせろ 鐘。」 みずがはだにいたくないか、りゅう。つかれたらやすんでいい。雲のしたで、あおく舌をながせばいい。 火は都会にあつまるから、ぎょうしゅくされて、肩ならしに振りまわされる。 「もう りゅうでなければ いみがないね。」 「ぼくはりゅうだ りゅうだったものが そのままりゅうになる そのまま違うなまえになる」 「名前をはぎ取ってやる」 「はぎ取られた」 「それでもなにか言えるか」 「いえる」 「たとえばどんなことが」 「たとえばさくらのことが」 「たとえばさくらのことか 橋をかけるんだな。」 「橋が すこし みずにぬれて」 「いわなくてもわかる」 「わからせない」 「さくらふぶき」 「氷ふぶき」 「ふぶく夜はきけんですからお下がりください」 「どこまでも 下がったよ。りゅうだから その名前がはぎ取られても、池のどこかに落ちてるはずだから」 「おまえはりゅうであるまえはりゅうでなかった」 「そうかな りゅうであったよ」 「それはだましだ」 「めくらましさ さくらの道さ。」 「さくらがふぶいてるよ」 「雪もふっているよ」 「しかしふっているな」 「しかしふっているね。」 「お前はりゅうか」 「ちがう」 「ではなんだ」 「ではなんだ」 「ではなんだ」 「ではなんだ」 「お前はりゅうか」 「そうだ」 「そうであるならば」 「うん」 「剣をぬきとられよ」 「剣はもってないよ なくしちゃったよ とちゅうの池に落としたから そこで名前もひろってきたから」 「りゅうめ」 「りゅうだよ」 「まちをはかいしやがって」 「とうきょうドームもはかいするよ やまも ゆきもはかいするよ ぼくはりゅうという名前をとり戻したもの」 「つぎはうばってやるぞ」 「桜ふぶき」 「わたしは橋かけだ」 「そうだろうと思っていた」 「橋をかけてやるぞ」.


人人

  5or6

隣人であるあなたのお母さんにいつも無視されているのよ
と保育園の送り迎え当番になった私のママがワゴン車の運転席からバックミラー越しにその隣人の子供を眺めて急ブレーキをかけて車を止めて後ろの席に回りドアを開けてその隣人の子供のお腹を殴ったり頭を蹴ったり滅多打ちにしながら何回も呟くのを私は隣の席で目を閉じながら聞いていたの

内緒にしなさいと約束されて

次の日

私の所為になっていた

食卓で父親はいつも新聞を読んで
私はいつもニンジンを残して
母親は無言でニンジンを捨てる

だけどキッチンの明かりは暖色系で

部屋に戻った時の
蛍光灯の青白さに
青白さに耐えられなくって
現実から目を瞑って
大人になっている私に
ニンジンを子供に食べさせる役を与えるの

パソコンを眺めて
キーボードを叩いて
誰とも喋らないで
無口で
ニンジンが食べられない子供にならないように
あなたに教えてあげるの

私はママのように折檻して無視

なんかしないわよ私のようにならないであなたの為なのよ無視されるよりもあなたの為に私が教えて上げるのどんなことしてもあなたは幸せになるのよどうしてニンジン食べれないのまた裸で公園放置させるわよそれでもいいのこのクソガキが生まなきゃ良かったこのクソガキがブッ殺すわよ泣くんじゃないよこのクソガキが

1LDK

早く子供が欲しい

明日は

ニンジン見たくない


愛しくて。

  岡崎那由他

笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体



今日の日に空は高く
どこまでも突き抜けていくような
昨日の曇天が嘘のような
空です
空気が乾燥しています
ヒリヒリ肌が痺れるような寒さです
笑ったまま死んでいる死体が
そこにあります



食べ物を全て押し戻して
血管から血を抜いて、全部抜いて
もう何も無くなったら
パウダーを。パウダーを。パウダーを。パウダーを。パウダーを。
投入します
攪拌器で混ぜます
パウダーを、パウダーだけを混ぜます
攪拌器で、
笑ったまま死んでいる死体が
そこにあります



君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ



地球の子宮に直結している、至急
大惨事になる前に、至急
向かってください、そちらに
そこには愛液があふれているでしょうから
その中にドボンと体ごと突っ込みます
ええ、そうです
笑ったまま死んでいる死体がです(^^)
死体が生命の限りなく生み出される瞬間にちかいその場所に
至急、向かってください
残念ながらAもBも壊れてCしかありませんのでDしてください
ドントコールミーアットミッドナイト、ブラザー?
おほほほほ奥様井戸端会議は今日も順調
すべり台からすべる。スカートで。パンツ丸見え。奥様。
パンツ丸見え奥様



しゃべるな
しゃべるな
しゃべるな
しゃべるな
しゃべるな



大事になる前にしゃべるな
嘘も本当も混ぜこぜにしてしゃべる君のその癖を
やめるな
きっとすべては美しいままで静止しているから
その場所で笑って、笑いあっている俺たちが、出会う
可能性が、少しでもあるなら、それに賭ける賭ける、賭ける。
生まれる前から知っていたんだ
君と出会うこの瞬間だけを待っていたんだ
よくある映画みたいな展開になるような気もしたけれど
そうなっても構わないような気さえしたのだった
どうしてだろう? それは相手が君で俺が俺だったからさ
なんでもいいと思えたんだろう? そうだろう? なあそうだろう?
希望消滅 大地消滅 いじめ撲滅 長男撲殺
加藤しゃべるな
加藤しゃべるな
加藤しゃべるな
加藤しゃべるな
加藤しゃべるな
うわついているこの気持ちさえも セイグッバイ
チャレンジしているこの時だけが真実
希望消滅 大地消滅 いじめ撲滅 長男撲殺
フルーチェまみれの笑ったまま死んでいる死体(^^)
フルーチェまみれの笑ったまま死んでいる死体(^^)
腐った死体 ゴルゴンゾーラ的なサムシング的なパウダー的なやつ
ゴルゴンゾーラ的なサムシング的なパウダー的なやつ
加藤ローサは笑え かわいく笑え
うめぼしはすっぱいなあ!
記号論だけが先走ってるねえ、君の解釈は
記号論だけが先走ってるねえ、君の解釈は
(^^)(^^)(^^)(^^)(^^)
知ってるかい?
絵文字というやつが言葉よりも最初に言葉だったんだ
エジプトの暗い洞穴の中の壁に刻まれた古代の絵文字
あんな詩を書いてみたいものだ
だから俺が使っている顔文字を批判するのはよせ
やめてくれ



やめてくれ
やめてくれ
やめてくれ
やめてくれ
やめてくれ



笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体
笑ったまま死んでいる死体



とにかく走ることだ
止まることなく 走ることだ
それだけが生きていく術だ
とにかく走ることだ
速度 速度 速度 速度 速度
ああ
速度というこの漢字そのものが
走っている人のように見えてくる
見えてこないか?
見えてくるなら俺たちは仲間だ
ギリシャに行きたいなあ
街角でパントマイムしている青年
ギリシャに行きたいなあ
街角でパントマイム、
ごめんなさい
永遠に書き続けることは出来ないから
この辺で終わらせようと思うんだ
五回繰り返すこと。
終わらせ方は、この詩の中の詩句を
五回繰り返すこと。
そういうルールを俺は作った
パウダー。



パウダー
パウダー
パウダー
パウダー
パウダー



君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ
君が愛しくて呼吸を忘れてしまったよ


spring

  yuko

電話線の意味を
問いただして
夜半、ここから
飛び降りていったひとの


春の
やわらかい風に
持ち上がった襟
かるく微笑んで
エスパドリーユの
網目をほどいた
彼女の爪は
とても
清潔な色をしている


街のあかりが
ひとつずつ消えていく
ねがわくば
いっとき
やさしくしたかった
だけの
わたしを責めてください


雨に濡れて
ふきこぼれた蕾と
坂道を上がっていくサンダル
屋根に鳥の巣ができて
睫毛が揺れる
ひとり
泣く


+と
−とが
溝をつくって
反射しあう空間で
息を吐く
わたしの肺には
ちいさく
穴が開いている


飛行

  レイマス

ぼくは空中を飛べた
勢いがあればあるほど、高く、速く
昼が少し重たくなり、
宙を舞う塵埃、
黒い冷気だとかを一切
振るい落として
空の濃く澄んでいく時
吸い込まれるように、ぼくの身体は浮かぶ

ぼくが通っていたと
思われる学校
真新しい硬式のテニスボールを
校庭から屋上へ打ち込んだ
ぼくのラケットは
ガットもフレームも上等で、
テンションだってぴったりなんだ
そして
それをぼくは取りに行く
あそこまで飛ぶには
自分の走力では足りないので、
背中に、小さなロケットのような
加速装置を背負って
踵と太腿が砕けそうな勢いで走り出す
(摩擦熱が白い砂に襲いかかった)
転びそうになりながら
どっちかわからない足で踏み切る
(一瞬、葉のない細枝や
プールの金網が融け出た)
胸を張り、背を反らす、いつの間にか
火の消えたジェットに笑いかけて
凄まじい速さで上昇していくものだった

空と呼ばれる場所ではきっと
恐ろしいほどの青色に囲まれる
ぼくは異分子だから
青くなることもできずに墜落する
人は空に拒絶されている
だからこそ、
手が届く、すぐそこのはずなのに
馬鹿みたいに距離がある
ぼくの目の前に、
校舎の壁面やガラス窓
多くの質量を与えられる
代わりに
空じゃなくなった

空中を飛べたからと言って
別段ぼくに出来ることは増えない
右手に握られたテニスボールや
冬の冷たさにあって
ゆるくあたためられた地面や、
赤黒い柵の鉄錆や、
そういったものの
裏側へ入り込めるようになった
それだけにすぎない
――右手から放れていくボール
たあん、とおん、ぽつん、ぽつ。
火が入っていないから、風に少しずつ
削られるように冷却していく機械――
手がちょっと冷たい。
いつか空を飛んでみたいと思いながら
微動だにしないテニスボールを、
見下ろして、また飛んだ。

ボールは落ちた、ぼくは落ちない
蛍光色に弾かれる裏側
見えている景色を切開、
その断層の側から覗くと
触れられなくなるから
近づけば消えてしまう色彩、
裏側。
風を受けて揺るがない体温も
太陽を反射して眩しい窓も
見えなくなって、
そっと、
この身体は上昇していき、


スプリング・エフェメラル

  リーフィア


はなかんむり
たくさんの瞳が手折られ
編みこまれている
抗うことのできない指を
湿った土のなかに埋め
幾つかのタームで
まじないをかけた


ぼくは小さく丸く
なってここは
どこだろう暗くて
サーカリズム
ほんとうの照度は
円を描く腕に
根こそぎ奪われてしまった
流れていく心音に
耳を澄ませながら
充たされる頃には
深く眠りこんでいる


(つめたい)
あかぎれだらけの
指さきと
摘みとられた花弁
複眼は温度を越えて
水をくぐる
暗闇で手足を伸ばす
弱い羽が
開く速さで
過ぎ去っていく
蜂の巣状の季節


不揃いなかたちを湛え
摘みほろぼされた花弁が
敷きつめられた土のなか
あわい日差しを浴び
目覚めさせられていくぼくを
殺めていくひとの群れ
織り込まれた瞳
ひかりの熱で孕んだ
つちを口に含んで
真水をください
ウスバカゲロウの花、
咲いて
(気が付くと消えた)


(ひかり)
ひとの隙間から掠め
乾いた喉を
暗がりに押しつけた
これがひかりだ
薄羽がふるえ
か細い熱の喘ぎから
ぼくが
負わされた、
はなかんむり
投げ込まれた
音階に
垂直に影が落ち
足下から崩れていく


指さきが水脈を押さえ
羽ばたきが弦を弾く
サーカリズム
ひかりある朝と
ひらかれた季節に
追い立てられるようにして
羽をひろげた
ウスバカゲロウの花、
真水をください
殺められた人の群れ
たくさんの瞳を列べる
眠ることをしらないひかりと
眠るべく奏でられた
子守歌
たくさんの墓標が
ひかりのなかに群生し
過ぎていく朝の底で
ぼくだけが束の間に
眠る


花々

  yuko

森を抜けると、
あたりは一面の
花、が、光のようで。
手折る指先を責める
細胞が赤く染まっていく

ねえきみ、
馬鹿げているだろう
こんなにたくさんの花を抱いて
足を引きずって歩くのは

いいか
誰もゆるさなくていい
骨のない傘を
刺すことも
掲げることもない
透明化した組織に
骨が青く透けて
蝶の羽ばたきが
止まることはない

左手が裁断する
右手は縦断する
溶けていく箱舟を
祈ることはない
眠らない
土壁が崩れていく
呼吸のように
音が漏れる

ねえきみ、
馬鹿げているだろう
こんなにたくさんの花を抱いて
それがきみには見えなくて

森を抜けると
あたりは一面の
花、が、光のようで。
手折る指先を責める
のは、誰なのか

きみの森に火をかける
そして焼け跡で
金属を拾って
溶け残った骨を
植えたなら
ぼくはきっとすべてではない
たましいよ
漱がれていけ

光あれ、
花は生まれない

文学極道

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